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おやゆび姫

突撃

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 「やっぱりここに居たのね!」

 乗っ取られた菓子店の裏庭はイートインできるカフェスペースになっている。店を手に入れたくせにルキアは大した仕事もせずにここで昼寝ばかりしている。だからあれ以来店はどんどん傾いてそれがデボラさんをより一層苦しめていたのだ。

 案の定、今日もルキアはベンチで爆睡中。惰眠を貪る以外の適当な言葉がない男だね。デボラさんの声にモソモソ動きぼんやりとこっちを見ている。それから大アクビに続いてのノビに私はイライラを募らせた。

 目を閉じて秘密箱にスポットライトを当てる。手に取った秘密箱を特に意味はないけれどやってやるぞの気合いを込めて「ル・キ・ア」と言いながら3回左に回した。そして自分に向いた側面をスッと動かすと……

 私の額から浮かび上がった光の玉がヒュンと風切り音を上げて飛び出し、ルキアが枕にしていたクッションにぶち当たる。光は激しい火花を放ってクッションを吹き飛ばした。

 デボラさんのお家の庭でテストしてみたのだけれど、私の苛立ちが大きいと威力の大きな光が現れるのだ。このサイズにも関わらず夢の中の私の部屋にいた時よりもずっとずっと攻撃力が高い光が。

 後頭部をベンチに打ち付けたルキアは『いってー』とぼやきながら起き上がりデボラさんに気が付いた。

 「デボラ……何しに来た?」
 「私、魔女から麦を買ったのよ」
 「麦ぃ?」

 デボラさんは面倒臭そうにポリポリと頭を掻いているルキアに向かって硝子の宝石箱を差し出した。

 「そう、私を陥れた悪い人達に仕返しをする為にね。麦はみるみる育ってチューリップの蕾を付け、そこに私の救世主が鎮座しておられたわ」
 「お前、何意味わからんことを言ってるんだ?俺には下らない話をしている暇なんかないんだ。とっとと帰れよ!」

 ふーん、居眠りする暇はたっぷりあるくせに。しゃがんで隠れていた私は立ち上がり秘密箱をスライドする。光はテーブルの上に置かれたワインの瓶に命中し中のワインもろとも粉々に砕け散った。足元に飛んだワインの飛沫と瓶の破片を見てルキアの顔色が一気に青くなっていくのが見えた。

 「……な、なんだよ!なんなんだ、その箱は?」
 「黙りなさい。救世主様の御前であるぞ!」
 
 デボラさんたら女優だわね!この神官のような厳かで威圧的な声にルキアが怯んでいる。というかあっさりとビビっている。ちょろい、ちょろ過ぎる。想像を絶するちょろさだ。それではわたくしも便乗して一芝居打たせて頂きましょうぞ!

 ルキアからも見えやすいように宝石箱の指輪差しに飛び乗った私はかる~く眉間を顰めて額を光らせた。キラキラのドレスを纏った光輝くおやゆびサイズの小人を目にしたルキアはベンチにへばりつくようにドン引いている。

 あれ?もう?

 ここでワンクッション『人形なんて出してなんのつもりだ!』とか何とかあるかと思いきやルキアってどこまでちょろいのよ?

 だからって手加減はしてやらない。粛々と作戦を遂行するのみ!

 「我はメシア。我の愛し子を苦しめたのはお前か?」

 適当かどうかは知らないがそれっぽいので拝借してみたメシアという呼称だけど、ルキアはそれだけであんぐり開けた口をあぐあぐと震わせている。

 そしてごくんと喉を鳴らし、悪さはするけれど小者っていうタイプのご多分に漏れず首を激しく振りながら『違う、違います!』と情けなーい声を上げた。ついでに目には涙も浮かべている。

 バカですよね?『そっかー』なんて見逃して貰えると思うの?

 私が放ったその苛立ちはルキアの鼻に命中しパチンと火花が飛び散る。でもね、イラッときた程度の光だから輪ゴムでパチンの痛みなんだ。なのにルキアはベンチから転げ落ち銃弾を受けたレベルの苦しみようで悶絶している。鼻血タラーンすら出ていないのに。

 「再度聞く。我の愛し子を苦しめたのはお前か?」
 「ち、ち、違います、違うんです!命令、そう、されたんです!!俺はそれに従っただけで……」

 ヒュン!

 光はルキアの後ろの木の枝に当たり、騒がしい音と共に枝が落ちてきた。外したんじゃ無いのよ。狙ったコース通りちゃんと飛ばして、ルキアの頭頂部を掠めてお侍さんぽくチリチリにしてやったんだから。

 「お前だな?お前とお前の妻なのだな?」

 何時までもしらばっくれてると益々苛つくわよ!と内心思いつつ追求したら、ルキアは床に這いつくばるように土下座して『ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!』と繰り返しながら泣いている。だけどまだまだ足りないよ?デボラさんがどれだけ傷付いてどんなに絶望したと思ってるのさ!

 ヒュン!

 今度の光も狙い通り土下座して重ねている両手の指先スレッスレに的中。『おわぁ!』と叫んで飛び退いただルキアは背中をベンチに強打して悶絶中だ。いいですか?メシア様の中の人は記憶の上ではつい最近温泉街の射的場で憂さ晴らしに射的をしまくったばかりなのよ?あのコントロールができているんだかどうなんだか不明な射的銃で片っ端から撃ち落としてきたんだから!それに比べたらこの光なんて戦闘機でミサイルロックオンした位の命中精度が出せますのよ?

 「悔い改めよ!」

 ヒュン!

 今度のは尻餅ついたまま動けないルキアのオマタのぎりの床に直径30㎝の大穴。ルキアくん、『いーっ!』という奇声を上げたっきり声も出せずに震えている。

 さぁ、お次はどう料理してやりましょうか?

 
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