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惨劇の参事⑶・第弍章《コトリバコと淫術遣い・生き刺青淫褥の床》
拾伍之罰「戀夏毒花蛇刺青抄」ー毒娘と女師と禍ノ生き刺青ー
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ーーお香が、一銭も入っていない、埃まみれの賽銭箱の真上から吊り下げられた、真鍮製の本坪鈴から垂れた紅白と五色の布を数回左右に振ると、お香はカン、カン、と。
下駄の底で、カン、カンと賽銭箱の前を小突いた。
すると小さな廃社の中から、パン、パンと、濁った拍手が返って来た。
その柏手が裏拍手と知っているのは、お香と、あと三人だけだ。
内側からかけられた木製の閂が外され、二枚戸が中に向かって開く。
お香の両掌には、細い荒縄で首を括った互一と実花、そしておるいが引きずられていた。
渾身の力を込めていまだ失神中の三人を廃社の中に引きずり込むと、ふたたび閂が通された。
長い燭台を廃社内の四隅に置き、火を点した四本の蝋燭の火が照らす廃社の中には、三名の人物がいた。
戸口から向かって、上座にひとり。
そこにいるのは、底の深い、車輪の着いた木製の箱車に座った、でっぷりと太った禿頭の五十絡みの男。
顎は弛んで隙間の狭い四重もの贅肉の輪を作り、腹は大黒天並みに前にも横にもどでん、と突き出し。
左右の乳も女のように大きく膨れて垂れ。
そのため漆黒と常磐緑の鮮やかな市松柄の着物の前が合わせらず。
木綿糸で縫い繋いだ、薄汚れた素色のぼろ切れの腰紐で腹周りを結んではいるが、上半身はほとんど裸に近い。
そして、その膨れ過ぎた腹周りから下はだらしなく開いた裾の間から、黄ばんだ褌が覗いているが、その両足は左右ともに付け根からなかった。
よく目をこらせば、左袖はスカスカで、肩口からない左腕には、常に晒しを巻いている。
そして、右まぶたもいびつな形に閉じている。
ーーその上、この者は両足まで壊死し、ひざだった部分は左腕と同様に晒し巻きにされ。
右眼は失明している。
この容貌は、消渇(しょうかつ=糖尿病)の病に罹った成れの果ての姿である。
そしてさらに、その姿には強烈な印象を与える部位があった。
毛根すべてが死滅した禿頭全体が、まるで鬘の如く、妖怪・土蜘蛛の刺青でくまなく覆われているのだ。
男の名は通称、禿頭(とくとう)針。
またの名を【弐代目彫附子】。
両足と左腕を失い、かろうじて利き手の右手は残ったものの、酒の飲み過ぎで震えが止まらず、針の束を備えた筆を握ることが出来なくなった。
そのため稼業から足を洗わざるを得なくなり、今や廃業して酒浸りの暮らしを送る、かつては彫狂のふたつ名すら取った、元彫り師だ。
本名は、自身と同様酒浸りになって、両手の震えから始まり、最後には肝の臓を患って死んだ、【初代彫附子】ーー毒蟲や毒蛇を、果ては有毒の花までをも専門に彫っていたがために名乗った、「酒匂の与助」たる、彫り師としての腕前だけは名人級だった師であること以外は何もない、酒浸りに博打狂いだった父にして、お香の祖父に名づけられた本名はーー。
「どぶ六」だ。
そして、下座にふたり。
奥に男、手前に女だ。
先ほど閂を開けたのは、後者の少女の方だった。
齢、ともに数えで男は十八、少女は十四。
少女の前髪は、両眉の真上できっちりと平行に並んでいる。
一見すると、少女の頭髪は前髪は両眉の真上、後ろは肩で切り揃えたおかっぱ頭だが。
頭頂に、外側から白緑、柳染、赤丹の三色で淡路結びにした、縦横ともに直径二寸ほどの水引きを飾り。
そこに、朽葉色の丸い一寸の珠を先端につけた、長い待ち針のような鋭い簪を、三本差している。
左右のこめかみの脇から、眦にかかる髪はそこだけ少し短く。
さらに、両耳の脇のひと束ずつの髪は、鎖骨近くまで垂れ下っている。
そして、後ろ髪は完全なおかっぱ頭ではなかった。
か細く白いうなじから、うなじよりやや細い幅で、先端は太腿の半ばまで長く伸びた、艶黒のまっすぐな髪をひとまとめにした三つ編みにし、元結できつく結んでいる。
三人の前に張られている、お香から見て太い方を左向きに結った、長い注連縄。
その注連縄の縄目の間に編み込まれた、こちらもまた、お香から見て、カタカナのタの字と逆に折られた、数本の紙垂。
その境界線を越えると、お香は禿頭針の左隣りに、冷たくカビ臭く、埃まみれの冷たい床の上にあぐらをかき、立てひざをついて座した。
「思ったより、早かったじゃねぇか、お香」
「まぁ、相手は三人たぁ言え、ど素人だったからねーー」
にんまりと笑う父の禿頭針に、娘のお香はそっけなく返した。
そして、目の前に置かれた手提げ型の煙草盆の上に置かれた煙草入れの中から。
慣れた手付きで刻み煙草をちょうど三寸強(=十ミリ)に左手の人差し指と親指でつまみ、両指でほどよく丸く揉み転がすと。
茶人、石州侯から名を頂戴した愛用の石州型の煙管の雁首にやんわりと詰め、火入れの炭で火を点すと、か細い紫煙が立ち昇った。
「そういやあてい、まだそいつらの名前知らねぇわ。お父っつぁんの客人なら、黙ってねぇで挨拶しねぇかよ、おい」
ーーしばしの沈黙ののち、真っ先に口を開いたのは、おかっぱと三つ編みを組み合わせた奇抜な髪型の少女だった。
白梅鼠に、淡藤色の七宝と萩を散らした着物をまとい。
腰から下は、鬱金色の生地に広がった、黒い水溜まりのような部分に、金色の宝紋尽くしの文様の刺繍を散りばめた腰巻きを巻いて、両袖を横に広げている。
「ーーたいへん失礼致しました。わたしは【巫蠱ノ遣・佐餌(ふこのや・さえさ】と申します。以後、お見知り置きを」
佐餌、なる名の少女は、三つ指ついてお香に向けて深々と頭を下げ、挨拶した。
「サエサ? 妙な名前だねぇ」
「よく言われます。でもそれは、いずれおわかりになること」
うなじから三つ編みにした髪の長さに反して小柄で、身の丈は五尺にも満たない。
正確に言えば、わずか四尺と八寸だ。
寝起きですら、櫛を通せば梳くことも叶わず、櫛が滑り落ちてしまうほどの艶黒の細く柔らかな美髪を誇る。
ーー奥二重の両まぶた。
ーー紅を指さずとも、かなり小ぶりだが、形のよい薄桃色の唇。
ーー上向いた左右の濃く長いまつ毛。
ーー細過ぎず太過ぎず、左右対称に弧を描いた眉毛。
ーー高過ぎず低過ぎない、正面から見ても、鼻孔の見えない鼻。
それら、ひとつずつ整った顔の作りが、身にまとった着物の華やかさと対照的に。
一見おとなしいばかりで、地味で冴えなくすら見える彼女がじんわりと醸し出している、どこか陰のある不可思議な雰囲気を、ことの他強調している。
もうひとり、佐餌の隣りに座す男の名はーー。
「…………」
「あんだ、てめぇ。啞(おし)か聾(つんぼ)かい!」
「……病葉天刑(わくらばてんぎょう)に……ごぜえやす……」
男は、それきり押し黙った。
着物は、中も外も漆黒。
その合わせ目が左前なのは、わざとだ。
そして、現代でいうヤッケに似た衣類を頭からかぶり、フードに該当する部分が頭から落ちぬよう、顎から真下の部分に、先端が三角状になった、縦一寸、横三寸の黒い布を渡し。
左右の端に開けた切り口を五重にも黒の木綿糸できつくかがって。
左右に先端を削り落とし、長さ半分にした五寸釘を通している。
その五寸釘だったものは、何重にも巻き、八の字にした細い針金で結び合わせている。
その頭髪は髷を結っているのかいないのが、長いのか短いのか、あるいは丸坊主なのかすらわからない。
さらに、鼻の上から首まわりまでを、漆黒の縦にも横にも長い襟巻きのようなものを巻きつけて完全に顔を覆い。
加えて、袖口から覗く両手も、ひじまである長い黒革の手袋を嵌めているが、そこだけ特に強化されているのか、その先端は鉤爪のように尖っているというのに、破れや穴はまったく見られない。
両足も、わざわざ漆黒に染めた一枚布の晒しを、爪先まできつく巻いている。
天刑なる男は、何故こうまでして、己が顔と肌を隠しているのか。
その理由を知っているのは、今のところ禿頭針と佐餌だけだ。「お香様。差し出がましいことを申しますけれど。煙管を呑むのはかまいませぬが、この者のいる場で飲み食いはなさらぬよう、お願い申し上げます」
「何でだよ」
「今はまだ、申し上げられせませぬ。何とぞ、ご了承くださいませ」
佐餌は今度は三つ指をつかず、 土下座してお香に頼み込んだ。
「しゃーねぇなあ、わーったよ」
お香は煙管から口を離し、紫煙とともに了承の言葉を吐き出した。
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「どこぞに閉じ込めてもかまわぬのは、その御三方のうち、どなたにございます?」
「ふん、閉じ込める、ねぇ……じゃ、このふたりにしとくんな」
首に縄をつけて廃社の内部にまで連れ込んだ、冷たい床に転がっている三人のうち。
お香は子分格の連れである互一と実花に向け、顎をしゃくった。
佐餌が軽く会釈で返すと、彼女は気を失ったままの互一と実花の着物を、上半身だけ引き剥がした。
「おいお香、今この場で、おめえは『琴爪お香』なんてぇクソダセェふたつ名ぁ捨てろい。いや、捨てなきゃなんなくなりやがった」
「はぁ!? あんまり急過ぎやしねいかい、お父っつぁん!?」
確かに、急過ぎた。
だが父の言うことには、
「俺ぁ、もうダメなんでぇ。てめぇのお祖父(じい)と同じで、酒ぇかっ喰らい過ぎて、肝の臓がガチガチになっちまいやがった。そんだけじゃねぇ、煙管のせいで心の臓に繋る血の管ぁ詰まりやがって、もう血がうまく流れちゃくれねぇんだよ……」
「…………」
「今夜がヤマなぐれぇ、てめぇでわからぁ。右の乳の下(肝臓の位置)ぁたまんなく痛てぇし、鳩尾心の臓と来たら、鞣されてねぇ荒縄でぎゅうぎゅうに縛られてるみてぇなんだよぅ」
「…………」
「だからよう、お香……」
「あていは嫌だよ、お断りさ」
金色の短髪に、煙管を咥えた実娘の言葉を、父のどぶ六はそのまま受け取り、絶望した。
だが次に娘の口から出た言葉は、父が思ったものとは、まったく異なるものだった。
「あていは与助のお祖父(じい)やお父っつぁんみてぇに、どれだけ大酒を喰らおうが煙管を吸おうが、心の臓や肝の臓を傷めて死にさらすなんて、みっともねぇ死に方はしねぇよ」
とても父娘とは思えない、醜く肥え太り、片腕と両足が壊死し、底の浅い箱車に座り。
残った腕一本で箱車を漕ぐ躄と、黄蘗色に染め抜いた、短髪ながら、誰一人として男と見間違える者などいないだろう、深緋の紅を指した唇。
墨汁で塗り固めたかのような、上のまつ毛はがっちり上向き、下のまつ毛は鋭く下向きに尖った、切れ長の一重まぶた。
左右の眼の周りを灰青色の銀粉で塗り飾った独特の化粧を施した若い美貌の、龍虎相まみえる奇抜な着物をまとった娘が、しばしの睨み合いの果てに。
恐ろしくふてぶてしい笑みを浮かべた娘に、父は呆れたように言い放った。
「おいお香、おめえさっきから何を勘違いしてやがんだ?」
「ーーはぁ? あていに参代目【彫附子】を継いで、お祖父やお父っつぁんみたいに、何とかのお香だの何ちゃら針って名乗れって話じゃねぇのかい?」
娘の一言に、父はしばし押し黙ると、右腕を残し三肢を失った、醜く肥え太った肢体をそっくり返らせ、呵々大笑した。
「何がおかしいんだよ、この躄に片手ん棒のクソデブがぁ!」
「耳の孔ぁかっぽじってよーーっく聞きゃあがれ、お香! てめぇの背中は今から、俺の、弐代目彫附子こと禿頭針の、人生最後で最大の彫物の土台になるんだよぅ!」
「!?」
ーー禿頭針が壊死した左腕の肩口を揺らすと、いつの間にか父のかたわらにひざまずいていた佐餌がスカスカの左袖をまくり上げ、父の欠損した腕に、木製の義腕を取りつけていた。
そのなめらかな繋ぎ目の外側には、数本の鎹が打ち込まれている。
それはまるで病身にして身体の欠損した不憫な父をいたわる心優しき孝行娘と、娘に厄介をかけることを労う、実の親子のようであった。
そうして間を置かず、壊死した右足に。
左足に。
佐餌なる正体不明の娘の、小さくたおやかな両掌によって晒しがほどかれ、義足が取りつけられる。
鎹で生身の肉体に義腕と義足が生身の肉体に繋がれるのは痛いはずだが、禿頭針は平然としている。
「禿頭針の小父様、痛みやズレた感じはございませんか?」
「とんでもねぇ、それどころか、また新しく腕と両足が生えて来たような、いい心持ちだぜぇ、嬢ちゃんーー」
左腕も両足もーー湯に浸かれない代わりに、お香が沸かした湯にボロ切れを浸し、何度となく清拭してやる毎に見た、あのーー。
垂み、むくみ、だらしなく贅肉と無駄な脂肪の塊に覆われた、あの二の腕の半ばまでが、恐ろしく緻密に再現されていたが、しょせん義腕。
だいたいが、鎹が生身に刺さって痛くないわけがない。
そう思った瞬間、三ヶ所にいくつも打たれた鎹はずぶずぶと繋ぎ目に喰い込み、一斉に肉体に溶け込んだ。
そしてそれと同時に、木製の義腕と義足は、完全に血の通った肉体と化した。
禿頭針は下半身にまっさらな六尺褌を締め込んだ両足で立ち上がり、両掌に備わった十指を、蜘蛛の足のように、掌中に向けて内側にわしわしと握り動かした。
「ーーいぎゃあぁぁぁ!」
身体が欠損した父の突然の変貌に、娘のお香は死人が蘇生した瞬間を目の当たりにしたも同然の恐怖を覚え、廃社の中から逃げ出そうとした。
しかし、背を向けると同時に襟首をつかまれ、そのまま着物の背中を、帯から裾まで一気に引き裂かれた。
身にまとうすべてを、襦袢から腰巻までズタズタに裂かれ、唐突に全裸になったその身を、黒い塊が抱きすくめた。
「男に抱かれてぬめり肌、針の滑りも墨の染み込みも、素晴らしく良くなるんでぃーーお香よぅ!」
着物を脱ぎ捨て、褌一枚の姿になり。
右手に竹で出来た長い棒の先に複数の針の束を結びつけた鑿。
【弐代目彫附子】こと、禿頭針のふたつ名を持つ父が利き手の右手に持つ短い鑿。
それは刺青を彫るにあたり、筆のように手に持ち、皮膚を突き上げるようにして墨入れをする『三味線彫り』なる特殊な技法のために使う、特製の品だった。
ふたたび絶叫しようとしたお香の唇を、他人の唇にふさがれるや否や、その舌を天刑の舌が絡め取った瞬間ーー。
「待ちやれ、天刑殿!」
その腕にきつくお香を抱きすくめたまま、天刑が佐餌の静止の声に動きを止め、顔を上げた。
「お香様より、そこな醜女の夜鷹こそ先ぞーーまったく、堪え性のなき御仁にあらせられる」
その一言で、天刑は恐ろしく素直に、それまで互一と実花ともども首に縄をつけらたまま、気を失ったままでいるおるいに足を向けた。
ーー天刑の舌に、刹那だけ絡まった舌と唇に重なった凄まじいまでの快楽に、お香の両眼からは涙がこぼれ、緋色に染まった全身が脱力し、その場に崩れ落ちているーー。
鬢がほつれた深川髷は下ろされ、艶のないバサバサの髪が乱れ広がって、重太鼓結びにした梅染色の帯にかかっている。
袖も裾もすり切れた、蘇芳香の粗末な縞木綿の着物の背中を、黒革の手袋右手が握り締めると、おるいの身にまとったすべてが裂け爆ぜた。
全身が寒さにさらされ、そこでようやく意識を取り戻したおるいが、反射的に後ろを振り返ろうとしたそのとき、視界が白くふさがれた。
それがいつも自分が頭にかぶっている、土の色があちこちに染み着いた、愛用の青い蚊帳吊り草の手ぬぐいとも知らず。
「……醜い顔は……見とう……ない……」
ふと、天刑は剥き出しになったおるいの左の首に眼をやった。
左耳の窪みからやや下にかけて、そこには無数の疣(いぼ)に覆われ、半殺しの餅の形をし、全面に血管の浮き上がった大人の男の片方の睾丸ほどの丸い癅が付着していた。
癅の全面を這う血管は、上へたどって行くに連れ細くなっているが、それはおるいの左頬全体を赤く青い肉の蔦のごとく覆い尽くしーー。
蔦の根はすべて、毛根からまつ毛が抜け落ち、二度と生えることのないおるいの左の上下のまぶたを腫れ上がらせていた。
「……白玉石の……偽の眼……熱で……溶けて……崩れ落ちた……」
ドゴォ! と、音が立つ勢いで。
全裸のおるいが、般若のような顔で、天刑の顔面に右拳を喰らわせたーーはずだった。
が、その渾身の怒りと恥辱を込めた拳は、あっさりと天刑の左掌に受け止められ、威力は吸収された。
「……かたわの……夜鷹ごとき……屑が……似合いの姿にしてやろう……」
天刑が、おるいの肩の疣だらけの癅をわしづかみにし、むしり取った。
それと同時に、おるいの右頬からまつ毛のない右下まぶたの腫れまでも、一度に、一枚皮として引き剥がされた。
「おごぉぉぉぉぉっっっっっ!」
右顔から首筋まで、どろりとした黄色い膿を含んだ悪臭とともに、辺り一面に血飛沫が撒き散らされた。
その壮絶なまでの絶叫と悪臭と血腥さに、強制的に意識を取り戻した互一と実花は、かろうじて上半身を起こしたものの、その時点でふたりは頭を掻きむしり。
錯乱して、もつれる足を立たせることが出来ず、顔面は鼻水と涙と唾液にまみれさせ。
下半身からは、意図せずに糞尿を垂れ流し、廃社から逃げ出そうとしたが、ふたりの首に巻かれた細い荒縄の根元を、佐餌が三重四重に素早く自身の左掌に巻きつけ、引き戻された。
互一と実花は、淫らな悪夢に浮かされたかのように、気づけば互いに全裸になり、頭髪まで揃って小坊主と同じ青々とした丸坊主にされ、陰毛まで一本残らず剃られ尽くしていた。
その上強制的に合い舐めの体位にされ、互いに漏らし、肛門からひざの間、内腿、足首から爪先まで垂れ流した大便を、舐め喰いつつ、清拭し合っているのだ。
口腔いっぱいに、汚い、臭い、苦い、まずいという厭な味覚と、凄まじいまでの嫌悪感にさいなまれながらも、時おり訪れる高貴な気品を含んだ、柑橘香り高さと甘美な芳香に惑わされ、辞めるに辞めることが出来ないのだ。
それが、佐餌がふたりにかけた
【平中尿筥(へいちゅうひらはこ)の術】の為とも知らずーー。
「やよ男よ、その粗暴さに似た蠱に身を委ねよ。やよ女よ、その下卑た振る舞いに似た蠱に身を委ねよ」
佐餌が涼やかな声でそう口にした途端、互一と実花の視界に、世にもおぞましい光景が広がった。
「……あォッ……おぅッッッ……」
あの、おるいなる年増で醜女の夜鷹が、全裸で天刑という黒衣の男に犯されていた。
廃社の中央のほこりまみれの、冷たい床板の上でうつ伏せにされ、両手首と両足首をそれぞれに背中の両脇で細い荒縄で幾重にも緊縛され、その二本の荒縄の先端は、おるいのくびれのない腰の脇から一尺も離れていない床板に、五寸釘の頭の下に、こちらも幾重にも巻きつき、釘の頭の下と床板にがっちりと打ち込まれていた。
ーー目隠しされた手拭いを、歓喜の涙で濡らすおるいと。
ぶじゅる、ぶじゅる、と粘い音を立てて後背位で責める天刑。
さらにおるいの垂れた尻と天刑の下腹がひっきりなしにぶつかり合う、
パン! パン!という肉と肉が打ち鳴らし合う生々しい音が、延々と耳の奥まで響く。
その音に、その姿を目の当たりにした互一は今にも射精せんばかりに、若い陰茎を、はち切れんばかりに青筋を膨張させて勃起し。
実花は失禁したかのように、どっぷりと愛液を垂れ流した。
そして、寸分の間も置かず。
ふたりの若い男女ーーいや、若き哺乳類という名の雌雄の獣同士は、互一が実花を押し倒し、正常位ですぐさま繋がり合った。
挿入と同時に軽く達した雌を、射精するにはまだ早い雄が剥き出しの尻を激しく前後させ、その腰に雌の両足が交差し、奥へ奥へと誘(いざな)い、押し込む。
たがふたりにして二匹が行っているのは、本来は生殖のために与えられたすべての生き物の中で、人間だけが行う、快楽を貪るための行為なのかーー。
いつの間にか座位になり、絡ませ合った舌と唇の間から、ダラダラと唾液を滴らせ合い。
舌と舌とを絡め合いながら、素肌と素肌が隙間なく密着するよう、抱き締め合っている。
「やよ、精を放て男よ。その粗暴な気性に見合いし毒の蠱を身に依らせよ。やよ、達せよ女よ。その下卑た振る舞いに見合いし毒の蠱を身に依らせよ」
ーーその場から動くことなく正座し続けていた佐餌のひざの上に、縦五寸、横八寸。深さ二寸の緋色の箱が現れた。
緋い。
緋く、ただ緋く。
全体に、ただ桜の花びらが数え切れぬほどに舞っている。
しかしその美しき箱はーー。
ぞろり、
ぞろりと。
佐餌の右袖からは、無数の百足が。
左袖からは、こちらも無数の蚰蜒(ゲジ)が。
全匹合わせれば数え切れないほどある密集した足をうごめかせて、這い出て来るではないか。
佐餌の両肩口から吊るした麻袋の中から、先ほどの彼女の声を合図に、袋を喰い破って現れたのだ。
そして、白梅鼠の生地に淡藤色の七宝と萩を散らした着物の前が内側からわずかに盛り上がると、そこから姿を現したのは、まだ成長し切っていない、子蛇の蝮だった。
それに継いで、襟首からぞろぞろと佐餌の上半身から這い降りて来たのは、数匹の蟇蛙であった。
「百足と蚰蜒が入るまでは、喰らい合うてはならぬぞ。子蝮どもよ、毒牙を剥くなよ。蝦蟇どもよ、疣より白濁の毒液を垂らすなかれ。しばしの我慢堪えねば、煙草の灰と山蛞蝓落とすぞよ」
その瞬間、もっとも大きな蝦蟇が、のっそりと佐餌の襟首から現れ、その左肩に乗った。
これまで佐餌の身の内から這い出した蝦蟇の母蛙、お源(げん)である。
そしてすぐさま、佐餌の襟首から身を乗り出し。
その右肩に腹を乗せてその身をくねらせ、辺りを見まわす細長い生き物は、子蝮の母蝮、磐(いわ)だ。
「光栄たり、我が子が蠱毒の筥入りぞよ」
佐餌が右肩に乗った磐ののどを下から、右手の人差し指と親指で軽く摘み、左掌でお源の頭を撫でた。
「い、いぎゃあああああああああっ!!!」
「ヤダヤダ、ヤダヤダヤダヤダヤダァァァァァァァッッ、あっち行って行って行って行って、来ないでぇぇぇぇぇぇっっっ!!!」
座位で挿入し、しきりに双臀を左右に高く激しく揺らしていた実花が、互一の首に両腕をまわし、抱き合ったまま、悲鳴を上げた。
何故なら、先ほど佐餌の左袖口から這い出た蚰蜒が、胸元から両肩までぞろぞろと這い上がり、裸体を侵食しているからだ。
侵食と言っても、ただ全身にまとわりつくだけではなく。
完全な無痛ながら、無数の蚰蜒が生きたまま、皮膚の下に潜り込んで来るのだ。
それは、互一も同じだった。
こちらは無数の百足が、何の痛みもなく両足の十枚の爪の中から潜り込み、実花と同じく、皮膚の真下に侵入し、それが皮膚の下を、全身を這いまわるという、異様な感触に、全身を蝕まれている。
しかし、百足達を払い除ける術もない。
奇怪かつおぞましいこと極まりない感触にただ恐怖することしか叶わず、自身もまた、狂乱する実花にしがみつくことしか出来ないのだから。
ーーほどなくして、おぞましさに満ち満ちた恐怖が、互一と実花の交合の絶頂の快楽に敗れた。
繋がり合った互一の陰茎と実花の陰部は融合し、ひとつの肉体と化していた。
ーー絶え間なく迸り続ける精液。
ーー果てなき絶頂。
それは、ただの人間を蠱毒の応用の玩具とするには、外術遣いにっては、たわいない悪戯同然の容易な業であることなど、互一と実花のふたりは、知る由もない。
「ーー女陰観音陽根魔羅、御開帳乖離」
佐餌が一言唱えると、じゅぽんっ! と大きな音を立てて、ふたりの繋がりが離れた。
まだ勃起している互一の尿道からは射精は止まず、
実花の陰部は、大納言ほどの小豆大に膨れ上がら、真っ赤に充血し切ったさねに加え、尿道からは潮がぴゅうぴゅうと拭き上がり続けている。
そしてーーふたりの裸体には。
互一の裸体には、両腕、首筋からへそまで、三匹。
そして、両太腿の付け根から両足首まで、先ほどまでその皮膚の下に潜り込んだ百足が、数匹の大蟷螂を捕食し。
毒々しい大女郎蜘蛛。その巣に捕えられた紋白蝶、アゲハ蝶、太身の蛾を何匹も喰い散らかす大百足と化して、互一の全身に、刺青となって彫り込まれていた。
ーー実花の全身には。
同じく刺青となった大蚰蜒が、互一と同様、四匹両腕に絡みつき。
カマドウマに蝿の大群、無数の大蜘蛛を喰い散らかしているおぞましい光景が、彫り物となっていた。
その代わり、へその上から胸の谷間を通り、右肩、首の真後ろ、左肩へと這う二匹の蚰蜒は、若い女の純粋に美しい裸体に恐ろしく映え、その不気味極まりない容貌が、異様な美醜を際立たせていた。
その瞬間、異様な声が廃社内に響き渡った。
ーーその間にも、おるいは天刑に犯され、抽挿され続けていた。
耳元で、天刑がおるいに何事か囁いた。
自我を忘却するほどの快楽の中、その言葉におるいは突然我に返り、青ざめた。
おるいは、明らかに何かに戸惑っているが、その答えに可か不可かを言い出せずにいるようだったが、
「ひ、ぎ……おぉ……おぉぉっ、おごおっっっっ!!」
おるいと天刑が同時に絶頂に達し、おるいの腟内に天刑の濃厚な精が射精された。
「あぁ、あぁーーあぁ! 来たぞ来たぞ来たぞ、ようやっと来たぇ、来たぇ! 稀に見る、醜女と女師の同時の絶頂が!」
歓喜の声を上げ、佐餌が叫んだ。
「今ぞ、磐! その醜女の背中に飛び憑(うつ)れ!」
佐餌の右肩から、くちなわの異名どおり。
磐のにょろにょろとのたくった冷たく長い身が、おるいの無防備な裸体の背中目がけて、飛んだ。
磐とおるいの身が密着すると同時に、背骨をへし折られたような激痛が、おるいの背中から全身に爆ぜ広がりーー。
磐はおるいの背中に潜り込み、その背中一面に彫られていた女郎蜘蛛の刺青を瞬く間に喰い尽くすや否や、女郎蜘蛛に代わり、その背中に、背骨に沿って彫られた刺青と化した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
お香が、ふと気づくと。
あのおるいなる乞食同然の年増の夜鷹が、廃社の中で商売と自身の寝床にも使っている、染みだらけの薄汚い煎餅布団ーー煎餅より薄い、畳鰯の如き固く薄い布団に、うつ伏せに寝かされていた。
それも、全裸で緊縛されている。
だが緊縛とは言え、さほど苛烈なものではない。
右手首と右足首、左手首と左足首をまとめて三重に細い荒縄で縛られ、その間に二重に縄をまわし、もやい結びにした程度だ。
そのかたわらで、あの佐餌なる可憐な少女が、父に口で奉仕していた。
六尺褌をずらし、そこからいきり勃った陰茎を、白梅鼠の着物に、淡藤色の七宝と萩の密やかな花を散らしたあえかな着物から両袖を脱ぎ。
わずか四寸弱ほどしか膨らんでいない左右の乳房の間に、勃起した父の陰茎をはさんで上下にこすり、亀頭をその小さく愛らしい唇に咥えていた。
口の中では舌先でちろちろと、尿道口を舐めまわしている。
でっぷりと腹の出た、醜い肉体の父が直立不動で腕組みし。
その前にひざまずいた小柄で可憐な少女が、上半身裸になって、抜けるように白い肌と背中、か細い肩と両腕の華奢な裸体を露わにして口淫する様は、とてつもなく淫猥な姿に見えた。
ぶぢゅ、と音を立てて、自身の陰部から愛液が大量に溢れたのが、わかる。
「恐ろしく、濡れておるな」
頭の上から、低い男の声が降って来た。
鉄面皮の表情で、お香の顎を持ち上げると、
「ぐっ……」
お香が意味のない反論をしようとしたその瞬間、その口に水で濡らし、緩く絞ってねじった手ぬぐいが、猿轡として噛まされた。
「お、おぉっ、頼む、も、もっと奥まで、咥、え……ひぐっ」
禿頭針は左右から佐餌の頭を股間に押しつけ、己がものの亀頭で佐餌ののどの奥まで押し込んだ。
佐餌は左右の乳房から離禿頭のものを、言われるがままに深く咥え込み、だらしなく垂れ下がった、染みだらけの双臀を褌越しに両腕で抱え込むと、えづきもせず、のどで禿頭針のものを勢いよく突いた。
「あァぅ、うぅぅ、いい、いいぞいい、いい、はァ、出るぞ射精(だす)ぞ、佐餌、か、顔に、く、く、く、口に、う、受けろっ!」
ーーその瞬間、わずかに開いた佐餌の口から禿頭の陰茎が抜かれ、佐餌の両頬から顎までと。
口の中いっぱいに、大量の精液が浴びせられた。
「……は……はあ、ぁ……ん……」
佐餌は着物の裾の間に両腕を差し込み、太腿できつく締め上げた。
口淫と顔射、口内射精の果てに、自慰をせずして彼女もまた達していたのだ。
その証拠に佐餌の全身が痙攣し、頬も裸体もほんのり紅く染まり、小ぶりな乳房の先にある伽羅色の乳首が、どちらも固く尖っていた。
禿頭針は、ただだ荒い息を吐き続け、両掌を後ろ手につき、左足を立て、右足は胡座をかき。
自らの下半身に締めた六尺褌が緩み切っていることにすら、気づく術もない。
ぺろりぺろりと、鴇色の舌先で白濁の汚液をさも美味そうに拭い取り、口の中の精液は、甘露の如く飲み干した佐餌は、自ら身にまとうすべてを、脱ぎ捨てた。
後に残った襦袢。
鬱金色の生地に広がった、黒い水溜まりのような部分に、金色の宝紋尽くしの刺繍を散りばめた腰巻きを、まるで上等な褥のようにして寝転がり。
自ら太腿の内側が愛液で濡れそぼった、両ひざの裏側を両掌で持ち上げ、御開帳し。
まだ淡く薄い恥毛にふち取られた、小ぶりな大小の陰唇と、その中央で包皮から突き出た、密やかに勃起した小さなさね。
唾液のように、延々と愛液を滴らせる腟口と、愛液が滴り落ちてひくつく肛門すら晒しーー。
小さな両掌は、固く尖った乳房を激しく揉みしだいていた。
「小父様、お願い致しまする、その立派に生き返った御持ちの物で、わたしを貫きーーあぁ、抱くのではなしに、犯して、犯し抜いて下さいまし!」
卑猥極まりない小柄で華奢な少女の哀願に、男は獣のような咆哮を上げた。
寸分の間も置かず、腹が膨れきった肥満体の中年男の、醜悪な肉体が少女の裸体に覆いかぶさると同時に。
男の肉棒が、少女の小さな腟口を根元まで一気にずぶりと貫くや否や、
「ーーあっ、あぁん、はぁっ、あぁぁぁっ……いぃぃぃぃぃっ!」
挿入だけで、早々と達した佐餌の声が上がった。
「……んん……ぐぅっ……」
残された渾身の体力を振り絞って、禿頭針は腰を激しく前後させる。
佐餌の身が小柄な分、腟も小さく、締めつけも狭く、きついのだが、それがまた、禿頭針にとっては、とてつもない悦楽となっている。
「あっ、はぁ、あぁ、小父様、小父様っ!」
佐餌は己が肉欲のまに、禿頭針の首に、小枝のようにたおやかな両腕でしがみつき。
白くしなやかなか細いその両足は、禿頭針の太過ぎる腰まわりに交差して、さらなる快楽をその身に取り込もうとしている。
「ん、あぁ……」
「あぁ、可愛いぞ、可愛いぞ、佐餌、その小さな唇も舌も、むしゃぶり尽くしてやろうぞい」
「あぁ……ん、はぁ、あぁ……」
互いに思い切り突き出した舌と舌が、上下に幾本もの唾液の糸を混じえて、激しく絡み合う。
佐餌は恥じらいから固くまぶたを閉じているが、堪え切れない悦楽から来る涙が、左右の眦(まなじり)から絶え間なく滴り落ちる。
だが、佐餌と対照的に、実の娘より年下の少女自らに乞われ、口や舌まで犯す背徳の肉欲に支配され、隻眼を見開いている。
その光景にもっとも驚愕したのは、実娘のお香だった。
消渇の病故、勃起しないはずの陰茎が、雁首が露わになるほど完全に剥き出しになり、全面に青筋を浮き上がらせて、そそり勃っているのだ。
病をこじらせ、左腕と両足が壊死し、腹が異様なまでに膨らんだ生ける肉の塊と化して以来、ひとり残らず去って行った弟子達に代わり、いやいや下の世話をしていた身であるがために。
「あぁ……はぁ、小父様、小父様、お願い、致し、ます……何卒、何卒『地蔵抱き』のお情けを、わたしに……」
佐餌が、涙混じりの喘ぎ声の中で、ようよう禿頭針の耳元で、息も絶え絶えに、艶めかしく喘いだ。
下駄の底で、カン、カンと賽銭箱の前を小突いた。
すると小さな廃社の中から、パン、パンと、濁った拍手が返って来た。
その柏手が裏拍手と知っているのは、お香と、あと三人だけだ。
内側からかけられた木製の閂が外され、二枚戸が中に向かって開く。
お香の両掌には、細い荒縄で首を括った互一と実花、そしておるいが引きずられていた。
渾身の力を込めていまだ失神中の三人を廃社の中に引きずり込むと、ふたたび閂が通された。
長い燭台を廃社内の四隅に置き、火を点した四本の蝋燭の火が照らす廃社の中には、三名の人物がいた。
戸口から向かって、上座にひとり。
そこにいるのは、底の深い、車輪の着いた木製の箱車に座った、でっぷりと太った禿頭の五十絡みの男。
顎は弛んで隙間の狭い四重もの贅肉の輪を作り、腹は大黒天並みに前にも横にもどでん、と突き出し。
左右の乳も女のように大きく膨れて垂れ。
そのため漆黒と常磐緑の鮮やかな市松柄の着物の前が合わせらず。
木綿糸で縫い繋いだ、薄汚れた素色のぼろ切れの腰紐で腹周りを結んではいるが、上半身はほとんど裸に近い。
そして、その膨れ過ぎた腹周りから下はだらしなく開いた裾の間から、黄ばんだ褌が覗いているが、その両足は左右ともに付け根からなかった。
よく目をこらせば、左袖はスカスカで、肩口からない左腕には、常に晒しを巻いている。
そして、右まぶたもいびつな形に閉じている。
ーーその上、この者は両足まで壊死し、ひざだった部分は左腕と同様に晒し巻きにされ。
右眼は失明している。
この容貌は、消渇(しょうかつ=糖尿病)の病に罹った成れの果ての姿である。
そしてさらに、その姿には強烈な印象を与える部位があった。
毛根すべてが死滅した禿頭全体が、まるで鬘の如く、妖怪・土蜘蛛の刺青でくまなく覆われているのだ。
男の名は通称、禿頭(とくとう)針。
またの名を【弐代目彫附子】。
両足と左腕を失い、かろうじて利き手の右手は残ったものの、酒の飲み過ぎで震えが止まらず、針の束を備えた筆を握ることが出来なくなった。
そのため稼業から足を洗わざるを得なくなり、今や廃業して酒浸りの暮らしを送る、かつては彫狂のふたつ名すら取った、元彫り師だ。
本名は、自身と同様酒浸りになって、両手の震えから始まり、最後には肝の臓を患って死んだ、【初代彫附子】ーー毒蟲や毒蛇を、果ては有毒の花までをも専門に彫っていたがために名乗った、「酒匂の与助」たる、彫り師としての腕前だけは名人級だった師であること以外は何もない、酒浸りに博打狂いだった父にして、お香の祖父に名づけられた本名はーー。
「どぶ六」だ。
そして、下座にふたり。
奥に男、手前に女だ。
先ほど閂を開けたのは、後者の少女の方だった。
齢、ともに数えで男は十八、少女は十四。
少女の前髪は、両眉の真上できっちりと平行に並んでいる。
一見すると、少女の頭髪は前髪は両眉の真上、後ろは肩で切り揃えたおかっぱ頭だが。
頭頂に、外側から白緑、柳染、赤丹の三色で淡路結びにした、縦横ともに直径二寸ほどの水引きを飾り。
そこに、朽葉色の丸い一寸の珠を先端につけた、長い待ち針のような鋭い簪を、三本差している。
左右のこめかみの脇から、眦にかかる髪はそこだけ少し短く。
さらに、両耳の脇のひと束ずつの髪は、鎖骨近くまで垂れ下っている。
そして、後ろ髪は完全なおかっぱ頭ではなかった。
か細く白いうなじから、うなじよりやや細い幅で、先端は太腿の半ばまで長く伸びた、艶黒のまっすぐな髪をひとまとめにした三つ編みにし、元結できつく結んでいる。
三人の前に張られている、お香から見て太い方を左向きに結った、長い注連縄。
その注連縄の縄目の間に編み込まれた、こちらもまた、お香から見て、カタカナのタの字と逆に折られた、数本の紙垂。
その境界線を越えると、お香は禿頭針の左隣りに、冷たくカビ臭く、埃まみれの冷たい床の上にあぐらをかき、立てひざをついて座した。
「思ったより、早かったじゃねぇか、お香」
「まぁ、相手は三人たぁ言え、ど素人だったからねーー」
にんまりと笑う父の禿頭針に、娘のお香はそっけなく返した。
そして、目の前に置かれた手提げ型の煙草盆の上に置かれた煙草入れの中から。
慣れた手付きで刻み煙草をちょうど三寸強(=十ミリ)に左手の人差し指と親指でつまみ、両指でほどよく丸く揉み転がすと。
茶人、石州侯から名を頂戴した愛用の石州型の煙管の雁首にやんわりと詰め、火入れの炭で火を点すと、か細い紫煙が立ち昇った。
「そういやあてい、まだそいつらの名前知らねぇわ。お父っつぁんの客人なら、黙ってねぇで挨拶しねぇかよ、おい」
ーーしばしの沈黙ののち、真っ先に口を開いたのは、おかっぱと三つ編みを組み合わせた奇抜な髪型の少女だった。
白梅鼠に、淡藤色の七宝と萩を散らした着物をまとい。
腰から下は、鬱金色の生地に広がった、黒い水溜まりのような部分に、金色の宝紋尽くしの文様の刺繍を散りばめた腰巻きを巻いて、両袖を横に広げている。
「ーーたいへん失礼致しました。わたしは【巫蠱ノ遣・佐餌(ふこのや・さえさ】と申します。以後、お見知り置きを」
佐餌、なる名の少女は、三つ指ついてお香に向けて深々と頭を下げ、挨拶した。
「サエサ? 妙な名前だねぇ」
「よく言われます。でもそれは、いずれおわかりになること」
うなじから三つ編みにした髪の長さに反して小柄で、身の丈は五尺にも満たない。
正確に言えば、わずか四尺と八寸だ。
寝起きですら、櫛を通せば梳くことも叶わず、櫛が滑り落ちてしまうほどの艶黒の細く柔らかな美髪を誇る。
ーー奥二重の両まぶた。
ーー紅を指さずとも、かなり小ぶりだが、形のよい薄桃色の唇。
ーー上向いた左右の濃く長いまつ毛。
ーー細過ぎず太過ぎず、左右対称に弧を描いた眉毛。
ーー高過ぎず低過ぎない、正面から見ても、鼻孔の見えない鼻。
それら、ひとつずつ整った顔の作りが、身にまとった着物の華やかさと対照的に。
一見おとなしいばかりで、地味で冴えなくすら見える彼女がじんわりと醸し出している、どこか陰のある不可思議な雰囲気を、ことの他強調している。
もうひとり、佐餌の隣りに座す男の名はーー。
「…………」
「あんだ、てめぇ。啞(おし)か聾(つんぼ)かい!」
「……病葉天刑(わくらばてんぎょう)に……ごぜえやす……」
男は、それきり押し黙った。
着物は、中も外も漆黒。
その合わせ目が左前なのは、わざとだ。
そして、現代でいうヤッケに似た衣類を頭からかぶり、フードに該当する部分が頭から落ちぬよう、顎から真下の部分に、先端が三角状になった、縦一寸、横三寸の黒い布を渡し。
左右の端に開けた切り口を五重にも黒の木綿糸できつくかがって。
左右に先端を削り落とし、長さ半分にした五寸釘を通している。
その五寸釘だったものは、何重にも巻き、八の字にした細い針金で結び合わせている。
その頭髪は髷を結っているのかいないのが、長いのか短いのか、あるいは丸坊主なのかすらわからない。
さらに、鼻の上から首まわりまでを、漆黒の縦にも横にも長い襟巻きのようなものを巻きつけて完全に顔を覆い。
加えて、袖口から覗く両手も、ひじまである長い黒革の手袋を嵌めているが、そこだけ特に強化されているのか、その先端は鉤爪のように尖っているというのに、破れや穴はまったく見られない。
両足も、わざわざ漆黒に染めた一枚布の晒しを、爪先まできつく巻いている。
天刑なる男は、何故こうまでして、己が顔と肌を隠しているのか。
その理由を知っているのは、今のところ禿頭針と佐餌だけだ。「お香様。差し出がましいことを申しますけれど。煙管を呑むのはかまいませぬが、この者のいる場で飲み食いはなさらぬよう、お願い申し上げます」
「何でだよ」
「今はまだ、申し上げられせませぬ。何とぞ、ご了承くださいませ」
佐餌は今度は三つ指をつかず、 土下座してお香に頼み込んだ。
「しゃーねぇなあ、わーったよ」
お香は煙管から口を離し、紫煙とともに了承の言葉を吐き出した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「どこぞに閉じ込めてもかまわぬのは、その御三方のうち、どなたにございます?」
「ふん、閉じ込める、ねぇ……じゃ、このふたりにしとくんな」
首に縄をつけて廃社の内部にまで連れ込んだ、冷たい床に転がっている三人のうち。
お香は子分格の連れである互一と実花に向け、顎をしゃくった。
佐餌が軽く会釈で返すと、彼女は気を失ったままの互一と実花の着物を、上半身だけ引き剥がした。
「おいお香、今この場で、おめえは『琴爪お香』なんてぇクソダセェふたつ名ぁ捨てろい。いや、捨てなきゃなんなくなりやがった」
「はぁ!? あんまり急過ぎやしねいかい、お父っつぁん!?」
確かに、急過ぎた。
だが父の言うことには、
「俺ぁ、もうダメなんでぇ。てめぇのお祖父(じい)と同じで、酒ぇかっ喰らい過ぎて、肝の臓がガチガチになっちまいやがった。そんだけじゃねぇ、煙管のせいで心の臓に繋る血の管ぁ詰まりやがって、もう血がうまく流れちゃくれねぇんだよ……」
「…………」
「今夜がヤマなぐれぇ、てめぇでわからぁ。右の乳の下(肝臓の位置)ぁたまんなく痛てぇし、鳩尾心の臓と来たら、鞣されてねぇ荒縄でぎゅうぎゅうに縛られてるみてぇなんだよぅ」
「…………」
「だからよう、お香……」
「あていは嫌だよ、お断りさ」
金色の短髪に、煙管を咥えた実娘の言葉を、父のどぶ六はそのまま受け取り、絶望した。
だが次に娘の口から出た言葉は、父が思ったものとは、まったく異なるものだった。
「あていは与助のお祖父(じい)やお父っつぁんみてぇに、どれだけ大酒を喰らおうが煙管を吸おうが、心の臓や肝の臓を傷めて死にさらすなんて、みっともねぇ死に方はしねぇよ」
とても父娘とは思えない、醜く肥え太り、片腕と両足が壊死し、底の浅い箱車に座り。
残った腕一本で箱車を漕ぐ躄と、黄蘗色に染め抜いた、短髪ながら、誰一人として男と見間違える者などいないだろう、深緋の紅を指した唇。
墨汁で塗り固めたかのような、上のまつ毛はがっちり上向き、下のまつ毛は鋭く下向きに尖った、切れ長の一重まぶた。
左右の眼の周りを灰青色の銀粉で塗り飾った独特の化粧を施した若い美貌の、龍虎相まみえる奇抜な着物をまとった娘が、しばしの睨み合いの果てに。
恐ろしくふてぶてしい笑みを浮かべた娘に、父は呆れたように言い放った。
「おいお香、おめえさっきから何を勘違いしてやがんだ?」
「ーーはぁ? あていに参代目【彫附子】を継いで、お祖父やお父っつぁんみたいに、何とかのお香だの何ちゃら針って名乗れって話じゃねぇのかい?」
娘の一言に、父はしばし押し黙ると、右腕を残し三肢を失った、醜く肥え太った肢体をそっくり返らせ、呵々大笑した。
「何がおかしいんだよ、この躄に片手ん棒のクソデブがぁ!」
「耳の孔ぁかっぽじってよーーっく聞きゃあがれ、お香! てめぇの背中は今から、俺の、弐代目彫附子こと禿頭針の、人生最後で最大の彫物の土台になるんだよぅ!」
「!?」
ーー禿頭針が壊死した左腕の肩口を揺らすと、いつの間にか父のかたわらにひざまずいていた佐餌がスカスカの左袖をまくり上げ、父の欠損した腕に、木製の義腕を取りつけていた。
そのなめらかな繋ぎ目の外側には、数本の鎹が打ち込まれている。
それはまるで病身にして身体の欠損した不憫な父をいたわる心優しき孝行娘と、娘に厄介をかけることを労う、実の親子のようであった。
そうして間を置かず、壊死した右足に。
左足に。
佐餌なる正体不明の娘の、小さくたおやかな両掌によって晒しがほどかれ、義足が取りつけられる。
鎹で生身の肉体に義腕と義足が生身の肉体に繋がれるのは痛いはずだが、禿頭針は平然としている。
「禿頭針の小父様、痛みやズレた感じはございませんか?」
「とんでもねぇ、それどころか、また新しく腕と両足が生えて来たような、いい心持ちだぜぇ、嬢ちゃんーー」
左腕も両足もーー湯に浸かれない代わりに、お香が沸かした湯にボロ切れを浸し、何度となく清拭してやる毎に見た、あのーー。
垂み、むくみ、だらしなく贅肉と無駄な脂肪の塊に覆われた、あの二の腕の半ばまでが、恐ろしく緻密に再現されていたが、しょせん義腕。
だいたいが、鎹が生身に刺さって痛くないわけがない。
そう思った瞬間、三ヶ所にいくつも打たれた鎹はずぶずぶと繋ぎ目に喰い込み、一斉に肉体に溶け込んだ。
そしてそれと同時に、木製の義腕と義足は、完全に血の通った肉体と化した。
禿頭針は下半身にまっさらな六尺褌を締め込んだ両足で立ち上がり、両掌に備わった十指を、蜘蛛の足のように、掌中に向けて内側にわしわしと握り動かした。
「ーーいぎゃあぁぁぁ!」
身体が欠損した父の突然の変貌に、娘のお香は死人が蘇生した瞬間を目の当たりにしたも同然の恐怖を覚え、廃社の中から逃げ出そうとした。
しかし、背を向けると同時に襟首をつかまれ、そのまま着物の背中を、帯から裾まで一気に引き裂かれた。
身にまとうすべてを、襦袢から腰巻までズタズタに裂かれ、唐突に全裸になったその身を、黒い塊が抱きすくめた。
「男に抱かれてぬめり肌、針の滑りも墨の染み込みも、素晴らしく良くなるんでぃーーお香よぅ!」
着物を脱ぎ捨て、褌一枚の姿になり。
右手に竹で出来た長い棒の先に複数の針の束を結びつけた鑿。
【弐代目彫附子】こと、禿頭針のふたつ名を持つ父が利き手の右手に持つ短い鑿。
それは刺青を彫るにあたり、筆のように手に持ち、皮膚を突き上げるようにして墨入れをする『三味線彫り』なる特殊な技法のために使う、特製の品だった。
ふたたび絶叫しようとしたお香の唇を、他人の唇にふさがれるや否や、その舌を天刑の舌が絡め取った瞬間ーー。
「待ちやれ、天刑殿!」
その腕にきつくお香を抱きすくめたまま、天刑が佐餌の静止の声に動きを止め、顔を上げた。
「お香様より、そこな醜女の夜鷹こそ先ぞーーまったく、堪え性のなき御仁にあらせられる」
その一言で、天刑は恐ろしく素直に、それまで互一と実花ともども首に縄をつけらたまま、気を失ったままでいるおるいに足を向けた。
ーー天刑の舌に、刹那だけ絡まった舌と唇に重なった凄まじいまでの快楽に、お香の両眼からは涙がこぼれ、緋色に染まった全身が脱力し、その場に崩れ落ちているーー。
鬢がほつれた深川髷は下ろされ、艶のないバサバサの髪が乱れ広がって、重太鼓結びにした梅染色の帯にかかっている。
袖も裾もすり切れた、蘇芳香の粗末な縞木綿の着物の背中を、黒革の手袋右手が握り締めると、おるいの身にまとったすべてが裂け爆ぜた。
全身が寒さにさらされ、そこでようやく意識を取り戻したおるいが、反射的に後ろを振り返ろうとしたそのとき、視界が白くふさがれた。
それがいつも自分が頭にかぶっている、土の色があちこちに染み着いた、愛用の青い蚊帳吊り草の手ぬぐいとも知らず。
「……醜い顔は……見とう……ない……」
ふと、天刑は剥き出しになったおるいの左の首に眼をやった。
左耳の窪みからやや下にかけて、そこには無数の疣(いぼ)に覆われ、半殺しの餅の形をし、全面に血管の浮き上がった大人の男の片方の睾丸ほどの丸い癅が付着していた。
癅の全面を這う血管は、上へたどって行くに連れ細くなっているが、それはおるいの左頬全体を赤く青い肉の蔦のごとく覆い尽くしーー。
蔦の根はすべて、毛根からまつ毛が抜け落ち、二度と生えることのないおるいの左の上下のまぶたを腫れ上がらせていた。
「……白玉石の……偽の眼……熱で……溶けて……崩れ落ちた……」
ドゴォ! と、音が立つ勢いで。
全裸のおるいが、般若のような顔で、天刑の顔面に右拳を喰らわせたーーはずだった。
が、その渾身の怒りと恥辱を込めた拳は、あっさりと天刑の左掌に受け止められ、威力は吸収された。
「……かたわの……夜鷹ごとき……屑が……似合いの姿にしてやろう……」
天刑が、おるいの肩の疣だらけの癅をわしづかみにし、むしり取った。
それと同時に、おるいの右頬からまつ毛のない右下まぶたの腫れまでも、一度に、一枚皮として引き剥がされた。
「おごぉぉぉぉぉっっっっっ!」
右顔から首筋まで、どろりとした黄色い膿を含んだ悪臭とともに、辺り一面に血飛沫が撒き散らされた。
その壮絶なまでの絶叫と悪臭と血腥さに、強制的に意識を取り戻した互一と実花は、かろうじて上半身を起こしたものの、その時点でふたりは頭を掻きむしり。
錯乱して、もつれる足を立たせることが出来ず、顔面は鼻水と涙と唾液にまみれさせ。
下半身からは、意図せずに糞尿を垂れ流し、廃社から逃げ出そうとしたが、ふたりの首に巻かれた細い荒縄の根元を、佐餌が三重四重に素早く自身の左掌に巻きつけ、引き戻された。
互一と実花は、淫らな悪夢に浮かされたかのように、気づけば互いに全裸になり、頭髪まで揃って小坊主と同じ青々とした丸坊主にされ、陰毛まで一本残らず剃られ尽くしていた。
その上強制的に合い舐めの体位にされ、互いに漏らし、肛門からひざの間、内腿、足首から爪先まで垂れ流した大便を、舐め喰いつつ、清拭し合っているのだ。
口腔いっぱいに、汚い、臭い、苦い、まずいという厭な味覚と、凄まじいまでの嫌悪感にさいなまれながらも、時おり訪れる高貴な気品を含んだ、柑橘香り高さと甘美な芳香に惑わされ、辞めるに辞めることが出来ないのだ。
それが、佐餌がふたりにかけた
【平中尿筥(へいちゅうひらはこ)の術】の為とも知らずーー。
「やよ男よ、その粗暴さに似た蠱に身を委ねよ。やよ女よ、その下卑た振る舞いに似た蠱に身を委ねよ」
佐餌が涼やかな声でそう口にした途端、互一と実花の視界に、世にもおぞましい光景が広がった。
「……あォッ……おぅッッッ……」
あの、おるいなる年増で醜女の夜鷹が、全裸で天刑という黒衣の男に犯されていた。
廃社の中央のほこりまみれの、冷たい床板の上でうつ伏せにされ、両手首と両足首をそれぞれに背中の両脇で細い荒縄で幾重にも緊縛され、その二本の荒縄の先端は、おるいのくびれのない腰の脇から一尺も離れていない床板に、五寸釘の頭の下に、こちらも幾重にも巻きつき、釘の頭の下と床板にがっちりと打ち込まれていた。
ーー目隠しされた手拭いを、歓喜の涙で濡らすおるいと。
ぶじゅる、ぶじゅる、と粘い音を立てて後背位で責める天刑。
さらにおるいの垂れた尻と天刑の下腹がひっきりなしにぶつかり合う、
パン! パン!という肉と肉が打ち鳴らし合う生々しい音が、延々と耳の奥まで響く。
その音に、その姿を目の当たりにした互一は今にも射精せんばかりに、若い陰茎を、はち切れんばかりに青筋を膨張させて勃起し。
実花は失禁したかのように、どっぷりと愛液を垂れ流した。
そして、寸分の間も置かず。
ふたりの若い男女ーーいや、若き哺乳類という名の雌雄の獣同士は、互一が実花を押し倒し、正常位ですぐさま繋がり合った。
挿入と同時に軽く達した雌を、射精するにはまだ早い雄が剥き出しの尻を激しく前後させ、その腰に雌の両足が交差し、奥へ奥へと誘(いざな)い、押し込む。
たがふたりにして二匹が行っているのは、本来は生殖のために与えられたすべての生き物の中で、人間だけが行う、快楽を貪るための行為なのかーー。
いつの間にか座位になり、絡ませ合った舌と唇の間から、ダラダラと唾液を滴らせ合い。
舌と舌とを絡め合いながら、素肌と素肌が隙間なく密着するよう、抱き締め合っている。
「やよ、精を放て男よ。その粗暴な気性に見合いし毒の蠱を身に依らせよ。やよ、達せよ女よ。その下卑た振る舞いに見合いし毒の蠱を身に依らせよ」
ーーその場から動くことなく正座し続けていた佐餌のひざの上に、縦五寸、横八寸。深さ二寸の緋色の箱が現れた。
緋い。
緋く、ただ緋く。
全体に、ただ桜の花びらが数え切れぬほどに舞っている。
しかしその美しき箱はーー。
ぞろり、
ぞろりと。
佐餌の右袖からは、無数の百足が。
左袖からは、こちらも無数の蚰蜒(ゲジ)が。
全匹合わせれば数え切れないほどある密集した足をうごめかせて、這い出て来るではないか。
佐餌の両肩口から吊るした麻袋の中から、先ほどの彼女の声を合図に、袋を喰い破って現れたのだ。
そして、白梅鼠の生地に淡藤色の七宝と萩を散らした着物の前が内側からわずかに盛り上がると、そこから姿を現したのは、まだ成長し切っていない、子蛇の蝮だった。
それに継いで、襟首からぞろぞろと佐餌の上半身から這い降りて来たのは、数匹の蟇蛙であった。
「百足と蚰蜒が入るまでは、喰らい合うてはならぬぞ。子蝮どもよ、毒牙を剥くなよ。蝦蟇どもよ、疣より白濁の毒液を垂らすなかれ。しばしの我慢堪えねば、煙草の灰と山蛞蝓落とすぞよ」
その瞬間、もっとも大きな蝦蟇が、のっそりと佐餌の襟首から現れ、その左肩に乗った。
これまで佐餌の身の内から這い出した蝦蟇の母蛙、お源(げん)である。
そしてすぐさま、佐餌の襟首から身を乗り出し。
その右肩に腹を乗せてその身をくねらせ、辺りを見まわす細長い生き物は、子蝮の母蝮、磐(いわ)だ。
「光栄たり、我が子が蠱毒の筥入りぞよ」
佐餌が右肩に乗った磐ののどを下から、右手の人差し指と親指で軽く摘み、左掌でお源の頭を撫でた。
「い、いぎゃあああああああああっ!!!」
「ヤダヤダ、ヤダヤダヤダヤダヤダァァァァァァァッッ、あっち行って行って行って行って、来ないでぇぇぇぇぇぇっっっ!!!」
座位で挿入し、しきりに双臀を左右に高く激しく揺らしていた実花が、互一の首に両腕をまわし、抱き合ったまま、悲鳴を上げた。
何故なら、先ほど佐餌の左袖口から這い出た蚰蜒が、胸元から両肩までぞろぞろと這い上がり、裸体を侵食しているからだ。
侵食と言っても、ただ全身にまとわりつくだけではなく。
完全な無痛ながら、無数の蚰蜒が生きたまま、皮膚の下に潜り込んで来るのだ。
それは、互一も同じだった。
こちらは無数の百足が、何の痛みもなく両足の十枚の爪の中から潜り込み、実花と同じく、皮膚の真下に侵入し、それが皮膚の下を、全身を這いまわるという、異様な感触に、全身を蝕まれている。
しかし、百足達を払い除ける術もない。
奇怪かつおぞましいこと極まりない感触にただ恐怖することしか叶わず、自身もまた、狂乱する実花にしがみつくことしか出来ないのだから。
ーーほどなくして、おぞましさに満ち満ちた恐怖が、互一と実花の交合の絶頂の快楽に敗れた。
繋がり合った互一の陰茎と実花の陰部は融合し、ひとつの肉体と化していた。
ーー絶え間なく迸り続ける精液。
ーー果てなき絶頂。
それは、ただの人間を蠱毒の応用の玩具とするには、外術遣いにっては、たわいない悪戯同然の容易な業であることなど、互一と実花のふたりは、知る由もない。
「ーー女陰観音陽根魔羅、御開帳乖離」
佐餌が一言唱えると、じゅぽんっ! と大きな音を立てて、ふたりの繋がりが離れた。
まだ勃起している互一の尿道からは射精は止まず、
実花の陰部は、大納言ほどの小豆大に膨れ上がら、真っ赤に充血し切ったさねに加え、尿道からは潮がぴゅうぴゅうと拭き上がり続けている。
そしてーーふたりの裸体には。
互一の裸体には、両腕、首筋からへそまで、三匹。
そして、両太腿の付け根から両足首まで、先ほどまでその皮膚の下に潜り込んだ百足が、数匹の大蟷螂を捕食し。
毒々しい大女郎蜘蛛。その巣に捕えられた紋白蝶、アゲハ蝶、太身の蛾を何匹も喰い散らかす大百足と化して、互一の全身に、刺青となって彫り込まれていた。
ーー実花の全身には。
同じく刺青となった大蚰蜒が、互一と同様、四匹両腕に絡みつき。
カマドウマに蝿の大群、無数の大蜘蛛を喰い散らかしているおぞましい光景が、彫り物となっていた。
その代わり、へその上から胸の谷間を通り、右肩、首の真後ろ、左肩へと這う二匹の蚰蜒は、若い女の純粋に美しい裸体に恐ろしく映え、その不気味極まりない容貌が、異様な美醜を際立たせていた。
その瞬間、異様な声が廃社内に響き渡った。
ーーその間にも、おるいは天刑に犯され、抽挿され続けていた。
耳元で、天刑がおるいに何事か囁いた。
自我を忘却するほどの快楽の中、その言葉におるいは突然我に返り、青ざめた。
おるいは、明らかに何かに戸惑っているが、その答えに可か不可かを言い出せずにいるようだったが、
「ひ、ぎ……おぉ……おぉぉっ、おごおっっっっ!!」
おるいと天刑が同時に絶頂に達し、おるいの腟内に天刑の濃厚な精が射精された。
「あぁ、あぁーーあぁ! 来たぞ来たぞ来たぞ、ようやっと来たぇ、来たぇ! 稀に見る、醜女と女師の同時の絶頂が!」
歓喜の声を上げ、佐餌が叫んだ。
「今ぞ、磐! その醜女の背中に飛び憑(うつ)れ!」
佐餌の右肩から、くちなわの異名どおり。
磐のにょろにょろとのたくった冷たく長い身が、おるいの無防備な裸体の背中目がけて、飛んだ。
磐とおるいの身が密着すると同時に、背骨をへし折られたような激痛が、おるいの背中から全身に爆ぜ広がりーー。
磐はおるいの背中に潜り込み、その背中一面に彫られていた女郎蜘蛛の刺青を瞬く間に喰い尽くすや否や、女郎蜘蛛に代わり、その背中に、背骨に沿って彫られた刺青と化した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
お香が、ふと気づくと。
あのおるいなる乞食同然の年増の夜鷹が、廃社の中で商売と自身の寝床にも使っている、染みだらけの薄汚い煎餅布団ーー煎餅より薄い、畳鰯の如き固く薄い布団に、うつ伏せに寝かされていた。
それも、全裸で緊縛されている。
だが緊縛とは言え、さほど苛烈なものではない。
右手首と右足首、左手首と左足首をまとめて三重に細い荒縄で縛られ、その間に二重に縄をまわし、もやい結びにした程度だ。
そのかたわらで、あの佐餌なる可憐な少女が、父に口で奉仕していた。
六尺褌をずらし、そこからいきり勃った陰茎を、白梅鼠の着物に、淡藤色の七宝と萩の密やかな花を散らしたあえかな着物から両袖を脱ぎ。
わずか四寸弱ほどしか膨らんでいない左右の乳房の間に、勃起した父の陰茎をはさんで上下にこすり、亀頭をその小さく愛らしい唇に咥えていた。
口の中では舌先でちろちろと、尿道口を舐めまわしている。
でっぷりと腹の出た、醜い肉体の父が直立不動で腕組みし。
その前にひざまずいた小柄で可憐な少女が、上半身裸になって、抜けるように白い肌と背中、か細い肩と両腕の華奢な裸体を露わにして口淫する様は、とてつもなく淫猥な姿に見えた。
ぶぢゅ、と音を立てて、自身の陰部から愛液が大量に溢れたのが、わかる。
「恐ろしく、濡れておるな」
頭の上から、低い男の声が降って来た。
鉄面皮の表情で、お香の顎を持ち上げると、
「ぐっ……」
お香が意味のない反論をしようとしたその瞬間、その口に水で濡らし、緩く絞ってねじった手ぬぐいが、猿轡として噛まされた。
「お、おぉっ、頼む、も、もっと奥まで、咥、え……ひぐっ」
禿頭針は左右から佐餌の頭を股間に押しつけ、己がものの亀頭で佐餌ののどの奥まで押し込んだ。
佐餌は左右の乳房から離禿頭のものを、言われるがままに深く咥え込み、だらしなく垂れ下がった、染みだらけの双臀を褌越しに両腕で抱え込むと、えづきもせず、のどで禿頭針のものを勢いよく突いた。
「あァぅ、うぅぅ、いい、いいぞいい、いい、はァ、出るぞ射精(だす)ぞ、佐餌、か、顔に、く、く、く、口に、う、受けろっ!」
ーーその瞬間、わずかに開いた佐餌の口から禿頭の陰茎が抜かれ、佐餌の両頬から顎までと。
口の中いっぱいに、大量の精液が浴びせられた。
「……は……はあ、ぁ……ん……」
佐餌は着物の裾の間に両腕を差し込み、太腿できつく締め上げた。
口淫と顔射、口内射精の果てに、自慰をせずして彼女もまた達していたのだ。
その証拠に佐餌の全身が痙攣し、頬も裸体もほんのり紅く染まり、小ぶりな乳房の先にある伽羅色の乳首が、どちらも固く尖っていた。
禿頭針は、ただだ荒い息を吐き続け、両掌を後ろ手につき、左足を立て、右足は胡座をかき。
自らの下半身に締めた六尺褌が緩み切っていることにすら、気づく術もない。
ぺろりぺろりと、鴇色の舌先で白濁の汚液をさも美味そうに拭い取り、口の中の精液は、甘露の如く飲み干した佐餌は、自ら身にまとうすべてを、脱ぎ捨てた。
後に残った襦袢。
鬱金色の生地に広がった、黒い水溜まりのような部分に、金色の宝紋尽くしの刺繍を散りばめた腰巻きを、まるで上等な褥のようにして寝転がり。
自ら太腿の内側が愛液で濡れそぼった、両ひざの裏側を両掌で持ち上げ、御開帳し。
まだ淡く薄い恥毛にふち取られた、小ぶりな大小の陰唇と、その中央で包皮から突き出た、密やかに勃起した小さなさね。
唾液のように、延々と愛液を滴らせる腟口と、愛液が滴り落ちてひくつく肛門すら晒しーー。
小さな両掌は、固く尖った乳房を激しく揉みしだいていた。
「小父様、お願い致しまする、その立派に生き返った御持ちの物で、わたしを貫きーーあぁ、抱くのではなしに、犯して、犯し抜いて下さいまし!」
卑猥極まりない小柄で華奢な少女の哀願に、男は獣のような咆哮を上げた。
寸分の間も置かず、腹が膨れきった肥満体の中年男の、醜悪な肉体が少女の裸体に覆いかぶさると同時に。
男の肉棒が、少女の小さな腟口を根元まで一気にずぶりと貫くや否や、
「ーーあっ、あぁん、はぁっ、あぁぁぁっ……いぃぃぃぃぃっ!」
挿入だけで、早々と達した佐餌の声が上がった。
「……んん……ぐぅっ……」
残された渾身の体力を振り絞って、禿頭針は腰を激しく前後させる。
佐餌の身が小柄な分、腟も小さく、締めつけも狭く、きついのだが、それがまた、禿頭針にとっては、とてつもない悦楽となっている。
「あっ、はぁ、あぁ、小父様、小父様っ!」
佐餌は己が肉欲のまに、禿頭針の首に、小枝のようにたおやかな両腕でしがみつき。
白くしなやかなか細いその両足は、禿頭針の太過ぎる腰まわりに交差して、さらなる快楽をその身に取り込もうとしている。
「ん、あぁ……」
「あぁ、可愛いぞ、可愛いぞ、佐餌、その小さな唇も舌も、むしゃぶり尽くしてやろうぞい」
「あぁ……ん、はぁ、あぁ……」
互いに思い切り突き出した舌と舌が、上下に幾本もの唾液の糸を混じえて、激しく絡み合う。
佐餌は恥じらいから固くまぶたを閉じているが、堪え切れない悦楽から来る涙が、左右の眦(まなじり)から絶え間なく滴り落ちる。
だが、佐餌と対照的に、実の娘より年下の少女自らに乞われ、口や舌まで犯す背徳の肉欲に支配され、隻眼を見開いている。
その光景にもっとも驚愕したのは、実娘のお香だった。
消渇の病故、勃起しないはずの陰茎が、雁首が露わになるほど完全に剥き出しになり、全面に青筋を浮き上がらせて、そそり勃っているのだ。
病をこじらせ、左腕と両足が壊死し、腹が異様なまでに膨らんだ生ける肉の塊と化して以来、ひとり残らず去って行った弟子達に代わり、いやいや下の世話をしていた身であるがために。
「あぁ……はぁ、小父様、小父様、お願い、致し、ます……何卒、何卒『地蔵抱き』のお情けを、わたしに……」
佐餌が、涙混じりの喘ぎ声の中で、ようよう禿頭針の耳元で、息も絶え絶えに、艶めかしく喘いだ。
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