上 下
12 / 12

第12話 交通事故

しおりを挟む
これは僕の父が体験した、深夜の利用者の居ないビルにアンテナを設置する仕事をしていた時のお話。

--------------------

ガンガンっ
ガチャガチャ…

「ふぅ、あちいなぁ」

「そっすね…これ落ち着いたら休憩しましょ」

「そだな!早くやっちまおう」

今日の現場は父も含めて5人。
場所は都内にある8階建の家電量販店などもはいっている大きなビル。

深夜の大きなビルはものすごい静かでシーンという音すら聞こえてくるような感覚に陥る。
もちろん自分たち以外は誰もいない。
話し声のみが反響してくる。

「先輩、夜のビルってやっぱり怖いですね」
そう話すのは、一週間前に会社にはいってきた新人。

「まぁ慣れよ慣れ」
「ここはまだ都内だから全然だけど、地方とかのビルとかほうがもっと雰囲気出てやばいから(笑)」

「…そ、そうなんですね」

「そんなことより、早く手を動かす!」

「すいません、今すぐに!」

少しびびっている後輩に激を飛ばし仕事を進める。

ガンガンっ
ガチャガチャ…



「よーし、今日はここまで」

その後滞りなく進んだ仕事は想定より早く終わった。
時間を見ると5時30分。
窓から見える外は少しだけ明るくなっていた。

「おつかれさまー」

「おつかれさまでした~!」

「よーし、片付けも終わったから車に詰めて帰るぞー」

そう言う父に新人が。

「先輩!すいません、、トイレ行ってきてもいいですか~?」

「もう帰るだけなのに・・早くしろよ」

「すいません!すぐ行ってきます!」

「まったく・・・」

トイレは自分たちが居る階にはなく、階段で3階まで上がらないと男子トイレはない。
そそくさと小走りで走る新人の背中を見て最後の支度をする父。



と。
3分くらい経った時。

タッタッタ
小走りで戻ってきた新人。

「早いな(笑)もう終わったんか」

「はぁはぁ。」
少し青ざめているように見える新人の顔。
「いや、まだ行ってないんです…すいません」

「はぁ、じゃあなんで帰ってきたんだよ(笑)」

「あっ・・・いや、お願いがありまして・・・」
「先輩も一緒に行きません?」
申し訳なさそうにそう言う新人。

「子供じゃないんだから」

「すいません、まじでお願いです」
強引に父の手を引きながら歩き出した。

「ちょちょちょ、いきなりなんだよもう」

「すいません、、」

「わかったから手を離せよ(笑)」
もう漏れそうなんだと思い、渋々トイレに向かう。

タッタッタ

階段に着いた。
あとは階段を登って3階に向かうだけ。

スタ、スタ、スタ

「お前さートイレくらい1人でいけよー」
そう話す父に対し。

「すいません」
「…いやー僕の気のせいだと思うんですけど・・・」

「はぁ?なにが??」

「あっいや、、なんでも」

「ったく」
なにか言おうとしていたが遮《さえぎ》られた。

スタ、スタ、スタ

3階のトイレに着いた。
トイレは扉はなく、入って左に曲がると手洗い場とその奥に小便器と個室が2つずつある形だ。

せっかくここまで来たことだし、父も一緒にトイレに入って用を足す。

シャー…


「そういえばさっきなんでトイレせずに戻ってきたんだ?」
先ほどの疑問をストレートに聞き返す。

「あっ・・・」
少しの沈黙のあと、重そうな口を開く。

「き、気のせいだと思うんすけど…」

「ん?」

「なんか、声が聞こえたような気がして」

「はぁ?俺たちの??」

「いや、」

・・・
と、微かに音がした。

「…ん??」
二人顔を向き合って静まる。

・・・・・・

なにか聞こえる。

「…先輩、、これっす」

「えっ」
よーく耳を澄ます。
…声が聞こえる。

・・・キャハ

・・キャハ

キャハ・キャハハ

小さな女の子のような声が聞こえる。

ゴクリっ
「…」
「…」
二人とも唾を飲みこんだのがわかった。

キャハハ
タッタッタ・・・

その声は自分たちの一つ下の階の階段の踊り場の方から聞こえる。

「これ…女の子っすよね」

「…うん」
当たり前だけど、時間は朝5時30分過ぎ。
大人はもちろん子供なんかいるわけがない。
けど、確かに聞こえる。

「…お前聞いたのって…これ?」

「…そうっす」
小声で話す。
が、たしかに聞こえる。

キャハ・・・キャハハ
ダン・・・タッタッタ

遊んでいるようなその声は3階の踊り場まであがってきてすぐそこで聞こえる。

「…」
「…」

動けなくなる二人。

「…」
「…」


「こっちにきなさい!」
突然、上の階から叫ぶような声が。

「…え」


ハーイ・・キャハハ
タッタッタ・・・ダン

徐々に聞こえなくなるその音と声。

キャハハ
タッタッ…

咄嗟にトイレから出て1階に走って向かった二人。

ダッダッダッ




「はぁはぁはぁ」
「…はぁはぁ」
1分も満たない時間で1階の他のメンバーが待っているところに着いた。

「お前ら遅すぎ」
そう話すのは現場監督。

「はぁはぁ、、すいません」
「監督、誰かビルに入っています!!」

「はぁ?そんなことありえないって」
「入れる入り口はここだけだし、今日ずっと俺がここにいるわけだし」

「いや、でも、女性と女の子が…」

「いやいや、時間を考えろよ」

「で、でもさっき声とか聞こえたでしょ!?」

「…お前らなんか聞こえたか?」
一階に残っていた他の社員に聞く現場監督。

「いや、なんもですね」
「ですね」

「ほらな」
「お前らなに言ってんだか」

「はぁはぁはぁ…えっ」

「はやく帰るぞ」

「…はい」




そのビルに曰くの話などはない。
過去にそんなことがあった話もない。

でも、後日のニュースで。
仕事をした前日に、近くの交差点で3人家族が巻き込まれる交通事故があり、亡くなったのはお母さんと小さな女の子。
その日家族でそのビルで買い物をする予定だったとことだった。

キャハハ


------------------------
お読みくださいましてありがとうございます。
お気に入り登録、評価などをしていただけたら今後の参考と活力にさせていただきます!

よろしくお願いします。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...