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夫視点

side:レイモンド7

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 死の呪いはその名の通り、被呪者を必ず死に至らしめる呪いなので、俺のように生き残った者は他にいない。隣国の呪術師は一人残らず処刑された今、解呪の方法を軍が探る必要もないので、俺が呪いから解放されたと報告をしてもそれほど詳しく問い詰めてこなかった。
俺の『なにが効いたのか、時間の経過で解けたのかわからない』との返答で上層部も納得していた。

 今後もそれで押し通すつもりだったが、本人との面会を断り続けていればそのうち『おかしい』と誰かが言い出すかもしれない。だからと言って、まさかその呪いを妻が引き受けているとはいえる筈もない。
 
 今後、俺の知らないところで軍部が直接屋敷に赴く可能性もある。

 それに、先ほどの婦人会の面々も、あの様子ではいずれ屋敷に押しかけてきそうだ。
 ハンナが呪いを受けていること知ったら、あの姦しい女性たちがどのような反応をするか考えるだけで恐ろしい。憶測で色々な噂をばらまくに違いない。

 
「……まずいな」

 どうすべきか、家令に相談する必要があると思い、今日は久しぶりに酒場に寄らずまっすぐ屋敷に帰ることにした。
 

 いつも帰るとしても深夜や明け方にそっと部屋に戻るだけなので、久しぶりに家に灯りが灯っているのを見て、ああ、こんな時間に帰るのはいつぶりだったかと思い、妻の優しさに甘え置きっぱなしにしていることに少し胸が痛む。

 家令に迎え入れられ書斎へと廊下を歩いていると、『レイ!』と妻の声が聞こえ、驚いて振り返る。廊下の向こうからショールで顔を隠しながらハンナが小走りで駆けてくるのが見え、心底驚いた。

 誰に見られるかわからないというのに、その心配をちょうどしていたところで不用意に部屋から出てくるハンナを見て、彼女の軽率さに怒りがわいて、思わず声を荒らげてしまう。
 
「何故部屋から出たんだ!人に見られたらどうするっ!こんな姿を見られたら言いわけがきかないだろう!早く部屋へ戻るんだっ!」

 俺の怒鳴り声を聞いてハンナがビクッと身を竦ませる。
 すぐに怯えたように謝罪をしてくるハンナを見て、急激に頭が冷え、申し訳ない気持ちになった。なにも怒鳴ることはなかったのに、ショールをかぶってもわかる呪いに侵された異様な姿が目に入り、それが駆け寄ってくることに恐怖を感じてしまったのだ。

(俺は、なんてことを……)


 ハンナの部屋に一緒に戻り、先ほど怒鳴ってしまった事を謝った。

 牢獄ではないのだから、ほんの少しも部屋の外へ出ないなんて本当は不可能なことなのだ。無理を強いていることは理解していた。

 日中庭にでも出られれば気分転換になるかも知れないが、日中は家令以外の使用人も屋敷に来ている。
 それに、今日来ていた女性たちが訪ねてきて、うっかりハンナに会ってしまうことも有り得るのだ。そうなれば、いくらショールをかぶっていてもハンナが異様な姿になっていることは一目で分かってしまうだろう。
 


 ―――もうハンナを屋敷に置いておくのは無理かもしれない。

 この屋敷では周囲に人が多すぎる。ずっとこのまま一つの部屋に閉じ込めておくなど無理があったのだ。


「なあ、ハンナ……この王都に誓い屋敷では君を庭に出してやる事も難しい。窮屈な思いをいつまでもさせているのは心苦しいんだ。だから……しばらく療養で湖水地方にある別荘で過ごして見てはどうだ?」

 俺がそのように提案すると、ハンナは驚いたように目を瞠って、一瞬泣きそうな顔になった。だが、君のためを思っての提案だと、君がのびのび過ごせる場所のほうが安心できると重ねて言うと、最終的には了承してくれた。
 
 ハンナが了承してくれたことで、目下の問題がひとまず解決すると思い心から安堵した。
 そうと決まれば早く手配をしなくては、はやる気持ちを抑えながら執務室にいる家令の元へ赴いた。
家令に『ハンナを別荘で療養させる』と告げると、驚いて大声で非難してきた。

「本気ですか?!あれだけ旦那様のために尽くしてくれた奥様を、屋敷から追い出すつもりですか?!信じられない……私は反対です!よくもそんな非道な真似ができますね……それに領地経営は奥様が全て担っておられるんですよ、今も外には出られませんが、書面上の仕事は全て奥様が管理されています。奥様がいなくなったらどうするおつもりですか!」

 ハンナにとっても良いことだと思っていた俺は、家令に強く反対されて腹が立ち、追い出すなど、人聞きが悪いことを言うなと怒鳴り返した。

「なにか勘違いしているようだが、これはハンナのためでもあるんだ。あそこなら外に散歩に出ることも可能だし、隠れるようにして生きる今よりのびのびと過ごすことができる。
一生部屋に閉じこもって生きるわけにいかないだろう?このままではハンナが病気になってしまいそうだから、そう提案したんだ。もちろんハンナもそれに賛成してくれた。
領地のことは、お前が一緒にやっているのだから書類仕事もお前がそのまま引き継げばいいだろう。申請や決済など許可がいるものは俺に回してくれればいい。戦争中は屋敷にほとんどいられなかったから無理だったが、今はもう王都に居られるのだから俺がやればいいだけの話だ」
 
 散歩も出来ない生活がどれだけ辛いか、俺が一番分かっているからと言うと、家令は気まずそうに『申し訳ありません』と謝罪してきた。

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