アガダ 齋藤さんのこと

高橋松園

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「二千十七年七月四日という日。私が知らないユリウス・グーデンベルク」

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 二千十七年年七月四日。ユリウス・グーデンベルグはドイツのハイデルベルク大学の地球科学部の生物工学研究室に居た。彼はこの大学の生物学者の教授であり、ドイツを代表する遺伝工学研究の第一人者であった。

「マザー、君の計算は間違ってないのかい?・・・そんなことが、二千五十年迄に起こるなんて、僕には想像できないよ。後、たった、三十三年だよ。何かの間違いだ。もう一度、説明して欲しい。」ユリウスは、マザーコンピューターが導き出した生物の進化と生存の可能性について、マザー相手に議論していた。

「はい。ユリウス。もう一度、お話致します。何度、お話しても結果は同じですが、間違いなく、現在の状態では、二千五十年迄に人間の人口は三分の一まで減少します。ご存じの通り、地球の気温は二十一世紀末までに一点八から三点四度上昇すると言われています。しかし、実際はもっと早いかもしれません。大規模な火山活動などが起こった場合の気温上昇率はもっと高くなるでしょう。この地球温暖化により地球の環境そのものが変わります。その環境変化に伴い、陸地の変化や食糧難、新種のウィルスなどの発生のような変化に対して、現在の人間の耐久性は無い為、人口減少は避けられません。」マザーは言った。

「人口減少を止める方法は無いのか、マザー」とユリウス。

「地球史で言えば、温暖化と寒冷化は太陽エネルギー量の変化により十万年ごとに繰り返されるミランコビッチサイクルと呼ばれるイベントです。海の高さも百メートル以上変動します。一億年前の恐竜時代も温暖化でした。その後、氷河期に入り、イベントを繰り返しました。約七千年前、人間は存在していましたが、当時も温暖化の時期を迎えていました。その頃の気温は今より二、三度高く、海水面も三から五メートルは高かったですが、人間はこの温暖化は乗り越えています。現在の地球温暖化は空前絶後の温暖化状態で、十九世紀初頭から始まっています。産業の発展と共に二酸化炭素の量が増え、温暖化が進んだと言っても過言ではないでしょう。過去の温暖化では二万一千年前から一万年かけて四から七度気温が上昇しましたが、今は十倍のスピードです。特に、二千年からの急速な変化は数字にはっきりと表れています。現在、海水面は百年前より二十センチ上昇していますが、今回は百年を待たずして、海面はもっと上昇することでしょう。海面が一メーター上昇すれば砂浜が九十%消える地域が出てきます。温暖化を抑えながら、人間が変わらなければ人口減少は抑えられません。」とマザーが答えた。

「温暖化を抑えるというのは、簡単に言えば、二酸化炭素を出さないってことだよね。二酸化炭素に関しては気を付けるとしか僕には言いようがないが、人間が変わるっていうのはどういうことかな」とユリウス。

「人間の体を耐久性があるように、あらゆることに対応できるようにするということです。」とマザー。

「マザー、それは、ウィルスなら抗体を持つようにワクチンを作るということが出来るけど、そういうことかい?」とユリウス。

「それも、一つの手ですが、人間の遺伝子は長い年月、地球で生き延びて来た記憶があります。しかし、それは、普段は使われず、未知の物となっています。つまり、存在が明らかになっていても機能が不明な遺伝子ということです。これらは、過去には必要であったが現在は、まだ必要とされない遺伝子ということです。これを調べることにより、環境の変化に対応できるタンパク質を発見することが人間が生き残る為の鍵です。」とマザー。

「今は眠っているDNAに働きかける分子のタンパク質を探すというのは逆遺伝学の事だね。それを見つけて、人間の遺伝子を作り替えろってことかい。だとしたら、それは法律的に無理だ。ヒト胚を用いた実験は中国ではしているけど、ドイツではできないよ。それに、マザー、君が言っていることと僕の想像が一致しているのなら、過去を乗り越えて来た遺伝子っていうのは、例えば、海陸両用の遺伝子ってことで、それは、僕らの体が遺伝子操作によって魚のように海の中で生活できるようになったり、両生類のような生き物に近いDNAを目覚めさせ、それを機能させるってことだよね。それで、人と言えるのかな・・・だいたい、そんなこと、出来ないよ」とユリウス。

「まだ、発見されていない古代人は男女の分けがなく互いに子供が産めた可能性があります。そして、これから進化していく過程で、未来の人間は両性遊具化する可能性があります。ミトコンドリアDNAによる系統樹は正しい系統樹であると言えます。それを基に進化を見ると「単純から複雑へ」という進化の図式がいつも正しい分けではなく「複雑から単純へ」と移行する退化の図式も見えてきます。その答えに近い人間が存在しています。彼らは爬虫類でありながらヒトゲノムを持ち進化してきた人間です。彼らの遺伝子構造を知ることがこの問題の解決に繋がります。」とマザー。

「マザー、それってレプティリアン(爬虫類人)の事を言っているの? それは、本当に存在しているの?
ホモサピエンスとの交配したハイブリット種てことだよね。驚いたな。マザーからそんなこと言われるなんてさ。でも、こんなに広い地球でどうやって探せばいいの。まさか、目が爬虫類のような人間ってこと無いよね。マザーは惑星Xから来たものが人間の祖先だって言いたいんだね。」とユリウスは笑いながら訊いた。

「ヒトゲノムは一種のウィルスのような状態で地球に衝突した天体や恒星に紛れ地球に入って来ました。このウィルスは高温にも低温にも耐え、感染ルートは主に地上に生えた食物からであり、キノコ類や岩海苔類だったと思われます。食物からの感染ルートから探ることは無理がありますが、人には帰省本能があります。つまり、ヒトゲノムウィルスが隕石と共に落ちた場所で生活しているということです。レプティリアンを探したければ、隕石落下の後があり、太古の昔から、爬虫類の神話を持ち、神と崇める国に行きなさい。」とマザー。

「爬虫類の神話ね・・・。僕が知っている爬虫類系の神話と言えば、シュメール神話のアヌンナキと古代インド神話のナーガ、インド、イラン世界で水の守護としてのザッハーク竜王とか・・・う~ん。他にはドゴン族のノンモかな。でも、シューメール神話の地域にはとても行けそうにないよ。イラク南部は危険すぎる。インドの神話じゃ、広すぎてどこから行けばよいかわからないし、イランだって安全とは言えない。ドゴン族に会いにアフリカのマリ共和国に行ってバンディァガラの断崖に登るなんて、もっての外で出来ないよ。」とユリウスは困ったように返事をした。

「はい。それは存じ上げています。また、私たちが今後必要とする遺伝子は、ユリウス、あなたが話した地域のものではありません。もっと、穏やかな気性に進化した地域のレプテリアンでなければなりません。」

「穏やかに進化したレプティリアンいる地域・・・そんな地域、どこにあるの?・・・。」とユリウス。

「それは、東の果てにあります。日本です。日本の縄文時代には蛇の神々を崇拝する文化がありました。その信仰は今でも神社の注連縄(しめなわ)や身体の鏡、蛇身(かかみ)という形で残っています。日本の信仰の中でも蛇は「祖先神」や「宇宙神」として扱われ日本古代の祭りは巫女と蛇の混合がテーマでした。蛇をシンボルとする古代の遺跡や遺物は世界中にありますが、それは生贄の習俗と結びついています。日本に行きなさい。」とマザー。

「マザー」とユリウスは呟き、しばらく考えを巡らせているようだった。「日本と言っても広いよ・・・。日本のどこに行けばよいのかな。」とユリウスが再び訊いた。

「かつて、金がとれた場所、または、その周辺に生存している可能性があります。彼らは金の採掘の為に地球に来たのですから。」とマザー。

「確かに、アヌンナキは金との結び付きがあるけど・・・神話を元に遺伝子探しとは、誰れかに言える話じゃないよ。僕は科学者だよ。マザー、君を作ったのは僕だからさ、君の思考が僕よりなのは理解できるし、だから、君とは話しやすいのも納得だけど、日本でどうやって探せば良いのさ・・・」

「はい。ユリウス。私を作ったのはあなたです。宇宙科学的に話を続けます。六千五百五十万年前から五千五百万年前迄の間に、ヒトゲノムを乗せたオウムアウア(恒星間天体)は銀河系をパンスペルミア(胚種広布説)して地球に来ました。この時、地球に衝突したオウムアウアは主なクレーターの数より十二の恒星間天体であったと予測されます。有名なものでナリビアのホバやメキシコのユカタンがあります。今は海の下になってしまって場所を特定できない衝突場所もあります。その時の衝撃で、地球は温暖化になりました。現在の気温よりも十五度も高く、南極でも二十一度の気温でした。炭素と酸素の同位体比率も現在と近かく、ヒトゲノムが繁殖するのに最適な環境でした。既に霊長類は出現しており、プレシアタビス類の原猿類は存在していましたし、両生類や爬虫類も居ました。オウムアウアに乗って地球に降り立ったヒトゲノムが原猿類や爬虫類や両生類の体に侵入して取り込まれるのは簡単なことでした。そして、ヒトゲノムと抗体反応が起きず、なじめた生物はそのままヒトに進化しました。しかし、原猿人の体内でヒトゲノムは容易に本領を発揮することが出来ず、簡単な石器を使えるようになるのに二百五十万年前までかかりました。ガルビ猿人の登場です。猿の中での進化は中々進みませんでしたが、爬虫類や両生類の脳内での結合は非常に速やかに進み、ヒトゲノムは体内に取り入れられました。これがレプティリアン、つまり爬虫類人の始まりです。レプティリアンは他の生物を支配するようになりました。しかし、進化したレプティリアンも肉体は爬虫類、両生類と同じため寒さには弱く、氷河期に大量に死滅しました。中には地球を放棄して地球から離れたものも居ましたが、地球に残るものも居ました。その彼らの生き残りが、現在、世界中に居るレプティリアンです。彼らを探し出すのは大変ですが、彼らには特徴があります。何の爬虫類から進化したかで、多少見た目に違いがありますし、好んで住む場所も爬虫類や両生類に近いです。」とマザー。

「ということは、見た目がワニっぽかったり、蛇ぽかったりするのかな。それで、海や川沿いや土の中で生活しているってこと?」と少しあきれたようにユリウスが訊いた。

「そうです。人目につかない暗い場所を好みます。ワニっぽいというか、体系ががっちりしてワニのように腕の付け根が太かったり、背が高くて細くどことなく蛇ぽかったり、行動や動きがトカゲぽいということです。」

「日本人の中のレプティリアンを探すのか・・・」と冗談めいてユリウスが呟く。

「日本との繋がりはシュメール神話に出てくる小さな神々のイギギと日本の古事記に出てくるイザナギとイザナミの関係から読み解けます。彼らは今でいうなら親族関係と思われます。イザナギとイザナミの初子はヒルコと言い、骨のない生物です。後にエビスとなります。他にもヤマタノオロチ退治で有名なスサノオもチグリス・ユーフラテス川のスサから来たオトコの意味の可能性があり、シュメールと関係があるかもしれません。このレプティリアンの遺伝子はミトコンドリアから見つけることは難しいです。Y染色体ハプログループから探す方が容易でしょう。神話と照らし合わせて、生息率が高い地域は、中東やインド、東南アジア、チベット、日本などの場所があげられますが、その地域のハプログループは五万年前に分岐したD1a系になります。

話が少し変わりますが、ご存じの通り、中生代はじめの二億年前ごろから超大陸パンゲアが分裂を開始し始めました。中生代三畳紀中期、約二億四千七百二十万年前から約二億三千七百万年前です。恐竜はまだ存在していませんでしたが、基盤的な恐竜様類が各地に分布し魚竜も多様化していた時代です。この時代の生物の遺伝子に今後、人間が生き残る鍵があります。特に、ワニ形上目と言われるもので、ワニを含む爬虫類主竜類クルロタルシ類の上目で、中生代の後期三畳紀に出現し、陸棲・半水棲・海棲と多くの生態的地位に適応した属種に注目する必要があります。現生でワニのみが生き残っています。ナイルワニが近縁です。

ご存じの通り、エチオピアはナイル川の上流に広がる国です。エチオピア高原から流れる川は青ナイル川に流れ、スーダンを流れる白ナイル川と交わり主流のナイル川に流れ込みます。この川に生息していたと思われるナイルワニがオウムアウアに乗って地球に降り立ったヒトゲノムを飲み込んだことによりレプテリアンは誕生した可能性があります。これは、旧約聖書のヨブ記第四十一章一節に書かれている、レヴィアタンの神話と関係があります。ヒトゲノムによってワニの野生は進化と共に理性を持つようにコントロールされることになります。ドラゴンを飼い慣らす、聖女マルガリタなどで表されています。バンスペルミアでオウムアウアに乗ったヒトゲノムがチグリス・ユーフラテス周辺に降り立ったとしたら、そこで誕生したワニが先に話した日本の古事記にあるヤマタノオロチ退治で有名なスサノオの可能性があります。もちろん、ナイルワニがチグリス・ユーフラテス川のスサに移動しそこで繁殖し生まれたワニの可能性もあり、後に、聖書に出て来る巨人ネフィリムの子孫の可能性もあります。

六万五千年前、ハプログループDE(A1b2b1)がエチオピアから東アフリカに移動しました。彼らはYAP遺伝子を持ち合わせたハプログループです。このYAP遺伝子を持つ系統は、ハプログループDとEに限られます。ご存じの通り、YAP遺伝子とは、Y染色体の長腕部上にある塩基のAlu配列(Alu sequence)の挿入多型の事を言います。Alu配列は蛋白質をコードする配列を含まず、制限酵素Aluで認識されるためこの名がつけられました。そして、この古代に起きた変異の痕跡をY染色体上に持つことで、核内低分子RNAに転写されるべきが、何らかの要因でY染色体上のDNA配列に挿入されてしまいました。生体内での働きについては、今だ未解明です。このことを解明する必要があります。

日本人の約四十%は先に話したY染色体ハプログループD1a系を持っています。先に述べた、YAP遺伝子の生体内での働きは不明ですが、特徴があります。プラス因子とマイナス因子があり現れ方も多少の違いはありますが、プラス因子は縄文人型でアイヌ人や琉球人に多く、太平洋の下に眠るムー大陸との関係があります。おそらく、その地に降りたオウムアウア内のヒトゲノムを食べてヒトゲノム化したウサギをヒトゲノム化していたナイルワニが食した可能性があります。これは、日本神話の因幡の白兎に出てきます。これにより、日本のワニの気性は穏やかなかもしれません。それから、ウサギと言っても、これは現存するウサギの事ではなく、ナイルワニが何らかの卵を食べたということなのでしょう。これはイースターバニーやイースターエッグと関係があると思います。兎は卵と共に生命の復活と象徴です。

マイナス因子は弥生人型で北東アジアから渡来した騎馬民族に多いです。大陸で進化を遂げたYAP遺伝子の持ち主たちです。ユダヤ人との繋がり持った人たちです。古代文明のムー大陸の末裔という可能性もあります。血液型もプラス因子はA型、O型が多く、マイナス因子はB型が多いです。身体的な特徴としては、頭が大きく、IQが高いです。がっちりとした体形で顔の彫が深く毛深いです。くせ毛で眉を左右別で上げることができ、口を動かさず片目ウィンクをすることも出来ます。それから、耳垢が湿っています。」

「ちょっ、ちょっと待ってよ、神話も入って随分と、壮大な話だし、そんな身体的な情報だけで、日本にわたって日本に住んでいるレプティリアンを探せって言うの。だいたい、相手は男だろ。どうやって耳垢を調べれば良いんだ。僕は妻帯者だよ。耳垢を取り合う関係にはなれないよ。」とユリウスが笑いながら言った。

「はい。そのことは、分かっています。上田 直人さんを覚えていますか?」

「上田! もちろん、覚えているさ、大学の時以来、会っていないし、疎遠だけど・・・。彼は、学年の途中から生物工学を離れて古生物の道に進んだはず。そうか、日本の化石の中に、ヒトゲノム化したワニに繋がる何かを発見しているかもしれないね。でも、突然、会いに行ってこんな話を持ち出すのはどうかな・・・。彼は今、何をしているの。」とユリウスが訊いた。

「はい。上田 直人さんは、現在、日本の新潟県にある海洋科学研究所に在籍し、佐渡島沖の海洋資源掘削から排出された泥土に含まれる古微生物調査をしています。」

「そうなの・・・。」としばらく思考を巡らし「そうか、そこで、何か、この件に関係する発見でもあったんだね? 極秘扱いされている可能性があるのかな・・・」とユリウス。

「それは、わかりません。しかし、現在の所、ユリウス、あなたに一番近い存在で、この件に協力してくれそうな人物は、上田 直人さんしかいません。当大学のエネルギー研究科と共に、この海洋資源開発に関わるイベントにあなたが出席できるよう手配します。そのことを切っ掛けに再び、上田 直人さんに近づき、友人関係を築いて下さい。そして、同時にこの件を進めて下さい。」

「旧友を利用するのは気が引けるけど、上田だって地球温暖化の事は深刻に受け止めているはずだ。」とユリウスは自分に言い聞かせるように言い「マザーが話した内容を彼が信じてくれるかわからないけど、彼が日本でのレプティリアン探しに協力してくれることを祈るよ」とユリウスは言った。



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