アガダ 齋藤さんのこと

高橋松園

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「世末子の創造神話 二」

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 「宇宙の創造主は、人魂を宿せる生きものに多くを教え、美しいものを創造し宇宙の創造主を楽しませるという使命を与えた。そして、それと共に創造主の使命を果すものには豊かさという富の見返りを与えると約束した。

創造主は宇宙から発せられる色から色読みを教え、色を扱うものは、猿人の世では、色使いと名付けられ、思うがまま色彩を操った。宇宙の音を拾えるものを音読みといい、音読みから楽を生み出すことも教えた。猿人の世では音楽使いと言われた。また、あるものは色読みや音読みを数式に変えることを教わり、猿人の世では、数使いと呼ばれ、数字と数式を扱えるようになった。宇宙の創造主はこの世に美しいものを創り出す、ありとあらゆる知識と技術を人魂を宿せる生きものたちに伝えた。そして、多くの人魂を宿すものから美しいものが生まれ、団子星は美しきもので満たされ繫栄した。こうして、団子星は猿人の言葉で後の世に地球と呼ばれる星になった。

しかし、この団子星に生まれたものは、生まれると同時に、食って生きるために戦うことになった。この戦いはこの星で生きるものすべてに課せられることになった。これは、この星が団子星として固まった時に自ら選んだことであった。宇宙の創造主は、せっかく創り出したものが、戦いで全て滅ばないようにしようと思った。宇宙の秩序を守るものが勝利するように、秩序を守らないものの方が少しだけ弱くなるようにした。そして、秩序を監視するものを作った。それから、地球の地中深くに鎮めた赤い蛇の悪霊が暴れだし、団子にした星屑が崩壊しないように、地球、各地に守護主を置き、地球を龍魂の糸で結び、その糸が切れないように見張り番を置いた。その見張り番を生み育てる役割がスワミである。

スワミとは猿人の世になってから付けられた名前だが、龍の魂の欠片である鱗を宿せる肉体を持つ、鰐人(わにびと)が宿った土地の名前から来ている。その鰐人はチグリス川沿いにあるスーサという町で生まれ長い年月をかけて、いくつもの名を身に着けこの地にたどり着いた鰐人たちのことを言う。この鰐人たちは兎の皮をはいだ鰐人たちと猿人話の神話では言われているが、兎の皮をはいだわけではなく、それは、鵜(う)の鳥の鳥人(とりびと)と交わったことを意味している。交わって出来た子供の中から男であり女である両性有具の者を猿人たちは神と崇めるようになった。そして、頭に鳥を乗せた両性有具の偶像を創り出し、それを祀り、この地に相応しい神として語り継いだ。後の世になり、この鰐人のたちの王のことをスーサの王と呼ぶものも現れた。このスーサの王の血を引き、鵜の鳥人と交わり出来た両性有具者が見張り番として選ばれ、この地を守るものと決められた。スワミとは、その世話役で「スーサ」の「ス」と「ワ」は「輪廻」の「輪」から「繋ぐもの」の意味で呼ばれ、「ミ」とは肉体の「身」からついた名だ。

翡翠の大亀島では、宇宙の秩序は守られ調和のとれた美しい大地を広げていったが、怒りの炎と泥で出来た瘡蓋(かさぶた)の大地は違っていた。その大地から生まれしものを喰らうものたちは再び悪の心を宿し、憎しみや悲しみを生み出し、殺し合いや奪い合いなどの争いが絶えない大地となった。空には腹をすかせた醜い野望の羽を広げた鳥が飛び回り、餌を探していた。鳥たちは翡翠の大亀島の生きものたちに目をつけて狙い、食い漁り始めた。憎しみと悲しみにまみれた生きものたちは、憎しみと悲しみの海を渡り、美しき翡翠の大亀島に上陸した。そして、暴れまわった。翡翠の大亀島は荒れ果てはじめた。醜い生きものたちが美しい島を乗っ取って我が物顔で生き始めた。頭の悪い猿人たちが世の中を牛耳り初め、頭の悪さと肉体の弱さを補うために集団で行動し始めた。そして、宇宙の創造主を楽しませること以外に、猿人たちにとって都合の良いものを作り始め、宇宙の秩序を乱し始めた。猿人たちが作り出した神々が宇宙にない法則を作り出し、宇宙の創造主が望まないものを富ませるようになった。

それを見ていた宇宙の創造主は、美しい翡翠の大亀島が醜い心の持ち主に奪われないように海の底に鎮めることにした。これが、宇宙の創造主による二度目の裁きである。これ以降、争いをやめないものたちへの教訓として、宇宙の創造主は繁栄のため見せしめとして自然による恐怖と滅びを与えることにした。

宇宙の創造主は、団子星を鷲掴みにすると、大きく揺さぶり地震と津波を起こした。そして、フゥ~っと、熱い吐息を団子星に吹きかけると、凍らせておいた白い蛇の悪霊を解き放ち、青い蛇の悪霊の野心を奮いたたせ洪水を起こした。海と川に散らばっていた青い蛇の悪霊は見る見るうちに集まり、翡翠の大亀島を飲み込んで海の底に鎮めてしまった。島にいた生きものたちは、四方八方へ逃げた。海に沈んだものも居たが、瘡蓋で出来た大地に逃げ、生きのびたものもいた。猿人の中には、船で生活し海に留まるものも居た。

翡翠の大亀島は赤い蛇の悪霊が沈んだ海の中の溝に沈み込んで行った。瘡蓋で出来た大地も割れて動いた。残った島々はゆっくりと海の中を動き散らばった。南に位置していた一つの島が長い年月をかけて北上した。その島は、瘡蓋の大地の溝に沿って張り付き、瘡蓋の大地と陸続きになった。こうして、一つの細長い島が出来た。その島の下には、赤い蛇の悪霊が蠢(うごめ)き、翡翠の大亀島が沈み込んだ溝があった。宇宙の創造主は、この溝を北上してきた島で塞いだ。この溝に沿って浮かんでいる島を、後の世になり日本列島と猿人は呼んだ。

翡翠の大亀島が沈むと憎しみと悲しみで出来た涙の塩辛い海は、翡翠の大亀島で浄化され綺麗な海になった。猿人たちの世になり、この翡翠の大亀島は「海に何も存在しない大陸」という意味で「無」や「無大陸」と言われるようになった。この「無大陸」があった場所は、その後、太平洋と呼ばれるようになった。しかし、青い蛇の悪霊は海の中に残り日本海周辺を海遊した。そして、蛇に憑りつき大蛇となった。その中には、猿人たちの間で、「尖閣の大蛇」と言われるヤギを喰い海を泳ぐものや、川を泳ぎ、山を渡り歩く「剣山の秘宝を守る大蛇」や「鳥海山の夫婦大蛇」と呼ばれるものがいた。この暴れる大蛇が陸に上陸しないように、また、川や海が平穏であるように、そこに集う生きものを守ることが、水の守護主の役割となった。日本各地に大蛇から大地を守る結界が張られているが、この地を守る水の守護主には更に特別な役割が与えられた。

 宇宙の創造主は、第三の裁きが行われる場所を日本とした。それは、赤い蛇の悪霊が蠢いている溝のことで、日本が溝の蓋代わりになっているからだ。そして、第三の裁きの判決をこの地を守るものに与えた。裁きが下される時、地球はこの地を発端に自らの力で自爆することになる。ただし、宇宙の創造主は、裁きが起こらないように事前に警告を与える。どれだけの猿人がこの警告に気が付き、裁きが起こらないように手を打つことに従うことができるのか・・・。宇宙の創造主は美しいものを創らず争いばかり続けるようならば、地球を終わらせ、善き魂のみ別の世界へ移動させる計画を持っている。この日本国の下で眠る、赤い蛇の悪霊の溝は地球の割れ目である。赤い蛇の悪霊を目覚めさせれば、地球は真っ二つに割れ、爆発し宇宙の藻屑となり地球は終わる。

水の守護主の魂とは、赤い蛇の悪霊に打ち勝ち、青い蛇の悪霊を操ることができる唯一のものなのだ。それは、青龍の欠片の鱗から受け継がれた魂である。この魂は、鱗の数だけあり、水の守護主として、この地球の結界となり、地球各地に龍魂の糸を張り巡らせ、この龍魂の糸で地球の大地の裂け目を縫い合わせ、この地球の大地を崩壊から守っている。この糸が切れるとき大地は裂け、地球は崩壊する。宇宙の創造主は、第三の裁きを下す時、一瞬にして地球を崩壊させる場所としてこの地を選んだ。糸魚川と静岡の線、柏崎と千葉の線の中央に大きな穴が開き、日本は二つに割れ、ここを境に裂ける。その西側の場所を守る為、立山、明星山、米山、八木ヶ鼻、八海山、矢筈岳、弥彦山と北斗七星の結界を張り、龍魂の糸で結んでいる。この結界は宇宙の北斗七星と結ばれており固く守られているが、美しいものがこの世から消えた時、崩れ去る運命にある。明星山には宇宙の創造主に吸い上げられる魂の出口があり、大きな黒い奇異な羽を持った鳥が守っている。その鳥は、猿人たちによって、ルシファーとも呼ばれている。八木ヶ鼻には宇宙の創造主から魂が噴出される入り口がある。ここは、隼が守っており、地球に入って来た魂を肉体に送り届けている。

地球が終わる時、美しい魂だけが、ここを通り別世界へ行く。その時が来るまで、龍の魂の糸で大地の割れ目を結び付けているのだが、龍の魂を糸として縛っておくには生贄が必要なのだ。その生贄は、この地では、矢筈岳のカモシカが与えられる。三で割り切れる年の三で割り切れる月に、水の守護主に使える者が捧げる役割を果たし海へ奉納する。今、この地で、この役割、水の守護主に使える者は世末子の子供の彗神子(えみこ)だ。この女、世未子の役割は、この地の水の守護主に使える者を代々受け継がせるスワミとしての使命がある。スワミとして水の守護主を支えるものに使えているというとだ。これが、お前が知りたかったこの女の使命だ。

この女の肉体を選んだ理由、それは、世未子はこの地に生まれ、唯一、魂である私を受け入れることができる肉体を持ち合わせたものだからだ。世未子は上越高田で生まれた狐人(きつねびと)と糸魚川の姫川上流で翡翠を守っていた亀人(かめびと)の間に生まれ、猿人との交わりもある、現在に至る子孫だ。元来、亀人と猿人の愛称は悪く、その間に生まれしものは肉体の苦痛を強いられるために、この女の肉体も苦痛に満ちた日々を過ごしている。この女は、おのれの肉体を鍛え精神を受け入れる努力が出来ぬゆえに、おのが魂の使命の理解に乏しく、その重圧による苦悩を抱えている。また、この魂を宿せる女の腹に宿すものは、男の血に宿る、水の守護主の魂の欠片を受け入れられる肉体を持ち合わせていなければならず、それは定められている。鳥人と鰐人の間に生まれた子孫であり、猿人との交わりもあるもので、男であり女であるものでなければならないのだ。先の話に出た、鰐人であるスーサの王の血を引く種族である。猿人たちはそれを神と呼び崇め像を創り祀った。この女は、水の守護主に使える者を宿した。その一人が彗神子だ。彗神子が本当の意味で、その使命を自覚し全ての記憶を蘇らせるようになるのは、子孫を残した後になる。その為に、66歳の誕生日までに、生むのか生ませるのかを決めないといけない。受け継ぐものが消えれば、そのものが守っている場所の結界が解け、魔が押し寄せ、救世主が現れなければ、地球は終わることになる。」と言い沈黙が流れた。

すると、旧中条病院、精神科医の黒井武雄氏の声で、「一人は彗神子さんと言いましたが、他にもお子さんはいるのですか? それから、世末子さんのご主人で彗神子さんの父親である人の話を聞いても良いですか」と質問の声が再び聞こえ、世未子の肉体に宿る世末子の魂の声が続いた。

「斎藤道三郎のことを知りたいのだな。」「そうです。ご主人とはどこで出会われたのですか。ご主人はどんな方ですか。差しさわりがない程度で構いませんので、お聞かせ頂けますか」と黒井武雄氏の声。

「道三郎とは滝行の時に出会った。道三郎は神聖な滝つぼにある翡翠の岩を盗もうとしていた。しかし、会った時に分かった。この滝つぼで出会ったのは主のおぼし召しであると・・・。道三郎はエジプトのナカタとメソポタミアのスワに生息していたワニ族の血を引くものだった。」と世末子の魂が言う。

「そうですか。それから、お子さんは彗神子さんの他にもいるのですか」と黒井。

「彗神子は一卵性の双子としてこの世に生まれた。片割れは幼くして海を渡り他国で成長している。そして大切な役割を担っている。世末子がその子に再開するときは別れの時である。」と世末子の魂が言う。

「別れの時? それは、どういう意味ですか」と黒井。

「その時になればわかる」と世末子の魂が答えると、何かが倒れるような大きな物音がし「大丈夫ですか、世末子さん、しっかりして、水を飲んでください。」と慌てている黒井武雄氏の声が聞こえた。
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