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王家の汚濁
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「い、やだ……やめろっ……!」
仄暗い地下室に、声変わりを迎えたばかりの掠れた低音が木霊する。
壁際に並ぶ松明に照らされるのは麗しい肌。しかし若く瑞々しい白磁は今や汗に湿り、所々が赤く色付いていた。
今日、平和な国の第一王子は成人の儀を迎え、国中は熱狂していた。しかしその最後を飾る筈の、王家の間にのみ伝わる秘儀は彼にとって絶望しか感じないものであった。
独りで地下室へ下りるその掟を、最初は度胸試しか何かだと思っていた。しかしそこに待っていたのは化け物——不気味に蠢く巨大な塊であった。
発展途上の筋肉に包まれた四肢に巻き付くのは醜悪な黒緑の触手。歪な塊から何本も伸びるそれは甘い香りのする粘液を伴って身体の至る所に触れ、王子を宙空に支えたまま拘束していた。
王子はよく糊の効いた白いシャツ1枚だけを身に纏っていた。下半身の衣類は下着まで全て剥ぎ取られ、石畳の床に落ちている。仰向けにされた状態だが、己の大事な部分がどうなっているのかは視界に入らない。
普段なら薄い肉に包まれている筈の腹は今や妊婦のようにでっぷりと膨れ上がり、その中からは激しく腸が蠕動する音が絶え間無く上がっていた。
「っつぅ……! もう……入らな……あ、あぁっ!」
顔を上気させた王子はきつく眉根を寄せ、苦悶の声を漏らす。
王子の後孔には太い触手が突き刺さっていた。触手は規則的に膨らんでは萎みを繰り返し、ポンプのように体液を送り込む。
王子の腹は触手に注がれた液体で満ちていた。菊門はみっちり嵌った触手の所為で僅かな隙間から中身を滴らせるに留まり、強烈な便意はあるのに排泄を許されない。
全身に脂汗を滲ませながら必死で気分の悪さと腹痛を堪えていた王子は、触手が中身を圧縮するかのようにぐるりと体内で動いた瞬間、ひとつの堰が唐突に壊れたのを悟った。
「うぁ、っ……嘘、だ……っ……」
膀胱を中から圧迫された所為だろう、中途半端に持ち上がった男のシンボルから、ちょろちょろと力無く小水が流れ出す。見えなくともその感覚と音と匂いと温度に己のしでかしたことを知り、王子は俄かに混乱した。必死に止めようと力を込めるが、後ろから押されて逃げ場を失った液体は流れ続けていた。
厳格なる王家の儀式の筈なのに、何故こんな仕打ちをされ、粗相をしなければならないのか。何処かで手違いがあったのだろうか、そもそも何故王城の地下にこんな化け物が居るのか。
成人を迎えた日に失禁してしまったという恥辱を払拭するには、別の何かに当たるしかなかった。しかし出来た隙間を埋めるよう更に注ぎ込まれる体液が、もっと恐ろしいことがこの先待っていると告げている。
「やめろ……っ、撫でるなぁ……!」
獣が唸るような音と共に、一際激しい腹の痛みが沸き起こった。それを労わるかのように幾本もの触手は腹を撫でるが、それは王子にとって要らぬお節介でしかない。軽い力のこもったマッサ—ジのような動きは、先程から波のように絶え間無く押し寄せる便意を促進させるものでしかなかった。
浣腸という物の存在を今まで健康優良児だった王子は知らなかった。しかし今体内に入っているのはそれより遥かに大量の液体である。食べ過ぎて腹を壊した時と同種の、それでいて何倍も強い痛みと音が齎すものが何か、想像は容易についた。
「離せっ……トイレ……トイレ行かせて……っ!」
全身が熱いのに、背筋だけが寒かった。これ以上の恥辱は人の道に反してしまう。せめて後ろだけは、然るべき場所で解決したかった。
死に物狂いで踠いたのが功を奏したか、触手は諦めたように四肢の拘束を緩めると、緩慢な動きで王子を床へと下ろした。後孔に入ったままの1本を除き、触手がゆっくりと離れて行く。
急な解放に王子は困惑するものの、理由を考えている暇は無かった。覚束ない足取りで立ち上がると、自らが入って来た地下室の入り口を見遣る。扉も何も無いそこには最初と変わらず上り階段が控えていた。あれを登り切れば身支度をした部屋があり、そこには手洗いがある。俄かに与えられた希望が、腹の限界を少しだけ遠ざけた。
「……ひっ!」
だがそれも最後の触手が抜けるまでのことだった。太い物が音を立てて抜けた直後、後を追った液体が放出される。
咄嗟に菊門に力を入れて、更に片手で押さえて何とか耐える。漏れた液体が足を伝う嫌な感覚に表情を歪めたが、後孔は長らく触手を咥えていたからか思った程の力が入らない。ぷしっ、と更に僅かに噴き出した液体が指に絡むのを感じて王子は焦る。
急がねばならないが、あまり急くと後ろが緩んでしまう。内股になり尻を押さえた恥ずかしい格好で、少しずつ部屋の出口へと歩んで行った。
その間にも腸は唸り続け、無慈悲な痛みが体内を灼く。1歩踏み出す度に灼熱は出口へ殺到し、後孔は膨らんで押さえていなければすぐにでも開放されてしまいそうだったが、王子は重い腹を手で支えながらどうにか前に進む。
折れそうになる心を支えていたのは王族の誇りだけだった。第三者にも聞こえるであろう大きく不吉な音をさせながらも、排泄を我慢しているとありありと分かる姿勢をしながらも、最後の一線は越えてなるものかという矜持が王子を動かしていた。
だがそれが無謀な挑戦であると、本人が一番よく知っていた。そしてこの地下室は、心の奥底に眠る僅かな諦念を見逃さない。
「……うぐっ! な……嘘、だろ……?!」
もうすぐ階段へ着くと思った矢先、王子の額が何かにぶつかる。手を伸ばすとその表情は驚愕から絶望へみるみる変わっていった。
それは見えない壁だった。地下室と階段の間、その出入り口を塞ぐように、完璧に塞がれている。叩いたところで重い音をさせるばかりでビクともしない。
魔法による封印のようだが、目を凝らしても手で触れても打破の糸口が何も見付けられなかった。相当腕の良い魔術師によるもののようで、これを解けるような魔法はまだ学んでいない。
やられた、と思った。だからわざわざ解放したのだ。助かると思わせて、自分の足で歩かせて、事実に直面させる為に。
そして、その効果は甚大だった。
「あ……っ」
出られないと分かった瞬間、目の前が暗くなり後孔の緊張が一瞬緩んだ。それだけで、ぶしゃりと激しい音と共に孔を押さえていた手に液体が溢れる。
咄嗟に周囲を見回しても、石造りの地下室には何も無い。身を隠す物も、便器の代わりになる物も、何も。
必死に引き絞ろうとする菊門に絶望から這い上がる余力は残されていなかった。著しい内圧はもう止められない。
「ひっぐ……う、あああああっ!」
抑え込むのももう限界で、遂に爆発的な音が地下室に響いた。尻や手、指の隙間から体内の液体が勢い良く噴き出す。
悲鳴を上げて見えない壁に身体を預け、ずるずると座り込む間にも壊れた蛇口のように後孔からは水分が迸り続ける。瞬く間に石畳の床に透明な甘ったるい匂いのする液体が広がり、裸足を濡らしたが動くことなど出来なかった。
震える太腿や膝に生温かい感覚が伝うのを嫌って、股を開き尻を突き出す恥ずかしいポ—ズを取ることで精一杯だった。濡れた手を縋るように透明な壁に着けば、透明な手形が垂れ落ちて行く。
「やらぁ……止ま、んない……!」
耳を塞ぎたくなるような汚らわしい音は絶えることなく続き、程無くして甘い香りに悪臭が混ざり始める。触手の粘液が腹の中にあった老廃物を溶かし、汚水として出て来たのだ。固形物は殆ど無いが、濃茶に色付いた水溶液が本来何だったのか意識せずにはいられない。
終わらない排泄を続ける王子は顔を歪め、その双眸からは幾筋も涙が落ちていた。己が情けなくて仕方が無い。
それと同時に苦痛の根源を垂れ流す開放感は酷く甘美だった。こんなにも水様性の物を勢いよく排泄しているというのに、不思議と菊門に痛みは感じない。ただ痺れるような感覚が絶え間無く続いていた。
「はぁっ、はぁっ……くぅっ……!」
ようやく汚水が収まってきたが、王子はこれからが本番であると知っていた。腹はまだ唸り続けており、その原因が今まさに腸内を進んでいた。大分萎んだ腹とシャツの裾を両手で抱えて王子は荒い息を吐く。
滑るように流れて来る塊は、全く力む必要無く出口へと現れた。
「あ……で、る……っ!」
体内を容赦無く擦りながら後孔を目指す塊から得も言えぬ感覚が背筋に走り、思わず声が漏れた。その声色が無意識に艶めくのに気付く余裕は無いまま、姿を見せたのは太く黒々とした長い固形物で、孔から出た後も千切れること無くそのまま床に横たわる。蛇のように長いそれが出る間、王子はヒクヒクと身体を震わせていた。
ただ出しているだけなのに、王子は確かに快楽を感じていた。ようやく最後まで到達し、切れた塊の端が床に落ちる衝撃で汚い飛沫が上がる。それを足に受けて尚、王子は何時の間にか恍惚の表情を浮かべていた。
「また……、ん、んんっ……!」
先程よりは短くとも、同じように太い塊は幾つも溢れて来る。その度にぞくぞくと背筋を奔るのは、適切でない場所で排泄しているという背徳感、罪悪感、恥辱、そして快楽。塊を吐き出す度に王子の理性は焼き尽くされていき、宙空に視線を投げてもその眼の焦点は合っていない。
最後に汚泥とガスが同時に噴き出し、断続的に続くはしたない音は出る泥が無くなっても暫く続いた。
悪臭で鼻が曲がりそうだが、同時にずっと嗅いでいたいとさえ思うのは、王子の脳の一部が歪んでしまったからかもしれない。その一方で現実を受け止めたくなくて、自分の足の間を見るのが怖かった。
「……えっ?!」
だがそれすらも許されなかった。ようやく落ち着いたと思った矢先、背後から伸びてきた触手に抱え上げられる。ぐったりとした身体は大した抵抗も出来ず、上体は起こした状態で両足を開かれる。髪を掴まれて無理矢理下を向かされれば、そこには地獄絵図が広がっていた。
「……っ! いや、だ……もういやだ……!」
汚水と塊と泥が重なり合ったそこは、魚の死体が浮かぶ毒沼のようだった。その上で王子の後孔に先程と同じ太い触手が迫る。
何をしようとしているのか察知して首を横に振ったが、当然聞き入れられる筈も無い。触手は弛みきって半開きになった菊門へ簡単に押し入ると、一気に最奥の曲がり角まで突き込んだ。
「ひあっ、あっ……! 何これっ……!」
たったそれだけで目の前に光がチカチカと舞い、背筋が弓なりになる。敏感になった内臓を抉られただけで股間の一物ははっきりと隆起し、その先端は先走りに濡れていた。
触手は一番奥で再び粘液を放出し始める。最初は苦痛しか生まなかった筈のそれが別の意味を持つことを王子は悟った。
身体中が喜んでいた。粘液を注がれる度、腸壁は振動し歓喜する。より奥へと誘うように腸はうねり、触手の脈動に合わせて内部が圧迫される動きを心地良いと認識する。
もっと擦って、暴れて欲しい。浅ましい願いが脳裏を過ぎり、王子はようやく我に返った。
逃げる筈がこんなにあっさりと捕まってどうする。どうにか対策を考えようと思った矢先、そんなものは無意味とばかり触手は入って来た時と同じように、今度は奥から外まで一気に全体を引き抜いた。
「ひぎゃああ!!」
思わず悲鳴を上げた王子の菊門はもう耐え切れる筈もない。1秒も保たずに入れられた液体が迸り出て、汚泥混じりの水が更に沼を広げる。
そしてまた触手が差し込まれ、体液が入れられる。その度に腹は苦悶の声を漏らすがいつしか痛みは消えていた。出し入れされる感覚に翻弄され、頭が麻痺していく。
同時に何本かの触手がシャツの合間に分け入り、胸の蕾に粘液を塗りたくると柔らかく揉み解し始めた。それだけで小さな粒は自己主張を始め、すぐにぷっくりとシャツの上からでも分かる大きさに育っていく。その部位は下半身と連動するかのように、弄られる度に腰が跳ねた。
「なんで、胸……うあっ、や、……ああああッ!」
その間にも後孔に入れては出す回数を重ねる度に水は透明に近付いていくが、王子はもうそれを見ていない。涎と涙と鼻水を垂れ流しながら、獣のような声を上げるばかりだ。
幾度目かの突き込みに、身体の内外から善い所を刺激され続けた王子の屹立は直接触られてもいないというのに、遂に白い物を溢れさせた。ビクビクと震える身を触手は放すことなく、寧ろここが始まりだとばかりに体内で前後運動を始める。
「……ァ、ひあっ、だめっ……なんでっ、こんな……」
射精直後の身体を弄ばれ、王子の声が裏返る。涙ながらに訴えてもその身体は急速に書き換えられていく。古い物を全て放出し、新しい物を入れられる。何も抵抗出来ないまま身体の中身を洗われているような錯覚は嘔吐しそうな程の不快で、絶頂が収まらない程の快感だった。
無理矢理排泄させられ、男には無意味と思っていた胸の蕾を弄られれて気を遣るなど狂気の沙汰である筈なのに、もっともっとと無意識に腰が動いてしまう。はしたないと自戒するだけの理性は、下半身から噴き出す液体と共に流れ去って行く。
「きもち、いい……きもちいぃよぉ……ッ!」
悲鳴が嬌声になり、やがてそれすらも消えるまで、王家の秘儀は続いた。
◆
それから数日後。慣れ親しんだ自室で目覚めた王子は、あれが何だったのか理解する暇も無く、成人王族の役目を果たす必要があった。儀式に送り出した王や家臣は何も言わないし、はっきり訊くだけの機会は終ぞ無かった。
王子の成人の方を聞き国内外から有力者達が王城に訪れ、祝いの言葉を述べ贈り物を置いていく。綿密に練られたスケジュ—ルは分刻みで、王子は家臣達と共に多くの客人をもてなしていた。
だが微笑みを貼り付けた顔と礼儀正しい言動とは裏腹に、その身には爆弾を抱えていた。
「……すまんが、例の物を」
客と客とが途切れる僅かな時間、王城の者しか入れない廊下で王子はメイド長に囁いた。王子が生まれるより前からこの城で働いている貫禄のある初老の家政婦は、心得たとばかりに頷いて布に包まれた平たい物を渡す。
それは大人用のオムツであった。王子はトイレの個室に入ると、自らズボンを脱ぎ取り替えを行う。下ろしたオムツはほんの僅かにピンクがかったほぼ透明な液体でぐっしょりと濡れ、酷く甘い匂いが立ち昇っていた。そしてその中に、黒い固形物が1つだけ混ざっている。
忌々しい成人の儀、最後の試練。王城の地下に眠る異形の化け物に王子は全身を犯された。のたうつ触手に穴という穴を貫かれ、肌という肌に粘液を塗り込まれ、口にするのも憚られるような辱めを受けた瞬間の感覚が未だ消えない。あの日はいつの間にか気を失い、目覚めた時には自室のベッドで横たわっていた。それからというもの、夢であって欲しいと願えば願う程に毎晩悪夢として蘇り、翌朝猛っている身体があれは現実だと教えてくる。
更に後遺症のように王子の後孔は緩み、便意を長らく我慢することが出来なくなっていた。しかし来賓を迎えている最中は立場上、中座が出来ない。結果的にこうして漏らしてしまうことが多々あり、対処方法としてオムツが充てがわれたのだ。
齢15の若者にとっては屈辱以上の何物でもないが、これ以外に方法は無い。どんな薬も治療魔術も効かないのだ。一体何があったのです、と何も知らない王宮医に問われたが本当のことは頑として口を割らなかった。
最早成人前の身体に戻れないのは薄々気付いていた。甘い体液がその証拠だった。それは決まって王子が失禁したと気付いた時から尻から溢れ始め、オムツを取り替えるまで出続けた。それとは別に、誰かとの会話の最中や客人と挨拶のハグやキスを交わした時に不意に漏れることもあり、頭を悩ませていた。
それでも最低限の矜持として、オムツの取り替えは自分でするようにしていた。
「……ん……」
新しい物を宛てがう前に、紙で濡れた尻を拭き取る。その度に感じる感覚が脳を揺らしたが、それが何であるか考え込む時間的余裕は無かった。またすぐに次の客人を迎えなくてはならない。
辛い、苦しいなど言える訳が無かった。これが王族なのだ。しかも大人になったなら、我儘も簡単には言えない。父である王も執務に追われており、会話する機会は全く無かった。
頼れるのは自分だけ。そう気合いを入れ直してから何食わぬ顔をしてトイレを出ると、待っていたメイド長に汚れ物を渡し、次のスケジュ—ルを確認する。
その緊張の糸は、長くは保たなかった。
◆
「はっ、はっ、はっ……!」
それから更に数日後、時刻は深夜。王子は本日最後の客人を見送ると、自室へと早足で向かっていた。
大食漢の隣国の大臣との宴は豪華絢爛の極みで、両国のシェフが腕によりをかけた料理の数々が並んでいた。祝われる側である王子が口にしない訳にもいかず、腹はもうこれ以上入らない程に膨れていた。
その腹に異変が起こったのは、客人がそろそろ帰ろうというところだった。最初は鈍い痛みと共に腸が蠕動する気配がした。いけないと思っても客人は話し足りないとばかりに、客間から玄関へと続く廊下でも喋り続けていた。それを遮る訳にもいかず、笑顔が引き攣らないよう細心の注意を払いながら相手をする他無かった。
そうこうする間にも幾つかの波を越える度、痛みは募っていく。グルグルと鳴り出す腹の音が、自身の弁と酒に酔っている客人まで届かなかったことは不幸中の幸いだろう。
客人を乗せて走り去る馬車に手を振っていた最中、遂にそれは訪れた。腹の中身が出口に向かい下りてきたのである。馬車が見えなくなった直後、王子はそれまで浮かべていた天使のような笑顔を消し、城の中へ踵を返した。
最寄りのトイレは客間付近にあるが、客人が帰った後すぐは清掃が入って使えないことは知っていた。王城というのは案外入り組んでいるもので、他の場所はうろ覚えだ。唯一確実に分かるのは自室付近である。なるべく刺激を与えないよう、しかし早急に。毛の長い絨毯が敷かれた廊下では足音もしない。
「う……くぅっ……!」
もう少しの所まで来ているのに、一際鋭い痛みと便意が王子を襲った。思わず腹を抱えて背を丸め、尻を手で強く押さえる。誰が見ても腹を壊して排泄を我慢していると分かる格好になってしまっているが、今の時間、使用人は宴の片付けの為に客間や調理場へ駆り出されているのだろう。こちらの方には誰の姿も見えなかった。
更に僥倖なのは、ここ数日はオムツを汚していないという事実だった。もしかしたらもう菊門は回復しているのかもしれない。だとしたら多少は時間を稼げるに違いない。
「……ぁあっ!」
しかし現実は非情だった。最後の角を曲がった所で、決定的な波が襲い掛かる。
数日失敗しなかったのは緩みが改善したのではなく、単に出ていなかっただけなのだ。便秘気味だった腹は蠕動を再開し、硬く大きな先頭が出口の目の前までずるずると下りて来るのが分かる。
——このままではあの夜と同じ、悲劇が起こってしまう。
一か八か、王子は走り出した。腹が重いから速度は出ないが、少しでも早く辿り着かねばばらない。
腹の中に積もる塊の先頭は間も無く菊門まで達した。その大きさからか多少は回復しているのか、門は半開きになりながらも何とか持ち堪えている。
——でもどうせ間に合わない。否、そんな筈があるか。
必死に尻に力を入れながら、一瞬毎に見慣れた扉に近付いていく。
もう少し、もう少し。あのT字路を越えたら、すぐに。
——あの夜とは違う。此処は地下室ではない。
苦痛の渦に残る希望を目掛け、王子はラストスパ—トをかける。
その焦燥が仇となった。
「……えっ?!」
「うわっ!!」
タオルをいっぱいに抱えた男の使用人が角から出てきたのと、王子がそこに差し掛かったのは同時だった。
使用人はよもやこの時間に廊下を疾走してくる物が居るとは思っていなかったのだろう、タオルの山が崩れないようにすることに注意がいっていて、前をよく見ていなかった。そしてスピ—ドの乗った王子は急に方向を変えることも出来ない。
結果、両者はぶつかり、タオルは宙を舞う。
全て終わった、と思った。
——始まりの夜と同じように。
体勢を立て直すことも出来ずついた尻餅は今の王子にとって致命傷だった。強い衝撃が加わって尚、我慢するだけの力が後孔に残っている筈も無かった。
対して使用人の方も、王子にぶつかるなど無礼の極み、処罰の二文字が頭を過る。歳は20になるかならないかといったところで、顔立ちは見目麗しくもプラチナブロンドの短髪と同色の眼は純粋で素朴な印象を与えていた。しかしその体躯は肉体労働も多い使用人らしく、がっちりとした筋肉で覆われている。
「たっ、大変申し訳ございません、殿下!」
「あ……あ……」
「……殿下?」
しかし王子は相手を観察している余裕など無かった。まるで裂き開くかのように、大きな塊が菊門からゴロリと生まれ出る感覚が皮切りだった。
一拍おいて、一際けたたましい音が尻の下から上がる。それから連続して発生する濁った水音混じりの破裂音と腹から上がる激しい唸り声。それは王子の異変を感じ取り、何が起きたのかと凝視し耳を傾けていた使用人にもはっきり届いてしまった。
「いや……ぅ、あ……」
後孔は最早門としての役目を果たさず全開になっていた。止めようとしても身体は言うことを利かず、オムツの中に大量の温い泥が広がっていく。こんな時の為にしているとは言えその量は想定以上で、溢れ出すのは時間の問題だろう。
更に緊迫が解除された反動からか、それとも絶望からか。王子は自らの股間から温かな水が流れ出ているのに気付いた。その感覚が信じられないまま王子は呆然と自らの下半身を見下ろして震え、使用人もまた眼を丸くして固まっていた。
音が止まるまでの、永遠にも似た数十秒間が終わる。そこで使用人の眼に映ったのは、膝をやや曲げた体勢でちらりと見える王子のズボンに滲み始めたシミだった。
「失礼します!」
咄嗟に王子の背中と両膝に腕を回して抱え上げたお陰か、絨毯には跡が付かずに済んだ。しかしゼロ距離に近付いた瞬間立ち上った強烈な匂いが、起きてしまった悲劇の重大さを物語る。
王子がオムツをしているという話は、この棟に居る使用人ならば全員知っている。もしそれが無かったらもっと大事故になっていただろうと安堵しながら、使用人は散らばったタオルをそのままに、王子を抱えたまま足早に彼の部屋へ向かう。
「あっ……下ろしっ……ああっ……!」
「もう少しの辛抱でございますよ」
使用人の腕の中で、再び王子の腹が鳴る。それと同時に猛然と湧き上がった羞恥心に顔を紅潮させた王子が軽く胸板を叩いても、使用人は前を向いたまま足を止めなかった。
拒絶の理由はそれだけではないと言う時間は無かった。
「む、むりっ……がまん、できな、ぁ、あ……っ!!」
第二波の襲来を止められるものは無い。再度布を引き裂くような醜い音がはっきりと起こり、王子の手が使用人の胸元を掴んで震えた。
尻を下にして足先を上げた体勢だから床まで垂れる心配はまず無いとは言え、大きな固形物と水分をたっぷり含んだオムツが重力に従いぶら下がる感覚と、新たに漏らしてしまった大量の汚泥が溢れてズボンに滲み出す一連の流れは不快の一言に尽きた。
猛烈な腹痛と堪えようの無い便意に加え、人の腕の中で失禁してしまったという事実が王子を更なる絶望に落とす。しかも成人した男がだ。使用人は何も言わないが、腕の中で何が起こったのか気付かない筈が無い。
すぐ側の豪奢なドアが開き、見慣れた部屋を通って清潔なトイレへ運ばれるまでの間、王子の眼は開いてはいたが何も映してはいなかった。ただ譫言のように、やだ、やだと呟き続けていた。
「さ、もう平気です……早くお着替え致しましょう」
王子をトイレの便座に座らせると、使用人は彼のベルトを外し、一旦自分に抱き着かせながら腰を浮かせてズボンとオムツを脱がす。
肌蹴た太腿が便座に触れる時の冷たさで我に返った王子は、自分が何をしでかしたのか改めて現実を叩き付けられることとなった。
すっかりふやけて横たわっている性器、汚れがべったりと付着した尻、ズボンを足から抜き取る際どうしても付いてしまった泥、噎せ返るような悪臭を発する諸悪の根源。
「うっく……ぁ、見ない、で……!」
いつの間にか王子の双眸からは涙が溢れていた。同時に再び腹痛の波が襲う。紙で王子の汚れた足を拭いていた使用人に知らせた時には遅かった。
此処が排泄をする本来の場所であるという安心感からか、完全に腹を空っぽにしてやろうという何者かの意図があるのか。使用人が退室するまで待つことなど出来やしない。
痛みから間髪入れず、辛うじて固形を保ってはいるが酷く柔らかな棒が、のたうちながら菊門からひり出された。しかも幾本も、ボチャンボチャンと連続して便器に落ちる水音は重く、たとえ中が見えなくても大量に出ていることを聞く者に伝える。それでなくとも数日間腹の中にあった滓なのだ、一層強烈な臭いが狭い空間に充満した。
「は、はぁっ、……ぅんん……っ! ……やだ、まだ……ふぅんんんっ!」
それらが出切った後、今度はガス混じりの高音を発しながら汚泥が断続的に垂れ流された。先程まで食べていた物も出してしまえとばかりに、茶色の水が後を追って迸る。
聞き苦しい音はなかなか止まらず、王子は顔を上げることも出来ずに上体を前のめりに倒したまま、目尻に涙を溜めて双眸を閉ざしていた。
他者に排泄を見られるなど羞恥の極みだったが、出す度に苦痛が解放されていくにつれ、それ以上の何かを感じていた。恥ずかしくて死にたい、だが腹から後孔にかけての解放感は素晴らしかった。放出の波が来る度、力む度に甘い吐息が漏れてしまう。
——この感覚は、初めてではない。
だからなるべく王子の顔を見ないようにしつつも、思わず息を呑んでいた使用人に気付かなかった。
「んはぁ……はぁ、はぁ、はぁっ……」
脳が混乱するのを他人事のように感じながら最後に長々とガスを放出すると、力無く背後のタンクに上体を預け、荒い息を繰り返す。膨れていた腹は平たく戻り、全身が汗で湿っていた。指先一本動くのも億劫で、ただトイレの壁を眺める。
その間使用人は職務に忠実に、必死に顔を伏せて足を拭くことだけに集中していた。臭いこそ取れないが、汚れはほとんど落ちている。だが最後に残った部位に、顔を背けながらも横目でちらちらと視線を送ってきた。
「殿下……落ち着かれましたか?」
「ああ、うん……大分楽になった……」
「そちらは……お風呂でお洗い致しましょうか」
そう言われて王子は緩慢に視線を落とし、そしてぎょっとする。自らの股間の一物が、根元が茶色く汚れた状態で半分程勃ち上がっていた。
何処で興奮したのか自分でも分からない。混乱したままただ頷くと、無表情を貫きながら再び王子を抱えて使用人は隣のバスル—ムへと向かう。
白く広いバスタブに王子を下ろすと、手慣れた手付きで上の服も脱がせる。着替えはいつも使用人が手伝うから、ここまでは普段と何も変わらない。
だがシャワ—を手に取りお湯を出した瞬間、王子はふと気付いた。
「お前……その手で洗うつもりか?」
「……! 申し訳ございません! 殿下はお疲れかと思いまして……」
「自分のことは自分で出来る!」
全てを出し切り、腹痛も引いたからだろうか。気怠さは残っているもののいつもの覇気が多少戻って来て、使用人の手からシャワ—を引ったくった。
普段も風呂は誰の手も借りずに行っている。使用人も最初に問われた時点でそれを察知したようで、恐怖にも近い表情を浮かべた後、頭を下げて引き下がった。
バスカ—テンを引き、シャワ—の温度を調整してから自らの身に掛ける。早速流れて行く茶色の汚れをなるべく視界に収めないようにしながら、頭の先から涙の跡の残る顔、手足の爪先まで入念に洗った。
敏感な部位は特に丹念に行う。菊門の周りは襞の間まで残さず石鹸を付けた後、一旦洗い流した。そして僅かに躊躇してから、シャワ—を掛けながら後孔に指を入れ、軽く開いた。
そう、全ては此処に入り込んだ触手が始まりだった。
あの夜を思い出せば出す程奇妙な気分になりながらも力んでは緩ませを繰り返し、ゆっくり湯を流し込んでは放出する。出す物が透明になるまでには暫く掛かった。
その頃になってもまだ、前は半勃ちの状態だった。そんなことをしていたから、という考えは捨てて、こちらもまた皮の間まで洗い上げて行く。ヌルヌルとした石鹸の泡立ちがあればもしかして、と思ったものの、刺激が足りないのかそれ以上大きくはならなかった。
これはこれで、物足りない。かと言って単に抑え込むには身体が火照っている。自らの股間を見下ろして途方に暮れた王子は、恐ろしいことに気付いてしまった。
先程使用人が王子に向けていた眼。
何の躊躇も無く下の世話をするのは使用人の鑑ではあれど、それ以上の何かがあった気がした。先程までの痴態を思い出して頭が沸騰しかけるも、何とか平常心を保つよう自分に言い聞かせる。
「……おい、出るぞ!」
「はい、只今!」
全ての泡を流してからカ—テンを開くと、丁度部屋の外から先程の使用人がタオル片手にやって来た所だった。
ふかふかで柔らかなバスタオルを腰に巻いてから、ハンドタオルで髪や上半身を拭く。さり気なく横目で観察し、使用人の視線の先を追った。
案の定、微かにタオルを持ち上げていた王子の股間に向けられていた。
「……お前、此処が気になるのか?」
「いえ、そんな、滅相もございません!」
「では俺から命令だ。……咥えろ」
粗方身体の水気を取ると、用意されていたバスロ—ブを纏う。が、前は閉じない。バスタブから出ると、その縁に腰掛けて足を開き、その場所を指差す。
使用人が呆然とするのも無理は無かろう。先程まで下痢を漏らして泣いていた15歳の少年が、突然こんなことを言い出すのだから。
だが少年は王族であり、股間の薄い茂みから覗く宝剣は大人に比べればやや小振りながらも、本来の用途を果たすには充分な大きさを持っていた。そして同時に王子は命じられた使用人の一瞬の反応から、困惑以上の何かがあることを察知する。
「……申し訳ございません、仰られている意味が……」
「咥えて、お前の口で満足させろ、と言っているんだ。安心しろ、充分洗ってある」
「ですが……」
「俺の命令に逆らうのか?」
それは即ち、この国への反逆である。使用人としての役目を解雇されるだけで済めば良い方で、最悪の場合は一族郎党を皆殺しにされかねない。平和な国ではあったが、過去に王家に牙を剥いた者達が捕縛された後、何処に行ったか知る者はいない。
だから使用人は、覚悟を決めたように表情を引き締めると、王子の股の間に跪いた。どちらにしろ王子とぶつかった時点で全て終わっているのだ。
「……それでは……ご奉仕させて頂きます。……粗相がございましたら叱って下さいませ」
王子が鷹揚に頷くと、使用人はおずおずと手を伸ばし、その部位を持った。その後ゆっくり口を近付けると、先端を口に含む。
その瞬間、王子は彼が初めてでないことを直感した。舌に唾液を含ませ、太くなった先の部分を裏から舐め上げる。先端の孔を舌先で擽る。口一杯に頬張って、裏筋を舌と唇で扱く。
他者からの直接的な刺激に、一物は俄かに充血した。口の中で大きさを増した存在に眉根を寄せながらも、使用人は徐々に責めるテンポを上げていく。
その熱のこもった眼差しに見上げられ、王子は口の端を大仰に持ち上げた。
「随分と上手いな……まだ若いのに、こういうことは慣れているのか?」
「んぐ……ッ?!」
「……ん?」
挑発するように笑い、使用人の股間へと足を伸ばした王子の表情が俄かに訝しげなものになった。
その部分を足の指先でなぞってみても、やけに堅い感触がある。まるで木の板でも入っているかのようだ。
だがその瞬間、使用人の表情が歪んだ。その正体を暴いてやろうと、王子は髪を掴んで引き離し、そのまま上を向かせた。
「何か入れているのか?」
「わ……私共男性の使用人は、王族の皆様やお客様にご不快な姿を見せないよう、万一の時に備えてケ—スを着けております」
「万一の時とは?」
「それは……淫らな気分になってしまった時、でございます……」
使用人が赤面し、逃げるように視線が逸らされる。
普段の暮らしでは全く気付かなかったから、不自然でないような形状になっているのだろう。いつから始まったかは知らないが、よく配慮されていると納得したものの、だからと言って追及を止めることは無い。
「……もしも淫らな気分になってしまったらどうするんだ?」
「そうと気付かれぬよう働くのが私共でございます」
「どうしても我慢出来ない時は?」
「……聞いた話では……使用人用のお手洗いで気を遣る者もいる、と」
「ふ—ん。……で、お前は今どうなんだ?」
これもまた命令だ。だが使用人は躊躇した。否、咄嗟に声を出せなかったと言うべきか。
王子の足が容赦無くケ—スを押していた。上部から、下部から、その中にある使用人の性器に刺激を与えるように。
使用人の顔ばかりか耳までが赤くなり、その身が震え始める。微かに荒れる息の合間、絞り出すように小さめの声が漏れた。
「み……淫らな気分になっております」
「ほほう。此処の中はどうなっている?」
「…………ております……」
「聞こえない。もっとはっきり」
「ぼ、勃起しております……!」
年下にこのようなことを言わねばならないとは、何たる屈辱か。しかし使用人の落とした瞼が震え、ケ—スの中から感じる圧力がやや高まったのを感じた。
全て心得たとばかりに、王子の口元が釣り上がる。最早こうなってしまえば、使用人などまな板の上の鯉であった。
「どのぐらい?」
「ケ—スが無ければ……皆すぐに気付く程に……」
「苦しくはないか?」
「大変きつうございます……」
「濡れているのか?」
「…………はい……」
「何故こんなことになっている?」
「……! そ、それは申し上げられません……どうかご容赦を……!」
「言えば直接撫でてやると言っても?」
顔を近付けて耳元で囁くと、涙を浮かべた使用人の眼が見開かれる。
王子はバスタブから腰を上げると、使用人の前にしゃがみ込んだ。そして今度はその股間に手を伸ばす。ケ—スを前から掴んで持ち上げ、軽く引っ張ってみた。それだけで使用人の口から熱い吐息が漏れる。
「は、ぁっ……いけません……このような、こと……」
「俺の根を咥えておいてよく言える」
「殿下に尽くすのが私の使命……殿下が私に施し頂くなど、恐れ多……いぃっ?!」
先端があると思しき場所をぐりぐりと強く押さえ付けられ、忠誠と卑下の入り混じる声音が裏返る。顔は紅潮し全身に震えが奔り、その行為が効果的であることを示していた。
王子の手はケ—スの中身を虐めるよう、押したり揺らしたりを繰り返す。心なしか、持ち上げられたケ—スがズボンの上から見えるまで迫り出しつつあった。ぐちぐちと濡れた感触さえするようだ。
そこまで確認しておいて、王子の表情が唐突に消える。使用人の股間から手を離すと、立ち上がってバスタブに腰掛け直す。はぁ、と気怠い溜息は呆れを孕んでいた。
「良かろう、ならば尽くせ。達するまで止めることは許さんぞ」
「殿下……」
「早くしろ」
困惑顔の使用人は、再び王子の一物を咥える。しかしその仕草に先程とは異なる動きが混じっていることに気付くまで時間は掛からなかった。
手と舌がぎこちなくも全くの未経験者のものではないのは同じ。だがその下半身はやり場の無い衝動を持て余すように身動ぎ、自らの両足を擦り合わせていた。
その秘所が今どうなっているか、想像しただけで熱が伝わってくる。大きくなる男の象徴を使用人の喉の奥に突っ込むと、そのまま頭を持ち、腰を動かした。
「うごっ……!」
「そら、どうした。尻が動いているぞ、俺を良くするのではないのか?」
「ふぅっ、ふぐっ……んぁっ、ぁむっ……!」
反射的に沸き起こる嘔吐感は必死で抑えても、生理的な涙までは止められない。蕩けて潤んだ眼は王子の茂みだけを写していた。
絡まる粘膜の感触と上がる水音に王子も次第に高まって行く。使用人の口を使うなど成人までは考え付かなかった。これまでしたくなった時は寝所か風呂場で独り自分を慰めていた。
舌と唇が裏筋を刺激する。それは確かに快感を与えるものだが、何かが足りない。それを乱暴な突きにより歪む使用人の顔と漏れる呻き声でどうにか埋めながら、一番奥まで突っ込むと王子は吐精した。
全て出るまで頭を押さえ、下がることを許さない。使用人は喉奥に注がれる熱い液を飲む他無かった。きつく閉ざした眦から涙が滑り落ちる。上下する喉仏を指でなぞると、その身が震えた。
「……ぷはっ、えほっ……ご、ご満足……頂けましたか?」
「まだだ」
未だ半勃ちの根から口を離した使用人の眼が見開かれる。口元から垂れる液を拭おうともしないまま、王子が次に見せた場所に視線は釘付けになっていた。
立ち上がって振り返り、バスロ—ブを捲り上げる。腰を曲げて見せ付ける後孔は薄灰色に窄まり、突然外気に晒された所為でヒクヒクと震えていた。
「本当に欲しいのはこちらだろう?」
「……! い、いえ、欲しいなど……!」
「俺が漏らしているのを見て興奮したくせに?」
使用人の驚愕と絶望の入り混じる表情に、王子は口の端を持ち上げた。
そして自分の手を尻へ伸ばすと、中指で菊門をマッサ—ジし始める。くるくると円を描くように揉み解せば、甘い匂いのする液体が滲み出て来た。
こうすると快楽を得られると身体が憶えていた。そしてその気配を察した時、粘液が漏れ出すということに今更気付く。
はぁ、王子が艶めいた熱い息を吐くと、膝立ちになったまま硬直している使用人の喉仏が上下した。
「……どうした? 俺がこの孔から汚い物を垂れ流すのを見て、淫らな気分になったのではないのか?」
「そんな……そんなことは断じて……!」
「こちらも洗ってある……空っぽで疼くのだ。お前が満足させてくれぬのならば、自分で慰めるしかないな」
そう言うと王子は菊門の中へ指先を沈めた。一連の流れで緩んでいるその場所に抵抗は全く無い。
中指の第一関節までという浅い抽出を繰り返すと、透明な粘りのある粘液はどんどん溢れて来る。甘い匂いが浴室に広がり、淡く痺れるような感覚に王子の呼吸が少しずつ荒くなっていく。卑猥な水音もまた徐々に大きくなっていった。
他人の前で、見せ付けるように排泄器官を弄るなど並大抵の感覚では出来ないことだ。だが世間の常識に反抗する行為を、しかも王族である自分が取っているという倒錯感が、王子の気分を更に高めていく。
我慢ならないとばかりに反対の手を自分の胸に伸ばす。既に硬く膨らんだ蕾は触れただけで電気のような衝撃が背筋を走り、ビクンと思わず背を仰け反らせた。全く触れていないというのに前に再び芯が入り、徐々に持ち上がっていくのを感じながら乳首を捏ねる。ここがこんなにも敏感な性感帯になってしまったのも、後孔が疼くのも、成人の儀を経てからだった。
「ん……ふぅっ……」
「……殿下……」
「……欲しいのか? 欲しいなら申してみよ」
「殿下のお身体に触り……ご奉仕することをお許しください……」
「違うだろう? 何を、何処に挿れたいのか……ちゃんと見せてから申せ」
使用人の呼吸も上ずっていた。今まで抑え込んでいた衝動の箍が外れかかっていると、顔だけで振り返る王子もまた気付いている。
葛藤に表情を歪ませ、手を震わせながらも遂に使用人はズボンと下穿きを下ろした。躊躇を繰り返すような緩慢な動きの末、開かれたケ—スの中身は彼の言う通り、立ち昇る湯気が見えそうな程熱く濡れていた。先走りの糸を引きながら現れた一物は艶めき、腹に着かんとする程猛々しく勃っている。綺麗な顔に似つかわしくない筋の走った大きな棍棒を封じる物は最早無い。卑猥な部位を曝け出しながら、使用人は蚊の鳴くような声を絞り出す。
「恐れながら申し上げます……こ、これを……愚かな私の肉棒を、殿下のお尻に、挿れとうございます……!」
「ずっとそれを考えていたな?」
「申し訳ございません……! 先程から何故だか気分が高まり、鎮めることが出来ず……」
「この孔が開閉するのを想像していたんだろう? ……こんな風に」
「……!」
中指に続き人差し指も後孔に突っ込むと、くぱぁ、と軽く孔を開く。ピンク色の肉壁は小さく震え、溢れ出た愛液が内股を伝って垂れた。
挑発的な笑みに、使用人は耐えきれなかった。
身分の差など吹き飛んだ眼は獣欲に支配され、一歩踏み込むとその腰を両手で掴み、孔に棒を押し付ける。まだ許可していないにも関わらず力任せに太い部分を捻じ込まれ、痛みと熱さと衝動に王子は思わず声を上げた。
「あ゛ッ……?!」
「殿下……殿下……っ!」
解していた入り口は何とか通ったとは言え、奥は本来外部から物が入ることを想定していない。ミチミチと音を立てながら、押し込まれる肉棒が体内を割り開いていく。
濡れて蕩けた腸内は、圧迫感はあれど使用人が想像する以上に柔らかだった。熱に浮かされるように何度も呼びながら一番奥を目指す。絡み付く粘液は潤滑剤の役割を果たす以上に、触れている部分の体温が上がっている気がした。
「ぅっく、……まだ、許可してなど……っ」
「殿下……動きます……」
一度根元まで挿れてから、少しずつ前後に動かす。ぐちゅっ、ぐぷんと愛液と先走りの混じった液体が掻き回され、隙間から漏れ出す卑猥な音が浴室に響いた。
腹を満たす感覚に、王子は思わずバスタブの縁を両手で掴む。その背に使用人の上体がのし掛かり、2本の手が両の胸に伸びた。
「ん……ふぅんん……!」
「殿下はココもお好きなんですね……コリコリしています」
「言うな……! ぁ、あんっ……!!」
耳元で囁かれる声に、顔に熱が集まる。あれ程自分から痴態を晒したというのに、いざ他人の手が触れると翻弄されまいという自意識が掛かる。
だが胸も、尻も、待ちに待った快感であることに間違いは無かった。
尖った胸を押し潰すように捏ねて触感を確かめた後、今度は先端に触れるか触れないかというギリギリの所を掠めながら撫で回される。そこから伝わる得も言われぬ感覚に脳がビリビリと痺れ、紛うこと無き嬌声が王子の喉から発せられた。
もっと擦り上げて欲しいのに明確な刺激が与えられないもどかしさに、ビクビクと何度も肌が跳ねる。蕾はこれ以上無い程パンパンに勃起していて、神経が直接露出したかのように敏感になっていた。
その間にも使用人が腰を動かすのに合わせて、王子の身体もまた勝手に動く。ここが良い、と角度を変えれば、一度腰を引いた使用人は、そこに太い部分が引っかかるよう一息置いてから勢い良く突き込んだ。
「ひぅん……ッ!!」
「ご気分は……如何ですか殿下……」
「っ、見て、分かるだろう……?!」
身体中が悦んでいた。悩ましく寄せられるのは眉根だけで、その他は全身が使用人を求めていた。
グラインドはどんどん大きくなり、ピストン運動は激しさを増す。パンッパンッと肉同士がぶつかる音を立てる程、浅い位置から奥深くまで一気に貫かれる。
その間にも蕾を撫でられ、胸を揉まれ、首筋に熱い吐息が掛かる。遥か下の身分の者、しかも同性に後ろから犯されているという事実を思い出す程に身体が熱くなる。雌の扱いをされているというのに、王子のそそり勃った男性のシンボルからは半透明の液が溢れて止まらなかった。
欲しかったのは、これだ。成人の儀から数日間、渇望していた感覚を与えられ、王子は声を抑えるのをやめた。
「あっ……あっ、そこっ……!」
「こちらですか……?」
「くぅっ……! イイ、そのまま続けろ……っ!」
耳元に掛かる使用人の息も激しさを増す。本当は今にも放出しそうなところを何とか止めているのだろう。
抽出しながらゴリゴリと段差の付いた部分で弱点を抉る。王子の尻は先程から断続的に跳ねるように震え、繋がりの部分からは甘い液体が溢れていた。
突かれる時は広がり、抜く時は締まる。胸を刺激すれば締まりは更に強くなる。搾り取るような動きに、先に音を上げたのは使用人の方だった。
「申し訳ございません……! もう、出そうです……!」
「構わん、出せ。俺の中に全て……!」
「ですが……!」
「乱暴にしてよい、好きに犯せ……!」
勢いで口走ってしまったことを、王子は直後に後悔する。
使用人は途端に無言になると、王子の腰を両手で掴んだ。そしてこれまでの探るような、奉仕するようなものとは違う、もっと獰猛なピストンを始めた。ガツガツとした激しい律動が容赦無く前立腺を裏から叩き、襞という襞が擦られる。
使用人の獣欲を解放する為だけの行動だった。それにも関わらず、おまけに前には一切触れられていないというのに、王子の眼前に星が飛んだ。
「ひぐっ……! あ、はっ、……待っ、…………ひぃんッッ!!」
「あはぁ……お尻だけで、イっちゃったんですね……?」
「だって、ソコっ……あ、あああッ!」
「私も出します……!」
「あ、あ、またクる……っ!」
突き上げられる衝動に押されるように、王子の一物から白濁液が迸る。
その行方を見る間も無く、突き込まれた部位が一層膨らむと、直後に熱い熱い液体が王子の腹の中にぶち撒けられた。強烈な刺激に、目の前が再度チカチカと白く瞬く。
その間にもピストン運動が再開していた。一度達しても使用人の棍棒は萎えることなく王子の体内を抉り続ける。これ以上は頭がおかしくなると直感し、大きく頭を振ったがそんなことで使用人が止まる筈が無い。
「もう、もういい……! もう充分だ……っ!」
「そんなことはございません、まだ出し足りないのでしょう?」
「あふっ、そんなに突かれたら……またゆるゆるになるぅ……!」
王子の脳裏に成人の儀の夜が蘇る。あの日も同じように徹底的に尻孔を愛され尽くし、結果として恥辱のオムツ生活となったのだ。これではまた悲劇を繰り返してしまうと悲鳴を上げる王子の背を、使用人は優しく包んだが抽出は止めない。
そして白濁の散った腹を使用人の掌が慈しむように撫でる。そこからグルルと不吉な音がしたのは気の所為ではないだろう。中に注がれた彼の愛は王子にとって異物でしかないのに、撫でる度にキュンキュンと後孔が反応した。
「構いません……私がお世話して差し上げますから、幾らでも垂れ流してくださいませ……」
「この……変態が……!」
「殿下が愛らしいのがいけないのです」
使用人は王子のバスロ—ブを肩から外し、露わになった項から背に掛けて幾つも口付けを落とす。いつしかピストン運動は止み、ぐちゃりぐちゅりと後孔の中を掻き回す動きに変わっていた。なまじ激しい衝撃が無い分、競り上がる快感も緩慢で、焦れったい程に長引く。
だが王子の身体はすっかり熟れきっていた。首元を甘噛みされ、脇や臍を撫でられ、後孔を捏ねくり回されるだけで絶頂が訪れた。肉棒からはダラダラと真っ白な液が力無く垂れ流されるばかりで、十数秒の間ずっと昇り詰めた感覚が続く。
「あッ、あッ、あ~~~ッッ!!」
「殿下っ、殿下……ッ!」
目の前で散る火花が消えない。意味も無く発される裏返った声に続き、肉壁が激しく何度も収縮した。それに絞り取られるように、使用人もまた絶頂に至る。
ありったけの精液が王子の体内に流し込まれるが、未だ使用人は身を引かない。相当溜まっている時でさえ2回が限度だというのに、この夜は何度放出しても一向に肉棒が萎える気配も、精子が尽きる気配も無かった。やがて満杯を示すように、醜い破裂音と共に孔との接続部から溢れた白が飛び出してくるが気には止めない。
「あんっ……! 頭、おかしくな……ひぃんッ!!」
熱い液が腹を満たしていく感覚に、王子の双眸からはいつしかはらはらと涙が零れ落ちていた。
煮え滾る全身の中でも特に熱い胸と肉棒に使用人の手が伸びる。先端を擦られ、根元を扱かれ、全体を揉まれて耐え切れる筈など無い。直接的な刺激を受けて、後ろだけで達するのとは種類の異なる灼熱の快感が爪先から頭の端まで奔った。
「ひぁああッ! ……や、やだ、止まらな、あっ、あああんッッ!!」
「殿下……愛しています……殿下……ッ!!」
使用人が腰を使いその身を揺さぶり、最後の一滴までを出し切るまでに王子もまた幾度も高みへ昇った。否、昇りっぱなしだったと言うべきであろう。前で絶頂し、意識が降りてくる前に後ろでもオ—ガズムを得る。屹立からは何も出なくても、それを何度も繰り返していた。その度に浴場に獣のような2人の声が木霊する。
全てが終わった時、先に力が抜けたのは王子だった。膝が崩れ、バスタブに寄り掛かるように倒れ落ちる。それを支えようとした使用人もまた手足に力が入らず、怪我が無いよう2人揃ってゆっくり座り込むことしか出来なかった。
「はぁっ、はぁっ……私は……何ということを……!」
未だ余韻が消えないのか、虚ろな眼差しをした王子は時折小さく痙攣するだけで、気を半分失っているようだった。
そこから使用人が身を離せば、水音と共に青臭い匂いと白が床に広がる。射精のし過ぎで朦朧とする頭を振るい、どうにか冷静さを取り戻せば自分の行動の重大さに頭を抱えた。命令違反も何度かしていた気がする。本人に誘われたとは言え、一国の王子を犯したとあっては口止めとして殺されてもおかしくはない。
どうしたものかと動揺していると、俄かに王子の表情が曇った。
「うぅん……」
「殿下、どうなされました……?!」
「……で、る……もれ、ちゃ……!」
全ての発端と同じように、間髪入れずに破裂音混じりの水音が響いた。足腰が立たない王子は手で尻を押さえるも、ピンク色に捲れ上がって緩んだ菊門の代わりにはならない。聞くに堪えない恥ずかしい音が響く度に、指の間から白く臭い液が溢れ流れていた。彼の下に広がる水溜まりは大きくなっていくばかりだ。
度重なる快楽と恥辱に脳が焼かれてしまったか、王子は幼児退行したかのように涙をぽろぽろと流し、顔を歪めていた。
その頭を軽く撫でてから、使用人は王子の身体を抱きかかえ、バスタブの中へと下ろす。そして自分も服を脱ぐと、一緒に入った。
「な、に……?」
「今綺麗にして差し上げます……私にお任せください、殿下」
これが最後の仕事だと思った。尻を向けさせ、温いお湯を上から掛けながら後孔に指を入れて開かせる。湯を入れ、一度指を抜いて菊門を閉じさせ、腹を撫で回してマッサ—ジする。数秒と保たずに耐えかねて白が噴き出す音はシャワ—で誤魔化して、それを何度も繰り返す。
王子の頭に恥辱はもう無い。体内の異物が出て行く解放感と、少し指を入れられただけで敏感に反応する前立腺の刺激から起きる快感に、いつしか嬌声を上げていた。王子の菊門は排泄器官であると同時に、完全な性器となっていた。
「あっ……ああっ、きもちいい……おもらし……きもちいい……!」
「殿下……」
「もっといれて……かきまわしてっ……!」
まだ足りないというのか。使用人は腰を振りながら浅ましい願いをする王子に対し、呆れと驚きを抱きながらも言うことを利く。中指を1本根元まで挿れて最奥に溜まる液を掻き出すと、娼婦のように甲高い嬌声が上がり、薄い尻が揺れた。
成人の儀の“効果”により、王子の性欲が際限知らずになっていることを使用人は知らなかった。そして王子を犯したことにより、粘液接触により使用人にもまたその効果が伝わっていたことにも、勿論気付かない。
「おしり……ぐちゃぐちゃされるの、きもちいい……ッ! きもち、いいよぉ……ッ!」
射精しないまま絶頂に至る王子の顔は恍惚に蕩け、後孔は使用人の指を緩やかにしゃぶる。もう充分だと分かっていながら、使用人はその指を抜くことが出来なかった。
王子が後ろから垂れ流した白濁は湯と共に排水口へ消えていく。全身を痙攣させながら快感を貪っていた王子もやがて疲れ切ったようにそのまま意識を失い、眠りに就いた。
使用人はその身を丁寧に隅々まで洗うと、よく拭いてからベッドへ運ぶ。王族の自室には使用人であっても呼ばれた時以外は入れないから、何が起こったのか知っているのは2人だけだ。
その安らかな横顔を使用人は暫く見ていたが、風呂場へ踵を返した。再び勃ち上がってしまった己を鎮めなければならない。
もしも、万が一、明日も使用人を続けていられたなら、股間のケ—スをもっと強力なものにしてもらおう。そんなことを考えながら。
◆
ちりり、と小さなベルの音が鳴った。
数十秒後、部屋の扉がノックされ、壮年の使用人が銀のポットとグラスを盆に乗せてやって来る。
それをベッドの上で半身をシ—ツに沈めたまま片膝を立てて待つ男は、口元を押さえながら厳しい表情を浮かべていた。
「殿下……悪い夢でもご覧になりましたか」
「ああ……お前との初夜の夢だ」
あれから十数年間が過ぎていた。齢15の若王子は兄となり、父となり、王を継ぐに相応しい体躯と気丈を得ていた。使用人も最早駆け出しの頃の印象は髪や瞳の色に残すばかりで、今では若い使用人達を束ねる中間管理職を請け負っている。
王子を長年見てきた者として、深夜の呼び出しに応じるのはいつも彼だった。年齢の割に貫禄のある風貌はその所為だと噂されていたが、真偽は定かではない。
この程度の言葉では動じることも無く、「左様ですか」と端的に答えながらグラスに冷たい水を注ぐ。そして裸の上半身に脂汗を浮かべる己が主へと差し出した。
「お風呂の用意をなさいますか? そのままではお身体が冷えましょう」
「……分かっているのだろう」
王子は受け取ったグラスの中身を一瞬で飲み干して、それを返す。が、伸ばされた使用人の腕は反対の手に掴まれ、更に引き寄せられた。
そのまま唇と唇が重なる。使用人の眼が見開かれたのは僅かな間だけだった。
「殿下……今の殿下には奥方様が」
「今は子供と一緒だ。それに産後の身体に無理はさせられない」
「……悪夢、だったのでは?」
「あの時はな」
冷えていた王子の唇と舌が徐々に熱を取り戻す。使用人も言葉とは裏腹に食み合うことを止めない。
あれから2人は何度も繋がった。若い身体に染み入った触手の体液の効果は絶大で、数日の間を空けただけで王子の我慢が利かなくなった。昼は模範的な成人王室として執務をこなしつつ、夜にはあらゆる方法を用いながら使用人を貪った。
使用人もその合間に、自身の経歴を話すようになっていた。見目を買われて住み込みとなったが、気が弱く先輩の使用人にいいように使われていたこと。女人禁制の寮で、女代わりに夜な夜な使われていたこと。実家は貧乏で、追い出されたり逃げ出す訳にはいかないこと。
王子が抱かれるだけではなく、王子が抱くこともあった。乱暴に開発された使用人の後孔を回復魔法で癒し、王子だけに悦ぶものへと変えた。彼に狼藉を働いた者は即座に解雇され、その後の行方は分かっていない。
以後、身体を重ね合う関係は王子が結婚するまで続いた。無論このことは妻を含めて誰も知らない。妃を娶ってから、王子が使用人を求めるのは初めてのことだった。
「……弟が成人の儀を迎えた。それが原因だろう」
「弟君も殿下と同様に……?」
「もっと酷い。本人に自覚は無いが、苦痛はあれ以上だろう」
だからって、あのような夢を見るとは思っていなかったが。キスの合間に浮かぶ自嘲的な微笑を、使用人は真摯な眼で見詰める。
それを正面から見返しながら、王子は使用人の首に両手を回す。上下する胸の上で、ピンと立った蕾が存在を主張していた。
「あいつから求められたら、拒む自信が無い。俺は……どうしたらいい?」
「…………」
使用人の眼が一瞬冷たさを帯びる。
この王家は狂っている。真実に巻き込まれているからこそ知っていた。何の因果かは分からないが、卑猥な因習に囚われていることははっきりと理解していた。
だが同時に、拒めない、という言葉にも信憑性を感じていた。仄かに立ち昇る甘い香り。毎回これに神経を狂わされ、理性が利かなくなるのだ。
それに敬愛する王族の苦悩する表情を見て、手を差し伸べずにいられるものか。憂慮を孕んで引き締まる唇に再度口付けし、使用人は答えた。
「僭越ながら申し上げれば……愛を捧げれば宜しいかと」
「愛、を? ……んっ……!」
「求めるだけ与えるのです。満ち足りるまで、あらん限りを持って」
「だが俺は……あいつの兄で……!」
「もうすでに、弟君を欲しているというのに?」
「……!」
ベッドサイドテ—ブルに盆を置いた使用人は、啄むように口付けながら王子の胸に手を伸ばす。白手袋を嵌めた指先で触れれば、王子が息を呑むと同時にその部位は硬さを増した。
そのままベッドへ乗ると、足を王子の股間へと差し入れる。膝で弄れば、持ち上がった部位の形がシ—ツ越しに浮かび上がった。
「……弟君が殿下に助けを求める保証がおありで?」
「あいつは小さい頃から俺の後ろをついて来ていた! 今回だってきっと……!」
「殿下のように、使用人が対処したら? 弟君は心優しい方です、殿下の手を煩わせるのを良しと思わないでしょうな」
「そんな……ことは……」
「拒む自信が無いのではなく、貴方ご自身が襲いそうで恐ろしいのではありませんか、殿下」
「………………そうだ」
愛撫に任せてマウントを取ろうとした使用人を、逆に上から押さえ付ける。膂力にも長けた王子の腕は太く、使用人は力では敵わない。
仰向けの状態であれよあれよとベルトが外され、ズボンと下着が引き摺り落とされる。ケ—スからぷるりと弾けるように現れた使用人の一物は、既に勃ち上がっていた。
「あいつに欲情する自分に反吐が出る……こんなに血を呪ったことは無い」
「殿下……」
「いつもすまない。俺が王となった暁には、全てを変えてみせる。お前のことも一生生活に困らないようにしてやろう」
「いいのです、殿下……我々は王族の道具。お好きにお使いください。……それに私は殿下に謝られるより、虐げられた方が興奮致します」
「はっ……お前も大概な変態だな」
「ありがとうございます」
かつての勝気で生意気な少年の面影を見出し、満足げに笑った使用人の肌に王子の舌が触れる。
今宵もこのまま抱かれるのだろう。放心した風を装ってされるがまま、使用人は天蓋を見上げていた。
歳を重ねるにつれ、王子は抱けと言わなくなった。王家の第一の男子として、子種を与える側を保つ為であったのかもしれないと使用人は考える。
狂った王家の中、狂った王子が本当に因習を変えられるというのか。使用人は楽観視しない。これだけで変えられるならば、とっくに終焉は来ていた筈だ。
触れられる場所から熱が伝わる。ビリビリと神経が尖り出す。溺れるのは時間の問題だ。抵抗など出来ない。
「……っ、殿下……!」
「何だ……?」
「今後はたまには私のことも……思い出してくださいませね……?」
「当たり前だ……!」
久々に触れる肌は粟立ち、全身が歓喜に震える。第一王子の結婚に、第二王子の成人に祝福を捧げていたのは形だけだったと気付かされる。
体内に指を、性器を挿れられ、抱き締められるだけで余計な意識が散って行く。王子が使用人を貪るのと同じく、使用人もまた王子を激しく求めた。
2人だけの部屋に激しい息遣いとベッドの軋む規則的な音だけが響く。同性であることも、地位の差も問題ではないとばかりに、獣欲をぶつけ合う。
代替品だろうが性欲処理の道具だろうが、名目などどうでも良かった。
土石流に飲み込まれるかの如く、皆最後は快楽という名の汚濁に沈んで行くのだから。
この国に朝はまだ、来ない。
仄暗い地下室に、声変わりを迎えたばかりの掠れた低音が木霊する。
壁際に並ぶ松明に照らされるのは麗しい肌。しかし若く瑞々しい白磁は今や汗に湿り、所々が赤く色付いていた。
今日、平和な国の第一王子は成人の儀を迎え、国中は熱狂していた。しかしその最後を飾る筈の、王家の間にのみ伝わる秘儀は彼にとって絶望しか感じないものであった。
独りで地下室へ下りるその掟を、最初は度胸試しか何かだと思っていた。しかしそこに待っていたのは化け物——不気味に蠢く巨大な塊であった。
発展途上の筋肉に包まれた四肢に巻き付くのは醜悪な黒緑の触手。歪な塊から何本も伸びるそれは甘い香りのする粘液を伴って身体の至る所に触れ、王子を宙空に支えたまま拘束していた。
王子はよく糊の効いた白いシャツ1枚だけを身に纏っていた。下半身の衣類は下着まで全て剥ぎ取られ、石畳の床に落ちている。仰向けにされた状態だが、己の大事な部分がどうなっているのかは視界に入らない。
普段なら薄い肉に包まれている筈の腹は今や妊婦のようにでっぷりと膨れ上がり、その中からは激しく腸が蠕動する音が絶え間無く上がっていた。
「っつぅ……! もう……入らな……あ、あぁっ!」
顔を上気させた王子はきつく眉根を寄せ、苦悶の声を漏らす。
王子の後孔には太い触手が突き刺さっていた。触手は規則的に膨らんでは萎みを繰り返し、ポンプのように体液を送り込む。
王子の腹は触手に注がれた液体で満ちていた。菊門はみっちり嵌った触手の所為で僅かな隙間から中身を滴らせるに留まり、強烈な便意はあるのに排泄を許されない。
全身に脂汗を滲ませながら必死で気分の悪さと腹痛を堪えていた王子は、触手が中身を圧縮するかのようにぐるりと体内で動いた瞬間、ひとつの堰が唐突に壊れたのを悟った。
「うぁ、っ……嘘、だ……っ……」
膀胱を中から圧迫された所為だろう、中途半端に持ち上がった男のシンボルから、ちょろちょろと力無く小水が流れ出す。見えなくともその感覚と音と匂いと温度に己のしでかしたことを知り、王子は俄かに混乱した。必死に止めようと力を込めるが、後ろから押されて逃げ場を失った液体は流れ続けていた。
厳格なる王家の儀式の筈なのに、何故こんな仕打ちをされ、粗相をしなければならないのか。何処かで手違いがあったのだろうか、そもそも何故王城の地下にこんな化け物が居るのか。
成人を迎えた日に失禁してしまったという恥辱を払拭するには、別の何かに当たるしかなかった。しかし出来た隙間を埋めるよう更に注ぎ込まれる体液が、もっと恐ろしいことがこの先待っていると告げている。
「やめろ……っ、撫でるなぁ……!」
獣が唸るような音と共に、一際激しい腹の痛みが沸き起こった。それを労わるかのように幾本もの触手は腹を撫でるが、それは王子にとって要らぬお節介でしかない。軽い力のこもったマッサ—ジのような動きは、先程から波のように絶え間無く押し寄せる便意を促進させるものでしかなかった。
浣腸という物の存在を今まで健康優良児だった王子は知らなかった。しかし今体内に入っているのはそれより遥かに大量の液体である。食べ過ぎて腹を壊した時と同種の、それでいて何倍も強い痛みと音が齎すものが何か、想像は容易についた。
「離せっ……トイレ……トイレ行かせて……っ!」
全身が熱いのに、背筋だけが寒かった。これ以上の恥辱は人の道に反してしまう。せめて後ろだけは、然るべき場所で解決したかった。
死に物狂いで踠いたのが功を奏したか、触手は諦めたように四肢の拘束を緩めると、緩慢な動きで王子を床へと下ろした。後孔に入ったままの1本を除き、触手がゆっくりと離れて行く。
急な解放に王子は困惑するものの、理由を考えている暇は無かった。覚束ない足取りで立ち上がると、自らが入って来た地下室の入り口を見遣る。扉も何も無いそこには最初と変わらず上り階段が控えていた。あれを登り切れば身支度をした部屋があり、そこには手洗いがある。俄かに与えられた希望が、腹の限界を少しだけ遠ざけた。
「……ひっ!」
だがそれも最後の触手が抜けるまでのことだった。太い物が音を立てて抜けた直後、後を追った液体が放出される。
咄嗟に菊門に力を入れて、更に片手で押さえて何とか耐える。漏れた液体が足を伝う嫌な感覚に表情を歪めたが、後孔は長らく触手を咥えていたからか思った程の力が入らない。ぷしっ、と更に僅かに噴き出した液体が指に絡むのを感じて王子は焦る。
急がねばならないが、あまり急くと後ろが緩んでしまう。内股になり尻を押さえた恥ずかしい格好で、少しずつ部屋の出口へと歩んで行った。
その間にも腸は唸り続け、無慈悲な痛みが体内を灼く。1歩踏み出す度に灼熱は出口へ殺到し、後孔は膨らんで押さえていなければすぐにでも開放されてしまいそうだったが、王子は重い腹を手で支えながらどうにか前に進む。
折れそうになる心を支えていたのは王族の誇りだけだった。第三者にも聞こえるであろう大きく不吉な音をさせながらも、排泄を我慢しているとありありと分かる姿勢をしながらも、最後の一線は越えてなるものかという矜持が王子を動かしていた。
だがそれが無謀な挑戦であると、本人が一番よく知っていた。そしてこの地下室は、心の奥底に眠る僅かな諦念を見逃さない。
「……うぐっ! な……嘘、だろ……?!」
もうすぐ階段へ着くと思った矢先、王子の額が何かにぶつかる。手を伸ばすとその表情は驚愕から絶望へみるみる変わっていった。
それは見えない壁だった。地下室と階段の間、その出入り口を塞ぐように、完璧に塞がれている。叩いたところで重い音をさせるばかりでビクともしない。
魔法による封印のようだが、目を凝らしても手で触れても打破の糸口が何も見付けられなかった。相当腕の良い魔術師によるもののようで、これを解けるような魔法はまだ学んでいない。
やられた、と思った。だからわざわざ解放したのだ。助かると思わせて、自分の足で歩かせて、事実に直面させる為に。
そして、その効果は甚大だった。
「あ……っ」
出られないと分かった瞬間、目の前が暗くなり後孔の緊張が一瞬緩んだ。それだけで、ぶしゃりと激しい音と共に孔を押さえていた手に液体が溢れる。
咄嗟に周囲を見回しても、石造りの地下室には何も無い。身を隠す物も、便器の代わりになる物も、何も。
必死に引き絞ろうとする菊門に絶望から這い上がる余力は残されていなかった。著しい内圧はもう止められない。
「ひっぐ……う、あああああっ!」
抑え込むのももう限界で、遂に爆発的な音が地下室に響いた。尻や手、指の隙間から体内の液体が勢い良く噴き出す。
悲鳴を上げて見えない壁に身体を預け、ずるずると座り込む間にも壊れた蛇口のように後孔からは水分が迸り続ける。瞬く間に石畳の床に透明な甘ったるい匂いのする液体が広がり、裸足を濡らしたが動くことなど出来なかった。
震える太腿や膝に生温かい感覚が伝うのを嫌って、股を開き尻を突き出す恥ずかしいポ—ズを取ることで精一杯だった。濡れた手を縋るように透明な壁に着けば、透明な手形が垂れ落ちて行く。
「やらぁ……止ま、んない……!」
耳を塞ぎたくなるような汚らわしい音は絶えることなく続き、程無くして甘い香りに悪臭が混ざり始める。触手の粘液が腹の中にあった老廃物を溶かし、汚水として出て来たのだ。固形物は殆ど無いが、濃茶に色付いた水溶液が本来何だったのか意識せずにはいられない。
終わらない排泄を続ける王子は顔を歪め、その双眸からは幾筋も涙が落ちていた。己が情けなくて仕方が無い。
それと同時に苦痛の根源を垂れ流す開放感は酷く甘美だった。こんなにも水様性の物を勢いよく排泄しているというのに、不思議と菊門に痛みは感じない。ただ痺れるような感覚が絶え間無く続いていた。
「はぁっ、はぁっ……くぅっ……!」
ようやく汚水が収まってきたが、王子はこれからが本番であると知っていた。腹はまだ唸り続けており、その原因が今まさに腸内を進んでいた。大分萎んだ腹とシャツの裾を両手で抱えて王子は荒い息を吐く。
滑るように流れて来る塊は、全く力む必要無く出口へと現れた。
「あ……で、る……っ!」
体内を容赦無く擦りながら後孔を目指す塊から得も言えぬ感覚が背筋に走り、思わず声が漏れた。その声色が無意識に艶めくのに気付く余裕は無いまま、姿を見せたのは太く黒々とした長い固形物で、孔から出た後も千切れること無くそのまま床に横たわる。蛇のように長いそれが出る間、王子はヒクヒクと身体を震わせていた。
ただ出しているだけなのに、王子は確かに快楽を感じていた。ようやく最後まで到達し、切れた塊の端が床に落ちる衝撃で汚い飛沫が上がる。それを足に受けて尚、王子は何時の間にか恍惚の表情を浮かべていた。
「また……、ん、んんっ……!」
先程よりは短くとも、同じように太い塊は幾つも溢れて来る。その度にぞくぞくと背筋を奔るのは、適切でない場所で排泄しているという背徳感、罪悪感、恥辱、そして快楽。塊を吐き出す度に王子の理性は焼き尽くされていき、宙空に視線を投げてもその眼の焦点は合っていない。
最後に汚泥とガスが同時に噴き出し、断続的に続くはしたない音は出る泥が無くなっても暫く続いた。
悪臭で鼻が曲がりそうだが、同時にずっと嗅いでいたいとさえ思うのは、王子の脳の一部が歪んでしまったからかもしれない。その一方で現実を受け止めたくなくて、自分の足の間を見るのが怖かった。
「……えっ?!」
だがそれすらも許されなかった。ようやく落ち着いたと思った矢先、背後から伸びてきた触手に抱え上げられる。ぐったりとした身体は大した抵抗も出来ず、上体は起こした状態で両足を開かれる。髪を掴まれて無理矢理下を向かされれば、そこには地獄絵図が広がっていた。
「……っ! いや、だ……もういやだ……!」
汚水と塊と泥が重なり合ったそこは、魚の死体が浮かぶ毒沼のようだった。その上で王子の後孔に先程と同じ太い触手が迫る。
何をしようとしているのか察知して首を横に振ったが、当然聞き入れられる筈も無い。触手は弛みきって半開きになった菊門へ簡単に押し入ると、一気に最奥の曲がり角まで突き込んだ。
「ひあっ、あっ……! 何これっ……!」
たったそれだけで目の前に光がチカチカと舞い、背筋が弓なりになる。敏感になった内臓を抉られただけで股間の一物ははっきりと隆起し、その先端は先走りに濡れていた。
触手は一番奥で再び粘液を放出し始める。最初は苦痛しか生まなかった筈のそれが別の意味を持つことを王子は悟った。
身体中が喜んでいた。粘液を注がれる度、腸壁は振動し歓喜する。より奥へと誘うように腸はうねり、触手の脈動に合わせて内部が圧迫される動きを心地良いと認識する。
もっと擦って、暴れて欲しい。浅ましい願いが脳裏を過ぎり、王子はようやく我に返った。
逃げる筈がこんなにあっさりと捕まってどうする。どうにか対策を考えようと思った矢先、そんなものは無意味とばかり触手は入って来た時と同じように、今度は奥から外まで一気に全体を引き抜いた。
「ひぎゃああ!!」
思わず悲鳴を上げた王子の菊門はもう耐え切れる筈もない。1秒も保たずに入れられた液体が迸り出て、汚泥混じりの水が更に沼を広げる。
そしてまた触手が差し込まれ、体液が入れられる。その度に腹は苦悶の声を漏らすがいつしか痛みは消えていた。出し入れされる感覚に翻弄され、頭が麻痺していく。
同時に何本かの触手がシャツの合間に分け入り、胸の蕾に粘液を塗りたくると柔らかく揉み解し始めた。それだけで小さな粒は自己主張を始め、すぐにぷっくりとシャツの上からでも分かる大きさに育っていく。その部位は下半身と連動するかのように、弄られる度に腰が跳ねた。
「なんで、胸……うあっ、や、……ああああッ!」
その間にも後孔に入れては出す回数を重ねる度に水は透明に近付いていくが、王子はもうそれを見ていない。涎と涙と鼻水を垂れ流しながら、獣のような声を上げるばかりだ。
幾度目かの突き込みに、身体の内外から善い所を刺激され続けた王子の屹立は直接触られてもいないというのに、遂に白い物を溢れさせた。ビクビクと震える身を触手は放すことなく、寧ろここが始まりだとばかりに体内で前後運動を始める。
「……ァ、ひあっ、だめっ……なんでっ、こんな……」
射精直後の身体を弄ばれ、王子の声が裏返る。涙ながらに訴えてもその身体は急速に書き換えられていく。古い物を全て放出し、新しい物を入れられる。何も抵抗出来ないまま身体の中身を洗われているような錯覚は嘔吐しそうな程の不快で、絶頂が収まらない程の快感だった。
無理矢理排泄させられ、男には無意味と思っていた胸の蕾を弄られれて気を遣るなど狂気の沙汰である筈なのに、もっともっとと無意識に腰が動いてしまう。はしたないと自戒するだけの理性は、下半身から噴き出す液体と共に流れ去って行く。
「きもち、いい……きもちいぃよぉ……ッ!」
悲鳴が嬌声になり、やがてそれすらも消えるまで、王家の秘儀は続いた。
◆
それから数日後。慣れ親しんだ自室で目覚めた王子は、あれが何だったのか理解する暇も無く、成人王族の役目を果たす必要があった。儀式に送り出した王や家臣は何も言わないし、はっきり訊くだけの機会は終ぞ無かった。
王子の成人の方を聞き国内外から有力者達が王城に訪れ、祝いの言葉を述べ贈り物を置いていく。綿密に練られたスケジュ—ルは分刻みで、王子は家臣達と共に多くの客人をもてなしていた。
だが微笑みを貼り付けた顔と礼儀正しい言動とは裏腹に、その身には爆弾を抱えていた。
「……すまんが、例の物を」
客と客とが途切れる僅かな時間、王城の者しか入れない廊下で王子はメイド長に囁いた。王子が生まれるより前からこの城で働いている貫禄のある初老の家政婦は、心得たとばかりに頷いて布に包まれた平たい物を渡す。
それは大人用のオムツであった。王子はトイレの個室に入ると、自らズボンを脱ぎ取り替えを行う。下ろしたオムツはほんの僅かにピンクがかったほぼ透明な液体でぐっしょりと濡れ、酷く甘い匂いが立ち昇っていた。そしてその中に、黒い固形物が1つだけ混ざっている。
忌々しい成人の儀、最後の試練。王城の地下に眠る異形の化け物に王子は全身を犯された。のたうつ触手に穴という穴を貫かれ、肌という肌に粘液を塗り込まれ、口にするのも憚られるような辱めを受けた瞬間の感覚が未だ消えない。あの日はいつの間にか気を失い、目覚めた時には自室のベッドで横たわっていた。それからというもの、夢であって欲しいと願えば願う程に毎晩悪夢として蘇り、翌朝猛っている身体があれは現実だと教えてくる。
更に後遺症のように王子の後孔は緩み、便意を長らく我慢することが出来なくなっていた。しかし来賓を迎えている最中は立場上、中座が出来ない。結果的にこうして漏らしてしまうことが多々あり、対処方法としてオムツが充てがわれたのだ。
齢15の若者にとっては屈辱以上の何物でもないが、これ以外に方法は無い。どんな薬も治療魔術も効かないのだ。一体何があったのです、と何も知らない王宮医に問われたが本当のことは頑として口を割らなかった。
最早成人前の身体に戻れないのは薄々気付いていた。甘い体液がその証拠だった。それは決まって王子が失禁したと気付いた時から尻から溢れ始め、オムツを取り替えるまで出続けた。それとは別に、誰かとの会話の最中や客人と挨拶のハグやキスを交わした時に不意に漏れることもあり、頭を悩ませていた。
それでも最低限の矜持として、オムツの取り替えは自分でするようにしていた。
「……ん……」
新しい物を宛てがう前に、紙で濡れた尻を拭き取る。その度に感じる感覚が脳を揺らしたが、それが何であるか考え込む時間的余裕は無かった。またすぐに次の客人を迎えなくてはならない。
辛い、苦しいなど言える訳が無かった。これが王族なのだ。しかも大人になったなら、我儘も簡単には言えない。父である王も執務に追われており、会話する機会は全く無かった。
頼れるのは自分だけ。そう気合いを入れ直してから何食わぬ顔をしてトイレを出ると、待っていたメイド長に汚れ物を渡し、次のスケジュ—ルを確認する。
その緊張の糸は、長くは保たなかった。
◆
「はっ、はっ、はっ……!」
それから更に数日後、時刻は深夜。王子は本日最後の客人を見送ると、自室へと早足で向かっていた。
大食漢の隣国の大臣との宴は豪華絢爛の極みで、両国のシェフが腕によりをかけた料理の数々が並んでいた。祝われる側である王子が口にしない訳にもいかず、腹はもうこれ以上入らない程に膨れていた。
その腹に異変が起こったのは、客人がそろそろ帰ろうというところだった。最初は鈍い痛みと共に腸が蠕動する気配がした。いけないと思っても客人は話し足りないとばかりに、客間から玄関へと続く廊下でも喋り続けていた。それを遮る訳にもいかず、笑顔が引き攣らないよう細心の注意を払いながら相手をする他無かった。
そうこうする間にも幾つかの波を越える度、痛みは募っていく。グルグルと鳴り出す腹の音が、自身の弁と酒に酔っている客人まで届かなかったことは不幸中の幸いだろう。
客人を乗せて走り去る馬車に手を振っていた最中、遂にそれは訪れた。腹の中身が出口に向かい下りてきたのである。馬車が見えなくなった直後、王子はそれまで浮かべていた天使のような笑顔を消し、城の中へ踵を返した。
最寄りのトイレは客間付近にあるが、客人が帰った後すぐは清掃が入って使えないことは知っていた。王城というのは案外入り組んでいるもので、他の場所はうろ覚えだ。唯一確実に分かるのは自室付近である。なるべく刺激を与えないよう、しかし早急に。毛の長い絨毯が敷かれた廊下では足音もしない。
「う……くぅっ……!」
もう少しの所まで来ているのに、一際鋭い痛みと便意が王子を襲った。思わず腹を抱えて背を丸め、尻を手で強く押さえる。誰が見ても腹を壊して排泄を我慢していると分かる格好になってしまっているが、今の時間、使用人は宴の片付けの為に客間や調理場へ駆り出されているのだろう。こちらの方には誰の姿も見えなかった。
更に僥倖なのは、ここ数日はオムツを汚していないという事実だった。もしかしたらもう菊門は回復しているのかもしれない。だとしたら多少は時間を稼げるに違いない。
「……ぁあっ!」
しかし現実は非情だった。最後の角を曲がった所で、決定的な波が襲い掛かる。
数日失敗しなかったのは緩みが改善したのではなく、単に出ていなかっただけなのだ。便秘気味だった腹は蠕動を再開し、硬く大きな先頭が出口の目の前までずるずると下りて来るのが分かる。
——このままではあの夜と同じ、悲劇が起こってしまう。
一か八か、王子は走り出した。腹が重いから速度は出ないが、少しでも早く辿り着かねばばらない。
腹の中に積もる塊の先頭は間も無く菊門まで達した。その大きさからか多少は回復しているのか、門は半開きになりながらも何とか持ち堪えている。
——でもどうせ間に合わない。否、そんな筈があるか。
必死に尻に力を入れながら、一瞬毎に見慣れた扉に近付いていく。
もう少し、もう少し。あのT字路を越えたら、すぐに。
——あの夜とは違う。此処は地下室ではない。
苦痛の渦に残る希望を目掛け、王子はラストスパ—トをかける。
その焦燥が仇となった。
「……えっ?!」
「うわっ!!」
タオルをいっぱいに抱えた男の使用人が角から出てきたのと、王子がそこに差し掛かったのは同時だった。
使用人はよもやこの時間に廊下を疾走してくる物が居るとは思っていなかったのだろう、タオルの山が崩れないようにすることに注意がいっていて、前をよく見ていなかった。そしてスピ—ドの乗った王子は急に方向を変えることも出来ない。
結果、両者はぶつかり、タオルは宙を舞う。
全て終わった、と思った。
——始まりの夜と同じように。
体勢を立て直すことも出来ずついた尻餅は今の王子にとって致命傷だった。強い衝撃が加わって尚、我慢するだけの力が後孔に残っている筈も無かった。
対して使用人の方も、王子にぶつかるなど無礼の極み、処罰の二文字が頭を過る。歳は20になるかならないかといったところで、顔立ちは見目麗しくもプラチナブロンドの短髪と同色の眼は純粋で素朴な印象を与えていた。しかしその体躯は肉体労働も多い使用人らしく、がっちりとした筋肉で覆われている。
「たっ、大変申し訳ございません、殿下!」
「あ……あ……」
「……殿下?」
しかし王子は相手を観察している余裕など無かった。まるで裂き開くかのように、大きな塊が菊門からゴロリと生まれ出る感覚が皮切りだった。
一拍おいて、一際けたたましい音が尻の下から上がる。それから連続して発生する濁った水音混じりの破裂音と腹から上がる激しい唸り声。それは王子の異変を感じ取り、何が起きたのかと凝視し耳を傾けていた使用人にもはっきり届いてしまった。
「いや……ぅ、あ……」
後孔は最早門としての役目を果たさず全開になっていた。止めようとしても身体は言うことを利かず、オムツの中に大量の温い泥が広がっていく。こんな時の為にしているとは言えその量は想定以上で、溢れ出すのは時間の問題だろう。
更に緊迫が解除された反動からか、それとも絶望からか。王子は自らの股間から温かな水が流れ出ているのに気付いた。その感覚が信じられないまま王子は呆然と自らの下半身を見下ろして震え、使用人もまた眼を丸くして固まっていた。
音が止まるまでの、永遠にも似た数十秒間が終わる。そこで使用人の眼に映ったのは、膝をやや曲げた体勢でちらりと見える王子のズボンに滲み始めたシミだった。
「失礼します!」
咄嗟に王子の背中と両膝に腕を回して抱え上げたお陰か、絨毯には跡が付かずに済んだ。しかしゼロ距離に近付いた瞬間立ち上った強烈な匂いが、起きてしまった悲劇の重大さを物語る。
王子がオムツをしているという話は、この棟に居る使用人ならば全員知っている。もしそれが無かったらもっと大事故になっていただろうと安堵しながら、使用人は散らばったタオルをそのままに、王子を抱えたまま足早に彼の部屋へ向かう。
「あっ……下ろしっ……ああっ……!」
「もう少しの辛抱でございますよ」
使用人の腕の中で、再び王子の腹が鳴る。それと同時に猛然と湧き上がった羞恥心に顔を紅潮させた王子が軽く胸板を叩いても、使用人は前を向いたまま足を止めなかった。
拒絶の理由はそれだけではないと言う時間は無かった。
「む、むりっ……がまん、できな、ぁ、あ……っ!!」
第二波の襲来を止められるものは無い。再度布を引き裂くような醜い音がはっきりと起こり、王子の手が使用人の胸元を掴んで震えた。
尻を下にして足先を上げた体勢だから床まで垂れる心配はまず無いとは言え、大きな固形物と水分をたっぷり含んだオムツが重力に従いぶら下がる感覚と、新たに漏らしてしまった大量の汚泥が溢れてズボンに滲み出す一連の流れは不快の一言に尽きた。
猛烈な腹痛と堪えようの無い便意に加え、人の腕の中で失禁してしまったという事実が王子を更なる絶望に落とす。しかも成人した男がだ。使用人は何も言わないが、腕の中で何が起こったのか気付かない筈が無い。
すぐ側の豪奢なドアが開き、見慣れた部屋を通って清潔なトイレへ運ばれるまでの間、王子の眼は開いてはいたが何も映してはいなかった。ただ譫言のように、やだ、やだと呟き続けていた。
「さ、もう平気です……早くお着替え致しましょう」
王子をトイレの便座に座らせると、使用人は彼のベルトを外し、一旦自分に抱き着かせながら腰を浮かせてズボンとオムツを脱がす。
肌蹴た太腿が便座に触れる時の冷たさで我に返った王子は、自分が何をしでかしたのか改めて現実を叩き付けられることとなった。
すっかりふやけて横たわっている性器、汚れがべったりと付着した尻、ズボンを足から抜き取る際どうしても付いてしまった泥、噎せ返るような悪臭を発する諸悪の根源。
「うっく……ぁ、見ない、で……!」
いつの間にか王子の双眸からは涙が溢れていた。同時に再び腹痛の波が襲う。紙で王子の汚れた足を拭いていた使用人に知らせた時には遅かった。
此処が排泄をする本来の場所であるという安心感からか、完全に腹を空っぽにしてやろうという何者かの意図があるのか。使用人が退室するまで待つことなど出来やしない。
痛みから間髪入れず、辛うじて固形を保ってはいるが酷く柔らかな棒が、のたうちながら菊門からひり出された。しかも幾本も、ボチャンボチャンと連続して便器に落ちる水音は重く、たとえ中が見えなくても大量に出ていることを聞く者に伝える。それでなくとも数日間腹の中にあった滓なのだ、一層強烈な臭いが狭い空間に充満した。
「は、はぁっ、……ぅんん……っ! ……やだ、まだ……ふぅんんんっ!」
それらが出切った後、今度はガス混じりの高音を発しながら汚泥が断続的に垂れ流された。先程まで食べていた物も出してしまえとばかりに、茶色の水が後を追って迸る。
聞き苦しい音はなかなか止まらず、王子は顔を上げることも出来ずに上体を前のめりに倒したまま、目尻に涙を溜めて双眸を閉ざしていた。
他者に排泄を見られるなど羞恥の極みだったが、出す度に苦痛が解放されていくにつれ、それ以上の何かを感じていた。恥ずかしくて死にたい、だが腹から後孔にかけての解放感は素晴らしかった。放出の波が来る度、力む度に甘い吐息が漏れてしまう。
——この感覚は、初めてではない。
だからなるべく王子の顔を見ないようにしつつも、思わず息を呑んでいた使用人に気付かなかった。
「んはぁ……はぁ、はぁ、はぁっ……」
脳が混乱するのを他人事のように感じながら最後に長々とガスを放出すると、力無く背後のタンクに上体を預け、荒い息を繰り返す。膨れていた腹は平たく戻り、全身が汗で湿っていた。指先一本動くのも億劫で、ただトイレの壁を眺める。
その間使用人は職務に忠実に、必死に顔を伏せて足を拭くことだけに集中していた。臭いこそ取れないが、汚れはほとんど落ちている。だが最後に残った部位に、顔を背けながらも横目でちらちらと視線を送ってきた。
「殿下……落ち着かれましたか?」
「ああ、うん……大分楽になった……」
「そちらは……お風呂でお洗い致しましょうか」
そう言われて王子は緩慢に視線を落とし、そしてぎょっとする。自らの股間の一物が、根元が茶色く汚れた状態で半分程勃ち上がっていた。
何処で興奮したのか自分でも分からない。混乱したままただ頷くと、無表情を貫きながら再び王子を抱えて使用人は隣のバスル—ムへと向かう。
白く広いバスタブに王子を下ろすと、手慣れた手付きで上の服も脱がせる。着替えはいつも使用人が手伝うから、ここまでは普段と何も変わらない。
だがシャワ—を手に取りお湯を出した瞬間、王子はふと気付いた。
「お前……その手で洗うつもりか?」
「……! 申し訳ございません! 殿下はお疲れかと思いまして……」
「自分のことは自分で出来る!」
全てを出し切り、腹痛も引いたからだろうか。気怠さは残っているもののいつもの覇気が多少戻って来て、使用人の手からシャワ—を引ったくった。
普段も風呂は誰の手も借りずに行っている。使用人も最初に問われた時点でそれを察知したようで、恐怖にも近い表情を浮かべた後、頭を下げて引き下がった。
バスカ—テンを引き、シャワ—の温度を調整してから自らの身に掛ける。早速流れて行く茶色の汚れをなるべく視界に収めないようにしながら、頭の先から涙の跡の残る顔、手足の爪先まで入念に洗った。
敏感な部位は特に丹念に行う。菊門の周りは襞の間まで残さず石鹸を付けた後、一旦洗い流した。そして僅かに躊躇してから、シャワ—を掛けながら後孔に指を入れ、軽く開いた。
そう、全ては此処に入り込んだ触手が始まりだった。
あの夜を思い出せば出す程奇妙な気分になりながらも力んでは緩ませを繰り返し、ゆっくり湯を流し込んでは放出する。出す物が透明になるまでには暫く掛かった。
その頃になってもまだ、前は半勃ちの状態だった。そんなことをしていたから、という考えは捨てて、こちらもまた皮の間まで洗い上げて行く。ヌルヌルとした石鹸の泡立ちがあればもしかして、と思ったものの、刺激が足りないのかそれ以上大きくはならなかった。
これはこれで、物足りない。かと言って単に抑え込むには身体が火照っている。自らの股間を見下ろして途方に暮れた王子は、恐ろしいことに気付いてしまった。
先程使用人が王子に向けていた眼。
何の躊躇も無く下の世話をするのは使用人の鑑ではあれど、それ以上の何かがあった気がした。先程までの痴態を思い出して頭が沸騰しかけるも、何とか平常心を保つよう自分に言い聞かせる。
「……おい、出るぞ!」
「はい、只今!」
全ての泡を流してからカ—テンを開くと、丁度部屋の外から先程の使用人がタオル片手にやって来た所だった。
ふかふかで柔らかなバスタオルを腰に巻いてから、ハンドタオルで髪や上半身を拭く。さり気なく横目で観察し、使用人の視線の先を追った。
案の定、微かにタオルを持ち上げていた王子の股間に向けられていた。
「……お前、此処が気になるのか?」
「いえ、そんな、滅相もございません!」
「では俺から命令だ。……咥えろ」
粗方身体の水気を取ると、用意されていたバスロ—ブを纏う。が、前は閉じない。バスタブから出ると、その縁に腰掛けて足を開き、その場所を指差す。
使用人が呆然とするのも無理は無かろう。先程まで下痢を漏らして泣いていた15歳の少年が、突然こんなことを言い出すのだから。
だが少年は王族であり、股間の薄い茂みから覗く宝剣は大人に比べればやや小振りながらも、本来の用途を果たすには充分な大きさを持っていた。そして同時に王子は命じられた使用人の一瞬の反応から、困惑以上の何かがあることを察知する。
「……申し訳ございません、仰られている意味が……」
「咥えて、お前の口で満足させろ、と言っているんだ。安心しろ、充分洗ってある」
「ですが……」
「俺の命令に逆らうのか?」
それは即ち、この国への反逆である。使用人としての役目を解雇されるだけで済めば良い方で、最悪の場合は一族郎党を皆殺しにされかねない。平和な国ではあったが、過去に王家に牙を剥いた者達が捕縛された後、何処に行ったか知る者はいない。
だから使用人は、覚悟を決めたように表情を引き締めると、王子の股の間に跪いた。どちらにしろ王子とぶつかった時点で全て終わっているのだ。
「……それでは……ご奉仕させて頂きます。……粗相がございましたら叱って下さいませ」
王子が鷹揚に頷くと、使用人はおずおずと手を伸ばし、その部位を持った。その後ゆっくり口を近付けると、先端を口に含む。
その瞬間、王子は彼が初めてでないことを直感した。舌に唾液を含ませ、太くなった先の部分を裏から舐め上げる。先端の孔を舌先で擽る。口一杯に頬張って、裏筋を舌と唇で扱く。
他者からの直接的な刺激に、一物は俄かに充血した。口の中で大きさを増した存在に眉根を寄せながらも、使用人は徐々に責めるテンポを上げていく。
その熱のこもった眼差しに見上げられ、王子は口の端を大仰に持ち上げた。
「随分と上手いな……まだ若いのに、こういうことは慣れているのか?」
「んぐ……ッ?!」
「……ん?」
挑発するように笑い、使用人の股間へと足を伸ばした王子の表情が俄かに訝しげなものになった。
その部分を足の指先でなぞってみても、やけに堅い感触がある。まるで木の板でも入っているかのようだ。
だがその瞬間、使用人の表情が歪んだ。その正体を暴いてやろうと、王子は髪を掴んで引き離し、そのまま上を向かせた。
「何か入れているのか?」
「わ……私共男性の使用人は、王族の皆様やお客様にご不快な姿を見せないよう、万一の時に備えてケ—スを着けております」
「万一の時とは?」
「それは……淫らな気分になってしまった時、でございます……」
使用人が赤面し、逃げるように視線が逸らされる。
普段の暮らしでは全く気付かなかったから、不自然でないような形状になっているのだろう。いつから始まったかは知らないが、よく配慮されていると納得したものの、だからと言って追及を止めることは無い。
「……もしも淫らな気分になってしまったらどうするんだ?」
「そうと気付かれぬよう働くのが私共でございます」
「どうしても我慢出来ない時は?」
「……聞いた話では……使用人用のお手洗いで気を遣る者もいる、と」
「ふ—ん。……で、お前は今どうなんだ?」
これもまた命令だ。だが使用人は躊躇した。否、咄嗟に声を出せなかったと言うべきか。
王子の足が容赦無くケ—スを押していた。上部から、下部から、その中にある使用人の性器に刺激を与えるように。
使用人の顔ばかりか耳までが赤くなり、その身が震え始める。微かに荒れる息の合間、絞り出すように小さめの声が漏れた。
「み……淫らな気分になっております」
「ほほう。此処の中はどうなっている?」
「…………ております……」
「聞こえない。もっとはっきり」
「ぼ、勃起しております……!」
年下にこのようなことを言わねばならないとは、何たる屈辱か。しかし使用人の落とした瞼が震え、ケ—スの中から感じる圧力がやや高まったのを感じた。
全て心得たとばかりに、王子の口元が釣り上がる。最早こうなってしまえば、使用人などまな板の上の鯉であった。
「どのぐらい?」
「ケ—スが無ければ……皆すぐに気付く程に……」
「苦しくはないか?」
「大変きつうございます……」
「濡れているのか?」
「…………はい……」
「何故こんなことになっている?」
「……! そ、それは申し上げられません……どうかご容赦を……!」
「言えば直接撫でてやると言っても?」
顔を近付けて耳元で囁くと、涙を浮かべた使用人の眼が見開かれる。
王子はバスタブから腰を上げると、使用人の前にしゃがみ込んだ。そして今度はその股間に手を伸ばす。ケ—スを前から掴んで持ち上げ、軽く引っ張ってみた。それだけで使用人の口から熱い吐息が漏れる。
「は、ぁっ……いけません……このような、こと……」
「俺の根を咥えておいてよく言える」
「殿下に尽くすのが私の使命……殿下が私に施し頂くなど、恐れ多……いぃっ?!」
先端があると思しき場所をぐりぐりと強く押さえ付けられ、忠誠と卑下の入り混じる声音が裏返る。顔は紅潮し全身に震えが奔り、その行為が効果的であることを示していた。
王子の手はケ—スの中身を虐めるよう、押したり揺らしたりを繰り返す。心なしか、持ち上げられたケ—スがズボンの上から見えるまで迫り出しつつあった。ぐちぐちと濡れた感触さえするようだ。
そこまで確認しておいて、王子の表情が唐突に消える。使用人の股間から手を離すと、立ち上がってバスタブに腰掛け直す。はぁ、と気怠い溜息は呆れを孕んでいた。
「良かろう、ならば尽くせ。達するまで止めることは許さんぞ」
「殿下……」
「早くしろ」
困惑顔の使用人は、再び王子の一物を咥える。しかしその仕草に先程とは異なる動きが混じっていることに気付くまで時間は掛からなかった。
手と舌がぎこちなくも全くの未経験者のものではないのは同じ。だがその下半身はやり場の無い衝動を持て余すように身動ぎ、自らの両足を擦り合わせていた。
その秘所が今どうなっているか、想像しただけで熱が伝わってくる。大きくなる男の象徴を使用人の喉の奥に突っ込むと、そのまま頭を持ち、腰を動かした。
「うごっ……!」
「そら、どうした。尻が動いているぞ、俺を良くするのではないのか?」
「ふぅっ、ふぐっ……んぁっ、ぁむっ……!」
反射的に沸き起こる嘔吐感は必死で抑えても、生理的な涙までは止められない。蕩けて潤んだ眼は王子の茂みだけを写していた。
絡まる粘膜の感触と上がる水音に王子も次第に高まって行く。使用人の口を使うなど成人までは考え付かなかった。これまでしたくなった時は寝所か風呂場で独り自分を慰めていた。
舌と唇が裏筋を刺激する。それは確かに快感を与えるものだが、何かが足りない。それを乱暴な突きにより歪む使用人の顔と漏れる呻き声でどうにか埋めながら、一番奥まで突っ込むと王子は吐精した。
全て出るまで頭を押さえ、下がることを許さない。使用人は喉奥に注がれる熱い液を飲む他無かった。きつく閉ざした眦から涙が滑り落ちる。上下する喉仏を指でなぞると、その身が震えた。
「……ぷはっ、えほっ……ご、ご満足……頂けましたか?」
「まだだ」
未だ半勃ちの根から口を離した使用人の眼が見開かれる。口元から垂れる液を拭おうともしないまま、王子が次に見せた場所に視線は釘付けになっていた。
立ち上がって振り返り、バスロ—ブを捲り上げる。腰を曲げて見せ付ける後孔は薄灰色に窄まり、突然外気に晒された所為でヒクヒクと震えていた。
「本当に欲しいのはこちらだろう?」
「……! い、いえ、欲しいなど……!」
「俺が漏らしているのを見て興奮したくせに?」
使用人の驚愕と絶望の入り混じる表情に、王子は口の端を持ち上げた。
そして自分の手を尻へ伸ばすと、中指で菊門をマッサ—ジし始める。くるくると円を描くように揉み解せば、甘い匂いのする液体が滲み出て来た。
こうすると快楽を得られると身体が憶えていた。そしてその気配を察した時、粘液が漏れ出すということに今更気付く。
はぁ、王子が艶めいた熱い息を吐くと、膝立ちになったまま硬直している使用人の喉仏が上下した。
「……どうした? 俺がこの孔から汚い物を垂れ流すのを見て、淫らな気分になったのではないのか?」
「そんな……そんなことは断じて……!」
「こちらも洗ってある……空っぽで疼くのだ。お前が満足させてくれぬのならば、自分で慰めるしかないな」
そう言うと王子は菊門の中へ指先を沈めた。一連の流れで緩んでいるその場所に抵抗は全く無い。
中指の第一関節までという浅い抽出を繰り返すと、透明な粘りのある粘液はどんどん溢れて来る。甘い匂いが浴室に広がり、淡く痺れるような感覚に王子の呼吸が少しずつ荒くなっていく。卑猥な水音もまた徐々に大きくなっていった。
他人の前で、見せ付けるように排泄器官を弄るなど並大抵の感覚では出来ないことだ。だが世間の常識に反抗する行為を、しかも王族である自分が取っているという倒錯感が、王子の気分を更に高めていく。
我慢ならないとばかりに反対の手を自分の胸に伸ばす。既に硬く膨らんだ蕾は触れただけで電気のような衝撃が背筋を走り、ビクンと思わず背を仰け反らせた。全く触れていないというのに前に再び芯が入り、徐々に持ち上がっていくのを感じながら乳首を捏ねる。ここがこんなにも敏感な性感帯になってしまったのも、後孔が疼くのも、成人の儀を経てからだった。
「ん……ふぅっ……」
「……殿下……」
「……欲しいのか? 欲しいなら申してみよ」
「殿下のお身体に触り……ご奉仕することをお許しください……」
「違うだろう? 何を、何処に挿れたいのか……ちゃんと見せてから申せ」
使用人の呼吸も上ずっていた。今まで抑え込んでいた衝動の箍が外れかかっていると、顔だけで振り返る王子もまた気付いている。
葛藤に表情を歪ませ、手を震わせながらも遂に使用人はズボンと下穿きを下ろした。躊躇を繰り返すような緩慢な動きの末、開かれたケ—スの中身は彼の言う通り、立ち昇る湯気が見えそうな程熱く濡れていた。先走りの糸を引きながら現れた一物は艶めき、腹に着かんとする程猛々しく勃っている。綺麗な顔に似つかわしくない筋の走った大きな棍棒を封じる物は最早無い。卑猥な部位を曝け出しながら、使用人は蚊の鳴くような声を絞り出す。
「恐れながら申し上げます……こ、これを……愚かな私の肉棒を、殿下のお尻に、挿れとうございます……!」
「ずっとそれを考えていたな?」
「申し訳ございません……! 先程から何故だか気分が高まり、鎮めることが出来ず……」
「この孔が開閉するのを想像していたんだろう? ……こんな風に」
「……!」
中指に続き人差し指も後孔に突っ込むと、くぱぁ、と軽く孔を開く。ピンク色の肉壁は小さく震え、溢れ出た愛液が内股を伝って垂れた。
挑発的な笑みに、使用人は耐えきれなかった。
身分の差など吹き飛んだ眼は獣欲に支配され、一歩踏み込むとその腰を両手で掴み、孔に棒を押し付ける。まだ許可していないにも関わらず力任せに太い部分を捻じ込まれ、痛みと熱さと衝動に王子は思わず声を上げた。
「あ゛ッ……?!」
「殿下……殿下……っ!」
解していた入り口は何とか通ったとは言え、奥は本来外部から物が入ることを想定していない。ミチミチと音を立てながら、押し込まれる肉棒が体内を割り開いていく。
濡れて蕩けた腸内は、圧迫感はあれど使用人が想像する以上に柔らかだった。熱に浮かされるように何度も呼びながら一番奥を目指す。絡み付く粘液は潤滑剤の役割を果たす以上に、触れている部分の体温が上がっている気がした。
「ぅっく、……まだ、許可してなど……っ」
「殿下……動きます……」
一度根元まで挿れてから、少しずつ前後に動かす。ぐちゅっ、ぐぷんと愛液と先走りの混じった液体が掻き回され、隙間から漏れ出す卑猥な音が浴室に響いた。
腹を満たす感覚に、王子は思わずバスタブの縁を両手で掴む。その背に使用人の上体がのし掛かり、2本の手が両の胸に伸びた。
「ん……ふぅんん……!」
「殿下はココもお好きなんですね……コリコリしています」
「言うな……! ぁ、あんっ……!!」
耳元で囁かれる声に、顔に熱が集まる。あれ程自分から痴態を晒したというのに、いざ他人の手が触れると翻弄されまいという自意識が掛かる。
だが胸も、尻も、待ちに待った快感であることに間違いは無かった。
尖った胸を押し潰すように捏ねて触感を確かめた後、今度は先端に触れるか触れないかというギリギリの所を掠めながら撫で回される。そこから伝わる得も言われぬ感覚に脳がビリビリと痺れ、紛うこと無き嬌声が王子の喉から発せられた。
もっと擦り上げて欲しいのに明確な刺激が与えられないもどかしさに、ビクビクと何度も肌が跳ねる。蕾はこれ以上無い程パンパンに勃起していて、神経が直接露出したかのように敏感になっていた。
その間にも使用人が腰を動かすのに合わせて、王子の身体もまた勝手に動く。ここが良い、と角度を変えれば、一度腰を引いた使用人は、そこに太い部分が引っかかるよう一息置いてから勢い良く突き込んだ。
「ひぅん……ッ!!」
「ご気分は……如何ですか殿下……」
「っ、見て、分かるだろう……?!」
身体中が悦んでいた。悩ましく寄せられるのは眉根だけで、その他は全身が使用人を求めていた。
グラインドはどんどん大きくなり、ピストン運動は激しさを増す。パンッパンッと肉同士がぶつかる音を立てる程、浅い位置から奥深くまで一気に貫かれる。
その間にも蕾を撫でられ、胸を揉まれ、首筋に熱い吐息が掛かる。遥か下の身分の者、しかも同性に後ろから犯されているという事実を思い出す程に身体が熱くなる。雌の扱いをされているというのに、王子のそそり勃った男性のシンボルからは半透明の液が溢れて止まらなかった。
欲しかったのは、これだ。成人の儀から数日間、渇望していた感覚を与えられ、王子は声を抑えるのをやめた。
「あっ……あっ、そこっ……!」
「こちらですか……?」
「くぅっ……! イイ、そのまま続けろ……っ!」
耳元に掛かる使用人の息も激しさを増す。本当は今にも放出しそうなところを何とか止めているのだろう。
抽出しながらゴリゴリと段差の付いた部分で弱点を抉る。王子の尻は先程から断続的に跳ねるように震え、繋がりの部分からは甘い液体が溢れていた。
突かれる時は広がり、抜く時は締まる。胸を刺激すれば締まりは更に強くなる。搾り取るような動きに、先に音を上げたのは使用人の方だった。
「申し訳ございません……! もう、出そうです……!」
「構わん、出せ。俺の中に全て……!」
「ですが……!」
「乱暴にしてよい、好きに犯せ……!」
勢いで口走ってしまったことを、王子は直後に後悔する。
使用人は途端に無言になると、王子の腰を両手で掴んだ。そしてこれまでの探るような、奉仕するようなものとは違う、もっと獰猛なピストンを始めた。ガツガツとした激しい律動が容赦無く前立腺を裏から叩き、襞という襞が擦られる。
使用人の獣欲を解放する為だけの行動だった。それにも関わらず、おまけに前には一切触れられていないというのに、王子の眼前に星が飛んだ。
「ひぐっ……! あ、はっ、……待っ、…………ひぃんッッ!!」
「あはぁ……お尻だけで、イっちゃったんですね……?」
「だって、ソコっ……あ、あああッ!」
「私も出します……!」
「あ、あ、またクる……っ!」
突き上げられる衝動に押されるように、王子の一物から白濁液が迸る。
その行方を見る間も無く、突き込まれた部位が一層膨らむと、直後に熱い熱い液体が王子の腹の中にぶち撒けられた。強烈な刺激に、目の前が再度チカチカと白く瞬く。
その間にもピストン運動が再開していた。一度達しても使用人の棍棒は萎えることなく王子の体内を抉り続ける。これ以上は頭がおかしくなると直感し、大きく頭を振ったがそんなことで使用人が止まる筈が無い。
「もう、もういい……! もう充分だ……っ!」
「そんなことはございません、まだ出し足りないのでしょう?」
「あふっ、そんなに突かれたら……またゆるゆるになるぅ……!」
王子の脳裏に成人の儀の夜が蘇る。あの日も同じように徹底的に尻孔を愛され尽くし、結果として恥辱のオムツ生活となったのだ。これではまた悲劇を繰り返してしまうと悲鳴を上げる王子の背を、使用人は優しく包んだが抽出は止めない。
そして白濁の散った腹を使用人の掌が慈しむように撫でる。そこからグルルと不吉な音がしたのは気の所為ではないだろう。中に注がれた彼の愛は王子にとって異物でしかないのに、撫でる度にキュンキュンと後孔が反応した。
「構いません……私がお世話して差し上げますから、幾らでも垂れ流してくださいませ……」
「この……変態が……!」
「殿下が愛らしいのがいけないのです」
使用人は王子のバスロ—ブを肩から外し、露わになった項から背に掛けて幾つも口付けを落とす。いつしかピストン運動は止み、ぐちゃりぐちゅりと後孔の中を掻き回す動きに変わっていた。なまじ激しい衝撃が無い分、競り上がる快感も緩慢で、焦れったい程に長引く。
だが王子の身体はすっかり熟れきっていた。首元を甘噛みされ、脇や臍を撫でられ、後孔を捏ねくり回されるだけで絶頂が訪れた。肉棒からはダラダラと真っ白な液が力無く垂れ流されるばかりで、十数秒の間ずっと昇り詰めた感覚が続く。
「あッ、あッ、あ~~~ッッ!!」
「殿下っ、殿下……ッ!」
目の前で散る火花が消えない。意味も無く発される裏返った声に続き、肉壁が激しく何度も収縮した。それに絞り取られるように、使用人もまた絶頂に至る。
ありったけの精液が王子の体内に流し込まれるが、未だ使用人は身を引かない。相当溜まっている時でさえ2回が限度だというのに、この夜は何度放出しても一向に肉棒が萎える気配も、精子が尽きる気配も無かった。やがて満杯を示すように、醜い破裂音と共に孔との接続部から溢れた白が飛び出してくるが気には止めない。
「あんっ……! 頭、おかしくな……ひぃんッ!!」
熱い液が腹を満たしていく感覚に、王子の双眸からはいつしかはらはらと涙が零れ落ちていた。
煮え滾る全身の中でも特に熱い胸と肉棒に使用人の手が伸びる。先端を擦られ、根元を扱かれ、全体を揉まれて耐え切れる筈など無い。直接的な刺激を受けて、後ろだけで達するのとは種類の異なる灼熱の快感が爪先から頭の端まで奔った。
「ひぁああッ! ……や、やだ、止まらな、あっ、あああんッッ!!」
「殿下……愛しています……殿下……ッ!!」
使用人が腰を使いその身を揺さぶり、最後の一滴までを出し切るまでに王子もまた幾度も高みへ昇った。否、昇りっぱなしだったと言うべきであろう。前で絶頂し、意識が降りてくる前に後ろでもオ—ガズムを得る。屹立からは何も出なくても、それを何度も繰り返していた。その度に浴場に獣のような2人の声が木霊する。
全てが終わった時、先に力が抜けたのは王子だった。膝が崩れ、バスタブに寄り掛かるように倒れ落ちる。それを支えようとした使用人もまた手足に力が入らず、怪我が無いよう2人揃ってゆっくり座り込むことしか出来なかった。
「はぁっ、はぁっ……私は……何ということを……!」
未だ余韻が消えないのか、虚ろな眼差しをした王子は時折小さく痙攣するだけで、気を半分失っているようだった。
そこから使用人が身を離せば、水音と共に青臭い匂いと白が床に広がる。射精のし過ぎで朦朧とする頭を振るい、どうにか冷静さを取り戻せば自分の行動の重大さに頭を抱えた。命令違反も何度かしていた気がする。本人に誘われたとは言え、一国の王子を犯したとあっては口止めとして殺されてもおかしくはない。
どうしたものかと動揺していると、俄かに王子の表情が曇った。
「うぅん……」
「殿下、どうなされました……?!」
「……で、る……もれ、ちゃ……!」
全ての発端と同じように、間髪入れずに破裂音混じりの水音が響いた。足腰が立たない王子は手で尻を押さえるも、ピンク色に捲れ上がって緩んだ菊門の代わりにはならない。聞くに堪えない恥ずかしい音が響く度に、指の間から白く臭い液が溢れ流れていた。彼の下に広がる水溜まりは大きくなっていくばかりだ。
度重なる快楽と恥辱に脳が焼かれてしまったか、王子は幼児退行したかのように涙をぽろぽろと流し、顔を歪めていた。
その頭を軽く撫でてから、使用人は王子の身体を抱きかかえ、バスタブの中へと下ろす。そして自分も服を脱ぐと、一緒に入った。
「な、に……?」
「今綺麗にして差し上げます……私にお任せください、殿下」
これが最後の仕事だと思った。尻を向けさせ、温いお湯を上から掛けながら後孔に指を入れて開かせる。湯を入れ、一度指を抜いて菊門を閉じさせ、腹を撫で回してマッサ—ジする。数秒と保たずに耐えかねて白が噴き出す音はシャワ—で誤魔化して、それを何度も繰り返す。
王子の頭に恥辱はもう無い。体内の異物が出て行く解放感と、少し指を入れられただけで敏感に反応する前立腺の刺激から起きる快感に、いつしか嬌声を上げていた。王子の菊門は排泄器官であると同時に、完全な性器となっていた。
「あっ……ああっ、きもちいい……おもらし……きもちいい……!」
「殿下……」
「もっといれて……かきまわしてっ……!」
まだ足りないというのか。使用人は腰を振りながら浅ましい願いをする王子に対し、呆れと驚きを抱きながらも言うことを利く。中指を1本根元まで挿れて最奥に溜まる液を掻き出すと、娼婦のように甲高い嬌声が上がり、薄い尻が揺れた。
成人の儀の“効果”により、王子の性欲が際限知らずになっていることを使用人は知らなかった。そして王子を犯したことにより、粘液接触により使用人にもまたその効果が伝わっていたことにも、勿論気付かない。
「おしり……ぐちゃぐちゃされるの、きもちいい……ッ! きもち、いいよぉ……ッ!」
射精しないまま絶頂に至る王子の顔は恍惚に蕩け、後孔は使用人の指を緩やかにしゃぶる。もう充分だと分かっていながら、使用人はその指を抜くことが出来なかった。
王子が後ろから垂れ流した白濁は湯と共に排水口へ消えていく。全身を痙攣させながら快感を貪っていた王子もやがて疲れ切ったようにそのまま意識を失い、眠りに就いた。
使用人はその身を丁寧に隅々まで洗うと、よく拭いてからベッドへ運ぶ。王族の自室には使用人であっても呼ばれた時以外は入れないから、何が起こったのか知っているのは2人だけだ。
その安らかな横顔を使用人は暫く見ていたが、風呂場へ踵を返した。再び勃ち上がってしまった己を鎮めなければならない。
もしも、万が一、明日も使用人を続けていられたなら、股間のケ—スをもっと強力なものにしてもらおう。そんなことを考えながら。
◆
ちりり、と小さなベルの音が鳴った。
数十秒後、部屋の扉がノックされ、壮年の使用人が銀のポットとグラスを盆に乗せてやって来る。
それをベッドの上で半身をシ—ツに沈めたまま片膝を立てて待つ男は、口元を押さえながら厳しい表情を浮かべていた。
「殿下……悪い夢でもご覧になりましたか」
「ああ……お前との初夜の夢だ」
あれから十数年間が過ぎていた。齢15の若王子は兄となり、父となり、王を継ぐに相応しい体躯と気丈を得ていた。使用人も最早駆け出しの頃の印象は髪や瞳の色に残すばかりで、今では若い使用人達を束ねる中間管理職を請け負っている。
王子を長年見てきた者として、深夜の呼び出しに応じるのはいつも彼だった。年齢の割に貫禄のある風貌はその所為だと噂されていたが、真偽は定かではない。
この程度の言葉では動じることも無く、「左様ですか」と端的に答えながらグラスに冷たい水を注ぐ。そして裸の上半身に脂汗を浮かべる己が主へと差し出した。
「お風呂の用意をなさいますか? そのままではお身体が冷えましょう」
「……分かっているのだろう」
王子は受け取ったグラスの中身を一瞬で飲み干して、それを返す。が、伸ばされた使用人の腕は反対の手に掴まれ、更に引き寄せられた。
そのまま唇と唇が重なる。使用人の眼が見開かれたのは僅かな間だけだった。
「殿下……今の殿下には奥方様が」
「今は子供と一緒だ。それに産後の身体に無理はさせられない」
「……悪夢、だったのでは?」
「あの時はな」
冷えていた王子の唇と舌が徐々に熱を取り戻す。使用人も言葉とは裏腹に食み合うことを止めない。
あれから2人は何度も繋がった。若い身体に染み入った触手の体液の効果は絶大で、数日の間を空けただけで王子の我慢が利かなくなった。昼は模範的な成人王室として執務をこなしつつ、夜にはあらゆる方法を用いながら使用人を貪った。
使用人もその合間に、自身の経歴を話すようになっていた。見目を買われて住み込みとなったが、気が弱く先輩の使用人にいいように使われていたこと。女人禁制の寮で、女代わりに夜な夜な使われていたこと。実家は貧乏で、追い出されたり逃げ出す訳にはいかないこと。
王子が抱かれるだけではなく、王子が抱くこともあった。乱暴に開発された使用人の後孔を回復魔法で癒し、王子だけに悦ぶものへと変えた。彼に狼藉を働いた者は即座に解雇され、その後の行方は分かっていない。
以後、身体を重ね合う関係は王子が結婚するまで続いた。無論このことは妻を含めて誰も知らない。妃を娶ってから、王子が使用人を求めるのは初めてのことだった。
「……弟が成人の儀を迎えた。それが原因だろう」
「弟君も殿下と同様に……?」
「もっと酷い。本人に自覚は無いが、苦痛はあれ以上だろう」
だからって、あのような夢を見るとは思っていなかったが。キスの合間に浮かぶ自嘲的な微笑を、使用人は真摯な眼で見詰める。
それを正面から見返しながら、王子は使用人の首に両手を回す。上下する胸の上で、ピンと立った蕾が存在を主張していた。
「あいつから求められたら、拒む自信が無い。俺は……どうしたらいい?」
「…………」
使用人の眼が一瞬冷たさを帯びる。
この王家は狂っている。真実に巻き込まれているからこそ知っていた。何の因果かは分からないが、卑猥な因習に囚われていることははっきりと理解していた。
だが同時に、拒めない、という言葉にも信憑性を感じていた。仄かに立ち昇る甘い香り。毎回これに神経を狂わされ、理性が利かなくなるのだ。
それに敬愛する王族の苦悩する表情を見て、手を差し伸べずにいられるものか。憂慮を孕んで引き締まる唇に再度口付けし、使用人は答えた。
「僭越ながら申し上げれば……愛を捧げれば宜しいかと」
「愛、を? ……んっ……!」
「求めるだけ与えるのです。満ち足りるまで、あらん限りを持って」
「だが俺は……あいつの兄で……!」
「もうすでに、弟君を欲しているというのに?」
「……!」
ベッドサイドテ—ブルに盆を置いた使用人は、啄むように口付けながら王子の胸に手を伸ばす。白手袋を嵌めた指先で触れれば、王子が息を呑むと同時にその部位は硬さを増した。
そのままベッドへ乗ると、足を王子の股間へと差し入れる。膝で弄れば、持ち上がった部位の形がシ—ツ越しに浮かび上がった。
「……弟君が殿下に助けを求める保証がおありで?」
「あいつは小さい頃から俺の後ろをついて来ていた! 今回だってきっと……!」
「殿下のように、使用人が対処したら? 弟君は心優しい方です、殿下の手を煩わせるのを良しと思わないでしょうな」
「そんな……ことは……」
「拒む自信が無いのではなく、貴方ご自身が襲いそうで恐ろしいのではありませんか、殿下」
「………………そうだ」
愛撫に任せてマウントを取ろうとした使用人を、逆に上から押さえ付ける。膂力にも長けた王子の腕は太く、使用人は力では敵わない。
仰向けの状態であれよあれよとベルトが外され、ズボンと下着が引き摺り落とされる。ケ—スからぷるりと弾けるように現れた使用人の一物は、既に勃ち上がっていた。
「あいつに欲情する自分に反吐が出る……こんなに血を呪ったことは無い」
「殿下……」
「いつもすまない。俺が王となった暁には、全てを変えてみせる。お前のことも一生生活に困らないようにしてやろう」
「いいのです、殿下……我々は王族の道具。お好きにお使いください。……それに私は殿下に謝られるより、虐げられた方が興奮致します」
「はっ……お前も大概な変態だな」
「ありがとうございます」
かつての勝気で生意気な少年の面影を見出し、満足げに笑った使用人の肌に王子の舌が触れる。
今宵もこのまま抱かれるのだろう。放心した風を装ってされるがまま、使用人は天蓋を見上げていた。
歳を重ねるにつれ、王子は抱けと言わなくなった。王家の第一の男子として、子種を与える側を保つ為であったのかもしれないと使用人は考える。
狂った王家の中、狂った王子が本当に因習を変えられるというのか。使用人は楽観視しない。これだけで変えられるならば、とっくに終焉は来ていた筈だ。
触れられる場所から熱が伝わる。ビリビリと神経が尖り出す。溺れるのは時間の問題だ。抵抗など出来ない。
「……っ、殿下……!」
「何だ……?」
「今後はたまには私のことも……思い出してくださいませね……?」
「当たり前だ……!」
久々に触れる肌は粟立ち、全身が歓喜に震える。第一王子の結婚に、第二王子の成人に祝福を捧げていたのは形だけだったと気付かされる。
体内に指を、性器を挿れられ、抱き締められるだけで余計な意識が散って行く。王子が使用人を貪るのと同じく、使用人もまた王子を激しく求めた。
2人だけの部屋に激しい息遣いとベッドの軋む規則的な音だけが響く。同性であることも、地位の差も問題ではないとばかりに、獣欲をぶつけ合う。
代替品だろうが性欲処理の道具だろうが、名目などどうでも良かった。
土石流に飲み込まれるかの如く、皆最後は快楽という名の汚濁に沈んで行くのだから。
この国に朝はまだ、来ない。
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