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惨劇ノ参事⑵・第伍章《花蟷螂と旋風・針金蟲と鬼薊棘鎖・今様橋姫と慚愧乱舞》
拾之罰「新谷淫獄変」ー外道達の狂宴ー
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「ちょお待ちぃな、おっさん」 「ーーその【死合】、あてらが半分頂きますえ」
先ほどまで、会話を交わしているふたりにしか聞こえていなかった声が、その場にいる者全員の耳に届いた。
「誰(だい)ね、何ね!!ーーそいと、おいはまだおっさんやなかばい!」
新谷が叫ぶと、突然目の前に現れた、羽衣を縫い合わせてしつらえたかのように、半透明に透けた薄衣が天井に舞い上がり、消え去った。
それと同時に、首を斬られ、そこからいまだに絵描きの間で鮮血の逆さ滝をほとばしらせる娘の裸体を一心不乱に描き続ける舐安のかたわらに現れたのは、十三、四歳の、身の丈五尺ほどの小柄な少女であった。
誰もが、その娘の姿に目を見張った。
どこからどうやって現れたのか皆目見当がつかないのはもちろんだが、それ以上に、異形の少女の容貌に、だ。
六花の別名通り、六角形の刺繍の中に雪の結晶がひとつひとつ丁寧にほどこされた、白梅鼠色の友禅の振袖に。
金糸の吉祥文様の刺繍入りの、絹鼠の半襟。
白足袋に、鼻緒から本体まで、すべて紫水晶色の上等な草履。
しかし、帯だけが鮮烈なまでの赤だ。
南天の実の深緋の瞳に、同じく南天の常磐色の葉の耳をつけた、愛らしい雪兎の柄が点々と散らばっている。
少女はその白の振袖と赤の帯と、まったく同じ容貌をしていた。
両眉の真上。
腰と同じ位置。
ともにまっすぐ切り揃えられた前髪も後ろ髪も、雪兎の身と同色だった。
しかもそれは髪だけでなく、両眉も左右の長いまつ毛も同様で。
さらに双眸と唇も、帯締めもせず細腰に締められた帯の柄の雪兎達とお揃いだ。
ーー南天の実と同じ、猩々緋の瞳。
そして、左右のこめかみより少し上で髪を軽く結い、そこに珍しい形の白い蘭の生花を飾っている。
少女は正に、雪兎が人の姿に変化し、可憐という言葉が人になったかのような存在であった。
さらに、白蛇の化身の如く人間離れした美貌を兼ね備えてーー。
「失礼とは承知してはりますが、あてらの主様の御命令で、今はまだ名は名乗れまへんこと、何卒お許し願います」
新谷に向かって頭を下げ、少女は詫びた。
まだあどけなさを残す容姿ながら、その言葉からは真摯な気持ちが確かに伝わって来る。
「そうけそうけ、上等やないかいーー」
じゃらり、と重い音を立てて、是之源が袖と裾から伸びた何本もの鎖を両掌にまとめて握り締め、構えた。
「やめぇ是之源! 容易(たやす)く動くんやない!」
梅弥が、是之源を制した。
「ワシら【鬼来迎】の商人は皆、同郷で組み合うとる者(もん)同士と屍ノ御前のおやた以外、どないな術や暗器使うとるのか、わかれへんのやで」
しかし、その少女は、是之源の言葉を一蹴した。
「はぁ、何言うてはりますのん? これやから、アホ相手にするのは嫌やなんどすわ。おまはんらは弐拾七代目から、とうに【鬼来迎】を破門されはった身ぃでっしゃろ。今はもぉ《惨党狩り》の賞金首。それ以上でも、それ以下でもあらしまへんのえ?」
ーー少女の言葉に、いまだ姿を見せないもうひとりの声が、続く。
まだ若い、少年の声だ。
少女より少しばかり上、十六、十七と言ったところか。
「あんなぁ、おまはんらの首取りは、弐拾七代目屍ノ御前、娒々代姐様直々の御命令なんえーーせやけど」
「《惨党狩り》かて、対等やないのはわてらの主義に反するんやなぁ、これが」
「せやからおまはんらの術も暗器も、わてら何ひとつ知らんのや。わざわざおやたから何も教えてもろてへん。そないないけずな真似したかないし。な、これで対等やろ?」
「けったくそ悪りぃのう、ガキが。さっきから声しかさせへんで顔も見せんと名前も名乗らんと……いけずな真似しとるんは、どっちや思とんねん」
「いけず違ゃうて。ただ、わての術使とるだけや。だいたいおっさん、わてはまだなーんも手出ししとらんで? そもそもわてら、《惨党狩り》の賞金首なんぞに名乗る名前なんざあれへんねや。そないな輩にいけず言われよるんは、心外やぁ~~なぁ~~」
揶揄するような語尾に、是之源がキッ、と両眉と左右の眦を吊り上げた。
「御浪人はん。そちらの獲物はそこな茶屋辻に玉結びの性悪のおなごと、鬼畜生の絵師に、肥えた卑屈な金魚の糞(ふん)であらしゃりましょーーあてらの獲物はあてらの流儀で始末しはりますえ、助けは必要あらしまへん。せやからどうぞ、そちらはそちらでごゆるりとーー」
「ほーお。わいば、やっちゃものわかりばよかおなごったいな。そげん賢かとが、あんげんアマメどもに負けるわけなかばい」
「アマメ、て? 」
「答えとる暇ば、もうなか!」
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ちょうどそのとき、怒りに任せて澪が太夫の両眼を覆う、薄汚れた細切りの晒しをひとつかみにし、引きちぎった。
「ーー!?」
その瞬間、澪は左右の眼を極限まで見開いた。
ボロ切れ同然の細い晒しから露わになった太夫の両眼は、向かって右が碧眼。
左が金色(こんじき)だったからだ。
ーー美しい。
澪がそう思うと同時に、澪の右手の指先が、太夫の眼窩にえぐり込もうとした。
「瞼ば閉じんね、洋梨坊主!」
新谷が、帯の間に忍ばせていた長さ四寸茎二寸五分の小柄を一本、澪の右掌に投げつけると。
澪は反射的に右手首を左掌で握り締め、ひざを折った。
しかし、これが後々悲劇を招くことになるとは、太夫も新谷も、予想だにしていなかった。
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梅弥と是之源、ふたりの大人の男が、白子の娘を左右から狙い澄ましている。
是之源は自身の暗器の鎖を両袖から裾から伸ばして両掌に持ち、そこから長く垂れ下がった鎖の先端をじゃらじゃらさせているが、
梅弥は素手だ。
脳を弄る鍼を使う様子も気配もないと、白子の少女は確信していた。
小柄で可憐な容貌ながら、彼女もまた数多の復讐代行を請負って来た、殺しを生業とするれっきとした商人であり、百戦錬磨の殺し屋なのだ。
「ほんに……あんさん方は、ひとりのおなごをよってたかって嬲るのが御趣味なんどすか?」
「何抜かしてけつかる、【鬼来迎】の者に、男も女もないわい」
「そうどしたなぁ、まぁ、あんさんらは【元】が付きはりますけど」
「いちいちいちいち、嫌味ったらしゅう揚げ足取りくさって。京女は減らず口が多いさけ、気に入らんのじゃ、ボケェ!」
是之源が胴間声を上げると同時に、梅弥が唐突に右ひざを立てて身を屈め、ばん! と、足元の畳を両掌で打った。
途端に、白子の娘の立つ畳の下から、無数の鬼薊の茎と葉が彼女の頭と同じ位置まで瞬く間に高く伸び上がり。
萼の上に大型のオナモミ状の棘の塊が膨らみ、その上に柔らかい房のような若紫色の花が連続して花開き咲き乱れた。
その茎と葉は縫い針よりも遙かに細く短い棘を伸ばし、娘の顔に、巻きついた。
それは左右の袖口から両腕に、裾から両足に潜り込み、四肢にぎちぎちと巻きついた。
襟元からあっという間に伸びた細く薄く痛い、厄介な棘だらけの茎と葉が、少女の鎖骨から首を右から左から、容赦なく締めつける。
「ひぎっ、いぎぃぃぃぃぃぃぃっっっっっっっ~~!!!」
悲痛な叫び声が、辺りに響き渡った。
ーー実際に触れた者にしかわからない、小さくも数え切れないほどの無数の薊の細く短く薄い、しかしとてつもない厄介な痛みを与える鬼薊特有の棘が、葉と茎ごと、少女の全身にくまなく突き刺さっていた。
梅弥の鍼の術は鍼だけでなく、縫い針や植物の針や棘にも応用出来る。
そこへ是之源の放った鎖が、何重にも、かつ複雑に絡み、喰い込んでいる。
ゲハゲハと言う男ふたりの下品な笑い声と、少女の悲痛な叫びが混じり合い、その場は混沌の渦中と化した。
いくら葉と茎の棘が痛くとも致命傷にはならず、反撃もままならない。
そして何より、梅弥と是之源らは少女の命を奪うような、とどめを刺す気は毛頭ない。
ただひたすらに痛みを与え、傷めつけ、生殺しにすることしか頭になく。
少女が痛みに耐え兼ねて根を上げて降参したら、ふたりがかりで前から後ろから、少女の裸体を上にして下にして犯し、腟と口だけでなく肛門まで貫き、顔も口腔も腟内も、さらには直腸まで白濁の汚液で汚(けが)し抜くつもりだった。
だが。
何の前触れもなく、突風ーーいや、凄まじいまでの旋風が巻き起こった。
それと同時に、人間状の鎌鼬が梅弥と是之源の全身を旋回すると、是之源の鎖が、ただの鉄屑と化して砕け散った。
梅弥が咲かせた鬼薊は瞬く間に白橡の色に変じて弱々しく萎び枯れ果て、娘の全身に突き刺さった棘はすべて、はらりはらり、ほろりほろりと抜け落ちた。
少女がその場にぐったりと倒れ込むや否や、梅弥と是之源はがなった。
「誰や! こんアマっ娘の相方ちゅうことぐらいわかっとるわい!」
「こそこそせんと顔出せや、顔ぉ!」
「顔出せ言われたかて。顔やったら、とうに出してはりますけどなぁ?」
しゅぱぁっ、と音なき音がすると同時に、是之源の鼻と両耳が畳の上にぼとりと落ちた。
そして、左右の口端が耳元までざっくりと裂けた。
続け様、梅弥の上唇が人中から、そして下唇がごっそり削ぎ落とされ、下の歯茎が剥き出しになった。
口元を押さえる男ふたりの絶叫が、大量の血飛沫とともに、辺り一面に噴き上がり、撒き散らされる。
是之源の元結と髪、団子状にした梅弥の髪がともに畳の上に落ち、ふたりの頭はざんばら髪と化した。
「大丈夫かいな、お雪ーーなぁ、お雪て!」
初めて、少女の名前が呼ばれた。
「ん、はぁ……めっちゃ痛かったわぁ……せやけど、あんたん旋風で、棘ぇ全部吹き飛んだえ……助かったわぁ……」
ゆっくりと、お雪なる少女が立ち上がる。
お雪が見上げた天井の隅。
そこにはひとりの少年が廻り縁に背中をつけ、 頭を前に突き出し。
左右に伸ばした両腕の掌を漆喰の壁につけ、滑り下駄の爪先を両方とも長押の上に乗せて、トカゲやヤモリとは逆向きに、五尺七寸の身を屈め、ぴったりとへばりついていた。
坊主頭に近いほど短く刈り込んだ髪は、蒸栗色。
上にも下にも鋲が並列して穿たれた菱形の黒革によって、鼻から両耳の下、顎まで覆い隠されている。
しかしその残虐な術とは似ても似つかない、黒目がちな瞳に春風駘蕩とした雰囲気を漂わせている。
その黒革の中ほどの裂け目から、鮮血が滴り落ちる、刃渡り五寸、刃幅三分弱ほどの剃刀が覗いている。
少年が咥えている剃刀の上部には、わずか二分弱の、薄く短い虫襖の鉄板で覆われているのは、少年の口を保護するためだ。
上半身は裸。
筋骨隆々としてはいないが、若さに満ち溢れた筋肉のしなやかさ、体幹の強さを感じさせる、引き締まった肉体をしていた。
六つに割れた腹筋が、肋骨から下腹まで巻かれた晒しを通しても、その形がはっきりとわかる。
両腕にはひじから指の根元まで、腹と同じく晒しを巻き。
下半身は月白色の括り袴を履き、ひざから先は同色の脚絆。
先ほど梅弥と是之源の口元を斬り落としたのは、少年が上下の唇に挟んだ、この小さな剃刀だった。
梅弥の団子状の髪と、是之源の元結を髷ごと斬り、庇髪を台無しにしたのも、その剃刀一枚のみでの神業だったと、一目でわかった。
「ーー普通、お礼返しは半返しでっしゃろ? せやけどお礼参りなら、倍返しでお返ししまひょか。飆(つむじかぜ)ぇ、手助けしよったらあきまへんえ」
「そりゃ、楽でえぇわ。まぁせいぜい、おきばりやっしゃ」
飆、と呼ばれたお雪の相方たる少年が、腕組みして満面の笑みで返すと、彼の左腕が天井に延び、それと同時に、飆によるたった一発の掌底で、絵描きの間の天井板が、竿縁だけを残し、すべて木っ端微塵に砕け散った。
ーーその【木っ端微塵】は、ただ天井板が板切れと化したのではない。木粉となって完全に粉砕されたのだ。
「な……」
お雪を除くその場に居合わせた者達が全員、絶句した。
蜘蛛のように素早く竿縁の上に移動し、そこから左足をぶら下げ、右足をあぐらの形で左腿に乗せた。
「ほな、わては相方に言われた通りと、文字通り高みの見物とさせていただきますわ」
「我(わ)りゃあ……自分の相方が、それもこんな小娘を、ワシらふたり相手にさせよるたぁ、えろぉナメられたもんや」
是之源と梅弥が、揃って飆を
睨み上げた。
「ーーおっさんら、鼻毛出てはるで」
あまりにも見当違いな返答に、ふたりはかつてないほどに逆上した。
「ほんだら何じゃい、このけったいな頭しよったガキぃ? このアマっ娘、ワイらでフクロ(叩き)にしても輪姦(まわ)してもかまわへんちゅうんやな! 何がどないなっても、知らへんどぉ!?」
がなって問いかけた是之源への返事の代わりに、飆は知らぬ存ぜぬと言った風に、樑が剥き出しになった天井裏を見上げ、口笛を吹いた。
そのとき、お雪の両の袖口がひじまであらわになった。
その真っ白でか細い腕には、小指の尺骨茎状突起の一寸ほど下から、ひじの上まで左向きに巻かれた、二分弱の針金が四重に絡みついていた。
その瞬間、両腕を一尺ほどの間を開けて前に突き出したお雪の両腕に絡みついた針金の内部から、茹でた素麺の如き細くくねった物体が、六尺ほど先に立つ梅弥と是之源目がけ、ビュッと放たれた。
「吩ーー再!」
不敵な笑みを浮かべ、是之源が瞬速でバババッと印を組み終えると、粉砕された何本もの鎖が再生した。
「!?」
お雪が怯んだのも、無理はなかった。
再生したその鎖は瞬時に蜘蛛の巣状に形成し、それと同時に全体が赤みを帯び、灼熱の防御壁と化し、是之源の身体の孔という孔に潜り込むべく、束ねられた生糸のように一斉に襲いかかったが、その百匹近い寄生虫が、一匹残らず黒焦げになって、灰と化した。
それだけではない。
是之源の顔一面に、鼻骨の真上から放射線状に愛染明王の梵字が浮かび上がり。
灼熱の鎖を素手で持つ十指の外側から手の甲、手首にかけて。
ーー理趣経百伍拾、全拾七章節すべてが、びっしりと浮き上かった。
壱、大楽の法門
弐、証悟の法門
参、降伏の法門
肆、観照の法門
伍、富の法門
陸、実働の法門
七、字輪の法門
捌、入大輪の法門
玖、供養の法門
拾、忿怒の法門
拾壱、善集の法門
拾弐、有情加持の法門
拾参、諸母天の法門
拾肆、三兄弟の法門
拾伍、四姉妹の法門
拾陸、各具の法門
拾七、涅秘の法門
そして梅弥は、先ほどお雪の柔肌を痛めつけた、鬼薊の葉と茎で以て、我と我が身を護ろうと、自身の周囲に、自分の身長より高く密集させ、茂らせた。
しかしーー。
「ぎげっ!?」
無数の細くくねった物体は鬼薊の葉と茎のごくごくわずかな隙間を潜り抜け、中にはわずかにその極細の身を棘で傷つけながらも。
梅弥の鼻腔を筆頭に、彼の目頭、眦、左右の耳孔。
驚愕のあまり思わず開いてしまった口。
果ては着物の裾に潜り込み、尿道から肛門へと、全身の穴という穴に潜り込んでしまった。
「おぎょぼ、げぼばぁっぎぃぃぃぃぃぃっぎぎぎぎぎぐがびぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎげぎびぎぃぃぃぎぎげっがっばがっっっ!?」
それは、寄生虫であった。
ーーその名は、ハリガネムシ。
梅弥の体内に入り損ねた残りの蟲達は、こぞって少しでも彼の体内に入り込もうと必死になり、手と足の爪の間に、多勢に無勢で潜り込んでいた。
一瞬にして手足の爪二十枚すべてが剥がれ、大量の鮮血が噴射することと相成った。
「《逆さ折り》!」
お雪が、そこだけ唐辛子の別称、鷹の爪のように長く一寸強までに伸ばし、先端を鋭く尖らせた、唐辛子とは正反対の白磁色の左手の人差し指を立て、唇に当ててそう口にすると。
梅弥の両手首、両ひじ、両ひざの関節が、一度に本来の関節の位置とは逆の向きに立て続けに折れた。
手の甲は腕の外側に。
両ひじは、左右の掌が両わきに納まるように。
そして両ひざは、十枚の爪の剥がれた足の甲が、正座と逆の形になって、太ももの付け根と密着し、梅弥はその場にどっとうつ伏せに倒れ込んだ。
梅弥の断末魔の叫びが辺り一面に響き渡ったが、お雪と飆なる少年は
眉ひとつ動かさず、平然としている。
「《首折り》!」
お雪がふたたび、左手の人差し指で先ほどと同じ仕草をする。
ゴギュ、
と、耳を塞ぎたくなるような生理的嫌悪感がかき立てられるような音を立てて。
両手首、両ひじ、両ひざの関節を軒並み逆に折られ、前のめりに倒れ込んでいた梅弥の身は、首だけは後頭部を肩甲骨の間に挟む形で、天井を向きーー。
それと同時に、梅弥の双眸、左右の鼻腔と耳孔から白くうねったハリガネムシが一斉に溢れ出し、二条の白いうねりとなって、お雪の両腕の金輪の中に、吸い込まれるように舞い戻った。
ーーどうやら口腔や尿道、肛門と言った内臓に潜り込んだ蟲達は、寄生主の内臓をあらかた喰らい尽くしてからでなければ、出る気はないらしい。
ーー全身の関節を逆にして、梅弥の屍はびくんびくんと激しく痙攣し。
その顔は狂気に満ちた笑みを浮かべ、背中から天井を見上げていた。
「なーーななな、なーー何さらしとんじゃ、我(わり)ゃぁ!! こん、小娘があぁぁ!!」
相方のあまりに無惨な殺され様に、是之源がブチギレた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「まさか、まさかーーこれこのように醜い者が、これほどまでに美しいものを隠しておったとは!」
白く細い、柳葉のような五指を備えた掌に突き刺さった小柄を抜き取ると同時に、刃によって堰き止められていた血が噴き出すのもかまわず。
澪の血まみれの手が、小柄を使って太夫の瞼の薄い皮膚を左右ともに斬り裂いた。
太夫の絶叫が、響き渡るーー。
「穢花よ」
それまでずっと下座に正座で座り続けていた穢花の両肩が、びくんっ! と跳ね上がった。
瞬く間に顔色が青冷め、顔から両手から、血の気が引いて行くのが傍目から見てもわかる。
ぶよぶよと肥えた全身に、皮肉にも大量の脂汗が流れ落ち。
それは瞬く間に、穢花の着物の色を濃く塗りかえた。
「早ぅせぬかえ、この豚男!」
その勢いのまま、穢花は袂から取り出した、細めの竹筒を二本同時に、太夫の眼窩に。
【かぐやのなよ竹】
を。
澪に命じられるがままに、二本同時に押し込んだ。
この世のものとは思えない断末魔の悲鳴が、その場にいる者全員の鼓膜を激しく揺すった。
勢い余って飛び出した視神経を小柄で根元から切断し。
澪はそれらの両眼を、何のためらいもなく口に含んで転がした。
「……美味い……」
「ーーなんばしよっとかぁ!? こんキチガイがあぁぁぁぁぁーー!!!」
逆上した新谷が、疾風の如く澪の元へ駆け寄る間に、太夫は両掌で眼球を抉られ、左右の五指の隙間から大量の血を奔流させながら、ゆっくりと後ろ向きに倒れて行った。
「ーーオォオオオオオオォォォォォオオオオオオオオォォォォォォオオォォォォォォォ!!!」
「「「「「「!?」」」」」」
天地を斬り裂くかのような凄まじい獣の如き咆哮に、是之源、飆、お雪。
澪に穢花、そして目はないものね、太夫も、その場に居合わせた者が一斉に驚愕した。
諸肌が脱げて上半身裸になり、血赤珊瑚のロザリオと背中一面に彫った、白百合を抱えた聖母マリアの刺青を晒しーー。
顔面は、頭蓋骨の眼窩から顎の輪郭を広く残した半首のようにがっちりと覆われ。
右肩には面長の大蛇の頭蓋骨が喰らいつき、首の付け根から生えた、三尺はありそうな矢頭形の長い尾が、うねって天を向いていた。
それだけではない。
元から常人よりやや長い左右の犬歯は完全に牙と化して、ふしゅうふしゅうと獣臭く、血腥い息を吐いている。
手足の十指の先端の詰めは軒並み分厚い鉤爪を備え、羆のような黒い剛毛を生やした、獣の前脚後脚と化し。
月代を剃っていない、無造作に頭頂近くで束ねただけの蓬髪は逆立ち、豪猪(やまあらし)の如く。
両足の甲全体からひざまでバチバチと、細長く青い稲光が立ち上がっている。
(ーーざ、慚愧。【慚愧(ざんき)】やわ!)
お雪が、心の中で叫んだ。
曾祖父母の代から、代々【鬼来迎】の死男(しおん)、殺女(あやめ)として、直系の一族総出で仕えて来たお雪は、まだ物心つかぬうちから、曾祖母に昔語りのように繰り返し聞かされていた。
「『ーー雪、よう覚えとき。わてらみとぉに人を殺めることを生業にしよる者(もん)らはなぁ、殺める相手にあんまりにも怒りや憎しみの情を抱(いだ)きよると、生きながら【慚愧】ちゅう、人鬼(ひとおに)になるねんえ』」
(『それて、あの一条戻橋の橋姫さまみとぉなるん?』)
(『橋姫様とは似とるようで違ゃう、違うようで似とおる……』)
(『ようわからへん。どっちやのん、ひいおばあん』)
(『そんでえぇ。ひいおばあんはな、雪にはそないなこと一生わからんままでおって欲しいんや。それは、何でかちゅうとなーー』)
「……ひいおばあん……あて、見てもうた……せやけど、あてはあの御浪人はんが慚愧になりよる気持ち……何やわかってもうてん……堪忍な、堪忍な、ひいおばあん……」
《【慚愧】になりよった者は、生きながらその魂は二河白道を歩むことんなるちゅうこっちゃえーー》
お雪の脳裏に、遙か昔に聞いた、諭すような曾祖母の声と言葉がありありと蘇った。
「おぉコラ、よそ見してんと違ゃぅぞ、アマっ娘(こ)ぉ!」
絵描きの間の柱にもたれかかるようにして、両手で身を支えていたお雪の右横顔が右斜め後ろから分銅で打たれる寸前、お雪はそれをさらりとかわした。
「ーーただ冷えたり熱うなったり、あやとりみとぉに形が変わる変幻自在の鎖かと思おとりましたけどーー六角の分銅鎖どしたか。ほな、あても出させてもらいますえ」
「出すぅ? 出すて何をじゃい、いっくら相方の仇討ちちゅうてもな、こちとらワレみとぉな小娘相手にすんのは、心苦しゅう思とんじゃい、ゴラァ」
「は? ……『心苦しゅう』?」
「よう言いはりますなぁ、相方の梅弥はんと、こないな商いに鞍替えしといて。そのうえ、たかが小娘一匹仕留めんのに、大の男が
まぁ、ちんまいことにこだわりますこと」
お雪の顔に冷笑が浮かび、それは是之源に向けられた。
「のぅお雪、何や色々どえらいことになってはるけど。わてはどないしょ?」
「ーー少なくとも、あてへの助太刀は無用やさかい、高みの見物でも決め込んどいておくれやす」
「はあぁぁ!? ナメとんのか、こんガキャア!!! いてまうぞゴルァァア!?」
「白蘭、蘭丸」
そのとき、ふわっと。
風もないのにお雪の白い髪の左右が、前に向かってさらりと流れたーー。
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「言わんね、言わんねぇぇぇぇ、こん、性悪女がぁぁぁ! こん出っ腹のでぶちん、おいも全部吐くったい!!! 何してこんげんえすか商いば始めよったと!?」
ーー半人半獣のような姿になった新谷が、長い鉤爪の生えた左掌で澪の首をつかんで持ち上げ、焼け落ちようとする牛車を背景に、今もまだ轟々と燃え盛る花々に余すところなく満杯にされた、煮えたぎる油が沸き立ち続ける土壇場の中で、お咲耶の生首はいまだ炎に包まれている。
それでも肌も溶けず髪も燃えることなく、斬首された瞬間の形を保ったまま業火に灼かれ続ける、もう機能しないはずの声帯からは、いつの間にか、別人の声が朧々と流れていた。
ーー滅黯だ。
《……カタカムナ ヒヒキ マノスヘシ アシアトウアン ウツシマツル ……ヤタノカカミ カタカムナ カミ フトタマノ ミ ミコト フトマニニ……》
待乳山聖天町の診療所たる彼の棲み家で、今、滅黯は両掌を合わせ、六畳一間の座敷で、顔から青海波の手ぬぐいの目隠しを外し、正座している。
しかし、その両瞼は固く閉じられている。
その声帯にお咲耶の魂を留め置き、彼女の『うらみすだま』と一体化して。
いつ果てるとも知れないウタヒをひとり、延々と詠い続けているのだ。
天井の梁の上にどん、と置かれ、さらに樽全体を荒縄で垣根結びで強固に括りつけた一升樽。
その中央よりやや下に、先端を斜めに伐った細長い篠竹を突き通し。
それが、篠竹の内部を伝ってちろちろと流れ落ちる清らかな井戸水が、終わりの見えない滅黯とお咲耶の読経を手助けしている。
ーー【カタカムナウタヒ】捌拾首を。
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切っ先をのどと鎖骨の間に突きつけられ、そこからうっすら血がにじもうと。
半人半獣の異形の姿に変じ、鉤爪の生えた、縁側に立つ新谷の手にのどをつかまれ。
そこに自分の全体重がかかって、吊るし上げられても。
微塵の苦しさも恐怖も感じる気配すら見せず、狂艶な、凄まじいまでに妖美な笑みを浮かべ、両手両足をだらりと下げて、されるがままになっていた。
そのとき、竜涎香の芳香が辺り一面に濃く漂い、場を同じくするすべての者達の動きが止まった。
その濃密な芳香は、澪の口腔から発せられていた。
「貴様に話すことなど、何もない……話したとわかるまいて……しかし、子は鎹(かすがい)とはよう言うたものよ」
澪が、真朱の舌を左の口端から出し、舌先で口角を舐めた。
その舌先が左耳たぶをくぐって、赤身のなめくじのように、竜涎香の匂いのする唾液を滴らせながらぬるりと伸びると、玉結びに結った髪に触れ、そこから一束の髪を引きずり出すと。
三重、四重に、椿油で整えた髪を舌で手繰り寄せ、絡みつけた。
「ーー私の母は、これの後添えでのう」
金の小鉤の付いた、まっさらな足袋に包まれた左足の爪先で指し示したのは、
「明らかに産み月の異な、血の繋がりのなき養父とはいえ、勃たなくなりし上に飽きたからと」
「孕んだまま払い下げられた古女房ならぬ古妾の【叔母にして義理の娘】などと、まだ何もわからぬ赤子のうちから私を蔑み」
「斯様に醜く肥えた身に二重顎と、贅肉の塊のような無様な裸体に組み敷かれ」
「三段腹の下に隠れた、萎んだ朝顔の如き皮かむりの珍棒に貫かれて破瓜の血を流すなどと言う恥辱を与えられて」
「夜毎褥の中で虐げられ続けたおなごの気持ちなど!」
「ーーやっちゃわかったばい。わいの母(かか)ば、そんげんなるよう仕向けたとやろ? そりゃはぶつるとも、他人ばうぅづらにっかなるんが当たり前ったい。ならんこつがおかしかーーばってんが」
「左様よ。故にーー」
次の瞬間、新谷と澪が異口同音に、同時に叫んだ。
「ーー故に狂うたのよ!」
「ーーあんたんひゅうら道に足ば突っ込んだとか!」
ビキバキ音を立てて、新谷の両腕に、ネイティブ・アメリカンやアステカ人が戦士の身体装飾、または巫者に神官がその身に施した、呪術紋様たる黒一色の部族系刺青が浮かび上がり、稲妻や植物の棘の如く浮かび上がる。
対して、吹前髪に結い、玉結びにした後ろ髪がはらはらとほどけるや否や、茶屋辻の色打掛が首まわりからずるずると滑り落ち、豊かな乳房が、乳首すれすれまであらわになる。
結い後の付いた、腰まで伸びた緩やかに波打つ黒髪全体が揺らめくと、澪の舌が口腔から一尺も伸びた。
「な、なーーななーー何なんじゃあ、こりゃあぁあぁぁあぁぁぁ!?」
自らも顔面に愛染明王の梵字、十指に理趣経百伍拾、全拾七章を浮かべておきながら、是之源は激しく動揺した。
「ーー他人(ひと)様のことより、まず先に、御自分の身ぃ心配なさったらよろしいのんと違ゃいはります?」
たおやかなお雪の声に目を向けると、彼女の両手首には、左右の耳の上を結っていた髪飾りが正体を現し。
その白く可憐な姿で鎌状の前脚を持ち上げ、臨戦態勢を取っていた。
ーー髪飾りと思われていたのは、二匹の花蟷螂だった。
白い蘭の花に擬態し、獲物を捕食する花蟷螂のつがい、白蘭と蘭丸。
それが飼い主たるお雪の両手の甲で白く液状化し、お雪の肌の内にどろりと溶け込むと。
お雪の両手首から先は、ともに大きな花蟷螂の前脚と化した。
「是之源はん。これで鎖と鎌とどっちが強いか、勝負どっせ」
「ーー!!」
是之源の背中に、冷たい汗が一筋つたい落ちた。
その二刀ならぬニ鎌は、本物の鎌に喩えるなら、口金に該当する当たる両手首から先にかけて二尺。
峰と地金はなく、刃先と刃金のみ。刃には蟷螂と同じく、鮫の歯によく似た、三寸ほどの刃がみっしりと二列に並んでいた。
「やったろやないけ、雌の蟷螂は牡と交尾しよった後で牡を喰っちまうとは聞いとるが、ほんならワシは自分犯して解体(バラ)しよったら、肉はハリハリ鍋にした後、五臓六腑はちりとり鍋、土手焼きにしたろやないけ」
「…………」
お雪は無言で、無表情のままだ。
「自分みとぉな若こうてちんまいおなごなら、どこの肉もはらわたも綺麗で柔らこうて、さぞ美味いやろなぁ……」
「ーー御免蒙りますえ。もしあてが勝っても、おまはんの屍肉なんぞ喰らいとうもありまへんよってに」
「勝手に抜かしとけ、髪と首だきゃあ剥製にして、死ぬまでワシの首からぶら下げといたるさけ」
じゃらりと重い音を立て、是之源の鎖が彼の全身を包むや否や、
左右の頬骨の下から鋏角が。
脇腹からは、人間の腕状の二本の付属肢がーー体内から、皮膚を破って突出した。
先手を取ったのは、お雪だった。
小柄な身の丈を活かして身を屈め、右手の鎌で下から掬い上げるようにして、是之源の左顔の鋏角と付属肢を刈り取るべく、右手側の鎌を振り上げた。
鮮血とともにそのふたつの恐るべき異形の暗器は、同じく異形の暗器に斬り飛ばされるはずだったーーが。
何やら口の中でグチュグチュさせていた是之源が、唾を吐くどころではない、唾液ではない白く太い、三味線の弦と同じ強度の粘液を飛ばすと、右鎌全体だけでなく、お雪の右足首をも捕縛した。
「あぁっ!」
右足首を左側に引きずられ、右半身を下に転倒させられたお雪に向かって蜘蛛そのものの六肢を立てて這い寄ると。
の剃刀で鼻と両耳を削ぎ落とされ、左右の口端を耳元まで裂かれ、歯茎が剥き出しになった口を開き、上下の前歯四本で襟首を喰み、天井の梁まで這い上がった。
苦痛に呻くお雪の白い着物の裾と両足首。
花蟷螂の手先に変じた、だらりとぶら下がった両腕に、口から噴射した白い粘液で絡め取り、天井の梁に巻きつけ、逆さ吊りにした。
「うっひょ、気ぃ味悪ぅ。ほとんど拷問やんな」
その斜向かいの梁に腰かけて右足を左ももの上に乗せ。
右掌で頬杖を突き、ひじをひざの上に乗せた姿で、他人事のようにのほほんとつぶやいた。
その左首筋に、催淫と身体麻痺の効果を揃え備えた鋏角が突き刺さり、一方的に淫液を注入され、麻痺液を注入するはずの淫牙は、その柔肌に刺さることはなかった。
お雪の柔肌と色香しか目に入らなくなったあまり、がら空きになっていた是之源の両足のひざを狙い、お雪は両手の花蟷螂の大鎌を高々と持ち上げーー。
逆さ吊りになったお雪が、ぎりぎりまで是之源を自身の身に近づけて、自らの腹筋と背筋の力を駆使し。
梁に着物の裾と両足首を緊縛されながらも上半身を起こし、梁の上に腹這いになると。
長く伸びた花蟷螂の二本の鎌を同時に是之源の両ひざの裏に、勢いよく振り下ろしたのだ。
その寸前、両手の大鎌からはらはらと、恐ろしく粘着力の強い蜘蛛の糸が切断されたことに、是之源は微塵も気づいていなかった。
「ふぁ?」
自身の肉体を支える二本の支柱が突然消失したことを、是之源はすぐに理解出来なかった。
大量に噴出する血に身体がぬめり、蜘蛛の半人半妖と化した是之源の身体は、
どすん! と大きな音を立て、上半身、特に腰から背中にかけてその身に重い衝撃を受け、梁から落下した。
腰まわりから背中一面が、妙にべとつく真っ赤な液体に濡れたと感じた瞬間には、もう手遅れなのだ。
ーー巨大な異形の暗器を身に備えど、しょせんは小娘。
よくよく見れば、小柄で華奢で、雪兎の如き儚げな風貌。
それだけで、男衆は皆が皆お雪を弱いと勝手に値踏みし、舐めてかかる。
所詮男は老いも若きも、特に身も心も弱々しく、小柄な少女を下にしか見ていないのだと痛感し、それを逆手に取ることにした。
ーーそれが、彼女が隠す能ある鷹の爪である。
だがしかし、その鷹の爪には蜘蛛の糸を切った飆の影ながらの力添えがあってこそのものだった。
先ほどまで、会話を交わしているふたりにしか聞こえていなかった声が、その場にいる者全員の耳に届いた。
「誰(だい)ね、何ね!!ーーそいと、おいはまだおっさんやなかばい!」
新谷が叫ぶと、突然目の前に現れた、羽衣を縫い合わせてしつらえたかのように、半透明に透けた薄衣が天井に舞い上がり、消え去った。
それと同時に、首を斬られ、そこからいまだに絵描きの間で鮮血の逆さ滝をほとばしらせる娘の裸体を一心不乱に描き続ける舐安のかたわらに現れたのは、十三、四歳の、身の丈五尺ほどの小柄な少女であった。
誰もが、その娘の姿に目を見張った。
どこからどうやって現れたのか皆目見当がつかないのはもちろんだが、それ以上に、異形の少女の容貌に、だ。
六花の別名通り、六角形の刺繍の中に雪の結晶がひとつひとつ丁寧にほどこされた、白梅鼠色の友禅の振袖に。
金糸の吉祥文様の刺繍入りの、絹鼠の半襟。
白足袋に、鼻緒から本体まで、すべて紫水晶色の上等な草履。
しかし、帯だけが鮮烈なまでの赤だ。
南天の実の深緋の瞳に、同じく南天の常磐色の葉の耳をつけた、愛らしい雪兎の柄が点々と散らばっている。
少女はその白の振袖と赤の帯と、まったく同じ容貌をしていた。
両眉の真上。
腰と同じ位置。
ともにまっすぐ切り揃えられた前髪も後ろ髪も、雪兎の身と同色だった。
しかもそれは髪だけでなく、両眉も左右の長いまつ毛も同様で。
さらに双眸と唇も、帯締めもせず細腰に締められた帯の柄の雪兎達とお揃いだ。
ーー南天の実と同じ、猩々緋の瞳。
そして、左右のこめかみより少し上で髪を軽く結い、そこに珍しい形の白い蘭の生花を飾っている。
少女は正に、雪兎が人の姿に変化し、可憐という言葉が人になったかのような存在であった。
さらに、白蛇の化身の如く人間離れした美貌を兼ね備えてーー。
「失礼とは承知してはりますが、あてらの主様の御命令で、今はまだ名は名乗れまへんこと、何卒お許し願います」
新谷に向かって頭を下げ、少女は詫びた。
まだあどけなさを残す容姿ながら、その言葉からは真摯な気持ちが確かに伝わって来る。
「そうけそうけ、上等やないかいーー」
じゃらり、と重い音を立てて、是之源が袖と裾から伸びた何本もの鎖を両掌にまとめて握り締め、構えた。
「やめぇ是之源! 容易(たやす)く動くんやない!」
梅弥が、是之源を制した。
「ワシら【鬼来迎】の商人は皆、同郷で組み合うとる者(もん)同士と屍ノ御前のおやた以外、どないな術や暗器使うとるのか、わかれへんのやで」
しかし、その少女は、是之源の言葉を一蹴した。
「はぁ、何言うてはりますのん? これやから、アホ相手にするのは嫌やなんどすわ。おまはんらは弐拾七代目から、とうに【鬼来迎】を破門されはった身ぃでっしゃろ。今はもぉ《惨党狩り》の賞金首。それ以上でも、それ以下でもあらしまへんのえ?」
ーー少女の言葉に、いまだ姿を見せないもうひとりの声が、続く。
まだ若い、少年の声だ。
少女より少しばかり上、十六、十七と言ったところか。
「あんなぁ、おまはんらの首取りは、弐拾七代目屍ノ御前、娒々代姐様直々の御命令なんえーーせやけど」
「《惨党狩り》かて、対等やないのはわてらの主義に反するんやなぁ、これが」
「せやからおまはんらの術も暗器も、わてら何ひとつ知らんのや。わざわざおやたから何も教えてもろてへん。そないないけずな真似したかないし。な、これで対等やろ?」
「けったくそ悪りぃのう、ガキが。さっきから声しかさせへんで顔も見せんと名前も名乗らんと……いけずな真似しとるんは、どっちや思とんねん」
「いけず違ゃうて。ただ、わての術使とるだけや。だいたいおっさん、わてはまだなーんも手出ししとらんで? そもそもわてら、《惨党狩り》の賞金首なんぞに名乗る名前なんざあれへんねや。そないな輩にいけず言われよるんは、心外やぁ~~なぁ~~」
揶揄するような語尾に、是之源がキッ、と両眉と左右の眦を吊り上げた。
「御浪人はん。そちらの獲物はそこな茶屋辻に玉結びの性悪のおなごと、鬼畜生の絵師に、肥えた卑屈な金魚の糞(ふん)であらしゃりましょーーあてらの獲物はあてらの流儀で始末しはりますえ、助けは必要あらしまへん。せやからどうぞ、そちらはそちらでごゆるりとーー」
「ほーお。わいば、やっちゃものわかりばよかおなごったいな。そげん賢かとが、あんげんアマメどもに負けるわけなかばい」
「アマメ、て? 」
「答えとる暇ば、もうなか!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
ちょうどそのとき、怒りに任せて澪が太夫の両眼を覆う、薄汚れた細切りの晒しをひとつかみにし、引きちぎった。
「ーー!?」
その瞬間、澪は左右の眼を極限まで見開いた。
ボロ切れ同然の細い晒しから露わになった太夫の両眼は、向かって右が碧眼。
左が金色(こんじき)だったからだ。
ーー美しい。
澪がそう思うと同時に、澪の右手の指先が、太夫の眼窩にえぐり込もうとした。
「瞼ば閉じんね、洋梨坊主!」
新谷が、帯の間に忍ばせていた長さ四寸茎二寸五分の小柄を一本、澪の右掌に投げつけると。
澪は反射的に右手首を左掌で握り締め、ひざを折った。
しかし、これが後々悲劇を招くことになるとは、太夫も新谷も、予想だにしていなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
梅弥と是之源、ふたりの大人の男が、白子の娘を左右から狙い澄ましている。
是之源は自身の暗器の鎖を両袖から裾から伸ばして両掌に持ち、そこから長く垂れ下がった鎖の先端をじゃらじゃらさせているが、
梅弥は素手だ。
脳を弄る鍼を使う様子も気配もないと、白子の少女は確信していた。
小柄で可憐な容貌ながら、彼女もまた数多の復讐代行を請負って来た、殺しを生業とするれっきとした商人であり、百戦錬磨の殺し屋なのだ。
「ほんに……あんさん方は、ひとりのおなごをよってたかって嬲るのが御趣味なんどすか?」
「何抜かしてけつかる、【鬼来迎】の者に、男も女もないわい」
「そうどしたなぁ、まぁ、あんさんらは【元】が付きはりますけど」
「いちいちいちいち、嫌味ったらしゅう揚げ足取りくさって。京女は減らず口が多いさけ、気に入らんのじゃ、ボケェ!」
是之源が胴間声を上げると同時に、梅弥が唐突に右ひざを立てて身を屈め、ばん! と、足元の畳を両掌で打った。
途端に、白子の娘の立つ畳の下から、無数の鬼薊の茎と葉が彼女の頭と同じ位置まで瞬く間に高く伸び上がり。
萼の上に大型のオナモミ状の棘の塊が膨らみ、その上に柔らかい房のような若紫色の花が連続して花開き咲き乱れた。
その茎と葉は縫い針よりも遙かに細く短い棘を伸ばし、娘の顔に、巻きついた。
それは左右の袖口から両腕に、裾から両足に潜り込み、四肢にぎちぎちと巻きついた。
襟元からあっという間に伸びた細く薄く痛い、厄介な棘だらけの茎と葉が、少女の鎖骨から首を右から左から、容赦なく締めつける。
「ひぎっ、いぎぃぃぃぃぃぃぃっっっっっっっ~~!!!」
悲痛な叫び声が、辺りに響き渡った。
ーー実際に触れた者にしかわからない、小さくも数え切れないほどの無数の薊の細く短く薄い、しかしとてつもない厄介な痛みを与える鬼薊特有の棘が、葉と茎ごと、少女の全身にくまなく突き刺さっていた。
梅弥の鍼の術は鍼だけでなく、縫い針や植物の針や棘にも応用出来る。
そこへ是之源の放った鎖が、何重にも、かつ複雑に絡み、喰い込んでいる。
ゲハゲハと言う男ふたりの下品な笑い声と、少女の悲痛な叫びが混じり合い、その場は混沌の渦中と化した。
いくら葉と茎の棘が痛くとも致命傷にはならず、反撃もままならない。
そして何より、梅弥と是之源らは少女の命を奪うような、とどめを刺す気は毛頭ない。
ただひたすらに痛みを与え、傷めつけ、生殺しにすることしか頭になく。
少女が痛みに耐え兼ねて根を上げて降参したら、ふたりがかりで前から後ろから、少女の裸体を上にして下にして犯し、腟と口だけでなく肛門まで貫き、顔も口腔も腟内も、さらには直腸まで白濁の汚液で汚(けが)し抜くつもりだった。
だが。
何の前触れもなく、突風ーーいや、凄まじいまでの旋風が巻き起こった。
それと同時に、人間状の鎌鼬が梅弥と是之源の全身を旋回すると、是之源の鎖が、ただの鉄屑と化して砕け散った。
梅弥が咲かせた鬼薊は瞬く間に白橡の色に変じて弱々しく萎び枯れ果て、娘の全身に突き刺さった棘はすべて、はらりはらり、ほろりほろりと抜け落ちた。
少女がその場にぐったりと倒れ込むや否や、梅弥と是之源はがなった。
「誰や! こんアマっ娘の相方ちゅうことぐらいわかっとるわい!」
「こそこそせんと顔出せや、顔ぉ!」
「顔出せ言われたかて。顔やったら、とうに出してはりますけどなぁ?」
しゅぱぁっ、と音なき音がすると同時に、是之源の鼻と両耳が畳の上にぼとりと落ちた。
そして、左右の口端が耳元までざっくりと裂けた。
続け様、梅弥の上唇が人中から、そして下唇がごっそり削ぎ落とされ、下の歯茎が剥き出しになった。
口元を押さえる男ふたりの絶叫が、大量の血飛沫とともに、辺り一面に噴き上がり、撒き散らされる。
是之源の元結と髪、団子状にした梅弥の髪がともに畳の上に落ち、ふたりの頭はざんばら髪と化した。
「大丈夫かいな、お雪ーーなぁ、お雪て!」
初めて、少女の名前が呼ばれた。
「ん、はぁ……めっちゃ痛かったわぁ……せやけど、あんたん旋風で、棘ぇ全部吹き飛んだえ……助かったわぁ……」
ゆっくりと、お雪なる少女が立ち上がる。
お雪が見上げた天井の隅。
そこにはひとりの少年が廻り縁に背中をつけ、 頭を前に突き出し。
左右に伸ばした両腕の掌を漆喰の壁につけ、滑り下駄の爪先を両方とも長押の上に乗せて、トカゲやヤモリとは逆向きに、五尺七寸の身を屈め、ぴったりとへばりついていた。
坊主頭に近いほど短く刈り込んだ髪は、蒸栗色。
上にも下にも鋲が並列して穿たれた菱形の黒革によって、鼻から両耳の下、顎まで覆い隠されている。
しかしその残虐な術とは似ても似つかない、黒目がちな瞳に春風駘蕩とした雰囲気を漂わせている。
その黒革の中ほどの裂け目から、鮮血が滴り落ちる、刃渡り五寸、刃幅三分弱ほどの剃刀が覗いている。
少年が咥えている剃刀の上部には、わずか二分弱の、薄く短い虫襖の鉄板で覆われているのは、少年の口を保護するためだ。
上半身は裸。
筋骨隆々としてはいないが、若さに満ち溢れた筋肉のしなやかさ、体幹の強さを感じさせる、引き締まった肉体をしていた。
六つに割れた腹筋が、肋骨から下腹まで巻かれた晒しを通しても、その形がはっきりとわかる。
両腕にはひじから指の根元まで、腹と同じく晒しを巻き。
下半身は月白色の括り袴を履き、ひざから先は同色の脚絆。
先ほど梅弥と是之源の口元を斬り落としたのは、少年が上下の唇に挟んだ、この小さな剃刀だった。
梅弥の団子状の髪と、是之源の元結を髷ごと斬り、庇髪を台無しにしたのも、その剃刀一枚のみでの神業だったと、一目でわかった。
「ーー普通、お礼返しは半返しでっしゃろ? せやけどお礼参りなら、倍返しでお返ししまひょか。飆(つむじかぜ)ぇ、手助けしよったらあきまへんえ」
「そりゃ、楽でえぇわ。まぁせいぜい、おきばりやっしゃ」
飆、と呼ばれたお雪の相方たる少年が、腕組みして満面の笑みで返すと、彼の左腕が天井に延び、それと同時に、飆によるたった一発の掌底で、絵描きの間の天井板が、竿縁だけを残し、すべて木っ端微塵に砕け散った。
ーーその【木っ端微塵】は、ただ天井板が板切れと化したのではない。木粉となって完全に粉砕されたのだ。
「な……」
お雪を除くその場に居合わせた者達が全員、絶句した。
蜘蛛のように素早く竿縁の上に移動し、そこから左足をぶら下げ、右足をあぐらの形で左腿に乗せた。
「ほな、わては相方に言われた通りと、文字通り高みの見物とさせていただきますわ」
「我(わ)りゃあ……自分の相方が、それもこんな小娘を、ワシらふたり相手にさせよるたぁ、えろぉナメられたもんや」
是之源と梅弥が、揃って飆を
睨み上げた。
「ーーおっさんら、鼻毛出てはるで」
あまりにも見当違いな返答に、ふたりはかつてないほどに逆上した。
「ほんだら何じゃい、このけったいな頭しよったガキぃ? このアマっ娘、ワイらでフクロ(叩き)にしても輪姦(まわ)してもかまわへんちゅうんやな! 何がどないなっても、知らへんどぉ!?」
がなって問いかけた是之源への返事の代わりに、飆は知らぬ存ぜぬと言った風に、樑が剥き出しになった天井裏を見上げ、口笛を吹いた。
そのとき、お雪の両の袖口がひじまであらわになった。
その真っ白でか細い腕には、小指の尺骨茎状突起の一寸ほど下から、ひじの上まで左向きに巻かれた、二分弱の針金が四重に絡みついていた。
その瞬間、両腕を一尺ほどの間を開けて前に突き出したお雪の両腕に絡みついた針金の内部から、茹でた素麺の如き細くくねった物体が、六尺ほど先に立つ梅弥と是之源目がけ、ビュッと放たれた。
「吩ーー再!」
不敵な笑みを浮かべ、是之源が瞬速でバババッと印を組み終えると、粉砕された何本もの鎖が再生した。
「!?」
お雪が怯んだのも、無理はなかった。
再生したその鎖は瞬時に蜘蛛の巣状に形成し、それと同時に全体が赤みを帯び、灼熱の防御壁と化し、是之源の身体の孔という孔に潜り込むべく、束ねられた生糸のように一斉に襲いかかったが、その百匹近い寄生虫が、一匹残らず黒焦げになって、灰と化した。
それだけではない。
是之源の顔一面に、鼻骨の真上から放射線状に愛染明王の梵字が浮かび上がり。
灼熱の鎖を素手で持つ十指の外側から手の甲、手首にかけて。
ーー理趣経百伍拾、全拾七章節すべてが、びっしりと浮き上かった。
壱、大楽の法門
弐、証悟の法門
参、降伏の法門
肆、観照の法門
伍、富の法門
陸、実働の法門
七、字輪の法門
捌、入大輪の法門
玖、供養の法門
拾、忿怒の法門
拾壱、善集の法門
拾弐、有情加持の法門
拾参、諸母天の法門
拾肆、三兄弟の法門
拾伍、四姉妹の法門
拾陸、各具の法門
拾七、涅秘の法門
そして梅弥は、先ほどお雪の柔肌を痛めつけた、鬼薊の葉と茎で以て、我と我が身を護ろうと、自身の周囲に、自分の身長より高く密集させ、茂らせた。
しかしーー。
「ぎげっ!?」
無数の細くくねった物体は鬼薊の葉と茎のごくごくわずかな隙間を潜り抜け、中にはわずかにその極細の身を棘で傷つけながらも。
梅弥の鼻腔を筆頭に、彼の目頭、眦、左右の耳孔。
驚愕のあまり思わず開いてしまった口。
果ては着物の裾に潜り込み、尿道から肛門へと、全身の穴という穴に潜り込んでしまった。
「おぎょぼ、げぼばぁっぎぃぃぃぃぃぃっぎぎぎぎぎぐがびぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎげぎびぎぃぃぃぎぎげっがっばがっっっ!?」
それは、寄生虫であった。
ーーその名は、ハリガネムシ。
梅弥の体内に入り損ねた残りの蟲達は、こぞって少しでも彼の体内に入り込もうと必死になり、手と足の爪の間に、多勢に無勢で潜り込んでいた。
一瞬にして手足の爪二十枚すべてが剥がれ、大量の鮮血が噴射することと相成った。
「《逆さ折り》!」
お雪が、そこだけ唐辛子の別称、鷹の爪のように長く一寸強までに伸ばし、先端を鋭く尖らせた、唐辛子とは正反対の白磁色の左手の人差し指を立て、唇に当ててそう口にすると。
梅弥の両手首、両ひじ、両ひざの関節が、一度に本来の関節の位置とは逆の向きに立て続けに折れた。
手の甲は腕の外側に。
両ひじは、左右の掌が両わきに納まるように。
そして両ひざは、十枚の爪の剥がれた足の甲が、正座と逆の形になって、太ももの付け根と密着し、梅弥はその場にどっとうつ伏せに倒れ込んだ。
梅弥の断末魔の叫びが辺り一面に響き渡ったが、お雪と飆なる少年は
眉ひとつ動かさず、平然としている。
「《首折り》!」
お雪がふたたび、左手の人差し指で先ほどと同じ仕草をする。
ゴギュ、
と、耳を塞ぎたくなるような生理的嫌悪感がかき立てられるような音を立てて。
両手首、両ひじ、両ひざの関節を軒並み逆に折られ、前のめりに倒れ込んでいた梅弥の身は、首だけは後頭部を肩甲骨の間に挟む形で、天井を向きーー。
それと同時に、梅弥の双眸、左右の鼻腔と耳孔から白くうねったハリガネムシが一斉に溢れ出し、二条の白いうねりとなって、お雪の両腕の金輪の中に、吸い込まれるように舞い戻った。
ーーどうやら口腔や尿道、肛門と言った内臓に潜り込んだ蟲達は、寄生主の内臓をあらかた喰らい尽くしてからでなければ、出る気はないらしい。
ーー全身の関節を逆にして、梅弥の屍はびくんびくんと激しく痙攣し。
その顔は狂気に満ちた笑みを浮かべ、背中から天井を見上げていた。
「なーーななな、なーー何さらしとんじゃ、我(わり)ゃぁ!! こん、小娘があぁぁ!!」
相方のあまりに無惨な殺され様に、是之源がブチギレた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「まさか、まさかーーこれこのように醜い者が、これほどまでに美しいものを隠しておったとは!」
白く細い、柳葉のような五指を備えた掌に突き刺さった小柄を抜き取ると同時に、刃によって堰き止められていた血が噴き出すのもかまわず。
澪の血まみれの手が、小柄を使って太夫の瞼の薄い皮膚を左右ともに斬り裂いた。
太夫の絶叫が、響き渡るーー。
「穢花よ」
それまでずっと下座に正座で座り続けていた穢花の両肩が、びくんっ! と跳ね上がった。
瞬く間に顔色が青冷め、顔から両手から、血の気が引いて行くのが傍目から見てもわかる。
ぶよぶよと肥えた全身に、皮肉にも大量の脂汗が流れ落ち。
それは瞬く間に、穢花の着物の色を濃く塗りかえた。
「早ぅせぬかえ、この豚男!」
その勢いのまま、穢花は袂から取り出した、細めの竹筒を二本同時に、太夫の眼窩に。
【かぐやのなよ竹】
を。
澪に命じられるがままに、二本同時に押し込んだ。
この世のものとは思えない断末魔の悲鳴が、その場にいる者全員の鼓膜を激しく揺すった。
勢い余って飛び出した視神経を小柄で根元から切断し。
澪はそれらの両眼を、何のためらいもなく口に含んで転がした。
「……美味い……」
「ーーなんばしよっとかぁ!? こんキチガイがあぁぁぁぁぁーー!!!」
逆上した新谷が、疾風の如く澪の元へ駆け寄る間に、太夫は両掌で眼球を抉られ、左右の五指の隙間から大量の血を奔流させながら、ゆっくりと後ろ向きに倒れて行った。
「ーーオォオオオオオオォォォォォオオオオオオオオォォォォォォオオォォォォォォォ!!!」
「「「「「「!?」」」」」」
天地を斬り裂くかのような凄まじい獣の如き咆哮に、是之源、飆、お雪。
澪に穢花、そして目はないものね、太夫も、その場に居合わせた者が一斉に驚愕した。
諸肌が脱げて上半身裸になり、血赤珊瑚のロザリオと背中一面に彫った、白百合を抱えた聖母マリアの刺青を晒しーー。
顔面は、頭蓋骨の眼窩から顎の輪郭を広く残した半首のようにがっちりと覆われ。
右肩には面長の大蛇の頭蓋骨が喰らいつき、首の付け根から生えた、三尺はありそうな矢頭形の長い尾が、うねって天を向いていた。
それだけではない。
元から常人よりやや長い左右の犬歯は完全に牙と化して、ふしゅうふしゅうと獣臭く、血腥い息を吐いている。
手足の十指の先端の詰めは軒並み分厚い鉤爪を備え、羆のような黒い剛毛を生やした、獣の前脚後脚と化し。
月代を剃っていない、無造作に頭頂近くで束ねただけの蓬髪は逆立ち、豪猪(やまあらし)の如く。
両足の甲全体からひざまでバチバチと、細長く青い稲光が立ち上がっている。
(ーーざ、慚愧。【慚愧(ざんき)】やわ!)
お雪が、心の中で叫んだ。
曾祖父母の代から、代々【鬼来迎】の死男(しおん)、殺女(あやめ)として、直系の一族総出で仕えて来たお雪は、まだ物心つかぬうちから、曾祖母に昔語りのように繰り返し聞かされていた。
「『ーー雪、よう覚えとき。わてらみとぉに人を殺めることを生業にしよる者(もん)らはなぁ、殺める相手にあんまりにも怒りや憎しみの情を抱(いだ)きよると、生きながら【慚愧】ちゅう、人鬼(ひとおに)になるねんえ』」
(『それて、あの一条戻橋の橋姫さまみとぉなるん?』)
(『橋姫様とは似とるようで違ゃう、違うようで似とおる……』)
(『ようわからへん。どっちやのん、ひいおばあん』)
(『そんでえぇ。ひいおばあんはな、雪にはそないなこと一生わからんままでおって欲しいんや。それは、何でかちゅうとなーー』)
「……ひいおばあん……あて、見てもうた……せやけど、あてはあの御浪人はんが慚愧になりよる気持ち……何やわかってもうてん……堪忍な、堪忍な、ひいおばあん……」
《【慚愧】になりよった者は、生きながらその魂は二河白道を歩むことんなるちゅうこっちゃえーー》
お雪の脳裏に、遙か昔に聞いた、諭すような曾祖母の声と言葉がありありと蘇った。
「おぉコラ、よそ見してんと違ゃぅぞ、アマっ娘(こ)ぉ!」
絵描きの間の柱にもたれかかるようにして、両手で身を支えていたお雪の右横顔が右斜め後ろから分銅で打たれる寸前、お雪はそれをさらりとかわした。
「ーーただ冷えたり熱うなったり、あやとりみとぉに形が変わる変幻自在の鎖かと思おとりましたけどーー六角の分銅鎖どしたか。ほな、あても出させてもらいますえ」
「出すぅ? 出すて何をじゃい、いっくら相方の仇討ちちゅうてもな、こちとらワレみとぉな小娘相手にすんのは、心苦しゅう思とんじゃい、ゴラァ」
「は? ……『心苦しゅう』?」
「よう言いはりますなぁ、相方の梅弥はんと、こないな商いに鞍替えしといて。そのうえ、たかが小娘一匹仕留めんのに、大の男が
まぁ、ちんまいことにこだわりますこと」
お雪の顔に冷笑が浮かび、それは是之源に向けられた。
「のぅお雪、何や色々どえらいことになってはるけど。わてはどないしょ?」
「ーー少なくとも、あてへの助太刀は無用やさかい、高みの見物でも決め込んどいておくれやす」
「はあぁぁ!? ナメとんのか、こんガキャア!!! いてまうぞゴルァァア!?」
「白蘭、蘭丸」
そのとき、ふわっと。
風もないのにお雪の白い髪の左右が、前に向かってさらりと流れたーー。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「言わんね、言わんねぇぇぇぇ、こん、性悪女がぁぁぁ! こん出っ腹のでぶちん、おいも全部吐くったい!!! 何してこんげんえすか商いば始めよったと!?」
ーー半人半獣のような姿になった新谷が、長い鉤爪の生えた左掌で澪の首をつかんで持ち上げ、焼け落ちようとする牛車を背景に、今もまだ轟々と燃え盛る花々に余すところなく満杯にされた、煮えたぎる油が沸き立ち続ける土壇場の中で、お咲耶の生首はいまだ炎に包まれている。
それでも肌も溶けず髪も燃えることなく、斬首された瞬間の形を保ったまま業火に灼かれ続ける、もう機能しないはずの声帯からは、いつの間にか、別人の声が朧々と流れていた。
ーー滅黯だ。
《……カタカムナ ヒヒキ マノスヘシ アシアトウアン ウツシマツル ……ヤタノカカミ カタカムナ カミ フトタマノ ミ ミコト フトマニニ……》
待乳山聖天町の診療所たる彼の棲み家で、今、滅黯は両掌を合わせ、六畳一間の座敷で、顔から青海波の手ぬぐいの目隠しを外し、正座している。
しかし、その両瞼は固く閉じられている。
その声帯にお咲耶の魂を留め置き、彼女の『うらみすだま』と一体化して。
いつ果てるとも知れないウタヒをひとり、延々と詠い続けているのだ。
天井の梁の上にどん、と置かれ、さらに樽全体を荒縄で垣根結びで強固に括りつけた一升樽。
その中央よりやや下に、先端を斜めに伐った細長い篠竹を突き通し。
それが、篠竹の内部を伝ってちろちろと流れ落ちる清らかな井戸水が、終わりの見えない滅黯とお咲耶の読経を手助けしている。
ーー【カタカムナウタヒ】捌拾首を。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
切っ先をのどと鎖骨の間に突きつけられ、そこからうっすら血がにじもうと。
半人半獣の異形の姿に変じ、鉤爪の生えた、縁側に立つ新谷の手にのどをつかまれ。
そこに自分の全体重がかかって、吊るし上げられても。
微塵の苦しさも恐怖も感じる気配すら見せず、狂艶な、凄まじいまでに妖美な笑みを浮かべ、両手両足をだらりと下げて、されるがままになっていた。
そのとき、竜涎香の芳香が辺り一面に濃く漂い、場を同じくするすべての者達の動きが止まった。
その濃密な芳香は、澪の口腔から発せられていた。
「貴様に話すことなど、何もない……話したとわかるまいて……しかし、子は鎹(かすがい)とはよう言うたものよ」
澪が、真朱の舌を左の口端から出し、舌先で口角を舐めた。
その舌先が左耳たぶをくぐって、赤身のなめくじのように、竜涎香の匂いのする唾液を滴らせながらぬるりと伸びると、玉結びに結った髪に触れ、そこから一束の髪を引きずり出すと。
三重、四重に、椿油で整えた髪を舌で手繰り寄せ、絡みつけた。
「ーー私の母は、これの後添えでのう」
金の小鉤の付いた、まっさらな足袋に包まれた左足の爪先で指し示したのは、
「明らかに産み月の異な、血の繋がりのなき養父とはいえ、勃たなくなりし上に飽きたからと」
「孕んだまま払い下げられた古女房ならぬ古妾の【叔母にして義理の娘】などと、まだ何もわからぬ赤子のうちから私を蔑み」
「斯様に醜く肥えた身に二重顎と、贅肉の塊のような無様な裸体に組み敷かれ」
「三段腹の下に隠れた、萎んだ朝顔の如き皮かむりの珍棒に貫かれて破瓜の血を流すなどと言う恥辱を与えられて」
「夜毎褥の中で虐げられ続けたおなごの気持ちなど!」
「ーーやっちゃわかったばい。わいの母(かか)ば、そんげんなるよう仕向けたとやろ? そりゃはぶつるとも、他人ばうぅづらにっかなるんが当たり前ったい。ならんこつがおかしかーーばってんが」
「左様よ。故にーー」
次の瞬間、新谷と澪が異口同音に、同時に叫んだ。
「ーー故に狂うたのよ!」
「ーーあんたんひゅうら道に足ば突っ込んだとか!」
ビキバキ音を立てて、新谷の両腕に、ネイティブ・アメリカンやアステカ人が戦士の身体装飾、または巫者に神官がその身に施した、呪術紋様たる黒一色の部族系刺青が浮かび上がり、稲妻や植物の棘の如く浮かび上がる。
対して、吹前髪に結い、玉結びにした後ろ髪がはらはらとほどけるや否や、茶屋辻の色打掛が首まわりからずるずると滑り落ち、豊かな乳房が、乳首すれすれまであらわになる。
結い後の付いた、腰まで伸びた緩やかに波打つ黒髪全体が揺らめくと、澪の舌が口腔から一尺も伸びた。
「な、なーーななーー何なんじゃあ、こりゃあぁあぁぁあぁぁぁ!?」
自らも顔面に愛染明王の梵字、十指に理趣経百伍拾、全拾七章を浮かべておきながら、是之源は激しく動揺した。
「ーー他人(ひと)様のことより、まず先に、御自分の身ぃ心配なさったらよろしいのんと違ゃいはります?」
たおやかなお雪の声に目を向けると、彼女の両手首には、左右の耳の上を結っていた髪飾りが正体を現し。
その白く可憐な姿で鎌状の前脚を持ち上げ、臨戦態勢を取っていた。
ーー髪飾りと思われていたのは、二匹の花蟷螂だった。
白い蘭の花に擬態し、獲物を捕食する花蟷螂のつがい、白蘭と蘭丸。
それが飼い主たるお雪の両手の甲で白く液状化し、お雪の肌の内にどろりと溶け込むと。
お雪の両手首から先は、ともに大きな花蟷螂の前脚と化した。
「是之源はん。これで鎖と鎌とどっちが強いか、勝負どっせ」
「ーー!!」
是之源の背中に、冷たい汗が一筋つたい落ちた。
その二刀ならぬニ鎌は、本物の鎌に喩えるなら、口金に該当する当たる両手首から先にかけて二尺。
峰と地金はなく、刃先と刃金のみ。刃には蟷螂と同じく、鮫の歯によく似た、三寸ほどの刃がみっしりと二列に並んでいた。
「やったろやないけ、雌の蟷螂は牡と交尾しよった後で牡を喰っちまうとは聞いとるが、ほんならワシは自分犯して解体(バラ)しよったら、肉はハリハリ鍋にした後、五臓六腑はちりとり鍋、土手焼きにしたろやないけ」
「…………」
お雪は無言で、無表情のままだ。
「自分みとぉな若こうてちんまいおなごなら、どこの肉もはらわたも綺麗で柔らこうて、さぞ美味いやろなぁ……」
「ーー御免蒙りますえ。もしあてが勝っても、おまはんの屍肉なんぞ喰らいとうもありまへんよってに」
「勝手に抜かしとけ、髪と首だきゃあ剥製にして、死ぬまでワシの首からぶら下げといたるさけ」
じゃらりと重い音を立て、是之源の鎖が彼の全身を包むや否や、
左右の頬骨の下から鋏角が。
脇腹からは、人間の腕状の二本の付属肢がーー体内から、皮膚を破って突出した。
先手を取ったのは、お雪だった。
小柄な身の丈を活かして身を屈め、右手の鎌で下から掬い上げるようにして、是之源の左顔の鋏角と付属肢を刈り取るべく、右手側の鎌を振り上げた。
鮮血とともにそのふたつの恐るべき異形の暗器は、同じく異形の暗器に斬り飛ばされるはずだったーーが。
何やら口の中でグチュグチュさせていた是之源が、唾を吐くどころではない、唾液ではない白く太い、三味線の弦と同じ強度の粘液を飛ばすと、右鎌全体だけでなく、お雪の右足首をも捕縛した。
「あぁっ!」
右足首を左側に引きずられ、右半身を下に転倒させられたお雪に向かって蜘蛛そのものの六肢を立てて這い寄ると。
の剃刀で鼻と両耳を削ぎ落とされ、左右の口端を耳元まで裂かれ、歯茎が剥き出しになった口を開き、上下の前歯四本で襟首を喰み、天井の梁まで這い上がった。
苦痛に呻くお雪の白い着物の裾と両足首。
花蟷螂の手先に変じた、だらりとぶら下がった両腕に、口から噴射した白い粘液で絡め取り、天井の梁に巻きつけ、逆さ吊りにした。
「うっひょ、気ぃ味悪ぅ。ほとんど拷問やんな」
その斜向かいの梁に腰かけて右足を左ももの上に乗せ。
右掌で頬杖を突き、ひじをひざの上に乗せた姿で、他人事のようにのほほんとつぶやいた。
その左首筋に、催淫と身体麻痺の効果を揃え備えた鋏角が突き刺さり、一方的に淫液を注入され、麻痺液を注入するはずの淫牙は、その柔肌に刺さることはなかった。
お雪の柔肌と色香しか目に入らなくなったあまり、がら空きになっていた是之源の両足のひざを狙い、お雪は両手の花蟷螂の大鎌を高々と持ち上げーー。
逆さ吊りになったお雪が、ぎりぎりまで是之源を自身の身に近づけて、自らの腹筋と背筋の力を駆使し。
梁に着物の裾と両足首を緊縛されながらも上半身を起こし、梁の上に腹這いになると。
長く伸びた花蟷螂の二本の鎌を同時に是之源の両ひざの裏に、勢いよく振り下ろしたのだ。
その寸前、両手の大鎌からはらはらと、恐ろしく粘着力の強い蜘蛛の糸が切断されたことに、是之源は微塵も気づいていなかった。
「ふぁ?」
自身の肉体を支える二本の支柱が突然消失したことを、是之源はすぐに理解出来なかった。
大量に噴出する血に身体がぬめり、蜘蛛の半人半妖と化した是之源の身体は、
どすん! と大きな音を立て、上半身、特に腰から背中にかけてその身に重い衝撃を受け、梁から落下した。
腰まわりから背中一面が、妙にべとつく真っ赤な液体に濡れたと感じた瞬間には、もう手遅れなのだ。
ーー巨大な異形の暗器を身に備えど、しょせんは小娘。
よくよく見れば、小柄で華奢で、雪兎の如き儚げな風貌。
それだけで、男衆は皆が皆お雪を弱いと勝手に値踏みし、舐めてかかる。
所詮男は老いも若きも、特に身も心も弱々しく、小柄な少女を下にしか見ていないのだと痛感し、それを逆手に取ることにした。
ーーそれが、彼女が隠す能ある鷹の爪である。
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