ホームセンター

高橋松園

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ナスカの地上絵

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 目の前に、下手な絵で描かれたCG画像のような光景が広がっている。

机の前に、黄色いTシャツを着た金色に輝くショートヘアーの男が、こちら側に背中を向けて座っていた。

机の上にはパソコンが一台置かれている。パソコンの上の壁に掛けられた日めくりカレンダーは、6月19日の日付になっている。

金髪の男はパソコンに向かい何か書き込んでいるようだ。そこは、病院の診察室のようで、見慣れない検査器具や、点滴の道具が部屋の片隅に置かれている。

金髪の男がいる場所から、更に奥にも部屋があるが、カーテンが閉められていて中を覗き見ることは出来ない。金髪の男の背後には棚が置かれ、その棚の上には、色々なタイプの生首が乗せられている。

鬘なのか頭部に付いたままの髪の毛も棚の上に見える。頭部に付いた髪は色々なヘアースタイルをしていた。

白衣を着た看護婦らしき女が、手にトレイを持って現れる。

そのトレイは小分けに区切られ、中には目玉や耳や鼻のパーツが並べられている。

看護婦らしき女が現れると、金髪の黄色いTシャツを着た男が椅子を回転させ、体ごと、こちら側に向きを変え振り向いた。

金髪の男は、真っ赤なパンツを履き、胸元に赤いペンで渦巻き模様が描かれた黄色いTシャツを着ている。その渦巻き模様はナスカの地上絵のようだった。

ピンッと張り詰めた黄色いTシャツからは、筋肉の膨らみや形がよくわかる。綺麗に整い、とても発達した胸筋を持った男で、腕も太く、Tシャツの袖口は、筋肉ではじけそうだ。

男の目は青く輝いていたが、まぶたは無く、目玉はむき出していた。
眼球の中心が透き通るような青だった。男はニッと口を大きく開けて笑った。

男の口から覗いて見える歯には、歯の表面を四角く、くり貫いたところに赤いルビーを埋め込み、その赤いルビーが落ちないように、矯正用のワイヤーで抑えられていた。

金髪の男は「お前の望みはなんだ。何と交換する。目か、耳か、鼻か、何を差し出すのだ。」と言う。

僕は飛び起きる。ここはどこだ。目覚めたとき、何事が自分に起こっているのか、自分がどこに居るのかわからず、混乱する。

6月19日、いや、今日は6月9日のはずだ。なんだ、僕は当りを見渡す。あぁ、夢か、しまった、寝てしまうとは。

僕の体は全身汗でびっしょり濡れている。手元には、蓋が閉められたままのワンカップが握り締められている。

目の前には、テレビの画面が広がり、サッカー中継が映し出されていた。オレンジ色の制服を着た選手達がボールを追いかけ走り回っている。テレビからは歓声が聴こえて来る。

そうだ、僕はここに座らせられ、マッサージをしているうちに眠ってしまったのだ。

どのくらい寝たのか、今、何時なのか、と再度、当りを見渡す。

横に並べられたマッサージチェアーを見る。隣にいたはずの渡辺さんがいない。

男性の姿はどこにも見当たらない。僕以外には誰の姿も見えない。

僕はマッサージチェアーからゆっくりと起き上がる。こんなことをしてはいられない。早く帰って、きちんと寝て、今日の仕事に備えないといけないと思う。

僕は家電コーナーを後にして、サービスカウンターへ向かおうと急いで歩き出す。

その時、不意に腕をつかまれ呼び止められる。反射的に僕は掴んだ手を払いのけ振り返る。

そこには、坊主頭で背丈が2メーター位はあると思われる大柄で体格の良い男性が立っていた。

まるで仁王像ように肩や腕周りの筋肉が盛り上がり、隆々とした体をしている。全身、力が漲り、とても気迫がある人物だった。

ホーム センター ホーリー・ホーリー と胸元にプリントされた小さな茶色いエプロンを付け、更に「ホーム センター ホーリー・ホーリー ざんまい店 斉藤」と書かれた小さな名札を付けている。

その男性は僕をじっと見つめ「あんた、見慣れない顔ね。新人さんかしら。まぁ いいわ。人手が足らないのよ。ちょっと、手かして」と言い、僕の手を引っ張り、歩き出そうとした。

「ちょっと、待って下さい。私は時計の修理に来ただけなのです。もう、修理も終わったと思いますし、家にも帰らないといけないのです。仕事の準備もしないといけないので、貴方に付き合っている暇は無いのです。」と僕はきっぱりと言い、その斉藤と名札が付いた男性の手を払いのけた。

今度は変なことに、巻き込まれるわけにはいかない。

僕の手を引いた斉藤さんは、その言葉を聞くと「時計の修理・・・時計の修理ねー・・・」と呟く。

そして、「無駄なことだと思うけどね」と付け加えて言い、携帯で電話をし始めた。

「もしもし、斉藤です。えっと、」と言い、僕の首からブラ下がっている番号札をちらりと見て「そっちで、69番さんの時計の修理を受けているでしょ。それって今、どんな感じ」と訊く。

「うん、うん。そーね。わかった。伝えておくわ」と言い電話を切り終わると、僕に向かい「することしないと、修理は終わんないらしいわよ。」と、大きな厳つい体には似つかわしくない、柔らかな女のような物腰で、マッサージチェアーに居た渡辺さんが言ったこと、と同じような、意味不明なことを言った。

一体、なんなのだろう。渡辺さんと言い、斉藤さんと言い、僕に何を言いたいのか。皆目検討が付かない。

「することをしないと、とはどういうことですか。代金は修理が終わってからで良いといわれたので、まだ支払ってないのですが、やはり、先に支払った方が良いということでしょうか」と、僕が訊くと、

斉藤さんは「あんた、自分が置かれている状況がわかってないみたいね」と言う。

僕は彼が言う、「自分の置かれている状況」というものが、どういう意味なのかまったくわからなかった。

僕は「ここには、時計の電池交換に来ました。ついでに山登り用の熊避け鈴も買いましたが、それ以外に、何かあるのですか」と改めて訊いた。

「あんたさ、ここに、今、居ることにどんな意味があるのか、よくよく考えて御覧なさいよ。その意味がわかったら、つまり、ここに居る意味を自分なりに見つけられたら、帰れる、うーん、どうにかなるわよ・・・えっと、つまり、自分の人生における意味。未解決の問題・・・たぶん、そんなことよ。
人によって違うから、まぁ、いいわ。ついていらっしゃい。」と言い、再度、僕の手を引いて、資材館の方向に歩き出した。

僕はこの男性が言う意味は、よくわからなかったが、ここに自分と関係ある「何か」があると思い始めていた。

それをこの大きな厳つい体をした坊主頭の斉藤さんから聞くことができるかもしれないとも思った。僕は言われるまま、斉藤さんに付いていった。

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