王家の因習

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王家の因習

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「あっ……ぁあ……あはぁ……!」

 体内の触手が蠢く度、少年の腰もまた震える。勃起しきった性器はただ溢れるがまま、半透明の白い液体を垂れ流していた。
 幾度目かの絶頂か、最初から数えてなどいない。永遠に続くように錯覚する快楽の中、全てを忘れて意識を手放した。
 王国も、地位も、成人の儀も。
 壊れたように笑う少年にとっては最早瑣末なことでしかなかったのだ。

 ◆

『王国ばんざーい! 王子様ばんざーい!』

 その日、国中が歓喜に打ち震えていた。
 大陸の中で大きくも小さくも無いこの王国は、目立った特産物は無いものの平和を長年謳歌していた。気候は温暖、作物や家畜はよく育ち文化も程良く発展しつつある。民は簡素ながらも充実した日々を過ごし、他国との関係も良好。大きな事件が起こる訳でもない穏やかな毎日は、賢王と名高い国王とその家臣達によるものだと国民からの信頼も厚い。
 その国王の第二子が齢15を迎えるとあっては、お祭り騒ぎになるのも無理は無かろう。ただの生誕祭でも賑わうというのに、今年は成人となる年である。街という街、村という村の往来には花が撒かれ、酒場は真昼間から看板を出し、吟遊詩人が王家を讃える唄を歌っていた。
 盛り上がりが最高潮になるのは、王都の中心を貫く街道を王家が揃って進むパレードだ。道の両端には人々が殺到し、大人の仲間入りを果たした本日の主役を一目見ようと押し合いへし合いしている。その喧騒を、ラッパと馬蹄、ブーツの音がかき消していく。
 先頭は王家の紋章が描かれた旗を携えた重騎兵。真紅のマントを着けた騎士達と羽飾り付きの帽子を被った楽隊がそれに続いた後、一際大きな歓声が上がる。
 数々の装飾品に彩られた純白の馬に跨った少年の横顔は未だあどけなさを残している。が、短く整えられた金髪は女神の恩寵を受けたかのように天使の輪を抱き、晴れた日の空と同じ色をした眼には凛とした聡明さが宿っていた。その身体つきは周囲の騎士と比べれば如何にも華奢だが、手綱を握る腕や馬上でもしっかりと上体を支える足には程良く肉が乗っている。

「……気分はどうだ」
「はい……凄く誇らしく思います」

 彼の傍らで黒い軍馬を駆るのは、この国の第一王子。既に十数年前に成人している歳の離れた兄弟である。どこか可愛らしさを感じる弟とは違い、彫刻家が描き出す神話の中の英雄を思わせる逞しい美貌はこれまた民から人気が高い。隣国の王女が彼の妻として嫁いで来た時には多くの女性が嘆き悲しんだと実しやかに噂されているが、実際は当然祝福の方が大きく、当時は何日も祭が続いていた。おまけに数ヶ月前には第一子、しかも男子が誕生したこともあって、王家が盤石であることを疑う者はいなかった。
 しかしながら、第二王子は兄の顔色が僅かに優れないのを鋭く悟った。

「……兄様、どうかなされましたか?」
「いや、俺も立派な弟を持って誇りに思う。そら、そこの娘がお前の名を呼んでいるぞ。手を振ってやれ」

 兄のいつもと変わらぬ爽やかな笑みにそれ以上の追及は出来ず、促されるまま沿道を見遣ると、少々はにかんだ微笑と共に小さく掌を向ける。歓喜の余り卒倒した娘は、近くにいた若い衆の手で人垣の外に運び出されて行った。
 そう、兄の言う通り、懸念することなど何一つ無い筈だった。王位継承権は第3位だが、この王子に元より王を継ぐ野望は無い。今頃隊列の中心部、華美な馬車から手を振っているであろう国王が少しでも長く健康に生きることを願うだけだ。その後だって、次の王は立派な兄が務めてくれるだろう。
 しかし成人した以上、教えられるがまま、他力本願であってはいけない。王子は王家の人間ではあれど、王の、この国の臣下であるのだ。
 この命ある限り、祖国に尽くそう。笑顔で自分の生誕を讃え、喜ぶ民と彼らが築いてきた王都、そしてその中心に聳える王城を見上げながら若き王子は心に決めた。

 ◇

「最後の儀……ですか」

 日はとっくに沈み切った夜、宴会も終わり、後は床に入るだけだと思っていた王子は、王の寝所に呼ばれた。
 白い髭を湛え、長年の苦楽を皺として刻んだ老練の王は、お気に入りの豪奢な椅子に全身を委ねてゆるりと頷いた。
 傍らには表情を堅くした第一王子と、王家の血筋以外でこの場に入ることを許されている数少ない人物である執事長だけしかいない。普段は安寧を齎してくれる筈の蝋燭の灯りが微かに揺れ、彼等の顔に落ちる陰影がどこか不気味に震えた。

「我が王家とそれに近しい者以外は誰も知らぬ秘儀じゃ。これを乗り越えてこそ、真に王家の一員となる」
「どんなものでもやり遂げてみせます。どうかご命令を、父上……いや、国王陛下」

 第二王子は部屋に呼ばれた当初抱いていた不安を打ち消すように、一歩前に出て訴える。その真摯な表情に兄は視線を逸らし、王は僅かに瞼を揺らした後、執事長の方を見た。
 重苦しい雰囲気は、これから挑む試練が危険なものである表れであろう。が、ここで心を折っては王子の名が廃る。幼少からの愛情溢れた教育の通りに、少年は帝王学と従順さと真面目さ、そして王族の誇りを身に付けていた。それを父も感じ取ったのであろう。

「我が息子……否、誉れ高き第二王子よ。其方に命ずる。王家の名に恥じぬ振る舞いをせよ」
「承知しました」
「……以後は私めがご案内致します」

 失敗したら、名を剥奪されるのかもしれない。そう悟ったのと、覚悟を決めたのは同時だった。一礼をし、一時国王を見据えた双眸は死地に赴く男のそれであった。
 王族以外の生き方を王子は知らない。しかし自らの名を護ることは自らの存在を護ることであると認識していた。冷静な表情の下に抱く燃えるような矜持は、長い王家の歴史を背負って立つ少年を青年にしようとしている。
 胸を張り、微かな怖れは内心に秘めたまま執事長に促されて部屋を出る。背後で2人の溜息が聞こえても、振り返ることはしなかった。

 ◇

『秘儀と言っても、行うことは簡単なもの。地下の階段を底まで下り、夜明けまでそこにご滞在ください。時が来ましたらお迎えに上がります』

 執事長に言われるがまま入念な湯浴みを行い、身支度を終えた王子は、独り階段を下りていた。
 そこに至るまでの道程は複雑で、王子も知らない細い廊下を幾つも通り抜けた。恐らく城の中央付近であろう、両腕をいっぱいに広げれば指先が着いてしまいそうな狭い螺旋階段はどこまで続いている。所々の壁の窪みに蝋燭が灯っているお陰で視界は確保されているものの、これが全て消えてしまったら完全な闇に支配されるだろう。
 本能的な恐怖心を捩じ伏せ階段を下り続ければ、段々と空気が冷たくなる。今身に付けているのは仕立ては良いがあまりに簡素な長袖の白いシャツと紺色の長ズボンだけだ。普段の寝間着より装飾の無いそれらに防寒性能は無いに等しく、せめて上着があればいいのにと一瞬心細さが過る。
 自身の足音だけが響く中、永遠とも思われた階段は唐突に終わった。反響から察するに目の前には大きな空間が広がっているようだが、真っ暗闇で何も見えない。最後の1段を下り、辛うじて階段からの光が届く範囲に踏み出した瞬間、ピリリと肌を刺すような感覚があったが一瞬で消えた。
 それでも王子の眼は前方に向けられていた。先程から鼻に付く臭気が、微かに漂う何物かが身じろぐ気配が、そこに王子以外の存在がいることを物語っていた。途端にどっと寒気が襲い掛かり、その割に背筋を汗が伝った。
 執事長は『底まで下りろ』と言った。つまりここが底であるか確かめねばならない。恐怖を飲み込むように唇を湿らせた後、慎重に歩を進めた。こちらは身を守る武器の1つも持っていないのだ。生き延びるには説得するか、逃げ続けるか、素手で対応せねばならない。

「だ……誰かいるのか?!」

 大した意味も無いであろう誰何の問いに呼応するように、壁の蝋燭が自動的に灯った。
 その部屋は今までと同じ石壁で、高さは王子3名分程、床の一辺もほぼ同じぐらいだった。壁に並ぶ蝋燭は階段よりも数が多く、地下室を思いの外明るく照らす。蝋燭と蝋燭の間には、見慣れぬ黒い光沢のある半球状の物体がくっ付いていたが、その用途は王子には分からなかった。
 ただ部屋の奥で蠢いている大きな塊の方に、王子の眼は釘付けになっていた。

「ヒッ……!」

 塊は藻が蔓延った溜池のような醜悪な緑色をしていた。体積は人間3人分を優に超えるだろう。その表皮がぐにゅぐにゅと蠢動したかと思うと、細長い触手を多数伸ばしてきた。
 これにはさしもの王子も裏返った声を上げ、踵を返して逃げようとする。が、大きな図体に似合わない機敏性を持つ触手はあっと言う間に王子の右足首に絡み付くと、その身を宙に引き摺り上げた。

「や、やめろぉ! この……っ!」

 逆さ吊りにされては為す術は無い。必死にもがき、空いた足で蹴飛ばそうとするも、程無く四肢は太い触手に絡め取られてしまう。
 触手の表面はぬるぬるとした透明な粘液に覆われており、意外にも仄かに温かかった。しかし力は強く、王子の細腕では振り解けそうにない。
 儀式は失敗だ、自分はこの化け物に殺されてしまうのだ。引き千切られて食われるのか、それとも丸呑みか。
 絶望感に瞼が熱くなるが、それでも最後まで屈服はしないと奥歯を噛み締め、相手を睨み付ける。泣き喚き、無様に命乞いなどして堪るか。王子としての矜持が、一瞬恐怖心を上回った。

「……え? なっ……んぐぅ!」

 だが予想は外れ続ける。王子を拘束した触手は、その身を水平になるように宙空に固定する。
 そして眼前に太い触手を寄せると、無造作に口に突っ込んだ。慌てて吐き出そうとするが後頭部も別の触手に抑えられ、噛み切ろうにも弾力が強く歯が立たない。
 その内ごぽっと音がして、口内いっぱいに生温かい液体が注がれる。それが触手の体液であることを脳が理解した直後、思わずえずいたがやはり吐き出すことは叶わなかった。酷く甘い匂いのするそれは喉の奥にどんどん注がれ続け、上手く呼吸が出来ず溺れるのではないかと錯覚しだす。
 結果、不本意ながらも喉を鳴らし、王子はそれを飲み込み続けた。舌を馬鹿にさせるような強烈な甘みを感じる中、生理的な涙が目尻から一粒だけ溢れた。

「ぅ……ゲホッゴホッ! 一体、なん……ッ?!」

 やがて口から触手が引き抜かれ、呼吸が楽になる。だが酸素を思いっきり吸い込んだ刹那、自分の身体の変動を感じた。
 液の溜まった胃から身体の端の方へ、酷い熱が広がった。毒か、と思う合間にも、鼓動や呼吸に合わせて熱が上がっていく。肌も敏感になりつつあるのか、触手や服が触れている部分がピリピリと反応し始めていた。
 内部から溶かされるのか、と嫌な想像が再び巡る。しかし触手は着実に異なる動きを始めていた。
 シャツの裾や襟元、袖口から細い触手を何本も潜り込ませ、王子の白い肌に纏わり付き始めたのだ。

「んっ……くぅっ……!」

 粘液を擦り込むような同時多発的な動きは、不快である筈なのに擽ったいような安堵するような、不可思議な感覚を齎していた。今は亡き母、王妃の愛撫に似ているようで全く違う。
 思わず漏れそうになる声は下唇を噛み締めて必死に耐えるものの、体内からの熱も相俟って鼻に掛かった吐息が漏れてしまう。
 触手により生まれた熱が再び身体の中心部、それも下腹部の辺りに集まり出すのを王子は感じていた。健全な15歳の男子ともなればその意味も大方理解してはいるが、到底納得出来るものではない。
 この触手の化け物は、理由などさっぱり分からないが自分を性的に興奮させようとしている。そして自分は、それに呼応してしまっている。
 この期に及んでも、その事実を認めたくなかった。

「んっ……ぅ、んんっ……! やだ……っ!」

 だが抵抗は虚しく、肌を撫でられる度、それを避けようと身じろぐ度、熱は溜まっていく。
 窮屈さを感じ、ちらりと自らの股間に眼を落としてぎょっとした。ズボンの上からでも分かる程はっきりとテントが張られている。
 自分はこんなにも忍耐の無い人間だったのか。絶望感が去来する胸に、一際鋭い感覚が奔った。

「ひゃんっ!!」

 胸に付いた小さな蕾が2つ、触手により捏ね繰り回されていた。粘液漬けにするように柔らかく、時に鋭く押し潰されたり、撫で上げられたりする。それに合わせてゾクゾクとした感覚が背筋を駆け上り、美しかった白い相貌は今や真っ赤に上気していた。
 その触れ方にだけではない。漏れてしまう己の声には混乱と明確な艶が混じり、その裏返った響きに一層興奮を感じる悪循環だった。

「だめ……そんなとこ、だめ……! あっ、あっ、声、出ちゃ……ひぃあっ!」

 自分で弄ったことも無いその部位が性感帯となり得るなど思ってもみなかった。男の胸にあるのは単なる飾りなのだと昨日までは信じていた。なのに今や、自分は乳首を弄られただけで勃起し、それどころか先走りで下着を濡らすのを感じていた。
 そんな王子の困惑と絶望など無視して、一度蕾全体を覆うように触手が先端を押し付けると、俄かにそこに灼熱が奔りまた一際敏感になった。実際は触手が持つ細い細い針を刺して催淫効果のある体液を直接注入したのだが、極細過ぎて痛みも感じない程の行為に本人は何をされているか分からず、為すがまま熟れていく己の淫乱さと罪悪感に身が震えた。
 だが一度は離れた触手の本数が増え、感度が上がった部分を2本でコリコリと摘まれるように刺激されれば、未だ性的に幼い脳がスパークするのは時間の問題だった。

「あっ……あああああっ!!!」

 身体が弓状に仰け反り、目の前で白い光が瞬く。それは今まで経験したことの無い激しさで、熱の解放を押し留めることなど出来なかった。
 全身から力が抜けた時には、四肢を拘束する以外の触手は離れていた。だが荒く上下する胸は服の生地が触れる度に残り火のような快感が奔り、クシャクシャになったシャツが情事の後を示していた。
 何より呆然とした頭で見詰めていたのは、己の股間だった。目の前で黒い布地に染みが徐々に広がっていく。マスターベーションの経験はあったが、服を着たまま、しかも乳首だけで達したのは初めてだった。人として男として、大切な何かを失ったように思えた。
 一番ショックだったのは、それなのに王子自身は萎え切らず、未だ布越しに膨らみを見せていたことだった。

「なんで……こんな……」

 数本の触手が今度は足に絡み付く。ズボンの上から膨らみをなぞるように刺激する。それだけで燃え尽きた筈の身体に再び火が灯る。
 触手は器用で、案外繊細だった。シャツのボタンを外し前をはだけさせると、艶やかなピンク色にぷっくりと膨らんだ乳首が両胸でその存在を主張していた。まるで発情した女性のそれだったが、未だ実物を見たことの無い王子にとっては奇異な存在にしか映らなかった。外気に触れたその部分は微かに震えたが、今は触れられることはない。
 続いて触手はベルトを外し、ズボンを引き摺り下ろすと濡れそぼった下着が現れる。まるで失禁したようだが、その方がまだ良かったかもしれない。青臭い匂いがむあっと立ち上り、思わず顔を背けた。だが自らの視界の外で何かされるのも恐ろしく、不安に負けて横目で下着を脱がす様を眺めると、その下にある部分との間に白い液体が糸を引いていた。
 服を引き抜く際、一時的に腕や足の拘束が片方ずつ解かれたが、王子にその隙に逃げようという発想は無かった。ただ全身が重く、熱い。全裸になった姿をまじまじ見られる中、動く気力を吸い取られているようだった。
 次は何をされるのか、胸か、性器を弄られるのか。ほんの僅かな期待は、自覚する前に否定した。
 ただ、耐え切る意志を示すように、触手を睨み付けた。

「僕は王子だ……たとえこの身が汚されても、魂までは……!」

 大分息も整ってきた。もう二度と絶頂などするものか。
 その些細な反抗心になど眼もくれず、触手は両足首を持ち上げて大きく股間を開かせる。やはり半勃ちのそこを直接刺激するのか、と新たな覚悟を決めかけた矢先、親指の太さ程の触手が尻の方へ近付くと、粘液を吐き出した。

「えっ……ちょっと待って、そこは……!」

 王子が驚愕しようと触手が意に解す筈もない。更なる粘液を染み出させながら、触手は蟻の門渡りを、双丘の合間を、硬く閉じた菊門をマッサージし始める。
 1本、また1本と触手は増えていき、統一性無く動くその感覚は複数人に好き勝手に触れられているようだ。そして触手の体液の効果は、先程から充分理解している。

「っは……! 嘘っ、嘘だっ……!」

 そんな部分が良い筈がない。そう思い込もうとしても、徐々に息が上がり始める。
 熱に溶かされるように、触れられる部分に力が入らなくなっていく。最初の1本は菊門を入念に撫で回していた。それでもそこにだけは立ち入らせて堪るかとひたすら力を込めて門を閉ざし続ける。

「……ふぁっ?! あっ……うあっ!」

 だが下半身に集中していた所為で、頭上への注意が疎かになっていた。
 ずちゅっ、と音がしたかと思うと、右耳が熱くなる。細い触手が耳の穴と耳朶を同時に責め始めたのだ。
 完全なる不意打ちに、思わず下半身の力が抜ける。その隙に触手は菊門に潜り込み、入り口付近の腸壁に粘液を擦り込み始めた。
 排泄器官は同時に、水分を吸収する器官でもある。どぷっと熱い液体が尻の中に吐き出された瞬間、王子は完全な敗北を知った。

「う……う、ううっ……」

 粘液を飲まされた時以上の速度で、身体の中心に熱が集まる。馴染ませるように触手が前後するのに合わせて、男の象徴の芯は徐々にはっきりとしつつあった。
 その合間にも耳元ではじゅぽじゅぽと激しい水音がされ、耳朶は弄られる程に熱を持つ。
 気付いた時には触手は1本増え、2本増え、入り口だけではあったが計4本が入るまで拡げられていた。粘液で愛撫されながら、ゆっくりした動きだったお陰か、痛みは殆ど感じない。だがその分物足りなさも感じ、そのような発想に至る自分に愕然とした。
 体内に入っていた触手が一旦全て抜ける。含む物を無くした菊門はパクパクと開閉したが、王子に自覚は無い。
 ただ見せ付けられるように眼前で聳り立つ、他とは明らかに違う触手に息を呑んでいた。
 色は赤黒く、先端には膨らみがあり、全体に筋が張っている。さっきまでの柔軟さがまるで無い、硬質で太く長いそれは、完全に男性器だった。

「いや……そんなの入らないっ! やめてっ! やめ……ッ!!!」

 凶暴な鈍器のようなそれは制止を聞き届ける筈もなく、一度菊門に押し当てられた後、一気に奥まで貫いた。
 事前に粘液を挿れられていたとは言え、本来ならば到底入ることのない太い異物に、鋭い痛みが脳を焼く。生温かかったこれまでの触手とは異なり、硬質なそれは酷く熱かった。
 しかしその一方、王子の幼い性器からは白濁の液体が押し出されるように溢れ垂れていた。身体の内外から淫液により熱せられた前立腺は、頑強な刺激に一突きたりとも耐えられなかったのだ。先程のように遮る物も無い状態では、はっきりと自分からその様が見えてしまう。

「こ、こんなので、イっちゃっ……やだっ、また熱いの、クる……!」

 しかも駄目押しのように、S字結腸まで突き込まれた触手が脈打つと、王子の腹の奥で熱が爆ぜた。1発と言わず、2発、3発。女性器と違い底の無い腸内へと、粘性の強い液体がドポドポと時間を掛けて流し込まれていく。その量に、王子の薄かった腹は重症の便秘患者のように次第にぽってりと膨らんだ。しかも尻の隙間から漏れ出した液体は甘い香りのする透明な粘液ではなく、未だ王子自身から垂れ流されている物と同じ青臭さを持った白濁液だった。
 極太の一物を挿れられ、種付けされた。そしてそれにより快楽を得て、達してしまった。
 この事実は、王子に僅かに残っていた矜持を地に落とすには充分だった。今までは善き王子として振る舞ってきたし、そうなるよう努力もしてきた。しかし実際はどうだ、化け物に犯されて悦を得る淫乱、代々の王の名に泥を塗る痴れ者ではないか。これまでの人生とこれからの未来を同時に喪失した感覚の中、はらはらと涙が落ちていく。そして最後に残されたのは、肉体的な快感だけだった。

「あうっ……やっ、動か、らいでっ……! お尻……ビンビンするぅ……!」

 舌足らずな言い回しは、あまりの快楽に脳内が言語処理を放棄し始めた結果であろう。触手が前後運動を始めると、王子の身体は幾度も跳ね上がる。
 体内の触手は襞という襞に体液を塗り込まんとするように執拗に動き、その度にエラの張った部分が前立腺を裏から抉る。それだけで達しそうになるが、既に2回出している状態では半透明の液体が垂れ流されるばかりだ。
 それが物足りないとばかりに、王子の腰は勝手に動き始めていた。楔がもっと良い部分へ当たるようにと、拘束の範疇で動ける最大限まで揺らす。
 ぐっちょぐっちょと淫靡な水音が地下室に広がり、王子の激しい呼吸ははっきりと艶めいていた。床に落ちる水滴が誰の体液なのか、もう判別はつかない。
 一度火が付いた若い欲望は止まらない。王子は最早、より強い性感を求める淫猥な少年へと成り下がっていた。

「はぁっ、らめぇ、もっと……そう、そこっ! そこ突いてぇっ! もっとガンガン突いてぇぇ!!」

 娼婦のような甲高い声に呼応するように、触手が一段と激しく内部を叩く。肉体と精神への衝撃に翻弄されるがまま、少年は白濁液を迸らせた。量の少ないそれが己の腹に落ちる、その感覚にもまた身体を震わせる。幾度絶頂に至って尚、少年の性の象徴は萎えること無く硬さを帯びたままだった。
 その上、排泄器官で得る快感は女性的なものであり、達した状態が持続する感覚は初めて経験するもの。見開かれた空色の眼は天井に向けられていたものの何も映してはおらず、開いた口ははくはくと無意味に開閉される。
 少年が気を遣っている最中にも触手はピストン動作を止めなかった。しかし一度は触手を食い千切らんばかりに収縮していた内壁は今や力を失い、引き抜く時に触手との隙間から大量の白濁液が漏れ出していた。膨らんだ腹も心無しか小さくなっているようだ。
 触手は少し考えるように動きを止めた後、聳り立つ雄の根元に下がる2つの実に新たな細い2本を伸ばすと、胸にしたのと同じ処置を施す。粘液注射の効果は、瞬く間に表れた。

「あっ……ああああっ! 何これっ、出るぅぅ!! 熱いのまた出ちゃうぅぅ!!」

 急速に機能を活性化された袋は収縮し、射精が近いことを知らせる。しかし性器に巻き付いた触手がそれを阻んだ。その先端、尿道口に細い細い触手を突っ込むと、後ろと交互にピストン動作を始める。更に少年のガチガチになった性器にも触手を絡めると、上下に扱き始めた。
 すぐさま絶頂に達しかけたが、湧き上がる熱は触手に遮られ、尿道の途中で行き止まる。出すに出せない欲望に急かされるように、少年の後孔は絞るようにきつくきつく締まりだした。それを待っていたとばかりに、体内の触手が再び精液を放出する。

「ひあぁぁっ!! ……いやっ、なんで、なんで出ないのぉぉ?! お腹パンパン、もうむりっ、入らないよぉ……! イきたい、イかせてぇぇっ!!」

 腹ははち切れんばかりで苦しく、出す物はあるというのに放出を許されない。狂おしい程の衝動に髪を振り乱し、涎を垂らしながら喚き散らしては腰を跳ね上げる少年はそれでもどこか浮世離れした美しさがあった。至る所に飛び散った白い液体、孕んだかのように膨らんだ腹と乳首、そして再び全身へと伸びる数多の触手が倒錯感を増す。
 それでもまだ触手は少年を解放しない。振り絞るような懇願など無視してその身を揺すり続ける。まるで何者かに見せ付けるように。

「あああああっ! うあっ、はんんんっ!!」

 最早全身が性感帯だった。口に突っ込まれる触手を舐め上げては注がれる粘液を飲み干し、耳孔の水音に肌という肌を粟立たせ、胸の蕾を弾かれては摘まれる度に背筋を震わせる、性器と睾丸を揉み擦られては熱を募らせ、尿道と腸壁と前立腺を抉られては眼前が真っ白になった。
 言語は次第に忘れ去った。全身が快楽を拾う為に活動しており、それ以外の思考は消し飛んでいく。喉が嗄れるまで嬌声だけが発される。
 手足の拘束は既に外され、床に仰向けに転がされていたが、逃げようともしなかった。左手で乳首を、右手で性器を弄ることに没頭し、両足は自ら開いて触手を受け入れていた。己の手で触れる部位は自分の物でないように熟れきっていて、乱暴に扱う程に強い性感があった。

「いいいいぃぃ!! くぁっ、ひゃああああんんん!!!」

 やがて潮時とばかりに尿道から栓をしていた触手が抜かれると、爆発するような快感が全身を貫いた。溜まりに溜まった精液は濃度を増しながら噴水のように迸り、少年の顔や胸、腹を容赦無く汚した。しかし当の本人はそれを大いに歓迎し、粘液と一緒に自分の肌へ塗り付けた。
 睾丸へ直接挿れられた淫液の効果は抜群で、その後何度も絶頂しても途切れることは無かった。それも尽きる頃には、射精無しでも絶頂出来るようになっていた。
 時間の感覚の無い地下室で、行為は止め処なく続いていく。仰向けに飽きたら、俯せで尻を持ち上げた獣のような体位で繋がった。触手に支えられ、座った体勢で下から突き上げられる時もあった。へこへこと自分から腰を振るい、涎と涙と汗と分泌液を垂れ流しにしていた。
 どんな格好でも達し、次を求め続けた。しかしどんなにその欲望が強くても、いずれは燃え尽きる時が来る。

「あっ……ぁあ……あはぁ……!」

 体内の触手が蠢く度、少年の腰もまた震える。勃起しきった性器はただ溢れるがまま、半透明の白い液体を垂れ流していた。
 幾度目かの絶頂か、最初から数えてなどいない。永遠に続くように錯覚する快楽の中、全てを忘れて意識を手放した。
 王国も、地位も、成人の儀も。
 壊れたように笑う少年にとっては最早瑣末なことでしかなかったのだ。

 ◆

「ん……」

 目覚めた時、最初に感じたのは腰の痛みだった。腰だけではない、全身が痛くて重い。見上げる景色は見慣れた天蓋だが、ここに至るまでの記憶が飛んでいた。

「僕は一体……どうしたんだ……?」
「成人の儀の宴の後、倒れられたのですよ。きっとお疲れになられたのでしょう」

 枕元から覗き込んで来るのは、王城付きの医師だ。小さい頃から親しんでいるカイゼル髭の顔が綻んだのを見て、ひとまずは安堵する。
 そう、宴の後、国王と会った。その時の会話の内容は思い出せないが、倒れたのはその時だろうか、その後だろうか。どちらにしろ心配を掛けただろうから、後で顔を出さねばなるまい。

「父上に……国王に伝えてくれ。僕は平気だと」
「ええ、ですが大事を取ってもう少しお休みください。明日にはお元気になりますよ」

 医師は王子の腹に手を置き、にこやかに笑って見せる。その感触に何かを思い出しかけたが、それは一瞬で暗闇に消えた。恐らく体調不良が原因で見た悪夢のようなものだろう。
 何かあった時用にとベルをベッドサイドに置き、医師は部屋を出て行った。どっと疲れを感じ、王子は再び瞼を閉じる。
 自分はもう大人なのだ。明日には公務が始まるだろう。今日は言われた通り、しっかり休まなくては。

 本当はあの夜から1週間が経過していると知らぬまま、王子は幸福な眠りへと就いた。

 ◆

「父上……また見ていらっしゃるのですか」
「おお、お前か……」

 王城の地下深く、秘密の小部屋で第一王子は国王に向かい立っている。
 王の眼前には幾枚もの硝子の板が並んでいた。鏡のようであるが、実際には遠方の様子を映し出したり、記録したり出来る魔法具だ。
 その撮影機が置かれているのは小部屋の壁を挟んで向こう側、触手の化け物が住む地下室だった。蝋燭の合間に並ぶ半球により、あらゆる角度から中の様子を伺えるのである。
 今、録画された映像を映している画面の中央には濡れ雑巾のようになった少年と化け物がいる。床に力無く倒れ伏した少年から化け物が離れ、後孔に刺さっていた触手が抜かれると、ぶしゃあと派手な音を立てて真っ白な液体が迸った。大きく開いた穴は閉じる様子も無く、白の合間に捲れた肉のピンク色が見え隠れしていた。
 そこに画面の外から医師と執事長が現れた。医師は少年の傍らに跪いて様子を調べているようで、執事長は触手の化け物を画面外へと追いやっていた。

「この歳になると、心踊るものが減って行く。だがあの晩は、いつになく燃えたものよ……我が魂にも因習は確と刻まれておるようだ」
「自分の息子が化け物に犯されているのですよ……?!」
「だから良いのだ。あの気丈な顔が絶望した時、お前も勃っておったろう」

 第一王子の顔が紅潮したのは、羞恥か怒りか。その様子に眼もくれず、ベルベットの椅子に身を沈める国王の眼差しは画面に注がれている。
 やがて画面内に国王が現れた。医師と会話した後、片手で少年の上体を起こした後、反対の手で膨れた腹を押す。眼を閉ざした少年の表情が僅かに曇った後、汚い音を上げて再び白濁液が放出された。

「尿道責めのお陰か小便も垂れ流していたが、撮れていないのが残念でならん。だが儂にも慈悲はある。傷は全て癒し、記憶は消した。寛大な措置であろう?」
「よくも今更そんな口を……!」
「我が家に代々伝わる業を果たしただけのこと。……それとも、お前の時はそのままだったことを恨んでおるのか?」

 第一王子の握った拳がわなわなと震えるが、それが持ち上がることは無い。代わりに椅子から立ち上がった国王が胸を合わせるように耳元に顔を寄せ、小さく囁いた。

「何なら、今からあの部屋へ送り込んでもいいのだぞ? 嫁が産後でなかなか発散出来ずにいるのではないか? そら、今も硬くなっておる」
「離せ……!」
「或いは弟を抱くか? 記憶は消しても、体は快楽を忘れん。あの子は無意識に男を求めるようになる。王の隠し子は平和を乱す……予防は早い方が良かろうて」
「俺は子を成した。あいつだって、女に惚れるかもしれない」
「……あの化け物が、今までと同じモノだとでも?」

 熱を帯びる股間を掴んだ王の口元が引き上げられる様に、王子は反射的に身を引き距離を置く。睨み付けた深い蒼色の瞳の中に宿る狂気は本物だ。
 十数年前の成人の儀の夜、同じ地下室で化け物に犯された時の記憶を無理矢理辿れば、透明な粘液しか挿れられなかったように思う。あんなに執拗に全身を嬲られることも無かったし、腹が膨れるまで種付けされることも無かった。その後数日間、後孔が緩んでいた所為で成人になったというのにオムツを着用していたという羞恥のあまり死にたくなる事実を除けば、体調もすぐに戻った。
 それが弟の場合は、変貌している。否、進化させたのだ。この老人の歪んだ性癖が、化け物を。

「どうせ老い先短い身、お前の息子の晴れ姿は見れまい。ならばせめて、王子の遊び相手でも作ろうかの……あの様子では、半月と保たずして尻が疼きだすだろうからな」
「外部の人間を使うつもりか! 秘密がバレたら王家は終わるぞ!」
「そうなるかどうかは、お前次第であろうよ、フォッフォッフォッ……」

 この場所で卑猥な老人を叩き斬りたい衝動に駆られるも、今は帯剣などしていない。第一王子は王からの信頼を最も受けている。一時の怒りで全てを無に帰すような浅薄な人間ではないし、そうしない為の策略を巡らせられると自他共に認めていた。
 だからこそ成人の儀で弟が何をされるか知っていながら事前に何も言わなかったし、快楽に堕ちて行く弟の姿を、王と共にこの部屋で見ていながら何もしなかった。おまけに射精は耐えたとは言え、その姿に劣情を催したのも事実だ。偉そうなことなど何も言えまい。
 黙り込んだ息子に満足したか、王は哄笑を残して小部屋から立ち去った。後に残された王子の内心は暗い。

「……クソッ」

 普段は絶対に使わない罵声を漏らした後、何気無く眺めた画面の中では、王が気絶したままの第二王子を抱いていた。正面から抱き竦め、顔中に口付けを落としながら対面座位で性交していたのだ。その表情は恍惚でありながら、慈愛に満ち溢れていた。医師と執事長の前であるという恥や外聞は一切見られなかった。
 その光景に反吐が出そうになりながらも、画面を消すことは出来なかった。目線を逸らすことも出来ないまま、ズボンのファスナーを下ろすと窮屈だった一物を取り出した。
 第二王子の細い身体が規則的に揺れる。王は押し殺したような吐息の合間に息子の名を呼ぶ。それに合わせて片手をテーブルに着き俯き加減で自分自身を扱く第一王子は、血は争えないことを痛感していた。
 あの化け物は、何代も前から地下室で飼われているそうだ。何代もの王に伝わってきた性癖は、しっかり己の中にも受け継がれている。それが誇らしくも汚らわしくて、自己嫌悪に浸る程に性器は硬さを増した。その衝動が妻を相手にする時よりも激しいと感じるのは、久々だからか、その背徳感からか。
 やがて画面の中の父が果てて程無く、第一王子もまた吐精した。このような用途を想定してあるのだろう、小部屋に常備されている小さく清潔な布で先端を抑えていたお陰で、周囲に飛び散ることは無い。が、白い布に着いたドロドロの液体と青臭い匂いは、吐き気を齎すには充分だった。

「……それでも俺は、お前を……」

 浮かびそうになる直接的な想像は、頭を強く振って払い退ける。罪深い兄が弟に唯一出来ることと言えば、あの夜の記憶の封印を解かず、平和な一生を送れるようにすることだけであろう。それを決意するように、使用済みの布を丸めて屑篭に放り込む。
 護らなければならない。この国を、弟を。
 その為にすべきことは何か、してはならないことは何か。
 それを模索すべく画面を消すと、皮肉にも先程よりも随分すっきりとした顔色で、第一王子もまた小部屋を後にした。
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