アガダ 齋藤さんのこと

高橋松園

文字の大きさ
上 下
28 / 32

「ユリウスとマザー」

しおりを挟む
 「ユリウス、たった今、日本の遺伝子バンクから新しい遺伝子の情報が入って来ました。」とマザーが言った。ユリウス・グーデンベルグはドイツのハイデルベルク大学の地球科学部の生物工学研究室で彼が作り出したAI知能が塔載されたマザーと話をしていた。彼はこの大学の生物学者であり、ドイツを代表する遺伝工学研究の第一人者である。そして、地球温暖化により生じる様々な出来事で、地球に生存できなくなる人間を生かすためのプロジェクトリーダーでもあった。

「どんな情報。聞かせて、マザー」とユリウスは言った。

「はい。昨日、二千十九年六月六日に事件を起こし警察に捕まった者のDNAの解析情報が入って来ました。その者は我々が探しているタンパク質を持ち合わせている可能性が高いです。」とマザーは言い、しばらく沈黙が続いた。

「続けてマザー。情報を聞かせてくれ。」とユリウスは急く気持ちを抑えて聞いた。

「はい。名前は齋藤 彗神子(さいとう えみこ)。西暦千九百六十六年六月六日生まれ。出生地は新潟県魚沼市六日町。現在五十三歳です。性別は戸籍上は女性ですが、DNAの鑑定結果は染色体が69XYY型の胞状奇胎子です。真性半陰陽でXXを持つ細胞とXYを持つ細胞が同じ個体で混在。Y染色体過剰のスーパー男性XYY型症候群です。特徴は高身長。血液型はRH-B型でY染色体はYAP遺伝子D1a2a。父親は既に他界していますが、齋藤 道三郎(さいとう みちさぶろう)。父親のDNA鑑定は既に他界している為データーは残っていませんが、彗神子のY染色体情報から推測されるとクロコダイル科クロコダイル族のナイルワニの遺伝子を引き継いでいる可能性が高いです。それからミトコンドリア情報から現在、東京都青海市で保管されている、日本で未確認生物と言われUMA扱いされている河童のミイラのDNAと一部、一致しているようです。父方の母親の系列のものか、母方のものか不明ですが、河童のハイブリッド生物の可能性があります。ミトコンドリアからは、別のハイブリッド生物のDNAも検出されています。母方から引き継いだ遺伝子のようです。母親は上越高田の出身で齋藤 世末子(さいとう よみこ)。旧姓は尾崎(おざき)。母方の祖母は尾崎 世来子(おざき よきこ)です。母方はキツネ族と原猿類の混血でヒトに進化をとげた生き残りの種族です。上越高田には九尾の狐という中国神話にも出て来る妖狐が住んでいたという神話があります。彗星が落ちた場所とありますが、宇宙からの飛来した生物と地上に居たキツネ科の生物のハイブリッドである可能性があります。また、上越には世界的に有名なフォサマグナがありますが、その地域に日本の神話に出て来る奴奈川姫という人物が居ます。その者とその一族が住んでいた村が西海村字平牛(ひらうし)の経ヶ峰と言い、その峰の頂には神に捧(ささ)げた金幣(きんぺい)が埋められてあり、毎夜光を放っていたので沖の漁師の標(しるし)となったと言い伝えられているようです。今回、発見されたDNAと繋がりがありそうです。」
 

「それはすごい。そんな種族の生き残りが存在するなんて、今はどこに住んでいるの」とユリウス。

「母親の齋藤 世末子(さいとう よみこ)は現在、所在不明です。しかし、彗神子が遺伝子データーバンクに情報を乗せたことで、つまり、今回、警察に捕まったことで、齋藤 世末子(旧姓、尾崎 世末子)の存在が発覚しました。現在、齋藤 彗神子は糸魚川の漁業組合に所属していますが、今は警察の保護下にあり日本の新潟県新潟市にある白金総合病院の精神科病棟に入っているようです。」とマザー。

「欲しい。その齋藤 彗神子さんのタンパク質が必要だよ。どうしたら手に入れられるかな」とユリウス。

「はい。正規のルートでは本人の承諾が無い限り不可能です。生命を絶つことに繋がる実験を了承するはずもないため、承諾はしないでしょう。インド、中国経由でコンサルタントに依頼し手配するのが一番安全な方法だと思います。」とマザー。

「わかった。そうしよう。手配してくれマザー」とユリウスは言った。

「はい。では、さっそく手配します。」とマザーは答えた。

「ところで、上田にその後、何か動きはあったかな。」とユリウス。

「いいえ。何も気が付いていないようです。」とマザー。

「そう。それなら良かった。彼の耳垢を調べたことがわかったら友人ではいられないよね。まぁ、バレなきゃいいんだけどさ。マザー、君の予測通り、彼は何か日本に関係がある地球の秘密を隠しているよ。どうしたら、口を割らせることが出来るかな。」とユリウス。

「私が思うに、上田さんの抱えている秘密は、まだ彼自身、断定できないものなのではないでしょうか。調査段階の為、あの不可解な呼び出しに答えて来てくれたのだと思います。」とマザー。

「上田は、僕らと別れた後、八木ヶ鼻に行ったんだろ。何をしに行ったのかな。」

「彼の脳裏にあった残像から解析したことによると明星山と八木ヶ鼻の間に流れるひずみを調べに言ったことは確かです。ヤヌス岬を探しているのではないでしょうか。」

「そういうことか。あのラインの延長線上にはグリーンランドが来るからね。あそこには、米国の軍事基地の廃墟がある。これは何かあるね。マザー、上田のことは、このまま、目を離さず見張るように。それじゃ、さっきの手配の話と合わせてお願いね。」

「かしこまりました。」とマザー。
しおりを挟む

処理中です...