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最終章
2.幸せの理由
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それから、さらに二週間が経った。
明日で、ソウと結婚してちょうど一年が経つ。一年前の今頃は、決闘で負けた悔しさや一人敵国に連れて来られた寂しさ、そのうえ怪我を負っていたこともあって辛い日々を過ごしていた。そんな中で結婚式を無理やり挙げたので、正直言って結婚式自体にはあまり良い思い出がない。ソウの思惑や気持ちを理解して初めて、本当の意味で夫婦になったのだと今なら思える。
あれからソウと話し合って、お互い結婚記念日のプレゼントは無しにして丸一日休みを取ろうということになった。一日だけなのでどこか遠くに行くことはできないけれど、たまには政務を忘れてのんびりすることにしたのだ。
そして今日は、月に一度の定期検診の日だ。午前中で仕事を終えて、昼食をとってからタカミのいる医務室へと向かった。
「失礼しまーす。タカミさん、診察を……って、リサちゃん? それにトーヤも、アンナさんまで……」
「あ、ユキ様! すみません、お迎えに行けなくて……!」
「ううん、それはいいんだけど……皆さん揃って、どうしたんですか?」
医務室にはタカミの他にリサとトーヤ、それからアンナまで、見知った顔が勢ぞろいしていた。リサとトーヤがいるのはまだ分かるが、アンナまでここにいるのは珍しい。
「今、服の発注を受けて城に来てたのよ! そしたらタカミとばったり会ってね、折角だからお茶しようってことになったの」
「はい。医務室であれば殿下もいらっしゃると思ったので、ここで集まっていたんです」
「そうだったんですね! トーヤは今日お休みなの?」
「ああ、夜勤明けだけどな。リサが、明日の打ち合わせするからどうしても来いって……」
「トーヤっ!!」
眠そうにしながら答えたトーヤの口を、隣に座っていたリサが慌てて塞ぐ。
「打ち合わせ?」
「いえ、なんでもないんです! トーヤったら、寝ぼけて変なこと言っちゃってー! ね、トーヤ!!」
口を塞がれたままのトーヤが、必死でこくこくと頷いている。その様子を見てアンナは呆れた顔をして、タカミはいつものように穏やかに笑っていた。
「殿下、診察の前に紅茶でもいかがですか? アンナさんが街で買ってきてくださったんですよ」
「はい、頂きたいです!」
「では少々お待ちくださいね、カップを用意しますから」
タカミが優雅に紅茶を淹れる様子を眺めていると、アンナが横から楽しそうに話しかけてきた。
「ねえねえユキちゃん、最近ソウとはどうなのよ? ケンカしてない?」
「ケンカばっかりですよ……だってソウ、すぐ意地悪するんです! この前も、わたしに間違った言葉教えて恥かかせようとして……!」
「なになに? 何て教わったのよ?」
「そ、それは……」
アンナにも愚痴を聞いてもらおうと勇んで話し始めたのだが、いざ自分で説明するとなるとやはり恥ずかしい。もごもごと言いよどんでいると、事情を知っているタカミとリサが援護してくれた。
「……陛下、『姫初め』の意味をわざと間違えて殿下に教えたそうですよ。年が明けて初めての政務のことを姫初めと呼ぶと」
「ユキ様がそれを信じて、城の者と話すときに使ってしまわれて。ユキ様は何も悪くないんですよ? 全部陛下が悪いんですから」
思い出すたびに情けなくなる。世間知らずなわたしのためにと、ソウはいろんなことを教えてくれるのだが、その情報を鵜呑みにすると痛い目に遭うということを身を持って確かめることとなってしまった。
年が明けてから、城内ですれ違った宰相や大臣、侍女たちに『今日は姫初めなんです!』と挨拶をしてまわり、タカミに間違いを指摘してもらうまで気付かなかった。挨拶をした皆が何やら驚いた顔をしているな、とは思っていたが、まさかこんな恥ずかしい間違いをしているとは思わなかったのだ。それも全部ソウのいたずらのせいだ。
わたしが真っ赤な顔で挨拶をした人全員に理由を説明し、誤解を解いてまわっているのを見て、ソウはお腹を抱えて笑っていた。今思い出しても腹立たしいことこの上ない。
「ほんっと、ソウったら子どもねえ。好きな子いじめて面白がるなんて」
「本当ですね……まあ、喧嘩するほど仲が良い、とも言いますから」
タカミが話をまとめながら、温かい紅茶の入ったカップを差し出してくれる。礼を言ってそれを受け取ると、ふわりと良い香りがした。
「でもユキ様が来てから、陛下はすごく楽しそうですよね。前から常ににやついてるような人でしたけど、あんなに楽しそうに笑う人だとは思いませんでした」
「そうですね。私も陛下とは長い付き合いですが、最近の陛下は以前よりも良い意味で人間味あふれる人になったと思います」
「たしかに、それは私も思うわ。昔のソウは、感情を読まれないようにいつでも笑ってるような気がしたもの。それが変わったのも、ユキちゃんのおかげね」
三人がそう言ってくれるのを、わたしはどこかくすぐったい気持ちで聞いていた。
わたし自身も、ソウは以前と変わったように思える。それが良いのか悪いのかはさておき、ソウが周囲の人に愛され、慕われているのを感じて嬉しくなった。
「……ユキ、お前も変わったよな。抜けてんのは相変わらずだけど、素直に怒ったり泣いたり……無理して笑わなくなった」
リサに口を塞がれてからずっと押し黙っていたトーヤが口を開く。その顔はとても穏やかだ。
「俺は、今みたいに自分に正直なユキを見てる方が楽しいし嬉しい。きっと、親父もそう思ってるよ」
「……そう、かな?」
「ああ。まあ、親父が生きてたらソウの暴走も多少は止められたかもしれねぇけどな」
そう言って笑うトーヤを見て、わたしもつられて笑ってしまう。トーヤにそう言われると、なぜか本当に父様も喜んでくれているような気がするのだ。
「陛下やトーヤだけじゃなくて、私も城の者たちも、ユキ様が来てから明るくなりました。毎日が大変で忙しくても、楽しく過ごせるのって一番幸せなことだと思うんです」
「うん……わたしも、今ここでみんなと過ごすことができて幸せだよ」
リサの言葉に、思わず目頭が熱くなった。
かつて一つの国であったとはいえ、わたしは敵国の王であった人間だ。そんなわたしを受け入れ、支えてくれる皆には言い尽くせないほど感謝している。
トーヤだってそうだ。ノースの国王として一番強くあるべきわたしが、決闘に負けて連れ去られたうえに、敵であったソウを愛してしまった。トーヤの積年の思いにも気づかず、ずっと自分勝手に過ごしてきた。それなのに、今もこうしてわたしを近くで見守ってくれている。
わたしの手にある幸福をもたらしてくれたのは、そうして支えてくれたみんなと、ソウだ。わたしは一生をかけてその恩に報いなければならない。でもそれは、きっとわたしにとって何の苦にもならないのだ。
穏やかに日々を過ごせることと、そんな日々を作ってくれている人々に感謝しながら、これからも過ごしていこうと心に決めた。
明日で、ソウと結婚してちょうど一年が経つ。一年前の今頃は、決闘で負けた悔しさや一人敵国に連れて来られた寂しさ、そのうえ怪我を負っていたこともあって辛い日々を過ごしていた。そんな中で結婚式を無理やり挙げたので、正直言って結婚式自体にはあまり良い思い出がない。ソウの思惑や気持ちを理解して初めて、本当の意味で夫婦になったのだと今なら思える。
あれからソウと話し合って、お互い結婚記念日のプレゼントは無しにして丸一日休みを取ろうということになった。一日だけなのでどこか遠くに行くことはできないけれど、たまには政務を忘れてのんびりすることにしたのだ。
そして今日は、月に一度の定期検診の日だ。午前中で仕事を終えて、昼食をとってからタカミのいる医務室へと向かった。
「失礼しまーす。タカミさん、診察を……って、リサちゃん? それにトーヤも、アンナさんまで……」
「あ、ユキ様! すみません、お迎えに行けなくて……!」
「ううん、それはいいんだけど……皆さん揃って、どうしたんですか?」
医務室にはタカミの他にリサとトーヤ、それからアンナまで、見知った顔が勢ぞろいしていた。リサとトーヤがいるのはまだ分かるが、アンナまでここにいるのは珍しい。
「今、服の発注を受けて城に来てたのよ! そしたらタカミとばったり会ってね、折角だからお茶しようってことになったの」
「はい。医務室であれば殿下もいらっしゃると思ったので、ここで集まっていたんです」
「そうだったんですね! トーヤは今日お休みなの?」
「ああ、夜勤明けだけどな。リサが、明日の打ち合わせするからどうしても来いって……」
「トーヤっ!!」
眠そうにしながら答えたトーヤの口を、隣に座っていたリサが慌てて塞ぐ。
「打ち合わせ?」
「いえ、なんでもないんです! トーヤったら、寝ぼけて変なこと言っちゃってー! ね、トーヤ!!」
口を塞がれたままのトーヤが、必死でこくこくと頷いている。その様子を見てアンナは呆れた顔をして、タカミはいつものように穏やかに笑っていた。
「殿下、診察の前に紅茶でもいかがですか? アンナさんが街で買ってきてくださったんですよ」
「はい、頂きたいです!」
「では少々お待ちくださいね、カップを用意しますから」
タカミが優雅に紅茶を淹れる様子を眺めていると、アンナが横から楽しそうに話しかけてきた。
「ねえねえユキちゃん、最近ソウとはどうなのよ? ケンカしてない?」
「ケンカばっかりですよ……だってソウ、すぐ意地悪するんです! この前も、わたしに間違った言葉教えて恥かかせようとして……!」
「なになに? 何て教わったのよ?」
「そ、それは……」
アンナにも愚痴を聞いてもらおうと勇んで話し始めたのだが、いざ自分で説明するとなるとやはり恥ずかしい。もごもごと言いよどんでいると、事情を知っているタカミとリサが援護してくれた。
「……陛下、『姫初め』の意味をわざと間違えて殿下に教えたそうですよ。年が明けて初めての政務のことを姫初めと呼ぶと」
「ユキ様がそれを信じて、城の者と話すときに使ってしまわれて。ユキ様は何も悪くないんですよ? 全部陛下が悪いんですから」
思い出すたびに情けなくなる。世間知らずなわたしのためにと、ソウはいろんなことを教えてくれるのだが、その情報を鵜呑みにすると痛い目に遭うということを身を持って確かめることとなってしまった。
年が明けてから、城内ですれ違った宰相や大臣、侍女たちに『今日は姫初めなんです!』と挨拶をしてまわり、タカミに間違いを指摘してもらうまで気付かなかった。挨拶をした皆が何やら驚いた顔をしているな、とは思っていたが、まさかこんな恥ずかしい間違いをしているとは思わなかったのだ。それも全部ソウのいたずらのせいだ。
わたしが真っ赤な顔で挨拶をした人全員に理由を説明し、誤解を解いてまわっているのを見て、ソウはお腹を抱えて笑っていた。今思い出しても腹立たしいことこの上ない。
「ほんっと、ソウったら子どもねえ。好きな子いじめて面白がるなんて」
「本当ですね……まあ、喧嘩するほど仲が良い、とも言いますから」
タカミが話をまとめながら、温かい紅茶の入ったカップを差し出してくれる。礼を言ってそれを受け取ると、ふわりと良い香りがした。
「でもユキ様が来てから、陛下はすごく楽しそうですよね。前から常ににやついてるような人でしたけど、あんなに楽しそうに笑う人だとは思いませんでした」
「そうですね。私も陛下とは長い付き合いですが、最近の陛下は以前よりも良い意味で人間味あふれる人になったと思います」
「たしかに、それは私も思うわ。昔のソウは、感情を読まれないようにいつでも笑ってるような気がしたもの。それが変わったのも、ユキちゃんのおかげね」
三人がそう言ってくれるのを、わたしはどこかくすぐったい気持ちで聞いていた。
わたし自身も、ソウは以前と変わったように思える。それが良いのか悪いのかはさておき、ソウが周囲の人に愛され、慕われているのを感じて嬉しくなった。
「……ユキ、お前も変わったよな。抜けてんのは相変わらずだけど、素直に怒ったり泣いたり……無理して笑わなくなった」
リサに口を塞がれてからずっと押し黙っていたトーヤが口を開く。その顔はとても穏やかだ。
「俺は、今みたいに自分に正直なユキを見てる方が楽しいし嬉しい。きっと、親父もそう思ってるよ」
「……そう、かな?」
「ああ。まあ、親父が生きてたらソウの暴走も多少は止められたかもしれねぇけどな」
そう言って笑うトーヤを見て、わたしもつられて笑ってしまう。トーヤにそう言われると、なぜか本当に父様も喜んでくれているような気がするのだ。
「陛下やトーヤだけじゃなくて、私も城の者たちも、ユキ様が来てから明るくなりました。毎日が大変で忙しくても、楽しく過ごせるのって一番幸せなことだと思うんです」
「うん……わたしも、今ここでみんなと過ごすことができて幸せだよ」
リサの言葉に、思わず目頭が熱くなった。
かつて一つの国であったとはいえ、わたしは敵国の王であった人間だ。そんなわたしを受け入れ、支えてくれる皆には言い尽くせないほど感謝している。
トーヤだってそうだ。ノースの国王として一番強くあるべきわたしが、決闘に負けて連れ去られたうえに、敵であったソウを愛してしまった。トーヤの積年の思いにも気づかず、ずっと自分勝手に過ごしてきた。それなのに、今もこうしてわたしを近くで見守ってくれている。
わたしの手にある幸福をもたらしてくれたのは、そうして支えてくれたみんなと、ソウだ。わたしは一生をかけてその恩に報いなければならない。でもそれは、きっとわたしにとって何の苦にもならないのだ。
穏やかに日々を過ごせることと、そんな日々を作ってくれている人々に感謝しながら、これからも過ごしていこうと心に決めた。
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