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プールで出会った女子高生
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八月で、夏だった。
どこまでも続く青空をキャンバスにして、巨大な入道雲がその青の中にどっしりと構えるようにして浮かんでいるのが見えた。
暑い。じっとりとした嫌な熱気と共に昼時の太陽が肌を炙る。家を出る前に飲んできた、冷たい麦茶の冷ややかさなど露と消えていた。
僕は喘ぎながら自転車を漕ぐ。
額から流れ出る汗を腕で拭きながら、熱を放射するアスファルトの上でひたすらペダルを漕いでいた。
こんなことなら、空調の効いた自室で昼寝でもしていればよかったと後悔する。だけどもう遅い。
家からは既にそれなりの距離を移動してきてしまった。今から何もせず引き返すような気分にはなれない。ここまで来て帰るのは、労力の重大な損失のような気がしてならず、結局僕は目的地に向けて前進していた。
こういうのを「コンコルド効果」と呼ぶのだろうな。心の中で自嘲しながら、僕は半ば義務的に脚を動かしていた。
僕の名前は「荻野真一おぎのしんいち」。十七歳の、高校二年生だ。
そろそろ進路を考えなければいけない時期なのだが、どうにも尻込みしてしまい、中々自分がどういう道に進みたいのかがよく分かっていない。そんな高校生。
そんな鬱屈とした気分を紛らわすために、僕は市営プールに出かけようと思い立ったのだ。
水浴で身体を動かせば、何かいい考えでも浮かぶだろう。そう思ってのことだった。
夏の日差しは容赦なく突き刺さり、否応にも体力が削られていく。プールに着いたら自販機でアイスでも買おう。
そんな思案を巡らせながら、僕は目的地へと急いだ。
***
市営プールにはその後五分ほどで辿り着いた。
駐輪所に自転車を置くと、手ごろな位置に設置されていた自販機からアイスを買って食べる。生き返る心地だった。
施設の建物に入って受付で軽い手続きをし、職員から利用許可書の紙切れを貰う。
軽く会釈をすると、更衣室まで僕は歩く。施設はそれなりの大きさを持っていた。
学校の一学年になら十分貸し切れる程度の広さがありそうだ。
僕は更衣室に入ると、ロッカーに荷物を預け、汗をじんわりと染みこませている服を脱ぎ始めた。
着替え終わると、ロッカーの鍵に付いているゴムのバンドを腕にはめ込み、プールサイドまで歩き出す。
「……やっぱり結構いるな」
プールには大勢の人間がいた。老若男女は一通り揃っており、水泳を楽しむだの単に水に浸かっているだの、水浴の楽しみ方は十人十色のようだった。
プールの監視員がそんな来場者に万一のことが無いか逐一見張っているが、やはりこの茹だる暑さでは本調子は出ていないらしい。
僕は早速プールに入ることにした。
飛び込むと監視員に注意されるので、少しづつ足を水に浸けていく。
つま先から踝。腿から膝。冷たさが侵食してくるかのような感覚が僕を襲い、そのことにぞくぞくする。
汗をかいた体が清められていくような感覚がして、それがたまらなく気持ちいい。
来てよかったな。冷たさが纏わりつく感覚を楽しみながら、僕はそう思った。
「ちょっとすみません……」
唐突に、誰かから話しかけられた。
人が多いためか雑音混じりだったが、確かにそう聞こえた。
きょろきょろと周囲を見渡す。
「あ……」
僕の背後。丁度背中を見つめる形で、一人の女の子が水に浸かって立ってこちらに真っ直ぐ視線を据えていた。
歳は僕と同じ程度だろうか。程よく陽に焼けた健康的な肌が印象的だった。
身に纏った競泳水着が、よく引き締まってしなやかな、健康的な身体を際立たせている。
髪は同年代の女子よりも少し短めに切り揃えられていた。
美人と言える女の子だ。
「……どうかしましたか?」
一瞬見惚れて反応が遅れたが、僕はそう答える。
何の用だろう。見知らぬ女の子に話しかけられる理由が見当たらない。
「ロッカーの鍵、落としちゃったんです。たぶんこの辺だと思うんですけど……監視員さんにも訊いたけど、落し物は届いていないそうで……どこかで見かけませんでしたか?」
なるほど。そういうわけか。
目の前の女子は明らかに困っている様子だった。
鍵が無ければ荷物の入ったロッカーは開かず、帰るに帰れない。
係の人にも失くしたと説明しなければいけない訳だから、かなり面倒な状況だろう。
「いえ……見てませんね。よければ、一緒に探しましょうか?」
僕はなぜかそう答えていた。この女の子は他人だというのに、なぜだか放っては置けないような気がした。
半分くらいはこの可愛らしい娘と何か関わりを持っておきたいという下心のためだろうなと、密かに自己分析する。
「良いんですか!? ありがとうございます! 私、もうちょっとあの辺潜って探してきますね」
「うん、分かりました」
女の子は指差した方へと向かって泳いでいった。
さて。引き受けてしまったからにはやるしかない。約束したのに帰ってしまったら、かなり気分を悪くさせてしまうだろう。
僕はその場に潜って、その小さななくし物を探し始めた。
***
鍵は意外とすぐ見つかった。
プールの端の角の辺りに沈んでいたのだ。恐らく、泳ぐ人たちの起こす流れによってここまで運ばれてきたのだろう。
発見したことを女の子に報告して目的の物を渡すと、パッと顔を輝かせて喜んだ。
「ありがとうございます! お陰で助かりました……!」
「いや、そんなに感謝されるほどのことはしてませんよ」
少し恥ずかしさに顔を逸らしながら、僕はそう言った。なんというか、どうも目のやり場に困るのだ。
当然ながら濡れている紺色の水着が、どうにも彼女の艶かしさを引き立てている。
「では僕はこれで。鍵、見つかってよかったですね」
そう言ってその場を離れようとしたその時だった。
「ま、待ってください……!」
ビクッ、と僕の身体が震える。まだ何か用があるのだろうか。
女の子ははにかんでいた。その眩しい表情に、僕は軽く眩暈を覚える。
「……何かのご縁ですし、ちょっとそこの日陰でお話しませんか?」
「え……」
「ほら、鍵も探してもらいましたし」
何のつもりだと思ったが、実はというと少々嬉しかった。
こんな美人と話せるなんて、なんだか夢みたいだ。
いいですよと答えると、僕らは近くにある屋根の付いた休憩スペースへと移動した。
彼女の詳細はこうだった。
名前は牧本瑠璃葉まきもとるりは。十八歳の高校三年生。近くにある偏差値が高めの女子高に通っているとの話だった。
陸上部に所属しているが、受験が近いので今は実質活動していないらしい。身体を動かしたいが今の時期は暑いので、勉強の合間を縫ってこうしてプールに通っている。とのことだ。
スタイルがいいのも納得だな。
「『藤坂院学園』って、この辺じゃかなり頭良いですね。凄いなぁ」
「まあ、確かにお嬢様って子が多いですね。自分じゃ分かりづらいけど、結構恵まれた環境かも」
「僕は『青山高校』です。そこまでいい高校では無いかな」
「荻野さん、でしたっけ。そんなことないですよ。結構偏差値いい学校じゃありません?」
「まあ、数字の上はね」
そんな会話を交わす。話している間にも、僕の意識は彼女の体に気を向けさせていた。
曲線美を帯びた、若木のようなしなやかな身体。豊かな胸。気を抜くと頬が紅潮しそうだった。
……今気が付いたが、ピッチリと身体に張り付いた彼女の濡れた競泳水着。その股間の部分が、程よく食い込みを見せていた。
下半身に血流が雪崩込みそうになるのを、会話に集中することで押さえつけようとする。
牧本さんはそんな僕の苦労を知ってか知らずか、ニコニコと笑いながら対話に興じていた。
「荻野さんって、彼女いますか?」
牧本さんは急にそんな話題を振ってきた。
僕のことを惑わしてくる彼女の容姿から気を逸らすため、その質問の答えを考える。
「いや、今はいないです。中学生の頃は一応いたけど、下らない喧嘩で別れちゃって、それから出来た試しがないです」
「そうなんですか。私も彼氏いないんですよ。いた経験も無いし」
それは意外だった。彼女ほど恵まれた容姿を持つ女の子なら、男の一人や二人、くっ付いたり離れたりしてそうだが。
「女子高に通っていたし、親もたぶん他の子と比べれば厳しいし、男の子と接する機会があんまりなかったんですよね~」
「なるほど」
「……ちょっと失礼かもしれないですけど、……エッチってその子としたことありますか?」
突然爆弾のような発言をするなと僕は思う。
あまり僕が女性経験が無いから知らないだけであって、年頃の女の子は皆こんなことを話すものなのだろうか。
「いや、僕の方はちょっと興味あったけど、やりませんでした。中学生じゃ、ゴムを買うのも勇気がいるし」
「ふーん。そうなんですね」
ふむふむと牧本さんは頷く。
「……じゃあ、少しだけやってみませんか?」
「え……」
僕の中の時間が一瞬止まったような気がした。
かなりの爆弾発言の直後に核爆弾級の言葉が飛び出すとは予想しておらず、ぽかんと口を開けて僕は固まる。
聞き間違えじゃないよな? 頭の中で先ほどの言葉を分析し、反芻してみるが、やはりそのままの意味らしかった。
「あっ……本当にちょっとだけですよ。荻野さんが良ければ、ですけど」
「も、勿論良いですよ!」
上ずった声を大声で出してしまった。僕らから少し離れた場所にいる家族連れが、何だとばかりにこちらを一瞬見る。
「い、良いですけど、なんで急にそんな……」
「私、この歳になっても男性経験が無いの、ちょっと恥ずかしくて……。高校卒業前に、一歩踏み出してみようかなぁ……って」
「……」
夢じゃないよな。頬をつねってみたかったが、牧本さんのいる前で間抜けなことをあまりしたくないので自重する。
こんな美少女と性的な関係を持てるなんて、信じられない。
実はドッキリなのでは? いざ行為に及ぼうとしたら、強面の男に怒鳴り込まれるのでは? などと少し考えたが、男子高校生の性欲はそんな憶測で止まるほど柔ではなかった。
「トイレ、行きましょうか……」
先ほどより一層艶かしさを増したような気がする牧本さんはそう言って立ち上がり、僕に向かってその手を伸ばした。
***
そのトイレは、プールサイドの片隅にある小さなものだった。
プールからは少し離れていて、そちらを利用するなら本館にあるトイレを使ったほうが早い。そんな目だたないトイレだった。
その男子トイレの個室に、僕ら二人は入る。
高校生二人で入ると窮屈で、ちょっと狭いねと牧本さんはクスリと笑いながら言った。
「海水パンツ、脱いで。私も上だけ脱ぐから」
心臓が早鐘を打つのを感じながら、海パンを降ろす。
「うわ。結構大きいですね……」
僕の性器を見た牧本さんが、少し目を丸くしながらそう言った。
修学旅行のとき、温泉に入る時間に友達に見つかってからかわれたっけ。そんなことを思い出しながら、「そうみたいですね」と返す。
牧本さんは水着の上の部位を脱ぎ始めた。
両肩に掛かった部分を外し、両手でスルリと捲くり下げる。
ぷるんと露になった二つの膨らみ。水着の下は陽に焼けておらず、色白の瑞々しい肌が存在していた。
その色素の薄い肌には僅かに赤みが差しており、程よく日焼けした四肢と相まって健康的な印象を僕に与える。
十代特有の若々しい裸体に、僕の頭の中にはちかちかと星が瞬いた。
「えっと……お、おちんちん? しゃぶりますね」
牧本さんはそう言ってしゃがみ込むと、僕のペニスにその美しい顔を近づけた。
日光の下では鏡のように輝いていた、黒い艶のある髪を片手でかき上げて、僕の起立した肉の剛直を咥え入れる。
大きいため根元までは口に入らなかった。
「っ……!」
ただでさえ興奮気味のところに生温かい粘膜の感触を味わって、思わず僕は射精しそうになる。
歯を食いしばり、必死でその欲求を堪えて平静を演出した。
牧本さんは舌を使って性器の先端を摩るように刺激する。
「ほうへふ? ひもひひいへふは?」
『どうです? 気持ち良いですか?』と言っているのだと分かった。
正直な所あまり上手くは無いのだが、こんな美少女に咥えられているのだという意識が、精神的快楽を生み出していた。
少しざらざらとした舌がちろちろと尿道を舐め、竿に絡み付いてくる。
技術は無いが、一生懸命なのは強く伝わってきて、それがとても嬉しいし一種の征服欲のようなものが心に芽生える。
出会って半日も経っていないこの一人の女の子に、僕の心は溶かされそうになっていた。
「ごめん、もう出そう……」
牧本さんは上目遣いでこくりと頷く。出しても良いという合図だろう。
我慢の限界だった僕は、遠慮すること無く吐精する。
「んんんっ!……んん!」
目を見開きながら、男の欲望の塊を口の中に受け止める。
正直、自分でも驚くほど勢いが強かった。自慰よりも長い時間射精していた気がする。
精液を吐き出し終えると、牧本さんは咥え込んでいた口を離して咽返る。
「げほっ、げほっ、ゴホっ」
彼女は足元にある和式便所に子種を吐き出す。少し見ていて悲しいものがあったが、仕方ないよなと射精の直後でぼんやりとした頭でそう割り切った。
「にがぁい……こんな味なんですね……」
牧本さんは口の中を濁った白色に染めながら言う。目には微かに涙が溜まっていた。
ちょっと申し訳ないことをしてしまったなと思いながら、僕は謝る。
「ごめん。やっぱり引き抜けばよかったですよね」
「んん……私からOKしたし、大丈夫ですよ」
牧本さんはにこりと笑顔を作った。僕もそれに釣られて微笑む。
そこにはもう、愉しみが戻っていた。
その後、彼女とは一緒にプールを出てきた。
それぞれ更衣室に戻って着替え、先に着替え終わっていた僕が彼女のことを待っていると、牧本さんは数分遅れでプール施設から表に姿を見せる。
フェラだけだとは言え先ほどまで性交渉をしていたのだから、何となく気まずい。
沈黙が耳に痛い。蝉の鳴き声が遥か遠くから聞こえるような気がする。
先に口を開いたのは、牧本さんの方だった。
「……今日はありがとうございました。……いい経験が出来た気がします」
「あ、ああ。こちらこそ。……気持ちよかったです」
ハハハと笑いながら、お調子者を装ってみる。牧本さんはそんな僕にクスリと笑っただけで、そこからどんな意識を読み取ることができるのか、僕にはよく分からなかった。
「私はもう家に帰ります。荻野さんは?」
「暑いんで僕も帰るつもりです」
「そうですか。では、さよならですね」
「僕は自転車で来たんで駐輪所まで行きます。牧本さんもですか?」
「私はジョギングも兼ねて徒歩でプールに来ました。……ここでお別れですね」
ではまた。と一言言うと、牧本さんはどこか名残惜しそうな様子を漂わせながら、街路を歩き出す。
さようなら。と僕はぽつりと呟くと、駐輪所に向けて足を動かし始めた。
駐輪所に着いて、ポケットから自転車の鍵を取り出したとき、急に先ほどの牧本さんの言葉が思い返された。
「……また?」
確かにそう言った。一夏の思い出程度の、刹那的な関係のつもりだった。連絡先も交換していないし……
言い間違えだろうか。
だが、彼女にまた会う手段はあることに気がついた。
『勉強の合間を縫って、プールに通っている』
もしかしたら、ここに来ればまた彼女に会えるかもしれない。
ひょっとしたら、またエロいことをしてくれるかもしれない。
そう思うと、心の奥底がこの夏の日差しのように活気付いたような気がした。
どこまでも続く青空をキャンバスにして、巨大な入道雲がその青の中にどっしりと構えるようにして浮かんでいるのが見えた。
暑い。じっとりとした嫌な熱気と共に昼時の太陽が肌を炙る。家を出る前に飲んできた、冷たい麦茶の冷ややかさなど露と消えていた。
僕は喘ぎながら自転車を漕ぐ。
額から流れ出る汗を腕で拭きながら、熱を放射するアスファルトの上でひたすらペダルを漕いでいた。
こんなことなら、空調の効いた自室で昼寝でもしていればよかったと後悔する。だけどもう遅い。
家からは既にそれなりの距離を移動してきてしまった。今から何もせず引き返すような気分にはなれない。ここまで来て帰るのは、労力の重大な損失のような気がしてならず、結局僕は目的地に向けて前進していた。
こういうのを「コンコルド効果」と呼ぶのだろうな。心の中で自嘲しながら、僕は半ば義務的に脚を動かしていた。
僕の名前は「荻野真一おぎのしんいち」。十七歳の、高校二年生だ。
そろそろ進路を考えなければいけない時期なのだが、どうにも尻込みしてしまい、中々自分がどういう道に進みたいのかがよく分かっていない。そんな高校生。
そんな鬱屈とした気分を紛らわすために、僕は市営プールに出かけようと思い立ったのだ。
水浴で身体を動かせば、何かいい考えでも浮かぶだろう。そう思ってのことだった。
夏の日差しは容赦なく突き刺さり、否応にも体力が削られていく。プールに着いたら自販機でアイスでも買おう。
そんな思案を巡らせながら、僕は目的地へと急いだ。
***
市営プールにはその後五分ほどで辿り着いた。
駐輪所に自転車を置くと、手ごろな位置に設置されていた自販機からアイスを買って食べる。生き返る心地だった。
施設の建物に入って受付で軽い手続きをし、職員から利用許可書の紙切れを貰う。
軽く会釈をすると、更衣室まで僕は歩く。施設はそれなりの大きさを持っていた。
学校の一学年になら十分貸し切れる程度の広さがありそうだ。
僕は更衣室に入ると、ロッカーに荷物を預け、汗をじんわりと染みこませている服を脱ぎ始めた。
着替え終わると、ロッカーの鍵に付いているゴムのバンドを腕にはめ込み、プールサイドまで歩き出す。
「……やっぱり結構いるな」
プールには大勢の人間がいた。老若男女は一通り揃っており、水泳を楽しむだの単に水に浸かっているだの、水浴の楽しみ方は十人十色のようだった。
プールの監視員がそんな来場者に万一のことが無いか逐一見張っているが、やはりこの茹だる暑さでは本調子は出ていないらしい。
僕は早速プールに入ることにした。
飛び込むと監視員に注意されるので、少しづつ足を水に浸けていく。
つま先から踝。腿から膝。冷たさが侵食してくるかのような感覚が僕を襲い、そのことにぞくぞくする。
汗をかいた体が清められていくような感覚がして、それがたまらなく気持ちいい。
来てよかったな。冷たさが纏わりつく感覚を楽しみながら、僕はそう思った。
「ちょっとすみません……」
唐突に、誰かから話しかけられた。
人が多いためか雑音混じりだったが、確かにそう聞こえた。
きょろきょろと周囲を見渡す。
「あ……」
僕の背後。丁度背中を見つめる形で、一人の女の子が水に浸かって立ってこちらに真っ直ぐ視線を据えていた。
歳は僕と同じ程度だろうか。程よく陽に焼けた健康的な肌が印象的だった。
身に纏った競泳水着が、よく引き締まってしなやかな、健康的な身体を際立たせている。
髪は同年代の女子よりも少し短めに切り揃えられていた。
美人と言える女の子だ。
「……どうかしましたか?」
一瞬見惚れて反応が遅れたが、僕はそう答える。
何の用だろう。見知らぬ女の子に話しかけられる理由が見当たらない。
「ロッカーの鍵、落としちゃったんです。たぶんこの辺だと思うんですけど……監視員さんにも訊いたけど、落し物は届いていないそうで……どこかで見かけませんでしたか?」
なるほど。そういうわけか。
目の前の女子は明らかに困っている様子だった。
鍵が無ければ荷物の入ったロッカーは開かず、帰るに帰れない。
係の人にも失くしたと説明しなければいけない訳だから、かなり面倒な状況だろう。
「いえ……見てませんね。よければ、一緒に探しましょうか?」
僕はなぜかそう答えていた。この女の子は他人だというのに、なぜだか放っては置けないような気がした。
半分くらいはこの可愛らしい娘と何か関わりを持っておきたいという下心のためだろうなと、密かに自己分析する。
「良いんですか!? ありがとうございます! 私、もうちょっとあの辺潜って探してきますね」
「うん、分かりました」
女の子は指差した方へと向かって泳いでいった。
さて。引き受けてしまったからにはやるしかない。約束したのに帰ってしまったら、かなり気分を悪くさせてしまうだろう。
僕はその場に潜って、その小さななくし物を探し始めた。
***
鍵は意外とすぐ見つかった。
プールの端の角の辺りに沈んでいたのだ。恐らく、泳ぐ人たちの起こす流れによってここまで運ばれてきたのだろう。
発見したことを女の子に報告して目的の物を渡すと、パッと顔を輝かせて喜んだ。
「ありがとうございます! お陰で助かりました……!」
「いや、そんなに感謝されるほどのことはしてませんよ」
少し恥ずかしさに顔を逸らしながら、僕はそう言った。なんというか、どうも目のやり場に困るのだ。
当然ながら濡れている紺色の水着が、どうにも彼女の艶かしさを引き立てている。
「では僕はこれで。鍵、見つかってよかったですね」
そう言ってその場を離れようとしたその時だった。
「ま、待ってください……!」
ビクッ、と僕の身体が震える。まだ何か用があるのだろうか。
女の子ははにかんでいた。その眩しい表情に、僕は軽く眩暈を覚える。
「……何かのご縁ですし、ちょっとそこの日陰でお話しませんか?」
「え……」
「ほら、鍵も探してもらいましたし」
何のつもりだと思ったが、実はというと少々嬉しかった。
こんな美人と話せるなんて、なんだか夢みたいだ。
いいですよと答えると、僕らは近くにある屋根の付いた休憩スペースへと移動した。
彼女の詳細はこうだった。
名前は牧本瑠璃葉まきもとるりは。十八歳の高校三年生。近くにある偏差値が高めの女子高に通っているとの話だった。
陸上部に所属しているが、受験が近いので今は実質活動していないらしい。身体を動かしたいが今の時期は暑いので、勉強の合間を縫ってこうしてプールに通っている。とのことだ。
スタイルがいいのも納得だな。
「『藤坂院学園』って、この辺じゃかなり頭良いですね。凄いなぁ」
「まあ、確かにお嬢様って子が多いですね。自分じゃ分かりづらいけど、結構恵まれた環境かも」
「僕は『青山高校』です。そこまでいい高校では無いかな」
「荻野さん、でしたっけ。そんなことないですよ。結構偏差値いい学校じゃありません?」
「まあ、数字の上はね」
そんな会話を交わす。話している間にも、僕の意識は彼女の体に気を向けさせていた。
曲線美を帯びた、若木のようなしなやかな身体。豊かな胸。気を抜くと頬が紅潮しそうだった。
……今気が付いたが、ピッチリと身体に張り付いた彼女の濡れた競泳水着。その股間の部分が、程よく食い込みを見せていた。
下半身に血流が雪崩込みそうになるのを、会話に集中することで押さえつけようとする。
牧本さんはそんな僕の苦労を知ってか知らずか、ニコニコと笑いながら対話に興じていた。
「荻野さんって、彼女いますか?」
牧本さんは急にそんな話題を振ってきた。
僕のことを惑わしてくる彼女の容姿から気を逸らすため、その質問の答えを考える。
「いや、今はいないです。中学生の頃は一応いたけど、下らない喧嘩で別れちゃって、それから出来た試しがないです」
「そうなんですか。私も彼氏いないんですよ。いた経験も無いし」
それは意外だった。彼女ほど恵まれた容姿を持つ女の子なら、男の一人や二人、くっ付いたり離れたりしてそうだが。
「女子高に通っていたし、親もたぶん他の子と比べれば厳しいし、男の子と接する機会があんまりなかったんですよね~」
「なるほど」
「……ちょっと失礼かもしれないですけど、……エッチってその子としたことありますか?」
突然爆弾のような発言をするなと僕は思う。
あまり僕が女性経験が無いから知らないだけであって、年頃の女の子は皆こんなことを話すものなのだろうか。
「いや、僕の方はちょっと興味あったけど、やりませんでした。中学生じゃ、ゴムを買うのも勇気がいるし」
「ふーん。そうなんですね」
ふむふむと牧本さんは頷く。
「……じゃあ、少しだけやってみませんか?」
「え……」
僕の中の時間が一瞬止まったような気がした。
かなりの爆弾発言の直後に核爆弾級の言葉が飛び出すとは予想しておらず、ぽかんと口を開けて僕は固まる。
聞き間違えじゃないよな? 頭の中で先ほどの言葉を分析し、反芻してみるが、やはりそのままの意味らしかった。
「あっ……本当にちょっとだけですよ。荻野さんが良ければ、ですけど」
「も、勿論良いですよ!」
上ずった声を大声で出してしまった。僕らから少し離れた場所にいる家族連れが、何だとばかりにこちらを一瞬見る。
「い、良いですけど、なんで急にそんな……」
「私、この歳になっても男性経験が無いの、ちょっと恥ずかしくて……。高校卒業前に、一歩踏み出してみようかなぁ……って」
「……」
夢じゃないよな。頬をつねってみたかったが、牧本さんのいる前で間抜けなことをあまりしたくないので自重する。
こんな美少女と性的な関係を持てるなんて、信じられない。
実はドッキリなのでは? いざ行為に及ぼうとしたら、強面の男に怒鳴り込まれるのでは? などと少し考えたが、男子高校生の性欲はそんな憶測で止まるほど柔ではなかった。
「トイレ、行きましょうか……」
先ほどより一層艶かしさを増したような気がする牧本さんはそう言って立ち上がり、僕に向かってその手を伸ばした。
***
そのトイレは、プールサイドの片隅にある小さなものだった。
プールからは少し離れていて、そちらを利用するなら本館にあるトイレを使ったほうが早い。そんな目だたないトイレだった。
その男子トイレの個室に、僕ら二人は入る。
高校生二人で入ると窮屈で、ちょっと狭いねと牧本さんはクスリと笑いながら言った。
「海水パンツ、脱いで。私も上だけ脱ぐから」
心臓が早鐘を打つのを感じながら、海パンを降ろす。
「うわ。結構大きいですね……」
僕の性器を見た牧本さんが、少し目を丸くしながらそう言った。
修学旅行のとき、温泉に入る時間に友達に見つかってからかわれたっけ。そんなことを思い出しながら、「そうみたいですね」と返す。
牧本さんは水着の上の部位を脱ぎ始めた。
両肩に掛かった部分を外し、両手でスルリと捲くり下げる。
ぷるんと露になった二つの膨らみ。水着の下は陽に焼けておらず、色白の瑞々しい肌が存在していた。
その色素の薄い肌には僅かに赤みが差しており、程よく日焼けした四肢と相まって健康的な印象を僕に与える。
十代特有の若々しい裸体に、僕の頭の中にはちかちかと星が瞬いた。
「えっと……お、おちんちん? しゃぶりますね」
牧本さんはそう言ってしゃがみ込むと、僕のペニスにその美しい顔を近づけた。
日光の下では鏡のように輝いていた、黒い艶のある髪を片手でかき上げて、僕の起立した肉の剛直を咥え入れる。
大きいため根元までは口に入らなかった。
「っ……!」
ただでさえ興奮気味のところに生温かい粘膜の感触を味わって、思わず僕は射精しそうになる。
歯を食いしばり、必死でその欲求を堪えて平静を演出した。
牧本さんは舌を使って性器の先端を摩るように刺激する。
「ほうへふ? ひもひひいへふは?」
『どうです? 気持ち良いですか?』と言っているのだと分かった。
正直な所あまり上手くは無いのだが、こんな美少女に咥えられているのだという意識が、精神的快楽を生み出していた。
少しざらざらとした舌がちろちろと尿道を舐め、竿に絡み付いてくる。
技術は無いが、一生懸命なのは強く伝わってきて、それがとても嬉しいし一種の征服欲のようなものが心に芽生える。
出会って半日も経っていないこの一人の女の子に、僕の心は溶かされそうになっていた。
「ごめん、もう出そう……」
牧本さんは上目遣いでこくりと頷く。出しても良いという合図だろう。
我慢の限界だった僕は、遠慮すること無く吐精する。
「んんんっ!……んん!」
目を見開きながら、男の欲望の塊を口の中に受け止める。
正直、自分でも驚くほど勢いが強かった。自慰よりも長い時間射精していた気がする。
精液を吐き出し終えると、牧本さんは咥え込んでいた口を離して咽返る。
「げほっ、げほっ、ゴホっ」
彼女は足元にある和式便所に子種を吐き出す。少し見ていて悲しいものがあったが、仕方ないよなと射精の直後でぼんやりとした頭でそう割り切った。
「にがぁい……こんな味なんですね……」
牧本さんは口の中を濁った白色に染めながら言う。目には微かに涙が溜まっていた。
ちょっと申し訳ないことをしてしまったなと思いながら、僕は謝る。
「ごめん。やっぱり引き抜けばよかったですよね」
「んん……私からOKしたし、大丈夫ですよ」
牧本さんはにこりと笑顔を作った。僕もそれに釣られて微笑む。
そこにはもう、愉しみが戻っていた。
その後、彼女とは一緒にプールを出てきた。
それぞれ更衣室に戻って着替え、先に着替え終わっていた僕が彼女のことを待っていると、牧本さんは数分遅れでプール施設から表に姿を見せる。
フェラだけだとは言え先ほどまで性交渉をしていたのだから、何となく気まずい。
沈黙が耳に痛い。蝉の鳴き声が遥か遠くから聞こえるような気がする。
先に口を開いたのは、牧本さんの方だった。
「……今日はありがとうございました。……いい経験が出来た気がします」
「あ、ああ。こちらこそ。……気持ちよかったです」
ハハハと笑いながら、お調子者を装ってみる。牧本さんはそんな僕にクスリと笑っただけで、そこからどんな意識を読み取ることができるのか、僕にはよく分からなかった。
「私はもう家に帰ります。荻野さんは?」
「暑いんで僕も帰るつもりです」
「そうですか。では、さよならですね」
「僕は自転車で来たんで駐輪所まで行きます。牧本さんもですか?」
「私はジョギングも兼ねて徒歩でプールに来ました。……ここでお別れですね」
ではまた。と一言言うと、牧本さんはどこか名残惜しそうな様子を漂わせながら、街路を歩き出す。
さようなら。と僕はぽつりと呟くと、駐輪所に向けて足を動かし始めた。
駐輪所に着いて、ポケットから自転車の鍵を取り出したとき、急に先ほどの牧本さんの言葉が思い返された。
「……また?」
確かにそう言った。一夏の思い出程度の、刹那的な関係のつもりだった。連絡先も交換していないし……
言い間違えだろうか。
だが、彼女にまた会う手段はあることに気がついた。
『勉強の合間を縫って、プールに通っている』
もしかしたら、ここに来ればまた彼女に会えるかもしれない。
ひょっとしたら、またエロいことをしてくれるかもしれない。
そう思うと、心の奥底がこの夏の日差しのように活気付いたような気がした。
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俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
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青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
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