私とエッチしませんか?

徒花

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ある夜の出来事(瑠璃葉視点)

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「……行っちゃった」

 結局私は、荻野さんの姿が見えなくなるまで見送っていた。
 家の中に入り、自室に戻る。
 戦場となったベッドのシーツはしわくちゃのベドベトだった。やれやれと思いながらシーツを外し、一階の洗濯機に放り込む。
 寝る前に代わりのシーツを出しておかないと。
 時刻は午後六時。そろそろ夕食の時間だった。台所に行き、冷蔵庫を開けると、母が出張に行く前に用意しておいてくれた夕食が置いてある。
 内容は豚肉のソテーだった。
 もう子供じゃないんだから、自分で用意できるのに。
 そう思いつつ、私はそれを電子レンジで温める。しばらく待っていると、軽い電子音が温め終わったことを告げた。
 保温していたご飯を茶碗に盛り、これまた用意されていた味噌汁を沸かしてから、リビングに運んでそれを食べる。
 テレビを点けると、有名なニュース番組をやっていた。花形キャスターが原稿を読み上げ、最近あった出来事を滑らかに伝えている。
 私は食事を口に運びながら、それを観ていた。
 彼も、夕食を食べている頃だろうか。今日は肉欲のまま、本能のまま彼と接してしまった。
 私の悪い癖だなと反省する。
 彼と面と向かって接していると、どうにもエッチな気分になってきて、ブレーキが利かなくなるのだ。
 彼に引かれていないといいけど。

「……荻野さんと積極的に関わるようになったのは、なんでだっけ」

 初めは好奇心だった。
 この歳になっても男性経験が無いことを恥じて、たまたま見つけた彼に無理を言って肉体関係を結んだのだ。
 受験勉強のストレス解消の意味もだいぶあったが、それが最たる目的だった気がする。
 結構無茶なお願いをしたなと自分でも思う。
 初めはフェラだけだったのが、どんどんエスカレートしていって、今では中出しまで許してしまいそうになっていた。
 今日彼に「赤ちゃんを産んであげてもいい」と言ったのは、半分本気だった。
 もう半分は、年下の可愛い彼をからかう気持ち。
「止めておけ」と僅かな理性が呟いたけど、いつかは箍が外れて誘惑してしまいそうで、自分が怖い。
 何で彼に対して、こんなに情欲が湧いてくるのだろう。
 いや、本当に性欲だけなのだろうか。
 荻野さん以外の男には、体を許す気は全く無かった。お金を積まれても、セックスしてあげるつもりは無い。身体だって、触らせたくない。
 もしも初め出会ったのが、荻野さん以外の男でも、こんな自制が働いていただろうか。

「……私、彼の内面も好きになっちゃったんだな……」

 優しい彼が好きだった。私の勉強を真摯に聞いてくれる彼が好きだった。わがままを受け入れてくれる彼が好きだった。セックスが終わった後、頭を撫でてくれる彼が好きだった。
 彼の性器も身体も好みだったけど、精神的に繋がっている、心の充足感を満たしてくれる「荻野真一」という人間が好きだった。
 抱きしめて、愛してくれて、私を必要としてくれて。
 そんな彼に自分の全てを捧げてもいいと思うようになってしまっていた。
 高校生の幼い恋愛かもしれない。
 十年後、二十年後になったら失笑してしまうような代物かもしれない。
 一緒に大型遊園地に行ったわけでもない。高級な服を二人で選んだり、お洒落な喫茶店で食事をしたりしたわけでもない。
 それでも。
 セックスという肉体の関係が、彼との接点の多くを占めていても。
 それでも彼が『好き』なのだ。
 いつの間にか、私は夕食を食べ終わっていた。
 ニュースの内容は殆ど頭に入っていない。
 片付けるか。と、使い終わった食器を洗浄機まで持って行き、中に入れてスイッチを押す。
 階段を上がり、二階の自室に入る。受験勉強の時間だった。
 暗い部屋の電気を点けて、闇を追い払う。勉強机の傍に置かれた椅子に腰掛けて「よしっ」と気合をいれた。
 志望する大学の過去問題集を開き、それを解いていく。
 難しい。無理だと言うほどでもないが、流石に難関大学として知られるだけあって、レベルが高かった。
 七月の下旬頃にやった模試の結果は、B判定だった。もっと追い込みをかけなくては、合格できない。
 頭を捻り、脳内に閃きが降りて来て、また頭を捻ることを繰り返す。
 出来たら答えあわせをして、何が間違えていたのかをよく理解するように心掛ける。
 気がついたら、三時間が経過していた。
 昼間はセックスに興じていたのに、まだ余力が残っている自分の集中力と体力に驚く。
 高校生の肉体と精神力に感謝だな。

「でも、そろそろ休憩しようかな……」

 両腕を頭の上で組み、背筋をピンと伸ばす。ううんと思わず呻きが出てしまい、私は少し苦笑した。
 何して休憩しようかなと思っていると、ポケットに入れたスマホのバイブが鳴り出す。
 手に取り画面を見ると、荻野さんからラインが来ていた。
 こんなメッセージだ。

「今日はありがとうございます。疲れたでしょうし、ゆっくりと身体を休めてください。筋肉痛になるといけませんから」

 優しいな。胸の奥が少しときめいた。
 私はスマホをタップして、こんな返答をする。

「ありがとうございます。荻野さんこそ、しっかり寝てくださいね」

 返信に既読が付く。少しの間を置いてから、彼からの通知が届く。

「あの、ちょっとお聞きしたいことがあるんですが、大丈夫ですか?」

 何だろう。「いいですよ。私に答えられる範囲なら」と返事を送る。
 少しの間を置いて、彼からのメッセージが届いた。
 それは、こんな内容だった。

「帰りにゴムを捨てるときに気がついたんですが、一つ足りない気がしたんです。その時は気のせいかなと思ったんですけど、今考えていたらやっぱり少ない気がして。もしかして、牧本さんの家に置き忘れてしまったとか無いですよね?」

 ……。
 私は少しタイミングを遅らせてから、無言でそれを入力する。

「今部屋を確認しましたけど、そんな物は無かったです。気のせいだと思いますよっ! 何回もやっちゃったし、数え間違えてるのかも」

「そうですか。それならいいんですけど」と、彼が送ってくる。その後は、軽い雑談をして会話は終了した。

「……。ムラムラしてきたな……」

 お腹の奥が疼く。彼と話していたら、オナニーをしたくなってきた。
 昼間にあんなに求めたのに、猿みたいだと自嘲する。
 私は腰を浮かし、穿いていたスパッツと、ちょっと背伸びしたパンツを腿の辺りに引っ掛けるようにして下ろす。
 下半身が露出する。首を下に曲げると、両の太股の継ぎ目の辺りに、軽く伸びた陰毛と、幾度も彼を受け入れてきた自分の性器が見える。
 折角家に一人きりなのだ。思い切ったことをしてみたい。
 私は一つの考えが浮かび、それを実行する。
 机の上に載っていた、先ほどまで筆記をしていたシャープペンシル。それを手に取り、芯の出るほうでない側を自分の割れ目に宛がう。
 あそこは既に湿っている。私は手にしたその筆記具を、少しづつ中に沈めていった。

「んっ、ああっ、ひゃっ!」

 硬い。彼の性器や、指なんかとは全然違う感触。人の肉体とは違う、無機質な感触。
 内側を侵食していくその触感に、私の身体は痺れた。
 半分まで入れた所で挿入を止める。抜けなくなったら困るからだ。
 指を離してみると、そのプラスチック製の棒は私の性器に咥え込まれてしっかりと固定されて、まるで男性器が生えて来ているかのようにも見えた。

「はぁ……んっ……ああ……」

 もう一本、入れてみてもいいよね。
 参考書にしおり代わりに挟まれていた赤のボールペンを引き抜く。
 先ほど突っ込んだシャープペンシルの横に、そのペンを沈み込ませ始めた。

「んんんぅ……いやぁぁぁっ……」

 二本は流石にきつかったかなと思うが、挿入を止められない。
 お腹の奥を硬質の物体に刺激される感覚。入ってきた異物をきゅうきゅうと締め付ける、私の膣。
 そのペンも、同じく半分まで入れられた。普段私が使用している筆記用具が二本、私の中に入っている。
 動かしてみても、いいよね。
 指でその棒を恐る恐る突いてみると、先端がてこの原理で動いて内奥を刺激する。

「はぐっ、ううう……」

 僅かな動きでも、私の肉壁は妙な快楽を感じ取っていた。
 私に刺さる物をマドラーに見立てて、くちゅくちゅと音を立てさせながら掻きまわす。
 癖になってしまいそう。膣口からはねっとりとした粘液が溢れ、私の座っている椅子にいやらしい染みを作っていく。
 ペンも椅子も、後で汚れを拭きとっておかないとなと頭の片隅で考えながら、私は自慰に励んだ。

「駄目っ、来ちゃうっ……!」

 一突きを入れると、私の中の波が均衡を崩した。
 びくびくと身体が痙攣し、性器からは蜜が零れる。筆記用具でオナニーして、イってしまった。

「はあ……はぁ……やっちゃったなぁ……」

 自分の変態さを自覚しつつ、挿入していた物を引き抜く。
 少し濁った、べどべととした液体に塗れたペンが内側から出てくる。
 よく洗っておかないと、臭くなってしまうし不衛生だろう。
 内側に火が付いてしまっているのを感じる。お腹の奥が切なさで疼く。
 もうちょっと愉しみたい。

「……そうだ。いや、でも……あれは……」

 私は「とあるもの」の存在を思い出し、少し悩んだ。
 一歩間違えれば、取り返しの付かないことになりかねない代物だ。
 それを使って気持ちよくなれるかも分からない。大変な過ちを犯すことになるかもしれない。自分だけの責任ではすまないことになるかもしれない。
 でも、十代の好奇心を抑え付けることは出来なかった。
 私は机に備え付けられている引き出しを開けて「それ」を取り出す。
 親にも、学校の友人にも、今の荻野さんにもちょっと見せられないもの。

「……」

 すぐに破れてしまうのではないかと思うほどの薄い膜。その中に詰まった白いもの。口の部分はしっかりと結ばれていて、中のどろどろとしたその液体が漏れ出ないようにされていた。

 それは、昼間彼とセックスをした時、こっそり隠した使用済みコンドームだった。

***

 先ほど彼がラインで訊いてきた、今日使ったコンドームが一つ足りないんだけど知らないかという質問。
 私は知らないと答えたけれど、それは真っ赤な嘘だった。
 彼との何回目かの交接の直後、一瞬の隙を見計らって一つを隠してしまった。
 始めはそんなつもりなど無かったのだが、手が動いていた。
 魔が差した。と言えばいいのだろうか。
 ごめんなさいと言い出そうかとも思ったのだが、そのタイミングを逃してしまった。

「……嘘、付いちゃったな」

 罪悪感。でも、それと同じくらい、私の中には好奇心と性欲もあった。
 これ、破れないように私の中に入れてみたいな。
 変態だ。
 精子が今でも泳ぎまわっている、濃密な精液の入ったゴム。
 私の膣内にその淫靡な水風船を入れてみる。ちょっとまともな思考ではないと自分でも思う。
 もしも破れてしまったら、中に出されたのと同じ。貪欲な精子は私の中を泳ぎ進んで、目ざとく見つけた新鮮な卵子に喰らい付くだろう。
 リスクは承知していた。
 彼にも迷惑が掛かるかもしれない。けど熱を帯びた粘り気は、私のお腹の中で疼いて止まらない。
 ちょっとだけ。
 少し入れてみるだけ。
 役目を終えた避妊具は、部屋の照明でぼんやりと光っていた。
 顔を近づけてみると、生臭さとゴムの臭いでくらくらする。

「……よし」

 股を大きく広げ、片手の人差し指で割れ目を開く。
 私はそのプルプルとした膨らみを、よく濡れた自分の柔らかい性器に当てた。

「ふぅっ……ふぅっ……」

 緊張のあまり、口から息が漏れる。
 破れないように、爪で穴を開けないように、慎重に秘裂の中にコンドームを入れる。
 流石に入り口付近までしか入らなかったが、ゴムはある程度まで私の中に埋まった。

「入っちゃってる……」

 彼の精液で自慰をする。背徳的な響き。過ちを犯している不徳。
 自制心が働かない。頭の中が真っ白になってしまっている。
 体は既に、欲しがってしまっている。
 彼の精液を受け入れる準備をしてしまっている。
 こんなことをしてしまっている自分が嫌になる。
 彼と自分の未来を潰す一歩手前のことをしている自分が嫌いになりそうになる。
 でも、止められない。今日って、大丈夫な日だっけ。それすら、分からなくなる。

「荻野さんの漲る精子、いっぱいください……! 私の中の赤ちゃんを作る卵をめちゃくちゃに貪ってください……!」

 そう呟いてみる。口に出してみると、お腹の奥がきゅんとなる。
 孕んでしまっても構わないかなという気分になる。
 避妊具を、更に奥まで指の腹を使って押し込んでみたくなる。
 爪でこの0.01ミリの境界線を破ってしまいたくなる。大好きな人の精子を、自分の中に注ぎこみたくなる。
 でもそれは駄目だと、僅かに残った理性が静かに怒鳴りつける。
 一線を越えたら、彼を本当に裏切ることになる。荻野さんも両親も、産まれて来てしまうかもしれない私と彼の血で繋がった子供も、皆不幸になる。
 それならそもそも避妊率が百パーセントでないのにセックスをするなと言われるかもしれないが、精神的に幼い私に肉体的な関係を捨てる勇気は持てなかった。
 大人びている。成熟しているとは周囲からは言われるが、そうでないことは自分がよく知っていた。
 本当に大人なら、責任の取れない時期に好奇心で交尾などしない。
 私は十八にもなって、まだ大人になりきれていない。

「……もう、止めておこうかな」

 少し頭が冷えた私は、自分の中にすっぽり納まっているゴムを引き抜いて取り出し、顔の前に持っていく。
 淫靡な水風船は私の体液でしっとりと濡れて、部屋の照明に当てられててらてらと輝いていた。
 私は口にそれを咥え、歯を使って傷つける。
 チューブに入ったアイスのように中身を吸うと、どろりとした物が口内に流入してきた。
 ごくりと彼の精液を飲み込む。時間が経過して芳烈さが増している。私は少しむせた。

「……やっぱり苦い」

 破れたゴムをティッシュで包んで、引き出しの中に入れておく。明日コンビニに出かけて、荻野さんと同じようにゴミ箱に捨ててこよう。
 この出来事は、私の心の中にしまっておこう。
 随分長く休憩してしまったな。
 私は勉強に戻るため、自慰に使ったペンを洗うために、一階の洗い場に降りて行った。
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