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6.蟒蛇
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「……ねえ」
「む? どうした、天音」
「名前……名前くらい、教えてよ。夫婦になるんでしょ? 私たち」
寝転がったまま横柄な態度で尋ねた私に、男は面食らった顔をした。こんな顔もするのかと、私はちょっと可笑しくなる。
「……俺の名を知りたいのか」
「そりゃそうよ。うわばみっていうのは、種族の名前なんでしょう? 私は、あなたの名前が知りたい」
そう言い切ると、男は困ったように眉根を寄せた。どういうわけか、たかが名前を教えるのを渋っているようだ。私をこんな目に遭わせているくせに。
「まさか、名前も言わないで私を抱くつもり? あんた、仮にも神様でしょ? 嫁になる覚悟までした私に対して失礼だと思うんだけど」
「待て。別に俺は、名を教えることを躊躇しているのではない。ただ、お前が……」
しばしの間、男は考え込むように口を閉ざす。しかし、真っ直ぐに男を見つめる私の視線に気付くと、意を決したように口を開いた。
「……うわばみにとって、名というものは命と同じくらい重要なものだ。だから親と自分以外は知らぬし、軽々しく口にしてよいものではない」
「え……そ、そうなんだ」
「だから俺の名を教えたその時から、お前はもう俺の伴侶にならざるを得なくなる。いくらお前が拒否しても抗えない。それがうわばみの仕来りだからだ」
真面目な顔でそう告げられて、少し怖気づく。どう足掻いても抗えない仕来りがあるなんて、この男はこんな形をしているけれどやっぱり神様らしい。
でも逆に言えば、そんな仕来りがあるならば、なぜこの男はそれを最初から行使しなかったのだろう。まわりくどく私を説得しなくたって、甲斐甲斐しく私に触れなくたって、名さえ教えてしまえば私はこの男の嫁にならざるを得なかったのに。
「……あんた、やっぱり変だよ。昨夜たった一回飲み交わしただけで、どうして私にそこまでしてくれるの?」
「…………」
「蛇って、人を唆す生き物なんじゃないの? それとも、うわばみと蛇はまったく別物ってこと?」
「……どうした、天音。頭でも打ったか」
「打ってない! もう、細かいこと気にしなくていいから! だから早くあんたの名前教えて!」
捲し立てるようにそう叫ぶと、男はまた驚いたように目を見開いた。恐ろしい化け物だと思っていたけれど、この男はこんなにも人間らしい表情をする。そして人間と同じように、いや、もしかしたらそれ以上に、慈悲深い化け物だった。
少しの間、沈黙が流れる。男は私の瞳をじっと見つめ、そして深く息を吸ってから絞り出すように声を発した。
「──凪。それが俺の名だ」
なぎ。
男の声に続いて、小さく声に出してみる。
初めて呼ぶはずなのに、不思議なくらい馴染みのある響きだった。
「……凪。私を、お嫁さんにもらってくれる?」
「ああ。お前しかいない。この俺を酔い潰した、うわばみ様よ」
くすくすと笑い合って、どちらかともなく口づけを交わした。
初めは唇が触れ合うだけだったけれど、いつの間にか凪の細長い舌が入り込んで私の舌を器用に絡め取る。ついさっきは失禁するほどこの舌が恐ろしかったのに、人の順応性とは便利なものだ。今では何の恐怖もなく、むしろ好意をもってその舌を受け入れている。
そして、凪の手のひらがそっと私の脚を割り開いた。彼の体がその隙間に入り込んで、露わになった私の秘所に硬い何かが押し当てられる。熱いような冷たいような、不思議な感覚だ。
「入るぞ。天音」
「……っ、うん」
私が頷いたのを確認して、凪がぐっと腰を押し付けてくる。ぬちゅっと音を立てたかと思うと、その一物は何の抵抗もなく私の体内に埋め込まれていった。
「あ、あっ、あっ……!」
「くっ……、狭いな。痛くはないか」
「う、んっ……い、痛くない、けどっ……」
「けど……何だ?」
「っ……! き、きもち、いっ……、気持ちいいのっ……!」
恥じらいを捨ててそう叫ぶと、凪がぐっと息を詰めるのが分かった。心なしか、中のものも質量を増した気がする。そして奥まで入り込んだそれを入り口まで引き抜いて、もう一度叩きつけるように打ち付けた。
「ああああっ! ひ、やぁっ……なぎぃっ」
「あま、ねっ……、お前、本当に生娘か……っ、こんなに、俺を昂ぶらせおってっ……!」
「そんなこと、言われてもっ……! あっ、ああぁんっ! あっ、うああっ、きもちぃっ……! 凪っ、なぎぃっ!」
教えてもらったばかりの名を、馬鹿みたいに何度も呼んだ。その度に凪が嬉しそうに息を詰めるから、そんな彼を見て私まで嬉しくなってしまう。お返しでもするように激しく膣内を穿たれるけれど、初めてだというのに私は快感しか捉えられていなかった。
「はあぁっ、なぎ、なぎはっ……? 凪も、きもちいのっ……?」
「っ……! お前、人の事を気にするなっ」
「だって、わたしだけじゃ、やだっ……、なぎも、気持ちよくなってほしいっ……ひんっ、ぅあああっ!」
「あまり、雄を煽る台詞は、言わぬほうが身のためだぞ……っ、くそっ、抑えられなくなるっ!」
まるで貪るように、凪の硬くなった剛直が私の体内を這いまわる。先ほど舌で舐られた奥の方までそれは届いていて、内臓を押し上げられているような気さえする。でも、そんな激しい動きでさえ気持ちよくなってしまうのだから恐ろしい。これが凪の体液のせいなのか、はたまた私の体のせいなのか、本当のところは分からないけれど。
「なぎ、凪っ、どうしよう、きもちいっ……! 凪の、ずりずりされるの、きもちぃのぉっ……!」
「ふっ、そうか……っ、やはり愛いな、天音っ……! 俺の目に、狂いは無かったようだ」
「あっ、あっあーっ!! はぁっ、ん、なぎ、もっとっ……!」
甘えながらそうねだると、凪は喘ぎ声を漏らす私の唇に噛み付いた。受け入れるように口を開くと、すぐに長い舌が侵入してくる。そして私の短い舌にそれを巻きつけると、扱くように前後に動かした。
途端に、舌までもが甘い痺れに襲われる。まさかこんな場所でも感じてしまっているのかと驚く一方で、もっと凪に体の隅々まで喰らい尽くしてほしくなる。
そんな願いが通じたのか、凪は唇を解放すると今度は私の耳に舌を巻きつけて、そのまま声を直接吹き込むように囁いた。
「あまね……っ、これでもう、お前は俺のものだ。どれほど拒んでも、一生な……っ!」
「うん、凪の、なぎのものになるぅっ……! あっああっ、もう、もうだめっ、ひぃんっ、なぎっ、おかしくなっちゃうっ!」
「ああ、なってみせろ……っ、天音、天音っ!」
「ぅんっ、はぁぅっ、あっああっ! なぎ、なぎっ、あ、ひあぁ──……っ!」
思い切り果てた瞬間、奥まで入り込んだ凪の一物がどくんと脈打った。それと同時に体内を熱い何かが広がっていって、それだけの刺激で私は身を震わせる。
熱い。さっきまでも中を何度も擦られて熱かったけれど、今は体の内側が燃えるように熱い。
なんだろう。私の体は本当におかしくなってしまったのだろうか。
「はぁっ、な、ぎぃっ……、あついの、なか、おかしいよぉっ……!」
「む……? ああ、そういうことか。すまん、俺の精液のせいだ」
「せ、せいえきっ……? ま、まさか中に……」
「当たり前だろう。外に無駄打ちする馬鹿がいるか」
何だか誇らしげに胸を張られたけれど、私の胸にはふつふつと怒りが込み上げてくる。嫁になるとは言ったが、まだ子どもを作る気なんて微塵もないのだ。それなのにこの男は、私の許可もなく中に精を放ってしまった。これで怒るなと言われたって無理な話だ。
しかし今は、怒りよりも熱い疼きの方が私を苛んでいる。
もう一度、凪のもので中を擦ってほしい。奥の奥まで突き入れて、この疼きをどうにかしてほしくなる。
「どうした、天音。難しい顔をして」
「あ……っ、な、なかに、出していいなんて言ってない……っ」
「なんだと? 嫌だったのか」
「い、嫌っていうか……せめて許可取ってからにしてよっ」
「そうか。それはすまなかったな」
昨夜は頑なに謝るのを拒否したくせに、今日はびっくりするくらい簡単に頭を下げた。そんな凪の変化を少し嬉しく感じつつも、やっぱり疼きは収まらない。今さっき男を知ったばかりだというのに、私の体はすでに凪を求めているのが分かる。
しかし、私のそんな複雑な胸の内も、凪にはすっかり見透かされているようだった。そして薄く笑いながら私を抱き起こしたかと思うと、もう一度熱く滾った一物を私のひくついた秘穴に押し当てる。
「今度は、お前に聞いてから吐精してやる。それなら文句あるまい」
「っ……、も、もういっかい、するの?」
「ああ。お前は知らぬだろうが、夫婦の契りは丸一日以上かけて行わねばならん。まだまだ始まったばかりだぞ」
「ひ、あっ……! うっ、うそっ……」
「今度は加減せぬからな。簡単に気をやってくれるなよ」
不穏な言葉に怯えながらも、もう凪に対する恐怖は無かった。恐怖よりも、彼に優しくされることへの喜びの方が強くなっていたからだ。
先ほどよりも幾分か熱くなった凪の手のひらに、自分の手をそっと重ねてみる。それに気付いた凪が少し照れたような顔をするから、私は自分のこの運命を心から受け入れられるような、そんな気がした。
***
「ねー、凪。来週は実家に帰ってもいい?」
「……またか。そのように頻繁に帰って何になる? お前が手伝わねばならぬほど人手が足りておらぬのか」
「そういうわけじゃないけど……だって、寂しいじゃない。たまには家族の顔が見たくなるの」
「……ほう。常に俺が傍にいてやっているというのに、それでも寂しいのか? 奥方殿」
洗濯物を畳みながら話しかけた私に、凪の腕がまとわりついてくる。今日は私が見繕った深い藍色の着物を着ていて、彼の銀髪とよく似合っている。そう思ってしまうのも、彼にすっかり惚れてしまったせいかもしれないけれど。
「それで、許可は下りるのかしら? 旦那様」
「む……しかし、また一週間は実家にいるのだろう? その間の子作りはどうする」
「なっ……! い、一週間くらい休ませてよ! 大体ねえ、あれすっごい体力使うんだから! 一回何時間かかると思ってんの!?」
「仕方ないだろう、そういう習性だからな」
「習性とか言うなっ! 獣じゃないんだから、理性でなんとかしてよ!」
「ふっ、それは無理だな」
あっさりと私の言葉を却下したかと思うと、凪はその長い舌をべろりと出して私の首筋に這わせた。この異様な舌にもすっかり慣れ、最初の時のように漏らすようなことは無いけれど、これでひどい目に遭わされたことは一度や二度では済まない。特に、こうやって甘えるように舐めてくるときは要注意だ。
「んっ……ちょ、ちょっと、こんな時に発情しないで」
「ほう。今宵お前を好きにさせてくれたなら、実家に帰るのも許そうかと思っていたが……そういうことならば、帰すわけにはいかぬな」
「はあっ!? い、意地悪!」
「何が意地悪だ。大体、嫁いできたくせにしょっちゅう実家に帰るとは何事だ」
「だって、何だか心配で……」
「何を心配することがある。春日酒造もあれだけ大きな酒蔵になったのだ、お前が気にすることはあるまい」
凪の言う通り、私が嫁いでから作った春日酒造の酒は驚くほどよく売れた。そのお金で酒造りに必要な設備も一新できて、最近では大きなスーパーなんかでもうちの酒を置いてもらえるようになったらしい。
だからこそ私は安心して凪の住むこの奥深い山に嫁いできたわけだが、それでもやっぱり家族に会いたくなってしまうものだ。
「凪、お願い。すぐ帰ってくるから。ね?」
「……ずるい女だ。そうやって甘えれば何でも許してもらえると思っているだろう」
「うん、思ってる。だって凪は優しいから」
「ふっ、随分と強かな嫁をもらってしまったな……まあ、いいだろう」
諦めたように笑った凪が、何も警戒していなかった私の肩をとん、と押した。それだけでバランスを崩した私は、抵抗する暇もなく敷いてあった布団の上に組み敷かれてしまう。
「……え。凪?」
「来週は、俺もお前の家に行く。久しぶりに春日の酒も飲みたいしな」
「あ……うん! ありがとう、凪!」
「その代わり、今宵は俺の心行くまで付き合え。よいな、天音」
すぐにでも触れてしまいそうな距離に、凪の薄い唇が迫っている。その唇からちらりとのぞく赤い舌が、早く私を喰らいたくて焦れているのが分かる。もちろん、この「喰らう」は腹を満たす意味ではない。心を満たすために、私を喰らうのだ。
そんなことは分かりきっているのに、なんだか気恥ずかしくなった私は、それをはぐらかすようにへらへらと笑って返した。
「え、と……晩酌に、付き合えってこと?」
「ははっ、まさか。お前と飲んだら、ひどい目に遭うからな。なあ、うわばみ様よ」
言いながら、金色の瞳がすっと細められた。その美しさに魅入った隙に、私の唇に凪のそれが優しく触れる。口づけはそのまま深く濃密なものに変わっていき、私はすがるように彼の腕をぎゅっと握った。
もう、抵抗する気はさらさら無い。この優しいうわばみ様に、心も体も食い尽くされてしまうことが幸せなのだと、今の私は知っているから。
「む? どうした、天音」
「名前……名前くらい、教えてよ。夫婦になるんでしょ? 私たち」
寝転がったまま横柄な態度で尋ねた私に、男は面食らった顔をした。こんな顔もするのかと、私はちょっと可笑しくなる。
「……俺の名を知りたいのか」
「そりゃそうよ。うわばみっていうのは、種族の名前なんでしょう? 私は、あなたの名前が知りたい」
そう言い切ると、男は困ったように眉根を寄せた。どういうわけか、たかが名前を教えるのを渋っているようだ。私をこんな目に遭わせているくせに。
「まさか、名前も言わないで私を抱くつもり? あんた、仮にも神様でしょ? 嫁になる覚悟までした私に対して失礼だと思うんだけど」
「待て。別に俺は、名を教えることを躊躇しているのではない。ただ、お前が……」
しばしの間、男は考え込むように口を閉ざす。しかし、真っ直ぐに男を見つめる私の視線に気付くと、意を決したように口を開いた。
「……うわばみにとって、名というものは命と同じくらい重要なものだ。だから親と自分以外は知らぬし、軽々しく口にしてよいものではない」
「え……そ、そうなんだ」
「だから俺の名を教えたその時から、お前はもう俺の伴侶にならざるを得なくなる。いくらお前が拒否しても抗えない。それがうわばみの仕来りだからだ」
真面目な顔でそう告げられて、少し怖気づく。どう足掻いても抗えない仕来りがあるなんて、この男はこんな形をしているけれどやっぱり神様らしい。
でも逆に言えば、そんな仕来りがあるならば、なぜこの男はそれを最初から行使しなかったのだろう。まわりくどく私を説得しなくたって、甲斐甲斐しく私に触れなくたって、名さえ教えてしまえば私はこの男の嫁にならざるを得なかったのに。
「……あんた、やっぱり変だよ。昨夜たった一回飲み交わしただけで、どうして私にそこまでしてくれるの?」
「…………」
「蛇って、人を唆す生き物なんじゃないの? それとも、うわばみと蛇はまったく別物ってこと?」
「……どうした、天音。頭でも打ったか」
「打ってない! もう、細かいこと気にしなくていいから! だから早くあんたの名前教えて!」
捲し立てるようにそう叫ぶと、男はまた驚いたように目を見開いた。恐ろしい化け物だと思っていたけれど、この男はこんなにも人間らしい表情をする。そして人間と同じように、いや、もしかしたらそれ以上に、慈悲深い化け物だった。
少しの間、沈黙が流れる。男は私の瞳をじっと見つめ、そして深く息を吸ってから絞り出すように声を発した。
「──凪。それが俺の名だ」
なぎ。
男の声に続いて、小さく声に出してみる。
初めて呼ぶはずなのに、不思議なくらい馴染みのある響きだった。
「……凪。私を、お嫁さんにもらってくれる?」
「ああ。お前しかいない。この俺を酔い潰した、うわばみ様よ」
くすくすと笑い合って、どちらかともなく口づけを交わした。
初めは唇が触れ合うだけだったけれど、いつの間にか凪の細長い舌が入り込んで私の舌を器用に絡め取る。ついさっきは失禁するほどこの舌が恐ろしかったのに、人の順応性とは便利なものだ。今では何の恐怖もなく、むしろ好意をもってその舌を受け入れている。
そして、凪の手のひらがそっと私の脚を割り開いた。彼の体がその隙間に入り込んで、露わになった私の秘所に硬い何かが押し当てられる。熱いような冷たいような、不思議な感覚だ。
「入るぞ。天音」
「……っ、うん」
私が頷いたのを確認して、凪がぐっと腰を押し付けてくる。ぬちゅっと音を立てたかと思うと、その一物は何の抵抗もなく私の体内に埋め込まれていった。
「あ、あっ、あっ……!」
「くっ……、狭いな。痛くはないか」
「う、んっ……い、痛くない、けどっ……」
「けど……何だ?」
「っ……! き、きもち、いっ……、気持ちいいのっ……!」
恥じらいを捨ててそう叫ぶと、凪がぐっと息を詰めるのが分かった。心なしか、中のものも質量を増した気がする。そして奥まで入り込んだそれを入り口まで引き抜いて、もう一度叩きつけるように打ち付けた。
「ああああっ! ひ、やぁっ……なぎぃっ」
「あま、ねっ……、お前、本当に生娘か……っ、こんなに、俺を昂ぶらせおってっ……!」
「そんなこと、言われてもっ……! あっ、ああぁんっ! あっ、うああっ、きもちぃっ……! 凪っ、なぎぃっ!」
教えてもらったばかりの名を、馬鹿みたいに何度も呼んだ。その度に凪が嬉しそうに息を詰めるから、そんな彼を見て私まで嬉しくなってしまう。お返しでもするように激しく膣内を穿たれるけれど、初めてだというのに私は快感しか捉えられていなかった。
「はあぁっ、なぎ、なぎはっ……? 凪も、きもちいのっ……?」
「っ……! お前、人の事を気にするなっ」
「だって、わたしだけじゃ、やだっ……、なぎも、気持ちよくなってほしいっ……ひんっ、ぅあああっ!」
「あまり、雄を煽る台詞は、言わぬほうが身のためだぞ……っ、くそっ、抑えられなくなるっ!」
まるで貪るように、凪の硬くなった剛直が私の体内を這いまわる。先ほど舌で舐られた奥の方までそれは届いていて、内臓を押し上げられているような気さえする。でも、そんな激しい動きでさえ気持ちよくなってしまうのだから恐ろしい。これが凪の体液のせいなのか、はたまた私の体のせいなのか、本当のところは分からないけれど。
「なぎ、凪っ、どうしよう、きもちいっ……! 凪の、ずりずりされるの、きもちぃのぉっ……!」
「ふっ、そうか……っ、やはり愛いな、天音っ……! 俺の目に、狂いは無かったようだ」
「あっ、あっあーっ!! はぁっ、ん、なぎ、もっとっ……!」
甘えながらそうねだると、凪は喘ぎ声を漏らす私の唇に噛み付いた。受け入れるように口を開くと、すぐに長い舌が侵入してくる。そして私の短い舌にそれを巻きつけると、扱くように前後に動かした。
途端に、舌までもが甘い痺れに襲われる。まさかこんな場所でも感じてしまっているのかと驚く一方で、もっと凪に体の隅々まで喰らい尽くしてほしくなる。
そんな願いが通じたのか、凪は唇を解放すると今度は私の耳に舌を巻きつけて、そのまま声を直接吹き込むように囁いた。
「あまね……っ、これでもう、お前は俺のものだ。どれほど拒んでも、一生な……っ!」
「うん、凪の、なぎのものになるぅっ……! あっああっ、もう、もうだめっ、ひぃんっ、なぎっ、おかしくなっちゃうっ!」
「ああ、なってみせろ……っ、天音、天音っ!」
「ぅんっ、はぁぅっ、あっああっ! なぎ、なぎっ、あ、ひあぁ──……っ!」
思い切り果てた瞬間、奥まで入り込んだ凪の一物がどくんと脈打った。それと同時に体内を熱い何かが広がっていって、それだけの刺激で私は身を震わせる。
熱い。さっきまでも中を何度も擦られて熱かったけれど、今は体の内側が燃えるように熱い。
なんだろう。私の体は本当におかしくなってしまったのだろうか。
「はぁっ、な、ぎぃっ……、あついの、なか、おかしいよぉっ……!」
「む……? ああ、そういうことか。すまん、俺の精液のせいだ」
「せ、せいえきっ……? ま、まさか中に……」
「当たり前だろう。外に無駄打ちする馬鹿がいるか」
何だか誇らしげに胸を張られたけれど、私の胸にはふつふつと怒りが込み上げてくる。嫁になるとは言ったが、まだ子どもを作る気なんて微塵もないのだ。それなのにこの男は、私の許可もなく中に精を放ってしまった。これで怒るなと言われたって無理な話だ。
しかし今は、怒りよりも熱い疼きの方が私を苛んでいる。
もう一度、凪のもので中を擦ってほしい。奥の奥まで突き入れて、この疼きをどうにかしてほしくなる。
「どうした、天音。難しい顔をして」
「あ……っ、な、なかに、出していいなんて言ってない……っ」
「なんだと? 嫌だったのか」
「い、嫌っていうか……せめて許可取ってからにしてよっ」
「そうか。それはすまなかったな」
昨夜は頑なに謝るのを拒否したくせに、今日はびっくりするくらい簡単に頭を下げた。そんな凪の変化を少し嬉しく感じつつも、やっぱり疼きは収まらない。今さっき男を知ったばかりだというのに、私の体はすでに凪を求めているのが分かる。
しかし、私のそんな複雑な胸の内も、凪にはすっかり見透かされているようだった。そして薄く笑いながら私を抱き起こしたかと思うと、もう一度熱く滾った一物を私のひくついた秘穴に押し当てる。
「今度は、お前に聞いてから吐精してやる。それなら文句あるまい」
「っ……、も、もういっかい、するの?」
「ああ。お前は知らぬだろうが、夫婦の契りは丸一日以上かけて行わねばならん。まだまだ始まったばかりだぞ」
「ひ、あっ……! うっ、うそっ……」
「今度は加減せぬからな。簡単に気をやってくれるなよ」
不穏な言葉に怯えながらも、もう凪に対する恐怖は無かった。恐怖よりも、彼に優しくされることへの喜びの方が強くなっていたからだ。
先ほどよりも幾分か熱くなった凪の手のひらに、自分の手をそっと重ねてみる。それに気付いた凪が少し照れたような顔をするから、私は自分のこの運命を心から受け入れられるような、そんな気がした。
***
「ねー、凪。来週は実家に帰ってもいい?」
「……またか。そのように頻繁に帰って何になる? お前が手伝わねばならぬほど人手が足りておらぬのか」
「そういうわけじゃないけど……だって、寂しいじゃない。たまには家族の顔が見たくなるの」
「……ほう。常に俺が傍にいてやっているというのに、それでも寂しいのか? 奥方殿」
洗濯物を畳みながら話しかけた私に、凪の腕がまとわりついてくる。今日は私が見繕った深い藍色の着物を着ていて、彼の銀髪とよく似合っている。そう思ってしまうのも、彼にすっかり惚れてしまったせいかもしれないけれど。
「それで、許可は下りるのかしら? 旦那様」
「む……しかし、また一週間は実家にいるのだろう? その間の子作りはどうする」
「なっ……! い、一週間くらい休ませてよ! 大体ねえ、あれすっごい体力使うんだから! 一回何時間かかると思ってんの!?」
「仕方ないだろう、そういう習性だからな」
「習性とか言うなっ! 獣じゃないんだから、理性でなんとかしてよ!」
「ふっ、それは無理だな」
あっさりと私の言葉を却下したかと思うと、凪はその長い舌をべろりと出して私の首筋に這わせた。この異様な舌にもすっかり慣れ、最初の時のように漏らすようなことは無いけれど、これでひどい目に遭わされたことは一度や二度では済まない。特に、こうやって甘えるように舐めてくるときは要注意だ。
「んっ……ちょ、ちょっと、こんな時に発情しないで」
「ほう。今宵お前を好きにさせてくれたなら、実家に帰るのも許そうかと思っていたが……そういうことならば、帰すわけにはいかぬな」
「はあっ!? い、意地悪!」
「何が意地悪だ。大体、嫁いできたくせにしょっちゅう実家に帰るとは何事だ」
「だって、何だか心配で……」
「何を心配することがある。春日酒造もあれだけ大きな酒蔵になったのだ、お前が気にすることはあるまい」
凪の言う通り、私が嫁いでから作った春日酒造の酒は驚くほどよく売れた。そのお金で酒造りに必要な設備も一新できて、最近では大きなスーパーなんかでもうちの酒を置いてもらえるようになったらしい。
だからこそ私は安心して凪の住むこの奥深い山に嫁いできたわけだが、それでもやっぱり家族に会いたくなってしまうものだ。
「凪、お願い。すぐ帰ってくるから。ね?」
「……ずるい女だ。そうやって甘えれば何でも許してもらえると思っているだろう」
「うん、思ってる。だって凪は優しいから」
「ふっ、随分と強かな嫁をもらってしまったな……まあ、いいだろう」
諦めたように笑った凪が、何も警戒していなかった私の肩をとん、と押した。それだけでバランスを崩した私は、抵抗する暇もなく敷いてあった布団の上に組み敷かれてしまう。
「……え。凪?」
「来週は、俺もお前の家に行く。久しぶりに春日の酒も飲みたいしな」
「あ……うん! ありがとう、凪!」
「その代わり、今宵は俺の心行くまで付き合え。よいな、天音」
すぐにでも触れてしまいそうな距離に、凪の薄い唇が迫っている。その唇からちらりとのぞく赤い舌が、早く私を喰らいたくて焦れているのが分かる。もちろん、この「喰らう」は腹を満たす意味ではない。心を満たすために、私を喰らうのだ。
そんなことは分かりきっているのに、なんだか気恥ずかしくなった私は、それをはぐらかすようにへらへらと笑って返した。
「え、と……晩酌に、付き合えってこと?」
「ははっ、まさか。お前と飲んだら、ひどい目に遭うからな。なあ、うわばみ様よ」
言いながら、金色の瞳がすっと細められた。その美しさに魅入った隙に、私の唇に凪のそれが優しく触れる。口づけはそのまま深く濃密なものに変わっていき、私はすがるように彼の腕をぎゅっと握った。
もう、抵抗する気はさらさら無い。この優しいうわばみ様に、心も体も食い尽くされてしまうことが幸せなのだと、今の私は知っているから。
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初出:2024.5.10~
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