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ほんの小さな覚悟
力というものは
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目的別の練習を始めてから十日が経過した。その間俺とアメイラはペアとして戦い続け、今ではゴブリン三体を相手取っても倒せるようになった。
最初の数日はアメイラを危ない目に合わせてしまい、このまま駄目になるんじゃないかと思ったのだが、アイクに剣術を教わってから勝てるようになったのだ。
教わると言っても、基本的な型を一つ学んだだけである。だが、ゼロとイチでは雲泥の差がある。剣を振り回すのではなく、律すること。それが、ゴブリンの戦闘能力を容易く上回った。
ちなみに、相変わらずアメイラの舌は絶好調だ。この間なんかは不用心にゴブリンに接近して、
『あの、道を聞きたいんですけど······ってあれ?顔面大震災ですか?可哀想ですね。これじゃあ復興の余地なしですね?』
なんて言ってた。うん、もうさ。いっそのこと尊敬するよ。あのゴブリン、頭を抱えて蹲ってたよ。ていうか、顔ネタ好きなのかよ。
まあ、そんなことがあって大変な訳だが、確実に力は付いている。それはこれからも変わらないはずだ。
力を求められないことは、正直よく分からない。今だって力は欲しい。なのに反応の一つもないからだ。もしかしたら、上辺の気持ちじゃなくて、もっと根本的な問題なのかもしれないな。
「どうしたの?」
「考え事だよ。何でもない」
「そう」
「ところで、連携は上手くいってるのか?」
「アイクは強い。合わせるのは大変だけど、連携は完成しつつあると言える」
まじか。結構早いな。
ホムンクルスも見てない所で頑張っていたらしい。俺も、もっと頑張らないと。
「カイの容態が良好で、明日には退院できると言っていた。そうしたら、パーティーでの動きを確認するって、アイクが言ってた」
「そうか。結構早かったな」
ゴブリン数体に襲われて、かなりの重症を負っていたはずだが······意外に、もう退院できるらしい。
「分かった。じゃあ、今日が最後だな」
その後ホムンクルスといくつかの情報を交換してから、俺はアメイラと合流した。
「そうですか。それでは、二人で練習するのは今日が最後ですね」
カイが退院出来る旨を伝えると、アメイラは嬉しそうに呟いた。仲間が入院しているというのは、良い心地ではないのだろう。
「それなら、今日はたくさん頑張りましょう!」
「そうだな。まずは······あいつにするか」
少し先にいるゴブリンに狙いを定め、近づいていく。この行程はもう慣れたものだ。
いつも通りアメイラがゴブリンを挑発し、短気なゴブリンはそれに乗っかる。
「ギャァオオァァァァオォオォォオオ!!」
この、地獄の悪鬼かという咆哮にも、そろそろ慣れてきた。
「シオン君!」
「大丈夫だ」
スキルによる声は無い。
単純なひっかき攻撃を、半身に構えて回避する。まだ剣は抜いていない。
「っ!!」
すれ違いざまに足を掛ければ、ゴブリンは無様に地に這いつくばった。地に伏してなお俺を睨みつけてくるゴブリン。
「ギャァア!!」
俺に攻撃を加えようと立ちあがるゴブリン。だが、俺はその顔に蹴りを放った。ゴブリンが再び倒れる。そしてとどめを刺そうと剣を抜いた所で、アメイラの金切り声が響いた。
「後ろです!!!」
もう一体か?!
慌てて飛び退き、後方に目を向ける。すると、そこには1体のゴブリンがいた。何の前触れもなく、突然である。
「どこから出てきた?」
さっき確認した限りでは、周囲に魔物はいなかった。だからこそ俺は安心してゴブリンに攻撃を仕掛けたわけだし······。
「気を付けてください!そのゴブリン、突然出てきました!」
は?突然?転移?
やべぇ。訳がわかんねえ。だけど、このゴブリンは危険だと、"スキル"が警鐘を鳴らしている。
『逃げろ』『逃げろ』『アメイラを置いて逃げろ』『一人で逃げろ』『逃げろ』『勝てない』
何だよ、これ?
今までの俺のスキルはすべて、提案するような、事務的で他人事のような言葉だった。
だがこれは何だ?まるで命令だ。
「アメイラ!こいつ、俺のスキルが反応してる!やばいぞ!!今すぐ逃げろ!」
幸い、突然現れた謎ゴブリンは、俺たちを攻撃しようとはしていない。この隙に逃げるしかない。
俺はアメイラを庇いながら、その場で後退を始めた。だが、次の瞬間、ゴブリンの首がぎゅるん!と動いた。小さい二つの目は、しっかりと俺を捉えている。
「何だよ、おい。見んなよ」
願いは受け取ってもらえないようだ。ゴブリンは、にたりと笑って突撃してきた。
「速――――」
その速度は、ゴブリンならざるものだった。ありえない。そう形容すべきだ。動いたと思ったら、次の瞬間には姿が霞んでいるのだ。
『身を低くする』
スキル通りに体をかがめた瞬間、背中に激痛がほとばしる。ゴブリンの爪を避けきれなかったようだ。
「くそっ!」
そして、俺の背中をガリガリと削って減速した攻撃は、なおも勢いを保ってアメイラへと向かう。
「まずっ」
咄嗟に手を伸ばし、ゴブリンの足を引っ張った。ガクンっ、馬に引きずられるような力だ。だが、何とか攻撃を止めることに成功した。
「でぁぁあ!!」
ゴブリンが静止した瞬間を狙って、剣を振り上げる。が、数日の鍛錬など、強敵の前ではないに等しい。ゴブリンは俺に一瞥をくれると、軽々しく身を翻した。
こいつ、本当にゴブリンかよ?!
「グギャア!」
身を翻した際の遠心力を乗せ、ゴブリンが大きく腕を振るった。それは風を裂き、とっさの防御の上から、剛撃となって俺を襲う。
「うがぁぁあ?!」
小枝でも吹き飛ばしたかのように、体が地面をバウンドした。威力が可笑しい。Bランクと言っても納得できそうだ。
「シオン君!ヒール!!」
謎ゴブリンの攻撃を受けた後では、アメイラの回復魔術による完治が見込めない。多少傷が癒えたが、ゴブリンの攻撃力が上回ったようだ。
「お前、まじ何なんだよ!?」
更に追撃を加えんと迫るゴブリンの爪に合わせて剣を振るうが、容易く弾かれてしまった。体の重心が乱れ、剣は宙に舞っていく。
ニィ、と。口角を上げて、ゴブリンが薄く笑う。
死を招くであろう爪が急接近するなかで、聞こえた声は―――
『ホムンクルスから力を吸い上げろ』
思考が空白に染まった。いや、そういうことなんだろう。
死を前にして。焦って。
セリアの命を助けるためにですら、欲することが出来なかった力。それを、自分のためだけに、欲することができた。
何か管のような物から、一方的に力が流れてきた。それは俺の体に流れ込み、"今を切り抜けるため"の力を与えた。
「だぁぁぁあああ!!」
力任せに振るった剣、その剣先が風を凪いで鋭い音を生じさせる。アイクよりは弱い。精々、Cランクにも満たない攻撃力だ。
だが、先程までの俺とは明らかに違う攻撃。ゴブリンの意表を突くには、"それで十分"だったようだ。
「ギャァア?!」
鈍い色を放つ剣閃は高速で弧を描き、ゴブリンの足を切り裂いた。機動力を削がれたゴブリンは、血を流しながら倒れ込む。
そこからは無我夢中だった。俺はアメイラを連れて、何とか王都の中まで戻ることに成功した。
最初の数日はアメイラを危ない目に合わせてしまい、このまま駄目になるんじゃないかと思ったのだが、アイクに剣術を教わってから勝てるようになったのだ。
教わると言っても、基本的な型を一つ学んだだけである。だが、ゼロとイチでは雲泥の差がある。剣を振り回すのではなく、律すること。それが、ゴブリンの戦闘能力を容易く上回った。
ちなみに、相変わらずアメイラの舌は絶好調だ。この間なんかは不用心にゴブリンに接近して、
『あの、道を聞きたいんですけど······ってあれ?顔面大震災ですか?可哀想ですね。これじゃあ復興の余地なしですね?』
なんて言ってた。うん、もうさ。いっそのこと尊敬するよ。あのゴブリン、頭を抱えて蹲ってたよ。ていうか、顔ネタ好きなのかよ。
まあ、そんなことがあって大変な訳だが、確実に力は付いている。それはこれからも変わらないはずだ。
力を求められないことは、正直よく分からない。今だって力は欲しい。なのに反応の一つもないからだ。もしかしたら、上辺の気持ちじゃなくて、もっと根本的な問題なのかもしれないな。
「どうしたの?」
「考え事だよ。何でもない」
「そう」
「ところで、連携は上手くいってるのか?」
「アイクは強い。合わせるのは大変だけど、連携は完成しつつあると言える」
まじか。結構早いな。
ホムンクルスも見てない所で頑張っていたらしい。俺も、もっと頑張らないと。
「カイの容態が良好で、明日には退院できると言っていた。そうしたら、パーティーでの動きを確認するって、アイクが言ってた」
「そうか。結構早かったな」
ゴブリン数体に襲われて、かなりの重症を負っていたはずだが······意外に、もう退院できるらしい。
「分かった。じゃあ、今日が最後だな」
その後ホムンクルスといくつかの情報を交換してから、俺はアメイラと合流した。
「そうですか。それでは、二人で練習するのは今日が最後ですね」
カイが退院出来る旨を伝えると、アメイラは嬉しそうに呟いた。仲間が入院しているというのは、良い心地ではないのだろう。
「それなら、今日はたくさん頑張りましょう!」
「そうだな。まずは······あいつにするか」
少し先にいるゴブリンに狙いを定め、近づいていく。この行程はもう慣れたものだ。
いつも通りアメイラがゴブリンを挑発し、短気なゴブリンはそれに乗っかる。
「ギャァオオァァァァオォオォォオオ!!」
この、地獄の悪鬼かという咆哮にも、そろそろ慣れてきた。
「シオン君!」
「大丈夫だ」
スキルによる声は無い。
単純なひっかき攻撃を、半身に構えて回避する。まだ剣は抜いていない。
「っ!!」
すれ違いざまに足を掛ければ、ゴブリンは無様に地に這いつくばった。地に伏してなお俺を睨みつけてくるゴブリン。
「ギャァア!!」
俺に攻撃を加えようと立ちあがるゴブリン。だが、俺はその顔に蹴りを放った。ゴブリンが再び倒れる。そしてとどめを刺そうと剣を抜いた所で、アメイラの金切り声が響いた。
「後ろです!!!」
もう一体か?!
慌てて飛び退き、後方に目を向ける。すると、そこには1体のゴブリンがいた。何の前触れもなく、突然である。
「どこから出てきた?」
さっき確認した限りでは、周囲に魔物はいなかった。だからこそ俺は安心してゴブリンに攻撃を仕掛けたわけだし······。
「気を付けてください!そのゴブリン、突然出てきました!」
は?突然?転移?
やべぇ。訳がわかんねえ。だけど、このゴブリンは危険だと、"スキル"が警鐘を鳴らしている。
『逃げろ』『逃げろ』『アメイラを置いて逃げろ』『一人で逃げろ』『逃げろ』『勝てない』
何だよ、これ?
今までの俺のスキルはすべて、提案するような、事務的で他人事のような言葉だった。
だがこれは何だ?まるで命令だ。
「アメイラ!こいつ、俺のスキルが反応してる!やばいぞ!!今すぐ逃げろ!」
幸い、突然現れた謎ゴブリンは、俺たちを攻撃しようとはしていない。この隙に逃げるしかない。
俺はアメイラを庇いながら、その場で後退を始めた。だが、次の瞬間、ゴブリンの首がぎゅるん!と動いた。小さい二つの目は、しっかりと俺を捉えている。
「何だよ、おい。見んなよ」
願いは受け取ってもらえないようだ。ゴブリンは、にたりと笑って突撃してきた。
「速――――」
その速度は、ゴブリンならざるものだった。ありえない。そう形容すべきだ。動いたと思ったら、次の瞬間には姿が霞んでいるのだ。
『身を低くする』
スキル通りに体をかがめた瞬間、背中に激痛がほとばしる。ゴブリンの爪を避けきれなかったようだ。
「くそっ!」
そして、俺の背中をガリガリと削って減速した攻撃は、なおも勢いを保ってアメイラへと向かう。
「まずっ」
咄嗟に手を伸ばし、ゴブリンの足を引っ張った。ガクンっ、馬に引きずられるような力だ。だが、何とか攻撃を止めることに成功した。
「でぁぁあ!!」
ゴブリンが静止した瞬間を狙って、剣を振り上げる。が、数日の鍛錬など、強敵の前ではないに等しい。ゴブリンは俺に一瞥をくれると、軽々しく身を翻した。
こいつ、本当にゴブリンかよ?!
「グギャア!」
身を翻した際の遠心力を乗せ、ゴブリンが大きく腕を振るった。それは風を裂き、とっさの防御の上から、剛撃となって俺を襲う。
「うがぁぁあ?!」
小枝でも吹き飛ばしたかのように、体が地面をバウンドした。威力が可笑しい。Bランクと言っても納得できそうだ。
「シオン君!ヒール!!」
謎ゴブリンの攻撃を受けた後では、アメイラの回復魔術による完治が見込めない。多少傷が癒えたが、ゴブリンの攻撃力が上回ったようだ。
「お前、まじ何なんだよ!?」
更に追撃を加えんと迫るゴブリンの爪に合わせて剣を振るうが、容易く弾かれてしまった。体の重心が乱れ、剣は宙に舞っていく。
ニィ、と。口角を上げて、ゴブリンが薄く笑う。
死を招くであろう爪が急接近するなかで、聞こえた声は―――
『ホムンクルスから力を吸い上げろ』
思考が空白に染まった。いや、そういうことなんだろう。
死を前にして。焦って。
セリアの命を助けるためにですら、欲することが出来なかった力。それを、自分のためだけに、欲することができた。
何か管のような物から、一方的に力が流れてきた。それは俺の体に流れ込み、"今を切り抜けるため"の力を与えた。
「だぁぁぁあああ!!」
力任せに振るった剣、その剣先が風を凪いで鋭い音を生じさせる。アイクよりは弱い。精々、Cランクにも満たない攻撃力だ。
だが、先程までの俺とは明らかに違う攻撃。ゴブリンの意表を突くには、"それで十分"だったようだ。
「ギャァア?!」
鈍い色を放つ剣閃は高速で弧を描き、ゴブリンの足を切り裂いた。機動力を削がれたゴブリンは、血を流しながら倒れ込む。
そこからは無我夢中だった。俺はアメイラを連れて、何とか王都の中まで戻ることに成功した。
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