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女という生き物は 34話
しおりを挟む只今俺の目の前には、うるさい女友達と俺のことが好きな女子、かなり昔に一ヶ月だけ付き合ったことがある元カノ、社会人になった年まで半同棲して付き合っていた元カノ、4人の女と、
「えりちゃん、憲司助けてあげてよー」
そんな状況を楽しむように話を拗らせようとするドラゴンがいる。
「なんか憲ちゃん可哀想なことになってるね」
「…ははっ、わかります?」
「みんな飲み過ぎなんだよ」
「えりは仕事で遅れたの?」
「うん、さっき終わって」
「お疲れ様」
「あ、ありがとう」
酔っ払ったやつらが未だに周りでワァワァと騒いでいるがとりあえずそれをスルーして、まだ酒の入っていないまともに話せる隣の彼女に空いてるグラスを渡した。
そして、そこにビールを注げば小さく「乾杯」と言ってグラスを重ねる。
久しぶりに見る彼女、岬英里《みさきえり》は俺の元カノであり、俺が付き合った最後の彼女。
レイナに履かせたサンダルの持ち主である。
大学時代から付き合っていて一年半くらい続いた相手だ。
「元気してた?」
「あー、まぁね」
「憲ちゃん、相変わらずだね」
「それみんなに言われたよ」
「そっか」
そんな会話を久しぶりにすれば、えりは優しくふふっと笑ってなんだか懐かしい気持ちになった。
そうだった、えりはこんな風に目を細めて優しく笑うんだったな、なんて思いながら。
「えり、久しぶりじゃん」
すると、俺たちの元に再び乱入してくる先程の酔っ払い女。元カノ、カナ。
「…はぁ、お前はちょっと水でも飲んでろ」
「久しぶりだねカナちゃん」
「憲司と結婚できなくて残念だったねぇ~」
「ちょ、お前いい加減にしろよ。俺ら別れたのもう4年前の話だから」
かなり酔っているようで顔を赤く染めてふらつきながらも俺たち2人の間に割って入ってくる。
そして、そんな面倒な絡み方を今度はえりに向かってしてくるのだった。
「玉の輿だったのにねぇ~」
そう言って、えりを見てにこりと笑う。
「弁護士一家で地主様のボンボン捕まえれなかったねぇ」
「お前飲み過ぎだって」
「…私水もらってくるよ」
これは、正直かなりだるい。
というか女ってまじで怖い。
カナの様子を見兼ねて、えりはそう言って席を離れた。
俺はとりあえずこの酔っ払い女をどうしようか考えてみるが、面倒になって近くにいたドラゴンに押し付けておいた。
そして、そそくさとこの集団から逃げ出せば誰もいないカウンターへと向かい、新しくもらったビールを一気に飲み干していくのだった。
「隣、いい?」
「…えり、なんかごめんな」
「いいよ別に。カナちゃん酔ってたし」
水を取りに行ったえりは、ドラゴンに渡して任せたようでいつの間にかこちらに着いてきていた。
そして再び俺の隣に座ると、彼女もお酒を頼みこちらでまた一杯やるようだった。
まぁ、そうだよな。あそこにいたらまた絡まれるし面倒だ。
「それに昔から私にあたり強かったから。憲ちゃんと付き合ってから特に」
「え、全然知らなかった」
「ふふっ、だよね」
「まじこえー」
俺は多分、カナが言ったようにそういう目でも見られていたのだろう。
弁護士一家の地主様のボンボン、か。
確かにうちは昔から「土地」や「上島弁護士事務所」を代々受け継いできていて、父親も兄も弁護士だ。死んだじいちゃんもそうだった。
だからまぁ、それを知ってる人からは昔からそんな風に言われたりもして、笑って誤魔化せるくらいには慣れていた。
けど、俺は弁護士にはならなかったわけで。
自分のものではないものを、俺のスペックとして見られているようで。
なんだかやるせない気持ちになる。
俺が大学時代そこそこモテたのも、これの影響が強いのだと思う。
「憲ちゃん、ああやって言われるの嫌いだったよね」
「まぁ、俺は弁護士になれなかったしな」
「なろうとしなかっただけでしょ?」
「兄貴に押し付けて逃げただけだよ」
「…私はそんなこと、どうでもよかったんだけどさ」
そう言って、えりはグラスを空にした。
カラン、と氷の綺麗な音がして、そこには先程までのあの空間とは全く違う雰囲気が漂っていた。
「彼女できたんだって?」
そして、今さっき来たばかりだと言うのにどこで話を聞いたのか、そんな話題を振られる。
「…どうせドラゴンだな」
「なんで?聞いたらまずかった?」
「いや、まぁ別に」
ちらり、と隣を見てみれば眉を下げて笑う彼女がいて、グラスを持ったその雰囲気がなんだかアンニュイで。
昔と変わらないと思った彼女の笑顔は、やはり昔よりもずっと大人びた表情に見えた。
「えりは?彼氏できた?」
「私?全然だよー」
一応、彼女にも聞き返してみればどうやら俺と同じくあれから付き合った人はいないらしい。
会社の同僚が合コンをよく誘ってくれるらしいが、最近はそんな飲み会もすぐに疲れてしまうから行っていないと言う。
えりは顔も可愛いし性格もいいと思う。
…ただ、俺と合わなかっただけで。
だから多分モテるだろうし作ろうと思ったらすぐにできるはずだ。
今はあまりいい出会いに恵まれていないだけで。
…しかし、なんだろうか。この雰囲気は。
これは、なんだか変な勘繰りをしてしまいそうになるではないか。
2杯目を頼んだ彼女を見て、俺も同じように酒を頼んだ。
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