45 / 128
第三章 現代編
第44話 「本気ィトークウィメン☆」その3…えんじょい☆ざ『異世界日本』
しおりを挟む
「ところで、その旦那さんってどんな方だったんですか?」
食べ終わって、ひと心地ついたときに、ブランちゃんが言った。
「多芸多才な男でしたね。料理以外にも、剣も弓も狩りも索敵斥候も気配を消した尾行も、色んな事が出来るヒトでした。……色んな事が出来ないとどうしようもない環境で育ったって言うてましたけど」
「どういうことですか?」
「魔法が使えへんかったから、一族にマトモに扱って貰えんかったらしいですね」
「え、なんで? たかが魔法が使えないぐらいで……魔法使いのエリートの家系やったとか?」
「多分そんな感じなんやろね。エルフで魔法が使えへんいうのは」
「「エルフ!?」」
「そうですよ?」
「あ~……。確かにエルフで魔法が使えないなんて、ちょっと……なんていうか……」
思わず私はそう漏らした。
「やっぱし……そういうもの、なんか……」
と、ちょっと複雑そうな表情のフェットチーネおかん。
「あ、いやゴメンなさいそういう意味じゃ……。えっと、だから旦那さんはそれ以外の事を何でも身に付けて補っていたんだ?」
「せやね。彼の母親もかなりプライドの高い女性みたいやったし、相当イジメまがいの教育を受けたみたい。弟は逆にエルフ史上最高の魔力を持ってたみたいやけど」
「うわ~。性格歪んでそう……」
「失礼な! 旦那はエルフの村を飛び出したし、人間の農村に居た神父さんが、そこら辺保護して育て直したみたいやし!」
「ヒューヒュー! そんな風に怒るなんて、旦那さんに今でも心底からラブラブなんやね~! 一途~!」
あ、フェットチーネさんが顔真っ赤にして俯いちゃった。
素直な反応が、良いではないか良いではないか。
と思ったら真っ赤な顔のまま、面をあげて私達に聞き返してきた。
「え、えーと……そ、それはそうと殿木部さんの本名はブランなんですよね? 『でんき』って何なんですか?」
ちなみにフェットチーネさんが笛藤 智恵と呼ばれたがらないのは、笛藤がフェットに似てるからだと言っていた。
その理由が今まで分からなかったけど、今回の話を聞いて何となく理解した。
多分、フェットは旦那さん専用の呼び方なんやろね。
フェットチーネおかんに聞かれて、ブランちゃんが気まずそうに答える。
答えを探すようにあらぬ所を見つめながら、頬っぺを人差し指でポリポリ掻いて。
「あー……。えっと、私の元の世界では闇の反逆軍団っていうのが幅を利かせてまして。で、その四天王と呼ばれる人達の中に、紅一点のダークエルフで『雷帝』って呼ばれてるカッコいい女性がいるんです」
「あー、その人に憧れて雷系の魔法頑張ったんや」
「うん。でもあんまり強力なのが使えなくて……村の人に、電気が要りようになった時なんかに、便利に使われる存在になってしもて……」
「ああ、発電機ブラン」
「うわあぁーん!!」
あああ、言っちゃった……。私、言わずに堪えていたのに。
ブランちゃんが落ち込んで泣いちゃった。
おかんが慌てて慰めている。
「ご、ごめんなさい。もしかして殿木部さんって呼ばれるのも嫌やった? せやったら次から蘭ちゃんかブランちゃんって呼ぶけど、どっちしよ?」
「蘭やと、見た目は子供で中身が大人の名探偵がやって来て、殺人事件起こしそうやしブランで良いです」
「???」
分かる、分かるよ私には! ちょび髭のオッサンか居なかったら手近な大人が眠ってしまって、寝言で事件の真相を当てるのよね!?
そしてその周囲には、二十年経っても成長しない子供達が探偵の周りに居るのよね!!
……と、ここでフェットチーネさんが時計を見て、自身の退座を告げた。
「そろそろ仕事行かなあかんし、私はこれで失礼すんな?」
そう言って、彼女は自分のバッグから飴の袋を取り出して、飴をひと粒口に入れた。
「うわー! それすると一気に大阪のオバチャン臭くなるよ、フェットチーネさん!」
「でも飴ちゃん美味しいやん? ずっと甘味を感じてられるし」
ああ~気持ちはすっっっごく良く分かる。
向こうの世界じゃ甘味料って乏しかったから、高級品で滅多に食べれなかったもんね。
私もこの世界に来たばかりの時は一時期チョコレートに滅茶苦茶ハマったわぁ~。
「二人とも食べる? 飴ちゃん」
「「お腹いっぱいやし、また今度で」」
*****
フェットチーネおかんが、スーパーのパートに出かけてしばらく経ったあと、私は背伸びをして片付けを始めた。
「あ、クラムちゃんそろそろ夏期講習に行くの? じゃあ私もママの所へ行こうかな」
「うん。ブランちゃんも向こうの受付しながら続きやんの? タブレットで」
「そそ。最近は大きな事も起こってないから、出入りする人もおらんやろうしな。
それよか、そろそろ来るんちゃう、ミトラのヤツが」
「いっつも行き帰りに着いてきてくれるから、なんか悪いわぁ」
「あー、いいのよ。『俺は荒事専門だからな』って言いながら毎日ブラブラしてんだから、アイツ。兄貴の方は色んな雑用を嫌な顔せんと引き受けとったのにな」
「ミトラさんにもお兄さん居たんや!?」
「そやで」
その時、部屋のピンポンが鳴った。
ブランちゃんがドアの穴から外を確認してドアを開ける。ミトラさんが入ってきた。
「来たぞ」
「おーす来たなミトラ。クラムちゃん、ウチ先に出るさかいな。鍵しめとってや」
「了解!」
「んじゃな、ミトラ。自分で豪語したみたいに、兄貴よりも役立つトコ見せェや」
「うるせえな。分かってる」
ブランちゃんは私に手を振りながら、出て行った。
食べ終わって、ひと心地ついたときに、ブランちゃんが言った。
「多芸多才な男でしたね。料理以外にも、剣も弓も狩りも索敵斥候も気配を消した尾行も、色んな事が出来るヒトでした。……色んな事が出来ないとどうしようもない環境で育ったって言うてましたけど」
「どういうことですか?」
「魔法が使えへんかったから、一族にマトモに扱って貰えんかったらしいですね」
「え、なんで? たかが魔法が使えないぐらいで……魔法使いのエリートの家系やったとか?」
「多分そんな感じなんやろね。エルフで魔法が使えへんいうのは」
「「エルフ!?」」
「そうですよ?」
「あ~……。確かにエルフで魔法が使えないなんて、ちょっと……なんていうか……」
思わず私はそう漏らした。
「やっぱし……そういうもの、なんか……」
と、ちょっと複雑そうな表情のフェットチーネおかん。
「あ、いやゴメンなさいそういう意味じゃ……。えっと、だから旦那さんはそれ以外の事を何でも身に付けて補っていたんだ?」
「せやね。彼の母親もかなりプライドの高い女性みたいやったし、相当イジメまがいの教育を受けたみたい。弟は逆にエルフ史上最高の魔力を持ってたみたいやけど」
「うわ~。性格歪んでそう……」
「失礼な! 旦那はエルフの村を飛び出したし、人間の農村に居た神父さんが、そこら辺保護して育て直したみたいやし!」
「ヒューヒュー! そんな風に怒るなんて、旦那さんに今でも心底からラブラブなんやね~! 一途~!」
あ、フェットチーネさんが顔真っ赤にして俯いちゃった。
素直な反応が、良いではないか良いではないか。
と思ったら真っ赤な顔のまま、面をあげて私達に聞き返してきた。
「え、えーと……そ、それはそうと殿木部さんの本名はブランなんですよね? 『でんき』って何なんですか?」
ちなみにフェットチーネさんが笛藤 智恵と呼ばれたがらないのは、笛藤がフェットに似てるからだと言っていた。
その理由が今まで分からなかったけど、今回の話を聞いて何となく理解した。
多分、フェットは旦那さん専用の呼び方なんやろね。
フェットチーネおかんに聞かれて、ブランちゃんが気まずそうに答える。
答えを探すようにあらぬ所を見つめながら、頬っぺを人差し指でポリポリ掻いて。
「あー……。えっと、私の元の世界では闇の反逆軍団っていうのが幅を利かせてまして。で、その四天王と呼ばれる人達の中に、紅一点のダークエルフで『雷帝』って呼ばれてるカッコいい女性がいるんです」
「あー、その人に憧れて雷系の魔法頑張ったんや」
「うん。でもあんまり強力なのが使えなくて……村の人に、電気が要りようになった時なんかに、便利に使われる存在になってしもて……」
「ああ、発電機ブラン」
「うわあぁーん!!」
あああ、言っちゃった……。私、言わずに堪えていたのに。
ブランちゃんが落ち込んで泣いちゃった。
おかんが慌てて慰めている。
「ご、ごめんなさい。もしかして殿木部さんって呼ばれるのも嫌やった? せやったら次から蘭ちゃんかブランちゃんって呼ぶけど、どっちしよ?」
「蘭やと、見た目は子供で中身が大人の名探偵がやって来て、殺人事件起こしそうやしブランで良いです」
「???」
分かる、分かるよ私には! ちょび髭のオッサンか居なかったら手近な大人が眠ってしまって、寝言で事件の真相を当てるのよね!?
そしてその周囲には、二十年経っても成長しない子供達が探偵の周りに居るのよね!!
……と、ここでフェットチーネさんが時計を見て、自身の退座を告げた。
「そろそろ仕事行かなあかんし、私はこれで失礼すんな?」
そう言って、彼女は自分のバッグから飴の袋を取り出して、飴をひと粒口に入れた。
「うわー! それすると一気に大阪のオバチャン臭くなるよ、フェットチーネさん!」
「でも飴ちゃん美味しいやん? ずっと甘味を感じてられるし」
ああ~気持ちはすっっっごく良く分かる。
向こうの世界じゃ甘味料って乏しかったから、高級品で滅多に食べれなかったもんね。
私もこの世界に来たばかりの時は一時期チョコレートに滅茶苦茶ハマったわぁ~。
「二人とも食べる? 飴ちゃん」
「「お腹いっぱいやし、また今度で」」
*****
フェットチーネおかんが、スーパーのパートに出かけてしばらく経ったあと、私は背伸びをして片付けを始めた。
「あ、クラムちゃんそろそろ夏期講習に行くの? じゃあ私もママの所へ行こうかな」
「うん。ブランちゃんも向こうの受付しながら続きやんの? タブレットで」
「そそ。最近は大きな事も起こってないから、出入りする人もおらんやろうしな。
それよか、そろそろ来るんちゃう、ミトラのヤツが」
「いっつも行き帰りに着いてきてくれるから、なんか悪いわぁ」
「あー、いいのよ。『俺は荒事専門だからな』って言いながら毎日ブラブラしてんだから、アイツ。兄貴の方は色んな雑用を嫌な顔せんと引き受けとったのにな」
「ミトラさんにもお兄さん居たんや!?」
「そやで」
その時、部屋のピンポンが鳴った。
ブランちゃんがドアの穴から外を確認してドアを開ける。ミトラさんが入ってきた。
「来たぞ」
「おーす来たなミトラ。クラムちゃん、ウチ先に出るさかいな。鍵しめとってや」
「了解!」
「んじゃな、ミトラ。自分で豪語したみたいに、兄貴よりも役立つトコ見せェや」
「うるせえな。分かってる」
ブランちゃんは私に手を振りながら、出て行った。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる