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5,夏休み

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夏休みに入った。
 帰宅部の僕は特に学校に用事があるということも無く、自宅で学習したりゲームやネットで時間を潰す日々だった。
 来年は受験なのだから、今の内からしっかりとやっておかないとなぁなどと言うことを考えはするけど実行せず、ぼんやりとした時間を過ごす。

「……白石さん、今何してんだろ」

 自室のベッドで寝転びながら、僕はそんなことを考える。
 ラインは交換したけど、女の子とどんなことを話せばいいのかよく分からず、結局連絡は取っていない。
 まだ夏休みが始まって一週間程度。
 まあ、後で考えればいいだろう。
 僕はスマホをポケットから取り出して、弄ってツイッターを確認する。

「……」

 白石さんの裏垢を無意識に探す。けれどそれは夏休みが始まる前にすでに削除されていて、今はもうどこにも無かった。
 凍結されたのではなくて、白石さんが自主的に消したのだ。
 当然だよなと思う。これ以上、誰か知り合いに見つかるわけにはいかないのだから、危険な芽は摘んでおくに越したことは無い。
 裏があるということは、表もある。
 白石さんの表アカウントは、彼女に訊いたら案外あっさりと教えて貰えていた。
 その主は今でも呟いていて、「暑いよ~」とか「志望校絞らないとなぁ」とか「午後は遊ぼう」とか書き込んでいた。
 本当に何の変哲も無いアカウント。
 まあ、表で変なこと書くわけにもいかないから当然だけど。
 と、その時彼女が新しく何かを呟いた。
 内容を見ると、こんなものだった。

「近くのコンビニにジュース買いに行きます」

 その呟きを見た時、ある考えが頭に浮かんだ。
 白石さんと外であえるのでは? いや、邪な気持ちでそう考えたのではなくて、恋人になった彼女といい加減会いたいなと思う気持ちだった。
 偶然を装って合流するのも考えたけど、賢い彼女にはそんな行動すぐに見抜かれる気がしたので、素直にラインで連絡して訊ねることにした。

『ツイッター見たんですけど、コンビニ行くんですか?』

 僕がそう尋ねると、すぐに既読が付いて返事が返ってきた。

『はい。ちょっと喉が渇いたので、ジュースでも買おうかと』
『もしよかったら、ちょっとお会いしませんか?』
『いいですよ~。私も丁度顔を見たいなと思ってたんで。場所教えますね』

 コンビニの大まかな住所を教えてもらう。
 僕の家からそう遠くない。自転車に乗れば結構すぐに行ける距離だった。……暑いのを抜きにすれば。

『暑いし、コンビニの中で待っててください。すぐ行けるんで』
『待ってますよ~』

 約束を交わすと、僕は家を出た。
 自転車に乗り、炎天下の街路を僕は進む。
 そのコンビニは僕も何度か利用したことがある。だから目的地へは迷わなかった。
 コンビニの駐車場に自転車を停めると、僕は建物の中へと入る。
 ガラス戸を開けた途端に染みよってくる、冷えて心地良い空気。それと同時に店員さんの「いらっしゃいませ」という声が聞こえてきた。
 扉を閉めて中へと進んでいくと、見覚えのある顔が見つかる。
 白石さんがいた。
 手にスポーツドリンクのペットボトルを持ちながら、アイスの入った入れ物をぼんやりと眺めている。
 本気でアイスを探しているというよりは、暇つぶしに眺めているだけのようだった。

「あっ」

 僕に気がついた白石さんは、軽い微笑を向けてくる。突き刺さりそうな日差しが照りつける毎日だというのに、彼女の肌は白いままだった。
 たぶん、肌のケアはしっかりしているのだろう。
 白石さんの私服は初めてみるけど、清楚そうな衣装を身につけていた。
 控えめだけど、可愛らしくて美しい。そんな雰囲気。

「久しぶり。待ちました?」
「お久しぶり。そんなに待ってないかな。許容範囲内。倉部くん、遅刻で指導されたこと無いし流石だね」

 風紀委員らしい感想を述べながら、白石さんはレジに向かう。カードで会計を済ませると、店内に備え付けられた休憩スペースで待っていた僕のところまでやってくる。

「で、今日は何か用? 私は勉強の息抜きに外出したんだけど」
「白石さんの顔を見たくなって」
「一応喜んでおく。私も君の顔、見たいなと思ってたし。でもたぶん私、この後帰っちゃうけど」
「ああ、勉強の邪魔しちゃいけないし、僕もこれで……」

 いや、待てよ。
 そこで僕は気がついた。もしかしたら……。

「……白石さん」
「ん? 何?」
「もしかして、今暇なんじゃ」
「え? 何で」
「……ツイッターに、『午後は暇』とか書いてませんでした?」

 白石さんがにやりと笑った。何かことが上手く運んだ時の、ほくそ笑むという表現に近い笑い方。

「ちょっと気が利いてきたね。確かに午後は休憩の時間なの。朝六時から起きて、暑くなる前にその日の学習を終わらせる。まあ、夜に復習するんだけどね」
「……大変ですね。でも、もう勉強は終わったってことなんですよね」
「うん。もしも君が接触してこなければ、もう家に帰って読書でもしてたと思う」
「もしも良かったら遊びませんか? 僕と」

 遊びに誘われることは予想していたのだろう。というか、少し期待していたのかもしれない。
 白石さんの反応は、肯定的なものだった。

「うん。いいけど……当てはあるの? こんな暑い中だけど。プールでも行く?」
「僕の家に行きませんか? 親、今いないし」

 少し勇気を持ちながら告げた僕の提案に、白石さんは少し悩んだ様子を見せたけど、「いいかもね」とOKしてくれた。

***

 僕の家は、かなり普通の住居だった。
 東京の下町の一般的な家庭と言われて思いつくような家で、白石さんの結構高級な家宅からするとランクの落ちる家だった。
 まあ、家族全員を養える程度の父親の収入はあるのだけど。

「お邪魔します」

 白石さんはそう言いながら玄関をくぐり、僕に連れられて二階の僕の自室へと案内された。
 部屋に入るなり、白石さんはこう言う。

「倉部くん。ちょっと部屋が汚い気がする。本棚の本、入れるスペースが無いなら、既に入れてる本の上に横にして積み上げるんじゃなくて、要らない本を整理して収納するか、新しく本棚を買ったほうがいいよ」
「あー……気をつけます」

 風紀委員としては、こういうところは結構気になる物なのだろう。
 実はというと、白石さんを家に連れてくるかもしれないので事前に部屋を掃除や片付けしていた。
 仕舞いきれなくなって床に積んでいたマンガを本棚の空いているスペースに収納し、一応見栄えを良くしようと努めていた。
 床が広々としているだけで、部屋とは結構綺麗に見えるものなのだ。

「……まあ、男子の部屋にしては綺麗かも。比較対象がいないから何とも言えないけど、いい部屋だと思うよ」
「ありがとう」

 白石さんは僕のベッドに腰掛けて、持っていた自分の鞄を傍に置く。
 飲み物はさっき買ったから出さなくても大丈夫だよと言って来たので、僕は一階まで降りること無く、部屋に留まることになった。
 白石さんの傍に腰掛けて、沈黙をかき消すかのように僕は口を開く。

「正直ちょっと驚いた。男子の家に来てくれるなんて。風紀委員としてのいつもの白石さんなら『不純異性交遊で指導します!』って言いそうなものなのに」
「……君なら、大丈夫だと思ったから」
「? どういうこと?」
「倉部くん、私の弱みを他人に言いふらしたりもしてないし、セックスの時もちゃんと優しくしてくれた。私を貶める機会はあったのに、そういうことはしない人だって分かったから」
「そうなんだ」
「まあ、まだ完全に信頼したわけじゃないけどね。付き合う前の言動や品行からも判断して、倉部くんは不良ではないなと思った」
「白石さんの弱みをチラつかせてセックスに持ち込んだけど」
「それはマイナスかな。私にも責任はあるけどね……初めてはロマンチックが良かったな」
「ごめんなさい」
「もう過ぎちゃったことだし、謝らなくていい。これから私たちが幸せになれる手段をとっていけばいいから」
「白石さんは、どんなことをして欲しい?」

 少し彼女は悩んだ様子を見せたけど、考えが纏まったのか口を開く。

「プール行きたい。最近暑いけど、水着ってスクール水着くらいしか持ってないから、子供っぽく見られるのが嫌で行きそびれてる」

 白石さんのスク水姿、僕は大歓迎だけど。
 それを告げるのは流石に変態とかロリコンとか蔑まれそうな気がしたので、それを堪えて提案を告げた。

「水着、今度一緒に買いに行きます? 僕も新しいの欲しいかなと思ってたところだし」
「ショッピングかぁ。いいね。恋人っぽくなってきた」
「今度大型ショッピングモールにでも行こうか。デートも兼ねて」
「うん。そうする」

 約束成立。夏休みなので基本的にはいつでもいいけど、来週の水曜日に二人で出かけることにした。

「で、この後倉部くんは何するの? ゲームとか?」
「白石さん、ゲームするの?」
「したこと無いな」

 参ったな。初心者相手に接待プレイの仕方が分からないし、オタク気味な僕には女子と二人ですることが思いつかなかった。
 ……いや、男女が二人ですることで思いつくのは一つだけあるのだけど、「最低だね」と蔑まれる気がしたので口には出さないでおく。
 けど、ことは意外な方向へと転がり始めたのだった。

「……セックスって、こう言う時にするのかな」

 その言葉を口に出したのは、白石さんの方だった。
 あまりにも自然に言うものだから、僕は一瞬何を言われたのかよく認識できなかった。

「……まあ、すると思う。親も今家にいないし。絶好の機会……って、もしかして」
「……やらない? って言ったらどうする?」

 この状況での「やらない?」がどういう意味を持つのかは嫌でも良く分かる。
 ヤりたいのは認めるけど、白石さんはいいのか?
 そう思い、訊いておく。

「いいの?」
「……風紀委員としては問題あるけど……でもね、聞いて欲しい」

 白石さんは、横に腰掛ける僕の目を見据えながら続ける。

「何もしないってのも確かに優しいと思うし、私のことを大切に思ってくれているんだなって感じる。でもね。本当に何もされなかったら、『私って魅力無いものなのかな』って思うものなの。少しくらい、指一本くらいは触れてもいいんだよって思うの」
「そうなんだ……」
「触ってもいいよ」

 白石さんが僕に体の正面を向けてくる。
 細身の体は思い切り抱きしめたら折れてしまいそうで、中性的で、けれどとても触り心地がよさそうで。
 僕は手を伸ばす。彼女の唇に、人差し指で触れた。
 潤いのある柔らかい弾力が指の腹に伝わってきて、赤子の頬に触れているようだった。
 念のために許可を得てから、胸も触る。
 やや重みはあるけど、それほど垂れていない、恵まれた大きさの乳房。
 服の上からでもその柔らかさと熱が伝わってきて、至福だった。

***

「で、結局こうなるわけか」

 以前買っていたゴムを机の引き出しの中から取り出しながら、僕は言う。

「……興奮してきちゃったのよ」

 白石さんは僕から目を逸らしながら、頬を赤く染めていた。
 彼女の方から誘ってきたのが意外で、僕は質問してみる。

「セフレは嫌なんじゃなかったの?」
「……セフレって扱いがちょっと抵抗あるだけで……いや、なんでもない」
「セックス自体は興味ある……と」
「蹴るよ?」

 ジト目で見られたので黙っておく。

「この部屋あんまり涼しくないね……クーラー効いてないの?」
「親に設定温度制限出されてる。ごめん。扇風機も付けるから」
「じゃあ、暑いし全部脱ぐ?」
「風紀委員とは思えない発言だね」

 でも、色々な意味で悪くない提案だった。
 まず彼女の裸体を見れるというのと、こんな暑い中服を着てセックスなんて死にそうだから。
 そういうわけで、僕らは服を脱ぎ始める。
 汗ばんだ体に張り付いた服をもぞもぞと脱いで、生まれたままの姿になっていく。
 白石さんの着ていた柔らかい布地の服が崩れ落ちるように床に落ちて、その素肌の面積が広がっていく。
 床に入り混じった服と下着を彼女は丁寧に畳む。育ちの良さが窺えた。
 そうして僕らは互いに裸体を晒した状態になった。ベッドの上に立て膝を付いた状態で、僕らは向かい合う。

「ねえ。シャワー浴びて汗流した方がいいんじゃない?」
「いや、汗だくの方が興奮する」
「変態だね。倉部くん」

 本気で嫌悪しているのではなく、冗談めかした言い方だった。
 彼女の白い肌を見ていると、妙に悩ましい気持ちにさせられる。
 薄いお腹やくびれた胴。彫刻のように均整の取れた体をしていて、美しいボディラインが魅力的だった。

「ジロジロ見すぎ。倉部くん、目つきがギラギラしてて怖いよ」
「……男の性なんです」
「風紀委員の仕事が無くならないわけだね」

 やれやれと言いたげな白石さん。
 正直自分からセックスを誘ってきた彼女の発言の力が薄い気がしたけど、怖いので突っ込まないでおく。

「そろそろ愛撫、してもいいかな」
「ご自由に」

 許可を貰ったので、僕は彼女の素肌に手を伸ばした。
 汗をかいてしっとりと湿った身体。
 その胸の辺りを手で触る。マッサージをするように。
 胸の隅々を揉み解していくけど、僕は一つの部分には敢えて触れないでおく。
 そこは彼女の乳首の部分。その淫靡な突起のすぐ傍を指が掠めていくことに、白石さんは気が付いた様子だった。

「乳首、触らないの?」
「もう少しのお楽しみ」

 僕もその部分には触れたかったけど、我慢する。
 傷一つ付いていない綺麗な肌、柔らかい乳を揉んでは摩り、揉んでは摩りを繰り返す。
 そうしている内に、なぜ僕が乳首に触れないのか、彼女にも理解出来てきたようだった。

「倉部くんっ。んっ……ホント君、意地悪だねっ……」

 僕の予想通りの反応へと変わっていく。
 彼女の中の官能が、触れて当然の部分がいつまで経っても触れられないため何倍にも肥厚して、肥大して、発熱して、期待する気持ちが膨らんでいっている。

「焦らしは愛撫の基本だからね」
「そういうところだよっ……」

 本気で批難していないのは、彼女の声音でよく分かる。白石さんも、この感覚を楽しんでいる。
 いつの間にか、彼女の脚は開き気味になっていた。
 僕は自分の指を腹にまで達させると、その指先を触診するようにヘソの近くをなぞる。
 その奥の内臓の形を確かめるように。
 指を動かすたびに、彼女の中の何かが収斂を起こしたように身体を駆け巡ってビクッと震えた。
 そろそろだな。
 僕は腹から指を除けると、そのまま彼女の乳首の先端の何ミリかの部分を摘み上げる。

「あぁっ……ひぅっ♡」

 白石さんは声を上げた。抑圧されていたものが一気に解かれた、そう思わせる甘い喘ぎ。
 そうしてグリグリと両方の親指の腹で、薄赤い突起を押し付ける。

「んぁっ……うぅ……♡ や、やめっ♡」

 白石さんは立て膝を維持できなくなったのか、僕にもたれ掛かってくる。
 愛撫を中断してその身体を抱きしめてあげると、彼女もぎゅっと返して来た。

「はぁっ……はぁっ……倉部くん、酷い人だね……」
「……気分悪くしました?」
「うん。とっても」

 少し身体を起こして顔を見せた白石さんは、蕩けてダランとしたような、でもどこか不敵そうな複雑な表情をしていた。

「これは指導だね。本番は私が上位。いい?」
「……覚悟しておきます」

 ふふんと得意げな表情。その股が濡れていることに気が付いたのは、彼女が身体をはなした時だった。
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