11 / 70
堪忍袋の緒が切れましたので
私には不要です
しおりを挟む「ねぇマイヤ、湯浴みは一人でするからもう下がっていいわよ」
抜き取ったピンを一纏めにしていたマイヤは『は?』と言うなりせっかく纏めたピンをポロリと床にぶちまけた。マイヤの他にもメイドのリジーとメアリがその場にいたけれど、どちらもぽかーんと口を開け放心状態に陥っている。
「それとその夜着は着ないから片付けてくれるかしら?」
指差した夜着をチラリと見たマイヤは急にぽっと頬を赤らめた。
「やだ奥様!素肌の上にガウン一枚をお召しになるのですか?いくら初夜でもそれは攻めすぎかと……」
「そうですわ。見えそうで見えないもどかしさも大切なのですよ」
「手ずから生まれたままの姿にしていく、殿方はそういう過程も楽しみの一つなのですわ!」
「そうなの?」
私が敢えて純真無垢なキョトン顔で聞き返すと三人はすっと視線を反らした。そうよね~、私と同世代の清らかな乙女たちだもんね!知識だけはたっぷりあるらしいけれど。
「それじゃなくて、こっちを着るから」
「えーっ!」
チェストから柔らかなリネンの夜着を引っ張り出して広げると、三人は抗議の声を上げ冷たい目で私を睨む。
「奥様、初夜でございますのよ。初夜!大切な初夜」
「そちらはお加減がお悪くて休まれる時の為に御用意したお品ですわ」
「そうですとも、お医者様に見られてもなんともない、そんなお品で旦那様をお待ちするなんて」
「「「ありえなーい!」」」
三人は声を揃えて叫んだ。
「今夜は念入りに念入りに念入りにきれいにして」
「クラっとするような香油で全身くまなくマッサージして」
「『も、もしや……そこにうっすら透けて見えるのはっ!』なんて思わず生唾飲んじゃうような扇情的な夜着で旦那様を迎え撃つものでございましょう?」
「そうなの?」
三人は純真無垢なキョトン顔にまたもや視線を反らしたが、意を決したようにマイヤが一歩進み出た。
「だからこそそんなにぺらっぺらに薄っぺらでリボンをほどけばフルオープン的な夜着が用意されているのです。下着だってほら、初々しいようでありながら実はなかなかの艶かしさを醸したすこの形。今夜はこれで旦那様を心をズキューンと撃ち抜き恙無く明日の朝を迎え『フローレンスはぐっすり眠っているんだ。夕べはつい無理をさせてしまったからね。目が覚めるまでそっとしておいてくれないか?』なーんて恥ずかしそうにもぞもぞ指示を頂く。そうしたら私共は大成功とばかりにこっそり親指を立てるのですわ」
彼のモノマネまでぶっ込んで力説してるけどマイヤって……こんなだったかな?私は更にマイヤの新しい一面を引き出すべくもう一度キョトンとして『そうなの?』と聞いてみた。ホントはここにいる四人の中で夫婦のあんなことやそんなことへの知識と経験を兼ね備えているのは私一人なんだけれど。まあ、記憶の中ではですがね。
「そうじゃなければご実家もこのようなお品を用意なさいませんでしょう?奥様がこれをお召しになってごらんなさいませ。きっと五割増しにエロぉ~くおなりですわ。更には肌からほんのり立ち上る官能的な香り……血気盛んな23歳の旦那様ですもの、思わず欲望の命じるままに骨付き肉にむしゃぶりつく獅子のように猛々し……んっんんっ!」
折角凄い表現をし始めてこれは益々面白い!って思ったところなのに、マイヤは我に返り口を閉ざしてしまった。残念だ。
「でもね、本当に良いの。だってそれ誰の指示?旦那様に言われたの?違うでしょう?」
三人は顔を見合わせた。そうよね、優秀なメイドだからこうして当然のように私を仕上げようとしてくれたけれど、他所様の旦那様はいざ知らず、あの彼がそんな具体的な指示なんか出すわけないのだ。
「悪いけれど私にはそういうのは不要なの。でも別に不都合はないから心配しなくて良いわ。湯浴みして適当に支度をして、そうしたら寝室に行くからみんな下がって頂戴。お疲れ様」
私はそれだけ言うとそそくさとバスルームに入り鍵を掛けた。閉め出された三人は『奥様~っ』と必死に呼び掛け、それでも言いなりになる気のない私に狼狽えておろおろしている気配が伝わって来たが、私が機嫌良く鼻唄を歌い始めると諦めたように出ていったらしい。私はズブズブ頭までお湯に潜るとぷくぷくと息を吐いてから勢いよく顔を上げた。
「さーて、始めるか!」
私はバスタオルを身体に巻き付けぐぐっと一つ伸びをした。
0
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
夫が不倫をしているようなので、離婚します。もう勝手にすれば?いつか罰が当たるから
hikari
恋愛
シャルロッテはストーム公爵家に嫁いだ。しかし、夫のカルロスはタイパン子爵令嬢のラニーニャと不倫をしていた。
何でもラニーニャは無機物と話ができ、女子力もシャルロッテよりあるから魅力的だという。女子力があるとはいえ、毛皮に身を包み、全身宝石ジャラジャラで厚化粧の女のどこが良いというのでしょう?
ラニーニャはカルロスと別れる気は無いらしく、仕方なく離婚をすることにした。しかし、そんなシャルロッテだが、王室主催の舞踏会でランスロット王子と出会う事になる。
対して、カルロスはラニーニャと再婚する事になる。しかし、ラニーニャの余りにも金遣いが荒いことに手を焼き、とうとう破産。盗みを働くように……。そして、盗みが発覚しざまあへ。トドメは魔物アトポスの呪い。
ざまあの回には★がついています。
※今回は登場人物の名前はかなり横着していますが、ご愛嬌。
※作中には暴力シーンが含まれています。その回には◆をつけました。
初恋に身を焦がす
りつ
恋愛
私の夫を王妃に、私は王の妻に、交換するよう王様に命じられました。
ヴェロニカは嫉妬深い。夫のハロルドを強く束縛し、彼の仕事場では「魔女」として恐れられていた。どんな呼び方をされようと、愛する人が自分以外のものにならなければ彼女はそれでよかった。
そんなある日、夫の仕える主、ジュリアンに王宮へ呼ばれる。国王でもある彼から寵愛する王妃、カトリーナの友人になって欲しいと頼まれ、ヴェロニカはカトリーナと引き合わされた。美しく可憐な彼女が実はハロルドの初恋の相手だとジュリアンから告げられ……
あなたを忘れる魔法があれば
七瀬美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
(完)夫の浮気相手は……でした
青空一夏
恋愛
ショートショート、全5話。
私は夫の上着のポケットから手紙を見つけた。
オーガスト侯爵家の為に、卑しいカールストン男爵家に身売りした愛しいライアンへ
愛しているわ……私達の愛は『真実の愛』よ
この文面の手紙を書いたのは誰? 私は周りにいる女性達に罠をしかけた。
言葉にしなくても愛情は伝わる
ハチ助
恋愛
二週間前に婚約者のウィルフレッドより「王女殿下の誕生パーティーでのエスコートは出来なくなった」と謝罪と共に同伴の断りを受けた子爵令嬢のセシリアは、妊娠中の義姉に代わって兄サミュエルと共にその夜会に参加していた。すると自分よりも年下らしき令嬢をエスコートする婚約者のウィルフレッドの姿を見つける。だが何故かエスコートをされている令嬢フランチェスカの方が先に気付き、セシリアに声を掛けてきた。王女と同じく本日デビュタントである彼女は、従兄でもあるウィルフレッドにエスコートを頼んだそうだ。だがその際、かなりウィルフレッドから褒めちぎるような言葉を貰ったらしい。その事から、自分はウィルフレッドより好意を抱かれていると、やんわりと主張して来たフランチェスカの対応にセシリアが困り始めていると……。
※全6話(一話6000文字以内)の短いお話です。
かわいそうな旦那様‥
みるみる
恋愛
侯爵令嬢リリアのもとに、公爵家の長男テオから婚約の申し込みがありました。ですが、テオはある未亡人に惚れ込んでいて、まだ若くて性的魅力のかけらもないリリアには、本当は全く異性として興味を持っていなかったのです。
そんなテオに、リリアはある提案をしました。
「‥白い結婚のまま、三年後に私と離縁して下さい。」
テオはその提案を承諾しました。
そんな二人の結婚生活は‥‥。
※題名の「かわいそうな旦那様」については、客観的に見ていると、この旦那のどこが?となると思いますが、主人公の旦那に対する皮肉的な意味も込めて、あえてこの題名にしました。
※小説家になろうにも投稿中
※本編完結しましたが、補足したい話がある為番外編を少しだけ投稿しますm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる