上 下
47 / 55

47.星の声(1)

しおりを挟む
「リオン殿下っ!!」

 ソルズ城の門番に理由を話し、リオンのいる部屋へと通されたミーアは、扉を開け放つなり叫んだ。
 中にいたリオンはミーアの姿を見ると同時に目を見開いたが、すぐに表情を険しくして問い詰める。

「ミーア……っ、なぜ戻ってきた!? 早く王都から逃げろと言っただろう!」
「リオン殿下に、急ぎ伝えなければならないことがあるのです! どうか聞いてください!」

 緊迫した様子のミーアを見て、リオンは閉口する。そして、一歩だけ彼女に近づき「話してくれ」と言葉の続きを待った。

「リオン殿下と、ルカ殿下を賊に襲撃させたのは……トガミさんです。私はつい先ほど、王都の街中で彼に殺されそうになりました」
「な……っ!?」
「信じられないかもしれませんが、本当のことなのです! それにトガミさんは私だけでなく、いずれはリオン殿下の命も狙うでしょう。……そう、話していました」

 リオンだけでなく、周囲に控えて様子を見守っていた他の側近たちや護衛も言葉を失うほど驚愕している。ミーアは声を張って、先ほど城下で起こった出来事を順々に説明した。
 トガミが薬を偽ってミーアに飲ませていたことや、暗殺者らしき男との会話、そしてセイレン家の当主に助けられやっとの思いでここまで逃れてきたことまで早口で説明する。それから、リオンに向かって懇願するように叫んだ。

「きっともうすぐ、トガミさんもここまで辿り着いてしまいます! その前に、リオン殿下はどうか安全な場所に隠れてください!」

 ミーアの叫びに、周囲がどよめく。これまでずっとリオンの近くにいたトガミが謀反を企てているなどということを、誰も信じることができないのだろう。
 リオンは眉間に皺を寄せながら、ミーアに向き合った。

「信じたくは、ないが……ミーアの話は理解した。だが……」
「敵は、トガミさんだけではないのです! 彼はおそらく、暗殺に長けた者を引き連れて来ます。この城の人たちにも被害が及ぶ前に、早く逃げないと……!」

 必死に説得するミーアに、リオンは真剣な顔で頷く。そして、彼は護衛たちに向かって声高々に指示を出した。

「護衛の者は、できるかぎりの装備をしたうえで陛下やルカたちの警護を頼む! それから、手の空いている者は城の皆を安全な場所へ導いてほしい!」

 リオンの声に、傍に控えていた従者たちが一斉に動き出す。
 しかし、リオン自身は彼らとともに逃げるどころか、堂々とした所作で部屋の隅に置かれていた剣を腰に携えはじめた。

「リオン、殿下……? 何をしているのですか? 早く、一緒に隠れないとっ……!」
「私は王子として……いや、トガミの主として彼と正面から向き合わねばならない。ここで彼を迎えよう」

 その言葉に、ミーアは目を剥いた。

「なっ……、なりません! このことが露見した以上、トガミさんはきっとあなたを殺すつもりです! 今度こそ、殿下の命を狙って……っ」
「そんなことはどうでもいい。此度のことは、私が責任を持つべきだろう。ミーア、君は皆とともに早く逃げなさい」
 
 ミーアの目を見もせずにそう言い放ったリオンに、彼女の体はおのずと震え出す。己の命など投げ出しても構わないとでも言うようなリオンの態度に、ミーアは我を忘れて憤った。
 
「そんな、こと……? リオン殿下ご自身は、どうなっても構わないというのですか!?」

 必死の思いで叫ぶミーアを、リオンは苦しげな表情で見つめる。

「……その通りだ。ミーアや他の者たちが傷つけられるくらいなら、私一人が犠牲になる方がいい。君を守れるのなら、私の命などいくらでもくれてやろう」

 覚悟を決めた眼差しでそう言ったリオンに、ミーアは思わず詰め寄る。そして、目に涙を滲ませながら彼に向かって叫んだ。

「誰かを大事に思うというのは、自分を蔑ろにしてもよいということではありません! 私は、あなたを守るためにここまで戻って来たのに……っ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

閉じ込められて囲われて

なかな悠桃
恋愛
新藤菜乃は会社のエレベーターの故障で閉じ込められてしまう。しかも、同期で大嫌いな橋本翔真と一緒に・・・。

純潔の寵姫と傀儡の騎士

四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。 世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。

生贄

竹輪
恋愛
十年間王女の身代わりをしてきたリラに命令が下る。 曰く、自分の代わりに処女を散らして来いと……。 **ムーンライトノベルズにも掲載しています

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

夜這いを仕掛けてみたら

よしゆき
恋愛
付き合って二年以上経つのにキスしかしてくれない紳士な彼氏に夜這いを仕掛けてみたら物凄く性欲をぶつけられた話。

若社長な旦那様は欲望に正直~新妻が可愛すぎて仕事が手につかない~

雪宮凛
恋愛
「来週からしばらく、在宅ワークをすることになった」 夕食時、突如告げられた夫の言葉に驚く静香。だけど、大好きな旦那様のために、少しでも良い仕事環境を整えようと奮闘する。 そんな健気な妻の姿を目の当たりにした夫の至は、仕事中にも関わらずムラムラしてしまい――。 全3話 ※タグにご注意ください/ムーンライトノベルズより転載

【完結】彼女はまだ本当のことを知らない

七夜かなた
恋愛
騎士団の受付係として働くタニヤは実家を助けるため、女性用のエロい下着のモニターのバイトをしていた。 しかしそれを、女性関係が派手だと噂の狼獣人の隊長ランスロット=テスターに知られてしまった。 「今度俺にそれを着ているところを見せてよ」 彼はタニヤにそう言って、街外れの建物に連れて行った。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...