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【ゆるネタ番外編】 魔女の日常
番外編 宮廷魔女の日常 ~王宮に越してきたばかりのリオトール~
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ゆるい小話
※時系列としては第二部ダイジェストの後日談にあたります
********************************************
サフィージャの占い部屋にリオトールがやってきた。
忙しかったので断ろうかとも思ったが、知人の男の子だったので、サフィージャは私室のほうに通して、適当に茶菓子を出しておいた。
「俺さ、天才かもしんない」
リオトールが深刻な顔でそうカミングアウトした。
「すげー包帯巻くのうまいんだよね。俺が包帯巻いてやった患者さんめっちゃ傷の治り早い。奇跡かもしんない」
「そうか……奇跡だな」
サフィージャは上の空だった。仕事の都合で明日中に大量の化粧品を作らなきゃいけないのだが、混ぜもの用の蒸留水が少し足りないのだ。
「ばーちゃんたちも大喜び。いやーいいね、人に感謝される仕事ってさ。羊飼いよりずっといいよ」
「そうだな……」
「どうしよう? 俺、そのうちサフィージャさんよりすごい医者になっちゃうかも」
「そうだな……」
油と混合してかさを増すか、あるいはいっそ新商品だと言って油となじませたものと蒸留水に混ぜたものの二つセットで売ってみるか……
「ねえ、サフィージャさんさ、聞いてる?」
「ん? おお。聞いてるぞ」
「じゃあ何の話してたか言ってみて」
えー。めんどくさい絡み方するなこの小僧。
「ほら、あれだろ? こないだ行ったところは楽しかったとか、なんかそんなだろ。うらやましいな、私も行きたいぞ」
「全然聞いてねえじゃん!」
違ったか。
「ええと、じゃあなんだ? 晩飯? 晩飯か? 昨日のごはんはおいしかったとかだろ? いいな。私も食べたかった」
「心にもない上にさっきとあんま変わってない!」
「……すまん、で、何の話だったんだ?」
「はあ!? もういいし! 言う気なくしたし!」
すねてしまった。
「どうせサフィージャさんのことだからまた仕事のこと考えてたんだろ! 俺と一緒にいるのにそれってありえなくない!?」
なぜか怒られている。
お前はめんどくさい彼女か。
しかし彼は王宮に来てまだ日も浅い。知り合いもおらず、土地勘もないから遊びにもいけない。
それで暇を持て余してサフィージャのところに来るというわけである。
子どもの彼にしてみれば身近に頼れる大人が構ってくれないというのは由々しき事態なのだろう。
しかし間が悪い。今日のサフィージャは本気で忙しかった。
「すまんすまん。お詫びにわが拝火教の邪神像をやろう。この子はアジ・ダハーカといってな、三頭六つ目の蛇竜で……」
「いらねーよ!」
なんでだ。男の子はこういうの好きだろ?
ドラゴンだぞドラゴン。
「……おれがいたら迷惑なの?」
しょんぼりと言われてしまって、サフィージャは胸がちくりとした。
押してダメなら引いてみる。
天然でやっているのなら末恐ろしい。
「迷惑ってことはないが……ちょっと時間が押してるんだ。今日中にこれを調合しないといけない。ここにある全部だ」
「おれ手伝おうか? 薬混ぜるのちょーうまいよ。天才だし」
「ほんとか」
試しにすりこぎを使わせてみたら、確かにそこそこ手慣れた様子だった。
薬品に素手で触らないこと、髪をしばってマスクをすることなど、薬を扱う上での基本が注意しなくてもちゃんと分かっている。
「すごいな、天才じゃないか」
「サフィージャさんて言葉に心がこもってないよね……」
「そ、そんなことはないぞ? 今私は本当に感激している。間に合わないかもしれないと焦っていたところなんだ。うまくできたらバイト代をやろう」
「べつにいいよ、そんなの。おれがサフィージャさんの役に立ちたかっただけだし」
サフィージャはちょっと何と答えたらいいのか分からなかった。
この小僧、うざ絡みするくせにちょいちょいかわいいことを言うのである。
ただの嫌味な小僧なら叩き出してやるところなのだが、甘えてこられると弱ってしまう。
「でもさ、なんで化粧品なんか作ってんの? こんなの魔女の仕事じゃなくない?」
「これがな、貴族のご婦人がたによーく売れるんだ。これ一本でなんと銀貨一枚」
「まじで」
「まじだ。百本作れば銀貨百枚だ」
「俺の一年分じゃん! ほっけとか買い放題じゃん!」
「バカを言うな、タラや牛タンだって買い放題だ」
「すっげえ! 魔女ってすっごいね!」
「そうだぞ、魔女はすごいんだ。だから遠慮せずバイト代はもらっておけ。ついでにこのアジ・ダハーカ像も」
「いえ、それはいいです」
なんで敬語なんだ。
男の子なんだから邪神とか好きだろうに、遠慮深いやつだな。
――リオトールの活躍により、化粧品の調合は間に合った。
彼には後日ほっけの干物を樽で買ってやった。たぶん、五十尾ぐらい入ってたと思う。
『ほっけはしばらく見たくない』とは彼の談である。
※時系列としては第二部ダイジェストの後日談にあたります
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サフィージャの占い部屋にリオトールがやってきた。
忙しかったので断ろうかとも思ったが、知人の男の子だったので、サフィージャは私室のほうに通して、適当に茶菓子を出しておいた。
「俺さ、天才かもしんない」
リオトールが深刻な顔でそうカミングアウトした。
「すげー包帯巻くのうまいんだよね。俺が包帯巻いてやった患者さんめっちゃ傷の治り早い。奇跡かもしんない」
「そうか……奇跡だな」
サフィージャは上の空だった。仕事の都合で明日中に大量の化粧品を作らなきゃいけないのだが、混ぜもの用の蒸留水が少し足りないのだ。
「ばーちゃんたちも大喜び。いやーいいね、人に感謝される仕事ってさ。羊飼いよりずっといいよ」
「そうだな……」
「どうしよう? 俺、そのうちサフィージャさんよりすごい医者になっちゃうかも」
「そうだな……」
油と混合してかさを増すか、あるいはいっそ新商品だと言って油となじませたものと蒸留水に混ぜたものの二つセットで売ってみるか……
「ねえ、サフィージャさんさ、聞いてる?」
「ん? おお。聞いてるぞ」
「じゃあ何の話してたか言ってみて」
えー。めんどくさい絡み方するなこの小僧。
「ほら、あれだろ? こないだ行ったところは楽しかったとか、なんかそんなだろ。うらやましいな、私も行きたいぞ」
「全然聞いてねえじゃん!」
違ったか。
「ええと、じゃあなんだ? 晩飯? 晩飯か? 昨日のごはんはおいしかったとかだろ? いいな。私も食べたかった」
「心にもない上にさっきとあんま変わってない!」
「……すまん、で、何の話だったんだ?」
「はあ!? もういいし! 言う気なくしたし!」
すねてしまった。
「どうせサフィージャさんのことだからまた仕事のこと考えてたんだろ! 俺と一緒にいるのにそれってありえなくない!?」
なぜか怒られている。
お前はめんどくさい彼女か。
しかし彼は王宮に来てまだ日も浅い。知り合いもおらず、土地勘もないから遊びにもいけない。
それで暇を持て余してサフィージャのところに来るというわけである。
子どもの彼にしてみれば身近に頼れる大人が構ってくれないというのは由々しき事態なのだろう。
しかし間が悪い。今日のサフィージャは本気で忙しかった。
「すまんすまん。お詫びにわが拝火教の邪神像をやろう。この子はアジ・ダハーカといってな、三頭六つ目の蛇竜で……」
「いらねーよ!」
なんでだ。男の子はこういうの好きだろ?
ドラゴンだぞドラゴン。
「……おれがいたら迷惑なの?」
しょんぼりと言われてしまって、サフィージャは胸がちくりとした。
押してダメなら引いてみる。
天然でやっているのなら末恐ろしい。
「迷惑ってことはないが……ちょっと時間が押してるんだ。今日中にこれを調合しないといけない。ここにある全部だ」
「おれ手伝おうか? 薬混ぜるのちょーうまいよ。天才だし」
「ほんとか」
試しにすりこぎを使わせてみたら、確かにそこそこ手慣れた様子だった。
薬品に素手で触らないこと、髪をしばってマスクをすることなど、薬を扱う上での基本が注意しなくてもちゃんと分かっている。
「すごいな、天才じゃないか」
「サフィージャさんて言葉に心がこもってないよね……」
「そ、そんなことはないぞ? 今私は本当に感激している。間に合わないかもしれないと焦っていたところなんだ。うまくできたらバイト代をやろう」
「べつにいいよ、そんなの。おれがサフィージャさんの役に立ちたかっただけだし」
サフィージャはちょっと何と答えたらいいのか分からなかった。
この小僧、うざ絡みするくせにちょいちょいかわいいことを言うのである。
ただの嫌味な小僧なら叩き出してやるところなのだが、甘えてこられると弱ってしまう。
「でもさ、なんで化粧品なんか作ってんの? こんなの魔女の仕事じゃなくない?」
「これがな、貴族のご婦人がたによーく売れるんだ。これ一本でなんと銀貨一枚」
「まじで」
「まじだ。百本作れば銀貨百枚だ」
「俺の一年分じゃん! ほっけとか買い放題じゃん!」
「バカを言うな、タラや牛タンだって買い放題だ」
「すっげえ! 魔女ってすっごいね!」
「そうだぞ、魔女はすごいんだ。だから遠慮せずバイト代はもらっておけ。ついでにこのアジ・ダハーカ像も」
「いえ、それはいいです」
なんで敬語なんだ。
男の子なんだから邪神とか好きだろうに、遠慮深いやつだな。
――リオトールの活躍により、化粧品の調合は間に合った。
彼には後日ほっけの干物を樽で買ってやった。たぶん、五十尾ぐらい入ってたと思う。
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