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バイトはじめます 30話
しおりを挟む「おい、想像以上にエロカワメイドだな」
「うん、正直俺も驚いてる」
「なに?制服知らなかったの?」
「まさかそっちになるとは知らなかったな」
優雅な音楽が流れるBGMとは似合わないガヤガヤと騒がしい空間で、そんなエロカワメイド、レイナは引っ張りだこであっちに行ったりこっちに行ったり忙しく働いている。
ちなみにアイスコーヒーはみつこさんが運んでくれた。
「レイナじゃなくてごめんなさいね」なんて言われたが、この店の今の状況を見ればレイナを出せ、だなんてそんなことを言うわけにはいかなかった。
…これは、営業中に話を聞くのは難しいかもしれない。
そんなことを考えていれば、突然ドラゴンが何かを思い出したような表情で店内をキョロキョロと眺めはじめた。
「つうか、この店こんなんじゃなかったよな?」
「お前来たことあんの?」
「おー、今なんとなく思い出したけど、昔来たことあるわ」
ドラゴンいわく、何年か前に来た時は店内は落ち着いた雰囲気で常連客っぽい人が何人かいるくらいだったとか。
新聞を読んだり読書をしたり、一人で来た人が静かにゆっくりする雰囲気だったようだ。
年齢層も高めで若者が来る感じではなかったらしい。
それがどうしてこうなったのか、まぁ原因はわかりきってはいるのだが…。
レイナ(メイド服姿)がそこに加わっただけで、お店のジャンルと客層がガラリと変わっているのだろう。
「ランチセットAとBになります」
「お、うまそ」
「美味いなこれ!」
「もう食ってんのかよ」
しばらくして、レイナがランチセットを運びにきた。
出来立てのハヤシライスとナポリタン、スープとサラダがそれぞれ目の前に置かれていく。
よほど腹が減っていたのかドラゴンはすぐに美味そうなハヤシライスを食べはじめた。
そんなリアクションを見るに、その見た目通りの美味さらしい。
それにしてもこの大盛況の中、疲れた素振りを見せることなく働く彼女は流石としか言いようがない。
「いつもこんな感じ?」
「今日は土日だからだそうです。平日は暇だとおっしゃってました」
「それだけじゃないと思うけど」
「そうなんですか?」
絶対お前の影響だろ、というか昨日から始めてどうやってすぐに広まったんだよ、と心の中でつっこみながら、そんな「何を言ってるかわからない」表情のレイナに少しだけ苛立つのだった。
「今日は無理そうだから帰るけど、あのおじいさんが店長?ていうかマスターだよな?今度お話しさせてもらえるか聞いといてくれる?」
「わかりました」
「じゃぁ、飯食ったらてきとうに帰るから。仕事頑張って」
「ありがとうございます」
そんな会話をして、にこりと嬉しそうな笑顔を向ければレイナは別の席へと向かって行った。
ドラゴンが名残惜しそうに何かブツブツ話しかけてはいたが、多分レイナにはもう聞こえていないだろう。
そんなわけで、色々あったがレイナのバイト先見学ツアーはひとまずこれにて終了。
問題点は多々あるが、レイナが楽しそうにしているところを見ると、とりあえず心配はなさそうだ。
みつこさんも良い人そうだし、多分変な店でもないだろう。
一旦もやもやを無理矢理完結させれば、俺はやっと目の前の美味そうなナポリタンを食べ始めることにする。
「え、うまっっ」
「な!美味いよな、ここ」
…いや、まじで絶品。今まで食べたナポリタンで一番美味い。
一口食べてみれば思った以上の美味さに驚きが止まらない。
俺たちはそんな美味さに興奮気味にランチセットをあっという間に完食するのだった。
今だったらどうでもいいドラゴンの話を聞いてあげられるくらい、まじでそれくらい美味かった。
こんな家の近くに良い店があったんだな、と嬉しい発見があったそんな日。
「また来ような」と言うドラゴンに、珍しく俺は同意した。
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