上 下
63 / 115
【ゆるネタ番外編】 魔女の日常

番外編 宮廷魔女の日常 ~王宮に越してきたばかりのリオトール~

しおりを挟む
ゆるい小話
※時系列としては第二部ダイジェストの後日談にあたります

********************************************

 サフィージャの占い部屋にリオトールがやってきた。
 忙しかったので断ろうかとも思ったが、知人の男の子だったので、サフィージャは私室のほうに通して、適当に茶菓子を出しておいた。

「俺さ、天才かもしんない」

 リオトールが深刻な顔でそうカミングアウトした。

「すげー包帯巻くのうまいんだよね。俺が包帯巻いてやった患者さんめっちゃ傷の治り早い。奇跡かもしんない」
「そうか……奇跡だな」

 サフィージャは上の空だった。仕事の都合で明日中に大量の化粧品を作らなきゃいけないのだが、混ぜもの用の蒸留水が少し足りないのだ。

「ばーちゃんたちも大喜び。いやーいいね、人に感謝される仕事ってさ。羊飼いよりずっといいよ」
「そうだな……」
「どうしよう? 俺、そのうちサフィージャさんよりすごい医者になっちゃうかも」
「そうだな……」

 油と混合してかさを増すか、あるいはいっそ新商品だと言って油となじませたものと蒸留水に混ぜたものの二つセットで売ってみるか……

「ねえ、サフィージャさんさ、聞いてる?」
「ん? おお。聞いてるぞ」
「じゃあ何の話してたか言ってみて」

 えー。めんどくさい絡み方するなこの小僧。

「ほら、あれだろ? こないだ行ったところは楽しかったとか、なんかそんなだろ。うらやましいな、私も行きたいぞ」
「全然聞いてねえじゃん!」

 違ったか。

「ええと、じゃあなんだ? 晩飯? 晩飯か? 昨日のごはんはおいしかったとかだろ? いいな。私も食べたかった」
「心にもない上にさっきとあんま変わってない!」
「……すまん、で、何の話だったんだ?」
「はあ!? もういいし! 言う気なくしたし!」

 すねてしまった。

「どうせサフィージャさんのことだからまた仕事のこと考えてたんだろ! 俺と一緒にいるのにそれってありえなくない!?」

 なぜか怒られている。
 お前はめんどくさい彼女か。

 しかし彼は王宮に来てまだ日も浅い。知り合いもおらず、土地勘もないから遊びにもいけない。
 それで暇を持て余してサフィージャのところに来るというわけである。
 子どもの彼にしてみれば身近に頼れる大人が構ってくれないというのは由々しき事態なのだろう。

 しかし間が悪い。今日のサフィージャは本気で忙しかった。

「すまんすまん。お詫びにわが拝火教の邪神像をやろう。この子はアジ・ダハーカといってな、三頭六つ目の蛇竜で……」
「いらねーよ!」

 なんでだ。男の子はこういうの好きだろ?
 ドラゴンだぞドラゴン。

「……おれがいたら迷惑なの?」

 しょんぼりと言われてしまって、サフィージャは胸がちくりとした。
 押してダメなら引いてみる。
 天然でやっているのなら末恐ろしい。

「迷惑ってことはないが……ちょっと時間が押してるんだ。今日中にこれを調合しないといけない。ここにある全部だ」
「おれ手伝おうか? 薬混ぜるのちょーうまいよ。天才だし」
「ほんとか」

 試しにすりこぎを使わせてみたら、確かにそこそこ手慣れた様子だった。
 薬品に素手で触らないこと、髪をしばってマスクをすることなど、薬を扱う上での基本が注意しなくてもちゃんと分かっている。

「すごいな、天才じゃないか」
「サフィージャさんて言葉に心がこもってないよね……」
「そ、そんなことはないぞ? 今私は本当に感激している。間に合わないかもしれないと焦っていたところなんだ。うまくできたらバイト代をやろう」
「べつにいいよ、そんなの。おれがサフィージャさんの役に立ちたかっただけだし」

 サフィージャはちょっと何と答えたらいいのか分からなかった。
 この小僧、うざ絡みするくせにちょいちょいかわいいことを言うのである。
 ただの嫌味な小僧なら叩き出してやるところなのだが、甘えてこられると弱ってしまう。

「でもさ、なんで化粧品なんか作ってんの? こんなの魔女の仕事じゃなくない?」
「これがな、貴族のご婦人がたによーく売れるんだ。これ一本でなんと銀貨一枚」
「まじで」
「まじだ。百本作れば銀貨百枚だ」
「俺の一年分じゃん! ほっけとか買い放題じゃん!」
「バカを言うな、タラや牛タンだって買い放題だ」
「すっげえ! 魔女ってすっごいね!」
「そうだぞ、魔女はすごいんだ。だから遠慮せずバイト代はもらっておけ。ついでにこのアジ・ダハーカ像も」
「いえ、それはいいです」

 なんで敬語なんだ。
 男の子なんだから邪神とか好きだろうに、遠慮深いやつだな。

 ――リオトールの活躍により、化粧品の調合は間に合った。
 彼には後日ほっけの干物を樽で買ってやった。たぶん、五十尾ぐらい入ってたと思う。

 『ほっけはしばらく見たくない』とは彼の談である。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。