私とエッチしませんか?

徒花

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これからのこと

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 暖かい空気が、春の訪れを感じさせるような、そんな日のことだった。
 重たい荷物をスーツケースやリュックサックに詰め込んで、僕は渋谷の街路を歩いている。
 宅配便でパソコン等のかさばる物は郵送したのだが、自分で持てる荷物は自分で持っていくことにしたのだ。
 いきなり大量の荷物が送りつけられても、瑠璃葉さんは困るだろうし。
 そう、今日は瑠璃葉さんの住むマンションに、僕が引っ越す日。
 入学式の一週間前。両親に別れを告げてから、電車を乗り継いで僕は東京にまで来ていた。
 寂しそうだけど、けれども嬉しそうでもある複雑な表情を浮かべて、僕の両親は見送ってくれた。
 一人息子の僕が家を出て行くことに、両親はどんな想いを持っているのだろう。
 僕も親になって、その時が来たら分かるのかな。
 そんなことを考えつつ、歩みを進める。
 瑠璃葉さんのマンションの前まで来る。いよいよ、彼女との同棲生活が始まるんだな。
 階段を上がり、彼女の住む階の、目的の部屋の前に来る。
 この呼び鈴を鳴らしたら、彼女との日々が始まるのだ。
 深呼吸をし、その瞬間を噛み締めるようにしながらボタンに軽く触れて力を込める。

「はーい」

 聞きなれた瑠璃葉さんの声が中から聞こえる。
 軽く咳払いをしてから、来訪者は僕であることを伝えた。

「荻野です。瑠璃葉さん、お待たせしました」
「今すぐ開けますねっ」

 ガチャッと鍵が開けられる音と共に、ドアが開く。
 嬉しそうな顔をした瑠璃葉さんが、姿を見せてくれた。

「お疲れ様です。真一さん。荷物、重くなかったですか?」
「まあ、結構重かったですね……肩が凝ったかも」
「上がって休んでください。飲み物出しますから」

 僕は瑠璃葉さんに誘われるまま、家の中に入る。
 適当な場所にリュックとスーツケースを置くと、僕は台所兼リビングの、中央に置かれたテーブルに備え付けられている椅子に腰掛け、ふぅと軽く息を吐いた。
 瑠璃葉さんが、ジュースが入ったコップを二人分持ってくる。
 下品に見られない程度にそれを喉に流し込んだ。生き返る心地だった。

「合格のお祝いと同棲生活記念に、ピザでも注文しましょうか?」
「良いんですか? じゃあ、お願いしちゃおうかな」

 彼女はチラシを持ってきた。色取り取りのトッピングのピザが、見栄え良く撮影された写真ばかりが掲載されている。
 どれも美味しそうだった。値段は正直、日本の宅配ピザの割高感が目立つけれど。

「高いのでもいいんですよ? 真一さんへのご褒美なんですから」
「いや、食べたいものを注文しようと思います。……これなんてどうだろう」

 四種類のチーズにサラミが添えられているピザ。中々美味しそうで、食欲をそそられる。
 とろけるチーズと肉の塩気を思い描いてみると、思わず涎が出てきた。

「私もこれ、食べたいです。二人で食べるし、Lサイズ注文しちゃいましょう」

 問題ないことを確認しあうと、瑠璃葉さんはスマホを取り出して注文を掛ける。
 瑠璃葉さんの会話を聞いていると、四十分程度で届くらしいことが分かった。

「はい……はい……住所は先ほど言ったもので間違い無いです。では、よろしくお願いします」

 通話が終わる。
 楽しみですね。と瑠璃葉さんは笑った。

 ピザが届くまでの間、僕らは荷物を整理することにした。
 着替えや、自分の歯ブラシ。枕や私物を整理する。
 瑠璃葉さんのものを共同で使うため、家具の類はあまり郵送しなかったので、そう多くの手間は掛からなかった。
 それが終わると改めて、瑠璃葉さんはこの部屋のことを紹介してくれた。
 トイレはこの場所。Wi-Fiはここから設定できる。パソコンはここに置きましょう。
 持ってきた小説や、これから使う教科書を仕舞う本棚は予め買って置きました。
 手際が良い。僕が来るまでの間、ちゃんと考えておいてくれたのだろう。

「コンドームはこの引き出しの中にあります。使いたい時は、遠慮無く言ってくださいねっ」
「は、はい」
「ベッドは流石にこの寝室に二つは用意できないので、一つの物を二人で使いましょうか」
「添い寝ですか」
「予算的にもスペース的にも、それしか選択肢が無いかなぁと思うんです……ごめんなさい」
「いや、大丈夫です。もっと仲良くなれるかもしれないし」

 そんなやり取りをしている内に、玄関のブザーが鳴る。

「おっと、ピザですね」

 瑠璃葉さんが出て行って、配達員から薄く大きな箱を受け取る。
 サインを書いて認証すると、「どうも」と言って配達員は帰っていった。

「熱々ですよ~! 箱越しでも良い匂いがします!」
「早速食べましょうか」

 僕らは机に箱を乗せると、蓋を開けて中身を見る。
 ある程度加工されている写真と比べると多少は見劣りするような気もしたが、でもやっぱり美味しそうだった。
 ピザは予め切りそろえられている。
 映画見ながら食べましょうかと瑠璃葉さんが提案してきたので、僕もそれに賛同した。
 なんだか、ちょっとしたパーティーになってきた。
 どれが観たいです? とDVDのパッケージを瑠璃葉さんは見せてくる。
 アニメ映画、アクション映画、ホラー映画、そしてラブロマンス。

「このラブロマンスで」
「了解しましたっ」

 中身を取り出して、テレビに備え付けられたDVDレコーダーにそれを挿入する。
 チャプター画面を操作して、映画が始まった。少し古い洋画だ。
 僕はピザを一切れ手に持って、口の周りを汚さないように齧りつく。
 手が油でぬるぬるになりそうだったけど、チーズのとろとろとした食感と塩気がたまらなく美味しくて、ついつい食べ進めてしまう。
 瑠璃葉さんも、映画に集中しつつピザを食べる。
 美人な彼女とピザを食べながら映画鑑賞。
 ささやかな幸せだ。本当にささやかだけど、僕は世界で一番の幸せ者なのかもしれない。
 この時間が永遠に続いたら良いのに。そう思いながら、映画を観ていた。

***

 映画が終わった。二時間半のラブロマンスは、幸せな結末で幕を閉じる。
 心の中が温かいものに包まれたような、そんな心地。
 ピザはもう、食べ終わっていた。

「あー! 面白かったですね! 何回も私、この映画観たんですけど、やっぱり最高だなぁ。胸がきゅんとなる」
「僕は初めてですね。ハッピーエンドでよかったです」
「……私、好きな人とこの映画を観るの、ちょっとした夢だったんです」

 ふふんと笑いながら、瑠璃葉さんは僕に言う。
 頬はやや紅かった。

「私にはいっぱい『夢』があるんです。これからの生活でそれを、私と一緒に少しづつ叶えて行ってくれると、嬉しいです」
「勿論。僕に出来る範囲のことなら、何でもするつもりです」
「ありがとうございます。約束ですよっ? ……エッチなことも頼んじゃいますからね?」

 僕の方から頼みたいくらいだ。そんなことを心の中に思いつつ、僕は瑠璃葉さんと次の映画を観ることにした。

 気がついた時は、既に夜遅かった。
 あれから僕らは、ゲームをしたり、入学式までに終わらせるように命じられた課題を二人で解いたりして、幸せな時を過ごした。
 夕食を二人で作って食べた。
 僕は自炊は殆ど経験が無かったけれど、瑠璃葉さんが丁寧に教えてくれた。
 お風呂にも、一緒に入った。
 やっぱり狭かったけれど、けど愉しかった。
 入浴中、ゴムが無い状況で「仲良くなりすぎる」のは何とか避けることが出来た。
 これからも、そうだといいけど。
 身体を拭いて服を着てから、ソファに座って二人でテレビを観る。
 面白い番組は無かったけれど、でもこうして二人で時間を気にせず過ごすことが出来るのが、それだけで本当に嬉しくて、温かくて。
 僕に身体を預けて甘えてくる瑠璃葉さんをそっと手で抱き寄せて、肌を軽く密着させて。
 彼女の熱が伝わってくる。
 胸の鼓動が、どくん、どくんと脈打っているのが微かに感じられる。やや早かった。

「真一さん、温かいね」

 テレビには、殆ど関心が向いていなかった。お互いがお互いに、それぞれの存在を感じあっている。
 瑠璃葉さんが、身体を動かし僕に正面を向けるように位置を正す。
 僕らは何も言わず、口付けを交わした。

***

 夜も遅い時刻だった。
 今日はもう寝るべきだろうと思い、二人で寝室に向かう。
 昼間は重い荷物を運んだし、色々なことがあったため少し疲れていた。
 ゆっくり寝たほうがいいですねと瑠璃葉さんは言ってくれる。

「ねえ。セックスは今日は止めておきますけど、良いことしてあげます」
「良いこと……」

 瑠璃葉さんは僕の手を引いて、ベッドに誘う。
 潜ってみると、二人で入る毛布の中は少し窮屈な気がした。でも、瑠璃葉さんの身体が間近にあって、その感覚が心地良い。

「毛布に頭まで入りましょうか……」

 彼女の言葉に従った。
 毛布の中は当然真っ暗で、何も見えない。
 瑠璃葉さんと毛布の感触。そしてお互いの吐息。匂い。熱。視覚は役にたたなさそうだ。
 何をするのだろうと思っていると、瑠璃葉さんの囁くような声が聞こえて来る。
 小さな声なのだけど、音が逃げる場所が無い上に至近距離なので、はっきりとその言葉は聞き取れた。

「後ろから抱きしめてください……背中にお腹を密接させて、私の身体を好きに弄ってください……挿入は、無しで」

 瑠璃葉さんが、身体の向きを変える感覚がした。
 ごそごそと音を立てて、シーツを擦りながら僕に背を向けた。らしい。
 何も見えない。けど、その存在ははっきりと感じられる。
 僕は、彼女に向かって身体を動かし、しっかりと胴体をホールドした。
 瑠璃葉さんの身体は、やはり柔らかかった。女の子は、どうしてこんなにしなやかで抱き心地の良い肉体をしているんだろう。

「ふふっ……硬くなってますよ?」

 尻の辺りに押し付けられた僕の股間。それは既に臨戦態勢で、もう間近にある性器に入らせろと喚いているかのようだった。

「生で挿れちゃ駄目、ですからね? 赤ちゃん、まだ来るのは早いと思うんです」
「ええ……勿論」

 ぎゅっと瑠璃葉さんの身体を抱きしめる。暗闇で、何も見えない。でも、はっきりとその存在は分かる。
 見えなくても、分かる。
 彼女がどんなラインをしているのかも、肉付きがどうなっているのかも。
 もっともっと、瑠璃葉さんの身体を堪能したい。
 前に寄せた僕の手を、彼女の胸に当てる。
 乳頭のある辺りを指の腹で撫でる。

「んっ……エッチ、ですね……いきなり女の子にそんなことすると、嫌がられますよ? 私は大歓迎だけど」

 拒否する様子は無い。僕の愛撫を無抵抗に受け入れている。
 どんな表情をしているのか、彼女は後ろを向いているし、そもそもここには光が無いので分からない。
 けれどそれが一層、興奮の度合いを増していた。
 視覚に頼らず、触覚のみでお互いを感じあう。
 もっともっと、彼女が好きになりそうだった。

「今度は私が、荻野さんの背中を抱きます」

 ホールドを解除して、僕は瑠璃葉さんに背を向ける。
 待っていると、彼女の腕の感触が僕の胸の辺りに巻き付いてきた。

「ふふっ……結構身体、大きいですね……」

 同じくらいの気もするけど。そう思うけど、でも頼られているような感じがして、気分は悪くなかった。
 僕の身体をすりすりと、彼女の小さな手が撫でている。愛おしいというように。この人が、私の大切な人なんだと噛み締めるように。

「……そうだ。あそこも寂しそうにしてましたよね?」

 え、何のことだ。と思っていると、僕の股間に手が伸びてきた。
 ガチガチになっている肉の棒に、無骨さとは無縁の指がパジャマ越しとはいえ絡みついてきた。

「る、瑠璃葉さん……」
「ちんちん、ちゃんとご奉仕してあげますよ」

 ちょっと動揺したけど、抵抗する気は無かった。その清廉さすら感じる柔らかい手の平に、僕のペニスが転がされる。

「今日は私ののおまんこに入れてあげられなくてごめんなさいね」

 僕の耳元に、熱く甘い吐息が掛かる。
 彼女は自分の股間を僕に擦り付けつつ、愛撫をしてくれる。自分自身でもペニスの輪郭をはっきりと意識させられる。
 高まっていくのが感じられる。

「びくびくしてますね? そろそろ出したいんですね?」
「うっ……くっ……出して、いいですか?」

 クスクスと、囁くような笑いが耳元に触れる。

「いいに決まってるじゃないですか。気持ちいいの、びゅっと出しちゃってください」
「っ、ぁ、くっ……」

 カリを弄っていた彼女の指が、きゅっとカリ首を締め付ける。それを切っ掛けとして、僕の中で塞き止められていた欲望が一気に噴出した。
 どろどろとした熱いものが、勢い良く飛び出て行く。股間の周りが強い熱を帯びていく。
 パンツの中を無残にも汚していき、どんどん染みが広がっていく感覚がする。

「うわっ、ベトベトした物が布に染み込んで来た。凄く……熱い」

 びくっ、びくっと断続的に放精は続く。射精が終わる頃には、僕のパンツの中は悲惨なことになっていた。

「はぁ……はぁ……っ、はぁ……」

 荒い息。どっと体力が放出された気がする。
 毛布の中では酸素がすぐ無くなる気がして、思わず掛け布団から首を出して呼吸をする。
 瑠璃葉さんも、ひょっこりと同じく顔を出した。
 背後にいる彼女が、申し訳なさそうに口を開く。

「ご、ごめんなさい。真一さん、疲れているのにこんな状態にして……。ちょっと私、興奮しすぎちゃった……」
「い、いえっ……止めなかった僕が悪いんです。それよりパンツ、洗濯しなくちゃな……」
「私の責任ですから、私が洗っておきます。……でも、良く頑張りましたね。偉いです。こっち向いてください」

 瑠璃葉さんは、彼女の方に向き直った僕の頭を撫でてくれる。
 母親のような慈悲深い瞳。柔らかく結ばれた唇。

「真一さん。これから、よろしくお願いしますね」
「ええ。こちらこそ。同棲生活、頑張っていきましょう」

 僕らは微笑みあう。きっと、これから楽しい生活が始まる。
 そんな予感がする。
 辛いこともあるかもしれない。密接した時間を過ごすことで、今までは見えてこなかった互いの欠点が見えてきてしまうかもしれない。
 倦怠期のようなものがやってきて、破局の危機にすらなるかも知れない。
 でも、たぶん僕らは乗り切っていける。
 愛し合っているから。結婚すると、約束し合ったから。結婚後も、幸せにすると願っているから。
 瑠璃葉さんは僕に顔を近づけて、軽いキスをする。
 しっとり濡れた柔らかい感触が、僕の唇にこだました。
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