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第1章
18.君を追いかけて
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「陛下、失礼しますっ!」
「なんやリサちゃん、そない大声で……」
「タカミさんには事を荒立てるなと言われましたが、わたしは我慢できません。単刀直入に申し上げますが、陛下、浮気してるんですか!?」
「……は?」
どかどかといきなり部屋に入ってきたかと思えば、リサは怒り心頭といった様子だった。しかも、まったく身に覚えのないことで怒られているようだ。
「浮気? 誰が?」
「だから、陛下です! ユキ様に相談されたんです、陛下が女性からの手紙を受け取って、気まずそうにしていたと! しかも、キスマーク付きの!」
「手紙って……まさか、あれのことかな」
「や、やっぱりそうなんですね!? 見損ないましたっ!!」
リサが怒りのあまり目に涙を溜めながら、右手を大きく振りかぶる。
「なっ……リサちゃん、誤解や!」
「問答無用っ!!」
慌てて弁明しようとしたが、時すでに遅し。ばしっと小気味よい音を立てて、リサの手が振り下ろされた。
「いった……! もう、ボク最近ビンタされすぎやろ……」
「誰のせいだと思ってるんですか! 今日という今日はもう許しません、ユキ様に謝ってください! そして金輪際近付かないでくださいっ!」
「そやから、誤解やって! あの手紙はアンナからや!」
「えっ……アンナさん?」
仁王立ちしてソウを睨み付けていたリサの語気が弱まる。
証拠を見せるように、くしゃくしゃになった手紙をポケットから取り出し、リサに見せた。リサは訝しげな顔をしながらその手紙を開いたが、その表情はだんだんと和らいでいく。
ほっとして、頬をさすりながら弁明した。
「キミも会うたことあるやろ? この城の衣装は全部アンナがデザインしたもんやし」
「ええ、何回か……」
アンナは、サウスで衣装店を経営している女性だ。元々貴族の出身であるアンナは、幼い頃からの知り合いだった。
家を出て、他国でデザインの勉強をしてきたアンナの店は、デザインから縫製まで自分の店で行っていて、その出来も良いので、何年か前から城の者が着る正装はアンナの店で頼むようになっていた。
いつだったか、うっかりユキの話をアンナにしてしまってから興味津々で、城に来るたびにユキの話をさせられていたのだ。
「あいつ、ボクとユキちゃんが結婚するときは、ユキちゃんのドレスを自分が仕立てたい言うとってん。そやけど結婚式のあたりはボクもバタバタしてたし、衣装なんかは急いで他に頼んでもうたから……」
「はあ……それで、アンナさんがお怒りだと?」
「たぶんな。あいつ、怒ると面倒くさいねん。なんや話だけでユキちゃんのことえらい気に入ってたし。実際会うたら何するか分からへん」
「そんな、アンナさんがユキ様に危害を加えるわけないじゃないですか」
「危害は加えへんやろな。ただ、やれ採寸やー、やれ布を選びに行くー、とかでユキちゃんを連れ出しかねへん。そやから城に呼びたなかってん」
「それで、手紙を読んで苦い顔を?」
苦い顔をした覚えはないが、つい顔に出てしまっていたのだろう。こくりと頷くと、リサは力が抜けたように膝から崩れ落ちた。
「よかったぁ……! 私、ユキ様と逃避行しなきゃいけないところでした」
「なんやそれ。大体、ボクが浮気なんてするわけないやん、あない可愛い王妃がおるのに」
「そりゃそうなんですけど……ユキ様が切羽詰った様子だったので、つい」
「それで、当のユキちゃんはどこにおるん?」
「あ、少し外に出るって言って、お出かけに……」
「え? 一人で?」
「はい。お供しようとしたんですけど、断られてしまって……」
「……心配やな。ボク、探してくるわ」
嫌な予感がして、すぐさま上着を羽織って部屋から出ようとしたとき、部屋の扉が叩かれた。
「陛下、アンナ様が陛下にお会いしたいとのことでお連れいたしました」
「……最悪や」
悪態をついたところで、アンナが潔く帰ってくれるはずもない。仕方なく、アンナを部屋に招き入れた。
「やっほー! ねえソウ、さっき王妃に会ったわよ! でも、なんだか青い顔して逃げちゃったんだけど」
「え!? どこで会うたん!?」
「城門。私が入ろうとしたら、ちょうど出てきたのよ。ていうかアンタ、私の許可なくとっとと結婚式挙げちゃってどういうつもりよ!?」
「今はそれどころやない! リサちゃん悪いけど相手しといて!」
「ちょっと、ソウ!?」
ユキがアンナに会って逃げたということは、あの手紙の主が彼女だということに気付いたのかもしれない。リサに相談したという内容から考えて、ユキもきっと勘違いしている。
やっと、ユキの心が自分に向き始めたというのに。
城門までたどり着き衛兵に尋ねると、どうやらユキは湖の方向に走っていったらしい。
あまり土地勘のないユキが、そう遠くに行くとは思えない。そういえば、あの湖で幼い頃何度かユキと遊んだことがある。ユキはきっとそこにいる。
「なんやリサちゃん、そない大声で……」
「タカミさんには事を荒立てるなと言われましたが、わたしは我慢できません。単刀直入に申し上げますが、陛下、浮気してるんですか!?」
「……は?」
どかどかといきなり部屋に入ってきたかと思えば、リサは怒り心頭といった様子だった。しかも、まったく身に覚えのないことで怒られているようだ。
「浮気? 誰が?」
「だから、陛下です! ユキ様に相談されたんです、陛下が女性からの手紙を受け取って、気まずそうにしていたと! しかも、キスマーク付きの!」
「手紙って……まさか、あれのことかな」
「や、やっぱりそうなんですね!? 見損ないましたっ!!」
リサが怒りのあまり目に涙を溜めながら、右手を大きく振りかぶる。
「なっ……リサちゃん、誤解や!」
「問答無用っ!!」
慌てて弁明しようとしたが、時すでに遅し。ばしっと小気味よい音を立てて、リサの手が振り下ろされた。
「いった……! もう、ボク最近ビンタされすぎやろ……」
「誰のせいだと思ってるんですか! 今日という今日はもう許しません、ユキ様に謝ってください! そして金輪際近付かないでくださいっ!」
「そやから、誤解やって! あの手紙はアンナからや!」
「えっ……アンナさん?」
仁王立ちしてソウを睨み付けていたリサの語気が弱まる。
証拠を見せるように、くしゃくしゃになった手紙をポケットから取り出し、リサに見せた。リサは訝しげな顔をしながらその手紙を開いたが、その表情はだんだんと和らいでいく。
ほっとして、頬をさすりながら弁明した。
「キミも会うたことあるやろ? この城の衣装は全部アンナがデザインしたもんやし」
「ええ、何回か……」
アンナは、サウスで衣装店を経営している女性だ。元々貴族の出身であるアンナは、幼い頃からの知り合いだった。
家を出て、他国でデザインの勉強をしてきたアンナの店は、デザインから縫製まで自分の店で行っていて、その出来も良いので、何年か前から城の者が着る正装はアンナの店で頼むようになっていた。
いつだったか、うっかりユキの話をアンナにしてしまってから興味津々で、城に来るたびにユキの話をさせられていたのだ。
「あいつ、ボクとユキちゃんが結婚するときは、ユキちゃんのドレスを自分が仕立てたい言うとってん。そやけど結婚式のあたりはボクもバタバタしてたし、衣装なんかは急いで他に頼んでもうたから……」
「はあ……それで、アンナさんがお怒りだと?」
「たぶんな。あいつ、怒ると面倒くさいねん。なんや話だけでユキちゃんのことえらい気に入ってたし。実際会うたら何するか分からへん」
「そんな、アンナさんがユキ様に危害を加えるわけないじゃないですか」
「危害は加えへんやろな。ただ、やれ採寸やー、やれ布を選びに行くー、とかでユキちゃんを連れ出しかねへん。そやから城に呼びたなかってん」
「それで、手紙を読んで苦い顔を?」
苦い顔をした覚えはないが、つい顔に出てしまっていたのだろう。こくりと頷くと、リサは力が抜けたように膝から崩れ落ちた。
「よかったぁ……! 私、ユキ様と逃避行しなきゃいけないところでした」
「なんやそれ。大体、ボクが浮気なんてするわけないやん、あない可愛い王妃がおるのに」
「そりゃそうなんですけど……ユキ様が切羽詰った様子だったので、つい」
「それで、当のユキちゃんはどこにおるん?」
「あ、少し外に出るって言って、お出かけに……」
「え? 一人で?」
「はい。お供しようとしたんですけど、断られてしまって……」
「……心配やな。ボク、探してくるわ」
嫌な予感がして、すぐさま上着を羽織って部屋から出ようとしたとき、部屋の扉が叩かれた。
「陛下、アンナ様が陛下にお会いしたいとのことでお連れいたしました」
「……最悪や」
悪態をついたところで、アンナが潔く帰ってくれるはずもない。仕方なく、アンナを部屋に招き入れた。
「やっほー! ねえソウ、さっき王妃に会ったわよ! でも、なんだか青い顔して逃げちゃったんだけど」
「え!? どこで会うたん!?」
「城門。私が入ろうとしたら、ちょうど出てきたのよ。ていうかアンタ、私の許可なくとっとと結婚式挙げちゃってどういうつもりよ!?」
「今はそれどころやない! リサちゃん悪いけど相手しといて!」
「ちょっと、ソウ!?」
ユキがアンナに会って逃げたということは、あの手紙の主が彼女だということに気付いたのかもしれない。リサに相談したという内容から考えて、ユキもきっと勘違いしている。
やっと、ユキの心が自分に向き始めたというのに。
城門までたどり着き衛兵に尋ねると、どうやらユキは湖の方向に走っていったらしい。
あまり土地勘のないユキが、そう遠くに行くとは思えない。そういえば、あの湖で幼い頃何度かユキと遊んだことがある。ユキはきっとそこにいる。
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