最強魔導士と禁忌の書(アルトネバン) 〜黒き流星と呼ばれた男、落ちこぼれ転生者を引き取り、最強のパートナーになる〜

かずロー

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服を買いに

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 俺は、天音に案内してもらいながら村の様子を見ていた。

 天音は、軽やかな足取りで歩いていく。
 インベリッテにいた時よりも歩く速さが速いような気がするが。

 インベリッテのように、大勢の人々が行き交うような様子がない。あるのは、畑仕事をしている夫婦と、子供達が遊んでいる姿しか見受けられなかった。

「あ、ここです」

 天音の足がある店の前に止まる。
 小さな服屋だが、外見は気を遣っているのだろう。とても綺麗だった。

 中に入ると、メガネをかけた女性が出てきた。おそらく店主だろう。

「あら、見ない顔だね。新しい住人かい?」
 
 女性店主が尋ねてくる。

「あぁ、今日からこの村に引っ越してきてな。服がないので買いに来たんだ」

「そうなのね。私はルミナっていうの。よろしくね」

「ジン・クルシュガーツだ。よろしく」

「鈴ノ木天音です」

 簡単に自己紹介を済ませる。

「小さな店だけど、まぁ見ていって。私は奥で少し仕事しているから、なんかあったら呼んで」

 ルミナは奥の部屋へと入っていく。

「それじゃ、見ていきましょうか」

「あぁ」

 俺達は、店の中を見て回る。
 中は質素だが、しっかり清掃されている。
 スタンドに何着もの服が掛かっており、すぐ近くには鏡が置いてある。

「これなんてどうでしょう?」

 天音が水色ののワンピースを手に取る。ワンピースに白色のドット柄が描かれており、爽やかな印象を与える。

「一回着てみればいい。あそこに試着室があるから」

「そうですね。少し行ってきます」

 天音は水色のワンピースを持ち、試着室へと向かい、カーテンレールを閉める。

 三分後ーー

 シャーっとカーテンレールの音がした。

「……どうですか?」

 天音が恥ずかしそうに聞く。

「とてもよく似合っているぞ」

「そうですか?えへへ」

 嬉しそうにはにかんだ。
 モモから貰った桃色のワンピースも似合っていたが、水色の方が天音には似合っている。
 天音の透き通るような色白の肌が水色のワンピースを引き立てているような気がする。

「それじゃあそれを買うか」

「はい、あ……」
 
 何かを思い出したかのように声を漏らす

「私、お金持っていないです」

 なんだ、そんなことか。

「安心しろ。それぐらい俺が出す」

「……いいんですか?」

「あぁ、これは天音へのプレゼントだ」

「ありがとうございます」
 
 天音は満面の笑みを浮かべた。

「ジンさんも何か欲しいものはないんですか?」

「いや、特にはないな」

 休みの日はいつも上下黒の服に、黒か白色のジャケットで過ごしていたからな。これ以上、特に着たい服っていうのもない。

「そうですか。だったら着てみて欲しい服があるんですけど」

 案内されるままに俺は天音の後ろを歩く。

「これです」

 天音が手にしたのは、灰色のシャツと、紺色のパーカーだ。

「ジンさんにすごい似合うと思うんです」

 そこまで言われれば、着ないわけにはいかないだろう。

「試着してくる」

 俺は試着室へと向かい、渡された服を試着する。そういえば、誰かに服を選んでもらうというのは初めてかもしれないな。
 試着を済ませ、天音に見せる。

「とっても似合っています!ジンさんはやっぱり寒色系の服が似合いますね!カッコいいです!」

 珍しく天音が興奮気味の様子だった。
 女性はファッションが好きだとは聞いていたがここまでとはな。

「カッコいいか?」

「はい!とっても!」

 こうやってカッコいいと言われるのも悪くないな。

「じゃあ、これも買うか。せっかく天音が選んでくれた服だしな」

 俺と天音はそれぞれ購入する服を持った。

「すまない。服を買いたいんだが」

 奥の部屋からルミナが出てきた。

「ありがとうね。良ければまた来てね。可愛いお嬢さんもいることなんだし。材料さえあればオーダーメイドもできるからね」

「オーダーメイド……」

 天音が言葉を漏らす。

 自分好みの服を作れるらしい。服好きな天音にとっては嬉しいことなのだろうな。

 俺はルミナに金を渡して店を後にする。

「おお、ジンに天音よ。二人でデート中かの?」

 外に出ると、ビジャがいた。

「服を買いにな。あんたは何をしているんだ?」

 どこかへ行ったと思えば服屋の目の前にいる。村長はやることがないのか。

「ただの散歩じゃよ」

 やることはないんだな。
 
「ちょうどいい。少し聞きたいことがあるんだ」

「ふむ、良いじゃろう。では、あそこの小さな広場でどうじゃ?」

 ビジャが指差す方向には、子供達が楽しく遊んでいる。

「あぁ、問題ない。天音も来るか?」

「はい。特にやりたいこともないですし」

 荷物を持っているが、そこまで長話をするつもりはない。そこまで邪魔にはならないだろう。

「では、向かおうか」

 俺達は話をするため、広場へと向かった。
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