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【其の拾「天誅殺ノ弍・錆刀辻道前篇」】

天誅殺師 鴉ノ記

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 亥の刻四ツ半をとうに過ぎ、子の刻九ツに近い時になっても人通りの絶えない蔵前通りを、三人の若侍の酔客達が、辺りをはばからぬ笑い声を上げて、通りの真ん中を闊歩していた。
 蔵前は、隅田川西河岸にあった幕府米蔵の前にある旧奥州街道筋の一帯で、鳥越の丘を崩して米蔵を隅田川端に埋めて建造されたため、この地名がある。
 米蔵の前の通りは、鳥越橋の北から黒船町までを指し、問屋や料理屋が軒を並べる繁華街であった。
 三人の酔いどれ若侍は、野平重太郎、村尾慎之介、元岡祐之進である。
 実は、余三郎が彼らに手渡したのは「九年大和屋又」の分け前だけではなかった。
 別れ際にこっそりと、釣り銭は一銭も残さず、今宵一晩で使い切ってしまうようにと小声で指示され、袂に一両小判を差し込まれた。まさに、袖の下である。
 当時の一両は、現在の四万円に相当する。
 三人合わせて、十二万円という大金だ。
 ーーだが、その一両小判を渡した本人は、小川町の路地で血の雨を浴びて白骨化しているなどと、彼らは夢にも思っておらず、勢いに任せて酒と馳走につぎ込んだ。
 ーー料理屋の二階の座敷では、余三郎の祝いの席で三人が振る舞った鯛の尾頭つきをひとりずつ。
 余三郎に出した、活け造りの舟盛りを座敷に運んで来た若い女中に、口止め料としては破格の金を握らせて裸にさせ、女体盛りにした。
 それだけでは飽き足らず、その女中頭に選ばせた、女中達の中でも特に若く美しい女中達に同じく充分過ぎる金を握らせ、ひとりずつわかめ酒まで堪能した。
 無論、わかめを漂わせる酒には、九年酒大和屋又を、冷酒のまま、銚子一本分を注いだ。
 その後注文した天ぷらの盛り合わせは海老に烏賊に蛸に鱚に穴子、牡蠣に雲丹(うに)に蛤という海鮮尽くしで、天つゆに塩、抹茶塩を用意させた。
 そしてわかめ酒に使った女中達を裸にしたまま各々側に侍らせ、自分達の手は一切使わず、彼女達に持たせた箸と手皿ですべて口に運ばせ、食べ尽くすという有り様だった。
 ーー次に繰り出したのは、百獣(ももんじ)屋だった。
 その屋号は『花散里(はなちるさと)』。
 いわば、現代のジビエ専門店である。
 猪、鹿を始め、犬に狼に狐、猿、鶏、牛、馬、兎、狸に狐まで出されていた。
 江戸では両国広小路、麹町が鍋や鉄板焼で有名だったが、元岡が噂で聞いたという百獣屋で、三人は、まだ十代半ばの若さ故の底なしの胃袋と食欲を最大限に解放した。
 一品目、花札鍋と勝手に称した猪と鹿の鍋に始まり。
 二品目、これは干支焼きよな、と笑いながら、犬、猿、鶏、牛に馬、兎の肉の鉄板焼きを食し。
 三品目、こちらも化かし合い鍋と勝手に称した、狐と狸の肉の赤味噌仕立ての鍋を立て続けに平らげた。
 しかし、彼らの胃袋にはまだ余裕があった。
 そこへ、頭頂だけ天神髷に結い、下は腰まで垂らした長い髪を、紅碧の生地を生かした、白い線で描かれた桔梗柄の大きな縮緬で首の後ろで結っているという、初めて見る奇妙な髪型の、やや声の低い、細いが、女にしてはだいぶ上背のある人物が、緑青色の四角い平皿を大きな盆の上に載せて、三人の座る座敷席に持って来た。
「ほう、これは美しい。女にしては背の高いのが玉に傷だが、その傷を補って余りあるほどの美女ではないか」
 元岡が歓心の言葉を口にすると、野平と村尾も同時にうなずき、同意した。
 淡紅色に真紅と黄色と白の天竺牡丹(ダリア)が満開の着物を、水縹色に細い黒の麻の葉模様の帯を、背中で町人風にやの字結びに締め、中地は八塩の紅と、艶やかな装いで、前かけは白地全面に紅白の梅の花と枝が入っている。
「ーーお侍はん方、皆様ご満足頂かはりました? さすが、武芸を嗜まはるお若い方は、よう食べはりますなぁ。おかげさんで今晩は、うちら、えらい儲からせて頂きましたわ」
 上方訛りである。
「あぁ、それはもう。やはり獣肉は美味い、精が付くうえに腹が膨れるーーおい女、その方、上方の者か?」
「へぇ、数ヶ月前に、大阪からはるばる江戸まで参りましたばかりで……お恥ずかしゅうございまっけど、まだまだこちらの接客の作法がどうにもようわからしまへん。色々と、あかん……いえ、到らへんところもある思いますが、今後ともどうぞご贔屓に、よろしゅうお頼申します」
 野平に丁寧に答え、女は、ぺこりと頭を下げた。
「大阪か。『京の着倒れ大阪の食い倒れ』とはよく言ったものよ。出された肉は文句のつけようがないほど、どれもまこと美味かった」 
 村尾が手放しに褒め言葉を口にすると、
「おおきに。皆様方のお口に合うて、ほんまに、ほんまに嬉しゅうございます」
 上方の女は心から礼を述べながら、ふたたび頭を下げた。
「牡丹に桜、紅葉を食わせる店故に、『花散里』とは、百獣屋の屋号にしてはずいぶんと風流ではないか。そこも気に入ったぞ」
 元岡が、女に褒め言葉を向けた。
 女はにこりと微笑み返した。
 ーー戀夏の純粋な微笑が弁財天なら、この女の笑顔は観世音菩薩である。
「それは、おやたーー店主の趣味で名付けましてん」
「ほう、町人にしてはなかなか教養があると見た。間違うても『末摘花』では、どんなゲテモノを食わされるか、わかったものではないわ」
  三人が、一斉にどっと笑い声を上げた。
「して女、その肉は何ぞ? 我らはもう何も頼んでおらぬがーー」
 野平が問うと、女は予想だにしない返答をした。
「へぇ、こちらは『熊の刺身』でおます」
「「「熊の刺身!?」」」
 三人が、異口同音に驚きの声を発した。
「これは、東北は秋田のマタギが仕留めた熊肉。滅多に手に入るもんやあらへん、えらい貴重なもんです。皆様、見とってほんまに気持ちええ食べっぷりでしたさかいに、ほんまなら一皿に肉五枚で一分銀ぐらいのお代を頂戴しとりますが、特別に、ただでお出ししたいとーーあぁ、もうお腹ぎょうさんにならはって、お口に入られへんですか?」
「何を言うか、おなごがたらふく食べた後の甘味と同じに、斯様に特別な品は別腹だ、のう? 村尾殿、元岡殿?」
  おぉ!! と、拳を握った右腕を突き上げて、村尾と元岡が威勢よく賛同した。
「ーーあぁ、よろしゅうおました。ほんなら、遠慮のうお召し上がり下さいな」
 女は、三人の前に熊肉の乗った四角い平皿を、音も立てずに置いた。
 それに続けて、猪口ほどの小さな四角い小皿をそれぞれの平皿のかたわらに、こちらも音を立てずに添え置いた。
「これに漬けて食すのか?」
村尾が問うと、女は微笑んで答えた。
「野蒜とらっきょうをようすり潰しよって、そこに自家製の味噌を足してすりこぎと擂鉢使うて、おやたが丹念に和えはった、我が店特製の味噌だれでおますーー」
「ふふ、これはまた、精が付きそうな」
 野平が舌なめずりして、熊肉に特製の味噌だれにたっぷり絡ませて、一口に平らげた。
 村尾と元岡も負けじと、野平と同じく味噌だれを大量に絡ませて、熊肉を貪る。
「おい、女」
「何でっか? お侍はん」
 行儀悪く、野平が箸で女を指し示した。
「名は何と申す?」
「お恥ずかしながら、うち実は、元は大阪は道頓堀で、長いこと茶屋で働いとったんです。少しの間、京の宮川町の茶屋におったこともおます。もうこん店のおやたに身請けされて足ぃ洗っとりますさかい、お客さん方のお相手は出来しまへん。好きで始めたことやあらへんけど、そんとき付けられた名が気に入っとって、いまだにそんときの名ぁ、名乗らせてもらってはります」
「ほう」
「ーー『桜乙(おと)』でおます。以後、ご贔屓に」
 長身に低音声の女ーー乙桜は、微笑んでみたび頭を下げ、三人の元をゆっくりとした足取りで去って行った。

 そのような経緯を経て、三人は蔵前通りを闊歩していた。
 本人達は気づいていないが、彼らの全身からはひどい酒臭さと獣臭がぷんぷんと漂っているが、彼らにその自覚は微塵もない。
 ややあってーー。
 三人は気づいた。
 いつの間にか、周囲から人だかりが消えていることに。
 さらに自分達が闊歩している場所が、四つ角の辻道であることも。
「うむ……? 酔って知らぬうちに、あらぬ場所に迷い込んだでござろうか?」
 当然ながら、野平はそう解釈した。
「ははは、我らとしたことが不覚不覚」
「まぁ、ここは蔵前通り。しばらく歩いていれば、いずれ人と灯りのある場所に出ましょうぞ」
 元岡の苦笑混じりの言葉に賛同した村尾は笑い、三人はしばらくの間、見知らぬ夜道を歩いていた。
 だが、歩けど歩けど、行きつく先は壁、壁、壁、壁、壁、壁の連続であった。
 酔いが過ぎたか、と笑い合っていた三人だったが、その酔いがすっかり覚めるまで、その袋小路止まりは続いた。
「な、何ぞ、これは……」
 首領格の野平が、恐れを含んだ戸惑いの言葉を口にした途端、その負の感情は村尾と元岡に一瞬にして伝染した。
 ふたりは言葉を失い、ただ青冷めた顔でその場に立ち尽くしている。
 
  ーーここは、閉じ込めの箱庭だわえーー

 抑揚のない童女のつぶやきが、三人の耳ではなく、頭の中に響き渡った。

 ーー天の裁き、何時訪れるは妾にも見えぬ。老いて死して地獄に落ちてからでは【うらみすだま】の黒蝶が、妾の顔から飛び立つは何時かもわからぬ、それではあまりに鬱陶しいーー

「村尾殿、元岡殿、落ち着け! これは芝居がかった、何かの巧妙なからくりぞ!!」
 酔いの覚めた野平は、首領格らしくふたりに冷静に呼びかけた。
 三人は四つ角の辻の真ん中に立つと、自ずと背中を合わせ、鯉口を切って態勢を整えた。
 そのときだった。
 数間先から、がらごろと何やら大きな音を立てて、ゆっくりと気だるげな足取りで、自分達に向かって歩みを進める者の姿を認めたのは。
「……なーー、参ろうやな、参ろうやなぁーー……」
 低音の、どこか投げやりな唄声とともに、それは近づいて来る。
「パライソの寺にぞ、参ろうやなぁーー……パライソの寺とは申するやなぁーー……」
 三人とそれとの距離、約四間。
「広いな狭いは申するやなぁーー……広いな狭いは我が胸(こころ)にあるぞやなぁーー……」
 残り、三間。
「なーー、しばた山、しばた山なぁ……」
 残り、二間。
「今はな、涙の先なるやなぁーー先は助かる道であるぞやなーーぁ……」
 唄声が止むと同時に、それは三人とわずか一間の距離を置き、歩みを止めた。
 それは大八車を牽いていた、六尺もの大柄な浪人であった。
 自分達と同じ二本差しとはいえ、月代は伸び放題、身にまとうは灰地に白の雲竜柄の生地に、白雲を突き抜ける二匹の昇り竜の柄が入った着流し。
 立派な体躯と、自分達の背丈を三、四寸は軽く越している六尺の身の丈に一切怯むことなく、野平達は完全にその人物ーー新谷を舐めてかかった。
「はっ、浪人風情ーーいや、浪人かどうかもわからぬ、大根役者かも知れぬがーー我らが譜代席に何を、致す気……む!?」
 野平が、我が眼を疑った。
「どうなされた、野平殿?」
「見、見やれ。こ、この者が首から下げておるものを!」
 驚愕する野平に指を差されながらも、新谷は常人より少し長く鋭い犬歯を剥き出しにして、にんまりと笑いを浮かべた。
 新谷が首から鳩尾と帯の中ほどまで下げていたのは、すべてが血赤珊瑚で造られた、長い数珠のような輪の先端に、十字架が付いた首飾りーーロザリオだったからだ。
「貴様、御禁制の隠れキリシタンか!」
 鞘から刀を抜き放った元岡が、新谷に切っ先を向けた。
「あいや待たれよ、元岡殿」
 村尾が片腕を延ばし、元岡をかばうようにして彼の前に出た。
「邪魔をなさるな、村尾殿!」
 三人の中でも、四角四面の頭の固い元岡が、御禁制の隠れキリシタンを今この場で一刀両断にし、今すぐにもこの世から消し去りたいという昏い正義感は、これまでの付き合いでよく熟知していた。
「まぁ落ち着け、元岡殿。そなたの気持ちはようわかる。しかしながら、この場でこのキリシタンを斬り捨てては、何の得にもならぬ」
「では、如何様にせよと!」
「売るのだ」
「売る?」
「だからそなたは頭でっかちだと、常日頃から申しておるのだ! もしや貴様、『懸賞人訴人制度』を知らぬのか!?」
 ーー『懸賞人訴人制度』とは、隠れキリシタンを見つけ、生け捕りにし、奉行所に売り渡す制度である。
 その懸賞金は【嘱託銀】と呼ばれ、当初は銀ののべ棒三十本であったものが、やがて銀百枚に変わった。
 その金額は現在の価格にして約七百二十万円という、破格の懸賞金である。
 当時の日本がどれだけキリスト教信仰を厳しく禁じて取り締まり、信者である隠れキリシタン達がどれだけ迫害され、禁忌の存在とされていたかが、如実に伺い知れる制度である。
「その嘱託銀を三人で分け前にしたとしても、ひとりの取り分はのぅ……」
 野平が、こそこそと元岡に耳打ちした。
「な、何と! それほどの大金を!?」
「そうだ。それに、御禁制のキリシタンを捕えたとあっては、今後の我らの出世にも一役買えるやも知れぬ。福の神に魅入られた我らの運を、そなた、ドブに捨てる気であるか!」
 野平が、元岡を一喝した。ひっ、と元岡が身をすくめる。
「では野平殿、元岡殿ーー」
 村尾が浮ついた口調で、ふたりに共闘と共同捕縛を申し出ようとした、その瞬間。
「わいら!揃いも揃っておいんこつ、いっきかかんとうっちょくんやなか!」
「「「は?」」」
 江戸生まれの江戸育ちにして、譜代席の子息たる三人に、新谷の言葉が通じるわけがなかった。
 新谷が、腰に帯びた大小から刀を抜こうとしたが、ジャリジャリと耳障りな音を立てながら、真っ赤に錆きった刀を、鞘から引き抜くことすら困難とばかりに、寸単位で抜き放とうとしている。
 その不様な光景を観ながら、野平と村尾は腹を抱えて笑い声を上げた。
「はははは、斯様な芯まで錆きった刀で我らに相対する気か? 生兵法は怪我の元……ぞ……!?」
 鞘から抜いた、無残なまでに刃こぼれの著しい錆刀の刀身の鍔から真上を、新谷は左手の左人差し指と中指で挟んだ。
 しかし、その左掌は素手ではなく、人差し指と中指のみ爪の先まで覆われた、親指、薬指、小指は指の付け根から先が剥き出しになった、黒い革の手袋を嵌めていた。
「あぁ、ちん忘れとった。先にわいらに渡さんとならんもんがあるったい」
「「「?」」」
 浪人は、大八車の荷台に荒縄で括りつけていた、桐の古びた長持の荷をとき、蓋を開けた。
 それと同時に、長持の中に納められていた風呂敷包みが、野平、村尾、元岡の胸に間を置かず投げつけられ、三人はそれを難なく両腕で受け止めた。
 軽く投げつけらた割に、その風呂敷包みは思わず前のめりになってしまいそうなほど、ずっしりと重かった。
 まるで、大玉西瓜並の重量だ。
 何が入っているのかと、何気なく結び目をほどいた直後ーー。
 化鳥が声の限りに喚き散らすような、筆舌に尽くし難い絶叫が辺り一面に響き渡った。
「オオオオオオオギョ゙ギヤア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!?」
「ギィエエエエア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!」
「オギョエエエア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ガハア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!?」
 「あっちゃこっち、取り違えとらんとか?   わいらんとこのととしゃまとかかしゃま、夫婦揃ってわいらよか先に、がんがんじま逝かさせてもろたばい」
 三人が新谷から投げつけられ、受け取った風呂敷包みの中身。
 それは、各々が両親の生首であった。
 しかし、断面からは血の一筋も垂れていない。
 新谷が野平家、村尾家、元岡家を襲撃し、彼らの両親を斬首した直後、併せて八つの首の断面に、和裁道具のこてを使い、火鉢の炭火でこてが焦げるほど熱し、切断面を止血したからだ。
 ーーこれは「焼灼止血法」という。
 出血面を焼くことで起こる、たんぱく質の熱凝固作用による止血法だ。
 ちなみに新谷が使ったこては、着物の仕立てをするときに使用する道具だ。
 縫い代を割ったり、袖口を仕上げる際に、まず火鉢の炭火を利用して熱する。
 こてが熱くなったら、あて布の上からこてを当て、熱加減は別の布に当てて温度を調整して使用する、いわば江戸時代のアイロンのようなものである。
「ええ気なもんたい。ふた親の首ば飛ばされとる間に、そん放蕩息子どもは金にものば言わせてわかめ酒すすって、百獣屋で花札鍋に干支焼きに、化かし合い鍋と獣肉喰らい三昧。こん、ばちかぶりどもが」
「……きさま……きぃ……さぁ……まぁ……!!」
 いちばん先に正気を取り戻したのは、意外にも元岡であった。
 噛み締め過ぎた唇から、だらだらと血が口からあごへと滴り落ちている。
 いつも村尾と元岡を率いりつつ、あからさまに見下す態度で彼らに接している首領格の野平は地べたに座り込んで、衝撃のあまり父母の生首を両腕に抱えたまま、白眼を剥く寸前の双眸で虚空を見上げ、ぽかんと開いた口の左右の端からよだれを垂らし、失禁は止まったものの、ぶりゅぶりゅと音を立て、盛大に放屁しながら袴の中で脱糞し続けていた。
 窮地に追い込まれた場合、普段からイキがり、周囲の者達に威張り散らしている者の方が、案外脆いものだ。
 一方、村尾は。
 ぐぅ、ぐぅぅ……と唸り声を漏らしながら、腰のものの鞘の先端を地に押しつけ、杖代わりにがくがくと震える両足を、歯を喰い縛って身を起こした。
 不覚にも抜けた腰に、渾身の力を込めて。
「はん、貴様、そのように芯から錆びたなまくら刀で、我らと相対そうと……?」
  村尾からの問いに新谷は答えず、左手の人差し指と中指で、錆きった刀の鯉口の真上を挟んだ。
 しかし、その二本指は素手ではない。
 人差し指と中指のみが爪の先まで黒革に覆われているが、残りの親指、薬指、小指は指の付け根までしかない。
 その革手袋の甲の部分には、白い五芒星の刺繍が施されていた。
「父と子と精霊の御名においてーー」
 錆刀の鯉口を挟んだ左手の人差し指と中指が、切先までをシュッ! と一瞬で擦り上げた。
「「!?」」
  その瞬間、元岡と村尾が驚愕に眼を極限まで見開いた。
 黒革に包まれた人差し指と中指が擦り上げた錆刀は、老練あるいは熟練の名工たる研ぎ師の手によって研ぎ【澄まされた】かのように、刀身が暗闇の中で光り輝いていた。
「こんだけは言(ゆ)うとくばい。おいがわいらのふた親の首ば斬って、斬り口ば焼いて、血ば止めたとき……」
 新谷が、元岡と村尾の両眼を真正面から見据えて、叫んだ。
「わいらのおふくろさんらば、三人とも本濱の祝言ば出るときん、わいらに着さす羽織袴に針ば通して縫うとった途中と、出来上がった後だったばい! こん親不孝のこんじょくされどもが!」
  村尾はその言葉に、両掌で頭を抱え、悲鳴を上げながら激しくかぶりを振りながら、その場に両ひざを折り、
「おっ、オオオオオオ! おおおおおおお許し下さいッヒィッ!!! 母上、父上、し、し、ししし、慎之介めが悪うございましたア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ギィィィィ!!!!」
 と、数え切れないほど舌を噛み。
 肉厚の舌の縁が「非」の形に近くなるほど、 口腔と口まわりが血まみれになるまで謝罪の言葉を延々と繰り返しつつ、泣き叫んだ。
 村尾のその様を横目に、軽蔑のこもった視線を向けながら、元岡は舌打ちし、とうに鞘を抜いた新谷に、真正面から向かい合った。
「……どうやら、この中でまともにそなたと戦えそうのは私だけのようだ」
「ふーけたこと、抜かしとるけんなぁ」
「隠れキリシタンを奉行所に売れば【属託銀】が与えられる。 野平殿は発狂し、村尾殿は錯乱しておる今、この状況なれば、私がそれを独占するのも容易いことよ」
 新谷は心底鬱陶しそうに頭を掻きながら、元岡に言い放った。
「そん話ば、野平から聞いて知ったばかりんこつやろ?  ふーけもんほど、覚えたての言葉使いたがるば、本当だったったいなぁ?」
 新谷は、あえて元岡を煽った。
 もっとも、長崎言葉なのでほとんど意味は通じていないのだが。
「何故だ!何ゆえに、我が父母をこのような目に合わせたか!」
 「そげんこつおいが言わんとも、わいらがよっくわかっとろーもんが。わいらんごたる、こんじょくされのはしかいんども育てた責任ば、取らせただけったい。おいば! おいばなぁ! 自分のガキんこつ、弱かもんせびらかす輩に育てた親どもば、こん世の中で、やっちゃやっちゃ! ううづらにっかばい!!」
「…………『こんじょくされのはしかいん』とは、如何なる意味ぞ?」
 直感的に、その言葉に何やら屈辱的な意味を悟った元岡が、憎々しげに問うた。
「『根性の腐った狂犬』て意味ばい」
 人より長く鋭い犬歯を剥き出しにして、新谷は笑顔で答えた。
 ーーその直後、寸分の間も置かず、元岡は奇声を上げて、新谷に斬りかかって来た。
 「根性の腐った狂犬」などと、譜代席の身分たる自身に対して浪人風情に言われては、キレるのも当たり前だ。
 「ヤットーば、しけしけむなかじょん腕やけんが、しょうんなか、御相手致す。おいば、天誅殺師【上野喰代サの四番】が組子の参ーー錆刀」
 名乗りながら、新谷は、頭上高く振りかぶってから、新谷を袈裟がけに斬ろうとした元岡の刃を、彼から見て、あっさり左に交わした。
 それと同時に、粗末な草鞋を履いた新谷の左足の爪先が、元岡の左脇腹を突き、彼の下腹に、容赦なく渾身の蹴りを叩き込んだ。
 「おげっ!」
 五臓六腑がひっくり返ったかと思うような衝撃に、元岡は反射的に腹を押さえ、おびただしい量の胃の内容物を、地面にぶちまけた。
「元岡殿!」
 ようやく精神状態が落ち着き、腰の据わった村尾が、がら空きの新谷の背中を目がけ、刃を右顔の真横に構え、わずか一尺ほどの間合いを二、三歩で駆け寄り、背中から心臓をひと突きにしようとした。
 しかし、その切っ先が新谷の背中に触れた瞬間、新谷は素早く身を翻し、右掌だけで村尾を唐竹割りに斬り捨てた。
 村尾は頭から股間まで、着物と褌ごと対称的にまっぷたつに斬り裂かれ、大量の血を噴き出しながら、後ろ向きにどっと倒れ込んだ。
「げにゃかなわんくせ、おーどかガキが。安心してよかばい、体の表面、一寸ばかし斬っただけたい。おいば、端からわいらを殺すん気はなかけん」
「き、貴様が……我らを殺す気はなかろうと……私は、貴様を殺す……父母の仇を討ち取るまで……は……な!」
 口元から着物の前をあらかた吐瀉物で満たして汚しながら、元岡は態勢を立て直した。
 その瞬間、新谷が右掌だけで握った刃が、瞬速の動きで元岡の体の前面と両肩を十数回、縦横無尽に薙ぎ払ったかと思うと、元岡が身にまとっていた衣類はすべて四角い端切れと化した。
 それに続けて、両足に履いた草履の鼻緒もぶつっと切れ、その後を追うように、さらに足袋と草履まで縦にぱっくりと割れ、元岡は
闇夜に全裸を晒した。
「いぎっ?」
 羞恥より、凄まじいまでの驚愕が元岡の心を支配し、彼はその場に硬直した。
「らぁっ!」
 新谷の刃が、深々と全裸の元岡の下腹に刺さった。
 刃が肉圧に逆らいながら、元岡の下腹を横に斬り裂いて行く。
 はらわたを傷つけられる凄まじい激痛が、元岡の全身に、放射線状に広がって行く。
 ーー切腹だ。
 武士の子息は元服すると、父親からまず切腹の作法を教わる。
 江戸時代においてはその父から息子への切腹指南は半ば形骸化していたが、だからと言って切腹の刑罰が完全になくなったわけではない。
 想像を絶する激痛と苦しさに、元岡は見栄も誇りもかなぐり捨て、新谷に介錯を求めた。
「か、かい……介錯を……た、頼……」
「こいば、本物の切腹やなかたい。暁に祈る巫女様にお頼み申して、わいらに幻痛を与えたかとお願い申し上げたばい、今から横三文字ば、やらせてもらうけん」
 新谷が一度目の切腹を終え、二度目の切腹に取りかかった。
 元岡は一度目の切腹で裂かれた腹よりわずか一寸下から、ふたたび肉圧に耐えながら腹を真横に斬裂かれた。
 もはや血だけではなく、一度目、二度目の裂け目からないがはみ出している。
 今までにない腕力を込めて、三度目の切腹は一気に斬り裂かれた。
 「こいで終いったい。おいば、横三文字ば成し遂げよったけんね、 武士の鑑ったい。いわせん、いわせん!」
 その途端、元岡はどう、と己が吐き出した吐瀉物の溜まりの上に、うつ伏せに倒れ込んだ。
 ぬるぬるとして悪臭を放つ、ほんの少し前までは極上の美味であった、獣肉が中途半端に溶解した汚物に上半身をまみれさせながら、元岡は、幻の痛みと傷口の激痛に身動きひとつ取れず、のたうちまわるしかなかった。
(こ、の、痛み……と……傷と血……が、幻ならば……いつまで、私は、この苦痛、に……!?)
 そのとき、元岡の顔面が吐瀉物の溜まりの中に突っ込まれ、彼はその不快感と、鼻孔に侵入した吐瀉物の悪臭に、またも嘔吐しそうになった。
 口にしていたときはあれほど美味かった大量の獣肉も、野蒜とらっきょうをすり潰した特製タレも、今は凄まじい悪臭でしかない。
「野平ん奴ば、あいそもごそもなかほど、完全に狂ったとばい。おずみつくこともなかけんが、わいらの罪状ば考えたら、こげんこつでは天誅殺にはいっちょんも足りん。まうごつ天誅ば、与えんこつには……」
 新谷は元岡の後頭部を草鞋で踏みつけながら、腕組みして悩んだ。
「ちちうえ、これは鬱金にございます。さけをのんだあとにせんじてのまれるとかんのぞうにひたんがかからぬとほほほほは」
「ははうえ、もとはまさまのしゅうげんのために、わざわざわたしのために、しんぴんのはおりばかまをおぬいくださいましてありがとうございます、これはじょうとうのおしろいでございますぞ、しゅうげんのさいにはぜひおつかいいただきたく」
 完全に発狂してしまった野平は袴も褌も脱ぎすて、褌の後ろ溜まった大便の塊を父の生首の口に押し込み、下痢便を母の生首の顔に塗りたくっている。
  だが、標的が発狂してしまっては、天誅殺を下す甲斐がないーーというのが、江戸八百八町中に存在する全天誅殺師達の総意であり、信念である。
 標的にはあくまでも、その標的によって殺害された、あるいは標的によって自死に追い込まれた【うらみすだま】の主が味わった生き地獄の苦しみを、生きたその身に与える。

【肉体はどれだけ破壊の限りを尽くされ、辱められ、歪まされ、人としての尊厳を奪われようと、精神は正常なまま生き長らえさせ、死ぬまでこの世の生き地獄で生かされ続ける罰を与える】

  それこそが、天誅殺師達の使命なのだ。
「お、あん手があったばい!」
 新谷は、左拳で右掌をぽん、と打った。そして暁の巫女に向けて祈りを捧げるべく合掌するとーー。
(巫女様、お願いがございます。梓弓ば使こうてのいちこの口寄せば、お頼み申し上げます)
(……参よ。妾は確かに巫女ではあるが、梓巫女ではないわえ……)
 (そこを何卒、お願い申し上げます!)
(ならば聞くが、参。何ゆえに、いちこの口寄せが必要なのえ?)
(そいばーー)
 かくかくしかじか、こうした次第で、と、新谷は自分の考えを巫女に説明した。
(……なるほど、そなた、なかなかの知恵者であるな。相わかった。天誅殺を成し遂げるためとあらば仕方ない。今より梓弓を奏でて進ぜる) 
(おありがとうございます!)
 新谷はその場に両手をつき、頭を垂れた。
 ーーややあって、血と吐瀉物にまみれた辻に、梓弓の音が響き渡った。
「梓弓 おしてはるさめ けふふりぬ あおさへふらば わかなつみつむ」
 とうに、屋根瓦から降りて巫女のかたわらに戻っていた鴉が、そうつぶやきながら暁に祈る巫女にイラタカ数珠を恭しく差し出し、一間ほど距離を置いて隣に座すと、鴉が梓弓を奏で始めた。
 ……チッ、チッ、チッ、チッ、チッ……
 と、規則正しい、か細い音が鳴り続ける。
 梓弓は古来より死者の魂をこの世に召喚するために使われた巫具だ。
 梓巫女ーー俗に東北のイタコと呼ばれるーーが使用したことから、この名がついた丸木の弓である。
 弓の端を結ぶ弦には麻糸や樹皮が使われ、音を出すには細い竹の棒を使う。
 そうして死者の魂を梓弓に宿らせると、次に梓巫女ーー今回は暁に祈る巫女の肉体にー
ー憑依させ、入神状態にさせるための橋渡しの役目を担う。
 しかし、今回はそこからさらに、遠方の生きた人間の肉体に死者の魂を憑依させようと言うのだ。
 一見、一弦の弦楽器のように見えながら楽器ではなく、弓と呼ばれながらも武具でもないという、実に不可思議な存在だ。
 暁に祈る巫女が、イラタカ数珠を両掌で上下に激しく擦り合わせて、口寄せの祈祷を始めた。
  イラタカ数珠は、三百あまりの黒い無患子の木の実を繋ぎ合わせた長い数珠だ。
 両側に雌雄の鹿の角、猪の牙、熊の爪、唐辛子の別名ではない鷹の爪、狐の顎骨、狼の骨がついている。
 そこに天保銭、小銭、剣等の装飾がなされている。
 巫女はしばらく、初めて執り行う難易な術のため、煉丹術なる気功法のひとつである小周天ーー煉己、調薬、封固、煉薬、採丹と、これらの候を三度生じさせた後、小周天を止め、大周天に移った。
 大地の気を両足の裏から取り入れてふたたび衝脈に流し、百会から出すという過程を経て、ようやく口寄せの巫歌を歌い始めた。
「一の弓 まず打ち鳴らす初音をばーーこのむらの神々まで請じ入れ申そうやーー」
「二の弓の音声をばーー所の神々まで請じ入れ申そうやーー」
 まだ幼く小さな体の腹の底から、朗々とした張りのある歌声が、根岸の寮の上りの間に響き渡る。
「三の弓をばーー日本は六十箇国の…………っ!」
 びくん、と、祈祷の途中で巫女の背中が跳ね上がった。
 次の瞬間、巫女は立てひざをついて、驚愕の表情で辺りを何度も何度も見まわした。
「こ、ここは何処ぞ? 私はあの盲に首を無数の針で喰い破られ、二匹の大白狐どもに空高く上げられ、そこから落とされーー」
「憑依したか、本濱余三郎!」
 鴉が、梓弓を鳴らす手を止めて立ち上がり、鬼の形相で巫女に憑依した本濱に一喝した。
「何だ貴様は!? この時代に、まるで傾奇者のようななりをしおって!?」
 「我が一番弟子がずいぶんと世話になったのう。稲荷神様方の御守護と手助けがあったとはいえ、あれしきの未熟者に負けるとは、情けなきことよーーあれを見よ」
 鴉が指差した先には、普段、暁に祈る巫女が身支度を整え、髪を梳るための鏡台があった。
 鏡て同じの長さと幅藤色の布が裏返り、そこに映った本濱の姿は、見知らぬ童巫女の姿であった。
 巫女の顔を、本濱は極限まで両眼を見開き、何度も何度も、イラタカ数珠を手にしたままの、その小さな両掌でこする。
 角のない鬼が、鏡の中で笑みを浮かべた。
 もう、何から何までわけがわからないまま、本濱の心情を現した巫女の顔から血の気が引き、尻だけで後ずさりする。
「貴様のような穢らわしい魂が、我が主の肉体に宿っておると思うだけでも忌々しい! 早々に、次の肉体にーー」
 怒りに満ちた鴉が、肉体は巫女、魂は本濱の、巫女が握り締めているイラタカ数珠を奪い、自分が梓弓を鳴らし、巫歌の続きを引き継ごうとした。
「待ちや、鴉」
 途端に、巫女の声が本濱のそれから、本来の巫女の声に戻った。
「そ、その御声は」
「ふむ、妾も甘く見られたものよの。これしきのことで、妾の肉体がすべてこの穢れた魂に憑依され切ると思うてか?」
「も、申し訳もござりませぬ!」
 鴉が、慌ててひれ伏した。
「本濱余三郎と申したか、この死者。この者はまだ、壱が身から放たれた毒の血雨で己が肉体を溶かされ、骨になっておることすら気づいておらぬわえ。しかし、この魂はあまりに醜い。斯様に醜くき魂を我が体内に留め置くは、不快でならぬ。参の申し出た謀(はかりごと)の通り、次の肉体に憑依させるはたわいないーー鴉ぇ、早ぅ梓弓を弾き直せ!」
「かしこまりましてございます」
 鴉はふたたび巫女にひれ伏すと、すぐさま梓弓を弾き始めた。
 巫女の歌う口寄せの巫歌が、あとに続く。
「三の弓をばーー日本は六十箇国のかずのそうさく和光同塵まで請じ入れ申さやーー」
 巫歌を歌い終えたその瞬間、正座しながらイラタカ数珠を上下に擦り続けていた巫女が、その場にどっと倒れ伏した。
「巫女様!」
  鴉はすぐさま巫女に駆け寄り、その身を抱き起こした。
「ふ、ふふふ、慣れぬことはするものではないの……しかし、あの魂は飛び去った。あの閉じ込めの箱庭の中におる、気狂いの者の体内に」
 「……しばしお待ち下さいまし。私めが、今すぐに牛の乳をば鍋で温めたものに、蜂蜜とぶらんでぇを垂らしたものを持って参ります故」
「……あぁ、頼む」
 鴉が壊れ物を扱うように、巫女がそれまで座していた座布団の上に横にすると、鴉は台所に向かって、脱兎の如く駆け出したーー。

 その頃、暁に祈る巫女の閉じ込めの箱庭と化した蔵前通りの辻道では、ようやく新谷の謀略が実行されようとしていた。
 
「な、何ぞ!? この体と、小便に糞と下痢まみれの股ぐら……は……ーーイギヤア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!?」
 暁に祈る巫女の巫歌とイラタカ数珠、鴉によって打ち鳴らされたいちこの梓弓によって野平の肉体に魂を憑依させられた本濱は、野平の体に、野平の声で絶叫した。







 
 
 

 



 
 
 


 




 
 

 
 
 
 
  

 






  


 

 
 
 

 

 
 


 

 
 
 


 
    
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