上 下
79 / 115
【ゆるネタ番外編】 魔女の日常

番外編 宮廷魔女の日常 ~口を塞がれてしゃべれないプレイ~

しおりを挟む

「は……話が、あるんだが」

 そう切り出したのはサフィージャだった。
 すると王太子どのは、いつものあの、とろんとした甘いまなざしでこちらを見返した。

「はい」

 金色の髪をふわりと傾け、うれしそうに聞き耳を立てる絶世の美青年に、サフィージャはそわそわしながら、なんとか言葉を探し出す。

「……こないだのことなんだが」
「ええ。どうしました?」

 歯切れの悪いサフィージャを励ますように、クァイツは彼女の手を取った。
 まっすぐにサフィージャを見つめながら、指を絡めて手を握る。

 王太子どのとはつまり、こういう行動を照れもせずさらりとやってのける男である。
 彼が日頃から振りまいている甘ったるい雰囲気に助けられて、サフィージャはもう少し勇気を出してみることにした。

「……お前はこないだ、川べりで私を見かけたと言ってたが」

 あのときのクァイツは、サフィージャがちっとも自分を見てくれないといって嘆いていた。
 サフィージャはそんなことないと否定したかったのだが、うまく言えないままになっていた。

「じ、実は、わ、私も……」

 ――私も見てたんだ。
 それで、いいなあって、好きだなあって、思ったんだ。

 サフィージャがそう続けようとすると。
 なぜかクァイツはいきなりサフィージャの口を手でふさいだ。

「聞きたくありません」

 えっ。
 どういうこと。まだ何も言ってないけど。

 戸惑うサフィージャに、クァイツはどこか狂気を感じさせるあの甘い笑顔で言う。

「あの日、強引にあなたを襲ってしまったことは謝ります。でも、だからといって別れてほしいと言われても聞けませんから」
「ふ……ふごっ……」

 そんなこと思ってないけど。

 あまりの飛躍にサフィージャが口をもごもごさせていると、王太子どのはサフィージャの口を押さえたまま、まぶしい笑顔ではにかんだ。

「……いやだな、私はあなたを離すつもりなんて全然ないって、まだ分かってなかったんですか? どうすれば伝わるんでしょうか。あなたも懲りない人ですよね。私だって今度逃げられたら何をするか分からないって、言いませんでしたっけ?」

 一方的にまくしたてられて、サフィージャはなんとなく察した。
 なるほど。彼なりにこないだの強引な抱き方に負い目を感じていたということだろうか。
 蒸し返されたくないなと思っていたところにちょうど触れてしまったのかもしれない。

 サフィージャとしてはむしろその逆だった。
 毎日浴びるほど好きだと言われている割に、こちらからはあまり言えていないので、たまにはもう少し素直になってみようかな、というつもりだった。

 それで手始めに誤解を解いてみようと思ったのだ。
 川べりでたまたますれ違ったあの日、サフィージャが何を感じたのか。
 説明したら、喜んでくれるんじゃないかと思った。

 もう少し早くにサフィージャがこの件を切り出していればよかったのだろうが、例によって恥ずかしいなーとか、言いたくないなーとか、なんとかかんとかぐずぐずしているうちにクァイツの中で発酵が進んでしまったようだ。

「……でも、こないだのだってよかったでしょう? またしてあげますから、あなたは何も考えずに身を委ねてくださったらいいんですよ。私が責任持って、きちんと幸せにしますから。……ね?」

 わー。誤解がー。ふくらんでいくー。

 相変わらず人の話を聞かない男である。

 困惑するサフィージャをよそに、クァイツは彼女の胸元に手を伸ばした。
 片手で口を封じて、片手で胸をもみ始める。

「んー、んー」

 もがくサフィージャの鎖骨に鼻先をくっつけ、はだけた胸に唇を這わせる。
 その気もないのにいきなり舐められるとぞわぞわして鳥肌が立ってしまう。

 それでも執拗に弄ばれているうちに、立っているのがつらくなってきた。
 おとなしくなってきた頃合いを見定めたのか、サフィージャは口の中にハンカチをつっこまれて、ベッドの上に転がされた。

 ハンカチを吐き出そうにもぎちぎちに詰め込まれていて、舌が動かない。
 両手はひとまとめにして彼に拘束されている。

 やめてー、取ってー。
 誤解だから。話せばわかるから!

 目で訴えかけても通じなかった。

「暴れないで。ちゃんと気持ちよくしてあげますから」

 ふわふわの甘ったるい声で諭されて、サフィージャはちょっと傾きかけた。

 クァイツの言うことは色々おかしいと思う。
 思うのだが、彼のきらっきらの王子様フェイスであまーくやさしーく語りかけられていると、だんだんわけが分からなくなってきて、最終的に染まってしまうのである。

「ふふ。かわいい人だ。怖くないですよ」

 しいていえば、サフィージャには彼の思い込みが一番こわかったが、抗議しようにも「んー」しか言えなかった。

 やさしい手つきでゆっくり髪の毛をなでられ、サフィージャは悟った。
 だめだこれ。抗えないやつだこれ。

「大好きです。私のかわいいサフィージャ」
 
 やめて、くすぐったいからやめて。
 ああっ、そこは。
 はう、ひう。

 サフィージャはこのへんで、いろいろあきらめて、脱力した。
 心情的にはすでにおなかを見せて寝転がる、撫でられ待ちの犬だった。


***

「ん……っ」

 胸の先がじんじんする。
 ゆっくりていねいに舌でなぶられ、いじめられ、サフィージャはもう辛くなっていた。
 
 かといって、もう降参だと口にすることもできない。ふさがれてしまっているからだ。
 
 そんなこんなですっかり出来上がってしまい、蜜口のあたりに唇を押し当てられたときには、自分からそこを押しつけていきたくなるくらい身もだえた。

「~~ッ」

 よく動く舌が花弁のふちを丁寧に舐め上げ、最上部の花芯を押しつぶす。
 何度も往復されただけで、あっけなく登りつめてしまった。

「んんっ!」

 敏感になりすぎてぴりぴりするそこに、濡れた感触が押しつけられる。
 尖らせた舌先でぐりぐりと押し揉まれて、びくりと腰が引きつった。
 からだの反応で達したことは分かっているだろうに、クァイツは止めようとしない。
 唇でやわやわと挟み込まれているうちにちょうどいい甘い刺激がどんどん湧いてきて、また簡単にいかされてしまった。

 自分の呼吸音が脳内に響く。
 口につめこまれたハンカチのせいで呼吸がしにくく、酸素不足で意識があやうい。

 救いようのないぐらいとろみを帯びた下腹部を満足げに確認してから、彼はようやく口を離した。

「本当にあなたはいきやすいですよね。自分でもそう思いませんか?」

 それはお前がしつこいからだっ。

 この男は放っておくと何十分でもサフィージャをいじめてくる。
 そんなに長い責めだったらたいていの女は陥落するだろう。

 返事をしたくても、首を振るぐらいしかできない。
 
「きっと相性がいいんですよね。……ね? あなたの相手は私しかいないと思いませんか?」

 そこだけはサフィージャもしっかり頷いておいた。
 これ以上話をややこしくしたくない。

「やはりあなたもそう思いますか。安心しました」

 機嫌を直したクァイツが服を脱ぎ、断りもなく勝手に挿入を果たした。
 大きなものが、ぎちりとあちこちに引っかかりながら入ってくる。

 小刻みに揺らしながら奥まで一気に突き入れられて、目の前に火花が散った。

「……ッ、ん、んんン……ッ!」

 彼は慣らしもせずいきなり竿を引き、奥まで容赦なくがつんと打ち込んだ。
 荒っぽい動きで何度か繰り返されただけで、飼いならされきったサフィージャは反応してしまう。

 さらに蜜をすくいあげ、湿らせた指先で、真っ赤に充血した花芯をぴんと弾かれた。
 ごく弱く刺激されただけなのに、突き上げと同時に食らうと気が狂いそうなほど気持ちいい。
 クァイツのものをぎゅっとしめつけるほどからだがはっきりと痙攣した。
 
「んっんんっ……! んー……!」

 指先でクチュクチュといじくり回され、やめてとも言えず、強制的に高みに追いやられる。
 首を真横にそらして身もだえるサフィージャに、クァイツが煽るような口調で言った。

「……すごい締め付けですね」

 言わないでほしかった。
 いつもそう思うのに、言われているうちにだんだん羞恥心と快感がぐちゃぐちゃに入り混じって、わけが分からなくなって、結局信じられないくらい深いところまで落とされるのだ。

 蜜口の浅いところに半ばまでを埋め、先端の部分だけをゆっくり出し入れされているうちに、サフィージャはまた限界を迎えそうになっていた。

「もういきそうなんですか? かわいらしいことですね」

 ぼそぼそとサフィージャにだけ聞こえるように耳元でささやかれる声の、ざらざらした息づかいや、伝わってくる密やかな興奮がサフィージャを駆り立てる。

 びくびくん、と不規則にまた締め付けてしまう。
 達したあとも、クァイツは執拗に彼女を攻め続けた。

***

 あざやかな陽光色の頭髪をした容姿の美しい男が隣に寝そべっている。
 満足したらしく、サフィージャはようやく口に入れたハンカチを取ってもらえた。

「……ふふ。今日もあなたはかわいかったです」

 うれしそうな頬ずりを受けて、サフィージャはなんだか気が抜けた。

 見た目はとてもそうは見えないが、こういうときのクァイツは少し動物っぽいと思う。
 普段はあまり感じられないナマの野心や欲望がちらつく。
 相手を屈服させようと思うのは男の本能のようなものなのだろう。

 そんなことで喜んでしまうのだから、サフィージャもたぶん、動物的なのだ。
 この男にされる意地悪がなぜかやたらに気持ちいいのも、きっとそのせいだ。

「私は動物は嫌いじゃないんだ」

 サフィージャがしみじみとそう言うと、クァイツはなんのことか分からないという顔をした。

「虎を飼ってみたいと思っていたこともあるんだ」
「虎、ですか」
「そうだ。虎だ」

 きらきらのきれいな毛並みの美青年の頭をなでてやると、なんとなく夢が叶ったような気分になった。

***

 それからしばらくのち。

「虎を輸入しました」

 クァイツにだしぬけにそう言われて、サフィージャは目が点になった。

「虎……?」
「虎です」

 クァイツはまったく悪気のないにこやかな表情で、サフィージャの手を取った。

「先日、虎を飼ってみたいと言ってましたよね」
「……は?」

 いつのことだろう。そんなこと言っただろうか。

「あの時はうれしかったです。あなたが閨でのねだりごとをひとつもしてくださらないので、少し寂しく思っていました。虎は確かに、筆頭魔女のあなたであってもなかなか飼いにくいですよね」

 そっと手に握らされたのは、用途のよく分からない、檻や家屋のものらしき鍵が大小三つ。

 そこまで言われてようやくサフィージャは思い出した。
 そういえばいつだったかのベッドでそんな冗談を口にしたことがある。
 もう一か月は前のことなので、すっかり忘れていた。

「と、虎を、飼ってくれるのか? 私のために?」
「ええ。管理はこちらでしますから、心配しなくていいですよ」

 えええええ。
 さすがは王太子どの。
 いろんな意味で思考回路が常人の予想をはるかに超える。

 プレゼントにしてもスケールがでかすぎるだろう。

「あ、あれはそういう意味じゃ……」

 どう訂正したものか考えているサフィージャの気も知らず、彼はにこにこと続けた。

「でも、気を付けてくださいね。人に慣れていないようなので、直接触って遊ぶのはやめたほうがいいとのことでした。ですから、遠くから眺めるだけにしてください」

 猛獣は遠くから眺めているのが一番いい。

 もしかすると、この男も遠くから鑑賞しているだけのほうがいいタイプなのかもしれない。

 そんなことを思いつつ、サフィージャはひきつった笑顔で、とりあえず、礼を述べた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。