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アンネリーゼ

オードバルのお家事情

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 「国王の四人の子は全員腹違いだし王妃が生んだのは王太子一人だ。第二王子の母親は王妃の侍女で王子を生んだ後に毒を盛られ暗殺されている。表向きには産後の回復が思わしくなかったのが原因とされてはいるけれどね。次に生まれた王女を生んだのは家臣の妻」
 「まさかそれ……おもてなしの一つってこと?」

 アルブレヒト様は返信の代わりに険しい顔でカップの紅茶を煽る。江戸時代にはそれが最高の接待だったと聞いたことはあるけれど、ここでもそんな女性の人権蹂躙がまかり通っているなんて。あまりにも不愉快過ぎて皮膚にアブクが出てきそうで私はブルッと震えた。

 「お陰で家臣は大出世を果たしたが幸せになれたかは疑問だな。相当お気に召したのか国王は家臣の妻を手放さなさず城に留め彼女は王妃の嫌がらせに悩み薬に溺れた。結局は夫の元に帰ることも叶わぬままバルコニーから転落して亡くなった。真相はわからないけれどね」
 「わからないって言いながらアルブレヒト様の口振りは何かを確信しているとしか思えないわね」

 アルブレヒト様はおやおやと言うように眉毛を持ち上げた。

 「さあどうだろうな?でもそれで慌てたのが家臣の妻が身の回りの世話をさせるために領地から連れてきていた一人のメイドだ。事故の後直ぐに逃げるように領地に帰りしばらくして子どもを生んだ」
 「他にも手を出していたの?アシュール王に負けず劣らずの節操無しじゃないの!」
 「そうらしいね。11年が経ち王妃が亡くなるとメイドは女の子を連れて城に戻った。もう危険はないと踏んだんだろうな。あなた様の子ですと言われた国王は煩わしそうな素振りを見せて相手にしていなかったんだが丁度その頃第一王女が庭園の池に落ちて亡くなってね。女の子は第一王女の代わりに将来の使える駒として引き取られる事になった。それが例の王女様。そして……」

 アルブレヒト様は中腰になって私の耳に口を近付け囁いた。

 「池に浮いている第一王女を見つけたのもエレナだ」
 「エレナ様が、まだ子どものエレナ様がやったって言うの?!」

 私の口に皿の上のベーコンが手荒く押し込まれた。

 「わかっているのは第一王女に一緒に遊ぼうと誘ったのはエレナだってこと。庭園に出るといきなり第一王女の手を引いてチョロチョロ走り出した。生け垣が死角になって護衛は姿を見失った。そうしたらエレナが血相変えて戻って来たってのが事故の顛末だ」

 小声で一気に話しアルブレヒト様は腰を下ろし私は顔をしかめながら口の中のベーコンを咀嚼し無理に飲み込む。言いたいことも全部一緒に。

 「…………話を戻すけれど、政略結婚の話が出ているのにエレナ様はどうしてファルシアに居るのかしら?しかも滞在を勧めたのは国王陛下なのよ?お前のような男に娘はやらないという意思表示なの?」
 「オードバル王にとってエレナは単なる駒の一つだ。娘だなんて思っていない。相手が孫のいるじいさんだって何とも思ってやしないだろうな」
 「だったら尚更おかしくない?これがアシュール王の耳に入ったら……」
 「面白い話ではないだろうな」
 「それにエレナ様はどうなんだろう………」

 あの人は不本意な結婚を王女の努めと割り切って受け入れているのだろうか?

 気の進まない結婚の前に羽目を外す為に来た?だったらこういう事情だから多目に見て欲しいと誰かがわたしに耳打ちしたのではないかな?リードと恋愛関係だからってやりたい放題にも限度ってものが有るだろう。わたしはこの大切な時期に衰弱するまで追い詰められたのだ。

 結局謎が深まるばかりで胸に広がった靄は晴れることなく私達は食事を終えた。


 


 

 
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