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第三章 現代編
第51話 ─ 対応がいっぱい ─…ある男の独白
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あれから三日間。
ベイゼルにはその後魔物の情報を伝えた。
併せて、政府に情報封鎖をかけあってくれるようにも頼んだ。
情報封鎖は、中年女……ミズ・クレイグ経由でも頼んだ。
昨日に州軍も来たようだが、とりあえずは待機してくれているようだ。
だが、州軍の攻撃も通用しない可能性も高い。
そうなるとUSアーミーの出動や、下手をするとミサイルや小型戦術核も使われる事もあるかもしれない。
俺は“騎士団”側の増援が来た時の準備として、魔物の目を掻い潜りながら街中のあちこちに仕掛けを施していた。
といっても大した事は出来ていない。
奴等が召喚に使った、街全体に張り巡らせた魔法陣に、俺の血を混ぜた聖水で細工したぐらいだな。
あのブサイク熾天使の時と似た要領だ。
魔物の中のテロリスト共の魂を、聖水に混ざった俺の血で引きつける。
そうする事で、結果的に魔物をこの街から動かないように縛り、ある意味結界内に閉じ込めた形にできた。
あとは……切り札となるだろう建造物を魔物に破壊されないように、魔物の気を引きながら廃墟の街中を、バイクや駆け足で走り回ったぐらいか。
だがそれも増援が、エヴァンが俺の私物を持ってきてくれたらの話だ。
今日一日、誰も来る様子が無かったら、別の手をそろそろ考えないといけないだろう。
そして今日も食料調達も兼ねて、俺は廃墟に繰り出す。
中年女……もとい、ミズ・クレイグが自分も街に出ると言ってるが、魔物に見つかった時の逃走力を考えて押しとどめている。
無人の街中の食料品店やコンビニを回って、残された食料を拝借……調達していく。
だがそろそろ食料が傷んできている。
そういう意味でもなるべく早く解決しなければならないな。
サンドイッチや菓子パンばかりも、そろそろ飽きてきたし。
そうして、とある無人になったコンビニ店で、食料を物色していた時。
外が眩しく光ったかと思うと、激しい衝撃が襲った。
衝撃が来た側の壁が破壊され、ガラスウィンドウが全て割れる
店の脇に、例の魔物の雷ブレスが着弾したようだ。
慌てて物陰から着弾地点を窺うと、バイクがブレスで消滅していた。
街外れの店で、遮蔽物が少ない場所だったので今まで近寄らなかったが、他の店は物色しきった後だったので仕方なかった。
もっとも魔物も、そんな俺の事情は読んでいたのだろう。
連発出来ないブレスで、最初にこちらの足であるバイクを潰す小賢しい手を使うのは、テロリスト共の魂が思考を支配しているからか。
だが小賢しかろうがセコかろうが、有効な手ならば関係ない。
走って逃げる俺を魔物は追いかけてくる。
遙か先に誰かのバイクが残っていた。
とりあえずそのバイクに向かって、俺は全力で逃げる。
だが、そもそも歩幅が圧倒的に違うのだ。
バイクまであと少しという所で、俺は見る間に追いつかれ、魔物は俺のすぐ後ろに迫って来ていた。
しかも奴の地響きで、うまく走れなくなってきている。
しかし不意に奴の地響きが止んだ。
訝しげに走りながら振り向くと、クジラはどこかあらぬ方向を向いて、何かを凝視していた。
その視線の先を、走りながら俺も見る。
廃墟の街中を、茫然とした様子で歩く女性がいた。
歳の頃は10代後半から20代前半ぐらいだろうか?
褐色の肌に美しいロングヘアーの銀髪。
そしてその身には何一つ付けていない……裸なのか!?
気の触れた女が裸で街中を彷徨っているのか!?
いや、その割には彼女の足取りは、かなりしっかりしている。
バイクに辿り着いた俺は、バイクのエンジンをコード直結で始動させた。
俺の知ってる配線のタイプで助かった。
そして俺はバイクをその女に向けて走らせる。
だが、同時にクジラもそちらへ進み始めていた。
俺は女の前でバイクを止める。
裸のように見えた女は、どうやら薄手のレオタードのようなものを身に纏っていただけのようだった。
くそ、ちょっとだけドキドキした俺の純粋な下心を返せ。
だが、それ以上に俺を驚愕させたものがあった。
頭の横から長く伸びた耳。
この女はエルフだったのか!
この人の気配の無くなった街に、人が歩いている時点でもっと考えつくべきだった。
何しろこの街は、あのクジラを召喚した場所なのだ。
異世界との境界が薄くなっていたとしても、おかしくは無い。
女は少し腰を落として俺を睨む。
その様子からこの女は、何か戦う術を身に付けているのか、と俺は感じる。
だが俺は身振り手振りを必死に交えて、女に訴えた。
「おい、ボヤっとするな! 今すぐこのバイクの後ろに座れ! ここから離れるんだ!」
最悪、この女をここへ置いていく事も覚悟していたが、女は、俺と急速に近づくクジラを素早く見比べ、後ろの座席に跨った。
すぐにフルスロットルにエンジンを回したいが、女が振り落とされる可能性を考え、迅る心を押さえてじわりとスピードを上げていく。
すぐに気付いた女が、振り落とされないよう俺の身体に手を回したのを確認した瞬間に、俺はエンジンを全開に吹かした。
女の胸が押しつけられて、柔らかな感触が俺の背中に伝わってくる。
こんな緊迫した状況でなければ、思わぬ役得に鼻の下を伸ばしてるところだ。
俺は泣く泣く背中の感触を頭から締め出し、バイクの運転に集中する。
転がるガレキを全速力で避けながら、魔物クジラから逃亡する。
流石にこのスピードには追いつけないのか、少しずつ距離が開き始めた。
だが、偶然なのかクジラに上手く誘導されたのかは分からないが、ビルが林立する、とある交差点を曲がった先は……。
「マジかよ」
両脇は壁のようにそそり立つビルが建っており、道路はガレキがうず高く積もって道路を塞いでいる。
本来なら存在しなかった袋小路になっていたのだ。
すぐに俺は、バイクを反転させて引き返そうとする。
だが、タイミングが良いのか悪いのか、クジラが追いつき交差点に侵入、俺たちの方に向き直ったところだった。
万事休すか──!
その時、魔物クジラの後ろのビルに何か気配を感じた。
後ろの銀髪女も反応して、俺と同じ方向を向いているので、おそらく間違い無い。
そして轟く銃声。
クジラの眼が強く閉じられた。
今の銃弾が正確に眼に飛び込んだようだ。
何とも形容し難い苦悶の叫び声をあげる怪獣王ゴジ……クジラ。
射手は既に移動しているようで、ビルの上には気配は感じない。
再び銃声が響く。
さっきの場所とは違う場所からだ。
どこかでチュインという音がしたかと思うと、魔物の閉じられた眼の辺りにまた弾丸が当たったようだった。
跳弾しているので威力は落ちてる筈だが、最初に眼にあてられた時の恐怖で、恐慌をクジラは起こしかけている。
そしてまた発砲音。また違う地点から。
今度の跳弾の音は二回。やはり今回も正確に同じ場所に当たった。
俺でも射手と弾との関係性が把握し辛くなってきた。
いつ見ても、相変わらず本気のアイラの射撃には驚かされる。
いつかエヴァンが言っていたように、俺の目から見ても、まるで魔法だ。
冷静に考えればクジラにとって、大して状況は不利になった訳では無い。
むしろ未だ圧倒的に有利なままだ。
そのまま前進したら直ぐに俺と後ろの銀髪女は踏み潰せるだろう。
アイラだって着弾に惑わされずに銃声を追いかければ、眼以外には銃弾は効かないのだからいずれ潰せる。
だが恐慌を起こしたクジラは恐怖に駆られたのか、来た道を引き返していった。
もしかしたら痛みを感じたのは、初めての経験だったのかもしれない。
あの表皮だったからな。
そうして、やがて交差点に軍用4WD車が現れて、ドリフトして止まった。
運転手はエヴァン、助手席にはライフルを抱えたアイラ。
「待たせたな、リーダー! こっちだ!」
「おかげで助かったよアイラ! 君は命の恩人だ! エヴァン、俺の私物は?」
「伝言通り、洗いざらい後ろに積んでる!」
「分かった、行こう! 今の寝ぐらで作戦を話す!」
「了解だぜ!」
そこに割り込むようにアイラが口を出す。
「後ろの女の事もちゃんと話して下さいね」
俺は、ジト目の怖い顔でこちらを睨んでいるアイラの視線から、逃げるようにバイクを走らせた。
ベイゼルにはその後魔物の情報を伝えた。
併せて、政府に情報封鎖をかけあってくれるようにも頼んだ。
情報封鎖は、中年女……ミズ・クレイグ経由でも頼んだ。
昨日に州軍も来たようだが、とりあえずは待機してくれているようだ。
だが、州軍の攻撃も通用しない可能性も高い。
そうなるとUSアーミーの出動や、下手をするとミサイルや小型戦術核も使われる事もあるかもしれない。
俺は“騎士団”側の増援が来た時の準備として、魔物の目を掻い潜りながら街中のあちこちに仕掛けを施していた。
といっても大した事は出来ていない。
奴等が召喚に使った、街全体に張り巡らせた魔法陣に、俺の血を混ぜた聖水で細工したぐらいだな。
あのブサイク熾天使の時と似た要領だ。
魔物の中のテロリスト共の魂を、聖水に混ざった俺の血で引きつける。
そうする事で、結果的に魔物をこの街から動かないように縛り、ある意味結界内に閉じ込めた形にできた。
あとは……切り札となるだろう建造物を魔物に破壊されないように、魔物の気を引きながら廃墟の街中を、バイクや駆け足で走り回ったぐらいか。
だがそれも増援が、エヴァンが俺の私物を持ってきてくれたらの話だ。
今日一日、誰も来る様子が無かったら、別の手をそろそろ考えないといけないだろう。
そして今日も食料調達も兼ねて、俺は廃墟に繰り出す。
中年女……もとい、ミズ・クレイグが自分も街に出ると言ってるが、魔物に見つかった時の逃走力を考えて押しとどめている。
無人の街中の食料品店やコンビニを回って、残された食料を拝借……調達していく。
だがそろそろ食料が傷んできている。
そういう意味でもなるべく早く解決しなければならないな。
サンドイッチや菓子パンばかりも、そろそろ飽きてきたし。
そうして、とある無人になったコンビニ店で、食料を物色していた時。
外が眩しく光ったかと思うと、激しい衝撃が襲った。
衝撃が来た側の壁が破壊され、ガラスウィンドウが全て割れる
店の脇に、例の魔物の雷ブレスが着弾したようだ。
慌てて物陰から着弾地点を窺うと、バイクがブレスで消滅していた。
街外れの店で、遮蔽物が少ない場所だったので今まで近寄らなかったが、他の店は物色しきった後だったので仕方なかった。
もっとも魔物も、そんな俺の事情は読んでいたのだろう。
連発出来ないブレスで、最初にこちらの足であるバイクを潰す小賢しい手を使うのは、テロリスト共の魂が思考を支配しているからか。
だが小賢しかろうがセコかろうが、有効な手ならば関係ない。
走って逃げる俺を魔物は追いかけてくる。
遙か先に誰かのバイクが残っていた。
とりあえずそのバイクに向かって、俺は全力で逃げる。
だが、そもそも歩幅が圧倒的に違うのだ。
バイクまであと少しという所で、俺は見る間に追いつかれ、魔物は俺のすぐ後ろに迫って来ていた。
しかも奴の地響きで、うまく走れなくなってきている。
しかし不意に奴の地響きが止んだ。
訝しげに走りながら振り向くと、クジラはどこかあらぬ方向を向いて、何かを凝視していた。
その視線の先を、走りながら俺も見る。
廃墟の街中を、茫然とした様子で歩く女性がいた。
歳の頃は10代後半から20代前半ぐらいだろうか?
褐色の肌に美しいロングヘアーの銀髪。
そしてその身には何一つ付けていない……裸なのか!?
気の触れた女が裸で街中を彷徨っているのか!?
いや、その割には彼女の足取りは、かなりしっかりしている。
バイクに辿り着いた俺は、バイクのエンジンをコード直結で始動させた。
俺の知ってる配線のタイプで助かった。
そして俺はバイクをその女に向けて走らせる。
だが、同時にクジラもそちらへ進み始めていた。
俺は女の前でバイクを止める。
裸のように見えた女は、どうやら薄手のレオタードのようなものを身に纏っていただけのようだった。
くそ、ちょっとだけドキドキした俺の純粋な下心を返せ。
だが、それ以上に俺を驚愕させたものがあった。
頭の横から長く伸びた耳。
この女はエルフだったのか!
この人の気配の無くなった街に、人が歩いている時点でもっと考えつくべきだった。
何しろこの街は、あのクジラを召喚した場所なのだ。
異世界との境界が薄くなっていたとしても、おかしくは無い。
女は少し腰を落として俺を睨む。
その様子からこの女は、何か戦う術を身に付けているのか、と俺は感じる。
だが俺は身振り手振りを必死に交えて、女に訴えた。
「おい、ボヤっとするな! 今すぐこのバイクの後ろに座れ! ここから離れるんだ!」
最悪、この女をここへ置いていく事も覚悟していたが、女は、俺と急速に近づくクジラを素早く見比べ、後ろの座席に跨った。
すぐにフルスロットルにエンジンを回したいが、女が振り落とされる可能性を考え、迅る心を押さえてじわりとスピードを上げていく。
すぐに気付いた女が、振り落とされないよう俺の身体に手を回したのを確認した瞬間に、俺はエンジンを全開に吹かした。
女の胸が押しつけられて、柔らかな感触が俺の背中に伝わってくる。
こんな緊迫した状況でなければ、思わぬ役得に鼻の下を伸ばしてるところだ。
俺は泣く泣く背中の感触を頭から締め出し、バイクの運転に集中する。
転がるガレキを全速力で避けながら、魔物クジラから逃亡する。
流石にこのスピードには追いつけないのか、少しずつ距離が開き始めた。
だが、偶然なのかクジラに上手く誘導されたのかは分からないが、ビルが林立する、とある交差点を曲がった先は……。
「マジかよ」
両脇は壁のようにそそり立つビルが建っており、道路はガレキがうず高く積もって道路を塞いでいる。
本来なら存在しなかった袋小路になっていたのだ。
すぐに俺は、バイクを反転させて引き返そうとする。
だが、タイミングが良いのか悪いのか、クジラが追いつき交差点に侵入、俺たちの方に向き直ったところだった。
万事休すか──!
その時、魔物クジラの後ろのビルに何か気配を感じた。
後ろの銀髪女も反応して、俺と同じ方向を向いているので、おそらく間違い無い。
そして轟く銃声。
クジラの眼が強く閉じられた。
今の銃弾が正確に眼に飛び込んだようだ。
何とも形容し難い苦悶の叫び声をあげる怪獣王ゴジ……クジラ。
射手は既に移動しているようで、ビルの上には気配は感じない。
再び銃声が響く。
さっきの場所とは違う場所からだ。
どこかでチュインという音がしたかと思うと、魔物の閉じられた眼の辺りにまた弾丸が当たったようだった。
跳弾しているので威力は落ちてる筈だが、最初に眼にあてられた時の恐怖で、恐慌をクジラは起こしかけている。
そしてまた発砲音。また違う地点から。
今度の跳弾の音は二回。やはり今回も正確に同じ場所に当たった。
俺でも射手と弾との関係性が把握し辛くなってきた。
いつ見ても、相変わらず本気のアイラの射撃には驚かされる。
いつかエヴァンが言っていたように、俺の目から見ても、まるで魔法だ。
冷静に考えればクジラにとって、大して状況は不利になった訳では無い。
むしろ未だ圧倒的に有利なままだ。
そのまま前進したら直ぐに俺と後ろの銀髪女は踏み潰せるだろう。
アイラだって着弾に惑わされずに銃声を追いかければ、眼以外には銃弾は効かないのだからいずれ潰せる。
だが恐慌を起こしたクジラは恐怖に駆られたのか、来た道を引き返していった。
もしかしたら痛みを感じたのは、初めての経験だったのかもしれない。
あの表皮だったからな。
そうして、やがて交差点に軍用4WD車が現れて、ドリフトして止まった。
運転手はエヴァン、助手席にはライフルを抱えたアイラ。
「待たせたな、リーダー! こっちだ!」
「おかげで助かったよアイラ! 君は命の恩人だ! エヴァン、俺の私物は?」
「伝言通り、洗いざらい後ろに積んでる!」
「分かった、行こう! 今の寝ぐらで作戦を話す!」
「了解だぜ!」
そこに割り込むようにアイラが口を出す。
「後ろの女の事もちゃんと話して下さいね」
俺は、ジト目の怖い顔でこちらを睨んでいるアイラの視線から、逃げるようにバイクを走らせた。
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