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宣言
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どれくらいだろうか?
三◯分。もしかしたら一時間くらい経過していたのかもしれない。
「泣いて少しは気持ちが楽になったか?」
「……スー……」
「すー?」
予想外の返答だ。
俺は抱きかかえていた天音を見つめる。
「スー……スー……」
眠っていたのだ。規則正しい寝息を立てており、起きる様子はない。
泣きつかれたのだろうか。
いや、それだけではない。
今日一日、いろんなことが起こりすぎて常に気を張りっぱなしでいただろうが、泣いたことで緊張の糸が切れたのだろう。
俺は天音を優しく抱き抱える。
この場所はベットも布団もない。
こんなところで寝かせては風邪をひかせてしまうからな。
俺は器用にドアを開ける。
「あっ!戻ってきた!」
真っ先にモモが軽やかな足取りで俺の方へと歩いてくる。
「天音ちゃん。寝ちゃった?」
「あぁ」
「ふふ、寝顔が可愛い。やっぱり十四歳だね。」
モモが天音の髪を優しく撫でる。
「ジンには心を開いたんだね。私達はいくら時間をかけても心を開かなかったのにさ」
ヒルデが首を傾げた。
「確かに。眼すら合わせてくれなかったですもんね。ここに来た時も、ジンのローブを持ってましたから。何故ジンには心を開いたんでしょう?」
カンナも納得がいかない様子だった。
「ジンがカッコつけて助けに入って行ったんですよ!最初はいくら言っても、『俺達の任務外だ』とか聞く耳持たなかったくせに!」
アレスが大声で喚く。
「アレス、少し黙れ」
「あ、悪い……」
俺にお姫様抱っこされながら寝ている天音を見て慌てて口を閉じる。
「……っておぉい!何お姫様抱っことかしちゃってんだよ!俺が言ってなかったらお前動く気なかっただろ!本来の目的だったらジンじゃなくて俺が助けに入る予定だったのに!そうしたら今頃……」
今度は小声で俺達に言う。
「今頃……?なんですか?言ってみてくださいよー?」
モモがアレスに冷たい声で問いかける。
表情は笑ってはいない。
「い……いや。なんでもないよ……」
目が泳いでいるぞ。
「もしかして俺が助けに行ったら今頃、ジン君みたい天音ちゃんと仲良くなってウフフみたいなことできたのに!とか思ってるんじゃないんですかー?」
モモの指摘にアレスはビクッと身体を震わせる。
「ま、まさか!そんなこと考えてるわけないじゃないか!アハハハハハ!」
「考えていたんですね……」
笑って誤魔化そうとするアレスを見て、モモは深刻そうに頭を抱えた。
「考えがクズだね」
「えぇ、全くです」
女性陣からまたも辛辣な言葉が飛ぶ。
「はいはい、お喋りはここまでだ」
ナインが手を打ち鳴らす。
「とりあえず、天音君を部屋から出せたのは良い。
だが、問題は天音君をどうするか、だ」
「はいはーい!だったら私と一緒に暮らすってのはどうですか!?それなら女同士で問題ないですよね!?」
モモが手を挙げ、嬉しそうに言う。
「モモ。天音ちゃんはまだお前に心を開いていないだろう」
ヒルデの正確な指摘にモモはぐうの音も出さないでいた。
「そう。天音君はインベリッテにいる全ての人間に恐怖心を持っている。ジン以外にな。だからといってジンに全てを任せるというのも気が引ける。ジンはもう≪零≫の一員ではなく、一般民となるのだ。迷惑はかけられない。それにいきなり十四の女の子と一緒に暮らすというのも大変だろう」
「ジンなら大丈夫なんじゃないですか?ジンって家事も完璧にこなしますし。前だってジンの作ってくれた肉野菜炒め食べましたけど凄く美味しかったですよ。ジン、また作ってくださいね」
カンナが小さくウインクする。
「あぁ、いいぞ」
自分の作った料理を美味いと言ってもらえるのは結構嬉しいものだな。
「えぇー!私も食べたーい!」
「私も食べたいわ」
「ジン!今度俺にも……」
「おーい。話を逸らさなーい」
ナインが再び手を打ち鳴らす。
「まぁ、ジンが家事をできるって言うのは分かった。それでもやはりな……」
ナインは溜息をつく。
「ナイン。あんたは心配しすぎなんだよ。少しはジンのことも信用してあげな。天音ちゃんだって、ジンには心を開いているんだし問題ないんじゃないのかい?」
ヒルデが言う。
「むー。確かにジン君なら信用できる。アレス君だったら死んでも反対していたけど」
「そこ俺出す必要あった?」
アレスがモモに抗議する。
しかし、モモは聞く耳がないようだ。
「ジン」
ナインが俺の名を呼ぶ。
「後は天音君次第だが、もう一度聞く。お前はどうなんだ?」
そんなもの言われなくても決まっている。
「俺が天音の居場所になる」
俺は、そう宣言した。
三◯分。もしかしたら一時間くらい経過していたのかもしれない。
「泣いて少しは気持ちが楽になったか?」
「……スー……」
「すー?」
予想外の返答だ。
俺は抱きかかえていた天音を見つめる。
「スー……スー……」
眠っていたのだ。規則正しい寝息を立てており、起きる様子はない。
泣きつかれたのだろうか。
いや、それだけではない。
今日一日、いろんなことが起こりすぎて常に気を張りっぱなしでいただろうが、泣いたことで緊張の糸が切れたのだろう。
俺は天音を優しく抱き抱える。
この場所はベットも布団もない。
こんなところで寝かせては風邪をひかせてしまうからな。
俺は器用にドアを開ける。
「あっ!戻ってきた!」
真っ先にモモが軽やかな足取りで俺の方へと歩いてくる。
「天音ちゃん。寝ちゃった?」
「あぁ」
「ふふ、寝顔が可愛い。やっぱり十四歳だね。」
モモが天音の髪を優しく撫でる。
「ジンには心を開いたんだね。私達はいくら時間をかけても心を開かなかったのにさ」
ヒルデが首を傾げた。
「確かに。眼すら合わせてくれなかったですもんね。ここに来た時も、ジンのローブを持ってましたから。何故ジンには心を開いたんでしょう?」
カンナも納得がいかない様子だった。
「ジンがカッコつけて助けに入って行ったんですよ!最初はいくら言っても、『俺達の任務外だ』とか聞く耳持たなかったくせに!」
アレスが大声で喚く。
「アレス、少し黙れ」
「あ、悪い……」
俺にお姫様抱っこされながら寝ている天音を見て慌てて口を閉じる。
「……っておぉい!何お姫様抱っことかしちゃってんだよ!俺が言ってなかったらお前動く気なかっただろ!本来の目的だったらジンじゃなくて俺が助けに入る予定だったのに!そうしたら今頃……」
今度は小声で俺達に言う。
「今頃……?なんですか?言ってみてくださいよー?」
モモがアレスに冷たい声で問いかける。
表情は笑ってはいない。
「い……いや。なんでもないよ……」
目が泳いでいるぞ。
「もしかして俺が助けに行ったら今頃、ジン君みたい天音ちゃんと仲良くなってウフフみたいなことできたのに!とか思ってるんじゃないんですかー?」
モモの指摘にアレスはビクッと身体を震わせる。
「ま、まさか!そんなこと考えてるわけないじゃないか!アハハハハハ!」
「考えていたんですね……」
笑って誤魔化そうとするアレスを見て、モモは深刻そうに頭を抱えた。
「考えがクズだね」
「えぇ、全くです」
女性陣からまたも辛辣な言葉が飛ぶ。
「はいはい、お喋りはここまでだ」
ナインが手を打ち鳴らす。
「とりあえず、天音君を部屋から出せたのは良い。
だが、問題は天音君をどうするか、だ」
「はいはーい!だったら私と一緒に暮らすってのはどうですか!?それなら女同士で問題ないですよね!?」
モモが手を挙げ、嬉しそうに言う。
「モモ。天音ちゃんはまだお前に心を開いていないだろう」
ヒルデの正確な指摘にモモはぐうの音も出さないでいた。
「そう。天音君はインベリッテにいる全ての人間に恐怖心を持っている。ジン以外にな。だからといってジンに全てを任せるというのも気が引ける。ジンはもう≪零≫の一員ではなく、一般民となるのだ。迷惑はかけられない。それにいきなり十四の女の子と一緒に暮らすというのも大変だろう」
「ジンなら大丈夫なんじゃないですか?ジンって家事も完璧にこなしますし。前だってジンの作ってくれた肉野菜炒め食べましたけど凄く美味しかったですよ。ジン、また作ってくださいね」
カンナが小さくウインクする。
「あぁ、いいぞ」
自分の作った料理を美味いと言ってもらえるのは結構嬉しいものだな。
「えぇー!私も食べたーい!」
「私も食べたいわ」
「ジン!今度俺にも……」
「おーい。話を逸らさなーい」
ナインが再び手を打ち鳴らす。
「まぁ、ジンが家事をできるって言うのは分かった。それでもやはりな……」
ナインは溜息をつく。
「ナイン。あんたは心配しすぎなんだよ。少しはジンのことも信用してあげな。天音ちゃんだって、ジンには心を開いているんだし問題ないんじゃないのかい?」
ヒルデが言う。
「むー。確かにジン君なら信用できる。アレス君だったら死んでも反対していたけど」
「そこ俺出す必要あった?」
アレスがモモに抗議する。
しかし、モモは聞く耳がないようだ。
「ジン」
ナインが俺の名を呼ぶ。
「後は天音君次第だが、もう一度聞く。お前はどうなんだ?」
そんなもの言われなくても決まっている。
「俺が天音の居場所になる」
俺は、そう宣言した。
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