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「六日町時代の私の話。そんな時代だったかもしれない」
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家の中に入ると、右手にはトイレがあり、まっすぐに伸びた廊下が目に入った。廊下を挟んで左右にいくつか部屋があった。岡田と中西は玄関から入ってすぐの左側の部屋に案内された。戸ふすまを開け中に入ると、そこは、板の間の床に絨毯が敷かれた洋室になっていた。部屋に入った突き当りには、昭和の面影を残した曇りガラスの窓があり、柔らかな光が床に降り注いでいた。部屋の中央には大きな茶色の革張りのソファがテレビと平行に一台置かれ、その脇に同じく茶色の革張りの二人掛け用のソファがテーブルを挟みコの字型に配置されていた。テレビの上の壁には、湖と富士が描かれた大きな絵が飾られている。それ以外は、入り口の手前に茶戸棚が一つ置かれ、その上の壁にはカレンダーが掛けられているだけで、すっきりとした部屋だった。普段は使われていない客間のようだ。部屋の中は、雨上がりのような清涼感があり、ひんやりとしていた。どこかの小窓が開いているのか、時折、三国山脈から吹き下りて来る清々しい風が部屋の中を通り抜けて行った。富田さんは「そこに、腰かけて下さい。もうじき、娘も来ますから」と言い残し、奥の部屋に行ってしまった。
岡田と中西は、中央の大きなソファーに二人で座った。ソファーは四人掛けが出来る大きさがあった。岡田と中西の二人が座っても、余裕で余る大きさだ。「いやぁ。大きなソファですね。僕もこういうの欲しいな~」と中西が言った。「家族が多いのかな。昔からここに住んでいて、町内の組長しているくらいだから、人の出入りも多いんだろう」と岡田が言った。「なんだか、爽やかな風が気持ちいいですね~。眠くなってきちゃったな~」と中西が言うと同時にふすまが開いた。富田さんが茶菓子と電気ポットを手に持ち戻って来た。
「すみません。家が古いもので隙間風が入るんですよ。」と富田さんが笑顔で言った。
「あぁ、いえいえ、そういう意味じゃなくて、とっても居心地が良くて、眠りたくなると言いたかったです。」と中西が会話を聞かれていたことに焦りながら慌てて言葉を付け足した。
富田さんは手に持っていたお茶菓子をテーブルの上に乗せると「こんなものしかなくて・・・お茶、入れますね」と言い、茶戸棚からお茶の道具を一式出し、手際よく急須にお茶の葉を入れお湯を注ぎ始めた。「お構いなく。突然、押し掛けてきて、こんなに良くしていただき、申し訳ない。お話を聞けたらすぐに帰りますので・・・」と岡田が言った。辺りにはお茶の香ばしい、香りが温かい蒸気とともに広がった。富田さんが、お茶をテーブルに乗せた時、玄関の冊子扉をガラガラっと引く音がした。
「おとうさん、いるー」と元気の良い、女性の声がした。富田さんは「あぁー 真由美か、手前の居間に居る、こっち来い」と呼んだ。玄関から荷物を床に下ろす音が聞こえ、廊下を数歩、歩く音がし、勢いよく戸ふすまが開いた。目の前に富田さんの娘の真由美が居た。
真由美は「どうも、初めまして。娘の真由美です。結婚しているので今は宇野になります。」とあいさつすると、すぐに後ろを振り返り、「美奈子ー。中、入ってー。」と外で待っていると思われる友人を呼んだ。玄関を閉めて、廊下を歩く音が聞こえると、友人の美奈子がふすまから顔を出し、居間を覗き見た。岡田と中西と富田さんの存在を確認すると「初めまして、遠藤 美奈子と申します。」と一礼した。真由美とその友達の遠藤 美奈子は五十代とは思えないほど若かった。魚沼は米どころなだけあって水が良いからか、絹のような秘め細かい肌をした色白で、まだ、娘のような雰囲気を残した越後美人だった。
岡田は「わざわざ、お忙しいところ、ありがとうございます。私は新潟港警察署の岡田と言います。この連れは中西と言います。」と言うと警察手帳を出した。中西も警察手帳を出し、ちょこんと頭を下げて、あいさつをした。「お時間も無いでしょうから、さっそく、お話を伺っても良いでしょうか」と岡田が続けて言った。宇野 真由美と遠藤 美奈子は同意したように頷き「そうですね。まずは、座って・・・」と娘の真由美が言い、友達の遠藤 美奈子を誘導するように、一番奥の二人掛けに並んで座った。富田は入り口近くで、後から来た二人のお茶を入れていた。
「では、お話を伺いますね。」と岡田が言うと、富田は入れたお茶をテーブルに出し、入り口側に一番近い二人掛けの椅子に座った。
「この人物、ご存じでしょうか」と岡田は真由美とその友人の美奈子に、齋藤 彗神子の写真を見せた。真由美と美奈子は写真を手に取ると、まじまじと眺めた。しばらくして、真由美が話し始めた。「えぇ~。この人って、誰? さっきの父からの話だと、齋藤さんちの彗神子のことで話があるとか聞いたけど・・・関係ある人ですか」と言った。すると友人の遠藤 美奈子が「う~ん。この人は、齋藤 彗神子の兄妹か親戚か何かですか・・・顔はなんとなく彗神子のに似ているけど、この写真の人は男ですよね。」と遠藤 美奈子は答えた。
「お二人は、いつまで齋藤 彗神子さんと一緒の学生生活を過ごして居たのですか」と岡田が訊いた。
「私も美奈子も小、中と一緒の学校だったけど、私はクラスが一緒だったことは一度もないんです。美奈子はクラスも一緒だったし、高校も最初の高校は一緒だったよね」と真由美が美奈子を見て言った。
「そう。私は、小、中と彗神子とは同じクラスで高校も三か月だけ一緒でした。」と美奈子。
「高校、三か月だけと言うと、彗神子さんは高校を辞めたのですか。」と岡田。
「まぁ。自主退学っていうことになっているけど、事実は辞めさせられたっていう方が正しいですね。」と美奈子が言う。
「原因は何ですか」と岡田が訊く。
「私と彗神子は六日町実業高校の家政科に行ったんです。彗神子が言うには、六日町実業なだけに無実だって言って笑ってましたけど・・・。本人の口からは本当のことは聞けてないです。ただ、何かがあって、彗神子の頭に血が上り、職員室の窓ガラスをこぶしで殴り割ったんです。それも、何枚も・・・」
と美奈子が言う。
「六日町実業なだけに無実・・・ん・・・あぁ~ 六日町実業の六と無と実業の実で無実ね。はいはい。」と岡田。「すみません。彼女が言ったことをそのまま言いました。寒いですよね。」と美奈子。
「だいぶ後から、原因になった人たちが噂しているのを聞いたんですが、先輩ともめたようです。部活動のスカウトを受けていて、彗神子は背が高いのでバスケとかバレーとかからお声がかかっていて、でも本人はその気が無くて、先輩の誰かが、その長身を生かさないか的なことを言ったらしいんですが、他にも何か言われたらしく、それが気に食わなくて蹴りを一発入れたんです。それが、問題になったんだけど、一方的に彗神子が悪いという言われ方を先生方にされて職員室の窓ガラスを割る事件になったようです。」と美奈子。
「彗神子さんは背が高いのですね。容姿はどんな感じだったのですか」と岡田。
「背は、子供のころから群を抜いて高くて、高校入学したての頃は百九十センチくらいはあったんじゃないかな。本人はそれが嫌だったらしくて、体重測定の時は小さく見せようと首を曲げたり、足を縮ませたりしてごまかしていましたからね。」と美奈子。
「そーそー。数年前に、五十の会って言う、中学生時代の同窓会があった時、彗神子の話題が出てたわ」と真由美。
「あぁー あれね。同窓会に来て無かったから彗神子。ほら、名前の漢字が変わっているじゃない。彗星の神の子でエミコだしね。今ならキラキラネームだけど、なかなか、読めないでしょ。名前の言われは、彗神子から聞いたことあるのよ。母親が産気づいて車で病院に向かおうと車庫に入った時に生まれたらしくて、その時に、空を見上げたら、流れ星が流れたんだって。母親は彗星だって思ったらしくて、そしたら、キリスト?が馬小屋で生まれた話を思い出したらしく、ほら、車庫って今どきの馬小屋じゃない。だから神の子ってつけたかったそうなのよ。それで、彗星と神の子で彗星の彗と神子で彗神子でエミコって読む名前を付けたって言ってたわ。でね、彗神子は中学二年で身長が百七十センチくらいあって、途中、学校に来なかったでしょ。その時の話ね。彗神子って、見た目が派手な顔立ちしていて、背が高いものだから、化粧とかすると大人に見えたのよね。それで、スナックに出入りしていたらしくて、なんでもアルバイトしていたらしいの。本人が言うにはお皿洗ったり、料理作ったり、歌ったりはしたし、お小遣いはもらったけど、別にバイトじゃないって言い張ってね。そのスナックのマスターが言うには、彗神子は他の客と一緒に来て、そのまま、店の手伝いをするようになっただけで、雇用はしていないし、当時、十四歳だったけど、十四歳には見えなくて、マスターも知らなかったって言い逃れて・・・。」と美奈子。
「子供のころから、大人びた人だったんですね。」と岡田。
「いいえ。大人びているのは背丈と化粧をした時の顔だけで、行動はまったく、子供、そのものですよ。スナックでのアルバイトがばれたのも、彗神子が店で大騒ぎしたようで近所から苦情が入り、店に警察が来たからだそうです・・・。その店に、丁度、その日、その時に友達の兄弟が飲みに行っていて、その現場に居合わせたんです。友達から聞いた話によると、スナックのマスターがおつまみの材料が足りなくなって、ちょっと外に買い出しに行った、数十分の間にあったことらしくて、お客の一人が酔っぱらって、彗神子に絡んだらしいんです。彗神子は背が高いだけあって、綺麗な長い足をしているんですよ。その酔っ払いが彗神子の足を触ったようで、彗神子は、それをかわそうと思たのか、私、女優よ、気安く触らないで、と言い返して、突如、彗神子がカウンターの上で踊りだしたそうです。で、その酔っ払いと店の中で追いかけっこすることになって、大騒ぎになったらしいです。」と美奈子が言う。
「そんな、話だったんだ。同窓会の時も彗神子の話で盛り上がっていたけど、私は他の人と話していて、よく聞き取れなかったからさ、小学生の頃は近所だから何回か遊ぶこともあったけど、お人形遊びとか好きじゃないみたいで、いつも、男の子たちと一緒に遊んでいたしね。虫とか蛇とか捕まえて遊んでいたし、たくさん蛙を捕まえて、公園の地面に指で穴を掘って、掘った土の中に何匹も蛙を重ねて埋めて、生き埋めにして殺したり、蟻を捕まえてはバラバラにして殺したり、とにかく、酷いことするの。彗神子ちゃん、ひどいことしているって私が本人に言ったら、自分は爬虫類だから、蛙やアリは餌なんだ。餌は殺してもいいんだよ。って言うのよ。ほら、小学生の頃は、全身がアトピーで特に手足とか凄くてワニ子ってあだ名だったじゃない。だから、自分は爬虫類だって思ったみたいで・・・とにかく、当時は、なんか怖くて傍に行きにくかったのよね。中学に入ってからは、クラスも違うし、たまに会うことはあったけど、私は距離を置いていたかも・・・。夏祭りの時とか、盆踊りの余興のカラオケ大会でも、ラブ・イズ・オーバーとか、大人な感じの歌ばかり歌っていて、お年寄りうけして歌は上手かったけど、近寄りがたくて、だから、彼女の事、良くわからないの。噂で、私、女優よっていうのは聞いたことある。背が高かったからモデルとか芸能界志望なのかなって・・・。彼女って、気さくで面白い人なんだけど、突飛なところがあって何するかわかんないから、私は正直、苦手だったの。」と真由美さん。
「えぇ~、虫殺すのー? 虫を殺すって意外かも・・・。私の知っている彗神子は虫を殺せない子ってイメージ。だって、蚊が刺しても血を吸わせてあげているのを良く見かけたよ。それに、たった三か月間ともに過ごした、高校の時の話だけど、学校の帰りに、一緒にスーパーに寄って、お会計の時にゴキブリが飛んできてレジに止まったの。店員が驚いて、悲鳴を上げて気が付いたんだけど、そしたら、彗神子がそのゴキブリを捕まえて、外に連れて行ったの。外で殺して来たのかなって思うじゃない? でも、後から聞いたら逃がしたって言うの。どうして?って聞いたら、お知らせに来た虫だから殺せない、っていうのよ。お知らせって何?って聞いたら、虫の知らせって言うじゃない、ってはぐらかされたんだけど、その後が、ちょっと怖いの。スーパーを出た、その帰りに、道端で、蝶が彗神子に寄って来たのね。それが、羽が片方切れていて、片方だけで飛んでいる蝶だったのね。そして、すぐに、オレンジ色の蝶々が一羽飛んできて、そのオレンジの蝶が彗神子の傍にまとわりついて離れなくて、しばらく、彗神子の傍を飛び回って、その後、羽が半分切れている蝶と一緒にどこかへ飛んで行ってしまったの。それを見た、彗神子は、そうか、って一言、言ったんだけど、どうしたのって聞いても、うぅ~ん、としか、答えなくてね。何があったの、ってしつこく聞いたら、わかんない。でも、誰にも言わないなら、教える。さっき、ゴキブリを逃がしに行った時、真人(まさと)と梨花(りか)に似た二人を見かけたんだ。ノーヘルでバイクにニケツして乗って、スーパーの前を通り過ぎて行ったんだけど、あの二人、事故るよ。で、多分、梨花、腕なくすね。って言ったのよ。」と言い、美奈子は真由美を見た。
真由美は、目を大きく見開いて「えぇ~。何、それ、事故が起きることを知っていたってこと!」と声を張り上げて驚嘆した。
「うん。もー時効だよね。誰にも言わない約束して、今まで、誰にも言わなかったから。そうなの。彗神子はあの事件を起こる前に、知っていたのよ。あのスーパーの外で見かけた後に、農道を走っていて事故を起こしているから、二人に警告しようにもできなかったしね。だから、知っていたとしても彗神子にも私にも罪は無いよ。彗神子って他にも色々とこんな感じの予知能力?みたいなものがあるのよ」と美奈子は言った。
「あぁ。すみません。そういう事故が実際にあったんです。」と真由美は岡田と中西、そして父親の富田さんを見て言った。
「彗神子は何かを予知する能力みたいなのがあったから、それでなのね、独り言も多かったし、言うことも変な事が多くて、行動も突飛で、そっか・・・。シックスセンスっていうの。それが強くて大変だったのね。」と真由美は改めて美奈子さんを見て言った。
「まぁ、確かに突飛っていうか、何しでかすかわからないし、変わっていたよね。現実的にも変わった行動をとっていたから、何が原因かは分からないけど、何かに影響されやすかったんじゃないかな。家にあったブルトーザーとかに影響されていた時は、彗神子の家の近所で買い物する時とか、ギィーン、ガシャガシャガシャ、って右手を上げて棚の中に突っ込むと、そのまま、買い物かごに棚の商品を全部落として、家に付けておいてっ、て言って、ブルトーザーの真似してめちゃくちゃな買い物したりしていたから。中学に入ったばかりの頃、ドクタースランプ アラレちゃんって流行ったじゃない、彗神子、あのアニメに泥酔していて、学校に、いつも、アラレ帽子かぶって、うんちゃっ! て登場してくるんだけど、教室で帽子を外しなさいってよく怒られていたわ。さかなクンに理解があるような、今の時代が私たちの子供時代なら、彗神子も良かったのかもね。」と美奈子。
「確かに、何に影響されているか、すぐにわかるような素直なところあったよね。」と真由美。
「そうなのよ。でも、彗神子が影響されるものが変過ぎて、行動も変だったから、周りからは頭が悪い子って思われていたじゃない?」と美奈子。
「あぁ、それね。私も驚いた。学年で最下位の学力かと思ったら、学年で一、二の成績だったことでしょ。中学三でテストの結果を廊下に張り出した時、彗神子の成績は、全教科、ほとんど、一位か二位だったのよね。カンニングでもしたのかとみんなで噂したもん。」と真由美。
「そーうなのよ。彗神子は、昔から、授業中は寝てばかりいて、ノートも取らずにいたし、彗神子の取り巻きみたいな女子たちが彗神子の為にノートを取ってあげたりしていたものだから、てっきり勉強はできない子って私も思っていたの。でも、あの廊下の張り出しで、私も初めて知ったのよ。彗神子ってチョー頭が良かったの。偏差値72だって! だから、彗神子と進路の話をした時、彗神子が、ストレートで東大にも行けるって先生に言われたって言った時、はぁ?冗談きついって思ってたのよ。それが、実は成績良くて頭が良いって知って、驚いたの。本人は、大学は親が望んでいないし、そんなお金は、家には無いし、女だから女らしい学校に行ってさっさと結婚しろ、って言われているって言ってた。だから、家政科がある実業にしたんだと思うよ。わりと、親に言われるままで素直なのよ。だからなのか、変なものに影響されると、そのまま素直にあこがれるのよね。六実に行って、それが、増々、エスカレートしてあんな風になったんだと思う。」と美奈子。
「どんな風?」と真由美。
「六実高の頃、一つ、年上の女で、ヤンキーな先輩が居て、私は遊びに行かなかったけど、彗神子が誘われて遊びに行った後に、私に話したことなんだけど、その先輩が、いかにカッコよいかを話してくれたわけ。そのヤンキーな女先輩、十人くらい彼氏が居るらしくて、先輩の家に遊びに行ったら、たくさん、知らない男の人が居て、みんなでお風呂に入ろうって話になったらしいの。他に女の人もいて、知らない男女が入り混じって入浴したらしいんだけど、それが、かっこいいっていうの。家のお風呂で男女で混浴ってさ、変じゃない?もちろん水着を着たんだよねって聞いたら、真っ裸で、みんなで入っていた、っていうの。彗神子も入ったの?って聞いたら、自分は入らなかったって言うの。何で入らなかったかって聞いたら、自分は入れないからって答えたんだけど、これをカッコよいでしょ、と聞かれても、私にはそのヤンキー女はヤリマン女でその仲間は奇知外にしか思えないから。答えられなかったのよ」と美奈子。
「へー。そんなことが。家の風呂でって、ヤリマン、アーパー女の話って感じで気持ち悪いけど、彗神子は五十沢とか駒の湯とかにある混浴温泉と同じ気持ちになっているのか、外国にあるヌーディストビーチにでもいる気になっているんじゃないかな。そういえば、彗神子って水着にならないよね。小学生の頃は、二組合同プールだったからプールで見たよ。アトピー酷かったけど、プールに入っていた。すごく、泳ぐの上手くて、息継ぎなしで五十メーター泳いだり、潜水も何分も水の中に潜っていられるほどすごかったのよ。でも、中学の頃は、いつも、お休みしていたから不思議に思っていたの。生理って言っても、重なりすぎだよな、あきらかにさぼってるって思ってた。」と真由美。
「そういえば、そうだね。中二くらいから、プールとか入らなくなったかも。水着姿、その頃から見たこと無いわ・・・。それまでは、泳ぐの早くて、国体にも出れるタイムをだったはず。でも、必ず大会はサボって記録は残さなかったけどね。高校時代の真っ裸で混浴は、混浴風呂や外国に影響されていたってことはあり得るけど、何人もの彼氏が居るとかっていう、その自由奔放でハチャメチャなヤンキー女先輩の生き方にもあこがれていたみたいで、服装も、まだ、若いのに、ニュートラっていうの? 当時の水商売ぽい服装っていうか、何だかおばさんぽい大人びた服というか独自の格好していたよね・・・」と美奈子。
「そーそー。格好も独自だったよね。でも、服装は小学生の頃から変わっていたよ。ピンクのジャンパーの上に真っ赤なベルトとか嵌めて、ベルトは必要ないように思えたから、なんでジャンバーの上にベルトしているのか、聞いてみたら、赤であることを示すため、とか謎の返事が返って来たしね。中学生の頃から、中学生には見えない格好もしていたよ。それは、ヤンキー風っていうか、当時が、ヤンキーブームというか銀蠅ブームだったのもあるから、尚更、そーだったのかもしれないけど、頭はブロンドヘアーで伸びきった時は、髪の付け根が黒いマドンナかダイアナ妃、決めている時は、あれ、あれよ、そー。パンチぽかった。ヒョウ柄にパンチヘアーで、大阪出身じゃないのに、当時から大阪のおかんぽかった。で、サテンの紫色のジャンパーで後ろに龍の刺繍が入っていて、腕には当て字で四露死苦(ヨロシク)とか入っていて独特だったよね~。制服のスカートも引きずるくらい長かったし。」と真由美。
「そぉーそぉー。格好は、バリバリのヤンキーだったね。ヒョウ柄は当時のトレンドを入れていたんだと思うけど、ああ見えても、アンアン、ノンノン信者だったみたいで、毎回、雑誌を買っていたもの。でもさ、派手な格好、あれさ、いじめられない為にやってたんだよね。怖そうにしていると手を出されないじゃない、って本人が言ってたよ。強がっていただけで気が小さかったんだよね。それで、気が小さいのがバレないように強がるようになったのよ。」と美奈子。
「そーなんだ。意外~。気が小さい風には、まったく見えなかった。」と真由美。
「子供のころから、背が高くて目立っていたから、先輩から目を付けられやすかったのよね。私、中学生の頃に、一緒に呼び出されたことあるからさ。あの頃ってちょっと気に入らないとすぐに呼び出しとかあったじゃない。私は、彗神子とわりと一緒に居たからさ、それで、目をつけられたんだけど。」と美奈子。
「へー。その時、何かされたの。」と真由美が訊いた。
「いや~。暴力沙汰になるようなことは何もなかったけど、目つきが気に入らないから、気をつけなぁって言われただけ。でも、今だったら、そんなのアウトだよね。」と笑いながら美奈子さんが答えた。
突然、「すみません。話が脱線し過ぎました。」と岡田と中西を忘れて昔話に夢中になってしまったことを悪く思ったのか、美奈子が言った。
「いいえ、どうぞ、続けて下さい。」と岡田が言った。
奈美子は岡田の返事に安堵した。「それで、話を続けると、彗神子は、六日町実業を辞めた後、別の高校に通ったって聞いてます。六日町女子高校。合併しちゃって、今は無いんですが、当時は六女(ろくじょ)と言われていました。彗神子は、この学校も一か月で辞めているのよね。原因はやっぱり喧嘩らしいです。六日町女子の制服は当時、茶色の制服だったんです、それがゴキブリカラーって陰で言われてて、今、思えば、結構、かわいい制服なんだけど、当時の人気は、つっぱりハイスクール系のセーラーカラーに赤いリボンの爽やかな制服か、紺のブレザーだったから、茶色いブレザーに茶色いボックススカートの制服はゴキブリに見えたのよね。で、よせばいいのに、彗神子ったら、制服のまま長岡に遊びに行って、下校中の女郎高、つまり長岡女子と鉢合わせ。タイマンはって、相手をボコボコにしたってことです。駅のホームでチェーンを振り回しての大乱闘だったらしくて、駅員に通報されて警察沙汰に。ということで、ここも、建前は自主退学したらしいです。」
岡田は六日町と長岡の警察署に行けば、当時の記録があるかもしれないと思った。
「その学校を辞めた後の話は聞いていないですか」と岡田は訊いた。
「もうひとつ、学校に行ったらしい。でも、どこかは分からない。夜学だったみたいだけど、とにかく、高校は卒業して、その後、東京に美容部員として働きに出たっていう話は聞いています。でも、家の事情で六日町に戻って来て、父親の仕事を手伝って、ほら、廃業したでしょ。会社の借金を彗神子が肩代わりしたとか、正しく言うと父親に騙されて借金を背負わされたらしいけどね。これは、彗神子の口から聞いた話だから間違いないと思う。三十歳の時に、彗神子と六日町でばったり会ったことがあって。当時は表向きはまだ、父親の会社は営業していたし、彗神子もその会社で働いていたみたいだけど、内容は酷い状態で、倒産させないように彗神子が銀行から借金して、父親からダンプと除雪車を買い取ったらしいのね。でも、それが、車検も切れているし、屑鉄同然の代物だったらしくて、仕事はできない状態だって。それに、その頃、日本は不景気で、角栄さんも死んじゃって、インフラの整備も下火だったし、雪も降らないし、だから、そんなに仕事もなかったし。それで、彗神子は借金返済の為に、糸魚川に居る親戚を頼ってカニ漁に出るって話を聞いたのが最後。」と美奈子が言った。
中西は相変わらず、メモを取っていた。岡田は齋藤 彗神子と漁師が一本の線で繋がったと思った。でも、この写真の主が齋藤 彗神子、本人とは限らない。もしかしたら、その写真の人物はカニ漁で齋藤 彗神子と何らかの関わりがあった人物で、彼女の戸籍やパスポートなどをすべて自分のものにして成りすまそうとしているだけかもしれないと思った。この写真の主が、この二人の越後美人の話に出てくる齋藤 彗神子なのかをどうやって確かめればよいのか。どちらか一人が、新潟港警察署に来てもらって面通しをしてもらうしかなさそうだなと思った。
「そうですか、糸魚川の親戚を頼ってカニ漁に出たのですね。お父さんの道三郎さんとの関係は、悪かったんですか。」と岡田が訊いた。
「詳しいことは分からないけど、二人の関係は微妙で。中学の頃ですが、彗神子の体中傷だらけだったことがあって、父親にやられたって言っていました。彼女も負けてはいなかったみたいです。木刀で殴り合いしたこともあったみたいです。でも、本当に仲が悪かったかどうかは分からないです。それは、彗神子はいつも父親をかばう言葉を最後に言うからです。彗神子のお父さんに会ったことは二回あります。一度は、小学生の頃の父親参観日。彗神子の家は母親参観日に母親が来たことは一度もなかったんですが、父親は一度だけ来ましたね。カーリーヘアーでピンクのシャツにピンクのパンタロンを穿いていたのを覚えています。太っていたので貫禄がありましたが、格好は、ペーパー夫妻のペーさんみたいな恰好していましたよ。二回目に会ったのは、中一の時です。彗神子の家に友達みんなを集めて千一夜物語の縮小版で百夜一夜物語ごっこをしたことがあるのです。今でいう、パジャマパーティーですね。男女合わせて十人くらいが彗神子の部屋に夜に集まって、幽霊話を話すことになったのです。でも、千回分話すのは長いので百回分の話で、話したら蠟燭を吹き消すっていうことで、百本の蠟燭に火をつけて話し始めたんです。
話が、二十話くらいまで進んだ頃、彗神子の父親が怒鳴り込んできて、お開きになったんです。窓を開けて蝋燭をつけていたんですが、百本でしょ。煙が凄くて、窓の外に蝋燭の煙がモクモクって流れて、彗神子の父親は火事だと思って慌てて二階の彗神子の部屋に入ったら、暗闇で娘と娘の友達が蝋燭囲んで話し込んでいる姿を見て激怒したみたいです。当たり前ですよね。今は、わかりますけど、当時は子供で理解できなかった。千夜一夜物語って話している途中に、千回話さずに話を止めると呪われるって言われているんです。だから、始めたら最後まで、話はやめないで続けないといけないんです。それは、百回でも同じで、百夜一夜物語をするなら、百話を話さないとダメなんです。話さないと呪われるって当時は信じていたんです。だから、途中で、話を止めることになって、みんな、そのことの方が恐怖だったんですよね。それで、それは、彗神子の親父が悪いって話になって、その矛先は、彗神子に向かうようになったんです。何か悪いことがあると、この時の呪いだって話になって、彗神子に責任があるって思う子も居て・・・。途中に中学に来なくなった原因じゃないかな。私は、そういうの無視してたから、その後も彗神子とは仲良くしていたけど、たぶん、このことから、彗神子とお父さんの関係は悪くなって、彼女は夜遊びをするようになったんじゃないかな。お母さんのこともあって、アパートで独り暮らしをするようになったのは、高校に入ってからだけど、アパートで独り暮らしをするようになったのは、他にも原因があるようで、その原因は彗神子の言葉のままに言うのは、はばかられるので、省略気味に言うと、父親が酔っぱらうと自分を自分の女と間違えて、知らない女の名前を呼びながら絡んでくるって言ってました。もちろん、気持ち悪いから、蹴り倒して逃げるって言ってましたけど。私が知っている、彗神子と父親のことはこれくらいです。」と美奈子さんが言った。
「そうですか、そんなことがあったんですか。それから、もう一つ、教えてください。お二方は、彗神子さんのお母さんの世末子さんのことについて何か知っていませんか」と岡田が訊いた。
「近所で見かけることはありましたよ。」と真由美さんが言う。
「どんな感じの人でしたか」と岡田が訊く。
「う~ん。そうですね。彗神子は背が高いけど、お母さんは私くらいの背丈で・・・あぁ。私は百五十七センチです。で、綺麗な人。でも、いつも、ふわふわした感じで、ちょっと、危ない感じ。時々、独り言を言いながら何か追いかけていたりしているの見たことあります。多分、蝶々か鳥だと思うけど。彗神子も、そういうところ似ていて、虫とかトカゲとか蝶々とか鳥を良く追いかけていました。」と真由美さんが言う。
「お母さんのことは、見たこと無いんですが、彗神子から話は聞いています。宗教狂いで色々な宗教に顔を出しているって言ってました。いつだったか、テレビで話題になったヤバい宗教とも関りがあったみたいで、お布施の取り立てから逃げているって聞いたことがあります。」と美奈子さんが言う。
「お布施の取り立て?」と岡田が訊く。
「はい。詳しいことは分からないけど、彗神子が最初の高校に入ったばかりの頃の話です。人の為に尽くすことで徳を積む儀式?みたいなものがあるらしく、ようするに、人の為にお金を出して、神様から徳を授かるらしくて、その為にお金を出せと言われていたようです。当時、彗神子が、お母さんが百二十万を人から払ってもらって、その団体に入信したから、お母さんも、その団体に入信する人を探して来て、その人の為に百二十万支払ってあげないといけないらしく、入信者を探して、支払をして欲しいと、どこかの宗教団体から脅されているって言ってましたよ。だから、彗神子は宗教嫌いで、神様の話とかすると凄く嫌がるんです。」と美奈子が言った。
「そうなの?。でも、神社大好きじゃない? さらし巻いて、おみこし担いだり、夏祭りとかいつも、神社事に入り浸っているじゃない。大みそかに神社で薪を燃やしている姿も良く見かけたし、鞄にぶら下げているのは、色々な所のお守りと狛犬だったよ。どう見ても神様信仰者だよ」と真由美が言う。
「そうそう。そういえば、長岡のほだれ祭りとか能生のはだか胴上げ祭りに行ったとか言って、興奮してたわ。あっちこっちの神社のお祭りには行ってたみたい。お祭り好きなだけだと思うけど、確かに、神様嫌いと言うわりには、部屋の入り口に狛犬があった。彗神子は最初の高校に行っていた時に一人暮らししていたのね。その住んでいたアパートの入り口に二匹の狛犬が飾られていたなぁ。」と美奈子が言う。
「家の入り口に狛犬? 沖縄って感じなのかな。彗神子にとって神社は別ってこと?」と真由美。
「いや、別ってことないよ。神社の話題もすごく嫌がるもの。怖いって・・・」と美奈子。
「怖い?・・・矛盾しているのね」と真由美。
「そうですか。彗神子さんのお母さんの世末子さんは宗教にはまっていて、その宗教団体から逃げ回っていたことがあるのですね。今、どこに住んでいるとか聞いたことはありませんか」と岡田。
「どこかの病院に入って、入退院を繰り返しているって聞いたことあります。母親が何かやらかすたびに一緒に馬鹿なふりして、問題をごまかさないといけないのが辛いって言ってましたが、今はどうしているのか・・・どこかの施設にでも入っているんじゃないかな。わからないですね。」と美奈子さんが言う。
「私も聞いたこともないし、わからないです。」と真由美が言う。
「そうですか、実は、新潟港警察署に齋藤 彗神子と名乗る、この写真の人物が拘留されているんです。でも、齋藤 彗神子かどうか確証が取れなくて、今回、地元での聞き取り調査に来たわけです。それで、お願いがあります。お二方のどちらか一人でかまいませんので、明日にでも、新潟港警察署に出向いて面通しして頂くことはできますか」と岡田は聞いた。
「えっ。彗神子、捕まっているの? 何したの?」と真由美が訊く。
「だから、彗神子かどうか、まだ、わからないんだって、それで、確認して欲しいってことだよ」と美奈子が真由美に言った。
「そうです。このお見せした写真の人物が新潟港警察署に現在、居まして、齋藤 彗神子、本人だと名乗っているのですが、本人かどうか決め手にかけまして。皆様方が話している齋藤 彗神子は女性ですよね。この写真の人物も自分は女性だというのですが、どう見ても男性にしか見えないですし、まだ、送致が決まっていないので、身体の直接的な確認などは、何もできない状態なのです。送致するかどうか、見極めるためにも本人かどうかの確認が必要なのです。」と岡田が言った。
「ええっー。この人、女性~。それも、彗神子、本人だっていうの・・・?。確かに目鼻立ちは似ているけど・・・でもー。彼女、背は高かったけど、こんなに厳つくなかったですよ。まぁ、知っているのは十六歳くらいまでだから、それから成長したとしても、まさか、こんなに大きくはならないですよ。三十歳であった時は、背は相変わらず大きかったけど、顔はこんなにデカかったかな~。あぁ。あの時は、彼女、ロングのマントみたいなコート着ていたし、風邪を引いたとかで、厚着してマスクしていたから、はっきりと顔を見たわけではないけど・・・。こんなに髭は濃くないと思います。この写真、どこからどう見ても男です。」と美奈子が言った。
「署まで来ていただくことはできますか」岡田が改めて聞いた。
「真由美、どうする?」と美奈子が真由美に向かって聞いた。
「えぇ~。どうするって、警察から言われたら、行かないわけに行かないよね。でも、一人で行くのは嫌だ。美奈子が行くなら、私も一緒に行くよ。」と真由美が答えた。
「わかった。じゃあ。行くことにします。」と美奈子は言い、岡田の方を見て「明日、伺います。車で行きますが、朝に出ても新潟に付くのは昼ちょっと前くらいになります。それで、良いでしょうか」と言った。
「ご協力、ありがとうございます。できるだけ、その時に、私たちも立ち会えるようにしますが、調べていることもあって、その時間帯に署にいられるとは限りません。警察署の入り口に居るものに話を通して置きますので、私の名前と齋藤 彗神子の面通しに来たことを伝えて、その後はそのものの指示に従ってください。お手数を掛けますがよろしくお願いいたします。」と岡田は深々と頭を下げた。
「それでは、私たちは次の用事がありますので、これで失礼致します。富田さん、長々とありがとうございました。」と言い、岡田と中西はソファーから立ち上がった。
「あぁ。いやいや、たいして力にもなれませんで。何の事件を追っているのかわかりませんが、お体に気をつけて下さい。」と富田は言い、ちょこんと頭を下げた。それを聞いた、岡田と中西は深々と頭を下げた。そして、岡田を先頭に部屋から出た。玄関を去る時、玄関先まで送りに来てくれた、真由美と美奈子に向かい、岡田は、振り返り「真由美さんと美奈子さん、それでは明日、よろしくお願い致します。」と言い、再度、頭を下げて家から出た。
「中西、糸魚川に行く前に、次は中条病院に行くぞ。個人情報だから、電話での聞き取りは無理だ。聞き出せないからな。中条までは、ここから山道を上がって一時間半くらいあれば着くだろう」と岡田は言った。中西は「任せて下さい。念の為、南魚沼警察署に連絡してくださいね。」と言い、市役所前の駐車場に止めていたレクサスに二人は乗った。車に乗ると、岡田は、南魚沼警察署に連絡し、十日町迄、緊急用件で行くことを伝えた。そして、他にも、齋藤 彗神子が子供時代にしたトラブルの裏が取れるか、南魚沼警察署と長岡警察署に電話で確認を取り始めた。時間がない。奴が黒か白か確認できる残された時間はわずかだ、中西の意識はレーサーモードに切り替わっていた。中西の運転するレクサスはフルスピードで中条に向かって走り出した。
岡田と中西は、中央の大きなソファーに二人で座った。ソファーは四人掛けが出来る大きさがあった。岡田と中西の二人が座っても、余裕で余る大きさだ。「いやぁ。大きなソファですね。僕もこういうの欲しいな~」と中西が言った。「家族が多いのかな。昔からここに住んでいて、町内の組長しているくらいだから、人の出入りも多いんだろう」と岡田が言った。「なんだか、爽やかな風が気持ちいいですね~。眠くなってきちゃったな~」と中西が言うと同時にふすまが開いた。富田さんが茶菓子と電気ポットを手に持ち戻って来た。
「すみません。家が古いもので隙間風が入るんですよ。」と富田さんが笑顔で言った。
「あぁ、いえいえ、そういう意味じゃなくて、とっても居心地が良くて、眠りたくなると言いたかったです。」と中西が会話を聞かれていたことに焦りながら慌てて言葉を付け足した。
富田さんは手に持っていたお茶菓子をテーブルの上に乗せると「こんなものしかなくて・・・お茶、入れますね」と言い、茶戸棚からお茶の道具を一式出し、手際よく急須にお茶の葉を入れお湯を注ぎ始めた。「お構いなく。突然、押し掛けてきて、こんなに良くしていただき、申し訳ない。お話を聞けたらすぐに帰りますので・・・」と岡田が言った。辺りにはお茶の香ばしい、香りが温かい蒸気とともに広がった。富田さんが、お茶をテーブルに乗せた時、玄関の冊子扉をガラガラっと引く音がした。
「おとうさん、いるー」と元気の良い、女性の声がした。富田さんは「あぁー 真由美か、手前の居間に居る、こっち来い」と呼んだ。玄関から荷物を床に下ろす音が聞こえ、廊下を数歩、歩く音がし、勢いよく戸ふすまが開いた。目の前に富田さんの娘の真由美が居た。
真由美は「どうも、初めまして。娘の真由美です。結婚しているので今は宇野になります。」とあいさつすると、すぐに後ろを振り返り、「美奈子ー。中、入ってー。」と外で待っていると思われる友人を呼んだ。玄関を閉めて、廊下を歩く音が聞こえると、友人の美奈子がふすまから顔を出し、居間を覗き見た。岡田と中西と富田さんの存在を確認すると「初めまして、遠藤 美奈子と申します。」と一礼した。真由美とその友達の遠藤 美奈子は五十代とは思えないほど若かった。魚沼は米どころなだけあって水が良いからか、絹のような秘め細かい肌をした色白で、まだ、娘のような雰囲気を残した越後美人だった。
岡田は「わざわざ、お忙しいところ、ありがとうございます。私は新潟港警察署の岡田と言います。この連れは中西と言います。」と言うと警察手帳を出した。中西も警察手帳を出し、ちょこんと頭を下げて、あいさつをした。「お時間も無いでしょうから、さっそく、お話を伺っても良いでしょうか」と岡田が続けて言った。宇野 真由美と遠藤 美奈子は同意したように頷き「そうですね。まずは、座って・・・」と娘の真由美が言い、友達の遠藤 美奈子を誘導するように、一番奥の二人掛けに並んで座った。富田は入り口近くで、後から来た二人のお茶を入れていた。
「では、お話を伺いますね。」と岡田が言うと、富田は入れたお茶をテーブルに出し、入り口側に一番近い二人掛けの椅子に座った。
「この人物、ご存じでしょうか」と岡田は真由美とその友人の美奈子に、齋藤 彗神子の写真を見せた。真由美と美奈子は写真を手に取ると、まじまじと眺めた。しばらくして、真由美が話し始めた。「えぇ~。この人って、誰? さっきの父からの話だと、齋藤さんちの彗神子のことで話があるとか聞いたけど・・・関係ある人ですか」と言った。すると友人の遠藤 美奈子が「う~ん。この人は、齋藤 彗神子の兄妹か親戚か何かですか・・・顔はなんとなく彗神子のに似ているけど、この写真の人は男ですよね。」と遠藤 美奈子は答えた。
「お二人は、いつまで齋藤 彗神子さんと一緒の学生生活を過ごして居たのですか」と岡田が訊いた。
「私も美奈子も小、中と一緒の学校だったけど、私はクラスが一緒だったことは一度もないんです。美奈子はクラスも一緒だったし、高校も最初の高校は一緒だったよね」と真由美が美奈子を見て言った。
「そう。私は、小、中と彗神子とは同じクラスで高校も三か月だけ一緒でした。」と美奈子。
「高校、三か月だけと言うと、彗神子さんは高校を辞めたのですか。」と岡田。
「まぁ。自主退学っていうことになっているけど、事実は辞めさせられたっていう方が正しいですね。」と美奈子が言う。
「原因は何ですか」と岡田が訊く。
「私と彗神子は六日町実業高校の家政科に行ったんです。彗神子が言うには、六日町実業なだけに無実だって言って笑ってましたけど・・・。本人の口からは本当のことは聞けてないです。ただ、何かがあって、彗神子の頭に血が上り、職員室の窓ガラスをこぶしで殴り割ったんです。それも、何枚も・・・」
と美奈子が言う。
「六日町実業なだけに無実・・・ん・・・あぁ~ 六日町実業の六と無と実業の実で無実ね。はいはい。」と岡田。「すみません。彼女が言ったことをそのまま言いました。寒いですよね。」と美奈子。
「だいぶ後から、原因になった人たちが噂しているのを聞いたんですが、先輩ともめたようです。部活動のスカウトを受けていて、彗神子は背が高いのでバスケとかバレーとかからお声がかかっていて、でも本人はその気が無くて、先輩の誰かが、その長身を生かさないか的なことを言ったらしいんですが、他にも何か言われたらしく、それが気に食わなくて蹴りを一発入れたんです。それが、問題になったんだけど、一方的に彗神子が悪いという言われ方を先生方にされて職員室の窓ガラスを割る事件になったようです。」と美奈子。
「彗神子さんは背が高いのですね。容姿はどんな感じだったのですか」と岡田。
「背は、子供のころから群を抜いて高くて、高校入学したての頃は百九十センチくらいはあったんじゃないかな。本人はそれが嫌だったらしくて、体重測定の時は小さく見せようと首を曲げたり、足を縮ませたりしてごまかしていましたからね。」と美奈子。
「そーそー。数年前に、五十の会って言う、中学生時代の同窓会があった時、彗神子の話題が出てたわ」と真由美。
「あぁー あれね。同窓会に来て無かったから彗神子。ほら、名前の漢字が変わっているじゃない。彗星の神の子でエミコだしね。今ならキラキラネームだけど、なかなか、読めないでしょ。名前の言われは、彗神子から聞いたことあるのよ。母親が産気づいて車で病院に向かおうと車庫に入った時に生まれたらしくて、その時に、空を見上げたら、流れ星が流れたんだって。母親は彗星だって思ったらしくて、そしたら、キリスト?が馬小屋で生まれた話を思い出したらしく、ほら、車庫って今どきの馬小屋じゃない。だから神の子ってつけたかったそうなのよ。それで、彗星と神の子で彗星の彗と神子で彗神子でエミコって読む名前を付けたって言ってたわ。でね、彗神子は中学二年で身長が百七十センチくらいあって、途中、学校に来なかったでしょ。その時の話ね。彗神子って、見た目が派手な顔立ちしていて、背が高いものだから、化粧とかすると大人に見えたのよね。それで、スナックに出入りしていたらしくて、なんでもアルバイトしていたらしいの。本人が言うにはお皿洗ったり、料理作ったり、歌ったりはしたし、お小遣いはもらったけど、別にバイトじゃないって言い張ってね。そのスナックのマスターが言うには、彗神子は他の客と一緒に来て、そのまま、店の手伝いをするようになっただけで、雇用はしていないし、当時、十四歳だったけど、十四歳には見えなくて、マスターも知らなかったって言い逃れて・・・。」と美奈子。
「子供のころから、大人びた人だったんですね。」と岡田。
「いいえ。大人びているのは背丈と化粧をした時の顔だけで、行動はまったく、子供、そのものですよ。スナックでのアルバイトがばれたのも、彗神子が店で大騒ぎしたようで近所から苦情が入り、店に警察が来たからだそうです・・・。その店に、丁度、その日、その時に友達の兄弟が飲みに行っていて、その現場に居合わせたんです。友達から聞いた話によると、スナックのマスターがおつまみの材料が足りなくなって、ちょっと外に買い出しに行った、数十分の間にあったことらしくて、お客の一人が酔っぱらって、彗神子に絡んだらしいんです。彗神子は背が高いだけあって、綺麗な長い足をしているんですよ。その酔っ払いが彗神子の足を触ったようで、彗神子は、それをかわそうと思たのか、私、女優よ、気安く触らないで、と言い返して、突如、彗神子がカウンターの上で踊りだしたそうです。で、その酔っ払いと店の中で追いかけっこすることになって、大騒ぎになったらしいです。」と美奈子が言う。
「そんな、話だったんだ。同窓会の時も彗神子の話で盛り上がっていたけど、私は他の人と話していて、よく聞き取れなかったからさ、小学生の頃は近所だから何回か遊ぶこともあったけど、お人形遊びとか好きじゃないみたいで、いつも、男の子たちと一緒に遊んでいたしね。虫とか蛇とか捕まえて遊んでいたし、たくさん蛙を捕まえて、公園の地面に指で穴を掘って、掘った土の中に何匹も蛙を重ねて埋めて、生き埋めにして殺したり、蟻を捕まえてはバラバラにして殺したり、とにかく、酷いことするの。彗神子ちゃん、ひどいことしているって私が本人に言ったら、自分は爬虫類だから、蛙やアリは餌なんだ。餌は殺してもいいんだよ。って言うのよ。ほら、小学生の頃は、全身がアトピーで特に手足とか凄くてワニ子ってあだ名だったじゃない。だから、自分は爬虫類だって思ったみたいで・・・とにかく、当時は、なんか怖くて傍に行きにくかったのよね。中学に入ってからは、クラスも違うし、たまに会うことはあったけど、私は距離を置いていたかも・・・。夏祭りの時とか、盆踊りの余興のカラオケ大会でも、ラブ・イズ・オーバーとか、大人な感じの歌ばかり歌っていて、お年寄りうけして歌は上手かったけど、近寄りがたくて、だから、彼女の事、良くわからないの。噂で、私、女優よっていうのは聞いたことある。背が高かったからモデルとか芸能界志望なのかなって・・・。彼女って、気さくで面白い人なんだけど、突飛なところがあって何するかわかんないから、私は正直、苦手だったの。」と真由美さん。
「えぇ~、虫殺すのー? 虫を殺すって意外かも・・・。私の知っている彗神子は虫を殺せない子ってイメージ。だって、蚊が刺しても血を吸わせてあげているのを良く見かけたよ。それに、たった三か月間ともに過ごした、高校の時の話だけど、学校の帰りに、一緒にスーパーに寄って、お会計の時にゴキブリが飛んできてレジに止まったの。店員が驚いて、悲鳴を上げて気が付いたんだけど、そしたら、彗神子がそのゴキブリを捕まえて、外に連れて行ったの。外で殺して来たのかなって思うじゃない? でも、後から聞いたら逃がしたって言うの。どうして?って聞いたら、お知らせに来た虫だから殺せない、っていうのよ。お知らせって何?って聞いたら、虫の知らせって言うじゃない、ってはぐらかされたんだけど、その後が、ちょっと怖いの。スーパーを出た、その帰りに、道端で、蝶が彗神子に寄って来たのね。それが、羽が片方切れていて、片方だけで飛んでいる蝶だったのね。そして、すぐに、オレンジ色の蝶々が一羽飛んできて、そのオレンジの蝶が彗神子の傍にまとわりついて離れなくて、しばらく、彗神子の傍を飛び回って、その後、羽が半分切れている蝶と一緒にどこかへ飛んで行ってしまったの。それを見た、彗神子は、そうか、って一言、言ったんだけど、どうしたのって聞いても、うぅ~ん、としか、答えなくてね。何があったの、ってしつこく聞いたら、わかんない。でも、誰にも言わないなら、教える。さっき、ゴキブリを逃がしに行った時、真人(まさと)と梨花(りか)に似た二人を見かけたんだ。ノーヘルでバイクにニケツして乗って、スーパーの前を通り過ぎて行ったんだけど、あの二人、事故るよ。で、多分、梨花、腕なくすね。って言ったのよ。」と言い、美奈子は真由美を見た。
真由美は、目を大きく見開いて「えぇ~。何、それ、事故が起きることを知っていたってこと!」と声を張り上げて驚嘆した。
「うん。もー時効だよね。誰にも言わない約束して、今まで、誰にも言わなかったから。そうなの。彗神子はあの事件を起こる前に、知っていたのよ。あのスーパーの外で見かけた後に、農道を走っていて事故を起こしているから、二人に警告しようにもできなかったしね。だから、知っていたとしても彗神子にも私にも罪は無いよ。彗神子って他にも色々とこんな感じの予知能力?みたいなものがあるのよ」と美奈子は言った。
「あぁ。すみません。そういう事故が実際にあったんです。」と真由美は岡田と中西、そして父親の富田さんを見て言った。
「彗神子は何かを予知する能力みたいなのがあったから、それでなのね、独り言も多かったし、言うことも変な事が多くて、行動も突飛で、そっか・・・。シックスセンスっていうの。それが強くて大変だったのね。」と真由美は改めて美奈子さんを見て言った。
「まぁ、確かに突飛っていうか、何しでかすかわからないし、変わっていたよね。現実的にも変わった行動をとっていたから、何が原因かは分からないけど、何かに影響されやすかったんじゃないかな。家にあったブルトーザーとかに影響されていた時は、彗神子の家の近所で買い物する時とか、ギィーン、ガシャガシャガシャ、って右手を上げて棚の中に突っ込むと、そのまま、買い物かごに棚の商品を全部落として、家に付けておいてっ、て言って、ブルトーザーの真似してめちゃくちゃな買い物したりしていたから。中学に入ったばかりの頃、ドクタースランプ アラレちゃんって流行ったじゃない、彗神子、あのアニメに泥酔していて、学校に、いつも、アラレ帽子かぶって、うんちゃっ! て登場してくるんだけど、教室で帽子を外しなさいってよく怒られていたわ。さかなクンに理解があるような、今の時代が私たちの子供時代なら、彗神子も良かったのかもね。」と美奈子。
「確かに、何に影響されているか、すぐにわかるような素直なところあったよね。」と真由美。
「そうなのよ。でも、彗神子が影響されるものが変過ぎて、行動も変だったから、周りからは頭が悪い子って思われていたじゃない?」と美奈子。
「あぁ、それね。私も驚いた。学年で最下位の学力かと思ったら、学年で一、二の成績だったことでしょ。中学三でテストの結果を廊下に張り出した時、彗神子の成績は、全教科、ほとんど、一位か二位だったのよね。カンニングでもしたのかとみんなで噂したもん。」と真由美。
「そーうなのよ。彗神子は、昔から、授業中は寝てばかりいて、ノートも取らずにいたし、彗神子の取り巻きみたいな女子たちが彗神子の為にノートを取ってあげたりしていたものだから、てっきり勉強はできない子って私も思っていたの。でも、あの廊下の張り出しで、私も初めて知ったのよ。彗神子ってチョー頭が良かったの。偏差値72だって! だから、彗神子と進路の話をした時、彗神子が、ストレートで東大にも行けるって先生に言われたって言った時、はぁ?冗談きついって思ってたのよ。それが、実は成績良くて頭が良いって知って、驚いたの。本人は、大学は親が望んでいないし、そんなお金は、家には無いし、女だから女らしい学校に行ってさっさと結婚しろ、って言われているって言ってた。だから、家政科がある実業にしたんだと思うよ。わりと、親に言われるままで素直なのよ。だからなのか、変なものに影響されると、そのまま素直にあこがれるのよね。六実に行って、それが、増々、エスカレートしてあんな風になったんだと思う。」と美奈子。
「どんな風?」と真由美。
「六実高の頃、一つ、年上の女で、ヤンキーな先輩が居て、私は遊びに行かなかったけど、彗神子が誘われて遊びに行った後に、私に話したことなんだけど、その先輩が、いかにカッコよいかを話してくれたわけ。そのヤンキーな女先輩、十人くらい彼氏が居るらしくて、先輩の家に遊びに行ったら、たくさん、知らない男の人が居て、みんなでお風呂に入ろうって話になったらしいの。他に女の人もいて、知らない男女が入り混じって入浴したらしいんだけど、それが、かっこいいっていうの。家のお風呂で男女で混浴ってさ、変じゃない?もちろん水着を着たんだよねって聞いたら、真っ裸で、みんなで入っていた、っていうの。彗神子も入ったの?って聞いたら、自分は入らなかったって言うの。何で入らなかったかって聞いたら、自分は入れないからって答えたんだけど、これをカッコよいでしょ、と聞かれても、私にはそのヤンキー女はヤリマン女でその仲間は奇知外にしか思えないから。答えられなかったのよ」と美奈子。
「へー。そんなことが。家の風呂でって、ヤリマン、アーパー女の話って感じで気持ち悪いけど、彗神子は五十沢とか駒の湯とかにある混浴温泉と同じ気持ちになっているのか、外国にあるヌーディストビーチにでもいる気になっているんじゃないかな。そういえば、彗神子って水着にならないよね。小学生の頃は、二組合同プールだったからプールで見たよ。アトピー酷かったけど、プールに入っていた。すごく、泳ぐの上手くて、息継ぎなしで五十メーター泳いだり、潜水も何分も水の中に潜っていられるほどすごかったのよ。でも、中学の頃は、いつも、お休みしていたから不思議に思っていたの。生理って言っても、重なりすぎだよな、あきらかにさぼってるって思ってた。」と真由美。
「そういえば、そうだね。中二くらいから、プールとか入らなくなったかも。水着姿、その頃から見たこと無いわ・・・。それまでは、泳ぐの早くて、国体にも出れるタイムをだったはず。でも、必ず大会はサボって記録は残さなかったけどね。高校時代の真っ裸で混浴は、混浴風呂や外国に影響されていたってことはあり得るけど、何人もの彼氏が居るとかっていう、その自由奔放でハチャメチャなヤンキー女先輩の生き方にもあこがれていたみたいで、服装も、まだ、若いのに、ニュートラっていうの? 当時の水商売ぽい服装っていうか、何だかおばさんぽい大人びた服というか独自の格好していたよね・・・」と美奈子。
「そーそー。格好も独自だったよね。でも、服装は小学生の頃から変わっていたよ。ピンクのジャンパーの上に真っ赤なベルトとか嵌めて、ベルトは必要ないように思えたから、なんでジャンバーの上にベルトしているのか、聞いてみたら、赤であることを示すため、とか謎の返事が返って来たしね。中学生の頃から、中学生には見えない格好もしていたよ。それは、ヤンキー風っていうか、当時が、ヤンキーブームというか銀蠅ブームだったのもあるから、尚更、そーだったのかもしれないけど、頭はブロンドヘアーで伸びきった時は、髪の付け根が黒いマドンナかダイアナ妃、決めている時は、あれ、あれよ、そー。パンチぽかった。ヒョウ柄にパンチヘアーで、大阪出身じゃないのに、当時から大阪のおかんぽかった。で、サテンの紫色のジャンパーで後ろに龍の刺繍が入っていて、腕には当て字で四露死苦(ヨロシク)とか入っていて独特だったよね~。制服のスカートも引きずるくらい長かったし。」と真由美。
「そぉーそぉー。格好は、バリバリのヤンキーだったね。ヒョウ柄は当時のトレンドを入れていたんだと思うけど、ああ見えても、アンアン、ノンノン信者だったみたいで、毎回、雑誌を買っていたもの。でもさ、派手な格好、あれさ、いじめられない為にやってたんだよね。怖そうにしていると手を出されないじゃない、って本人が言ってたよ。強がっていただけで気が小さかったんだよね。それで、気が小さいのがバレないように強がるようになったのよ。」と美奈子。
「そーなんだ。意外~。気が小さい風には、まったく見えなかった。」と真由美。
「子供のころから、背が高くて目立っていたから、先輩から目を付けられやすかったのよね。私、中学生の頃に、一緒に呼び出されたことあるからさ。あの頃ってちょっと気に入らないとすぐに呼び出しとかあったじゃない。私は、彗神子とわりと一緒に居たからさ、それで、目をつけられたんだけど。」と美奈子。
「へー。その時、何かされたの。」と真由美が訊いた。
「いや~。暴力沙汰になるようなことは何もなかったけど、目つきが気に入らないから、気をつけなぁって言われただけ。でも、今だったら、そんなのアウトだよね。」と笑いながら美奈子さんが答えた。
突然、「すみません。話が脱線し過ぎました。」と岡田と中西を忘れて昔話に夢中になってしまったことを悪く思ったのか、美奈子が言った。
「いいえ、どうぞ、続けて下さい。」と岡田が言った。
奈美子は岡田の返事に安堵した。「それで、話を続けると、彗神子は、六日町実業を辞めた後、別の高校に通ったって聞いてます。六日町女子高校。合併しちゃって、今は無いんですが、当時は六女(ろくじょ)と言われていました。彗神子は、この学校も一か月で辞めているのよね。原因はやっぱり喧嘩らしいです。六日町女子の制服は当時、茶色の制服だったんです、それがゴキブリカラーって陰で言われてて、今、思えば、結構、かわいい制服なんだけど、当時の人気は、つっぱりハイスクール系のセーラーカラーに赤いリボンの爽やかな制服か、紺のブレザーだったから、茶色いブレザーに茶色いボックススカートの制服はゴキブリに見えたのよね。で、よせばいいのに、彗神子ったら、制服のまま長岡に遊びに行って、下校中の女郎高、つまり長岡女子と鉢合わせ。タイマンはって、相手をボコボコにしたってことです。駅のホームでチェーンを振り回しての大乱闘だったらしくて、駅員に通報されて警察沙汰に。ということで、ここも、建前は自主退学したらしいです。」
岡田は六日町と長岡の警察署に行けば、当時の記録があるかもしれないと思った。
「その学校を辞めた後の話は聞いていないですか」と岡田は訊いた。
「もうひとつ、学校に行ったらしい。でも、どこかは分からない。夜学だったみたいだけど、とにかく、高校は卒業して、その後、東京に美容部員として働きに出たっていう話は聞いています。でも、家の事情で六日町に戻って来て、父親の仕事を手伝って、ほら、廃業したでしょ。会社の借金を彗神子が肩代わりしたとか、正しく言うと父親に騙されて借金を背負わされたらしいけどね。これは、彗神子の口から聞いた話だから間違いないと思う。三十歳の時に、彗神子と六日町でばったり会ったことがあって。当時は表向きはまだ、父親の会社は営業していたし、彗神子もその会社で働いていたみたいだけど、内容は酷い状態で、倒産させないように彗神子が銀行から借金して、父親からダンプと除雪車を買い取ったらしいのね。でも、それが、車検も切れているし、屑鉄同然の代物だったらしくて、仕事はできない状態だって。それに、その頃、日本は不景気で、角栄さんも死んじゃって、インフラの整備も下火だったし、雪も降らないし、だから、そんなに仕事もなかったし。それで、彗神子は借金返済の為に、糸魚川に居る親戚を頼ってカニ漁に出るって話を聞いたのが最後。」と美奈子が言った。
中西は相変わらず、メモを取っていた。岡田は齋藤 彗神子と漁師が一本の線で繋がったと思った。でも、この写真の主が齋藤 彗神子、本人とは限らない。もしかしたら、その写真の人物はカニ漁で齋藤 彗神子と何らかの関わりがあった人物で、彼女の戸籍やパスポートなどをすべて自分のものにして成りすまそうとしているだけかもしれないと思った。この写真の主が、この二人の越後美人の話に出てくる齋藤 彗神子なのかをどうやって確かめればよいのか。どちらか一人が、新潟港警察署に来てもらって面通しをしてもらうしかなさそうだなと思った。
「そうですか、糸魚川の親戚を頼ってカニ漁に出たのですね。お父さんの道三郎さんとの関係は、悪かったんですか。」と岡田が訊いた。
「詳しいことは分からないけど、二人の関係は微妙で。中学の頃ですが、彗神子の体中傷だらけだったことがあって、父親にやられたって言っていました。彼女も負けてはいなかったみたいです。木刀で殴り合いしたこともあったみたいです。でも、本当に仲が悪かったかどうかは分からないです。それは、彗神子はいつも父親をかばう言葉を最後に言うからです。彗神子のお父さんに会ったことは二回あります。一度は、小学生の頃の父親参観日。彗神子の家は母親参観日に母親が来たことは一度もなかったんですが、父親は一度だけ来ましたね。カーリーヘアーでピンクのシャツにピンクのパンタロンを穿いていたのを覚えています。太っていたので貫禄がありましたが、格好は、ペーパー夫妻のペーさんみたいな恰好していましたよ。二回目に会ったのは、中一の時です。彗神子の家に友達みんなを集めて千一夜物語の縮小版で百夜一夜物語ごっこをしたことがあるのです。今でいう、パジャマパーティーですね。男女合わせて十人くらいが彗神子の部屋に夜に集まって、幽霊話を話すことになったのです。でも、千回分話すのは長いので百回分の話で、話したら蠟燭を吹き消すっていうことで、百本の蠟燭に火をつけて話し始めたんです。
話が、二十話くらいまで進んだ頃、彗神子の父親が怒鳴り込んできて、お開きになったんです。窓を開けて蝋燭をつけていたんですが、百本でしょ。煙が凄くて、窓の外に蝋燭の煙がモクモクって流れて、彗神子の父親は火事だと思って慌てて二階の彗神子の部屋に入ったら、暗闇で娘と娘の友達が蝋燭囲んで話し込んでいる姿を見て激怒したみたいです。当たり前ですよね。今は、わかりますけど、当時は子供で理解できなかった。千夜一夜物語って話している途中に、千回話さずに話を止めると呪われるって言われているんです。だから、始めたら最後まで、話はやめないで続けないといけないんです。それは、百回でも同じで、百夜一夜物語をするなら、百話を話さないとダメなんです。話さないと呪われるって当時は信じていたんです。だから、途中で、話を止めることになって、みんな、そのことの方が恐怖だったんですよね。それで、それは、彗神子の親父が悪いって話になって、その矛先は、彗神子に向かうようになったんです。何か悪いことがあると、この時の呪いだって話になって、彗神子に責任があるって思う子も居て・・・。途中に中学に来なくなった原因じゃないかな。私は、そういうの無視してたから、その後も彗神子とは仲良くしていたけど、たぶん、このことから、彗神子とお父さんの関係は悪くなって、彼女は夜遊びをするようになったんじゃないかな。お母さんのこともあって、アパートで独り暮らしをするようになったのは、高校に入ってからだけど、アパートで独り暮らしをするようになったのは、他にも原因があるようで、その原因は彗神子の言葉のままに言うのは、はばかられるので、省略気味に言うと、父親が酔っぱらうと自分を自分の女と間違えて、知らない女の名前を呼びながら絡んでくるって言ってました。もちろん、気持ち悪いから、蹴り倒して逃げるって言ってましたけど。私が知っている、彗神子と父親のことはこれくらいです。」と美奈子さんが言った。
「そうですか、そんなことがあったんですか。それから、もう一つ、教えてください。お二方は、彗神子さんのお母さんの世末子さんのことについて何か知っていませんか」と岡田が訊いた。
「近所で見かけることはありましたよ。」と真由美さんが言う。
「どんな感じの人でしたか」と岡田が訊く。
「う~ん。そうですね。彗神子は背が高いけど、お母さんは私くらいの背丈で・・・あぁ。私は百五十七センチです。で、綺麗な人。でも、いつも、ふわふわした感じで、ちょっと、危ない感じ。時々、独り言を言いながら何か追いかけていたりしているの見たことあります。多分、蝶々か鳥だと思うけど。彗神子も、そういうところ似ていて、虫とかトカゲとか蝶々とか鳥を良く追いかけていました。」と真由美さんが言う。
「お母さんのことは、見たこと無いんですが、彗神子から話は聞いています。宗教狂いで色々な宗教に顔を出しているって言ってました。いつだったか、テレビで話題になったヤバい宗教とも関りがあったみたいで、お布施の取り立てから逃げているって聞いたことがあります。」と美奈子さんが言う。
「お布施の取り立て?」と岡田が訊く。
「はい。詳しいことは分からないけど、彗神子が最初の高校に入ったばかりの頃の話です。人の為に尽くすことで徳を積む儀式?みたいなものがあるらしく、ようするに、人の為にお金を出して、神様から徳を授かるらしくて、その為にお金を出せと言われていたようです。当時、彗神子が、お母さんが百二十万を人から払ってもらって、その団体に入信したから、お母さんも、その団体に入信する人を探して来て、その人の為に百二十万支払ってあげないといけないらしく、入信者を探して、支払をして欲しいと、どこかの宗教団体から脅されているって言ってましたよ。だから、彗神子は宗教嫌いで、神様の話とかすると凄く嫌がるんです。」と美奈子が言った。
「そうなの?。でも、神社大好きじゃない? さらし巻いて、おみこし担いだり、夏祭りとかいつも、神社事に入り浸っているじゃない。大みそかに神社で薪を燃やしている姿も良く見かけたし、鞄にぶら下げているのは、色々な所のお守りと狛犬だったよ。どう見ても神様信仰者だよ」と真由美が言う。
「そうそう。そういえば、長岡のほだれ祭りとか能生のはだか胴上げ祭りに行ったとか言って、興奮してたわ。あっちこっちの神社のお祭りには行ってたみたい。お祭り好きなだけだと思うけど、確かに、神様嫌いと言うわりには、部屋の入り口に狛犬があった。彗神子は最初の高校に行っていた時に一人暮らししていたのね。その住んでいたアパートの入り口に二匹の狛犬が飾られていたなぁ。」と美奈子が言う。
「家の入り口に狛犬? 沖縄って感じなのかな。彗神子にとって神社は別ってこと?」と真由美。
「いや、別ってことないよ。神社の話題もすごく嫌がるもの。怖いって・・・」と美奈子。
「怖い?・・・矛盾しているのね」と真由美。
「そうですか。彗神子さんのお母さんの世末子さんは宗教にはまっていて、その宗教団体から逃げ回っていたことがあるのですね。今、どこに住んでいるとか聞いたことはありませんか」と岡田。
「どこかの病院に入って、入退院を繰り返しているって聞いたことあります。母親が何かやらかすたびに一緒に馬鹿なふりして、問題をごまかさないといけないのが辛いって言ってましたが、今はどうしているのか・・・どこかの施設にでも入っているんじゃないかな。わからないですね。」と美奈子さんが言う。
「私も聞いたこともないし、わからないです。」と真由美が言う。
「そうですか、実は、新潟港警察署に齋藤 彗神子と名乗る、この写真の人物が拘留されているんです。でも、齋藤 彗神子かどうか確証が取れなくて、今回、地元での聞き取り調査に来たわけです。それで、お願いがあります。お二方のどちらか一人でかまいませんので、明日にでも、新潟港警察署に出向いて面通しして頂くことはできますか」と岡田は聞いた。
「えっ。彗神子、捕まっているの? 何したの?」と真由美が訊く。
「だから、彗神子かどうか、まだ、わからないんだって、それで、確認して欲しいってことだよ」と美奈子が真由美に言った。
「そうです。このお見せした写真の人物が新潟港警察署に現在、居まして、齋藤 彗神子、本人だと名乗っているのですが、本人かどうか決め手にかけまして。皆様方が話している齋藤 彗神子は女性ですよね。この写真の人物も自分は女性だというのですが、どう見ても男性にしか見えないですし、まだ、送致が決まっていないので、身体の直接的な確認などは、何もできない状態なのです。送致するかどうか、見極めるためにも本人かどうかの確認が必要なのです。」と岡田が言った。
「ええっー。この人、女性~。それも、彗神子、本人だっていうの・・・?。確かに目鼻立ちは似ているけど・・・でもー。彼女、背は高かったけど、こんなに厳つくなかったですよ。まぁ、知っているのは十六歳くらいまでだから、それから成長したとしても、まさか、こんなに大きくはならないですよ。三十歳であった時は、背は相変わらず大きかったけど、顔はこんなにデカかったかな~。あぁ。あの時は、彼女、ロングのマントみたいなコート着ていたし、風邪を引いたとかで、厚着してマスクしていたから、はっきりと顔を見たわけではないけど・・・。こんなに髭は濃くないと思います。この写真、どこからどう見ても男です。」と美奈子が言った。
「署まで来ていただくことはできますか」岡田が改めて聞いた。
「真由美、どうする?」と美奈子が真由美に向かって聞いた。
「えぇ~。どうするって、警察から言われたら、行かないわけに行かないよね。でも、一人で行くのは嫌だ。美奈子が行くなら、私も一緒に行くよ。」と真由美が答えた。
「わかった。じゃあ。行くことにします。」と美奈子は言い、岡田の方を見て「明日、伺います。車で行きますが、朝に出ても新潟に付くのは昼ちょっと前くらいになります。それで、良いでしょうか」と言った。
「ご協力、ありがとうございます。できるだけ、その時に、私たちも立ち会えるようにしますが、調べていることもあって、その時間帯に署にいられるとは限りません。警察署の入り口に居るものに話を通して置きますので、私の名前と齋藤 彗神子の面通しに来たことを伝えて、その後はそのものの指示に従ってください。お手数を掛けますがよろしくお願いいたします。」と岡田は深々と頭を下げた。
「それでは、私たちは次の用事がありますので、これで失礼致します。富田さん、長々とありがとうございました。」と言い、岡田と中西はソファーから立ち上がった。
「あぁ。いやいや、たいして力にもなれませんで。何の事件を追っているのかわかりませんが、お体に気をつけて下さい。」と富田は言い、ちょこんと頭を下げた。それを聞いた、岡田と中西は深々と頭を下げた。そして、岡田を先頭に部屋から出た。玄関を去る時、玄関先まで送りに来てくれた、真由美と美奈子に向かい、岡田は、振り返り「真由美さんと美奈子さん、それでは明日、よろしくお願い致します。」と言い、再度、頭を下げて家から出た。
「中西、糸魚川に行く前に、次は中条病院に行くぞ。個人情報だから、電話での聞き取りは無理だ。聞き出せないからな。中条までは、ここから山道を上がって一時間半くらいあれば着くだろう」と岡田は言った。中西は「任せて下さい。念の為、南魚沼警察署に連絡してくださいね。」と言い、市役所前の駐車場に止めていたレクサスに二人は乗った。車に乗ると、岡田は、南魚沼警察署に連絡し、十日町迄、緊急用件で行くことを伝えた。そして、他にも、齋藤 彗神子が子供時代にしたトラブルの裏が取れるか、南魚沼警察署と長岡警察署に電話で確認を取り始めた。時間がない。奴が黒か白か確認できる残された時間はわずかだ、中西の意識はレーサーモードに切り替わっていた。中西の運転するレクサスはフルスピードで中条に向かって走り出した。
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