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メイド喫茶と下克上
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土曜日。
朝七時に目覚めた僕は、私服に着替えて朝食を食べる。
「休みなのに早いわね」と母に言われた僕は、「友人の学校で文化祭があるから」と答えた。
文化祭である程度食事を取るつもりだったので、軽めの朝食にしておいた。
トーストと目玉焼きを胃袋に収めると、一旦自室に戻る。
もう彼女は起きているかな。
ラインで彼女にメッセージを送ると、一分程度で返事が返ってきた。
「おはようございます! 早いですね。文化祭の開始時刻は、九時からなんですが」
「楽しみで、ちょっと早く起きてしまったんです。牧本さんは、もう学校で準備してるんですか?」
「今から出発するところです。今日は楽しみにしててくださいね。私のシフトは十一時からなんで、その頃に来ればたぶん私の方から荻野さんに接客できるんで」
「十一時ですね。それまでどこかの催し物で時間を潰してます」
「あんまり私たちのメイド喫茶のクオリティは期待しないでくださいね? 本当に高校生のお遊び程度で、本物とは比較にならないんで」
「まあ、牧本さんがいれば楽しめると思います」
そろそろ彼女を出発させないといけないのでそこで会話を終わらす。
開始時刻の九時になったら家を出よう。
そう思いながら、鞄に必要そうなものを詰めていった。
九時。
家を出た僕は、自転車で『藤坂院学園』に向かっていた。
彼女の学校に行くのは初めてだ。外装くらいは知っているが、中がどうなっているのかは見たことが無い。
女子高か。あまりイメージ付かないが。
僕の家から二十分ほど自転車を走らせ、高校の付近まで来る。
道行く途中、僕と同じく学園祭が目的と思わしき人が何人かいた。
結構盛り上がっているだろうな。と思いながら、僕は彼女の学び舎に赴いた。
『藤坂院学園』
中高一貫の、偏差値が高めの進学校。
有名大学へと何人も送り出している、この辺りの地域ではエリートと呼べる学校だった。
海外との交流もあり、留学生制度を積極的に採用している。
正直、僕から見たら雲の上の存在だった。
そんな学校に通う牧本さんと知り合いになれ、しかもやや過剰だが好意を抱かれている自分は、幸運なのだろう。
「ここが、会場か……」
彼女の高校に着いた。
元々外装自体は知っていたが、やっぱり案外普通の見た目の建物だよなと思った。
やや敷地は広いし、小奇麗な印象はあるが、ややステレオタイプのマンガで見るような、城壁めいた施設では全くない。
どこにでもあるような、極々普通の高校だった。
入り口付近には受付が設置されていた。係員役の女子生徒からパンフレットを貰い、会場となる建物に僕は近づいていく。
かなり人は多かった。あのお嬢様学園の中がどうなっているのか、気になる人も多いのだろう。
下駄箱からスリッパに履き替える。人の邪魔にならないように、壁際でスマホを操作し時計を確認すると、九時四十分だった。
牧本さんが出てくるまで、後一時間と少しある。
それまで、高校見学でもしようか。
スマホをポケットに仕舞い、僕は廊下を歩き始めた。
ある程度内部の見学や催しに参加し、この高校の雰囲気は掴めて来た。
エリートだからさぞかしきっちりとしているのだろうと予想はしていたが、案外緩い面も感じられた。
女子生徒たちは意外にも「近寄りがたいお嬢様」という風ではなく、いや、勿論育ちのよさはひしひしと感じられたが、等身大の女子高生の範疇からは外れてはいなかった。
ある意味、当然とも言えるだろう。一般的な教育と倫理を学んできて、普通の十数年を生きてきたのなら、普通の高校生とさほど変わらない内面を持つことになる。
文化祭は楽しかった。生徒たちは自分たちの作ったアクセサリーや食品を販売していて、いくつか僕は記念にそれを購入した。
食べ物はあまり食べると、彼女のメイド喫茶での食事に支障が出そうなので控えめにしたが。
美術部が制作した絵画や、簡単な演劇を観ていると、約束の時間の十分前になっていた。
そろそろ行くべきだろう。
3-C。パンフレットによると、第一校舎の三階にあるらしい。彼女の言ったとおり、メイド喫茶が出展されていると書いてあった。
少し急ぐか。
僕はそう思い、目的の場所へとやや駆け足気味で移動した。
「……あった。ここだな」
牧本さんのクラスの出展しているメイド喫茶の前に辿り着く。
閉められた扉には、厚紙にマジックで店の名前が書かれていた。
『藤坂院☆ニャンニャン』
どうも間抜けなネーミングセンスな気もするが、僕ら高校生の文化祭程度ならこんなものだろう。
早く、彼女のメイド姿を見てみたい。
入り口には、メイド服を着た女子生徒が客引きをしていた。
近づいていくと、「ご利用するご主人様ですか?」と声を掛けられる。
「ええ。そうです。一名です」
「ありがとうございます! それでは、中へどうぞ」
彼女の手により扉ががらがらと横に開けられ、クラスの内装が目に飛び込んでくる。
まず最初に意識させられたのは、何人もいるメイド姿の女の子たちだった。
皆フリフリの服を着ていて、可憐な色気を持つオーラを漂わせている。
「お帰りなさいませ! ご主人様!」
接客をしたり、奥で食事を用意しているメイドさんたちが、来店した僕にそう呼びかけてくれる。
「あっ! 荻野さんっ!」
聞き覚えのある声とともに、一人のメイドさんが僕の方へとやってきた。
牧本さんだ。
「こんにちは。牧本さん。約束どおり、来ましたよ」
「へへへ。嬉しいですっ。……どうです? 私のメイド姿」
全身を隈なく見つめる。
他の生徒の物をぼんやりと見ていた時は意識しなかったが、意外と本格的な服だなとまず思った。
ネットを巡回している時にたまに広告に出てくる質の悪いコスプレAVの衣装とは何か違う。
「あっ、気づきました? これ、ちょっと高いレンタルショップから皆でお金出し合って借りた奴なんです」
「なるほど。それでか」
「私、可愛くなれてますか?」
いつも可愛い。というのは置いておいて、正直胸がときめいた。
黒をベースとした服の上に、純白のエプロンドレスを身に纏ったその服装。
若干短めのスカートの端には幾重にもフリルが付いていて、妙な色気を放っている。
胸の辺りにはチャームポイントの紐状のネクタイが付けられている。可愛い。
頭にはメイドさんがよくつけている飾り……確か、「ホワイトブリム」というのだが、が載せられている。
メイドと言われて頭に浮かぶ衣装。牧本さんは、そんな典型的な服を着ていた。
愛くるしい。
光源も無いのに、彼女は輝いて見えた。
きめ細かい頬は微かに赤みを帯び、どこかしおらしい。
「ええ。とっても可愛いです」
「そ、そんな風に言われると照れますね……。まあ、早速お席に付いてください」
僕は彼女に誘われて、開いている席に腰掛けられる。
メニューを見ると、ジュースやらスナック菓子の盛り付けといった食事を出してくれることが分かった。
オムライスのような手料理は出ないらしい。あんまり手の込んだ料理を出すとなると、衛生に気を使わなくてはいけないからだろう。
ジュースとクッキーを牧本さんに注文すると、彼女はそれを用意するために、机を一列に並べて仕切られた準備場へと向かっていった。
値段が割高な気がするが、こういう場所は雰囲気を楽しむことが主目的なので、あまり細かいことは考えないことにする。
席は授業で使っている机を四つほどくっ付けて並べた席だった。
普通の食堂と比べて入るのが恥ずかしいからか、それともまだ早い時間帯だからなのかは分からないが、僕の他に「ご主人様」は三人程度だった。
……座っていると、妙な視線と共に女子の会話が聞こえて来た。
「瑠璃葉、あの男の人誰? 凄く親しそうにしてたけど」
「友達? もしかして、彼氏?」
「そ、そんなんじゃないよ。……中学生の頃のクラスメイト」
僕のことを話しているらしい。牧本さんが嘘を付いたことも分かった。
「セックスをする仲」なんて言える訳がないから、当然だが。
しばらく待つと、注文したものを持って彼女が僕の席にやってくる。
「お待たせしましたっ、ご主人様っ」
いざやってみると流石に恥ずかしいらしく、声が上ずっているのが分かった。
その反応がとても愛嬌があって、僕の胸がドキリと鳴る。
彼女は僕の席に食事を置いた。紙製のコップと皿だ。
クッキーは、市販されている既製品だったが、やや量が多い気がする。
「『彼氏にサービスしてあげなさいよ』って言われちゃって……三つくらい余分に乗せたんです」
彼氏、か。
まだ彼女と恋人の関係になったつもりはない。かといって、「友達」というにはかなり度を過ぎたことばかりやってしまっている。
「私、荻野さんと一緒に食べますね。……荻野さんのお世話しなかったらしなかったで、友達に何か言われそうなんで」
そう言って、彼女は僕の隣の席に座る。
牧本さんのクラスメイト……恐らくは彼女の友人の視線が突き刺さるが、無視することにした。
気を紛らわすため、会話に興じることにする。
「いい雰囲気のお店ですね。あの黒板に描いてある絵も上手いし、メイドさんは皆可愛いし」
「そうですか? ありがとうございます。流石に以前誘った喫茶店みたいな食事のサービスはできませんが……」
「いや、こういうのはやる気と熱意が大切なんですよ」
「でも、まだあんまりお客さん来てません……。メイド喫茶は受けづらいのかな……」
「まだ文化祭は始まったばかりですよ。大丈夫。元気出してください。高校最後の文化祭なんですから」
牧本さんはコクリと頷いた。
「ありがとう」と恥ずかしそうに言う。しおらしいな。
「ごめんなさいね。なんか、私の友達があることないこと噂始めちゃって……」
さっきから感じる好奇の目が痛い。
「結構格好良くない?」
「瑠璃葉、ああいうのがタイプなんだ」
「私にも男の子、紹介して欲しいなぁ」
そんな言葉が聞こえて来る。
お嬢様学校の生徒だろうが、好きな話題はどの学校でもあまり変わらないらしい。
「……元気ですね」
「まあ、凄く親しい友人たちなんですけどね」
話を変えよう。
「牧本さんは、どうして陸上部に入ったんですか? やっぱり、運動が好きだったんです?」
「うーん。それもあるんですけど、やっぱり気持ちいいんです。身体を思いっきり動かすと」
「僕はどっちかというとインドア派だけど、何となく気持ちは分かります」
「全力で自分の力を出し切って、それで汗を流すの、昔から好きなんです。……セックスもそれに似てるから、好きなのかも」
あの性欲はそれだけじゃ説明つかない気がするが、言わないでおく。
「……荻野さん、志望する大学は決まりましたか?」
「……まだ、です。模試の時は暫定で第一志望などを決めましたけど、どこに行くのかは、まだ」
嘘を付いてしまった。
本当は決まっている。心に決めている。
貴女と同じ大学に行く。貴女と同じ学び舎に通う。貴女と肩を並べられる場所に行く。
そこ以外、行くつもりは無い。
でも、言わなかった。
恥ずかしいというのもあるが、もしも同じ大学を受けると言ってしまったら、彼女は自分がこの町にいるうちに、全力で僕のことをサポートしようとする気がしたから。
そうしたら、彼女が自分の勉強に割ける時間が減ってしまう。
合格が、遠のいてしまうかもしれない。
だから、言わない。彼女が合格通知を貰うまでは。
「そうですか……。でも、なるべく急いだほうがいいですよ? 過去問を研究する時間を取る必要もありますし」
「ええ。時間がありませんからね。できるだけ早く決めます」
僕の気持ちは、彼女に気がつかれているだろうか。
彼女は勘がいいから、既に察しているかもしれない。
けれど、黙っておいたほうがいいのだろう。
話している間に、ジュースとクッキーは食べ終わってしまった。
「そろそろ、僕は出ます。あんまり長居すると、牧本さんの友人の誤解が加速しそうな気がするんで」
「分かりました。じゃあ、ご主人様。またお越しくださいね」
結局、僕らはご主人様とメイドとしてではなく、荻野真一と牧本瑠璃葉としての会話をしてしまった。
でも、これでもいいのだろう。
これはこれで、楽しい会話だった。
僕は彼女に軽く会釈をしつつ、教室を出る。
さて、これからどうしよう。時計を見ると、もうじき正午になるという時分だった。
もう少し長居しても構わないだろう。クッキーとジュースだけじゃ、高校生の食べ盛りの腹は満たせない。
パンフレットを見ると、屋上で焼き蕎麦を売っているらしいと分かった。
そこに行って、昼食にしよう。
僕は地図を確認しつつ、その場所に向かった。
***
二時間が経過した。
腹を満たした僕は、校内見学を続けていたが、段々見るものが無くなってきた。
そろそろ帰ってもいいかなと思った時、ポケットの中のスマホがバイブを鳴らす。
「あっ、牧本さんからだ」
ラインの通知。
「もう帰っちゃいました?」と一言メッセージが書き込まれている。
「まだ学校にいます。でも、今から帰ろうかなと考えていたところです」と返信。
三十秒程度で返事が返ってきた。
「第一校舎の下駄箱の所で待ち合わせしませんか? 私、二時間ほど休憩入るんで、また会えますよ」
「分かりました。すぐに行きます」
端末を仕舞うと、僕は約束した場所に行く。
人ごみが激しい。彼女の姿はまだ無い。
壁際によりかかり、スマホでネットを見ながら牧本さんを待つ。
「お待たせしましたっ」
彼女の声だ。振り向いてその方向を見て、少し僕は驚いた。
彼女はあのメイド服のままだった。あの可愛らしい服装のまま、僕に会いに来た。
「あれ、どうしたんですかその格好。てっきり私服に着替えてくるのかと思いました」
「へへへ……宣伝になるからこの服のままで行っていいよって言われたんです。ちょっと恥ずかしいけど」
照れているが、満更嫌でもないらしい。
「じゃあ、一緒に何か見に行きますか。この後の時間から、体育館で吹奏楽部による演奏会があるそうですよ」
「あの……私のわがまま、聞いて貰えますか?」
「ええ。大体目ぼしい場所には行きましたけど、牧本さんと一緒にならどこでも大丈夫ですよ」
「……メイド服着た私と、エッチしたいと思ったりしません?」
「えっ……」
何となく読めてはいたが、驚きのベクトルが少し違った。
まさか、学校で?
「学校でセックスはマズくないですか……? 見つかったら社会的に死ぬかも……」
「でも、絶対に見つからない場所、知ってるんです。それに、ちょっと興奮しませんか? 背徳感味わえますよ……?」
「いや、でも、男の臭い付いちゃうのは……その服、レンタルですよね?」
「返却する前にクリーニングに出すんで大丈夫です。終わったら私自身に香水かけて誤魔化すんで」
変な勇気があるな。学年的には一応後輩の身だが、若干彼女が心配になる。
でも、メイド姿の彼女を抱いてみたいという欲求はあった。
少々破廉恥な服装をした彼女と、学校でセックスする。
この機会を逃せば、もう二度とこんなシチュエーションは無いだろう。
好奇心が刺激される。
悩んだが、僕は結論を出した。
「……分かりました。やりましょう。その、絶対に見つからないって場所に案内してください」
「はいっ! ご奉仕させていただきますねっ!」
弾けるような笑顔で、可憐なメイドはそう言った。
***
下駄箱で靴に履き替えて、校内から外に出る。
そこから高校と外部を分け隔てる外壁をぐるりと回り、正門からは正反対の場所まで来た。
何やら大きな建物がある。
周囲に人影は無い。生徒の出し物も無いし、来場者の姿も無かった。
「ここ、何なんですか?」
僕の質問に、彼女は分かりやすく答えてくれる。
「今は使われていない体育館です。正式な体育館は別にあるんですけど、こっちの小さなほうは老朽化が進んで、来年には取り壊すとか」
「なるほど。入れるんですか?」
「正面からは鍵が掛かっているんですけど、実は裏口の鍵は閉め忘れてるんです」
裏口に回る。分厚い扉には大きな「かんぬき」が掛けられていたが、試しに取っ手を握って引いてみると、ずっしりとした感覚と共に扉が開く。
「このこと、生徒の間ではそこそこ知られてるんですけど、誰も先生には教えてないんです。意外と皆、秘密主義なんですよね」
「知られてるってことは、誰か生徒がここに来る可能性は?」
「それは低いと思います。今は文化祭。皆そっちに夢中で、こんな場所は忘れてると思いますよ」
そういうものなのかな。
僕たち二人は、中へと入っていった。
体育館の中は、そこそこ広かった。確かに床が傷ついたり、穴が開いたりしていて快適に使えるとは思えない。
そもそも広いとは言っても、この学園の現生徒の人数を収めるには全然足りないので、使われなくなるのも納得だった。
「こっちこっち。この物置の中でやりましょう」
入ってみると、中にはマットやら跳び箱が大量に置かれていた。
ボロボロになったり汚れていたりしていて、授業に使うのは難しそうだ。だからここに放置されているのだろう。
「この陰でやりましょ。埃、意外と積もってないですよ」
そこは周囲を三つほどの跳び箱で囲まれた中に敷かれているマットの上だった。
丁度死角となる場所で、いい感じに隠れられる。
「ええ。そこでやりますか。でもメイド服、汚れちゃいません?」
「後でよく叩き落としておきます。さっ、エッチしましょう?」
どこでそんな表情を覚えたのだろう。
目をうっとりと細め、艶やかな唇を引き締める。頬は薄紅色に染まっていて、夢魔を思わせる顔を僕に見せてきた。
「私、パンツだけ脱ぎます。全部脱いじゃったら、メイド服着てやる意味無いから。荻野さんはズボン脱いでください」
僕らはその通りにする。彼女はその黒い下着を、太股に引っ掛ける形で脱ぐ。
僕はベルトを下ろし、性器を露出させた。
「伸長位、やりますか。足を伸ばして寝転がってる女の子に男の子が覆いかぶさる奴。クリトリスが刺激されるらしいですよ」
「それ、やってみます」
早く早くと催促してくる。正直僕も、メイド服の彼女をもう抱きたかった。
ゴムは彼女が持っていた。万一の時に備え、いつでもポケットに入れているらしい。
誰かに見つかったらどうするのだろう。まあ、僕も財布にゴムを仕舞っているからお互い様なのだが。
彼女はマットに横たわり、だらんと両手を頭の上に置く。
「ほら、来てください。……ご主人様」
僕は彼女のスカートを軽く捲くり、マットに両手を付き華奢な体に覆いかぶさるようにする。
そして、その湿った性器に僕のペニスを沈め始めた。
「んっ♡ちんちん入ってきたっ♡」
僕の挿入は膣の中程で止まる。伸長位とはそう言うもので、挿入が浅くなりやすい。
その分射精までの時間が伸び、長くセックスを楽しめる……というものだ。
ただ、彼女は二時間程度しか休憩できないので、ある程度で終わらせる必要があるだろう。
正直、この体位はある程度体力がいる。
男側の上半身は腕立て伏せのような状態になっているからだ。
「動きますよ……」
僕はピストンを開始する。
ゆっくりと、雁で彼女の内肉を擦りつける。
陰毛と陰毛が擦り合わされる。彼女の秘豆が、僕の肌に触れ合う。
「やっ♡あそこっ♡こすっ、れてっ♡」
「どうですかっ?」
「まえやった時っ、みたいにっ、膣の途中で擦るのっ、反則ですよっ♡」
「気持ち良さそうですね……」
「もっとやってくださいっ。ご主人様ぁ♡私の……お、おまんこ? をご自由にお使いください……♡」
年上の、学年的には先輩に当たる彼女に「ご主人様」と言われながら甘えられる。
それがなんとも甘美で、嗜虐心を擽られて、もっともっと彼女を愉しませたくなる。
「可愛がってあげますよ。僕のメイドさん」
「キスっ。キスしてくださいっ♡」
言われたとおりにする。僕は若干上半身の力を抜き、彼女の顔に口を近づけ接吻した。
久しぶりのキス。彼女の唇は瑞々しくて、赤ん坊の肌のようだった。
「んんっ♡んんんっ♡」
十秒程度だろうか。苦しくなってきたので僕の方から口付けを離す。
鼻で息をすればいいのに、何となくそれを聞かれたくなくていつもやらないでいる。
「んふふふ……ご主人様、凄く気持ち良さそう……」
「君は優秀なメイドですから」
ご主人様とそれに従うメイドを僕らは演じていた。
主従の過ち。肉欲に犯された主持ち。
「ご主人様にとって私は単なる性処理用具程度の存在ですっ……♡ご主人様のことを考えると私、とってもあそこがきゅんきゅんしてきてっ♡」
妙なスイッチが入り始めた。
「もっと苛めてあげますよっ……。ちゃんと気持ちよくしてくださいね……っ」
「私っ、ご主人様に一生従ってもいいですっ♡私を荻野さんの下にずっと置いてくださいっ♡」
「ええっ……。一生僕に付いてきてくださいっ」
彼女の瞳はとろんとして、今にも崩れ落ちそうなくらいに蕩けていた。
淫乱なメイドになりきっている。
ご主人様が好きで好きでたまらない……もしかしたら、懐妊して妻になってもいいと思っているかもしれない従者になりきっている。
「ご主人様っ♡ご主人様っ♡」
口から粘度の高い涎が糸を引き、頬を伝ってマットを軽く濡らす。
意識も理性も、ドロドロに溶けて広がっていく。
「ふふっ……ご主人様、目が虚ろですよっ……♡私の中に種付けしたいんじゃないですかっ?」
「い、いやっ、そんな……」
浅く挿入しているのだが、正直なところこの主従関係の演技による精神的快楽が射精衝動を上乗せしている。
気持ちいい。
その時だった。
閉めておいたはずの倉庫のドアが、がらがらと音を立てて開く。
僕らの肩が跳ねる。誰かが入ってきた。
「疲れたな……一服するか」
跳び箱の側面に開いている隙間から向こう側を覗き見る。
中年の男性。恐らく教師だ。どうして。ここは知られてないはずではなかったのか。
不幸中の幸いで、かなり高く積まれた跳び箱が死角になって、彼から僕らは見えないらしかった。
男はポケットからライターとタバコを取り出し、火を付けて咥える。
煙の臭いが漂ってくる。
頭の中が真っ白になっているのは、副流煙のせいだけではないだろう。
「ここ、男性教諭のタバコを吸うスペースにもなってたんですね……私、知らなかった」
「どうするんですかっ。見つかったら終わりですよ……」
繋がったまま、お互いにようやく聞こえる程度のか細い声で僕らは会話する。
仮に彼に見つかったら、僕らは怒鳴られるだけではすまないだろう。
彼女も僕も、退学もありえる。
牧本さんは僕と同じく張り詰めた表情をしていたが、突然フッとにやけた。
嫌な予感がする。
「ねえ。ご主人様? もしも見つかったら、マズいことになりますね」
「ええ。勿論です。息を殺していないと……」
「私がここで大声を出したら、どうなると思います?」
「そ、それは……」
そんなことをされたら僕は破滅する。いや、彼女もか。
「私はまだ身内ってことで何とかなるかもしれませんけど、ご主人様はよそ者ですよね? きっと大変なことになっちゃいますねっ」
「や、止めてください……」
彼女には露出癖のようなものがある。男性教諭にこの交尾を見せ付けるために本当にやりかねない。
どうすればいいんだ。
「ねえ。提案があるんです」
「な、何ですか」
「……このままイっちゃいませんか? スリル、あると思いますよ」
「いや、声、出ちゃうし……」
彼女にペースを握られている。
主従関係が逆転している。
急に、膣の締め付けが強くなった気がした。下半身に彼女が力を入れているらしい。
だらんと伸ばしていた手で、急に僕の胴を抱きしめてきた。
「っ……!ぅっ……!」
「ほらほら、出しちゃいましょうよ。♡ご主人様ならきっと声を我慢できますよっ?♡」
「ぐっ、う、……っ」
抱きよせた僕の耳に、彼女が囁く。
「見つかったら困るのはご主人様ですよっ?♡出しちゃえば、頭もアソコもすっきりして、黙っていられると思いますよっ?♡」
「で、でも……っ」
こんな状況なのに。ペニスが萎えてもおかしくないのに。彼女の膣の感度はそれを許してくれない。
駄目だ。出る。
吐精してしまう。
「ご奉仕してあげますよっ♡私が動きますねっ♡」
「や、やめ……」
早く去ってくれ。タバコを吸うのを止めて帰ってくれ。
牧本さんの肉襞は僕の性器を的確に刺激する。
「ご主人様の伴侶にしてくださいっ♡子供ができちゃうくらい、ゴムが破れるくらいビュッと出してくださいっ♡」
「っ……ううっ……」
何でこんなにいやらしい表情ができるんだ。何でこんなに僕らは相性がいいんだ。
最後の一突きが、彼女の中に迎え入れられる。
我慢の限界だった。
精液が、彼女の中に放たれる。仮に避妊具がなければ彼女の中で芽吹くであろう濃度の種がゴムの中に溢れかえる。
「くっ……っ、ぐ、うっ……」
「……っ♡♡♡」
必死に声を殺す。彼女も、僕も。
背徳感。学び舎という場で不純な行為をしていることの。
胴体に回した彼女の腕の締め付けが強くなる。「一生あなたに添い遂げます」という意思を表すかのように。
射精は永遠にも感じた。実際は数秒程度だったのかもしれないが、絶頂に顔を歪ませる僕にとっては何倍もの時間にも思える。
「っはぁ。……はあ……」
「んっ……♡」
荒く吐かれそうになる息を堪える。
そうしている間に、一服していた教師は倉庫を出てどこかに消えていった。
最後まで、僕らの存在に気が付いた様子は無い。
タバコの臭いが充満している。
「はぁ……はあ……。やっと、行きましたね……」
「声、我慢できましたねっ♡偉いですよっ、ご主人様っ」
「外でっ、吸えば良かったのに……っ。外だと煙で喫煙してることがバレるのか……っ」
僕は彼女から、性器を引き抜く。
ゴムの中は大量の体液で満たされている。
「メイド服にそれ、零さないでくださいねっ。精液って落ちにくいんで」
役目を終えた避妊具をティッシュで三重に包み込み、鞄の中に入れる。
彼女は自分の体に香水を吹きかけ、男の臭いを誤魔化そうとしていた。
適当に細工をして、ここで交接があったことを悟られないようにしてから、僕らは体育館を出る。
スマホで時間を見ると、一時間半が経とうとしていた。
「ご主人……荻野さんはこれからどうします? 私はメイド喫茶のシフトがこれからあるんですけど」
「家に帰ろうと思います。……凄く疲れた」
メイドと主人の下克上。彼女には本当に敵わない。
……仮に、もしもの仮の話だが、将来結婚するとしたら、たぶん僕は尻に敷かれそうだ。
「いつまでもお慕いしてますよっ。ご主人様っ」
牧本さんは顔を少し傾け、にこりと太陽のような笑顔を僕に向けてくれた。
朝七時に目覚めた僕は、私服に着替えて朝食を食べる。
「休みなのに早いわね」と母に言われた僕は、「友人の学校で文化祭があるから」と答えた。
文化祭である程度食事を取るつもりだったので、軽めの朝食にしておいた。
トーストと目玉焼きを胃袋に収めると、一旦自室に戻る。
もう彼女は起きているかな。
ラインで彼女にメッセージを送ると、一分程度で返事が返ってきた。
「おはようございます! 早いですね。文化祭の開始時刻は、九時からなんですが」
「楽しみで、ちょっと早く起きてしまったんです。牧本さんは、もう学校で準備してるんですか?」
「今から出発するところです。今日は楽しみにしててくださいね。私のシフトは十一時からなんで、その頃に来ればたぶん私の方から荻野さんに接客できるんで」
「十一時ですね。それまでどこかの催し物で時間を潰してます」
「あんまり私たちのメイド喫茶のクオリティは期待しないでくださいね? 本当に高校生のお遊び程度で、本物とは比較にならないんで」
「まあ、牧本さんがいれば楽しめると思います」
そろそろ彼女を出発させないといけないのでそこで会話を終わらす。
開始時刻の九時になったら家を出よう。
そう思いながら、鞄に必要そうなものを詰めていった。
九時。
家を出た僕は、自転車で『藤坂院学園』に向かっていた。
彼女の学校に行くのは初めてだ。外装くらいは知っているが、中がどうなっているのかは見たことが無い。
女子高か。あまりイメージ付かないが。
僕の家から二十分ほど自転車を走らせ、高校の付近まで来る。
道行く途中、僕と同じく学園祭が目的と思わしき人が何人かいた。
結構盛り上がっているだろうな。と思いながら、僕は彼女の学び舎に赴いた。
『藤坂院学園』
中高一貫の、偏差値が高めの進学校。
有名大学へと何人も送り出している、この辺りの地域ではエリートと呼べる学校だった。
海外との交流もあり、留学生制度を積極的に採用している。
正直、僕から見たら雲の上の存在だった。
そんな学校に通う牧本さんと知り合いになれ、しかもやや過剰だが好意を抱かれている自分は、幸運なのだろう。
「ここが、会場か……」
彼女の高校に着いた。
元々外装自体は知っていたが、やっぱり案外普通の見た目の建物だよなと思った。
やや敷地は広いし、小奇麗な印象はあるが、ややステレオタイプのマンガで見るような、城壁めいた施設では全くない。
どこにでもあるような、極々普通の高校だった。
入り口付近には受付が設置されていた。係員役の女子生徒からパンフレットを貰い、会場となる建物に僕は近づいていく。
かなり人は多かった。あのお嬢様学園の中がどうなっているのか、気になる人も多いのだろう。
下駄箱からスリッパに履き替える。人の邪魔にならないように、壁際でスマホを操作し時計を確認すると、九時四十分だった。
牧本さんが出てくるまで、後一時間と少しある。
それまで、高校見学でもしようか。
スマホをポケットに仕舞い、僕は廊下を歩き始めた。
ある程度内部の見学や催しに参加し、この高校の雰囲気は掴めて来た。
エリートだからさぞかしきっちりとしているのだろうと予想はしていたが、案外緩い面も感じられた。
女子生徒たちは意外にも「近寄りがたいお嬢様」という風ではなく、いや、勿論育ちのよさはひしひしと感じられたが、等身大の女子高生の範疇からは外れてはいなかった。
ある意味、当然とも言えるだろう。一般的な教育と倫理を学んできて、普通の十数年を生きてきたのなら、普通の高校生とさほど変わらない内面を持つことになる。
文化祭は楽しかった。生徒たちは自分たちの作ったアクセサリーや食品を販売していて、いくつか僕は記念にそれを購入した。
食べ物はあまり食べると、彼女のメイド喫茶での食事に支障が出そうなので控えめにしたが。
美術部が制作した絵画や、簡単な演劇を観ていると、約束の時間の十分前になっていた。
そろそろ行くべきだろう。
3-C。パンフレットによると、第一校舎の三階にあるらしい。彼女の言ったとおり、メイド喫茶が出展されていると書いてあった。
少し急ぐか。
僕はそう思い、目的の場所へとやや駆け足気味で移動した。
「……あった。ここだな」
牧本さんのクラスの出展しているメイド喫茶の前に辿り着く。
閉められた扉には、厚紙にマジックで店の名前が書かれていた。
『藤坂院☆ニャンニャン』
どうも間抜けなネーミングセンスな気もするが、僕ら高校生の文化祭程度ならこんなものだろう。
早く、彼女のメイド姿を見てみたい。
入り口には、メイド服を着た女子生徒が客引きをしていた。
近づいていくと、「ご利用するご主人様ですか?」と声を掛けられる。
「ええ。そうです。一名です」
「ありがとうございます! それでは、中へどうぞ」
彼女の手により扉ががらがらと横に開けられ、クラスの内装が目に飛び込んでくる。
まず最初に意識させられたのは、何人もいるメイド姿の女の子たちだった。
皆フリフリの服を着ていて、可憐な色気を持つオーラを漂わせている。
「お帰りなさいませ! ご主人様!」
接客をしたり、奥で食事を用意しているメイドさんたちが、来店した僕にそう呼びかけてくれる。
「あっ! 荻野さんっ!」
聞き覚えのある声とともに、一人のメイドさんが僕の方へとやってきた。
牧本さんだ。
「こんにちは。牧本さん。約束どおり、来ましたよ」
「へへへ。嬉しいですっ。……どうです? 私のメイド姿」
全身を隈なく見つめる。
他の生徒の物をぼんやりと見ていた時は意識しなかったが、意外と本格的な服だなとまず思った。
ネットを巡回している時にたまに広告に出てくる質の悪いコスプレAVの衣装とは何か違う。
「あっ、気づきました? これ、ちょっと高いレンタルショップから皆でお金出し合って借りた奴なんです」
「なるほど。それでか」
「私、可愛くなれてますか?」
いつも可愛い。というのは置いておいて、正直胸がときめいた。
黒をベースとした服の上に、純白のエプロンドレスを身に纏ったその服装。
若干短めのスカートの端には幾重にもフリルが付いていて、妙な色気を放っている。
胸の辺りにはチャームポイントの紐状のネクタイが付けられている。可愛い。
頭にはメイドさんがよくつけている飾り……確か、「ホワイトブリム」というのだが、が載せられている。
メイドと言われて頭に浮かぶ衣装。牧本さんは、そんな典型的な服を着ていた。
愛くるしい。
光源も無いのに、彼女は輝いて見えた。
きめ細かい頬は微かに赤みを帯び、どこかしおらしい。
「ええ。とっても可愛いです」
「そ、そんな風に言われると照れますね……。まあ、早速お席に付いてください」
僕は彼女に誘われて、開いている席に腰掛けられる。
メニューを見ると、ジュースやらスナック菓子の盛り付けといった食事を出してくれることが分かった。
オムライスのような手料理は出ないらしい。あんまり手の込んだ料理を出すとなると、衛生に気を使わなくてはいけないからだろう。
ジュースとクッキーを牧本さんに注文すると、彼女はそれを用意するために、机を一列に並べて仕切られた準備場へと向かっていった。
値段が割高な気がするが、こういう場所は雰囲気を楽しむことが主目的なので、あまり細かいことは考えないことにする。
席は授業で使っている机を四つほどくっ付けて並べた席だった。
普通の食堂と比べて入るのが恥ずかしいからか、それともまだ早い時間帯だからなのかは分からないが、僕の他に「ご主人様」は三人程度だった。
……座っていると、妙な視線と共に女子の会話が聞こえて来た。
「瑠璃葉、あの男の人誰? 凄く親しそうにしてたけど」
「友達? もしかして、彼氏?」
「そ、そんなんじゃないよ。……中学生の頃のクラスメイト」
僕のことを話しているらしい。牧本さんが嘘を付いたことも分かった。
「セックスをする仲」なんて言える訳がないから、当然だが。
しばらく待つと、注文したものを持って彼女が僕の席にやってくる。
「お待たせしましたっ、ご主人様っ」
いざやってみると流石に恥ずかしいらしく、声が上ずっているのが分かった。
その反応がとても愛嬌があって、僕の胸がドキリと鳴る。
彼女は僕の席に食事を置いた。紙製のコップと皿だ。
クッキーは、市販されている既製品だったが、やや量が多い気がする。
「『彼氏にサービスしてあげなさいよ』って言われちゃって……三つくらい余分に乗せたんです」
彼氏、か。
まだ彼女と恋人の関係になったつもりはない。かといって、「友達」というにはかなり度を過ぎたことばかりやってしまっている。
「私、荻野さんと一緒に食べますね。……荻野さんのお世話しなかったらしなかったで、友達に何か言われそうなんで」
そう言って、彼女は僕の隣の席に座る。
牧本さんのクラスメイト……恐らくは彼女の友人の視線が突き刺さるが、無視することにした。
気を紛らわすため、会話に興じることにする。
「いい雰囲気のお店ですね。あの黒板に描いてある絵も上手いし、メイドさんは皆可愛いし」
「そうですか? ありがとうございます。流石に以前誘った喫茶店みたいな食事のサービスはできませんが……」
「いや、こういうのはやる気と熱意が大切なんですよ」
「でも、まだあんまりお客さん来てません……。メイド喫茶は受けづらいのかな……」
「まだ文化祭は始まったばかりですよ。大丈夫。元気出してください。高校最後の文化祭なんですから」
牧本さんはコクリと頷いた。
「ありがとう」と恥ずかしそうに言う。しおらしいな。
「ごめんなさいね。なんか、私の友達があることないこと噂始めちゃって……」
さっきから感じる好奇の目が痛い。
「結構格好良くない?」
「瑠璃葉、ああいうのがタイプなんだ」
「私にも男の子、紹介して欲しいなぁ」
そんな言葉が聞こえて来る。
お嬢様学校の生徒だろうが、好きな話題はどの学校でもあまり変わらないらしい。
「……元気ですね」
「まあ、凄く親しい友人たちなんですけどね」
話を変えよう。
「牧本さんは、どうして陸上部に入ったんですか? やっぱり、運動が好きだったんです?」
「うーん。それもあるんですけど、やっぱり気持ちいいんです。身体を思いっきり動かすと」
「僕はどっちかというとインドア派だけど、何となく気持ちは分かります」
「全力で自分の力を出し切って、それで汗を流すの、昔から好きなんです。……セックスもそれに似てるから、好きなのかも」
あの性欲はそれだけじゃ説明つかない気がするが、言わないでおく。
「……荻野さん、志望する大学は決まりましたか?」
「……まだ、です。模試の時は暫定で第一志望などを決めましたけど、どこに行くのかは、まだ」
嘘を付いてしまった。
本当は決まっている。心に決めている。
貴女と同じ大学に行く。貴女と同じ学び舎に通う。貴女と肩を並べられる場所に行く。
そこ以外、行くつもりは無い。
でも、言わなかった。
恥ずかしいというのもあるが、もしも同じ大学を受けると言ってしまったら、彼女は自分がこの町にいるうちに、全力で僕のことをサポートしようとする気がしたから。
そうしたら、彼女が自分の勉強に割ける時間が減ってしまう。
合格が、遠のいてしまうかもしれない。
だから、言わない。彼女が合格通知を貰うまでは。
「そうですか……。でも、なるべく急いだほうがいいですよ? 過去問を研究する時間を取る必要もありますし」
「ええ。時間がありませんからね。できるだけ早く決めます」
僕の気持ちは、彼女に気がつかれているだろうか。
彼女は勘がいいから、既に察しているかもしれない。
けれど、黙っておいたほうがいいのだろう。
話している間に、ジュースとクッキーは食べ終わってしまった。
「そろそろ、僕は出ます。あんまり長居すると、牧本さんの友人の誤解が加速しそうな気がするんで」
「分かりました。じゃあ、ご主人様。またお越しくださいね」
結局、僕らはご主人様とメイドとしてではなく、荻野真一と牧本瑠璃葉としての会話をしてしまった。
でも、これでもいいのだろう。
これはこれで、楽しい会話だった。
僕は彼女に軽く会釈をしつつ、教室を出る。
さて、これからどうしよう。時計を見ると、もうじき正午になるという時分だった。
もう少し長居しても構わないだろう。クッキーとジュースだけじゃ、高校生の食べ盛りの腹は満たせない。
パンフレットを見ると、屋上で焼き蕎麦を売っているらしいと分かった。
そこに行って、昼食にしよう。
僕は地図を確認しつつ、その場所に向かった。
***
二時間が経過した。
腹を満たした僕は、校内見学を続けていたが、段々見るものが無くなってきた。
そろそろ帰ってもいいかなと思った時、ポケットの中のスマホがバイブを鳴らす。
「あっ、牧本さんからだ」
ラインの通知。
「もう帰っちゃいました?」と一言メッセージが書き込まれている。
「まだ学校にいます。でも、今から帰ろうかなと考えていたところです」と返信。
三十秒程度で返事が返ってきた。
「第一校舎の下駄箱の所で待ち合わせしませんか? 私、二時間ほど休憩入るんで、また会えますよ」
「分かりました。すぐに行きます」
端末を仕舞うと、僕は約束した場所に行く。
人ごみが激しい。彼女の姿はまだ無い。
壁際によりかかり、スマホでネットを見ながら牧本さんを待つ。
「お待たせしましたっ」
彼女の声だ。振り向いてその方向を見て、少し僕は驚いた。
彼女はあのメイド服のままだった。あの可愛らしい服装のまま、僕に会いに来た。
「あれ、どうしたんですかその格好。てっきり私服に着替えてくるのかと思いました」
「へへへ……宣伝になるからこの服のままで行っていいよって言われたんです。ちょっと恥ずかしいけど」
照れているが、満更嫌でもないらしい。
「じゃあ、一緒に何か見に行きますか。この後の時間から、体育館で吹奏楽部による演奏会があるそうですよ」
「あの……私のわがまま、聞いて貰えますか?」
「ええ。大体目ぼしい場所には行きましたけど、牧本さんと一緒にならどこでも大丈夫ですよ」
「……メイド服着た私と、エッチしたいと思ったりしません?」
「えっ……」
何となく読めてはいたが、驚きのベクトルが少し違った。
まさか、学校で?
「学校でセックスはマズくないですか……? 見つかったら社会的に死ぬかも……」
「でも、絶対に見つからない場所、知ってるんです。それに、ちょっと興奮しませんか? 背徳感味わえますよ……?」
「いや、でも、男の臭い付いちゃうのは……その服、レンタルですよね?」
「返却する前にクリーニングに出すんで大丈夫です。終わったら私自身に香水かけて誤魔化すんで」
変な勇気があるな。学年的には一応後輩の身だが、若干彼女が心配になる。
でも、メイド姿の彼女を抱いてみたいという欲求はあった。
少々破廉恥な服装をした彼女と、学校でセックスする。
この機会を逃せば、もう二度とこんなシチュエーションは無いだろう。
好奇心が刺激される。
悩んだが、僕は結論を出した。
「……分かりました。やりましょう。その、絶対に見つからないって場所に案内してください」
「はいっ! ご奉仕させていただきますねっ!」
弾けるような笑顔で、可憐なメイドはそう言った。
***
下駄箱で靴に履き替えて、校内から外に出る。
そこから高校と外部を分け隔てる外壁をぐるりと回り、正門からは正反対の場所まで来た。
何やら大きな建物がある。
周囲に人影は無い。生徒の出し物も無いし、来場者の姿も無かった。
「ここ、何なんですか?」
僕の質問に、彼女は分かりやすく答えてくれる。
「今は使われていない体育館です。正式な体育館は別にあるんですけど、こっちの小さなほうは老朽化が進んで、来年には取り壊すとか」
「なるほど。入れるんですか?」
「正面からは鍵が掛かっているんですけど、実は裏口の鍵は閉め忘れてるんです」
裏口に回る。分厚い扉には大きな「かんぬき」が掛けられていたが、試しに取っ手を握って引いてみると、ずっしりとした感覚と共に扉が開く。
「このこと、生徒の間ではそこそこ知られてるんですけど、誰も先生には教えてないんです。意外と皆、秘密主義なんですよね」
「知られてるってことは、誰か生徒がここに来る可能性は?」
「それは低いと思います。今は文化祭。皆そっちに夢中で、こんな場所は忘れてると思いますよ」
そういうものなのかな。
僕たち二人は、中へと入っていった。
体育館の中は、そこそこ広かった。確かに床が傷ついたり、穴が開いたりしていて快適に使えるとは思えない。
そもそも広いとは言っても、この学園の現生徒の人数を収めるには全然足りないので、使われなくなるのも納得だった。
「こっちこっち。この物置の中でやりましょう」
入ってみると、中にはマットやら跳び箱が大量に置かれていた。
ボロボロになったり汚れていたりしていて、授業に使うのは難しそうだ。だからここに放置されているのだろう。
「この陰でやりましょ。埃、意外と積もってないですよ」
そこは周囲を三つほどの跳び箱で囲まれた中に敷かれているマットの上だった。
丁度死角となる場所で、いい感じに隠れられる。
「ええ。そこでやりますか。でもメイド服、汚れちゃいません?」
「後でよく叩き落としておきます。さっ、エッチしましょう?」
どこでそんな表情を覚えたのだろう。
目をうっとりと細め、艶やかな唇を引き締める。頬は薄紅色に染まっていて、夢魔を思わせる顔を僕に見せてきた。
「私、パンツだけ脱ぎます。全部脱いじゃったら、メイド服着てやる意味無いから。荻野さんはズボン脱いでください」
僕らはその通りにする。彼女はその黒い下着を、太股に引っ掛ける形で脱ぐ。
僕はベルトを下ろし、性器を露出させた。
「伸長位、やりますか。足を伸ばして寝転がってる女の子に男の子が覆いかぶさる奴。クリトリスが刺激されるらしいですよ」
「それ、やってみます」
早く早くと催促してくる。正直僕も、メイド服の彼女をもう抱きたかった。
ゴムは彼女が持っていた。万一の時に備え、いつでもポケットに入れているらしい。
誰かに見つかったらどうするのだろう。まあ、僕も財布にゴムを仕舞っているからお互い様なのだが。
彼女はマットに横たわり、だらんと両手を頭の上に置く。
「ほら、来てください。……ご主人様」
僕は彼女のスカートを軽く捲くり、マットに両手を付き華奢な体に覆いかぶさるようにする。
そして、その湿った性器に僕のペニスを沈め始めた。
「んっ♡ちんちん入ってきたっ♡」
僕の挿入は膣の中程で止まる。伸長位とはそう言うもので、挿入が浅くなりやすい。
その分射精までの時間が伸び、長くセックスを楽しめる……というものだ。
ただ、彼女は二時間程度しか休憩できないので、ある程度で終わらせる必要があるだろう。
正直、この体位はある程度体力がいる。
男側の上半身は腕立て伏せのような状態になっているからだ。
「動きますよ……」
僕はピストンを開始する。
ゆっくりと、雁で彼女の内肉を擦りつける。
陰毛と陰毛が擦り合わされる。彼女の秘豆が、僕の肌に触れ合う。
「やっ♡あそこっ♡こすっ、れてっ♡」
「どうですかっ?」
「まえやった時っ、みたいにっ、膣の途中で擦るのっ、反則ですよっ♡」
「気持ち良さそうですね……」
「もっとやってくださいっ。ご主人様ぁ♡私の……お、おまんこ? をご自由にお使いください……♡」
年上の、学年的には先輩に当たる彼女に「ご主人様」と言われながら甘えられる。
それがなんとも甘美で、嗜虐心を擽られて、もっともっと彼女を愉しませたくなる。
「可愛がってあげますよ。僕のメイドさん」
「キスっ。キスしてくださいっ♡」
言われたとおりにする。僕は若干上半身の力を抜き、彼女の顔に口を近づけ接吻した。
久しぶりのキス。彼女の唇は瑞々しくて、赤ん坊の肌のようだった。
「んんっ♡んんんっ♡」
十秒程度だろうか。苦しくなってきたので僕の方から口付けを離す。
鼻で息をすればいいのに、何となくそれを聞かれたくなくていつもやらないでいる。
「んふふふ……ご主人様、凄く気持ち良さそう……」
「君は優秀なメイドですから」
ご主人様とそれに従うメイドを僕らは演じていた。
主従の過ち。肉欲に犯された主持ち。
「ご主人様にとって私は単なる性処理用具程度の存在ですっ……♡ご主人様のことを考えると私、とってもあそこがきゅんきゅんしてきてっ♡」
妙なスイッチが入り始めた。
「もっと苛めてあげますよっ……。ちゃんと気持ちよくしてくださいね……っ」
「私っ、ご主人様に一生従ってもいいですっ♡私を荻野さんの下にずっと置いてくださいっ♡」
「ええっ……。一生僕に付いてきてくださいっ」
彼女の瞳はとろんとして、今にも崩れ落ちそうなくらいに蕩けていた。
淫乱なメイドになりきっている。
ご主人様が好きで好きでたまらない……もしかしたら、懐妊して妻になってもいいと思っているかもしれない従者になりきっている。
「ご主人様っ♡ご主人様っ♡」
口から粘度の高い涎が糸を引き、頬を伝ってマットを軽く濡らす。
意識も理性も、ドロドロに溶けて広がっていく。
「ふふっ……ご主人様、目が虚ろですよっ……♡私の中に種付けしたいんじゃないですかっ?」
「い、いやっ、そんな……」
浅く挿入しているのだが、正直なところこの主従関係の演技による精神的快楽が射精衝動を上乗せしている。
気持ちいい。
その時だった。
閉めておいたはずの倉庫のドアが、がらがらと音を立てて開く。
僕らの肩が跳ねる。誰かが入ってきた。
「疲れたな……一服するか」
跳び箱の側面に開いている隙間から向こう側を覗き見る。
中年の男性。恐らく教師だ。どうして。ここは知られてないはずではなかったのか。
不幸中の幸いで、かなり高く積まれた跳び箱が死角になって、彼から僕らは見えないらしかった。
男はポケットからライターとタバコを取り出し、火を付けて咥える。
煙の臭いが漂ってくる。
頭の中が真っ白になっているのは、副流煙のせいだけではないだろう。
「ここ、男性教諭のタバコを吸うスペースにもなってたんですね……私、知らなかった」
「どうするんですかっ。見つかったら終わりですよ……」
繋がったまま、お互いにようやく聞こえる程度のか細い声で僕らは会話する。
仮に彼に見つかったら、僕らは怒鳴られるだけではすまないだろう。
彼女も僕も、退学もありえる。
牧本さんは僕と同じく張り詰めた表情をしていたが、突然フッとにやけた。
嫌な予感がする。
「ねえ。ご主人様? もしも見つかったら、マズいことになりますね」
「ええ。勿論です。息を殺していないと……」
「私がここで大声を出したら、どうなると思います?」
「そ、それは……」
そんなことをされたら僕は破滅する。いや、彼女もか。
「私はまだ身内ってことで何とかなるかもしれませんけど、ご主人様はよそ者ですよね? きっと大変なことになっちゃいますねっ」
「や、止めてください……」
彼女には露出癖のようなものがある。男性教諭にこの交尾を見せ付けるために本当にやりかねない。
どうすればいいんだ。
「ねえ。提案があるんです」
「な、何ですか」
「……このままイっちゃいませんか? スリル、あると思いますよ」
「いや、声、出ちゃうし……」
彼女にペースを握られている。
主従関係が逆転している。
急に、膣の締め付けが強くなった気がした。下半身に彼女が力を入れているらしい。
だらんと伸ばしていた手で、急に僕の胴を抱きしめてきた。
「っ……!ぅっ……!」
「ほらほら、出しちゃいましょうよ。♡ご主人様ならきっと声を我慢できますよっ?♡」
「ぐっ、う、……っ」
抱きよせた僕の耳に、彼女が囁く。
「見つかったら困るのはご主人様ですよっ?♡出しちゃえば、頭もアソコもすっきりして、黙っていられると思いますよっ?♡」
「で、でも……っ」
こんな状況なのに。ペニスが萎えてもおかしくないのに。彼女の膣の感度はそれを許してくれない。
駄目だ。出る。
吐精してしまう。
「ご奉仕してあげますよっ♡私が動きますねっ♡」
「や、やめ……」
早く去ってくれ。タバコを吸うのを止めて帰ってくれ。
牧本さんの肉襞は僕の性器を的確に刺激する。
「ご主人様の伴侶にしてくださいっ♡子供ができちゃうくらい、ゴムが破れるくらいビュッと出してくださいっ♡」
「っ……ううっ……」
何でこんなにいやらしい表情ができるんだ。何でこんなに僕らは相性がいいんだ。
最後の一突きが、彼女の中に迎え入れられる。
我慢の限界だった。
精液が、彼女の中に放たれる。仮に避妊具がなければ彼女の中で芽吹くであろう濃度の種がゴムの中に溢れかえる。
「くっ……っ、ぐ、うっ……」
「……っ♡♡♡」
必死に声を殺す。彼女も、僕も。
背徳感。学び舎という場で不純な行為をしていることの。
胴体に回した彼女の腕の締め付けが強くなる。「一生あなたに添い遂げます」という意思を表すかのように。
射精は永遠にも感じた。実際は数秒程度だったのかもしれないが、絶頂に顔を歪ませる僕にとっては何倍もの時間にも思える。
「っはぁ。……はあ……」
「んっ……♡」
荒く吐かれそうになる息を堪える。
そうしている間に、一服していた教師は倉庫を出てどこかに消えていった。
最後まで、僕らの存在に気が付いた様子は無い。
タバコの臭いが充満している。
「はぁ……はあ……。やっと、行きましたね……」
「声、我慢できましたねっ♡偉いですよっ、ご主人様っ」
「外でっ、吸えば良かったのに……っ。外だと煙で喫煙してることがバレるのか……っ」
僕は彼女から、性器を引き抜く。
ゴムの中は大量の体液で満たされている。
「メイド服にそれ、零さないでくださいねっ。精液って落ちにくいんで」
役目を終えた避妊具をティッシュで三重に包み込み、鞄の中に入れる。
彼女は自分の体に香水を吹きかけ、男の臭いを誤魔化そうとしていた。
適当に細工をして、ここで交接があったことを悟られないようにしてから、僕らは体育館を出る。
スマホで時間を見ると、一時間半が経とうとしていた。
「ご主人……荻野さんはこれからどうします? 私はメイド喫茶のシフトがこれからあるんですけど」
「家に帰ろうと思います。……凄く疲れた」
メイドと主人の下克上。彼女には本当に敵わない。
……仮に、もしもの仮の話だが、将来結婚するとしたら、たぶん僕は尻に敷かれそうだ。
「いつまでもお慕いしてますよっ。ご主人様っ」
牧本さんは顔を少し傾け、にこりと太陽のような笑顔を僕に向けてくれた。
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