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第1話 ごめんね
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「意外と泣くもんだな――」
春から社会人になる天川 有人《あまかわ ありと》は卒業式を終え、余韻に浸っていた。
それなりに友達も居た俺は、教室で話題になっていた卒業パーティーの誘われ待ち……をしている訳ではない。
そう自分に言い聞かせているのはある人を待っているからだ。
「お待たせ♪」
聞き慣れた声がする。
「……待った」
待っていた人物は幼稚園の頃からの幼馴染。
織川 花《おりかわ はな》。
そして俺の自慢の彼女だ。
進路活動でシビアな時期だった為落ち着いたら告白しようと考えていた。
その後、告白は成功し付き合えたのだ。
「だってしょうがないじゃ~ん。 女の子には色々あるの――♪」
頬を膨らました彼女は、満足気な顔をして歩き出す。
「ん――。俺には理解出来ない事か」
どういう事なのか気になったが素直になれない18歳の男子はただ彼女を追う。
「もしかして、 私が他の男子と何かしていて遅れたと思った?」
花が振り返るとニヤついた表情で顔を近づけてきた。
「……そ、 そんな事考えてもなかった」
花のいつものからかいに、いまだに慣れない俺がいる。
「嘘だよ♪ クラスの女子だけで集合写真を撮ってただけだから~」
花はまた満足気な顔をして歩き出す。
「そんな事だと思った…… だけどやっぱり理解出来ないな」
強がり口調で返答するも少し安心した。
「会うのが最後かもしれない人も居るんだよ――? 私は寂しいと思ったな」
花は顔を少し下に向けると自然に歩幅を合わせ、隣に来ていた。
「確かに何も感じない訳は無いけど、ほとんどの人間が大人になれば新しい出会いを繰り返す。そして過去の人間は徐々に忘れられ、繋がりが薄い人間はやがてNPCになるよ」
少し真面目な話をし始めた彼女にいつも通りの思考を巡らせてしまう。
「…」
「……ま、まあ偶然の再開もあるかもしれないから覚えておいて損はないよな」
自分の考えを普通に伝えたが俯いたままだった彼女を見て焦りを感じた俺はすぐフォローをした。
「有人ってたまに変わった発言をするよね」
容赦なく突き放す目をする花の視線が痛くて気絶寸前だ。
「ま、まぁそのままの俺が良いよ。と言ってくれた人が居たからな」
自信満々な表情で言い放った。
がしばらく沈黙が続く。
「……っておい。 何かコメントしてくれよ」
ふと彼女に視線を向けると凄い勢いで顔を背けられた。
そのまましばらく歩いていると二人は見慣れた公園が目についた。
「うわぁ~ 懐かしいね! ちょっと寄ってみようよ!」
元気いっぱいの彼女に手を引かれながら二人にとって思い出の公園に入る。
「見て! このシーソー! 何か思い出さない?」
中央に鳥の銅像が向かい合ってるシーソーを見て昔の思い出が蘇った。
「ここは花に連れられて遊ぼうとしたが、 悲しい出来事があったな」
当時俺が熱中していたカードゲーム、 お気に入りだったカードをポケットに入れたままの事を忘れていて凄い勢いで無惨に散った…… R.I.P.。
「悲しい?そんな事あったっけ?」
いつもカードと共に過ごしていた俺とは対照的で活発だった花は遊具や球技などの体を動かした遊びが好きだった為、 彼女にはいつも人数合わせと称して無理やり連れ回されていた。
そのおかげでそこそこの運動神経やある程度のコミュニケーション能力が身に付いたので彼女には感謝をしなければならない。
「あれを生贄にして今の俺がいるから。うん。大丈夫」
彼女は疑問を感じていたが大丈夫と言われた瞬間には切り替えていた。
「そうだ!あのブランコ!」
「…」
「ねぇ、ちょっと……座って話さない?」
いつもの花ではない真剣な空気を感じた。
「お……おう、分かった」
今だと小さく感じる2つのブランコに座る二人。
「有人はこのまま就職しちゃうんだよね」
花はどこか不安げな様子だ。
「まぁ働かざる者食うべからずって言うしな」
俺は春から実家近くのフラワーショップ店員になる事が決まっている。
店長は母親と仲が良く俺の事は幼少期から知られているので、就職の話をした時は快く歓迎してくれた。
「でも何でお花屋さんになろうと思ったの?」
花が疑問に思うのも当然だろう、だけど自分でも何故花屋なのかまだ答えが出ない。 俺は空を見上げて改めて考える。
「運命……だと感じたからかな~」
曖昧だけど一番しっくりきた答えだ。
「なにそれ、 説明求ム」
誰もが持っていた小さい頃の夢、皆が皆叶えられたならスポーツ選手は何億人になろうか……。そんな綺麗なハシゴから落ちた者が生きる為にまた別の道を自分で決める。その勇気ある者を勇者だと思う。
それとは別の者達にもある時何かが、誰かが手を差し伸べて来てくれる。
「人には平等に出会いがあるってことだよ、活かせるかどうかは自分自身の問題だけどな」
自分の中で1つの荷がスッと下りた気がし、俺は少し微笑んだ。
「なぁ~に⁉私以外に別の女が……?」
ガールズトークの管轄になったのか、花は急に立ち上がり目の前に来た。
「そんな訳ないだろ」
鋭い目つきの彼女に有人は即答した。
「なんだ~ 良かった☆」
何かを決心した有人は拳を強く握り立ち上がった。
「花! 俺と一緒に暮らさないか?」
「えっ!??///」
いつもの彼とは明らかに違う雰囲気を感じた彼女は頬を赤らめた。
「それって同棲……って事だよね?」
もじもじしながら上目遣いでそう言った彼女を見た有人は鼓動が最高速になるのを感じた。
「そ…… そうだな。嫌だったか?」
有人は目を逸らし空気中に散らばった自前の冷静さをかき集めた。
今まで経験してこなかったプレッシャーを与えあった二人は心臓が張り裂けそうになりながらもその場から動こうとしなかった。
「ううん。 とっても嬉しい☆」
そう言った彼女の目は少し潤んでいた。
「安心した――実は花も通いやすい物件が見つかったんだよ!」
彼女は大の子供好き。春からは幼稚園教諭の専門学校へ行く事にした。
それを知ってから自分の職場と最寄り駅などを考慮した物件を探してた。
「私に断られたらとは考えてなかったんだ~♪」
調子を取り戻したのか、彼女はいつもの顔になっている。
「もうその手には屈しないぞ!そろそろ帰るぞ」
「なーんだ、つまんないのー」
2つの影は再び繋がり、夕方になった公園から出た。
「それにしてもさっきの、随分待たされたな~」
花は少し頬を膨らませる。
「な……何の話でしょう?」
「っ!」
刹那に感じる、手からの危険信号。
「花さん、俺の手が粉々に……」
無言の圧力に耐えられなかった。
「同棲の件ですよね」
「大事な事は真剣に、慎重に考えていたので遅れました」
二人きりになれた時もあったが意気地が無く中々伝えられなかっただけだ。
「相変わらず、心配性さんだね♪」
有人が何を考えてるのか彼女にはおそらく見透かされてるだろう、 ありのままの自分でも受け入れてくれるそんな彼女に有人は居心地の良さを感じるのだった。
「ねぇ、明日ショッピングモールで家具見に行こうよ♪」
「そうだな……完全に家具の存在を忘れてたわ」
「やった~初めてちゃんとしたデートだね☆」
進路活動で頑張ったご褒美を女神から授かる。
「ねぇ有人――小さい頃公園でした約束……」
信号待ちをしていたのも束の間。
キィ――!
二人に向かってくる車。
「花! 危ねぇ――!」
咄嗟《とっさ》に花を庇うようにあいだに…
ドンッ……‼ ガンッ!
暴走車両が二人の時を止めた。
強く地面に打ち付けられた二人は薄れゆく意識の中で少しだけ会話をした。
「花……ごめんな、俺が早く物事を決めていればこんな事にはならなかったかもな……」
「有人ごめんなさい……私と居たから……こんな事に」
「そんな事ない」
「約束―― 絶対守るから……絶対」
「…」
------------------------
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ぜひお気に入り登録、評価などをしていただけたら今後の参考と活力にさせていただきます!
次の更新までお待ちくださませ。
よろしくお願いします。
春から社会人になる天川 有人《あまかわ ありと》は卒業式を終え、余韻に浸っていた。
それなりに友達も居た俺は、教室で話題になっていた卒業パーティーの誘われ待ち……をしている訳ではない。
そう自分に言い聞かせているのはある人を待っているからだ。
「お待たせ♪」
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「……待った」
待っていた人物は幼稚園の頃からの幼馴染。
織川 花《おりかわ はな》。
そして俺の自慢の彼女だ。
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「だってしょうがないじゃ~ん。 女の子には色々あるの――♪」
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どういう事なのか気になったが素直になれない18歳の男子はただ彼女を追う。
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「……そ、 そんな事考えてもなかった」
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「嘘だよ♪ クラスの女子だけで集合写真を撮ってただけだから~」
花はまた満足気な顔をして歩き出す。
「そんな事だと思った…… だけどやっぱり理解出来ないな」
強がり口調で返答するも少し安心した。
「会うのが最後かもしれない人も居るんだよ――? 私は寂しいと思ったな」
花は顔を少し下に向けると自然に歩幅を合わせ、隣に来ていた。
「確かに何も感じない訳は無いけど、ほとんどの人間が大人になれば新しい出会いを繰り返す。そして過去の人間は徐々に忘れられ、繋がりが薄い人間はやがてNPCになるよ」
少し真面目な話をし始めた彼女にいつも通りの思考を巡らせてしまう。
「…」
「……ま、まあ偶然の再開もあるかもしれないから覚えておいて損はないよな」
自分の考えを普通に伝えたが俯いたままだった彼女を見て焦りを感じた俺はすぐフォローをした。
「有人ってたまに変わった発言をするよね」
容赦なく突き放す目をする花の視線が痛くて気絶寸前だ。
「ま、まぁそのままの俺が良いよ。と言ってくれた人が居たからな」
自信満々な表情で言い放った。
がしばらく沈黙が続く。
「……っておい。 何かコメントしてくれよ」
ふと彼女に視線を向けると凄い勢いで顔を背けられた。
そのまましばらく歩いていると二人は見慣れた公園が目についた。
「うわぁ~ 懐かしいね! ちょっと寄ってみようよ!」
元気いっぱいの彼女に手を引かれながら二人にとって思い出の公園に入る。
「見て! このシーソー! 何か思い出さない?」
中央に鳥の銅像が向かい合ってるシーソーを見て昔の思い出が蘇った。
「ここは花に連れられて遊ぼうとしたが、 悲しい出来事があったな」
当時俺が熱中していたカードゲーム、 お気に入りだったカードをポケットに入れたままの事を忘れていて凄い勢いで無惨に散った…… R.I.P.。
「悲しい?そんな事あったっけ?」
いつもカードと共に過ごしていた俺とは対照的で活発だった花は遊具や球技などの体を動かした遊びが好きだった為、 彼女にはいつも人数合わせと称して無理やり連れ回されていた。
そのおかげでそこそこの運動神経やある程度のコミュニケーション能力が身に付いたので彼女には感謝をしなければならない。
「あれを生贄にして今の俺がいるから。うん。大丈夫」
彼女は疑問を感じていたが大丈夫と言われた瞬間には切り替えていた。
「そうだ!あのブランコ!」
「…」
「ねぇ、ちょっと……座って話さない?」
いつもの花ではない真剣な空気を感じた。
「お……おう、分かった」
今だと小さく感じる2つのブランコに座る二人。
「有人はこのまま就職しちゃうんだよね」
花はどこか不安げな様子だ。
「まぁ働かざる者食うべからずって言うしな」
俺は春から実家近くのフラワーショップ店員になる事が決まっている。
店長は母親と仲が良く俺の事は幼少期から知られているので、就職の話をした時は快く歓迎してくれた。
「でも何でお花屋さんになろうと思ったの?」
花が疑問に思うのも当然だろう、だけど自分でも何故花屋なのかまだ答えが出ない。 俺は空を見上げて改めて考える。
「運命……だと感じたからかな~」
曖昧だけど一番しっくりきた答えだ。
「なにそれ、 説明求ム」
誰もが持っていた小さい頃の夢、皆が皆叶えられたならスポーツ選手は何億人になろうか……。そんな綺麗なハシゴから落ちた者が生きる為にまた別の道を自分で決める。その勇気ある者を勇者だと思う。
それとは別の者達にもある時何かが、誰かが手を差し伸べて来てくれる。
「人には平等に出会いがあるってことだよ、活かせるかどうかは自分自身の問題だけどな」
自分の中で1つの荷がスッと下りた気がし、俺は少し微笑んだ。
「なぁ~に⁉私以外に別の女が……?」
ガールズトークの管轄になったのか、花は急に立ち上がり目の前に来た。
「そんな訳ないだろ」
鋭い目つきの彼女に有人は即答した。
「なんだ~ 良かった☆」
何かを決心した有人は拳を強く握り立ち上がった。
「花! 俺と一緒に暮らさないか?」
「えっ!??///」
いつもの彼とは明らかに違う雰囲気を感じた彼女は頬を赤らめた。
「それって同棲……って事だよね?」
もじもじしながら上目遣いでそう言った彼女を見た有人は鼓動が最高速になるのを感じた。
「そ…… そうだな。嫌だったか?」
有人は目を逸らし空気中に散らばった自前の冷静さをかき集めた。
今まで経験してこなかったプレッシャーを与えあった二人は心臓が張り裂けそうになりながらもその場から動こうとしなかった。
「ううん。 とっても嬉しい☆」
そう言った彼女の目は少し潤んでいた。
「安心した――実は花も通いやすい物件が見つかったんだよ!」
彼女は大の子供好き。春からは幼稚園教諭の専門学校へ行く事にした。
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「私に断られたらとは考えてなかったんだ~♪」
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「もうその手には屈しないぞ!そろそろ帰るぞ」
「なーんだ、つまんないのー」
2つの影は再び繋がり、夕方になった公園から出た。
「それにしてもさっきの、随分待たされたな~」
花は少し頬を膨らませる。
「な……何の話でしょう?」
「っ!」
刹那に感じる、手からの危険信号。
「花さん、俺の手が粉々に……」
無言の圧力に耐えられなかった。
「同棲の件ですよね」
「大事な事は真剣に、慎重に考えていたので遅れました」
二人きりになれた時もあったが意気地が無く中々伝えられなかっただけだ。
「相変わらず、心配性さんだね♪」
有人が何を考えてるのか彼女にはおそらく見透かされてるだろう、 ありのままの自分でも受け入れてくれるそんな彼女に有人は居心地の良さを感じるのだった。
「ねぇ、明日ショッピングモールで家具見に行こうよ♪」
「そうだな……完全に家具の存在を忘れてたわ」
「やった~初めてちゃんとしたデートだね☆」
進路活動で頑張ったご褒美を女神から授かる。
「ねぇ有人――小さい頃公園でした約束……」
信号待ちをしていたのも束の間。
キィ――!
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「花! 危ねぇ――!」
咄嗟《とっさ》に花を庇うようにあいだに…
ドンッ……‼ ガンッ!
暴走車両が二人の時を止めた。
強く地面に打ち付けられた二人は薄れゆく意識の中で少しだけ会話をした。
「花……ごめんな、俺が早く物事を決めていればこんな事にはならなかったかもな……」
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