もう一度だけ頑張るから、すべてを救う力をください

双刃直刀

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ほんの小さな覚悟

ホムンクルスとはじめてのクエスト

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「んで、これから薬草採集をするわけだが···」

「なにか言うべきことがある?」

「お前、薬草の取り方知らないだろ?」

「うん」

 ホムンクルスは無表情で頷いた。

 こうして見てると、やっぱり基本的な言語知識以外は"機能"として組み込まれてねーんだな。
 そんな確認をしながら、俺は足元に生えている草を一本ちぎり取った。

「これが薬草っつってな?他の雑草に比べて色が濃いから、分かりやすいだろ?これ取れるか?」

「視覚的情報をデータとしてインプットした。問題無い」

 うんうん。それなら安心だ。
 ぜひとも俺の懐事情のために働いてくれたまえよ?てか、マジで十本は取ってこい。
 こっちはお前のせいで金欠だ馬鹿野郎。

「じゃあ、一時間後にまたここに集合な?」

「分かった。行ってくる」

 俺はホムンクルスに背を向けて薬草採集を始めようとするが、その前に言うべきことがあるのを思い出した。

「ちょっと待て!」

「何?」

「時計は持ったか?」

「ある」

「俺が予備で持ってて、お前に渡した方位磁針は?」

「ある」

「何かあったら大声出すんだぞ?」

「分かったぁ!!」

「うっせぇ!今それ出すな!」

「分かった」

「······よし。一応、俺の目の届かない所には行くなよ?」

「大丈夫。契約者の場所は感覚的に分かるようになってる」

「そうか。じゃあいいや。一時間後にここだぞ?」

「りょーかい」

 今度こそホムンクルスから視線を外し、俺は地面へとこんにちはした。

 うん、君は······月揺草だね。悪いけど、今は君に用はないんだ。

 あら、お次は毒草かしら?あらあらおほほ。
 あなたにも用はなくってよ?

 Oh?!NEXTはガイアのユーね?!ようやく薬草に巡り会えたよ!

 次は···次は······ 次は。

 何種類もの植物の中から薬草だけを選び続けること数十分。ふとホムンクルスの方に目を向けると···。

「これほどまでに難度が高いとは。薬草、薬草。うーん、薬草が見つからない。これは、違う。これは······色が薄いし」

 結構苦戦しているようだった。
 なんだって真面目にやってるんだ?薬草採集なんて、ふざけながらでもないとやってられないだろ?
 こんな単純作業、集中してたら頭がパンクしちまうのに。

 そんなこんなで時間が過ぎ、俺は元の場所に戻った。

「で、どのくらい集まった?十本はあるよな?」

「それは愚問。これだけとって来た」

 弾む声は楽しげで、初めてボールを追いかける子供のようで、されど瞳には何も映さずに。

 己を確立できない少女は、空虚な笑顔で無邪気に胸を張る。

「ふふん」

 そう言ってえばるホムンクルスから植物の束を受け取って、選別を始める。
 取り敢えず本数だけ数えてみると、全部で二十八本あるようだった。

 だが、それらは······

「おい、これは毒草だ」

「え?」

「これは毒消し草。ま、これは換金できるからセーフだな」

「うぅ」

「これは月見草。却下」

「えぁ···」

「これは···」

「これは···」

 最後までそうやって、俺の手元に残ったのは僅か四本だった。まあ、初めてにしては良くやるといった感じだ。

「なぁ?お前ホムンクルスなんだろ?さっき、視覚的情報をインプットしてたよな?」

「それは、そうだけど······」

「だったら、これってありえないよな?」

「ホムンクルスが記憶した情報を用いて任務を遂行するのは前提。でも、私は生体となる前にカプセルから飛び出してしまった。故に不完全」

「チェンジ」

「?」

 ?、じゃねぇよ?!
 つまり何だ、あれか?
 必要なネジを詰め込む前に出たから、自分はそういうの出来ませんと?!

 とことん使えないな。俺、なんて拾い物をしちまったんだ。最悪だよ。
 クーリングオフだよ。今すぐおっぱいのでかいお姉さんと交換してくれよ。

「おい」

「何?」

「薬草採集はもういい。その代わり、ポーターやれ」

「ポーター?」

 俺は、首を傾げて言葉をオウム返しにするホムンクルスに、自分の荷物を押し付けた。

「後方で安全に荷物持ちが出来る優良な立場の人間のことだ」

「理不尽だと思う」

「平気だろ?反抗できるうちは元気があるってな」

「むぅ」

『身をかがめて矢を避ける』

 ――――――?!

 唐突な、スキルによる死刑宣告。

 何で、とか。は?とか。
 思うことは色々あったが、それらの感情を無視して、俺は慌てて身をかがめた。

 直後髪の毛がおぞましいまでの風圧に舞い、そして。

「あうっ?!」

 俺の髪の毛を数本巻き込んだ矢は、そのまま直進。視認叶わぬ速度で俺の前に立っていたホムンクルスの頬を掠めた。

 落ち着いて思考を巡らせるのに、数瞬が必要だった。

「お、おい!平気か!!」

 後ろに振り返り、矢を射た敵の姿を確認し、それと同時にホムンクルスに声を掛ける。

「痛覚が反応する。でも、大丈夫。頬を掠っただけ」

「なら良かった」

 ひとまず安心し、ホムンクルスを背にかばうように前に立ち上がる。
 腰に提げた剣を抜けば、矢を射た敵であるゴブリンは唾を飛ばす勢いで威嚇してくる。

 矢は、今の一本しか持っていなかったようだ。
 ゴブリンは弓を捨てると、素手で俺に殴りかかってきた。

「ギャァァァ!!!」

 それは単調な、直線的な攻撃。スキルが警鐘を鳴らしていないから、威力も無いんだろう。

 タイミングを合わせて剣を振るえば、ゴブリンの右手は手首から先が空を舞っていた。

 だが、そこでは止まらない。
 俺は追撃とばかりに間合いを詰めて、ゴブリンの首元に剣を突き立てた。

 ゴブリンはシャワーのように血飛沫をあげて、その場に崩れ落ちる。
 確実に殺した。

 その確認を終えると、一気に気が抜けた。思わずその場に座り込んでしまう。

 ホムンクルスがこっちに走り寄ってくるのが分かった。

「悪い男だと思ってたけど、訂正する。強かった」

「どうでもいいけど、お前はそのラノベ脳を訂正してろ。ゴブリンくらいサシで殺せなきゃ、こんな職業やってねぇよ。俺は冒険者のなかじゃ中の下だ」

「下ではない?」

 こいつ、いつも一言余計なんだよな。何か苛つく。

「スキルのおかげでな。相手が俺を殺しに来る一撃はどうにか避けられるから、そのぶんアドバンテージがあんだよ」

 まぁ、神速のなんたらとか、範囲攻撃とかは避けられないけど。

「そうなんだ。それで、強くはなってた?」

 契約による効果を聞いてるんだろう。
 自分の命が消費されるかもしれねぇのに、他人事なこった。

「全くだな。お前、"求めるだけ強くなる"って言ってただろ?多分、俺が強さを求めてねーんだろうな」

「何で強さを求めない?私に気を遣っている?」

「んな訳あるか。ま、現実はこんなもんってことだよ。ほら、さっさと行くぞ。まだゴブリン二体も狩らねーといけねんだから」

 俺はそう言って剣を鞘に収めると、懐から取り出した薬草をホムンクルスの頬に押し付けた。

 ホムンクルスはそれが落ちないよう、慌てて手を添えた。

 ···結構強くやったんだが、痛みには無頓着なのか?でも、さっきあうっ、て言ってたし。

 それとも、命に関心がないのか?

 まあいい。

 その後ゴブリンを二体討伐して、俺達は王都に戻った。
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