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初めての村と村長

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 ≪静寂の森≫を歩き続けていると、陽光がさしていた。森の中は光が遮断されているので、おそらく出口だろう。

「着いたか」

 そこは、インベリッテ王国とは真逆。
 自然に囲まれた村落であった。

「空気が美味しいです」

 天音が空気を味わうかのように深呼吸をしていた。

「身体が軽くなった感じませんか?」

「そうか?」

 特にそんな感じはしないが。
 まぁ、天音の勘違いだろう。
 
 辺りを見渡すが、家や宿などの最低限の建物以外の建築物は見当たらない。
 インベリッテは発展こそしていたが、人が多く行き交うので常に騒がしかった。しかしこの村ではそのような騒音は一切ない。

「すごいのどかな村ですね!私の故郷もあまりビルとか無くて、自然に囲まれているようなところだったので、王国よりここの方が落ち着きます!」

「そうなのか」

 天音の場合は、≪転生(アステル)≫の事もあったからな。ここなら、そんな噂も広まっている事もないだろう。

「ところで、ヒルデさんが言ってた家ってどこにあるんでしょうか?」

「確か、ベージュの屋根が目印だと言っていたな」

 俺と天音はその目印を頼りに村を歩いて行く。
 途中、村の住人ともすれ違ったのだが、何やらピリピリとした雰囲気を醸し出していた。それに、ジロジロと視線を感じる。
 
「あっ」

 天音が指す方向に、ベージュの屋根の家があった。その家の前には、鍵を持った大柄な老人が立っている。

「すまない。ヒルデに紹介されて来たんだが」
 
 俺は大柄な老人を見上げる。
 巨躯な体格の持ち主だな。鍛え上げられた肉体に潔く生やした豪快な白髭。子供だったらこの男の雰囲気を前にして泣いてしまうかもしれないな。

「お前さんはヒルデが言ってた男かのー?」

 ギロリと俺の事を見下ろしながら睨みつけてくる。
 隣にいた天音はビクッと身体を震わせる。

「そうだ」

 俺も男を睨み返す。

「本当かのー?」

「そうだと言っている」

 中々信用しないな。ヒルデのやつ、本当に話をつけてくれたのか?話している感じだと、俺が魔導師団に所属していたことを知らないようだ。

「それじゃあ、今から儂が出す質問には答えられるんじゃよな?」

「質問?」

「何、お前さんの周りにいる身近な人間の質問じゃ。本物のお前さんなら答えられるじゃろ?」

 質問に答えないと鍵は貰えないということか。

「分かった」

「質問は全部で三つじゃ。それではまず一つ目の質問。ヒルデの歳はいくつじゃ?」

 予想外の質問が飛んできた。

「……二◯五だ」

 俺はほんの少し戸惑いつつも質問に応える。

「正解じゃ。それでは二つ目の質問。ヒルデの好きなおやつはなんじゃ?」

「きな粉餅」

 特務室でよく食べていたからな。
 なんでもお気に入りの店のやつらしいがそれが売り切れている時は機嫌が物凄く悪くなる。
 それにしても、ヒルデの質問ばかりだな。

「正解じゃ。それでは最後の質問。ヒルデに彼氏が出来ない理由はなんじゃ?」

 簡単な質問だな。

「ヒルデは美人だ。言い寄ってくる男も多いだろう。だがしかし、性格が男勝りというか、女性らしくない。そして何より言葉遣いが荒い。そのギャップのせいもあって、彼氏が出来ないのだろう」

 前にモモから聞いた話なんだが、ヒルデに言い寄ってくる男達の系統は、全てアレスのような連中らしい。ヒルデは、チャラチャラしたような人間は嫌いな部類らしく、本人は真面目で誠実な男性とお付き合いをしたいと言ってたらしい。

 しかし、真面目な男性達はヒルデには寄ってこない。大人の女性の雰囲気を存分に醸し出しているせいで、近寄り難いのだろう。
 男運のなさもあるのだろうな。

「うむ、正解じゃ。ヒルデには早くいい人を見つけて欲しいのじゃが、中々見つからなくての。儂も気にしているのじゃ」

 本人が一番気にしているのではないだろうか。昔からと言ってたので、この老人も小さい時からヒルデをよく見ていたのだろう。
 もう少し、柔らかい雰囲気を出せるようになれば変わってくるのかもしれないな。

 
「お前さんはヒルデの事をよく知っておった。
ほれ、この家の鍵じゃ」

 差し出された鍵を俺は掴む。
 
「嬢ちゃんも怖がらせてすまんかったな。許してくれい」

 老人は頭を下げる。

「い、いえ。気になさないでください」

 天音は手と首を横に振る。

「あ、ビジャおじちゃん!」

 黒髪の少年がビジャの元へ駆け寄って行く。
 

「おぉ、アテンか。今日も元気じゃの」

 ビジャは少年の頭をクシャクシャと撫でる。

「この人達誰?」

 少年が俺達に指さした。

「今日からこの村に住む人達だよ」

「ふーん」

 俺達には興味がなかったのか、少年は何処かへと走り去って行く。

「すまんのぉ。あの子は少し恥ずかしがり屋なんじゃ」

「気にしてはいない。あれぐらいの子なら初めて会う人間にはこれぐらいの反応さ。これからゆっくりと仲良くなっていくつもりだ」

「そうじゃの。儂の名はビジャ。このカジル村の村長をやっておる。ちなみにこの村は、精霊が住み着いている村とも呼ばれておるのじゃ、お主はジン。そっちの嬢ちゃんは天音……だったか。お主らを歓迎しよう。もし、なんかあれば儂に相談するといい」

 そう言ってビジャも何処かへと去っていく。

「とても優しそうなお爺さんで安心しました」

 天音はホッとしたように言う。

「鍵も貰ったことですし、早速家の中を見てみませんか?」

「そうだな」

 俺は、貰った鍵をドアの鍵穴に差し込む。
 ガチャン!っという音を立て、俺はドアに触れる。

 ドアを開くと新築特有の匂いがした。
 当然ながら、家具もまだ満足に揃えていないためガランといている部屋だ。しかし、埃は一切なく、日頃から手入れさせていたというのが分かる。
 ビジャの気遣いなのだろうか。窓には緑色のカーテンが張ってあり、窓から差し込む太陽の光を遮断していた。

「んー。とても綺麗なんですけど、ちょっと広すぎじゃありませんか?」

「そうだな。二人で過ごすには広いな」

 途端に、天音の顔が火が付いたかのように赤く染まる。

「そうか……これから二人で過ごしますもんね」

 天音がモジモジと小さな声で呟く。

「天音、どこか行きたいところはあるか?せっかくだ。この村を散策しようと思っているんだが」

「それなら、この家を探し回っていた時、服屋を見つけたんです。ちょっと行ってみたいんですけど」

 天音はモモから貰った服以外は持っていない。女の子なのだからもっと可愛らしい服装も欲しいのだろう。

「なら、そこに行くか」

「はい」

 俺達は服屋に向けて歩きだした。
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