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おやゆび姫

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 「奥さんにね、このことを公表されたくないなら慰謝料代わりにこの店を寄越せって言われたの。私、ルキアに騙されていたショックと不倫をしてしまっていたっていう事実で混乱していて……その上これが世間に知れたらこの店の名前にも傷が付くんだぞって脅されてもうどうして良いかわからなくなって……それで……言われた通りに店を明け渡してしまったのよ」

 つまりは美人局だね。男だけど。

 ここはデボラさんのおばあさまの住んでいた家で、小さかったデボラさんは店が忙しい時によくここに預けられていたんだって。私が今暮らしているドールハウスはその頃遊んだお気に入りなんだそうだ。だからせめて住む家があったから良かったと、間抜けな私がいけないんだとデボラさんは涙ながらに言うんだけど……

 両親を亡くしたばかりの若い女性になんて卑怯な仕打ちをと私は唇を噛み締めた。

 私の大好きなデボラさんに、何してくれちゃったのかなぁ!

 「やられた方が悪いなんて事あってたまるもんですか!悪いのはその夫婦ですよ!あんなことで殺されちゃった私が言うんだから間違いないです!」

 デボラさんは涙を拭って弱々しく笑いながら首を横に振る。

 「しかも私はね、ルキアへの未練が断ち切れなくてお腹に赤ちゃんがいたら私を選んでくれるんじゃないかって考えたの。本当に愚かでしょう?今思えばルキアへの愛情なんて果たして本当にあったのか怪しいものなのによ?でもその時は物の善悪もわからなくなるくらい追い詰められていて……それで……」
 「デボラさんは催眠術に掛かっていたような状態で正常な判断力を失くしていたんです。今冷静に思い返せば後悔ばかりなのがその証拠ですよ」
 「だけど、そんなことをしたせいで貴女を巻き込んだんじゃない?私さえ馬鹿な事をしなければ……」

 いやいやいや、と私は超高速で首をブルブルと振った。繰り返すが私が無事でいられたのは麦を蒔いたのがデボラさんだったからだ。その裏側にドロドロした事情があってこんなに傷付いているデボラさんを思うと切なくて泣けてくるけれど、私はデボラさんと過ごしてどれほど癒やされどれほど和ませて貰っただろう?

 今ご恩返しをしなくて何時するのだ?もうすぐ永遠にお別れしなければならないのに。
 
 「仕返ししてやりましょう!私が手を貸します。悪者は退治してやらなきゃ。そしてデボラさんのお店を取り戻すんです。ご両親とデボラさんが懸命に守って来た大事な大事なお店を」
 「だけど……私とちっちゃなリセちゃんに何ができると言うの?」

 私はドールハウスのワードローブから兄さまが送ってきたあのドレスを出してきて身体に当てた。柔らかい水色の生地に金色の刺繍が施されたキラッキラのドレス。こんなものまでってぶーたれたばかりだけど、せっかくだから利用させてもらうわねと鏡に映った自分にニヤリと笑いかける。

 「デボラさん、私を誰だと思っているんですか?人生を切り開くジャストおやゆびサイズのおやゆび姫ですよ?」

 キョトンと首を傾げているデボラさんに、私はデボラさんのお店の奪還作戦についての説明を始めた。
 
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