はじめまして、妖精です。穴がなくなって迷子なので同居してもよろしいでしょうか?

タマモ

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占いなんて信じない 16話

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「これ、彼女の物じゃないんですか?」

 …まぁ、そうなるよな普通。
 というか妖精もそこら辺の価値観同じなんだな、なんて思う。

 俺から受け取った物、綺麗な花柄の刺繍が散りばめられた女性用のサンダルを眺めながら、彼女はそう言ってなんだか申し訳ないような表情をしていた。

「違う違う。今はいないよ」
「あ、なら元カノの」
「まぁね、家に置いていったもの捨てれなくて残ってるんだ」
「履いちゃっていいんですか?」
「捨てるつもりだから全然いいよ。逆に元カノの物でごめんな?今日は靴も買わないとね」

 そう言って俺も彼女と同じように申し訳なさそうな顔をすれば、レイナは困ったように小さく笑った。
 そして「ありがとうございます」とそれを受け取ればそのまますぐに履いてくれている。

「よかった、ピッタリ」
「…でも高いですね、この靴」
「妖精ってヒールがある靴履かないの?あ、そもそも靴を履かないのか」
「妖精界では履かないです。でも前に人間界に住んでいた時、人間の姿でいる時はスニーカーを履いていました」
「そっか。人間の女の子はこういった靴も履く人が多いかな」
「そうなんですね」

 サイズはぴったり。
 けれど履き慣れていないその靴にレイナは不安そうな顔をする。
 そんな彼女をまじまじと見ればとても似合っていて可愛かった。

 白いワンピースに映える鮮やかな花柄のサンダル。ヒールが高いそれは彼女のスタイルを更に良く見せている。
 コツコツコツ、と音を鳴らしてその場で靴を慣らすように足踏みをすれば、レイナの表情は少し明るくなった。

「大丈夫?歩けそう?」
「はい、なんとなく歩き方わかりました。可愛いですね、花柄」

 妖精といえどレイナもやはり女の子。
 靴に慣れたのか不安はなくなってきたのだろう。
 くるくるとその場で踊るように自分の姿を確認する彼女は、オシャレをして楽しそうにする普通の女の子のようだった。

 やはり「可愛い」という感覚は世間一般の女の子たちと変わらないらしい。
 目の前のレイナの様子が面白いし可愛くて、今日は彼女に色んな洋服を買ってあげたくなってしまう。
 こんなにも誰かに何かをしてあげたくなるなんていつぶりだろうか。
 久しぶりのそんな感覚は不思議と自然に出てくるのだった。

「あと、これ」
「なんですか?」
「えっと、服の中に着るものだよ」
「…服の中に?」
「ブラジャーの代わりに」
「あー、前に言ってたブラジャーですか」

 そう言って、もう一つ持ってきた物を彼女に渡した。
 カップ付きのキャミソールだ。勿論これも元カノの物になる。

 先程サンダルを探した時に見つけたのでついでに持ってきたのだった。
 …なぜなら、レイナはブラジャーをつけていなかったからだ。

 レイナが初めて俺の部屋に泊まった日、彼女が風呂に入った後濡れた服を洗濯してやろうと見てみればそこにはワンピースとパンツだけが置いてあって、ブラジャーの姿がどこにもなかったのだ。

 そして、一応その後妖精の下着事情を聞いてみれば「ブラジャー、ですか?」と、やはりその存在は知らないらしい。
 そんなわけで人間の下着事情を説明すれば、休みの日に買いに行くことを約束したのだった。

 妖精の姿ならともかく、人間の姿でノーブラは一緒に生活する上で大変色んな意味で困るからな。
 …とまぁ、そんなことを思い出してこちらも探して持ってきたわけである。
 ちなみに他人の下着は流石に嫌だろうと思い、まだ抵抗感のなさそうなキャミソールをチョイスしたわけだ。

「よし、行こうか」
「はい」

 そんなこんなでやっと準備が整って外に出れば、そこにはやはり「穴」はなかった。
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