私とエッチしませんか?

徒花

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彼女の家

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 深い沼の底に沈んでいるかのように、身体全体が気だるかった。
 意識が上手く輪郭を結べず、心が現実から剥離しているかのような感覚。
 精神が闇の中を彷徨っている。ここがどこだか分からない。
 こうなる直前に何をしていたのかも、よく思い出すことができない。
 どこか知らない物置の中。その地面の中央に、僕は「気をつけ」の姿勢で寝かせられていた。僕は何も身に付けていなかった。布切れ一つ、身に纏っていない。
 ここは、どこだ。
 身体がなぜか動かない。指一本動かない。金縛りという奴なのだろうか。床に貼り付けにされているかのようだった。

「やっと気がつきましたね」

 聞き覚えのある声。視線を動かし、声のした方を見る。
 そこには牧本瑠璃葉が立っていて、横たわる僕に向けて小悪魔的な笑みを向けていた。

「これはどういうつもりですか……」

 幸いにも口は動かすことが出来た。自分が今どういう状況に置かれているのか分からず、抗議の声を彼女にぶつける。

「……あのですね。……君の赤ちゃん、産んであげたいなって」

 何だって。驚く間も無く、彼女は僕の下半身に馬乗りになる。
 膨張した自分の性器と彼女の割れ目が合わさって、嫌らしい音を立てながら根元まで沈み込んだ。

「赤ちゃん……って」
「もう、我慢出来なくなっちゃったんです……♡」

 彼女は黒く澄んだ目を細めてそう言った。
 牧本さんが勢いよくピストンを始める。彼女の膣肉が僕の陰茎に絡みつく。
 熱を持った粘膜と愛液が潤滑油となって、ペニスに的確に刺激を与える。

「ちょっ……牧本さんっ。これ、生……っ!」

 彼女は反応しなかった。トロンとうっとりとした表情を貼り付けながら、僕の言葉を意図的に無視する。

「荻野さんっ♡私としたいんでしょっ♡したくないならちんちん勃たないはずですもんねっ♡」

 生理現象だ。そう言いたかったが、本当にそれが全てなのか自信が無くて、言葉を飲み込む。
 牧本さんは艶かしく、激しく腰を振る。

「だ、駄目ですって。妊娠はまずい……本当に出ちゃうっ……ぬ、抜いてくださいっ!」
「荻野さん、私のプリプリの柔らかいおまんこ大好きですもんね♡ちんちんが気持ちいいってびくびくしてますよっ。あそこは正直ですねっ♡」
「ち、違……」

 否定できない。
 彼女の子宮口が、早く早くと言うように鈴口に吸い付く。
 いつものゴム越しなんかより何倍も気持ちよくて、既に射精しそうになる。こんなの、我慢出来るわけが無い。

「じゃあ……中出ししたくないなら、荻野さんがイくまでに百回『好き』って言ってくださいっ♡出来なかったら中にたっぷり出してもらいますからねっ。はい、スタートっ」

 そ、そんな。
 彼女を突き飛ばそうにも、相変わらず身体が動かない。やるしかなかった。

「う……好き……好きです……好きっ、好きだっ」
「ほら、全然足りませんよっ? どんどん言って言ってっ♡」
「好きっ、す、好きっ。……好きですっ……好っ……うっ……あぐっ……」

 僕の性器は百回まで待ってくれないようだった。
 既に我慢汁も溢れ出始めているのが実感できる。

「全然足りませんねっ? ちんちん、もう限界じゃないですかっ?♡んっ♡さっきより大きくなってる♡ぱんぱんになってますよっ♡年上おまんこに中出ししたいんですよねっ♡」
「そ、そんなこと……」

 強がって見せるが、誤魔化せない。もう限界だった。
 きっと僕は情けない表情をしているのだろう。牧本さんの勝ち誇った顔が網膜にぼんやりと映る。

「私の中にいっぱいくださいっ♡牧本瑠璃葉は荻野さんだけの物だって印、私の中に刻み付けてくださいっ。出来ちゃうかもしれないけど、荻野さんのセキニンですねっ♡パパになっちゃえっ♡妊娠してあげますっ」
「う、ぐ……う、うわあああぁぁぁッ!」

 もう我慢の限界だった。箍が外れ、灼熱のような子種が彼女の中に放たれる。
 避妊具などという小賢しい物などに遮られず、男子高校生の健康な精子が年頃の娘の子宮目掛けて泳いでいく。
 指で掻き出すなど意味を成さないほど奥に放出されたそれは、僕と彼女の遺伝子が混ざった存在を生み出すための旅を始めるのだった。
 やってしまった。不可抗力だと思っても、中に出してしまったことには変わりない。
 牧本さんの満足そうな表情が僕に向けられる。射精の放心と自らの責任の重さに、僕の意識は遠のいていった。

***

「っ!?」

 唐突に流れ込んできた現実に、僕は勢いよく跳ね起きた。
 身体が動く。周囲を見渡すと、そこは僕の自室だった。自分のベッドの上に横たわっていた。
「……夢か」
 全身がぐっしょりと汗をかいている。パンツの中がドロドロとしたもので熱い。僕は夢精していた。
 当然ながら、膣内などに精液は放たれていなかった。見知らぬ倉庫に拉致などもされておらず、牧本さんの姿もどこにも無かった。

「あんな夢を見るなんてな……」

 さっきのは、僕の中の欲望が具現化したのだろうか。彼女を孕ませたいという欲求か、彼女に襲われたいという願望か。
 いずれにしても、このことは彼女には話さないほうがいいだろう。
 汚れた身体を洗ってこなければ。
 僕はシャワーを浴びるために浴室へと向かった。

***

 汗を流し、パンツも取替えた僕は気分転換に外出をしていた。
 八月も既に下旬。数週間前と比べると、幾分かあの茹だる熱気も自重する気になったらしく、比較的涼しい日だった。
 自転車を漕ぎ、住宅街を真っ直ぐ通る道をそれなりの速度で進む。

「あっ……」

 交差点に差し掛かったとき、その向かい側に見覚えがある人物が立っていた。
 牧本さんだった。
 今はあまり出会いたくない。何となく気まずいのだ。
 その場を離れようと動こうとしたとき、牧本さんがこちらに気がついた。

「おお~い! 荻野さんじゃないですか!」

 見つかってしまった。出会ってしまった以上無視するわけにもいかず、掌を上げて彼女に会釈する。
 牧本さんは横断歩道を渡ってこちらにやってきた。
 半袖に短めのスパッツの、露出度の高い服装をしている。柔らかそうな胸の膨らみが薄着越しに見え、それに少しドキリとする。

「荻野さんとこんなところで会うなんて奇遇ですね。どこかへお出かけですか?」
「いや、ちょっと気分転換に散歩です。牧本さんは?」
「私は勉強に使うノートを買いに行ってた所なんです。今はその帰り」

 彼女のママチャリの籠の中には、白色のビニール袋が入っていた。
 薄長い長方形の形が浮き出ていて、それがノートなのだと分かった。

「なるほど。それじゃ、僕はこれで」
「あっ。待って下さいっ」

 立ち去ろうとした僕を彼女が呼び止める。
 何の用だ。

「ちょっと提案があるんですけど、聞きたいですか?」
「何ですか?」

 性行為か何かだろうか。
 にしては少しもったいぶっていて、なんだか彼女は緊張した様子だった。

「私の家、今両親がいなくて一人だけなんです。……来ます?」

 上目遣いだった。
 もしも彼女が自転車に乗っていなければ、両手を後ろで組んでそう言っていたのが眼に浮かぶ。

「出張か何かですか?」
「ご名答。私の両親、共働きで、今九州に行っているんです。今日は絶対に帰って来ない。どうです? 女の子の家、見たくないですか?」

 好奇心が刺激される。確かに彼女がどんな家で暮らしているのかは気になった。
 それなりに厳しいと聞く彼女の親がいる時に、部外者の僕が通常時に入れるはずが無い。
 何だこの男はと追い出されるのがオチだろう。
 これは滅多に無いチャンスだと言えた。
 脳裏にあの夢のことが浮かんだ。でも、中に出さなければ大丈夫だ。
 少しの逡巡の後、僕は結論を出した。

「行きます。案内してください」
「よしっ。じゃあ、私に付いて来てください」

 彼女が自転車を漕いで先に進む。僕はその後を追いかけていった。

***

 牧本さんの自宅には五分ほど自転車を走らせると辿り着いた。
 二階建ての大きな一軒家。上流階級一歩手前と呼べそうな、小奇麗な家宅だった。

「遠慮せず入ってください。本当に誰もいないんで」
「では、お言葉に甘えて」

 玄関から中に入る。内装は洋風だ。広々としたリビングに案内されて、ソファに座らされる。ふかふかで気持ちよかった。
「ちょっと待っててね」と言い、牧本さんは部屋から出て行く。しばらくすると、彼女がジュースの入った大きなペットボトルと、氷の入った二人分のグラスを持ってきた。

「喉渇きましたよね。飲みましょうか」
「ええ。そうします」

 グラスには彼女が飲み物を注いでくれる。乾杯しましょうと言われたので、手にしたガラスの器を軽く触れ合わせた。氷とガラスの抜けるような音が鳴る。
 僕たちはジュースを喉に流し込む。水分を失った身体に、冷えた飲み物はよく染み渡った。

「何かしたいこと、あります? 別に、セックスだけじゃなくてもいいですよ? この前みたいに勉強とか」
「そうだなぁ……」

 考えてみたが、すぐには思いつかない。

「……私から提案なんですけど、お風呂に一緒に入りません?」
「え……」

 自分の家で既に入ってきたんだけどな。とは思ったが、再び汗をかいているのは事実だった。
 それに。
 お風呂ということはお互い全裸になるということだ。
 これまで僕らは、上半身か下半身のどちらかしか露出させてこなかった。
 一糸も纏わぬ姿で向かい合うのも悪くないかもしれない。

「いいですよ。ここに来るまでの間に、汗かいちゃいましたし」
「じゃあ、お風呂にお湯張ってきますね」

 牧本さんはそう言うと、湯船を満たすためにリビングを出て行った。

***

 沸き終わるまでの間、僕らはリビングで学習することにした。
 僕は勉強道具など持ってきていなかったため、彼女の使っている教材を利用して、三年生の習う範囲を教えてもらうことにした。
 授業について行ける様に、今の内から予習しておいたほうがいいとのことだそうだ。

「牧本さんは、自分の受験勉強しなくてもいいんですか?」
「荻野さんに教えることが、かなり自分の経験値になると思ったんです。人に教えるってかなり頭使うし、自分の引き出しから知識を大量に取り出さなくちゃいけない。それが、私にとっても効率のいい学習になる」
「なるほど。分かりました」
「……三年生の範囲って、かなり難しいですけど、付いて来られます?」

 正直な所、あまり自信が無い。
 でも、たぶん何とかなるだろう。そう思い、僕は軽く頷いた。

 試しに少し数学の公式と応用を教えてもらっただけで、頭がくらくらした。
 難しい。彼女の教え方が巧かったため、知識として吸収は出来たものの、僕は来年にはこんな内容をやるんだなと考えると、先が思いやられるばかりだった。

「ちょっと難しかったですかね……。流石に二年生の半ばの人に、一年後の範囲をやらせるのは無茶だったかな……」
「いや、大丈夫。今の内に苦労しておけば、今の牧本さんと同じ時期にはかなり楽になってるはずですから」
「あんまり無理しないでくださいね? 二年生の二学期になってから習う知識の応用もありますから、分からないのは当然なんです」

 牧本さんの使わせてくれた教材は、受験用のものではなく一般的な教科書だ。
 初歩的なことが書いてあるはずなのだが、自分の今のレベルと釣り合っているとはあまり言えない。
 やっぱり二年の二学期からの内容を教えてもらった方がいいのかな。
 そんなことを考えていると、遠くから「ピー」という電子音が聞こえた。

「あっ、お風呂沸きましたね。……行きましょうか」

 広げていた教科書を閉じると、彼女は立ち上がる。
 僕もそれに倣って腰を持ち上げた。

「こっちがお風呂場です。付いて来て」

***

 それなりに広い家の廊下を何回か曲がると、そこが脱衣所の前だった。
 中には乾燥機やら、高級そうな陶器で出来た手洗い場などがあり、彼女の高めの生活水準を窺わせた。
 私が先に脱ぐから、合図があったら入ってきてください。
 牧本さんはそう言って、中に入って扉を閉める。
 廊下で待たされた僕は、緊張しながらその時を待った。
 彼女の裸体が酷く劣情を煽るものであることは想像が付いた。
 三分ほど経つと、彼女が浴室に入る音がした。

「入っていいですよ」

 僕はその言葉に導かれ、脱衣所へと足を踏み込む。
 曇りガラスの向こう側に、彼女の姿が見えた。輪郭はぼやけているが、何も身に付けてないことは朧げながらに分かる。
 僕の足元の籠には、牧本さんの着ていた服が、きちんと畳まれて納まっていた。
 好奇心からそれを持ち上げてみると、下には彼女の下着がこれまた同じように丁寧に畳まれて置かれていた。
 下着の色は黒。高校生にしては少し大人びた、色気を放つ下着。
 柔らかそうなそれを手に取ってみたかったが、流石に見られているよなと僕は自重した。
 素直に服を脱ぎ、彼女の服が入れられている籠の傍に丁寧に折り畳んで置いておく。
 他人の家。それも年頃の女の子の家で完全なる全裸になっていることに、興奮を隠すことができなかった。

「入ってもいいですか?」

 ガラスの向こうの浴室にいる彼女にそう訊ねると「うん。いいですよ」と返答がある。
 引き戸となっている扉を意を決して開ける。
 そこには想像通りの、いや、想像以上の彼女の裸体があった。
 こんがりと陽に焼けた健康的な色の四肢。その継ぎ目となる胴体は、競泳水着と同じ形の白い素肌が存在した。
 滑らかで形の良い尻。きゅっと引き締まった身体つき。無駄な脂の付いていない肉。豊かな胸。美少女と呼べる、整った顔つき。
 芸術作品にも思える彼女の裸体が、そこにあった。
 年頃の男女。肉体的には人生の絶頂期の二人が、一糸も身に付けずに向かい合っている。
 僕は言葉に詰まった。ネットでは何度か女の肉体を見かけることがあったが、実際に対面してみると何をしてみればいいのか分からない。
 先に口を開いたのは牧本さんの方だった。

「おっ。荻野さん結構細身じゃないですか。最低限の筋肉も付いてて、私以外の女の子にもモテそうですね」
「牧本さんこそ、やっぱりスタイルいいですね。その……なんというか……エロい」
「嬉しいこと言ってくれますねっ」

 彼女はこちらに一歩踏み出し、その瑞々しい肌を擦り付けてきた。
 僕の中の心臓の潮流が少し乱れた気がする。性器は既に「その気」になっていた。

「シャワー、浴びましょうか。汗かいちゃってる」
「……よかったら、洗いっこしませんか?」

 僕の提案に「名案ですね」と牧本さんは笑う。
 眩しい笑顔だった。
 僕が先に彼女のことを洗うことにした。彼女はプラスチック製の椅子に腰掛ける。

「流しますね」

 僕はお湯加減を確認すると、その熱い液体を彼女の背中の肌に掛ける。
 湯と素肌を馴染ませるかのように撫でて汗を洗い流してあげた。

「気持ち良い~」

 うっとりとした調子の声で牧本さんは言う。
 彼女が背を向けているので表情は見えないが、きっと気持ち良さそうな顔をしているのだろうとは容易に想像がついた。

「前も洗ってくれませんか?」
「……前も?」

 彼女は椅子を動かして、僕に向かい合うようにする。
 柔らかそうな双丘と、色気を持つ小ぶりな臍。塗すような薄い陰毛が上部に生えそろう恥部が、丸見えになる。

「ほら、セックスまでしちゃった仲なんですし、これくらい許してあげますよっ。さ、洗って洗って」
「う、うん」

 少し震える手で彼女の胸の膨らみを触りながら湯を掛ける。
 乳房は上から注ぐ液体にふるふるとゼリーのように震え、なんとも艶かしい。
 木苺を思わせる薄い色をした乳首に指が触れてしまうと、牧本さんは軽く喘いだ。
 胸から腋の下。腕から腹部。
 腹にお湯を掛けて掌で撫で回す。硬いが柔軟さも併せ持つ腹筋だ。陸上部だけに、恵まれた肉体だった。

「ふへへっ、くすぐったいくすぐったい」

 弾けるような笑い声が漏れ出す。
 開いた口からは八重歯がちらりと顔を見せ、それが小悪魔的な印象を強くする。
 触り心地のよい腹筋を堪能すると、僕は次の部位に移った。
 性器だ。
 そこを洗い流そうとすると、彼女が口を開いた。

「中にお湯掛けちゃってください。私、指で開くんで」

 両手の、無骨さとは無縁の細い指で、自分の秘裂を暴き出す。
 薄桃色の綺麗な膣肉がはっきりと見えた。いつも僕のペニスを受け入れているその内部。観察できそうなくらいに、丸見えになっていた。
 いいのかなと思いつつ、襞のある柔らかい肉に湯を掛ける。

「あっ♡いいっ♡直に熱いのが来ますっ♡」

 広げていた片方の手の指を離すと、僕の片手を手にとって自分の性器に案内する。
 手で中を洗って欲しいということなのだろう。
 早く早くと期待する眼差しが、僕の顔に突き刺さる。
 お望みどおり、お湯を掛けながら人差し指を彼女の秘壺の中に入れて、付着した汚れを落とすかのように膣内を摩った。

「あああぁっ♡凄いっ♡自分でやってみるのとは全然違うっ♡」

 これ、自分でもやってたのか。

「荻野さんっ、私と本当に相性いいですねっ。何もかも機械の歯車のように噛み合ってるっ♡」
「そりゃどうも」

 巧い返しが思いつかなかったので素っ気無い対応になってしまったが、悪い気分はしていなかった。
 精神的にも、肉体的にも、彼女とは非常によい関係なのは間違いなかった。
 まだ恋人関係という訳ではない。夢の中では望んだ形では無いとは言え「好き」と連呼したし、かなり行きすぎた肉体関係も持っていたが、普通のデートらしいことや、愛の告白などは一度もしていない。
 友達以上の関係ではあるが、付き合っているという訳ではなかった。
 彼女と「恋愛関係」に発展できるのかな。
 性器を弄りながら、僕はそんなことを考えていた。

「はい、そろそろいいでしょう。今度は牧本さんが僕を洗う番ですね」
「はあ、はあ、はぁ……そうですね。今度は私が交代します」

 シャワーを手渡す。立ち上がった牧本さんが座っていた場所に、僕は彼女に背を向ける形で腰掛ける。
 早速牧本さんは僕の背中にお湯を掛け始めた。
 流されている間、僕らは会話に興じる。

「牧本さんは、陸上の分野で推薦を貰ったりしないんですか? 見たところ、かなり運動神経が良さそうですけど」
「うーん、あんまり興味ないかな。運動は好きだし大会にも出場したことありますけど、勉強の方が性に向いているっていうか」
「大学はどちらへ?」
「『杜國院大学』を狙っています」
「す、凄いですね。相当レベルの高い国立大学じゃないですか。倍率も毎年凄いって聞くし……」
「まあ、私なんかに受かるかは分からないんですけどね。あくまでも志望。……荻野さんは、どこ考えてます?」
「僕は……まだ考察中です」
「時間はまだまだありますよ。焦らずに、ね」

 優しい言葉が僕に染み入る。『杜國院大学』は東京の中央に位置する学び舎だ。
 就職率も高いし、多くの著名人を輩出している。
 彼女の学力なら合格できるだろうな。と、なぜか不思議な確信があった。
 都心部からは遠い、この実家から通うのは辛いだろうから、受かったとしたら東京で一人暮らしをすることになるのだろう。
 夏休みが終わってもしばらくは会うことができるだろうが、半年もすれば離れ離れにならざるを得ない。
 寂しさが心に侵食する。東京まで遊びに行くことは可能だろうが、高校生の小遣いじゃそう何度もと言うわけにもいかない。
 勉強もしなくてはいけないから、バイトをする余裕は取れないし……。
 そこまで考えた時、一つだけ彼女と接点を作れる方法があることに気がついた。時間は掛かるし、やり遂げられるかは分からないが、その価値はありそうだった。
 一抹の希望を感じた時、牧本さんが僕に声を掛ける。

「背中洗い終わりましたし、前も私が洗いますね」
「え、でも……」
「荻野さん、私の胸とか洗ってくれたじゃないですか。私もやらないと、不公平です」

 断りきれず、体を動かし彼女の方を向く。
 勃起したペニスを見せ付けることになってしまい、それが恥ずかしい。もっと恥ずかしいことなどいっぱいして来た癖に。
 彼女は僕がした行動をなぞるようにして身体を洗ってくれる。
 胸板、腋の下。腕。そして……。

「ちんちん、凄く立っててちょっと洗いづらいですね……」
「無理にやろうとしなくても大丈夫ですよ。このまま湯船に入っちゃいましょう」

 正直な所、彼女に今触られたら吐精しそうだった。
 湯に濡れているから彼女には分かりづらいだろうが、カウパー液が大量に染み出ている。

「そうですか? でも、亀頭の部分だけでも洗っておきましょうよ」
「あ、駄目っ」

 彼女の長い指が僕の鈴口に触れる。
 駄目だ。そう思った時には手遅れだった。
 きめ細かい感触を起爆剤にして、精液が勢いよくほとばしる。

「きゃっ!」

 牧本さんは可愛らしい声を上げて叫ぶ。彼女の日焼けしていない部分。胸から腹筋に掛けての色白い部位に、僕の白濁が飛び散って汚す。

「ご、ごめんなさいっ!」
「び、びっくりしたぁ。急に来るから驚きました……」

 彼女は目を丸くしていたが、何を思ったのかシャワーでそれを洗い流さずに、自分の胸の辺りに付着した精液を指で掬って舐める。

「やっぱり苦い……荻野さんの味って濃いですよね」
「そ、そうなんだ」

 暫し彼女は身体に付いた子種を見つめていたが、それを再び指にねっとりと付けると、それを性器に触れる直前まで持っていく。

「この子たち、このまま排水溝に流されちゃうの不憫だと思いません? このまま私の中にこの指突っ込んで、妊娠するチャンス与えてみましょうか」
「え、だ、駄目ですよ。それは……」

 あの悪夢……夢と分かった上ならば素晴らしいものだが。が、頭の中を過ぎる。
 高校生の精力漲る精液。同じく肉体的には既に十二分に妊娠できる、健康的な女の子の膣内に入ったら、どうなることか。

「どうしよっかなぁ~。君の赤ちゃん、可愛いでしょうし撫でてみたいなぁ」
「や、止めてください」

 彼女の引き締まった腹部が、僕の子で膨れ上がる。男の本能としては見てみたいものがあるが、理性がそれを押し留める。
 責任を取れない。
 べっとりと精液が絡みついた彼女の指が、ぷっくりとした割れ目の手前でくいくいと悩むかのように動いていた。
 牧本さんは意地悪そうな表情を僕に向けている。プラスチック製の椅子に腰掛けている、恐らくはかなり焦っているであろう僕の表情を愉しげに見つめている。

「……嘘。冗談ですよ。そんなことしたら、大学にいけなくなっちゃうし」

 彼女はそう言うと、僕のペニスと自分の身体に纏わり付いた精液を熱いシャワーで洗い流す。
 僕の子種はその流れに飲み込まれて、排水溝の闇へと消えていった。
 その様子をあっけに取られて見つめる僕。少し彼女が恐ろしくなった気がした。

「さっ。湯船に入りましょうか」

 彼女は座ったままの僕に手を差し延べ、そう誘った。

***

 湯船の温度は程よく熱かった。
 三十九度。夏に入るには少し設定が高い気がするが、それでもやはり気持ち良い。
 二人してゆっくりと身体を沈めていくと、張ったお湯の嵩が増して外に零れる。

「気持ち良いですね~。どうです? 荻野さん」
「ええ。生き返る心地がしますね」

 浴槽は二人で入ると狭かった。そう言うわけで、縁にもたれ掛かる僕の股間の上に彼女が乗る形をとることにした。

「……」
「……」

 静かだ。時折遠くから、自動車の走っていく音が聞こえる。立ち込める湯気が、僕らのいる空間を満たしていた。
 肌を密着させて混浴させていることに、心臓が平静さをやや失っていた。
 この鼓動は、胸板を背中に押し付けられている彼女に伝わっているだろうか。
 僕は前に回した右腕で、もたれ掛かる彼女の身体を抱き寄せる。彼女の身体を抱きしめる。
 水の揺れる音が、すぐ近くから聞こえた。
 彼女の肉体をより強く感じて、胸の高まりが抑えられない。けれど同時に、どこか奇妙に落ち着いている自分もいた。
 牧本さんも同じだろうか。
 胸の辺りにやった腕の表面に、彼女の強い鼓動を感じる。
 滑々とした肌。引き締まった肉体。その感触を、僕は愉しんだ。
 牧本さんは身体を少し動かして、背中ではなく側面を預けるようにして向きを正す。
 彼女のほっそりとした顔がよく見える。
 僕らは何も言わず、口付けを交わした。
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