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女という生き物は 37話
しおりを挟む「酔っ払ってますよね」
「うん。でも意識はちゃんとあるよ」
ごろり、とレイナを潰さないように体制を変えれば俺は隣で寝る形をとった。
やっぱりソファーでは少し狭い。落ちそうな身体をどうにかしようとぎゅっとレイナを抱き寄せれば、更に抵抗する腕の力が強くなっていくのがわかる。
「…はぁ、服着て部屋で寝ましょうね」
「このまま寝る」
「狭いです」
「じゃぁベッド行く?」
「ベッドで一人で寝て下さい」
嫌がるレイナの頬にすり寄れば、ぷにっとした柔らかい感触と共に感じる彼女の吐息と甘い香り。
肌と肌がくっついて、レイナの体温が伝わってくる。
そして、近づけば近づくほど、甘くて蕩けそうな香りが漂ってくるのだった。
「レイナってさ、こういうことされてドキドキしたりしないの?」
「…しないことはないですけど」
「やっぱ慣れてるなぁ」
「酔うと甘えてくるタイプなんですね」
そう言ってレイナはなんとか離れようと俺の腕の中で暴れているが、やはり男の力には敵わないのだ。
しばらくそれを続けていたが、相当な力を使って疲れたのだろう。諦めたように力を抜いた。
「…どうしたんですか?何かありました?」
そして、心配そうな、呆れたような表情でそんなことを聞く。
「今日さ、言われたんだ。本当に好きな人に出会ったことある?って」
元カノに言われたことを伝えれば、レイナは黙ってそれを聞いていた。
「今まで付き合った女の子みんな、いいな、と思って付き合ったんだ。でも、それだけじゃ、やっぱダメみたいでさ」
「好き」とはなんだろう。
ハッキリとした明確な気持ちの範囲なんてどこにもなくて。
「いいな、と思ったから付き合った」「外見が好みだから付き合った」「ボンボンだからよく見えて付き合った」
それはそれで「好き」なのだろう。
「俺、26歳だよ?周りは結婚だってしはじめてるのにさ」
けれどきっと、彼女が言った「本当に好きな人」とは、俺には未知数の気持ちが必要で。
「愛」と呼べるような何かなのだろう。
「まだ本当に好きな人に出会えてないって、ダサいよな」
そんなことを考えれば無性に自分が恥ずかしくなった。同年代では結婚するやつらが増えてきたというのに、俺は何をしているのだろう、と。
周りがどんどん大人になっていくのに自分だけが取り残されていくような感じがする。
同窓会で何度も言われた「相変わらずだな」なんて言葉は、やはり、こんな俺のことを指しているようだった。
そうだ。俺の人生はいつだってそうだった。
面倒なことからは逃げて、相手を理解しようともせずに自分の世界を守ってきて。
悪いのは自分じゃないと決めつけて、正当化して。
誰とも、何とも、俺は真っ向から向き合って生きてはこなかった。
「弁護士になれなかった」わけではない。
なろうとしなかったのだ。
兄と同じ土俵で戦うことから逃げ出して、兄の考えなんて聞きもしないで家業を押し付けた。
「女は我儘な生き物」だなんて、相手を理解しようともせず決めつけて、努力もせずに諦めて、面倒になればすぐに逃げて。
そんな自分だって、充分に我儘だ。
「…私も、ないですよ」
すると、しばらく黙っていたレイナは小さな声でそう言った。
俺をじっと見つめれば「82歳ですけど。ダサいですね」と、言葉を続ける。
俺の胸の中で眉を下げて笑ったレイナは、相変わらず美しかった。
———そして、再び感じたあの感覚。
胸の奥の方にある「何か」が、じわりと滲み出てくるような感覚に、
何故だろう、無性に泣きたくなるのだった。
「…わかんねぇよ」
「わかりませんね」
レイナの胸にしがみつけば、我が子をあやすような優しい手が頭に降ってくるのだった。
しばらく無言でそうしていれば、いつの間にか静かなこの空間に雨音が響き渡っていた。
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