上 下
6 / 15

≪零≫の美女達

しおりを挟む
 インベリッテ宮殿魔導師団≪零≫特務室ーー

 インベリッテ王国の東に位置している巨大な建物は宮殿魔導師団≪零≫の本部である。

 俺達は建物の中へと入っていく。  

「あの少女を様子はどうだ?少しは落ち着いたのか?」

 ナインは首を横に振る。

「いや、お前達の所へ向かう前に少女の様子を見てきたが様子は変わらずだ。泣き止んではいたが、身体の震えは未だに止まらずお前のローブも肌身離さず持っている」

「……そうか」

「あれは中々どうして忘れる事はできないだろう」

 かなり状況は深刻のようだ。
 ≪零≫の連中は上手くやっているのだろうか。

 特務室は三階に位置している。一階には食堂や、リラックスルーム。二階にはトレーニングルームがある。

本部から少し離れた場所には体育館もあり、実践形式で戦ったりすることもできる。体育館は頑丈、完全防音の為、人々に迷惑を与えることもない。

 ナインは、特務室のドアを開く。

「あっ!隊長!お疲れ様でーす!」

「おつー」

「お疲れ様です」

 そこには三人の美女と少女の姿があった。

「ジン君!今日は凄く大変だったみたいだね!肩でも揉んであげようか?」

 桃色の瞳に桃色の髪を腰あたりにまで伸ばし、笑顔で接してくる女性。名をモモ・シャーロットという。年齢は二十◯と俺の次に若い。童顔で可愛らしく背もそこまで大きくないのだが、二つの膨らみはとてつもない破壊力を持っている。

「いらん」

「ええー!」

「モモちゃん!代わりの俺の肩を……」

「イヤです!」

 アレスが頼むが、モモは即刻で断った。

「まったく。騒がしいわね」

 スラっとした体型に、モモとアレスのやりとりをうるさそうにして見ている女性。名をヒルデ・カートラーと言う。長い黒髪をお団子ヘアーにしている。彼女が言うのは、任務の上で邪魔だからそうだ。年齢は二◯五と≪零≫の中では上だ。しかし、美しさを歳を重ねる毎に磨かれていっている。

「とりあえず三人とも。座っていてください。今お茶を入れてきますから」

 茶色のツインテールの女性が柔和な笑みを浮かべながらお茶を淹れている。名をカンナ・イグネスタと言う。年齢は二◯二と≪零≫の中では平均的な年齢だ。所作がとても美しく、お茶を淹れている姿もとてもよく似合う。

 アレスはその姿を見てニヤニヤしている。

「はい、どうぞ」

 カンナは俺達の前にお茶を置く。

「うん。やっぱりカンナが淹れたお茶は美味いな」

 ナインがカンナを褒める。

「ありがとうございます」

 カンナは柔らかく微笑む。
 その姿を見て、アレスはニヤニヤしている。

「顔、ニヤついてるぞ」

 そう言って、俺はお茶を喫する。
 うむ、美味い。

「だってよー。≪零≫の部隊には可愛い女の子が三人もいるんだぜ!目の保養になるし、ニヤニヤしない方がおかしいだろ!」

「キモいです」

「死ね」

「はっきり言って迷惑です」

 三人の女性の口から辛辣な言葉が飛ぶ。

「……ひどい……」

 アレスは落ち込んではいるが、明日になれば忘れている。切り替えの速さだけは俺でも敵わん。

「……それで……あの少女の様子はどうだ?先程と変わらんか?」

 お茶を飲み終えたナインが言う。

「はい、お茶やお菓子を差し上げてはいるんですが口にはせず、ずっと奥の部屋で引きこもっています」

 モモは奥の扉を指さす。

 あの部屋は、一人になりたいときにはうってつけの部屋だ。部屋には何もなく、窓から見える雄大な町の景色が見えるのだが、日も沈んでいるので景色はほとんど見えないだろう。少女にとってはインベリッテの景色すら見たくないかもしれないだろうから今はそれでいいのかもしれない。

「あの子、今のままで大丈夫なのかい?私達とだって会話を避けていたじゃないか」

「今、殆どの人間が敵に見えているのだろう。自分が失敗作と言われるのが怖くて仕方がないんだ」

「だから、それはクソ魔導師達のクソみたいな魔法のせいだろ?あの子は何にも悪くはないじゃないか」

「人間の心は脆い。傷ついた心はそう簡単に癒えはしないんだよ」

「……そうだな」

 ナインの言葉に俺は納得した。
 俺だってそうだったのだから。

「だから今は、そっとしてあげるのが一番なのかもしれないな」

「いや、それじゃあ駄目だ」

 俺の一声に≪零≫の皆が驚きの表情を浮かべた。
 なんだ?俺が何か言ってはいけないのか?
 まぁ、いい。

「そっとしたところで本人の心は癒されない。ただ時間だけが過ぎていく。誰かが手を差し伸べてあげないといけないんだ」

 落ち込んでいる時、悩んでいる時、時間の経過とともにそれはどんどん重く積み重なっていく。
 
 それを誰かが助けてやらねばいけないのだ。

「でも……どうするんだよ?」

 アレスが首を傾げる。

「本人と話すしかないだろう」

 俺は立ち上がる。

「ちょっと待ってよ!」

 モモが俺を制する。

「あの子は今、精神的に不安定な状態なの!今ジン君が言ったところでむしろ悪い方向にしか行かないよ!時間をかけてゆっくりと向き合っていくべきだよ!」

 確かに言っていることは正しい。
 時間をかけることも大切だとは思っている。

「時間をかけてって……いつまでだ?半月か?一ヶ月か?半年か?それとも一年か?」

「それは……」

 モモは口籠る。

「時間をかけたら元気になる保証はない。もしかしたら、このまま一生あの状態かもしれない。いつかじゃない。今助けないといけないんだ」

 俺はモモを横を通り抜け、少女のいる部屋へと向かう。

「変わりましたね。ジンは」

「そうだな。あの子を失ってからだな……」

 カンナとナインが話しているのが微かではあったが聞こえていた。

 変わったか……。自分ではそうは思わないが。
 だが、前よりほんの少しだけ……

 自分が守ろうと決めたものは死んでも守る。

 その想いが強くなっただけだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

処理中です...