7 / 40
土砂降りの雨の理由 7話
しおりを挟む「で、どうするの?」
しばらく笑った後、ビールで濡れた床を拭きながらそんな言葉を投げかければ、彼女はひどく驚いた顔をした。
「え、信じてくれたんですか?」
「まぁ、信じたくないけど夢ではなさそうだし」
「そうですか」
そして少しでも信じてもらえたのが嬉しかったのか、その表情は一変してキラキラと満面の笑みに変わっていく。
「で?帰れないんでしょ?」
けれどそんな俺の言葉によって自分の置かれた状況を思い出したのか、眉を寄せた彼女の視線は床へと落ちていくのだった。
彼女には悪いがそのコロコロと変わる表情は見ていてなんだか面白いし楽しくなる。
可愛い「妖精」が俺の目の前で色んな表情を見せてくれているだけで、なんだかテーマパークのアトラクションのようなのだ。
しばらくそんな彼女を観察していれば、うーんと何かを考えるように、そして何かを言いたそうな様子でしばらく俺の目の前でうろうろと彷徨うと、その動きは突然ぴたりと止まり再びこちらへ視線を向けた。
そして、次に出てきた彼女の言葉に、その場を動けずに固まるのだった。
「……しばらく、同居させていただいてもよろしいでしょうか?」
眉を下げて俺をじっと見つめる蜂蜜色の瞳はひどく揺らいでいた。
両手を握って懇願するような小さなその姿に、何を返せば良いのかわからない。
…おいおいおい。なにこの展開。
言っておくが俺はまだ、この状況を楽しんではいるが決して、——決して、呑み込めているわけではない。
それに俺はそんなに紳士的でもなければお人好しでもないわけで。
美少女だしワンチャンあるかな、くらいでお人好しなフリして下心も勿論あってのことだったわけで。
基本的に俺の人生において面倒事は避けてきたし、勿論自ら突っ込んだりなんて絶対しない。
女性に対し来るもの拒まず去るもの追わず精神ではあるが、あくまでそれは「人間」の女性であってのことで。
完全に見た目が好みであっても、「妖精」は受け付けていないわけで。
「……まぁ、いっか」
「え、いいんですか?」
いいわけがない。
そんな軽く了承してしまう案件ではない。
そんなことは頭でわかってはいるのだが、口が勝手に動いているのだからしょうがない。
「ありがとうございます!」
綺麗に笑った彼女をみて、何故だか無性に胸が苦しくなった。
少ししか飲んでいないはずなのにフワフワとした感覚で身体が熱くなる。
そうだ、酒を飲んだせいだ。雨に打たれて疲れたせいだ。
というか今の自分はまともな判断なんてできる状態なわけがないのだ、とこれで何回目だろうか俺は考える事を放棄した。
ふと、窓の外を見てみればいつの間にか雨は止んでいて、そこには珍しく綺麗な虹ができていた。
〈——雨はね、心の涙なんだ。
泣きたくても泣けない人の代わりに泣いてくれているんだよ〉
そして柄にもないことを考えてみたりするのだった。
この酷い土砂降りの雨は、彼女の涙だったのかな、と。
「よろしく、レイナ」
そんなわけで俺は祖父が死んだ次の日に「妖精」という生き物に出会いました。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貞操観念逆転世界におけるニートの日常
猫丸
恋愛
男女比1:100。
女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。
夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。
ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。
しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく……
『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』
『ないでしょw』
『ないと思うけど……え、マジ?』
これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。
貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。
【ショートショート】おやすみ
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる