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女という生き物は 32話
しおりを挟むドアを開ければ涼しい室内の冷気が一気に全身を包み込み少しだけ身震いした。
夏は好きだ。
色んなイベント事があるし楽しいし夏が来たってだけでなんだか勝手にテンションが上がる。
26歳になった今も昔と変わらずそんなことを思う。
けれどこの、夏特有の室内と外の寒暖差だけは何年経っても好きにはなれないものだ。
「お、憲司こっちこっち!」
急に冷えた身体をさすりながら店内へと足を運んでいく。
お洒落な店内へ入って行けばそこにはすでに見知った顔が何人か集まっていた。
俺が来たことに気がついたこの会の幹事、内山洋二はすぐにこちらへ向かって出迎えてくれた。
今日はそんな洋二の知り合いのバーを貸し切りにして大学のサークル同窓会が行われている。
「久しぶりー。結婚式の準備順調?」
「おー、順調順調」
ふにゃり、と笑う目の前の男、洋二は大学時代からドラゴンと同じく仲の良い友達だ。
相変わらず癒し系というかなんというか、男の俺が見ても可愛いなこいつ、と思ってしまうような洋二独特の中性的な雰囲気を持っている。
そんな童顔で可愛らしい雰囲気のこいつは大学時代、女子にそこそこ人気があった。
けれど、その一方でつけられていたあだ名は「へタレわんこ」と、なんとも可哀想なものだった。
そんなことを思い出せば、こいつが本当に結婚するのか、なんてなんだか複雑な気分になってしまう。
「あ、ドラゴンも来たよ」
「うわ、ちょっとオシャレしてきてんじゃん。なにあいつ今日合コンだと思ってんの」
「うるせーな憲司、聞こえてんだよ!」
「お前のがうるせーよ」
「おー、洋司久しぶりだなー!結婚式の準備順調?」
「みんなそればっかだな」
そんなことを考えていればいつの間にか人は増えていた。
こうしてドラゴンも到着して一気にその場はうるさくなっていく。
「久しぶりだな!」「元気してた?」「お前相変わらずだな」なんて会話が色んな場所から聞こえてきて、なんだかすごく同窓会らしい空気がそこにはあった。
「憲司ー、お前相変わらずシュッとしてんな」
「あれ、クマちゃん、なんかちょっと老けた?」
「そういうところも相変わらずだな」
「ははっ」
俺もすでに久しぶりに会う友達何人かに声をかけられていた。
決まって言われることは「相変わらずだな」なんて言葉で、何回も苦笑いするのが大変だった。
いや、わかる。「久しぶりー」とセットで俺も言ってしまっていると思うのだが、この同窓会で何回その言葉を聞けばいいんだよ。
「憲司は今日も眠そうな顔してんなー」
「うわ、久しぶりだなそのイジリ」
「その甘いマスクで今もおモテになってるんだろうねぇ。あー羨ましい」
「…んー、どうかな(ここでもレイナを彼女ってことでいいのか?)」
「俺なんて最近彼女には振られるし上司には目つけられるしもう疲れたよ」
そう言って項垂れる隣の男の名前はクマちゃん。
本名は確か熊沢直也《くまざわなおや》だったと思う。
本名で呼ぶことなんてほぼなかったので、たまに忘れてしまいそうになる。
こいつとはよく合コン一緒にやったっけ。
というか、通りで老けたわけだ。年を重ねたってのも勿論あるが、そう言われたら顔が疲れ切ってるもんな。
「ていうか彼女ってアサミだろ?振られたのかよ。お前らも結婚するんだと思ってた」
「いや、何回も別れて付き合ってを繰り返してたんだよ。今回で3回目。でも、もうよりを戻すことはないってハッキリ言われた」
「…うん、まぁ、今日は飲もう」
「俺は結婚するつもりだったのにな」
「…おー、そうか。辛いな」
哀愁漂うクマちゃんとそんな会話をしていれば、「かんぱーい!」と明るい声が会場には響き渡った。
それからは皆で懐かしい昔話で盛り上がった。
お酒を飲めばやはり楽しい。酒の力は偉大だと思う。
クマちゃんもいつの間にか笑顔で皆の輪に入って楽しそうにやっている。
途中、ドラゴンが女子たちに「女の子紹介して?」としつこく聞き始めたのがちょっと空気を悪くはしていたが。
そういえば、歳を重ねるとやたらと昔話ばっかりするって聞くが、なんだか改めて今日納得する。
そりゃそうだよな。昔話と酒の組み合わせは多分一生楽しいに違いないのだ。
そうやって俺も昔話ジジイになっていくのかな、なんてほろ酔いの気持ちよくなった頭で未来を想像するのだった。
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