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大学見学と久しぶりのエッチ
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彼女がいなくなって、数ヶ月が経った。
今は五月の下旬。
三年生に進級して、少し時間が経過した時期。
咲き誇っていた桜は今はもう散り、その枝に新緑の芽吹きが顔を出して夏の訪れを予感させる頃合。
しかし僕は、そんな春ののどかな景色とは少し遠い場所にいた。
「間も無く……渋谷。渋谷。お降りのお客様は……」
座席から立ち上がり、腕に抱えていたリュックを背負いつつ、出入り口のドアへと向かう。
土曜日だからだろう。電車の中は混み合っていて、窮屈だ。
「ちょっとすみません」と言いつつ、人々を避けて電車から降りる。
「疲れたな……」
地元から電車を乗り継いで二時間ほど。ようやく、僕は目的地の渋谷に着いた。
***
僕が大学見学をしようと思い立ったのは、四月の中頃だった。
友人と昼食を摂っている時、「荻野は志望校の大学の見学に行ったか」という話になったのだ。
まだしていないと答えると、友人は「行っておいたほうがいいよ。俺は二年の時に行った」と返してきた。
確かに、自分の志望する大学がどんな雰囲気なのかは知っておいたほうがいいだろう。
合格して通うことばかり頭にあったが、中学や高校と違って大学は関係者以外でも自由に出入りできる。
だから、見学も自由。
そう言うわけで、僕は大学見学を行うことにしたのだ。
「一応アポ取っておいたほうがいい」とアドバイスされたので、帰宅後僕は大学に電話を掛けてみる。
「自由に見学しても構いませんよ。どうぞお越しください」と、担当してくれた女性は答えてくれた。
見学するのは土曜日。高校が休みのその日に僕は東京に向かう事にした。
志望する大学の雰囲気を知る。それも勿論大きな理由なのだが、もう一つ目的があった。
瑠璃葉さんに会いたい。
大学生となった彼女に直接会いたいという想いがあった。
ラインや通話で近況報告はこまめに行っており、彼女の今の写真もたまに送られてくるのだが、やはり実際に再会したいという気持ちでいっぱいだった。
彼女は大学生活で忙しいだろう。あくまでも希望であって、もしも時間の都合がつかなければ会うのはきっぱりと諦めるつもりだった。
でも彼女に見学の話を伝えると、「丁度その日はバイトも授業も無いから、会えますよ」と返答してくれた。
「なんなら、私がガイドを務めましょうか? 私自身もあんまり教室の場所とかはまだ把握しきれてないんですが、一人で見学するよりは迷わないで済むと思いますよ」
時間の合間を縫って少し会うだけのつもりだったのだが、彼女はそう提案してくれた。
是非お願いしますと僕は頼む。彼女と一緒に大学見学か。
きっと楽しいものになるだろう。
***
渋谷駅の手ごろな出口から外に出て、バス停からバスに乗り込む。
乗客はそれなりの数がいた。
開いている座席に座り、ぼんやりと外を見ていると動き出す。
ビルが立ち並ぶ東京の景色が流れていく。人も車も建物も、僕の町とは比べ物にならない。
大学の手前の停留所もルートに入っている。学生はこのバスを使うのかな。
小刻みな揺れに身体を預けていると時々止まり、乗客が降りたり乗り込んできたりする。
次第に学生らしき人たちも増えてきた。
スマホを弄ったり、友達との会話を楽しんでいたりする。
「お前出席日数大丈夫?」
「あいつ、ガチャで同時に二体激レア当ててるのずるいよな」
「そろそろ演習の準備しないとヤバい。お前、どう?」
高校生と、あまり変わらない。
有名大学の生徒はもっとIQが高い会話をするのかなと思っていたが、意外とそうでもないらしい。
全員が全員というわけではないだろうが。
でも、幻滅したというわけではなかった。むしろその逆で、僕ら高校生と地続きの心を持っているのだなと安心した。
十分ほどで、目的地には到着した。
お金を支払い、僕は降りる。
「ここが、か」
『杜國院大学』
日本でも名の知れた国立大学。その景観自体は知っていたが、やはり実際にこの目で見てみると、圧倒される。
巨大な敷地内に何棟かの建物が並んでおり、物理的にも圧迫感があったが、どことなく漂う荘厳な雰囲気に、まだ高校生の僕は気圧されそうになった。
土曜日だが、結構な人数の人がいた。
その大半がここの生徒なのだろう。
明らかに初々しい人間……つまりはまだ高校生の僕のことだが……が入ってもいいのか少し迷ったが、見学は自由な大学だし何も卑しいことなどしていないのだと心に言いつけて、足を動かし中に入る。
敷地はかなり広い。この場所の土地勘などまるで持っていない僕が瑠璃葉さんを探そうとしても、とてもじゃないが見つかるはずがないので、あらかじめ彼女とどこで待ち合わせるのかを決めておいた。
大学入り口付近にある、石造りのオブジェ。そこで待っているという。
そんな像、すぐに見つかるのかなと思ったが、案外すぐに発見できた。
恐らく大理石で出来ている白亜のオブジェが、大学の入り口から十秒も歩かぬ範囲の場所にのっそりと立っている。
なんとも言えぬ見た目をしていた。審美眼の無い僕には理解不能だった。
宇宙人のコンピューターで生成した文字を立体的にしたという表現が的確なように思える。
美術家はよく分からないなと思いつつ、彼女の姿を探した。
「あっ……いたっ」
何ヶ月か経っているが、見間違えるはずが無い。像の根元の辺りに背中からもたれ掛かり、スマホを弄っている。
「瑠璃葉さんっ」
彼女に駆け寄りながら、僕は名前を呼ぶ。
声に気がついた彼女はこちらを見ると、にこりと明るい笑顔を返してくれた。
「お久しぶりです。真一さん」
「お久しぶりです。ちょっと早いですけど、大学に来ました」
「気が早いですねっ。でも、会いたかったです」
大学生になった彼女。数ヶ月程度だから当然だが、外見は何も変わった様子が無い。
ただ、雰囲気は何となく大人になっているような気がした。
「大学生」と「高校生」という属性の違いによるものなのだろうが。
「お昼ですけど、ここの食堂って関係者以外でも使えるんですか?」
「使えますよ。サラリーマンや、近所のおばちゃんが利用してるのをたまに見ます。……でも、お昼時は休日でも食堂、物凄く混むんですよね。二時ごろに行ったほうがいいかも」
そう言うわけで、見学を先にすることにした。
「はぐれない様に気をつけてくださいねっ? 手、繋いでもいいんですよ?」
「い、いやっ。止めときます」
恋人同士……ということで繋いでもいいのだろうが、何となく人にその様子を見られるのは恥ずかしいので断ってしまった。
彼女と別れる時は、周りが見ていないとはいえキスをしてしまったが、その時は勢いがあっただけで、今思い返してみると大胆なことをしてしまったなと思った。
彼女に案内されて、構内を散策する。
あの教室はこんなことをする。あそこが事務室。あの場所は図書館。
そんなことを教えてもらう。
図書館は学生証が無いと入れないとのことで、僕は利用できないらしかった。
「すっごく広いんですよ、図書館。何万冊という蔵書があって、大抵の文献は読めるんです」
「来年を楽しみにしてます」
設備を紹介している間、彼女はどこか楽しそうだった。
案内するのが面白いというよりは、僕と久しぶりに話せて嬉しいといった風だ。
彼女が東京で一人暮らしを始めて、まだ二ヶ月程度しか経っていない。
知り合いもいない状態で、慣れぬ土地にいるわけで、心細いのだろう。
そんな中僕が現れて、喜んでいるのが伝わってきた。
二時間ほどで案内は終わった。
まだ見れていない場所も多いのだが、流石にお互い疲れたし、何より昼食を食べていないのでお腹が空いていた。
というわけで、僕らは揃って食堂に向かう。
食堂はかなり広かった。高校の体育館程度より少し狭い程度の大きさがあったが、結構人がいる。
ざっと見た感じ、開いている席の方が少なく見える。
これでも平日の昼よりはかなり空いているほうらしい。
「座れなかったらどうするんですか?」
「食堂に来て『あっ、駄目だ』って思ったら、地下にある購買で何か買うか、外に出て飲食店かコンビニを利用します」
昼食とは戦争らしい。
食券を購入し、カウンターで料理を受け取ってから適当な席に二人で座る。
僕は無難にカレー、彼女は和風定食だった。
中々味は良い。
食事を口に運びながら、邪魔にならない程度に会話を試みてみる。
「瑠璃葉さん、確か経済学部でしたっけ。大変ですか?」
「ええ。やっぱりここの授業は難しいです。付いていけないことは無いんですけどね」
「サークルには入っていないってラインで言ってましたよね。学業との両立が難しいからですか?」
「そうですね。楽しそうだけど、授業についていかなきゃいけないし、それに今は自分の時間が欲しいから」
「すみません。せっかくの休日を邪魔しちゃって……」
瑠璃葉さんは首を横に振る。
「そんなことないですよっ。真一さんと久しぶりに会えて、本当に嬉しいんです。お世辞じゃないです。私……心細いんで」
「無理もないです。ほんの数ヶ月前は、まだ高校生だったんですから」
大学生という属性にはなったが、彼女の内面は高校生当時のままだった。
悪い意味で成長していないというわけではなく、その時のよさは変わらず残っている、という意味で。
「真一さんが来てくれて、活力が湧いてきました。本当にありがとうございます」
「お礼を言うのは僕の方です。今日は案内してくれてありがとうございます」
二人でくすくす笑う。
いつの間にか、僕たちは食事を終えていた。
***
「さて。腹も膨れましたし、また構内見学ですか?」
二人で食堂から出て来て、僕は彼女にそう言う。
「うーん。行ってない場所はあるけど、目ぼしいところは全部見ちゃったんですよね。……今日は終わりかなぁ」
どこか寂しそうに彼女は言う。何か案内できるところは無いかと考えているが、思いつかないようだった。
僕もここで終わるのは少し名残惜しい。何か無いかと頭の中を探る。
けどそもそもこの大学の学生というわけでもないのに、彼女以上の考えが浮かぶはずが無い。
でも、一つだけ思いついたことがあった。
断られるかなと思いつつ、その考えを口に出す。
「……瑠璃葉さんの住んでいる場所を案内してもらう……なーんて」
半分冗談。半分本気。
断られたら、潔く諦めるつもりだった。一人暮らしの女の子のプライベートにあまり干渉するべきではないから。
しかし僕の予想に反して、彼女の返しは肯定的だった。
「それっ! いいですねっ! グッドアイデアですよっ! 真一さんっ!」
目を輝かせながら、僕に指を突き出しながら彼女は言う。
僕らの周りを歩いている人が一瞬足を止め、こちらをチラリとみる。
恥ずかしい。
「確かにそうですねっ! 何も大学だけ見学する必要はないんですよ!」
「……興奮を抑えて下さい」
ここまで喜ばれるとは思っていなかった。
そんなに嬉しかったのだろうか。
彼女は小悪魔的な笑みを浮かべながら、僕の耳元に口を近づけ、囁く。
「ねえ。真一さん。……私、『溜まってる』んです。真一さんも、たぶんそうでしょっ?」
「え、ええ。人肌が恋しくなってきたなと思ってます」
「ヤりませんか? ゴムはちゃんとつけますけど」
瑠璃葉さんは顔を離すと、ニヤニヤとしながら僕の方を見つめる。
妙な色気が漂っている。
「しましょうか。あなたの家で。……案内お願いします」
喜んで。そう言うと瑠璃葉さんは僕の手を握り、大学の出口に引っ張っていく。
僕は彼女をリードすると誓ったのではないのか?
自分にそんな問いををしつつ、彼女に誘われていった。
***
彼女の住むマンションは、大学から少し離れた場所にある住宅街にあった。
中々大きく、僕の視点からすると家賃が高そうに見える。
彼女の部屋は二階にあった。
「遠慮せずに入ってください」
お邪魔しますと呟き、中に入る。
不思議と甘い香りがするように思えた。彼女の実家の自室も何となくいい匂いがするように思えたのだが、女の子の部屋は皆こうなのだろうか。
1DKの部屋だった。
台所と、風呂と、寝室。その三つで構成されている。
少し中を見た印象だと、必要最低限の物で構成されているなと思った。
嗜好品の類はあまり無く、家具や勉強道具が最たる要素だった。
「エッチなグッズ、あると思いました?」
寝室を観察している僕に、ニヤニヤしながら彼女は言う。おっさんのセクハラみたいだとつい思ってしまう。
「まあ、実はというとちょっと」
「真一さんだけしか考えられないんで、無いですよ。自分の指でするくらいです」
改めて思うと、穏やかそうだが真面目でピシッとした雰囲気を持つこの美少女が、内面には淫靡な好奇心を持っているなんて予想が付く人はあまり居ないだろうな。
嬌声を上げ乱れる様を思い出し、僕は少し唇を歪めて笑う。
瑠璃葉さんは既に準備は出来ているらしい。
早く早くと期待する目で僕を見つめている。
「久しぶりにやりましょうか。ゴムはつけて」
「ええ。服、脱ぎましょうか。真一さん」
彼女が自分の引き出しから、かなり薄いと評判のコンドームを取り出した後、僕らはベッドの傍まで行った。
シーツには皺は殆ど無かった。きっと寝相がいいのだろうな。
ベルトを外し、ズボンを脱いで下半身を露出させる。
上も脱ぎましょうよと言われたので、僕はその通りにした。
彼女の裸体は相変わらず艶やかだった。
高校生の頃とそのしなやかな肉体はまるで変わっておらず、きめ細かい瑞々しい、張りのある肌は健在だった。
あまり時間が経過しているわけではないから当然と言えば当然だが。
陰毛は綺麗に整えて剃られている。お風呂でそうしたのかなと思うと、少し微笑ましかった。
先にベッドの縁に座った瑠璃葉さんは、股を開いて自分の陰部を指で広げ、中身を晒す。
綺麗な桃色。
「ここ、舐めてください。真一さん、凄く上手いから」
彼女の頬は赤く染まっていた。挑発はしてみるけど、久しぶりだからか少し緊張しているらしい。
というか、最後に性行為をしたのは半年ほど前のイブか。
久々の彼女の肉体。彼女の感触。彼女の味。
僕は性器に顔を近づけた。大学を案内して歩き回ったためか、彼女の陰部は汗の臭いも混じっている。
汚い。とは思わなかった。
色々なものが混ざり合ったその濃い香りに、僕は少し興奮を覚える。
僕の口が、彼女の中に触れた。
塩辛い味が、口の中に広がる。
舌を秘部に這わせ、唾液で少し濡らす。
「んっ……♡」
ちろちろと舌先で肉の洞穴の入り口を愛撫する。
時々陰核を口に含み、同じように舌の上で転がす。花の種のようなクリトリスにそうしてやると、芽吹きそうなほど硬く膨らみ始める。
自分のベロを別の生き物のように、触手のように彼女の中を犯してやる。久しぶりなので巧拙がどうなのか自信が無かったが、彼女は気持ち良さそうな声をあげてくれた。
「あっ……♡やっ♡真一さんっ、上手いっ♡」
段々彼女の中が、ねっとりとした体液を分泌し始める。その蜜を啜る。濃密だ。
「そろそろっ♡いいですよっ。ゴム付けたら挿れてくださいっ♡」
名残惜しいが口を離す。箱の中から避妊具を取り出し、包装を破いて丁寧に取り付ける。
久々だったが、上手く付けることができた。
「……来て、ください」
ベッドの縁に座る彼女を、ゆっくりと押し倒す。
彼女は恥ずかしそうにしながらも、僕の目から視線を外さず、真っ直ぐ瞳を見据えていた。
「ちんちん、凄く硬くなってますよ? 私のお腹に当たってる」
「瑠璃葉さんも、あそこがビショビショになってますよ」
「挿れて、ください。久しぶりに、私を君の物にしてください」
お望みどおり、僕は膣口に天を突くかのように勃っているペニスを宛がう。ゆっくりと、その肉槍を彼女の中に沈めていった。
かなり薄いゴムだけど、流石に生の感触には敵わない。でも、久々の交尾でそんなことはすぐに頭からは消えた。
彼女の膣の中間まで入る。この辺りを擦るのが、彼女のお気に入りだった。
僕は動く。内側から、彼女を崩していくように。
先ほどの愛撫で官能がすっかり花開いた彼女は、風を切るかのような声をあげる。
「ひっ、くっ、それっ、気持ちよすぎるから駄目ぇっ♡」
「止めましょうかっ?」
「んぅっ♡っ……♡もっとしてってっ言うっ♡意味ですよっ♡」
彼女の膣内は、熱を深く湛えた沼のようになっていた。弾けんばかりの瑞々しさを溢れさせ、フリルのような生肉が、僕という侵入者を執拗に攻めたてる。
彼女の膣は複雑な形をしていた。少し侵入すると収縮し、絶妙な緩急を付けて締め付けてくる。
僕の中の快感と射精衝動を掘り起こしてくるような、そんな感触。
瑠璃葉さんは身を軽く悶えさせている。彼女も、感じている。
「真一さんっ♡真一さんっ♡っ……くっ♡」
「瑠璃葉……さんっ」
快楽を貪りたい。お互いにそう願う。より深く感じあいたいと願う。
突き入れるたびに、彼女の柔らかい胸がふるふると震える。彼女の内側の桃色のぬかるみが僕の形を刻む。
瑠璃葉さんは両手で僕を抱き寄せて、肌を極限まで密着させる。
互いの荒い呼吸が混ざり合う。熱い吐息をこれ以上無いほど感じあう。
煮立った水飴のようなとろとろとした蜜が、僕と彼女の接合部を濡らす。
至福だった。
「私っ……♡もうそろそろっ♡真一さんっ♡」
「僕も……出ますっ……」
「一番奥で出してくださいっ♡ゴム付いてるから、ねっ?」
お望みどおり、そうするつもりだ。
勢いよく彼女の最奥に突く。子宮口と鈴口が触れ合った途端、それを起爆剤として僕の先端からマグマのような液体があふれ出る。
ゴムの中をはち切れんばかりに満たしていく。
彼女が僕の唇を奪う。生温かい舌が僕の口内に侵入してくる。下も、上も繋がっている。
本能がこの娘を絶対に孕ませると決意したかのように、僕の射精は長かった。
一度波が収まり掛けたと思ったら、ドロドロと更に大量の種汁が飛び出してくる。
受精させろと精子が暴れまわっているかのようだった。
けどそんな赤ちゃんの素は、0.01ミリの壁に阻まれて一匹たりとも目的を果たせそうにない。「その時」が来るまで、お預けだ。
射精が終わった。
少し間を置いて、僕らは口付けを解く。
銀色がかった唾液が糸を引いて、僕らの間に架け橋を作っている。
「瑠璃葉さん。ありがとう」
「真一さんこそ、お疲れ様」
***
彼女に見送られつつ、マンションの部屋の外に出る。
外は少し暗くなり始めていた。冬なら真っ暗だろうが、流石に五月下旬だと日も長めだった。
「泊まっていってもいいんですよ?」
「いや、日帰りの予定なんで、泊まるってなると両親をどうにかして誤魔化さないといけなくなりますから」
「そうですか……じゃあ、お泊りはまたいつかということでっ。お気をつけて帰ってくださいねっ。真一さん」
「ええ。いつになるかは分かりませんが、また会いましょう。今日は色々、ありがとうございました」
「お礼を言うのは私のほうですよ。元気をくれて、ありがとう」
僕は手を振りながら玄関を離れていく。
次に彼女と会えるのはいつになるのかなと思いながら、東京の街を歩いた。
今は五月の下旬。
三年生に進級して、少し時間が経過した時期。
咲き誇っていた桜は今はもう散り、その枝に新緑の芽吹きが顔を出して夏の訪れを予感させる頃合。
しかし僕は、そんな春ののどかな景色とは少し遠い場所にいた。
「間も無く……渋谷。渋谷。お降りのお客様は……」
座席から立ち上がり、腕に抱えていたリュックを背負いつつ、出入り口のドアへと向かう。
土曜日だからだろう。電車の中は混み合っていて、窮屈だ。
「ちょっとすみません」と言いつつ、人々を避けて電車から降りる。
「疲れたな……」
地元から電車を乗り継いで二時間ほど。ようやく、僕は目的地の渋谷に着いた。
***
僕が大学見学をしようと思い立ったのは、四月の中頃だった。
友人と昼食を摂っている時、「荻野は志望校の大学の見学に行ったか」という話になったのだ。
まだしていないと答えると、友人は「行っておいたほうがいいよ。俺は二年の時に行った」と返してきた。
確かに、自分の志望する大学がどんな雰囲気なのかは知っておいたほうがいいだろう。
合格して通うことばかり頭にあったが、中学や高校と違って大学は関係者以外でも自由に出入りできる。
だから、見学も自由。
そう言うわけで、僕は大学見学を行うことにしたのだ。
「一応アポ取っておいたほうがいい」とアドバイスされたので、帰宅後僕は大学に電話を掛けてみる。
「自由に見学しても構いませんよ。どうぞお越しください」と、担当してくれた女性は答えてくれた。
見学するのは土曜日。高校が休みのその日に僕は東京に向かう事にした。
志望する大学の雰囲気を知る。それも勿論大きな理由なのだが、もう一つ目的があった。
瑠璃葉さんに会いたい。
大学生となった彼女に直接会いたいという想いがあった。
ラインや通話で近況報告はこまめに行っており、彼女の今の写真もたまに送られてくるのだが、やはり実際に再会したいという気持ちでいっぱいだった。
彼女は大学生活で忙しいだろう。あくまでも希望であって、もしも時間の都合がつかなければ会うのはきっぱりと諦めるつもりだった。
でも彼女に見学の話を伝えると、「丁度その日はバイトも授業も無いから、会えますよ」と返答してくれた。
「なんなら、私がガイドを務めましょうか? 私自身もあんまり教室の場所とかはまだ把握しきれてないんですが、一人で見学するよりは迷わないで済むと思いますよ」
時間の合間を縫って少し会うだけのつもりだったのだが、彼女はそう提案してくれた。
是非お願いしますと僕は頼む。彼女と一緒に大学見学か。
きっと楽しいものになるだろう。
***
渋谷駅の手ごろな出口から外に出て、バス停からバスに乗り込む。
乗客はそれなりの数がいた。
開いている座席に座り、ぼんやりと外を見ていると動き出す。
ビルが立ち並ぶ東京の景色が流れていく。人も車も建物も、僕の町とは比べ物にならない。
大学の手前の停留所もルートに入っている。学生はこのバスを使うのかな。
小刻みな揺れに身体を預けていると時々止まり、乗客が降りたり乗り込んできたりする。
次第に学生らしき人たちも増えてきた。
スマホを弄ったり、友達との会話を楽しんでいたりする。
「お前出席日数大丈夫?」
「あいつ、ガチャで同時に二体激レア当ててるのずるいよな」
「そろそろ演習の準備しないとヤバい。お前、どう?」
高校生と、あまり変わらない。
有名大学の生徒はもっとIQが高い会話をするのかなと思っていたが、意外とそうでもないらしい。
全員が全員というわけではないだろうが。
でも、幻滅したというわけではなかった。むしろその逆で、僕ら高校生と地続きの心を持っているのだなと安心した。
十分ほどで、目的地には到着した。
お金を支払い、僕は降りる。
「ここが、か」
『杜國院大学』
日本でも名の知れた国立大学。その景観自体は知っていたが、やはり実際にこの目で見てみると、圧倒される。
巨大な敷地内に何棟かの建物が並んでおり、物理的にも圧迫感があったが、どことなく漂う荘厳な雰囲気に、まだ高校生の僕は気圧されそうになった。
土曜日だが、結構な人数の人がいた。
その大半がここの生徒なのだろう。
明らかに初々しい人間……つまりはまだ高校生の僕のことだが……が入ってもいいのか少し迷ったが、見学は自由な大学だし何も卑しいことなどしていないのだと心に言いつけて、足を動かし中に入る。
敷地はかなり広い。この場所の土地勘などまるで持っていない僕が瑠璃葉さんを探そうとしても、とてもじゃないが見つかるはずがないので、あらかじめ彼女とどこで待ち合わせるのかを決めておいた。
大学入り口付近にある、石造りのオブジェ。そこで待っているという。
そんな像、すぐに見つかるのかなと思ったが、案外すぐに発見できた。
恐らく大理石で出来ている白亜のオブジェが、大学の入り口から十秒も歩かぬ範囲の場所にのっそりと立っている。
なんとも言えぬ見た目をしていた。審美眼の無い僕には理解不能だった。
宇宙人のコンピューターで生成した文字を立体的にしたという表現が的確なように思える。
美術家はよく分からないなと思いつつ、彼女の姿を探した。
「あっ……いたっ」
何ヶ月か経っているが、見間違えるはずが無い。像の根元の辺りに背中からもたれ掛かり、スマホを弄っている。
「瑠璃葉さんっ」
彼女に駆け寄りながら、僕は名前を呼ぶ。
声に気がついた彼女はこちらを見ると、にこりと明るい笑顔を返してくれた。
「お久しぶりです。真一さん」
「お久しぶりです。ちょっと早いですけど、大学に来ました」
「気が早いですねっ。でも、会いたかったです」
大学生になった彼女。数ヶ月程度だから当然だが、外見は何も変わった様子が無い。
ただ、雰囲気は何となく大人になっているような気がした。
「大学生」と「高校生」という属性の違いによるものなのだろうが。
「お昼ですけど、ここの食堂って関係者以外でも使えるんですか?」
「使えますよ。サラリーマンや、近所のおばちゃんが利用してるのをたまに見ます。……でも、お昼時は休日でも食堂、物凄く混むんですよね。二時ごろに行ったほうがいいかも」
そう言うわけで、見学を先にすることにした。
「はぐれない様に気をつけてくださいねっ? 手、繋いでもいいんですよ?」
「い、いやっ。止めときます」
恋人同士……ということで繋いでもいいのだろうが、何となく人にその様子を見られるのは恥ずかしいので断ってしまった。
彼女と別れる時は、周りが見ていないとはいえキスをしてしまったが、その時は勢いがあっただけで、今思い返してみると大胆なことをしてしまったなと思った。
彼女に案内されて、構内を散策する。
あの教室はこんなことをする。あそこが事務室。あの場所は図書館。
そんなことを教えてもらう。
図書館は学生証が無いと入れないとのことで、僕は利用できないらしかった。
「すっごく広いんですよ、図書館。何万冊という蔵書があって、大抵の文献は読めるんです」
「来年を楽しみにしてます」
設備を紹介している間、彼女はどこか楽しそうだった。
案内するのが面白いというよりは、僕と久しぶりに話せて嬉しいといった風だ。
彼女が東京で一人暮らしを始めて、まだ二ヶ月程度しか経っていない。
知り合いもいない状態で、慣れぬ土地にいるわけで、心細いのだろう。
そんな中僕が現れて、喜んでいるのが伝わってきた。
二時間ほどで案内は終わった。
まだ見れていない場所も多いのだが、流石にお互い疲れたし、何より昼食を食べていないのでお腹が空いていた。
というわけで、僕らは揃って食堂に向かう。
食堂はかなり広かった。高校の体育館程度より少し狭い程度の大きさがあったが、結構人がいる。
ざっと見た感じ、開いている席の方が少なく見える。
これでも平日の昼よりはかなり空いているほうらしい。
「座れなかったらどうするんですか?」
「食堂に来て『あっ、駄目だ』って思ったら、地下にある購買で何か買うか、外に出て飲食店かコンビニを利用します」
昼食とは戦争らしい。
食券を購入し、カウンターで料理を受け取ってから適当な席に二人で座る。
僕は無難にカレー、彼女は和風定食だった。
中々味は良い。
食事を口に運びながら、邪魔にならない程度に会話を試みてみる。
「瑠璃葉さん、確か経済学部でしたっけ。大変ですか?」
「ええ。やっぱりここの授業は難しいです。付いていけないことは無いんですけどね」
「サークルには入っていないってラインで言ってましたよね。学業との両立が難しいからですか?」
「そうですね。楽しそうだけど、授業についていかなきゃいけないし、それに今は自分の時間が欲しいから」
「すみません。せっかくの休日を邪魔しちゃって……」
瑠璃葉さんは首を横に振る。
「そんなことないですよっ。真一さんと久しぶりに会えて、本当に嬉しいんです。お世辞じゃないです。私……心細いんで」
「無理もないです。ほんの数ヶ月前は、まだ高校生だったんですから」
大学生という属性にはなったが、彼女の内面は高校生当時のままだった。
悪い意味で成長していないというわけではなく、その時のよさは変わらず残っている、という意味で。
「真一さんが来てくれて、活力が湧いてきました。本当にありがとうございます」
「お礼を言うのは僕の方です。今日は案内してくれてありがとうございます」
二人でくすくす笑う。
いつの間にか、僕たちは食事を終えていた。
***
「さて。腹も膨れましたし、また構内見学ですか?」
二人で食堂から出て来て、僕は彼女にそう言う。
「うーん。行ってない場所はあるけど、目ぼしいところは全部見ちゃったんですよね。……今日は終わりかなぁ」
どこか寂しそうに彼女は言う。何か案内できるところは無いかと考えているが、思いつかないようだった。
僕もここで終わるのは少し名残惜しい。何か無いかと頭の中を探る。
けどそもそもこの大学の学生というわけでもないのに、彼女以上の考えが浮かぶはずが無い。
でも、一つだけ思いついたことがあった。
断られるかなと思いつつ、その考えを口に出す。
「……瑠璃葉さんの住んでいる場所を案内してもらう……なーんて」
半分冗談。半分本気。
断られたら、潔く諦めるつもりだった。一人暮らしの女の子のプライベートにあまり干渉するべきではないから。
しかし僕の予想に反して、彼女の返しは肯定的だった。
「それっ! いいですねっ! グッドアイデアですよっ! 真一さんっ!」
目を輝かせながら、僕に指を突き出しながら彼女は言う。
僕らの周りを歩いている人が一瞬足を止め、こちらをチラリとみる。
恥ずかしい。
「確かにそうですねっ! 何も大学だけ見学する必要はないんですよ!」
「……興奮を抑えて下さい」
ここまで喜ばれるとは思っていなかった。
そんなに嬉しかったのだろうか。
彼女は小悪魔的な笑みを浮かべながら、僕の耳元に口を近づけ、囁く。
「ねえ。真一さん。……私、『溜まってる』んです。真一さんも、たぶんそうでしょっ?」
「え、ええ。人肌が恋しくなってきたなと思ってます」
「ヤりませんか? ゴムはちゃんとつけますけど」
瑠璃葉さんは顔を離すと、ニヤニヤとしながら僕の方を見つめる。
妙な色気が漂っている。
「しましょうか。あなたの家で。……案内お願いします」
喜んで。そう言うと瑠璃葉さんは僕の手を握り、大学の出口に引っ張っていく。
僕は彼女をリードすると誓ったのではないのか?
自分にそんな問いををしつつ、彼女に誘われていった。
***
彼女の住むマンションは、大学から少し離れた場所にある住宅街にあった。
中々大きく、僕の視点からすると家賃が高そうに見える。
彼女の部屋は二階にあった。
「遠慮せずに入ってください」
お邪魔しますと呟き、中に入る。
不思議と甘い香りがするように思えた。彼女の実家の自室も何となくいい匂いがするように思えたのだが、女の子の部屋は皆こうなのだろうか。
1DKの部屋だった。
台所と、風呂と、寝室。その三つで構成されている。
少し中を見た印象だと、必要最低限の物で構成されているなと思った。
嗜好品の類はあまり無く、家具や勉強道具が最たる要素だった。
「エッチなグッズ、あると思いました?」
寝室を観察している僕に、ニヤニヤしながら彼女は言う。おっさんのセクハラみたいだとつい思ってしまう。
「まあ、実はというとちょっと」
「真一さんだけしか考えられないんで、無いですよ。自分の指でするくらいです」
改めて思うと、穏やかそうだが真面目でピシッとした雰囲気を持つこの美少女が、内面には淫靡な好奇心を持っているなんて予想が付く人はあまり居ないだろうな。
嬌声を上げ乱れる様を思い出し、僕は少し唇を歪めて笑う。
瑠璃葉さんは既に準備は出来ているらしい。
早く早くと期待する目で僕を見つめている。
「久しぶりにやりましょうか。ゴムはつけて」
「ええ。服、脱ぎましょうか。真一さん」
彼女が自分の引き出しから、かなり薄いと評判のコンドームを取り出した後、僕らはベッドの傍まで行った。
シーツには皺は殆ど無かった。きっと寝相がいいのだろうな。
ベルトを外し、ズボンを脱いで下半身を露出させる。
上も脱ぎましょうよと言われたので、僕はその通りにした。
彼女の裸体は相変わらず艶やかだった。
高校生の頃とそのしなやかな肉体はまるで変わっておらず、きめ細かい瑞々しい、張りのある肌は健在だった。
あまり時間が経過しているわけではないから当然と言えば当然だが。
陰毛は綺麗に整えて剃られている。お風呂でそうしたのかなと思うと、少し微笑ましかった。
先にベッドの縁に座った瑠璃葉さんは、股を開いて自分の陰部を指で広げ、中身を晒す。
綺麗な桃色。
「ここ、舐めてください。真一さん、凄く上手いから」
彼女の頬は赤く染まっていた。挑発はしてみるけど、久しぶりだからか少し緊張しているらしい。
というか、最後に性行為をしたのは半年ほど前のイブか。
久々の彼女の肉体。彼女の感触。彼女の味。
僕は性器に顔を近づけた。大学を案内して歩き回ったためか、彼女の陰部は汗の臭いも混じっている。
汚い。とは思わなかった。
色々なものが混ざり合ったその濃い香りに、僕は少し興奮を覚える。
僕の口が、彼女の中に触れた。
塩辛い味が、口の中に広がる。
舌を秘部に這わせ、唾液で少し濡らす。
「んっ……♡」
ちろちろと舌先で肉の洞穴の入り口を愛撫する。
時々陰核を口に含み、同じように舌の上で転がす。花の種のようなクリトリスにそうしてやると、芽吹きそうなほど硬く膨らみ始める。
自分のベロを別の生き物のように、触手のように彼女の中を犯してやる。久しぶりなので巧拙がどうなのか自信が無かったが、彼女は気持ち良さそうな声をあげてくれた。
「あっ……♡やっ♡真一さんっ、上手いっ♡」
段々彼女の中が、ねっとりとした体液を分泌し始める。その蜜を啜る。濃密だ。
「そろそろっ♡いいですよっ。ゴム付けたら挿れてくださいっ♡」
名残惜しいが口を離す。箱の中から避妊具を取り出し、包装を破いて丁寧に取り付ける。
久々だったが、上手く付けることができた。
「……来て、ください」
ベッドの縁に座る彼女を、ゆっくりと押し倒す。
彼女は恥ずかしそうにしながらも、僕の目から視線を外さず、真っ直ぐ瞳を見据えていた。
「ちんちん、凄く硬くなってますよ? 私のお腹に当たってる」
「瑠璃葉さんも、あそこがビショビショになってますよ」
「挿れて、ください。久しぶりに、私を君の物にしてください」
お望みどおり、僕は膣口に天を突くかのように勃っているペニスを宛がう。ゆっくりと、その肉槍を彼女の中に沈めていった。
かなり薄いゴムだけど、流石に生の感触には敵わない。でも、久々の交尾でそんなことはすぐに頭からは消えた。
彼女の膣の中間まで入る。この辺りを擦るのが、彼女のお気に入りだった。
僕は動く。内側から、彼女を崩していくように。
先ほどの愛撫で官能がすっかり花開いた彼女は、風を切るかのような声をあげる。
「ひっ、くっ、それっ、気持ちよすぎるから駄目ぇっ♡」
「止めましょうかっ?」
「んぅっ♡っ……♡もっとしてってっ言うっ♡意味ですよっ♡」
彼女の膣内は、熱を深く湛えた沼のようになっていた。弾けんばかりの瑞々しさを溢れさせ、フリルのような生肉が、僕という侵入者を執拗に攻めたてる。
彼女の膣は複雑な形をしていた。少し侵入すると収縮し、絶妙な緩急を付けて締め付けてくる。
僕の中の快感と射精衝動を掘り起こしてくるような、そんな感触。
瑠璃葉さんは身を軽く悶えさせている。彼女も、感じている。
「真一さんっ♡真一さんっ♡っ……くっ♡」
「瑠璃葉……さんっ」
快楽を貪りたい。お互いにそう願う。より深く感じあいたいと願う。
突き入れるたびに、彼女の柔らかい胸がふるふると震える。彼女の内側の桃色のぬかるみが僕の形を刻む。
瑠璃葉さんは両手で僕を抱き寄せて、肌を極限まで密着させる。
互いの荒い呼吸が混ざり合う。熱い吐息をこれ以上無いほど感じあう。
煮立った水飴のようなとろとろとした蜜が、僕と彼女の接合部を濡らす。
至福だった。
「私っ……♡もうそろそろっ♡真一さんっ♡」
「僕も……出ますっ……」
「一番奥で出してくださいっ♡ゴム付いてるから、ねっ?」
お望みどおり、そうするつもりだ。
勢いよく彼女の最奥に突く。子宮口と鈴口が触れ合った途端、それを起爆剤として僕の先端からマグマのような液体があふれ出る。
ゴムの中をはち切れんばかりに満たしていく。
彼女が僕の唇を奪う。生温かい舌が僕の口内に侵入してくる。下も、上も繋がっている。
本能がこの娘を絶対に孕ませると決意したかのように、僕の射精は長かった。
一度波が収まり掛けたと思ったら、ドロドロと更に大量の種汁が飛び出してくる。
受精させろと精子が暴れまわっているかのようだった。
けどそんな赤ちゃんの素は、0.01ミリの壁に阻まれて一匹たりとも目的を果たせそうにない。「その時」が来るまで、お預けだ。
射精が終わった。
少し間を置いて、僕らは口付けを解く。
銀色がかった唾液が糸を引いて、僕らの間に架け橋を作っている。
「瑠璃葉さん。ありがとう」
「真一さんこそ、お疲れ様」
***
彼女に見送られつつ、マンションの部屋の外に出る。
外は少し暗くなり始めていた。冬なら真っ暗だろうが、流石に五月下旬だと日も長めだった。
「泊まっていってもいいんですよ?」
「いや、日帰りの予定なんで、泊まるってなると両親をどうにかして誤魔化さないといけなくなりますから」
「そうですか……じゃあ、お泊りはまたいつかということでっ。お気をつけて帰ってくださいねっ。真一さん」
「ええ。いつになるかは分かりませんが、また会いましょう。今日は色々、ありがとうございました」
「お礼を言うのは私のほうですよ。元気をくれて、ありがとう」
僕は手を振りながら玄関を離れていく。
次に彼女と会えるのはいつになるのかなと思いながら、東京の街を歩いた。
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