はじめまして、妖精です。穴がなくなって迷子なので同居してもよろしいでしょうか?

タマモ

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バイトはじめます 28話

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 カラッと晴れた夏空の日、俺はとある店の扉と睨み合いをしていた。
 そんな俺に痺れを切らせた隣の男が扉を押し開ければ、そこには想像とはかけ離れた光景が広がっているのだった。

「いらっしゃいませご主人様」

 俺は今、どこにいるのだろうか。
 ちらりと思わず店前を確認するが、店の看板に間違いはない。
 住所だって間違いないしネットで見た外観もそのままだ。

「天使がメイドになってるんだが」
「……いや、どういうこと?」

 隣の男、ドラゴンと不本意ではあったが約束をしたので俺はこうして一緒にレイナのバイト先に来たのだが。

 なぜだろう。店の中に入れば外の落ち着いた趣がある雰囲気とはかけ離れた、ガヤガヤと騒がしい店内と、

「…あれ?憲司さん?と、お友達の」

 眩しいくらいに可愛らしいメイド姿のレイナがいた。

「りゅ、隆之介です!」
「ドラゴンでいいよ」
「…ドラゴン?」

 そんな突然のレイナの登場にぼふんっ、と途端に頬を染めたドラゴン。
 いやいや、俺の彼女という設定なのに何頬染めてんだよ、なんて色々突っ込みたいところではあるのだが、そんなことよりこれは何だ。
 俺が今見ているこの状況は、ツッコミどころが多すぎるのだ。

 レイナの姿をまじまじ見れば、ひらりと舞うフリルのついた短いスカートからは白く綺麗な足が惜しげも無く見えていて、タイトなつくりのワンピースはスタイルの良さを浮き彫りにしている。

 それは所謂メイド服、それも彼女が最初に応募しようとしていた店のような、そっち系のモノだった。
 そんな彼女の姿を見るに、ドラゴンのリアクションは至極真っ当なのである。

「レイナ、これどういう状況?」

 この店のクラシックな雰囲気とはかけ離れた姿をしている彼女にそう聞いてみる。
 しかし俺が何を言いたいのかわからないのだろう、彼女はきょとんとした顔でこちらを見ているだけだった。

 ぐるりと店内を見渡してみれば、レイナの他に給仕の女性がひとりいた。
 多分、40代後半くらいの女性だろうか、彼女の服装はネットで見たものと同じだった。
 というかこの人がお店と一緒に写真に載っていたのだ。

 黒い長めの膝下まであるきっちりとしたワンピースに肩にフリルのついた白いエプロン、黒タイツに黒いパンプス。
 そんな上品な制服は、クラシックなお店の雰囲気にとても合っている。
 そうだ、この制服をみて、この店で働くのがちょうど良いのじゃないかと思って勧めたのだ。

「お、お姉さん注文いいですか!」
「…あ、こ、こっちも注文お願いします!」
「レイナちゃん、わしのとこも水頼むよ~」

 店内はまあ、満席のこの大盛況ぶり。
 若者、ジジイ、若者、若者、ジジイ、と。
 若者とジジイがミックスされたなんともよくわからない客層になっていて、俺たちの対応をしている最中だというのにレイナ名指しの注文が止まらないではないか。

「ジジイが急に色気付いてんじゃないよ!」
「ひっ、みつこさんだって好きだよ」
「キモいこと言わない!」

 そんな中、鼻の下を伸ばしたじいさんに向かって給仕の女性が一喝していたりなんかして。

 あれ、これって本当に俺が見つけたバイト先であってる?
 そう何度も確認してしまうほど、想像とは全く違う光景だったのだ。


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