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断罪イベントではありません

20客室にて

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 夕食までの間こちらでお過ごしくださいと、二人は二階の客間に案内された。

 華美ではないが、客人をもてなす心がこもった居心地のいい部屋だった。
 窓からは男爵自慢の庭園を眺める事が出来、精緻に作られた庭園は、エリーヌの目を楽しませた。

 部屋には複数の使用人が控えており、二人の要望を叶えるよう命じられていた。

 陽当たりのいい場所にあるソファに向かい合って腰掛けた二人の様子は対照的だった。

 エリーヌは寛いだ様子でお茶を楽しみ、クラウスはなにか思い悩む事があるのか、両手を組み合わせその手を凝視していた。




「エリーヌ、何故リリアナは俺と目を合わせないんだと思う」

 しばらく経ってから、クラウスは重い口を開いた。

「率直に申し上げても?」

「ああ、頼む」

「嫌われたからではありませんか?」

 エリーヌはカップを置いた。

「婚約者がいながら他の女性を口説く男は不誠実ですし、ましてや殿下は彼女を守れず婚約者の毒牙に渡してしまったのですから。傷ついた彼女が恋から目が覚め、殿下を避ける理由としては十分かと思われます」

 思い当たる事がありすぎて返す言葉がない。

「もしかして我々は、とんでもなく場違いなところに来ているのか」

「ええ。とっても」

 クラウスは顔色を悪くした。

 応接室で対面している間、クラウスは何度かリリアナに話しかけたが、彼女は一度もクラウスを見ようとはしなかった。

「殿下。この程度の事で怯んでいては、真実の愛は得られませんよ」

「真実の愛」か。とクラウスは呟く。

「エリーヌ。それはあくまで最悪の予想だよな」

「最悪よりいくらかマシな予想ですわね」

 両手を組み、ひたすら自分の手を凝視してなにかに耐えていたクラウスが、化け物でも見るような顔でエリーヌを凝視した。

 あれで最悪よりマシな予想だというなら、最悪の予想とはなんだ。と、口を開きかけ、ぶんぶんと頭を振る。

 最悪な可能性に逃げ込む前に、リリアナの気持ちを確かめる事が先決だ。そうだろう。

 ブツブツと自分を励ます独り言を並べ始めたクラウスを置いて、エリーヌは客室の窓に近づいた。

 案の定、そこから見下ろせる庭にはリリアナがいた。
 メイドと何事か話しながら庭の花を摘んでいるリリアナは、笑顔を見せていた。

 王都を離れたリリアナを、エリーヌは配下の細作に監視させていた。
 その報告によると、彼女はずっと思いつめた様子で挙動不審だったという。

 笑えるくらいに落ち着いたというならこれからの話も出来るだろう。

 クラウスにはああ言ったが、リリアナの心は謎だ。
 一度は、公爵令嬢に楯突いても欲しいと思った恋だ。
 いくら恐ろしい思いをしたからといっても、王子への気持ちがまったく消えてしまったという事はないだろう。

 それに、エリーヌの知る『リリアナ』なら、恐ろしさに立ち向かい、乗り越えてでも、クラウスの手を取ろうとするはず。

 まだ一人でブツブツ言っているクラウスをチラリと見て、エリーヌはため息を吐いた。



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