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徒花

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両親との面会

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 合格発表の三日前。僕は瑠璃葉さんの家に向かっていた。
 足取りは重い。
 プレッシャーが全身に圧し掛かる。岩を背負っているかのような気分。
 仄暗さにも似た感情。
 それは数日後に控えた合否の発表のためでもあるが、一番の理由は目先にある。
 瑠璃葉さんの両親への挨拶。
 彼女の父母への面会。
 その約束の日が、今日だった。
 そろそろ合格後に住む場所を決めておかなくてはいけない。
 だから今の内に同棲の許可を貰って、はっきりと自分の今後を決める必要があった。
 瑠璃葉さんは、もうこの町に帰っている。
 すでに実家に到着しており、僕のことを待っているはずだった。
 両親と瑠璃葉さん。そして、僕。それで全てだ。
 ここで許可を貰えなければ、彼女との結婚など夢だろうなと思う。
 自分と瑠璃葉さんの将来も掛かっている気がする。
 彼女の両親に、僕が信頼出来ることを伝えなくてはならない。そう思った。
 ……彼らの娘を何度も抱いておいて、「信頼」出来るのだと説得するのは難しい気がするが。
 そんなことを考えているうちに、瑠璃葉さんの家に到着してしまう。
 僕は自宅から彼女の家に来るまで、一歩も走ることは無かった。
 その行動が自分の恐れや焦心を反映しているように思え、情けないなと僕は感じた。
 逡巡の後、呼び鈴に人差し指を近づける。震えていた。
 どうしたんだ荻野真一。
 押す以外に無いだろう。お前は退くことはできない。
 こうして悩んでいる間にも時間は過ぎて、お前の足元も崩れ落ちている。
 両親を焦らせば悪印象を与えるだけで、お前の成功も遠ざかっていく。

「……」

 意を決して、そのボタンに指を触れて軽く力をこめる。
 僕の心の内に反した小気味よい音を立てて、僕の来訪を告げてくれた。

「はーい」

 インターホンから、瑠璃葉さんの声が聞こえた。
 両親のどちらかが受け答えをするのではないことに、少し寿命が延びたような感覚を覚えながら、僕は口を開く。

「お、荻野真一です。ご両親に挨拶に来ました」
「真一さん。待ってましたよ。父と母が待ってますから、お顔を見せてあげてください」

 鍵が外れる音。開いた扉の向こうから瑠璃葉さんが出て来て、僕に歓迎するような微笑を見せてくれる。

「さ、上がってください。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
「お、お邪魔します……」

 中に入り、靴を脱ぐ。
 内装は以前入っているので知ってはいるが、彼女はそっと案内をしてくれた。
 リビングに入る。
 二人、いた。
 二人掛けのソファに並んで座る、二人の男女。
 瑠璃葉さんの、ご両親だ。
 年はお互い四十代後半程度に見える。どちらも堂々とした表情で、入ってきた僕の顔を見てきた。
 どちらも身なりが整っている。お嬢様学校に娘を通わせる程度には余裕があるのだから、きっと社会的な地位も高いのだろうと窺わせられた。
 ぎこちない動作で歩き、彼らから机を挟んで向かい側のソファに、僕と瑠璃葉さんは腰掛ける。
 瑠璃葉さんは奇妙にも落ち着いていた。
 自分の両親だから、そうプレッシャーは感じないのだろう。初対面の僕は、ガチガチだった。

「えーっと、貴方が瑠璃葉から話があった、荻野真一さん……でしたよね」

 母親の方が口を開いた。もう若いとは言えないであろうに、中々肌の張りがあり、目の輝きも失われていない女性だった。
 声もよく通る。瑠璃葉さんは、彼女から多く遺伝しているのかなとちょっと思った。
 さて、母親の振ってきた話に答えなくては。
 声が裏返らないように気をつけつつ、言葉を発する。

「は、はい。荻野です。本日は私のために貴重なお時間を割いて頂き、ありがとうございます」
「中々格好いいじゃないの。ねえ、あなたが若い頃に似てない?」

 そう言って、父親の方を見る。「あなた」というのは、勿論瑠璃葉さんの父のことだ。

「……そうだな」

 一言だけだった。やりづらそうな相手だ。
 心なしか、こちらを睨んでいるような気がする。怯んだら駄目だと自分を叱咤し、震える足を何とか抑える。
 父親の方は、精悍さを印象付けさせられる男性だった。
 老化はしているが、若い頃は美男子だったのだろうと思わせる整った顔立ちをしている。
 切り立った岩山のような鋭さすら感じさせる、厳しそうな父親。

「ええと、申し遅れましたね。私は瑠璃葉の母親の、牧本鈴まきもとすずと申します」
「……父の牧本遼一まきもとりょういちです」
「よ、よろしくお願いします」

 二人とも、僕という未知の男子にも臆することなく、冷静な佇まいで見つめているように見えた。
 緊張しているのは僕だけらしい。

 口を開いたのは、再び母親だった。

「荻野さんは、瑠璃葉とはどういうご関係なのかしら。知り合った経緯も、あなたの口からお聞きしたいのですけど……」
「る、瑠璃葉さんとは二年ほど前の夏のプールで知り合いました。彼女がロッカーの鍵を落としたので探して欲しいと僕に頼って下さったので、一緒に探したのが始まりでした。瑠璃葉さんとは……大切な『友達』です」
「そう……。親切な方なのね。瑠璃葉、ちゃんと荻野さんにお礼は言ったの?」
「うん、言ったよ。お母さん」

 流石に「瑠璃葉さんは肉体関係を誰かと結びたがっていて、それに僕は応えて何度もセックスをする関係になりました」などという詳細まで話したら、この家から生きて出られない。
 瑠璃葉さんと僕が肉体関係を持っているということに、両親は気がついているのだろうか。
 恐らく、何となくは想像が付いているのだろうなとは思う。
 年頃の男女が同棲などを考えているわけなのだから、そこに至るまでに何かがあったと考えるのが自然だろう。
 再び母親が口を開く。

「確かこの春、瑠璃葉と同じ大学に通うんでしたっけ……。学部は一緒なのかしら」
「まだ合格発表は出ていないのですが、同じ大学です。学部も、瑠璃葉さんと一緒です」
「どうして一緒に住もうと考えたのかしら。瑠璃葉の方が持ちかけたのは認識していますけど……」
「僕と瑠璃葉さんは、過ごした時間は実質的にそう多くはありません。別々の学校でしたから。ですが、彼女のことを僕は大切に想っています。辛かったときも、苦しかったときも、彼女は遠くにいたけれど、精神的な柱になってくれた。僕はそんな彼女をこれからは僕が傍にいて、支えて行きたいんです」
「……それは、同棲が必要なほどですか?」

 突然、父親が口を挟んできた。
 唐突な言葉に、僕は怯んでしまう。

「私たちは君のことを全く知りません。突然現れた君に、少々困惑している。本当に娘の傍に置いていてもいい人なのか、同棲相手という関係を結ばせてもいいのか、それを確かめたい」

 当然の感情と欲求だった。
 両親にとってはいきなり登場した僕が、最愛の娘と生活を共にするなど困惑するに決まっている。
 信頼出来るのだということを認めさせなくてはいけない。
 でも、何をすればいいのだろう。ここに来るまでにも当然考えてはいたのだが、頭に浮かばなかった。

「真一さんが信頼出来る相手であることは、私が一番よく分かってる」

 その言葉を発したのは、瑠璃葉さんだった。
 ちらりと横目でそちらを見ると、その堂々とした真っ直ぐな視線を両親に向けている。
 自分のしていることには、一点の曇りなど無いというように。

「真一さんがいなかったら、私はたぶん浪人していた。というより、そもそも今の大学を諦めていたかもしれない。彼がいなかったら、今の私は無かった。確信を持って言える。この人は、私に必要な人なんだと」
「瑠璃葉、あんまり視野を狭めちゃ駄目よ?」

 母親が窘めるようにして言う。
 瑠璃葉さんにとっても、僕が心の支えになっていたのはありがたいことだったが、最終的に彼女の合格を決めたのは、彼女自身の能力故だとは思う。

「お父さん、お母さん。真一さんは、私のことを本当に大切に考えてくれている。私を傷つけるような言動は、一度たりともしなかった。勉強に行き詰った時も、挫けそうになった時も、私の『傍』にはいつも彼がいてくれた。悪いことを考えている人じゃない」
「それを確認する術が、私たちには無いのよねぇ……」

 母親は困ったような表情を、瑠璃葉さんに向けていた。父親は黙って僕と瑠璃葉さんの両方を視界に入れている。

「瑠璃葉、あなたは私たちの大切な娘なの。兄妹は作らなかったけど、その分精一杯の愛情をあなたに与えてきた。だから心配しているんだということを、分かって欲しい。煩い親だと思うけど、荻野さんにも理解して欲しい」
「あっ、は、はいっ。いえっ、当然の考えだと思います」

 瑠璃葉さんの両親が怒鳴ったり威圧してくるようなタイプで無いことに感謝する。あくまでも、若輩者である僕らを尊重して心情を告白してくれる。

「瑠璃葉、あなたは優しすぎるところがあるのよね。そういう子に育ったことは私は嬉しいけど、でも身を滅ぼすこともあるんだということを覚えておいてちょうだい」

 僕は身に覚えがあった。
 瑠璃葉さんは僕のために、芽吹こうとしている命を殺さないために、避妊薬を飲まずに孕もうとしたことがあった。
 一歩間違えれば、僕も瑠璃葉さんも破滅していたところだった。
 僕にも責任はあるし、彼女を責める気は毛頭無いが、優しさは時に命取りになることもある。
 両親は、その恐ろしさを分かっているのだ。
 もしも僕が、瑠璃葉さんに暴力を振るうような人間だったら、自分の欲望のまま、彼女に苦痛を与えるような人間だったら、もしも自分の娘をこの男に殺されたら。
 そのことを、恐れている。
 そんなことはしない。絶対に。
 それは、僕自身がよく分かっている。

「僕は……」

 勇気を出して、自分から言葉を発する。
 フォーマルな一人称の「私」を使うことは、頭から抜けていた。

「僕は、ご両親と同じくらい……とまで言えば自惚れかもしれませんが、それくらい瑠璃葉さんのことを大切に想っています。女性としてではなく、人間として尊敬しています。瑠璃葉さんのために肩の肉を一ポンド差し出せと言われたら、迷わず切り取ります。自分の身を一生捧げても構わない」

 同棲の要求というよりは、結婚の許諾にも近くなってきたが、とにかく僕は必死だった。
 瑠璃葉さんを逃したら、自分の魂まで離すような気がしたから。

「だから、僕は彼女と共に過ごしたい。一緒のものを食べて、一緒のものを見て、一緒の空間を共有したい。今まで上手く出会えなかった分まで、瑠璃葉さんと一緒にいたいんです。もう、子供では無い。彼女を、大切に出来る。ですからお願いします。同棲の許可を……」
「……出直す……というのも選択肢の一つだと思いますよ」

 父親が静かにそう言い放つ。口数は少ないけど、その言葉は鋭く、的確に僕の口を噤ませていく。

「それも、『大人』の選択の一つだと思いますけどね」
「……」

 駄目、なのか? 頭の中が真っ白になっているところに、瑠璃葉さんの母親が声を掛けてくる。

「まだ入学式まで、時間はあるでしょう? 帰ってみるのも、遅くは無いと私も思います」
「そう、ですか……」
「瑠璃葉も、もう少しはこの町にいるでしょう?」
「うん……」

 ここで強情に何かを言っても得策では無いと判断したのか、瑠璃葉さんは素直だった。
 今はまだ認めてもらえないらしいが、「駄目だ」と両親にはっきり言われるよりはマシなのだろう。

「瑠璃葉。荻野さんを見送ってあげなさい。私たち親は少し話し合いしたいから」
「……分かった。お母さん。……真一さん。行きましょう」

 瑠璃葉さんに手を引かれて立ち上がり、僕は彼女の両親から遠ざかっていく。緊張感が、去っていくようだった。
 入ってきた時とは逆に歩き、僕らは玄関から出た。
 瑠璃葉さんは、外まで見送ってくれるらしい。

「ごめんなさい。真一さん。今回は良いお返事を貰えなくて……」
「瑠璃葉さんが気に病むことはありません。僕みたいなのがいきなり現れて、同棲させて欲しいと頼んでも、こうはなりますよ」
「また、お時間をいただくことになりますね……父と母をこの後説得してみます」
「すみません。お手数を掛けて……。すみません、緊張して大したこと言えなくて……僕が一番ビクビクしてたな」

 瑠璃葉さんが突然軽く笑った。
 臆病な男だよな、そうだよなと思ったのだが、瑠璃葉さんの次の言葉は僕の予想と違うものだった。

「あの中で一番緊張してたの、私のお父さんですよ。真一さんよりも震えてた」
「えっ。堂々として、はっきりとした口調と真っ直ぐな目をしてましたけど……というか、睨んでるようにも見えました」

 いえいえと手を振り、瑠璃葉さんは微笑む。

「私のお父さん、結構変なところで気弱なんですよ。十数年も一緒に暮らしてきた、娘の私だから分かります。表情に出さないだけであって、真一さんよりもずっと心細そうにしてましたよ」
「そう……なんですか……」
「だから決断を先延ばしにしたのかなぁ。お父さんのこと、後で問い詰めてみよう」

 瑠璃葉さんは楽しげだった。

「まあ、こうなってしまったことは仕方ないです。数日後にでもまた来ようと思います」
「ええ、待ってますよ」
「ちょっといいかしら」

 唐突に話しかけられ、驚き二人でその声の持ち主を振り返る。
 そこには玄関のドアを開けてこちらに微笑みかける、瑠璃葉さんの母の姿があった。

「お母さんっ? どうしたの」

 瑠璃葉さんの母親は、外に出て僕らの傍までやってくる。父親はいなかった。
 やたらと母親はニヤニヤと笑っている。一体何なんだ。瑠璃葉さんと僕は、意味が分からないというように顔を見合わせる。

「どうしたんですか? 何か僕、忘れ物でもしましたっけ」
「荻野さん、瑠璃葉」
「何の用? お母さん」

 瑠璃葉さんの母親は、オホンと咳払いをした。
 これから言うことを、寸分も狂いの無いように伝えるように。
 そして、彼女は静かに言い放つ。

「おめでとう。二人とも春の同棲生活、頑張ってね」

 え。
 僕は、目を丸くしていたと思う。瑠璃葉さんの顔を見る余裕など無かったが、彼女も同じだろう。
 今、なんて言った?
 先に口を開いたのは、瑠璃葉さんだった。

「お母さん、それ本当?」
「ええ。本当よ。二言は無いからね」
「でもっ、出直せって……」

 やっと僕もそう言えた。
 瑠璃葉さんの母は「ふふん」と悪戯っ子のような笑みを僕に向ける。
 その表情には、見覚えがあった。
 瑠璃葉さんと、同じ仕草。

「実は最初から、私とあの人はあなたたちを同棲させてもいいかなと思っていたの」
「え、お母さんっ! 本当のことなの!?」
「お母さん、あんまり嘘は付かないほうよ」
「どういうことなんですか」

 僕の質問に、瑠璃葉さんの母は得意げに答えてくれる。

「最初に瑠璃葉、あなたから『同棲したい男の子がいる』って電話があった時、私と夫は懐かしいなって気分になったの」
「懐かしいって、どういうことですか」
「それはね……私も夫と大学時代、同棲していたから」
「初耳だよお母さん!」

 瑠璃葉さんはかなり驚いた口調だった。
 細かく母親に訊いてみる必要がありそうだ。

「私と夫はね。同じ高校に通って付き合ってたの。同学年の同い年だったからあなたたちみたいに年齢は離れていなかったけど、大学に進学するってなった時、私は夫と一緒に住みたくてね」

 昔を懐かしむ目を、しみじみと僕らに向けている。
 まるで僕らが、当時の自分と夫であるかのように。

「……私の両親……瑠璃葉、あなたにとってはお爺ちゃんとお婆ちゃんね。に、夫と私で許諾を貰いにいってね」

 どこかで聞いたような話だった。
 まさに僕らだ。

「私たちは怒鳴られたわ……。三年前に亡くなったあなたの母方のお爺ちゃん、いるでしょ? 瑠璃葉。夫は罵られて泣きそうになっててね。でも、何とか説得出来た。結婚する時も、大変だったなぁ……」
「その経験を僕らに重ねて、OKしてくれたんですか……?」
「まあ、それもあるわね……でも、一番の理由はね……瑠璃葉、あなたを信じているからよ」
「えっ? 私?」

 瑠璃葉さんは、また驚いた声を上げる。
 僕もその話は気になるところだった。
 決め手が瑠璃葉さんを信じているからとは、どういう意味なのだろう。

「私と夫はね、瑠璃葉。あなたが一人暮らしをするまで十八年間、あなたをずっと見てきたの。あなたが人を見る目があることは、よく分かっている。私たちの娘が選んだ人なら、きっと信じても大丈夫。そう、思ったの。……勿論、荻野さん。夫と一緒にあなたを直接見て、『きっとこの人なら任せられる』ってお互い思ったのも、大きな理由ね」
「そう思った理由を、訊かせていただけますか」
「私の夫と、同じ目をしていたから。私と夫が高校生の頃からそうだったように、人を真っ直ぐ見る目を持っていたから」
「……僕、今日はご両親をちゃんと見れていたか自信が無いですけど」
「精神的な話よ。荻野さん」

 瑠璃葉さんの母は、ニッコリと笑って僕らを見る。その目は瑠璃葉さんとそっくりだった。

「あの人も来ればいいのに、恥ずかしがってね。ごめんなさいね。荻野さん。生真面目そうな風貌してるけど、実のところ結構臆病なの」
「いえ……僕も、恥ずかしいのは無理ないと思います……」

 適当な返事をしてしまう。
 瑠璃葉さんとの同棲が、認められたのだという事実を上手くまだ飲み込めていなくて。

「でもお母さん。『出直して来い~』とか言っておいてあっさりこれって酷いよ」
「親としての威厳を見せたいなと思ったのよ、私たち。いきなり『はいOKです』って言っても、示しがつかないでしょ?」
「でもなぁ~。拍子抜けしちゃった。というか私、このこと見抜けなかったな……お母さんには敵わないや」
「経験を積んだ女は無敵なの。瑠璃葉もいつかこうなれるわよ。荻野さんも、この子に振り回されないように気をつけてね」
「は、はい……」
「じゃあ、そろそろ私は失礼しますね。年取った人間が若い子をいつまでも邪魔しちゃいけないし」

 瑠璃葉さんの母は、そう言って家の中に戻っていった。
 その様子を、僕らはぽかんと眺めているしかなかった。

「……僕たち、許可貰えたんですね」
「ええ。私の親、厳しいんだか甘いんだかわかんないですけど……」

 どっと疲れた気がするが、とにかく結果オーライだ。
 素直に喜ぶべきだろう。
 正直なところ、嬉しかった。瑠璃葉さんの両親に認められたということが。

「やりましたね。真一さん」
「まあ、合格出来なかったら水の泡ですけど」
「きっと、大丈夫ですよ。真一さんなら、大丈夫。……一緒に通いましょうね」

 勿論です。そう、力強く僕は返す。
 瑠璃葉さんの両親も、こうだったのかなと思いながら、僕らは軽く微笑みあった。
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