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48.星の声(2)
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腹の底から絞り出したようなミーアの叫びに、リオンは息を詰める。それから、小さく震える彼女の体に恐る恐る触れ、戸惑いを滲ませながら問いかけた。
「私を、守るため……だと?」
「……はい」
リオンの手から伝わる確かな温度を感じながら、ミーアはそっと目を瞑る。
トガミの思惑を知ったとき、真っ先に彼女の脳裏を過ぎったのは、悲しげに笑いながらミーアを送り出したリオンの姿だった。
自らも危険な目に遭っているにも関わらず、ミーアは彼の命を一番に案じたのだ。それが何を意味するのか、彼女自身も気づき始めている。
「……あなたは、変わった。自分の目的を果たすためだけに私をこの城に連れてきたのに、今はこんなにも優しく触れてくれる……あんなにも悲しそうな顔をしながら、私の幸せを願ってくれた」
ぽつりぽつりと呟くミーアを、リオンはまっすぐに見つめている。その眼差しはただただ優しく、ミーアは彼が本当に自分を愛しているのだということを実感せざるを得なかった。
そして同時に、彼女の中でリオンが特別な存在になっていることを、ミーアは受け入れつつあった。
「私は……まだ、あなたの行いを許すことはできない。あなたを愛しているかと聞かれても、自信を持ってそうだと答えることはできない」
「ミーア……」
「でも、あなたがトガミさんに殺されるのを黙って見過ごすこともできないのです。あなたが私を想ってくれている……ただ、その想いに報いるためだけにここへ戻ってきました」
そう言って目を伏せたミーアを、リオンは重苦しい表情で見つめる。
今までにないほど迷いを見せる彼がミーアの肩を強く掴んだそのとき、大きな音を立てて大広間の扉が開かれた。
「……おや? 意外ですねえ、まだここにいましたか」
部屋に踏み入ってきたのはトガミと、先ほどミーアを襲撃した男だった。ミーアの予想した通り、その背後には何人かの屈強な体躯の者たちがいて、トガミが先ほどよりも多くの暗殺者を引き連れてきたことを察する。
「その様子じゃあ、何もかもバラされてしまった感じですかねえ?」
「……ああ。先ほど起こったという出来事は、すべてミーアに聞いた」
「ふふ、そうですか。ミーア様にはまんまと逃げられてしまいましたからねえ……やっぱり、さっさと殺しておけばよかった」
トガミの発したその台詞に、リオンが悲痛に目を見開く。きっと彼の心のどこかでは、トガミの裏切りを信じたくない気持ちがあったのだろう。
その淡い期待を壊すかのように、トガミは腰に指していた短剣を手に取り、それを迷いなくリオンへと向けた。
「――リオン殿下。この城を、僕に明け渡してくれませんか?」
「なっ……なにを……!?」
「あなたたちのような愚鈍な王族が仕切っているから、この国はいつまで経ってもパッとしない小国の一つに甘んじているんですよ。太陽の国だなんて呼んでいい気になっているのは、あなたたちくらいです」
表情を変えずに言い放ったトガミにリオンは驚愕しながらも、ミーアを守るかのように彼女の前に立った。そして自分も腰に携えた剣を抜き、鋭い眼差しでトガミを睨みつける。
「トガミ……おまえの目的は、なんだ?」
「今、言いましたよねえ? この国を、僕のものにしたいという意味ですよ。わかりませんでしたか?」
「そのようなことができるわけがないだろう。たとえ私を殺せたとしても、陛下やルカたち、それに城の者が皆おまえに従うとでも?」
リオンが厳しく問いただす。しかし、トガミはそんな彼の鋭い視線を受けてもなお不適な笑みを浮かべながら言い放った。
「ははっ、従っていたじゃありませんか! お忘れですか? あなたたち王族が何より大事にしている『星のお導き』とは、一体誰が出していたんですかねえ?」
くすくすと笑うトガミに、リオンは信じられないものでも見たかのように目を見開いた。トガミの言わんとしていることはリオンにも伝わったようだが、それを受け入れたくないのか、彼はわなわなと震えながら拳を握るばかりだ。
一言も発せなくなったリオンに代わり、ミーアは厳しい目をトガミに向けながら確信を持って口を開いた。
「トガミさん、あなたは……『星の声』なんてもの、聞いてはいないのですね」
「私を、守るため……だと?」
「……はい」
リオンの手から伝わる確かな温度を感じながら、ミーアはそっと目を瞑る。
トガミの思惑を知ったとき、真っ先に彼女の脳裏を過ぎったのは、悲しげに笑いながらミーアを送り出したリオンの姿だった。
自らも危険な目に遭っているにも関わらず、ミーアは彼の命を一番に案じたのだ。それが何を意味するのか、彼女自身も気づき始めている。
「……あなたは、変わった。自分の目的を果たすためだけに私をこの城に連れてきたのに、今はこんなにも優しく触れてくれる……あんなにも悲しそうな顔をしながら、私の幸せを願ってくれた」
ぽつりぽつりと呟くミーアを、リオンはまっすぐに見つめている。その眼差しはただただ優しく、ミーアは彼が本当に自分を愛しているのだということを実感せざるを得なかった。
そして同時に、彼女の中でリオンが特別な存在になっていることを、ミーアは受け入れつつあった。
「私は……まだ、あなたの行いを許すことはできない。あなたを愛しているかと聞かれても、自信を持ってそうだと答えることはできない」
「ミーア……」
「でも、あなたがトガミさんに殺されるのを黙って見過ごすこともできないのです。あなたが私を想ってくれている……ただ、その想いに報いるためだけにここへ戻ってきました」
そう言って目を伏せたミーアを、リオンは重苦しい表情で見つめる。
今までにないほど迷いを見せる彼がミーアの肩を強く掴んだそのとき、大きな音を立てて大広間の扉が開かれた。
「……おや? 意外ですねえ、まだここにいましたか」
部屋に踏み入ってきたのはトガミと、先ほどミーアを襲撃した男だった。ミーアの予想した通り、その背後には何人かの屈強な体躯の者たちがいて、トガミが先ほどよりも多くの暗殺者を引き連れてきたことを察する。
「その様子じゃあ、何もかもバラされてしまった感じですかねえ?」
「……ああ。先ほど起こったという出来事は、すべてミーアに聞いた」
「ふふ、そうですか。ミーア様にはまんまと逃げられてしまいましたからねえ……やっぱり、さっさと殺しておけばよかった」
トガミの発したその台詞に、リオンが悲痛に目を見開く。きっと彼の心のどこかでは、トガミの裏切りを信じたくない気持ちがあったのだろう。
その淡い期待を壊すかのように、トガミは腰に指していた短剣を手に取り、それを迷いなくリオンへと向けた。
「――リオン殿下。この城を、僕に明け渡してくれませんか?」
「なっ……なにを……!?」
「あなたたちのような愚鈍な王族が仕切っているから、この国はいつまで経ってもパッとしない小国の一つに甘んじているんですよ。太陽の国だなんて呼んでいい気になっているのは、あなたたちくらいです」
表情を変えずに言い放ったトガミにリオンは驚愕しながらも、ミーアを守るかのように彼女の前に立った。そして自分も腰に携えた剣を抜き、鋭い眼差しでトガミを睨みつける。
「トガミ……おまえの目的は、なんだ?」
「今、言いましたよねえ? この国を、僕のものにしたいという意味ですよ。わかりませんでしたか?」
「そのようなことができるわけがないだろう。たとえ私を殺せたとしても、陛下やルカたち、それに城の者が皆おまえに従うとでも?」
リオンが厳しく問いただす。しかし、トガミはそんな彼の鋭い視線を受けてもなお不適な笑みを浮かべながら言い放った。
「ははっ、従っていたじゃありませんか! お忘れですか? あなたたち王族が何より大事にしている『星のお導き』とは、一体誰が出していたんですかねえ?」
くすくすと笑うトガミに、リオンは信じられないものでも見たかのように目を見開いた。トガミの言わんとしていることはリオンにも伝わったようだが、それを受け入れたくないのか、彼はわなわなと震えながら拳を握るばかりだ。
一言も発せなくなったリオンに代わり、ミーアは厳しい目をトガミに向けながら確信を持って口を開いた。
「トガミさん、あなたは……『星の声』なんてもの、聞いてはいないのですね」
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