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幼少期編
第2話 君が女の子にならないとみんなが困る
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小学校低学年の頃、圭柊は自分の名前を呪っていた。
日本語で読めば男子にもよくある名前だったが、当時世界的ヒットをした映画の女優の名前がケイトだったことで、女の名前だとよくからかわれた。
小学校低学年のときの担任の先生は20代後半の少しぽっちゃりした女性教師だった。
その女性教師は元気な子とはよく話すが、内気な子には目もくれない、そんな女性だった。
出席を読み上げる時に先生の滑舌が悪かったせいで、「岬けいこ」と聞こえた生徒から「今、先生、みさきけいこって言った?」というやりとりは日常茶飯事で、そんな些細なことで教室中が毎回わく。
それから先生もなかばわざと「けいこ」と呼んでウケをねらうことがあった。
その後は決まって、「けいこちゃん」と呼ばれる時間が始まる。
圭柊はうつむきながら、「けいこじゃないもん・・・」と床に声をこぼすことがやっとの抵抗だった。
圭柊の小学校時代の運動会では未だフォークダンスがとりいれられていた。
圭柊のクラスは男子が女子より二名多く、一人が女子役になることで均等になる。
さすがにアンバランスなので、そこは仕方なく、「一人、女子役になってくれない?」と先生が呼びかけると当然、クラス中から「けいこでよくね?」と声があがり、先生も有無も言わさず「岬さん、いい?」と圭柊に笑顔を見せる。
この一部始終も、初めから女の子だったら良かったのにと思わずにはいられない出来事だった。
運動会の練習前に、整列する際、まだ、フォークダンスの練習の段階ではなかったが、「岬さんはもう女子側でいいよ」と言われたときは顔が真っ赤になった。
「もう女子側」ってどういうこと?
まだ、フォークダンスの練習に入っていないのに、整列の段階で女子の列に並ばされたときに初めて起こった感情が「男でいることが恥ずかしい」という感情だった。
フォークダンスの最後のポーズは女子がスカートを持ち上げるカーテシーというポーズで終わる。
当然、運動会で衣装というレベルのものはないのでジェスチャーになるのだが、そのカーテシーのポーズをするときも顔が真っ赤になっていた。
運動会当日、サプライズが起きた。
以前、他のクラスで使っていた文化祭の劇でつかっていたスカートが大量にでてきたのだ。
そのスカートが出てきたときは、女性教師たちが「いいじゃん!かわいい~」と職員室で黄色い声を上げて喜んでいたそうだが、一人、男子で女子役をやっている子が存在することなど誰一人気にもとめていなかったのだろう。
フォークダンスで女子はそのスカートを履いたらどう?という提案が当然のように起こり、すぐに採用になり、運動会当日の朝にサプライズでスカートが配られることになった。
女子児童の机にスカートが配られる、自分には配られるのかドキドキしていたとき、先生がそこでようやく気づいたのだ。
「あ、そうか、岬さん、どうしようか?」
その瞬間、教室中がどっとわいた。
女子たちは、「え?はくの?」と笑いをこらえる子が多く、男子のほとんどが「はーけ、はーけ」と声を上げる。
圭柊は恥ずかしいのと、自分のことを先生たちが誰も気にかけてくれずスカートを履くことが成り行きで決まってしまったことと、残酷な男子生徒の声に心が折れて、机に顔を突っ伏した。
自然にあふれる涙がとめどなく流れる。
女の子だったら良かった・・・
女の子だったら・・・
そういう涙だった。
そんな突っ伏している圭柊に、声こそやさしかったが、先生の耳を疑うような残酷な言葉が聞こえてきた
「ごめんねー、岬さん、今日は女の子になってくれる?」
泣いている圭柊をよそに教室中がその言葉で更にどっとわいた。
先生はそこでようやく児童たちをしかりつけた。
「うーるーさい!岬さんが女の子になってくれないとあなたたちが困るのよ!」
突拍子もない言葉。でも、静まり返る教室。
その一瞬の静寂のせいもあり、先生のその言葉は圭柊の脳裏に深く刻み込まれた。
「岬さんが女の子になってくれないとあなたたちが困る」
僕が女の子にならないとみんなが困る・・・
同級生も、先生も、みんながみんな、圭柊を寄ってたかって女にしていった。
ただ、一つ言えることは、たしかに圭柊自身が女の子であれば、当然スカートを履くことなど、普通にうけいれることができたということは確かだった。
日本語で読めば男子にもよくある名前だったが、当時世界的ヒットをした映画の女優の名前がケイトだったことで、女の名前だとよくからかわれた。
小学校低学年のときの担任の先生は20代後半の少しぽっちゃりした女性教師だった。
その女性教師は元気な子とはよく話すが、内気な子には目もくれない、そんな女性だった。
出席を読み上げる時に先生の滑舌が悪かったせいで、「岬けいこ」と聞こえた生徒から「今、先生、みさきけいこって言った?」というやりとりは日常茶飯事で、そんな些細なことで教室中が毎回わく。
それから先生もなかばわざと「けいこ」と呼んでウケをねらうことがあった。
その後は決まって、「けいこちゃん」と呼ばれる時間が始まる。
圭柊はうつむきながら、「けいこじゃないもん・・・」と床に声をこぼすことがやっとの抵抗だった。
圭柊の小学校時代の運動会では未だフォークダンスがとりいれられていた。
圭柊のクラスは男子が女子より二名多く、一人が女子役になることで均等になる。
さすがにアンバランスなので、そこは仕方なく、「一人、女子役になってくれない?」と先生が呼びかけると当然、クラス中から「けいこでよくね?」と声があがり、先生も有無も言わさず「岬さん、いい?」と圭柊に笑顔を見せる。
この一部始終も、初めから女の子だったら良かったのにと思わずにはいられない出来事だった。
運動会の練習前に、整列する際、まだ、フォークダンスの練習の段階ではなかったが、「岬さんはもう女子側でいいよ」と言われたときは顔が真っ赤になった。
「もう女子側」ってどういうこと?
まだ、フォークダンスの練習に入っていないのに、整列の段階で女子の列に並ばされたときに初めて起こった感情が「男でいることが恥ずかしい」という感情だった。
フォークダンスの最後のポーズは女子がスカートを持ち上げるカーテシーというポーズで終わる。
当然、運動会で衣装というレベルのものはないのでジェスチャーになるのだが、そのカーテシーのポーズをするときも顔が真っ赤になっていた。
運動会当日、サプライズが起きた。
以前、他のクラスで使っていた文化祭の劇でつかっていたスカートが大量にでてきたのだ。
そのスカートが出てきたときは、女性教師たちが「いいじゃん!かわいい~」と職員室で黄色い声を上げて喜んでいたそうだが、一人、男子で女子役をやっている子が存在することなど誰一人気にもとめていなかったのだろう。
フォークダンスで女子はそのスカートを履いたらどう?という提案が当然のように起こり、すぐに採用になり、運動会当日の朝にサプライズでスカートが配られることになった。
女子児童の机にスカートが配られる、自分には配られるのかドキドキしていたとき、先生がそこでようやく気づいたのだ。
「あ、そうか、岬さん、どうしようか?」
その瞬間、教室中がどっとわいた。
女子たちは、「え?はくの?」と笑いをこらえる子が多く、男子のほとんどが「はーけ、はーけ」と声を上げる。
圭柊は恥ずかしいのと、自分のことを先生たちが誰も気にかけてくれずスカートを履くことが成り行きで決まってしまったことと、残酷な男子生徒の声に心が折れて、机に顔を突っ伏した。
自然にあふれる涙がとめどなく流れる。
女の子だったら良かった・・・
女の子だったら・・・
そういう涙だった。
そんな突っ伏している圭柊に、声こそやさしかったが、先生の耳を疑うような残酷な言葉が聞こえてきた
「ごめんねー、岬さん、今日は女の子になってくれる?」
泣いている圭柊をよそに教室中がその言葉で更にどっとわいた。
先生はそこでようやく児童たちをしかりつけた。
「うーるーさい!岬さんが女の子になってくれないとあなたたちが困るのよ!」
突拍子もない言葉。でも、静まり返る教室。
その一瞬の静寂のせいもあり、先生のその言葉は圭柊の脳裏に深く刻み込まれた。
「岬さんが女の子になってくれないとあなたたちが困る」
僕が女の子にならないとみんなが困る・・・
同級生も、先生も、みんながみんな、圭柊を寄ってたかって女にしていった。
ただ、一つ言えることは、たしかに圭柊自身が女の子であれば、当然スカートを履くことなど、普通にうけいれることができたということは確かだった。
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