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第三章 現代編
第66話 ─ この日この時この場所でお前に会わなかったら ─…ある男の独白
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「幹部の皆様、私が招集をかけたこの幹部会に参加いただき感謝致しますわ」
『私が』!? 聞いてないぞそんな事!
ベイゼルもそれは同様だったのか、隣に座る幹部と、小声で何かを戸惑い気味に話しをしている。
他の幹部や付き人もそれは同様で、どうやら事前に聞いていなかったのが殆どみたいだ。
それどころか、バフとクラガンまで動揺して顔をお互い見合わせている。
この部屋が一時、騒然となった。
……だが。
嬢ちゃんの言葉に何一つ動ぜず悠然としている幹部も、幾人か存在しているのにも俺は気がついていた。
──コイツらが嬢ちゃんを旗頭に担ぎ上げたんだな。
俺は咄嗟にそいつらの顔を目に焼き付けた。
「お集まり頂いたのは他でもありません。今日ここで、私シャーロット・ポートは義母フェイ・マスグラウスより団長の地位と権限を移譲された事を宣言致します」
それを聞いた車椅子に座る女性は、疲れたように深く深くため息をついた。
思わず俺は嬢ちゃんに抗議の声をあげかけたが、俺よりも先にベイゼルが立ち上がって、異議を叫ぶ。
ありがとうベイゼル、さすがは“騎士団”の頼れる上司アンケート一位の男(俺独自調べ母数は不明)。
「突然そんな強引な事が許されると思うのか!」
だが立ち上がって声をあげたのはベイゼルだけで、他は誰一人として反応しようとしない。先ほど無反応で余裕を見せていた幹部はともかく、他の派閥の連中まで無反応なのは不自然だ。
イングランド支部長でアマレットの女上司のマルゴも、嬢ちゃんとは仲が悪かった筈だ。なのに何ひとつ身動きしない。
だが俺はすぐに気付く。
嬢ちゃんの派閥以外の幹部の顔が、みんな悲壮な目をしているのを。
そうだ。なぜ俺は今まで気がつかなかったのか。
マルゴの懐刀という俺と同じ立場でかつ、このマルゴと将来を誓い合ったパートナーである女エルフ、アマレットが何故この場に居ない!?
「貴方が許さなくても、他の幹部の方々は皆私が団長になる事を、了承して頂けているようですわね」
あのさすがのベイゼルが、女性に対してこんな憎々しげに睨みつけるのは初めて見た。
しかし形式上は、ベイゼル以外の全ての幹部が黙認している関係上、すぐさま異議申し立てを続行することが出来ず、黙ったままだ。
「さて、これ以上の異議もないようですので、今回の一番の議題を進めさせて頂きます」
シャーロット嬢ちゃんが、この上もなく上機嫌に続ける。
どういう形であれ、“騎士団”の頂点に立ったのだ。嬢ちゃんの権力欲が、とりあえずは満足しているのだろう。
「これから“騎士団”は悪魔退治だけでなく、もっと平和を作り出していくことに積極的になるべきだと、私は考えてますの」
平和を作り出す……言葉だけなら大賛成なんだがな。嬢ちゃんが言うと、何故こうも不穏な響きになるのだろうか。
「悪魔を使う者だけではなく、そして悪魔に憑かれた者だけでなく、平和を脅やかすテロリストの殲滅にも率先して“騎士団”は関わっていくべきだと」
俺はベイゼルの肩に手を置き、指でトントンと叩いた。一定の決まったリズムで。
ベイゼルは俺の手を煩わしそうに振り払い、俺を一瞬睨みつけると嬢ちゃんを凝視し続ける。
まぁいい。ベイゼルに俺の意図は伝わったようだからな。
「テロとの戦いに我々も参加して、政府に我々“騎士団”の力を見せつけ、我々の意見を反映させてゆくのです。それこそが我々の目指す世界に繋がる道なのです」
嬢ちゃんはウットリとした調子で語っている。
コイツ、こんなに自己陶酔する人間だったか? それとも、自分の理想と現実との差に挫折して、自己陶酔に逃げる癖が付いてしまったか。
そんな嬢ちゃんは傲然とこちらを向いて、ベイゼル……いや、これは俺に向かってか? 続けて言い放つ。
それは俺にとって、ある意味信じられない情報だった。
「さて、私はさる信頼できる筋から、最近各地の村や町が次々と壊滅されて人々が虐殺されているとの情報を得ています。最近ではアーミッシュの村や北の国境近くの町が犠牲になっていますね」
これは……まさか。いやそんなまさか、彼女がそんなことをするはずが……。
この時俺は、さっさとベイゼルを連れて逃げ出していれば良かったんだろう。
だけど真実を確かめたいという気持ちに、俺は負けてしまっていた。
嬢ちゃんはその後も次々と町や村の名前をあげていく。それは日本でビッグママに見せてもらった、あのリストに書かれていた町村の名前。
嬢ちゃんは最後に締めくくるようにこう言った。
「この殺された無辜の人々の犠牲に報いる為にも我々は、この組織に巣食うテロリストをまずは撲滅していかねばなりません」
彼女はここまで言って一瞬言葉を切ると不敵に笑って、こちらに見下した視線を飛ばす。
そしてきっぱりと断言するようにこの場にいる全ての人に宣言した。
「そう、そこのベイゼル支部長の後ろに隠れている実行犯である殺人鬼のエルフと、指示した黒幕であるベイゼル支部長……いえ、ベイゼル・ヘイデンをまずは裁かなければならないのです!」
「馬鹿な! 何を証拠にそんな妄言を言われるのか!!」
すぐさま異議を叫ぶベイゼル。しかし彼にももう分かっているのだろう。
向こうが何を根拠にこんなことを言っているのか。
あの、正直言って考えの足りないが故に、いつも周囲が表に出るのを食い止めていた嬢ちゃんが表に出れて、こうして演説出来ているのは何故なのか。
「……シャーロット」
団長が嬢ちゃんを嗜めるように言葉を放つ。
しかし嬢ちゃんは即座に団長にこう言って黙らせた。
「お義母さまは黙っていてくださる? 私を引き取ったくせに、マトモに面倒も見ず顔も滅多に合わせなかった女が、私に偉そうな事を言う資格など無いわ」
そう言われて団長は黙ってしまった。
やはりあの噂は本当だったのか。
団長の遠い親戚の子供が両親を亡くし、引き取る身内も居なかった事。
それを憐れんだ団長が、その彼女を引き取った事。
それは良いが、長く独り身で“騎士団”を盛り立てていたため、子供への接し方が分からず結果的に放任気味だった事。
そしてその事を後ろめたく思っていたが故に、彼女の我儘を受け入れることしか出来なかった事。
その引き取られた彼女がシャーロット・ポートだという事。
そしてシャーロット嬢ちゃんは俺達に向き直ると再び傲然と言った。
「さて、ベイゼル。何を根拠に、と言いましたわね? 貴方と後ろの殺人鬼のあまりに非道な行いに心を痛めた有志が、密かに私に情報を教えてくれたのですよ。何でしたら、今この場で紹介しましょうか」
嬢ちゃんはそう言って、自分と団長が入ってきた部屋の入り口に向かって顎をしゃくった。
そうして入室してきた人物を見て俺は呻く。
予想はしていた。しかしその予想は当たって欲しくはなかった。
「アイラ……」
青白くやつれた顔をして、どこか虚ろな目をしたアイラがフラフラと覚束ない足取りで入室してきた。
言葉もなく呻く俺とベイゼルを見て、嬢ちゃんはますます勝ち誇るように俺たちに言い放つ。
「彼女の事ははお二人とも良くご存じですわね? そこの殺人鬼エルフのチームメイトであり、その首領であるベイゼル・ヘイデンの手下でもあった彼女。非の打ち所がなくこの上ない証人だと思いますけど?」
アイラは沈痛な顔で俯き、こちらと目を合わせようとしない。明らかに強要された態度だ。なのに誰もそれに気が付かないのか!?
それともそれは彼女をよく知る俺達だからそう思うのであって、他人の目にはまた違ってみえるのか!?
だが俺自身にとっては、次の嬢ちゃんの言葉とその後に起こった出来事こそが信じられない衝撃だった。
「そして彼女と協力して、彼女の証言の裏取りに奔走して下さった方。この方が居なければ、この方が私を盛り立ててくれなければ、私はここまで来れませんでした」
そう言って嬢ちゃんは再び部屋の入口へ顔を向け、頷く。
バフとクラガンはさっきから顔を見合わせっぱなしだ。
入口付近にたむろしていた何者かが、待ち構えていたかのように入室してくる。
俺は、入ってきたその俺達と同じ僧服を着た男を見て、思わず目を見開き声を絞り出すように呻き出すしかなかった。
ビッグママが言っていた、転移には時間差が発生することもあるとの言葉が、頭を駆け巡る。
「ミト……ラ…………!?」
『私が』!? 聞いてないぞそんな事!
ベイゼルもそれは同様だったのか、隣に座る幹部と、小声で何かを戸惑い気味に話しをしている。
他の幹部や付き人もそれは同様で、どうやら事前に聞いていなかったのが殆どみたいだ。
それどころか、バフとクラガンまで動揺して顔をお互い見合わせている。
この部屋が一時、騒然となった。
……だが。
嬢ちゃんの言葉に何一つ動ぜず悠然としている幹部も、幾人か存在しているのにも俺は気がついていた。
──コイツらが嬢ちゃんを旗頭に担ぎ上げたんだな。
俺は咄嗟にそいつらの顔を目に焼き付けた。
「お集まり頂いたのは他でもありません。今日ここで、私シャーロット・ポートは義母フェイ・マスグラウスより団長の地位と権限を移譲された事を宣言致します」
それを聞いた車椅子に座る女性は、疲れたように深く深くため息をついた。
思わず俺は嬢ちゃんに抗議の声をあげかけたが、俺よりも先にベイゼルが立ち上がって、異議を叫ぶ。
ありがとうベイゼル、さすがは“騎士団”の頼れる上司アンケート一位の男(俺独自調べ母数は不明)。
「突然そんな強引な事が許されると思うのか!」
だが立ち上がって声をあげたのはベイゼルだけで、他は誰一人として反応しようとしない。先ほど無反応で余裕を見せていた幹部はともかく、他の派閥の連中まで無反応なのは不自然だ。
イングランド支部長でアマレットの女上司のマルゴも、嬢ちゃんとは仲が悪かった筈だ。なのに何ひとつ身動きしない。
だが俺はすぐに気付く。
嬢ちゃんの派閥以外の幹部の顔が、みんな悲壮な目をしているのを。
そうだ。なぜ俺は今まで気がつかなかったのか。
マルゴの懐刀という俺と同じ立場でかつ、このマルゴと将来を誓い合ったパートナーである女エルフ、アマレットが何故この場に居ない!?
「貴方が許さなくても、他の幹部の方々は皆私が団長になる事を、了承して頂けているようですわね」
あのさすがのベイゼルが、女性に対してこんな憎々しげに睨みつけるのは初めて見た。
しかし形式上は、ベイゼル以外の全ての幹部が黙認している関係上、すぐさま異議申し立てを続行することが出来ず、黙ったままだ。
「さて、これ以上の異議もないようですので、今回の一番の議題を進めさせて頂きます」
シャーロット嬢ちゃんが、この上もなく上機嫌に続ける。
どういう形であれ、“騎士団”の頂点に立ったのだ。嬢ちゃんの権力欲が、とりあえずは満足しているのだろう。
「これから“騎士団”は悪魔退治だけでなく、もっと平和を作り出していくことに積極的になるべきだと、私は考えてますの」
平和を作り出す……言葉だけなら大賛成なんだがな。嬢ちゃんが言うと、何故こうも不穏な響きになるのだろうか。
「悪魔を使う者だけではなく、そして悪魔に憑かれた者だけでなく、平和を脅やかすテロリストの殲滅にも率先して“騎士団”は関わっていくべきだと」
俺はベイゼルの肩に手を置き、指でトントンと叩いた。一定の決まったリズムで。
ベイゼルは俺の手を煩わしそうに振り払い、俺を一瞬睨みつけると嬢ちゃんを凝視し続ける。
まぁいい。ベイゼルに俺の意図は伝わったようだからな。
「テロとの戦いに我々も参加して、政府に我々“騎士団”の力を見せつけ、我々の意見を反映させてゆくのです。それこそが我々の目指す世界に繋がる道なのです」
嬢ちゃんはウットリとした調子で語っている。
コイツ、こんなに自己陶酔する人間だったか? それとも、自分の理想と現実との差に挫折して、自己陶酔に逃げる癖が付いてしまったか。
そんな嬢ちゃんは傲然とこちらを向いて、ベイゼル……いや、これは俺に向かってか? 続けて言い放つ。
それは俺にとって、ある意味信じられない情報だった。
「さて、私はさる信頼できる筋から、最近各地の村や町が次々と壊滅されて人々が虐殺されているとの情報を得ています。最近ではアーミッシュの村や北の国境近くの町が犠牲になっていますね」
これは……まさか。いやそんなまさか、彼女がそんなことをするはずが……。
この時俺は、さっさとベイゼルを連れて逃げ出していれば良かったんだろう。
だけど真実を確かめたいという気持ちに、俺は負けてしまっていた。
嬢ちゃんはその後も次々と町や村の名前をあげていく。それは日本でビッグママに見せてもらった、あのリストに書かれていた町村の名前。
嬢ちゃんは最後に締めくくるようにこう言った。
「この殺された無辜の人々の犠牲に報いる為にも我々は、この組織に巣食うテロリストをまずは撲滅していかねばなりません」
彼女はここまで言って一瞬言葉を切ると不敵に笑って、こちらに見下した視線を飛ばす。
そしてきっぱりと断言するようにこの場にいる全ての人に宣言した。
「そう、そこのベイゼル支部長の後ろに隠れている実行犯である殺人鬼のエルフと、指示した黒幕であるベイゼル支部長……いえ、ベイゼル・ヘイデンをまずは裁かなければならないのです!」
「馬鹿な! 何を証拠にそんな妄言を言われるのか!!」
すぐさま異議を叫ぶベイゼル。しかし彼にももう分かっているのだろう。
向こうが何を根拠にこんなことを言っているのか。
あの、正直言って考えの足りないが故に、いつも周囲が表に出るのを食い止めていた嬢ちゃんが表に出れて、こうして演説出来ているのは何故なのか。
「……シャーロット」
団長が嬢ちゃんを嗜めるように言葉を放つ。
しかし嬢ちゃんは即座に団長にこう言って黙らせた。
「お義母さまは黙っていてくださる? 私を引き取ったくせに、マトモに面倒も見ず顔も滅多に合わせなかった女が、私に偉そうな事を言う資格など無いわ」
そう言われて団長は黙ってしまった。
やはりあの噂は本当だったのか。
団長の遠い親戚の子供が両親を亡くし、引き取る身内も居なかった事。
それを憐れんだ団長が、その彼女を引き取った事。
それは良いが、長く独り身で“騎士団”を盛り立てていたため、子供への接し方が分からず結果的に放任気味だった事。
そしてその事を後ろめたく思っていたが故に、彼女の我儘を受け入れることしか出来なかった事。
その引き取られた彼女がシャーロット・ポートだという事。
そしてシャーロット嬢ちゃんは俺達に向き直ると再び傲然と言った。
「さて、ベイゼル。何を根拠に、と言いましたわね? 貴方と後ろの殺人鬼のあまりに非道な行いに心を痛めた有志が、密かに私に情報を教えてくれたのですよ。何でしたら、今この場で紹介しましょうか」
嬢ちゃんはそう言って、自分と団長が入ってきた部屋の入り口に向かって顎をしゃくった。
そうして入室してきた人物を見て俺は呻く。
予想はしていた。しかしその予想は当たって欲しくはなかった。
「アイラ……」
青白くやつれた顔をして、どこか虚ろな目をしたアイラがフラフラと覚束ない足取りで入室してきた。
言葉もなく呻く俺とベイゼルを見て、嬢ちゃんはますます勝ち誇るように俺たちに言い放つ。
「彼女の事ははお二人とも良くご存じですわね? そこの殺人鬼エルフのチームメイトであり、その首領であるベイゼル・ヘイデンの手下でもあった彼女。非の打ち所がなくこの上ない証人だと思いますけど?」
アイラは沈痛な顔で俯き、こちらと目を合わせようとしない。明らかに強要された態度だ。なのに誰もそれに気が付かないのか!?
それともそれは彼女をよく知る俺達だからそう思うのであって、他人の目にはまた違ってみえるのか!?
だが俺自身にとっては、次の嬢ちゃんの言葉とその後に起こった出来事こそが信じられない衝撃だった。
「そして彼女と協力して、彼女の証言の裏取りに奔走して下さった方。この方が居なければ、この方が私を盛り立ててくれなければ、私はここまで来れませんでした」
そう言って嬢ちゃんは再び部屋の入口へ顔を向け、頷く。
バフとクラガンはさっきから顔を見合わせっぱなしだ。
入口付近にたむろしていた何者かが、待ち構えていたかのように入室してくる。
俺は、入ってきたその俺達と同じ僧服を着た男を見て、思わず目を見開き声を絞り出すように呻き出すしかなかった。
ビッグママが言っていた、転移には時間差が発生することもあるとの言葉が、頭を駆け巡る。
「ミト……ラ…………!?」
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